「Not Waving」と一致するもの

Syd - ele-king

(小川充)

 2016年はジ・インターネットとしての作品リリースはなかったが、その中心人物でリード・シンガーであるシド・ザ・キッド(シドニー・バーネット)の活動は精力的だった。昨年から今年にかけてリリースされたものでも、ケイトラナダ、ジェシー・ボイキンス3世、ヒュー・オースティン、コモン、リトル・シムズ、キングダムなど、いろいろなアーティストの作品に参加している。タイラー・ザ・クリエイター率いるオッド・フューチャー出身のシドは、もともとプロデューサー/DJとして頭角を現わしてきたのだが、マット・マーシャンズ(マシュー・マーティン)と組んだオルタナR&Bユニットのジ・インターネットで初めて歌を歌い、その成功によって今ではシンガーとしての活動に重きを置いている。

 ジ・インターネットは2011年に『パープル・ネイキッド・レディーズ』でアルバム・デビューするが、2013年のセカンド・アルバム『フィール・グッド』では生演奏のバンド・スタイルへと移行し、ソウル/ファンクやジャズ/フュージョン、ブギーの要素が強くなった。この頃からライヴも活発におこない、2015年のサード・アルバム『エゴ・デス』にはロナルド・ブルーナー・ジュニアやサンダーキャットの兄弟でもあるジャミール・カーク・ブルーナーなど、ミュージシャンも多く参加したバンド・サウンドを確立している。グラミーにもノミネートされた『エゴ・デス』リリース後は、ツアーの合間に新作の準備に取り掛かるとともに、シドの外部客演に見られるように、メンバーそれぞれのソロ活動も動き出した。そうして今年の頭、シドがソロ・シンガーとしての初アルバム『フィン』を発表するのとほぼ時を同じくして、マット・マーシャンズがファースト・ソロ・アルバム『ザ・ドラム・コード・セオリー』、ギターとベースのスティーヴ・レイシー(1970年代に活躍したフリー・ジャズのサックス奏者とは同名別人)が初のミニ・アルバム『スティーヴ・レイシーズ・デモ・EP』をリリースした。スティーヴ・レイシーは『フィン』と『ザ・ドラム・コード・セオリー』にも参加し、シドは『ザ・ドラム・コード・セオリー』でも1曲歌っているのだが、ジ・インターネットとはまた別の形でそれぞれの表現をおこなったものとなっている。

 『フィン』はジ・インターネットと同じく〈コロンビア〉からのリリースということで、ある程度メジャーを意識した作品である。ビヨンセと組むメロー・Xやヘイズバンガ、カニエ・ウェストやジェイ・Zと組むヒット・ボーイ、ケンドリック・ラマーと組むラーキなどのプロデューサーの起用にそんな一端が窺える。とは言っても、シドの持味であるクールでアンビエントなテイストが出ており、バンド化する以前のエレクトリックなジ・インターネットの『パープル・ネイキッド・レディーズ』に近い雰囲気である。もともとはほかのアーティストへの楽曲提供としていろいろ曲を書き貯めていくなか、自身のアルバムの構想が芽生えたそうだ。シド自身がプロデュースと作曲を手掛ける以外に、アンソニー・キルホファーほか前述の外部プロデューサー陣と曲ごとにコラボし、またジ・インターネットのスティーヴ・レイシーと、『エゴ・デス』にも参加して重要な役割を担ったニック・グリーン(ニッキー・デイヴィ)が曲作りに関わっている。リード・シングルの“オール・アバウト・ミー”はスティーヴ・レイシーのプロデュースで、ドレイクあたりに通じるメジャー感のあるR&Bナンバー。ティンバランドを彷彿とさせるビートを現在のトラップへと発展させたような曲だが、シンセなどでエキセントリックな味付けを加えているのがスティーヴの腕前で、ジ・インターネットのメンバーのなかでも最年少という彼の、今後の活躍を予感させる曲だ。同じくスティーヴ参加の“ダラー・ブリス”は、彼のギターがアクセントとなったポップなテイストの作品。同じくポップななかにトリッキーさを見せる“ノウ”はニック・グリーンが手掛けており、ティンバランドを彷彿とさせるプロダクションとアリーヤを想起させるシドの歌が好マッチを見せる。“ナッシン・トゥ・サムシン”や“ゴット・ハー・オウン”、そして“ボディ”や“オーヴァー”では、シドならではの覚醒感に満ちた世界を展開している。クールでエレクトリックなプロダクションが真夜中のチル・アウトなムードを見事に表現しているが、特にメロー・Xと組んだ“ボディ”はFKAツイッグス×アルカ、ケレラ×キングダムといった名コラボに匹敵する出来栄えだ。メロウやジャジーということでは、“スマイル・モア”や“インセキュリティーズ”が抜きんでている。これらはジ・インターネットで培った生演奏がバランスよく配合されており、“インセキュリティーズ”にはロバート・グラスパーも客演している。

 『ザ・ドラム・コード・セオリー』と『スティーヴ・レイシーズ・デモ・EP』は、〈スリー・クォーター〉というレーベルからの配信限定リリースで、『フィン』に比べてより個人の趣味性の高い作品である。『ザ・ドラム・コード・セオリー』はドラムのほか、多種の楽器を扱うマルチ・ミュージシャン/プロデューサーで、イラストレーターでもあるマットの多才ぶりが表われた作品で、スティーヴ・レイシー、シド、タイラー・ザ・クリエイターら仲間が一部に参加するものの、ゲストは最小限に留めて、自宅スタジオで好きなように作ったミックス・テープやビート・テープに近い形態。“スペンド・ザ・ナイト/イフ・ユー・ワー・マイ・GF”や“サザン・アイソレーション”のように、生ドラムやパーカッションと電子ビートを巧みに融合させたトラックメイカーという部分と、“ダイアモンド・イン・ダ・ラフ”や“ホワット・ラヴ・イズ”に見られるバンド/ミュージシャン的な部分がミックスされている。ただ、“ダイアモンド・イン・ダ・ラフ”も“ホワット・ラヴ・イズ”も、前半と後半で曲調がガラっと変わり、全く異なるふたつの曲を強引にひとつに繋ぎ合わせた構成だ。こうした変則的な曲が多いのも本作の特徴で、そのあたりにマットのエキセントリックさが表われている。シドとスティーヴ・レイシー参加の“デント・ジュセイ”は、比較的ジ・インターネットの作品に近いものの、途中でブッツリと途切れてしまい、あとはストリートでの会話が延々と続いていく。電子ファンク・サウンドの“ホエア・アー・ヨー・フレンズ”や“ベイビー・ガール”など、コズミックな質感とコミカルな質感が同居するのはPファンク的でもあり、自身で手掛けたジャケットのアートワークにも通じている。レイジーなソウル・ミュージックとしての骨格を持ちながらも、テープの逆回転などを用いた“ダウン”のように、至るところで音遊びや音楽実験をやっている印象だ。こうした前衛的な音楽実験を経ていくなか、いろいろと整理をおこなって分かりやすくし、ポップ・ミュージックへと完成させていったのがジ・インターネットの作品とすると、その原型ともなる部分をカットしたり希釈せず、ダイレクトに形にしていったアルバムが『ザ・ドラム・コード・セオリー』ではないだろうか。

 『スティーヴ・レイシーズ・デモ・EP』は2分前後の曲を6つ収めた小作品で、文字どおり完成前のデモ的な意味合いが強いもの。そうしたなかでもスティーヴの才能の片鱗を見せており、特にソングライター、メロディ・メイカーとしての能力がとても優れていることを窺わせる。ギタリストとしての能力を生かした曲が多く、“サム”あたりを聴くと、彼がジ・インターネットで果たす役割がとても大きいことがわかるだろう。この“サム”はカーティス・メイフィールドからプリンスの影響を窺わせるところもあるが、そのほかスライ・ストーンやシュギー・オーティスあたりを連想させる“ルックス”や“ダーク・レッド”、ディアンジェロのドープなところを抽出したような“サングス”などが並ぶ。ソウルやファンクのアーシーで骨太な側面を見せる一方、“ヘイターラヴィン”はオルタナ・ロックやニュー・ウェイヴ的な作品で、スティーヴの実験的な部分が表われている。ブラック・ミュージックだけではない彼のフィールドの広さを示す好例だろう。なお、この後にもジ・インターネットのドラマーのクリストファー・スミス、ベースのパトリック・ペイジ2世のソロ・アルバムも予定されており、それらがリリースされてから満を持してジ・インターネットのニュー・アルバムを完成させるという。ソロ作でそれぞれのスキルを高めていき、それが集まった先にジ・インターネットのさらなる進化をヴィジョンしているようだ。

小川充

Next >> 野田努

[[SplitPage]]

(野田努)

 ブリアルの初期の作品ではR&Bサンプルが効果的に使われているが、彼がR&Bのコレクターというわけではない。その点が基本自分たちが好きなモノを使っているであろう『ブルー・ラインズ』におけるサンプリング・リストとは違っていて、また、コマーシャルなR&Bが真夜中の幽霊の歌声にもなるという実験はさすがのマッシヴ・アタックも手を付けていない。このブリアルのR&Bサンプリング・メソッドを継承したのが初期のジェイムス・ブレイクなわけだが、それから5~6年を経てからの、最近のフランク・オーシャンやソランジュといった“オルタナティヴR&B”は、音の開拓/実験にもぬかりはない。いまR&Bはアンダーグラウンド・ミュージックのカッティングエッジなセンスをティンバランドの時代よりも意欲的に取り入れているように見える。そのひとつの契機を探せば、ヒップホップのなかにパンクとチルウェイヴを混入したLAのオッド・フューチャーが思い当たる。オーシャン同様にそのメンバーのひとりで、そして当時はまだ10代だったのが彼女、シド・ザ・キッド(シドニー・ベネット)である。

 タイラー・ザ・クリエイターの『ゴブリン』(2011年)で歌い、最近ではコモンの『Black America Again』でも歌っている彼女は、スライ&ロビーやシャバ・ランクスとも共作しているほどのキャリアを持つジャマイカのプロデューサー、マイキー・ベネットを叔父に持ち、10代の頃からスタジオ・プロダクションを学んでいたという。オッド・フューチャーを去ったシドは、ジ・インターネットのヴォーカリストとして活動していたが、先日、最初のソロ・アルバムとなる『フィン』を発表。24歳となった彼女は、何人かのサポートを得ながらも、歌からプロダクションまでのほとんどを自分で手掛けている。

 『ブルー・ラインズ』がやがてトリッキーによるニアリー・ゴッドへと展開したように、『フィン』はより深く地下街を彷徨しながらも、そしてエロティックだ。ゲイの女性がセックスを題材にしていることも作品の特徴のひとつだという話だが、歌詞を理解せずともエロさは伝わってくる。が、注意しなければならないことは、彼女が旧来の世界が望むジェンダーを拒絶している(ジャケやブックレットの写真からもわかるように)、ということである。
 そして、アルバムにはなかなかの暗闇が広がっている。エッジの効かせ方とその甘美さにおいてFKAツイッグスと似ている側面もある。しかし、シドはさらに甘い。歯医者から甘い物は控えろと言われたとしても、1曲目の“Shake Em Off”の最初の4小節で彼女の世界に引きずり込まれるだろう。まあ、5曲目の“All About Me”までは完璧な流れで、トラップを崩した感じの“Know”、ベースとアトモスフェリックな電子音で構成される“Nothin To Somethin”など、次から次へとメロウかつ洗練されたミニマリズムが展開される。ネオソウル的でキャッチーな“Smile More”、6lackの瞑想的なライムをフィーチャーしたトラップの“Over”も悪くはないし、最後までベースだけで引っぱる“Body”は目玉の1曲である。
 R&Bにありがちな歌い上げてしまうところはない。紋切り型に陥ることなく低空飛行を最後まで貫き、その低さでもって魅了する。2016年のR&Bに顕著だった政治的なステイトメントは見あたらない。この1ヶ月、ひたすらよく聴いていたのがシドの『フィン』だった。


野田努

Cornelius - ele-king

 小山田圭吾=コーネリアスが動いた。2006年の傑作(いま聴くとさらにその凄さわかる)『センシュアス』から11年、コーネリアスがニュー・シングル「あなたがいるなら」をリリースする。タイトル曲は坂本慎太郎が作詞を担当、つまり歌モノ。
 昨年はMETAFIVEメンバーとしての活動もあり(また、その作品とライヴは大いに反響を呼んだこともあり)、コーネリアスってまたしばらく動かないんじゃないかと決めつけていたあなた、どうぞご安心を。
 詳細がわかり次第にまた報告しますが、これは注目です。『ポイント』~『センシュアス』でひとつに頂点に達したと言えるコーネリアスだけに、次に何をやるのか? というのはひじょうに気になるところですが、まずはオヤマっちゃんの復帰、良かった良かった。


SINGLE「あなたがいるなら」
A1 .あなたがいるなら (作詞: 坂本慎太郎 / 作曲: 小山田圭吾)
B1 .Helix / Spiral (作詞作曲: 小山田圭吾)

発売日:2017年04月26日
価格:\1,400(本体)+税
規格番号:WPJL-10041

!!! (Chk Chk Chk) - ele-king

 あ、これはヤバいやつだ。公開された !!! (チック・チック・チック)の新曲“The One 2”を一聴して思った。頭で処理しようと思っても、まず先に身体が動いてしまう。ワン・トゥ、ワン・トゥ。かなりディスコ色が強まっている。でも彼ららしさは失われていない。これは素直に、アがる。
 チック・チック・チックが待望のニュー・アルバム『Shake The Shudder』を5月19日にリリースする。タイトルには「恐れを振り払え」というメッセージが込められているそう。かつてジュリアーニを批判する曲で脚光を浴びた彼らのことだ。いまこんなにもソウルフルかつダンサブルなサウンドを鳴らすのにはきっと彼らなりの理由があるのだろう。あー、はやく他の曲も聴きたいぜ。ワン・トゥ、ワン・トゥ。

!!!(チック・チック・チック)が新作とともに帰還!
最新アルバム『Shake The Shudder』完成&新曲公開!
数量限定Tシャツ付セットの販売も決定!

ニューヨークが生んだ最狂のディスコ・パンク・バンド、!!!(チック・チック・チック)が最新アルバム『Shake The Shudder』の完成を発表! アルバムのオープニングを飾る新曲“The One 2”のミュージック・ビデオを公開!

!!! - The One 2
https://www.youtube.com/watch?v=zPn_AnP9N9I

「恐れを振り払え!」というメッセージが込められた今作のタイトル『Shake The Shudder』は、彼らの座右の銘であり、そのキャリアを通して示してきた言葉である。彼らのDIYなパンク・スピリットが炸裂した今作では、ここ最近のお気に入りだというニコラス・ジャーやケイトラナダなどからの影響を反映した様々なエレクトロニック・ミュージックの要素に加え、自由な精神の象徴としてハウス・ミュージックを取り入れ、「ビートに乗ってりゃ何でもあり!」というオープンな姿勢から生まれた痛快なアルバムとなっている。

リスクが大きければ大きいほど、得るものも大きい。そして、究極に楽しい経験になる。改革は次の改革を導き、それが繰り返されるんだ。
- Nic Offer

バンドのホームタウンであるブルックリンでレコーディングされた今作には、UKのシンガー、リー・リー(Lea Lea)、シンガーソングライターで女優でもあるミーア・ペイス(Meah Pace)、グラッサー名義での活動も知られるキャメロン・メジロー(Cameron Mesirow)、チェロ奏者でシンガーでもあるモリー・シュニック(Molly Schnick)といった個性豊かな女性ヴォーカリストが多数参加している。

一貫して変わることのないパンクなアティテュードと、アルバムごとに進化を続け、シーンの変化とも巧みにリンクするサウンド。移り変わりの激しい景観の中、その状況を楽しむかのようにキャリアを重ねてきたチック・チック・チックの最新作は、そのキャリアの全てを反映させた集大成でありながら、歌詞とサウンドの両方にさらにエッジを効かせ、「この打ち砕かれたような状況から、何か美しいものが育ってほしい」という、混迷を極める世界に対するバンドの願いが込められた一撃でもある。

チック・チック・チックの7枚目のアルバムとなる本作『Shake The Shudder』は5月19日(金)に世界同時リリース! 国内盤にはボーナス・トラック“Anybody’s Guess”が追加収録され、歌詞対訳と解説書が封入される。またiTunesでアルバムを予約すると公開された“The One 2”がいちはやくダウンロードできる。またスペシャル・フォーマットとして数量限定のオリジナルTシャツ付セットの販売も決定!

label: Warp Records / Beat Records
artist: !!! ― チック・チック・チック
title: Shake The Shudder ― シェイク・ザ・シャダー

cat no.: BRC-545 / BRC-545T
release date: 2017/04/19 FRI ON SALE
国内盤CD: ¥2,200+税
国内盤2CD+Tシャツセット: ¥5,500+税
国内盤特典: ボーナス・トラック追加収録 / 解説書・歌詞対訳封入

Kiyama Akiko - ele-king

 半野喜弘や田中フミヤら日本人アーティストにとどまらず、リッチー・ホーティンやリカルド・ヴィラロボスといった海外のトップDJたちから高い評価を獲得してきたキヤマアキコが、既存の音楽カテゴリーにとらわれることなく、音そのものがもつ純朴な響きにフォーカスした作品を発表するために始動したケブコ・ミュージック。これまでにカセットテープを中心にリリースを重ねてきた同レーベルがマガムラのアルバムを初めてヴァイナルでリリースする。

 ラドゥ、ペトレ・インスピレスク、ラレッシュらの拠点であり、現在のミニマルテクノ/ハウスを語るうえで避けて通ることのできない東欧シーン。同シーン屈指のレーベルであるオール・インから2013年に発表した「The Orphans」で話題を呼んだコールドフィッシュことローリン・フロストと、彼の盟友ギタリストであるエリル・フョードが結成したマガムラは、テクノ/ハウスに限定されない視点でとらえたエレクトロニックミュージックをフェスティバルやクラブで披露してきた。オフィシャルリリースは今回限りとして特別に発表される「Supernaturals」には、サウンドコラージュやドローンの要素も含んだ多彩な電子音楽が収録。現在ケブコ・ミュージックのバンドキャンプ・ページにて先行予約を受け付け中だ。


Magamura(マガムラ)

古くからの友人であるローリン・フロストとエリル・フョードが既成概念にとらわれない音楽を生み出すべく結成したプロジェクト、マガムラ。ハンガリー出身のふたりが初期電子音楽からの要素を取り入れたサウンドデザインと楽曲構造からは従来の音楽にはないフューチャリスティックなサウンドスケープが描き出される。ライブパフォーマンスに特化した活動を行ってきたマガムラは、様々なジャンルを絶妙なバランスで融合しながら、物語性のある音楽を紡いできた。2011年の結成以来、ライブごとの状況に応じて異なる即興パフォーマンスを繰り広げることで、音源のリリースに頼ることなく、多方面から高い評価を獲得してきた彼ら。2017年、キヤマアキコ主宰ケブコ・ミュージックのビジョンに共鳴したマガムラが待望のアルバム『Supernaturals』を遂にリリース。

 4月3日(月)午前10:05~10:55 、NHKラジオ第一の「すっぴん!」に戸川純の生出演が決定しました。カレンダーにメモっておきましょう。

出演:宮沢章夫、藤井彩子。 ゲスト:戸川純。
https://www.nhk.or.jp/suppin/

Arto Lindsay - ele-king

 来ました! 1月にリリースされた13年ぶりの新作『Cuidado Madame』が好評のアート・リンゼイですが、なんと6月に来日します。昨年、晴れたら空に豆まいての10周年記念企画の一環として来日しているアート・リンゼイですが、今回は新作のレコーディング・メンバーを従えてのバンド・セットによるツアーです。東京、京都、大阪の3都市をまわります。オールスタンディングのライヴハウス公演としてはかなり久々の来日だそうで……アルバムのあのサウンドはいったいどんなふうに生まれ変わるのでしょう。必見です。

奇才アート・リンゼイ、超待望の来日ツアーが6月に決定!
13年ぶりの新作『Cuidado Madame』のレコーディング・メンバー
を率いた垂涎のバンド・セットです!

世界中に熱狂的なファンを生んできた真の奇才音楽家アート・リンゼイ、NO WAVE以来のパンク精神と近年のコスモポリタニズムが最高次元で融合した13年ぶりの新作『Cuidado Madame(邦題:ケアフル・マダム)』のレコーディング・メンバーを率いたバンド・セットでの来日公演が実現! オールスタンディングによるライヴハウス公演は、東京ではかなり久々となります! 新作のレコ発ツアーということで、あのサウンドがどのようにライヴで再現されるのか、絶対にお見逃しなく!!

【公演情報】
ARTO LINDSAY Japan Tour 2017

■ 東京 6月23日 (金) WWW X
OPEN 18:30 / START 19:30
TICKET オールスタンディング ¥8,000(税込/別途1ドリンク)
※未就学児入場不可
一般プレイガイド発売日:4/8 (土)
(問) クリエイティブマン 03-3499-6669

■ 京都 6月24日 (土) 京都メトロ
OPEN 17:00 / START 18:00
TICKET オールスタンディング ¥8,000(税込/別途1ドリンク)
※未就学児入場不可
一般プレイガイド発売日:4/8 (土)
(問) 京都メトロ 075-752-2787

■ 大阪 6月26日 (月) 梅田シャングリラ
OPEN 18:30 / START 19:30
TICKET オールスタンディング ¥8,000(税込/別途1ドリンク)
※未就学児入場不可
一般プレイガイド発売日:4/8 (土)
(問) キョードーインフォメーション 0570-200-888

企画・制作・招聘:クリエイティブマン https://www.creativeman.co.jp/
協力:P-VINE RECORDS


【作品情報】

アート・リンゼイ/ケアフル・マダム
Arto Lindsay / Cuidado Madame
in stores now
PCD-25212
定価:¥2,500+税
★日本先行発売
★日本盤ボーナス・トラック収録

まさに世界待望! 前作『Salt』以来およそ13年ぶりにリリースされた奇才アート・リンゼイのオリジナル・ニュー・アルバム! 盟友メルヴィン・ギブスの参加やマリーザ・モンチとの共作のみならず、ニューヨークの新世代ミュージシャンたちとの邂逅がもたらしたアート流「アヴァン・ポップ」のニュー・フェイズ。NO WAVE以来のパンク精神と近年のコスモポリタニズムが最高次元で融合したソロ・キャリア史上屈指の名作が誕生した!

『別冊ele-king アート・リンゼイ──実験と官能の使徒』
編集:松村正人

in stores now
ISBN: 978-4-907276-73-7
本体¥1,850+税
160ページ

ブラジル音楽の官能、ノーウェイヴの雑音、アヴァン・ポップの華麗なる試み──多岐にわたるアート・リンゼイの音楽の全貌をたどる必読の1冊。幼少期から現在までを語った本人ロング・インタヴューを皮切りに、カエターノ・ヴェローゾとの特別対談も掲載! 日本はおろか世界にも類をみないアート・リンゼイを総覧する試み。


【Arto Lindsayプロフィール】

1953年アメリカ生まれ。3歳で家族とともにブラジルに引っ越し、17歳までを過ごす。77年にNYでノイズ・パンク・バンド:DNAを結成。翌年、ブライアン・イーノのプロデュースによる歴史的コンピレーション『NO NEW YORK』にDNAとして参加する傍ら、ジョン・ルーリー率いるジャズ・コンボ:ラウンジ・リザーズにも参加。11本だけ弦を張った12弦ギターをノンチューニングで掻き鳴らす独自の奏法が衝撃を与え、“NO WAVE”シーンの中心的存在となる。80年代にはピーター・シェラーとアンビシャス・ラヴァーズを結成し、NYアンダーグラウンド音楽とポップ・ミュージックの融合を実践。80年代後半からはプロデューサーとしても活躍し、カエターノ・ヴェローゾ、ガル・コスタ、マリーザ・モンチ、ローリー・アンダーソン、デヴィッド・バーン、坂本龍一、大貫妙子、宮沢和史などを手掛ける。他にも三宅純や小山田圭吾、青葉市子など、日本人アーティストとは親交が深い。95年からはソロ名義でのリリースを開始し、04年にかけて1~2年に1枚のハイペースでアルバムを発表。14年のライヴ盤付きベスト・アルバム『Encyclopedia of Arto』を挟み、2017年1月、約13年ぶりとなるオリジナル・アルバム『Cuidado Madame』をリリースした。

Basic Rhythm - ele-king

 ベーシック・リズムとは、イマジナリー・フォーシズ(Imaginary Forces)名義で知られるプロデューサー、アンソニー・J・ハート(Anthoney J Hart)の別プロジェクトである。彼はこれまでIF名義でノイズやテクノの作品を数多くリリースしてきているが、じつはワイリーと同い年で、ずっとジャングルをやってきたプロデューサーでもある。昨年リリースされたBR名義でのファースト・アルバム『Raw Trax』は、危うい緊張感のなかで見事にジャングルとミニマリズムを共存させた野心作で、ダンスと実験主義を今日的な感覚で両立させる稀有な1枚だった(昨年の『ele-king』年間ベスト号では23位に選出)。そのベーシック・リズムの2作目が、3月24日にドロップされる。リリース元は1作目と同じ〈Type〉。これはベース・ファンもテクノ・ファンも見逃し厳禁!

アーティスト:Basic Rhythm
タイトル:The Basics
レーベル:Type Records
リリース:2017年3月24日

[Tracklist]
A1 Suburban Bass
A2 E18
A3 Fake Thugs
A4 Silent Listener (Adore)
B1 Cool Breeze (Summer In Woodford Green)
B2 Blood Klaat Core
B3 Bury Him
B4 Night Moves

Kassel Jaeger & Jim O’Rourke - ele-king

 カッセル・イエーガーとジム・オルークのコラボレーション・アルバム『ウェイクス・オン・セルリアン』が、〈エディションズ・メゴ〉からリリースされた。近年のこの種の音響作品にあって、特筆すべき出来栄えであり、このアルバムを機にカッセル・イエーガーという稀有なサウンド・アーティストの名は、さらに広まっていくことになるのではないか。

 そこでまず、カッセル・イエーガーについて、若干の素描を試みたい(ジム・オルークについては、いまさら説明する必要もないだろう)。彼は、1981年生まれのフランス人サウンド・アーティストである。INA-GRMのエンジニアとしても知られている。INA-GRMは、フランス国立視聴覚研究所・音楽研究グループ(Le Groupe de Recherches Musicales)のことで、あのピエール・シェフェールによって1958年に設立されたことでも知られる組織・機関(1975年にフランス国立視聴覚研究所と統合)。フランソワ・ベイル、リュック・フェラーリ、ベルナール・パルメジャーニ、ヤニス・クセナキスら錚々たる音楽家たちがメンバーとして関わってきたことからも分かるように、電子音楽やミュジーク・コンクレートの歴史においても極めて重要な機関である。と、書くだけでもINA-GRMのエンジニアであることがいかに特別な存在であるかが分かってくるだろう。
 カッセル・イエーガーは、フランソワ・ボネ名義で〈エディションズ・メゴ〉傘下でGRMの電子音楽再発レーベル〈リコレクション・ジー・アール・エム〉のコーディネイションからエンジニアリングにまで関わり、困難であろう数々の再発に尽力してきた。いわば2010年代において「電子音楽/ミュジーク・コンクレート」の歴史を、われわれに再発見させてきた重要人物のひとりである。

 むろん、ソロ・アーティスト、カッセル・イエーガーとしての活動も活発である。ジュゼッペ・イエラシ主宰〈セヌフォ・エディションズ〉や、フランスの実験音楽レーベル〈シェルター・プレス〉、老舗〈エディションズ・メゴ〉などから着実にアルバムなどのリリースを重ねてきた。昨年は〈シャルター・プレス〉から発売されたステファン・マシューやアキラ・ラブレーとの共作『ザウバーバーグ』も傑作であった。
 カッセル・イエーガーのサウンドは、ミュジーク・コンクレート的な技法を主体としつつも、どこか不可思議な空気感が特徴である。どこか謎めいた物語性を感じる音響構成とでもいうべきか(『ザウバーバーグ』は、トーマス・マンの小説をモチーフにした作品だった)。
 その意味で、本作『ウェイクス・オン・セルリアン』におけるジム・オルークとの共演は、個性の近いアーティストの共作といえる。オルークの音響作品もまた物語性が濃厚だからだ。ただ、カッセル・イエーガーは、物語性が音響のレイヤー=縦軸から生まれていくのに対して、オルークは、音楽の進行=横軸によって生まれるという差異がある。本作においては、その差異が良い方向に作用している。縦軸と横軸、つまりレイヤーと時間の交錯が、とても濃厚なのである。音楽的な旋律の欠片、環境録音、アンビエントな持続音、それらが縦軸と時間軸に絶妙にコンポジションされていくことで、とても充実した音響空間と音楽的時間が生まれているのだ。

 本作『ウェイクス・オン・セルリアン』は、ミュジーク・コンクレートであり、アンビエントであり、ドローンであり、フィールド・レコーディング作品でもある。泡のように飛び散る電子音、遠くのカモメのような鳴き声、水の音、時間の結晶のような持続音が交錯し、結晶していく。まるで「映像のない映画」のように、美しくも、どこか物悲しい音響世界。そこには、地中海的な「海」的なものへの詩的な感覚があるようにも思えた。「紺碧の目覚め」にふさわしいサウンドスケープが、ここにある。

Ryuichi Sakamoto - ele-king

 坂本龍一のオリジナル・ソロ・アルバムが3月29日にリリースされる。オリジナル・アルバムとしては、2009年の『アウト・オブ・ノイズ』以来、実に8年ぶりである。

 とはいえ、久しぶりという気はしない。むしろ、2009年以降の坂本は(2014年に癌治療による休養という予期せぬ事態に見舞われてはしまったものの)、その活動は00年代以上にアクティヴな印象ですらあった。
 Ustreamによるコンサートのライヴ映像配信と、コンサート直後の音源配信、2011年3月11日の東北大震災と原発事故以降の社会運動、「NO NUKES」の開催、「箏とオーケストラの協奏曲」(2011)の発表、ジャキス・モレレンバウム(チェロ)、ジュディ・カン(ヴァイオリン)らとのピアノ・トリオでのコンサート・ツアー、このトリオによるスタジオ録音アルバム『THREE』(2012)のリリース、数々のソロやオーケストラ・コンサート、そのライヴ音源のリリース、また、アルヴァ・ノト、フェネスら電子音響アーティストらとの継続的なコラボレーションとアルバム『Summvs』(2011)、『フルミナ』(2011)のリリース、未発表音源集『イヤー・ブック』シリーズのリリースなどなど、じつに多角的に展開していたのだ。病からの復帰以降も、山田洋次監督の『母と暮せば』(2015)、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の『レヴェナント: 蘇えりし者』(2015)、李相日監督の『怒り』(2016)など、いくつもの映画音楽を精力的に手掛けている。アルヴァ・ノト=カールステン・ニコライらと作り上げた『レヴェナント: 蘇えりし者』の映画音楽は、グラミー賞ノミネートも果たしたほど。同サントラは〈ミラン・レコード〉から全世界にむけてリリースされヒットを記録した。

 そう、この8年、坂本の姿は常にメディアを賑わせていたのだ。そのような状況の中、彼の姿は作曲家のみならず、「芸術とは何か?」「音楽とは何か?」という視点を、リスナーに分かりやすく提示する21世紀型のソーシャル・アーティストのようにすら見えるときもあった。NHKの音楽教育番組『スコラ』、東京都現代美術館『アートと音楽――新たな共感覚をもとめて』のディレクション、病気治療のため開催は見届けられなかったものの明確なコンセプトを提示した『札幌国際芸術祭 2014』のゲスト・ディレクター、「東北ユースオーケストラ」の音楽監督などは、まさにそんな「21世紀型のソーシャル・メディア=芸術」を提案するような活動ともいえる。
 とはいえ、である。世界中の坂本ファンが待ちわびていたものは、やはり「教授」のオリジナル・ソロ・アルバムであったことも事実だろう。だからこそ、今回のリリースは、大きなニュースなのだ。

 さて、まさに待望の新作だが、リリース前の現在、試聴音源の1秒たりとも耳にすることはできない。坂本自身が「好きすぎて誰にも聴かせたくない」と語ったことが発端(?)となってかどうかは知らないが、現状、試聴音源の類は公開されていないのだ。しかし、リスナーにとっては、まったくの白紙の状態でアルバムを聴ける可能性もあり、ある意味で理想的な聴取環境を提供されているとすらいえる。リリース前にティーザー動画や音源によって、何らかが「とりあえず」聴けてしまうこの時代において、これは挑戦的な告知方法といえる。坂本はアルバムの聴取環境すらも創造しようとしているのだろうか。
 そんな状況のなか、つい先だって、アルバム・タイトル、曲名、アートワークが発表された。アルバム名は『async』。録音は主にニューヨーク。日常の物、彫刻、自然からインスピレーションを得たようで、それは高谷史郎による印象的なアートワークにも象徴されているように思える。また、「アンドレイ・タルコフスキーの架空の映画音楽を書く」というコンセプトも浮かんだらしい。
 と、ここで公開されたトラック・リストを眺めてみると“solari”という曲もあり、なるほど「ソラリス」=『惑星ソラリス』を思い浮かべてしまう。くわえて「アルバム完成記念関連イベント」として、2017年4月4日TOHOシネマズ 六本木ヒルズにおいて、坂本セレクションのタルコフスキー監督作品『鏡』『サクリファイス』のムジーク・エレクトロニクガイザインのスピーカーを使って、最高の音響環境での上映会も予定されているのだから、やはり本作の「ウラテーマ」はタルコフスキーなのだろうか。

 ここでアルバム名『async』に立ち戻ってみたい。これは「Asynchronous=非同期」を表すネットワーク用語である。この非同期という言葉=概念はコンピューターのみならず、人間や、いや自然界もまた非同期といえるだろう。アルバムのアートワークに見られる小さな盆栽のような植物もまた同様だ。ミクロ・コスモスのなかで、非同期的に生成し、そのズレが、さらに大きな反復と生成を生んでいくこと。つまりは差異と反復である。となると、坂本はここで、ジル・ドゥルーズという20世紀を代表する哲学者の代表的な書物の書名を、ネットワーク用語から言い換え=変奏しているのであろうか。アルバムでは“ZURE”という曲が、“solari”の後に、さりげなく置かれていることにも注目したい。

 確かに、タルコフスキーの映画は崇高であり、宗教的であり、大きな救済のメッセージを持っているのだが、同時に、自然界の小さな蠢き、つまりは非同期の集積でもある。たとえば『惑星ソラリス』の冒頭は、小川のせせらぎであり、水の音が非同期的に流れてゆくカットであった。async。非同期。自然=現象。差異と反復。タルコフスキー。水の音。非同期。差異と反復。豊穣なズレ。世界。人間。水。生命。ライフ。そう、前作『アウト・オブ・ノイズ』の「北極三部作」においても表現されていた自然界の豊穣な差異と反復。1999年のオペラ『ライフ』で追求されていた20世紀の歴史と生命の起源。それらの先に生成する、小さな盆栽のごとき豊穣なミクロ・コスモスのようなサウンド? そんな21世紀のサカモト・サウンドを思わず夢想してしまった。
 むろん、聴いてみるまでは何もわからない(まったく違う可能性もある。だが、そのズレもまた重要のはず)。しかし、その音が、清流のように濁りなく、美しく、しかし繊細な逸脱と、豊穣なズレを伴うミニチュアールの美しさを伴った音楽/音響であることに違いはないように思える。いわば「音響作曲家・坂本龍一」の真髄が、慎ましく、美しく、そこに「ある」かのような音楽……。
 そんな「async」な夢想ができる今も、実は坂本龍一のニュー・アルバムを「聴かずして体験している」という豊穣な時間とはいえないか。ともあれ、リリースまであと少しだ。

 本作の日本盤は〈コモンズ〉から3月29日に、海外盤は『サ・レヴェナント』のサウンドトラック盤などをリリースした〈ミラン・レコード〉から4月28日にリリースされる。3月29日には〈コモンズ〉より、『Year Book 1980 -1984』もリリース。また、4月4日から東京のワタリウム美術館では高谷史郎が会場構成を手掛けた「設置音楽展」が開催される。 (デンシノオト)


Ryuichi Sakamoto
async

01 andata
02 disintegration
03 solari
04 ZURE
05 walker
06 stakra
07 ubi
08 fullmoon
09 async
10 tri
11 Life, Life
12 honj
13 ff
14 garden
15 water state 2 [vinyl-only bonus track]

CD盤
発売日:2017.03.29
品番:RZCM-86314
価格:¥3,780 (税込)

アナログ盤
発売日:2017.05.17
品番:RZJM-86312~3
価格:¥7,020 (税込)

https://www.skmtcommmons.com/

CAT BOYS - ele-king

 先日、平凡社から刊行された著書『新 荒唐無稽音楽事典』もあらためて話題になっている音楽家/文筆家の高木荘太。最近まだ目立ってますな。カセット・ストアデイでもひときわ人気を博したのが、高木壮太率いる「CATBOYS」だった。3月24日にはそのセカンド・アルバムがリリースされる。現代の音楽キーワードをシニカルに解説した『新 荒唐無稽音楽事典』の刊行と「CATBOYS」セカンドのリリースを祝して、ここに茨城県の植田氏から届いたライヴレポも掲載しましょう。

 CAT BOYSはラウンジを這い出たのか!  浦元海成(Dr,Vo)、高木壮太(Key,Vo)、NO RIO(Bs,Vo)からなる“午前3時のラウンジ・ファンク・トリオ”CAT BOYSの新作『BEST OF CAT BOYS vol.2』(以下『vol.2』)を一聴して、そう思った。青山の老舗クラブ蜂のハウス・バンドでありながら、思い出野郎Aチーム主催の「SOUL PICNIC」や吉祥寺のローカル・バンドM.O.J.Oのリリース・パーティに出演しキッズも交ざるライヴハウスのフロアを沸かせ、ファースト・アルバム『BEST OF CAT BOYS vol.1』(以下『vol.1』)発表後の3枚の7インチ・シングルでは手練のクラブDJたちにもその名を知らしめた。だから、と結論づけるのはいささか乱暴だけれど、『vol.2』には『vol.1』になかった楽曲の幅があり、密室のラウンジだけでは生まれ得ない緩急がある。そう、この音盤には、彼らのライヴをそのまま再現したような一夜のドラマが刻まれているのだ。ライヴ・レポートを書くように、以下にこのアルバムのレヴューを試みたい。
 

 ごあいさつとばかりにイントロから鍵盤が唸る“Fanfare”で夜の幕が開く。そのままミーターズ・スタイルのファンク・チューン“Switch Back”へと繋ぐ展開は完璧な導入だと言っていい。ここまでですでに身体は温まった。Sly&The Family Stoneの“Somebody's Watching you”をさらりと挿み、浦元による自作曲“Strawberry 2 U”でねっとりと揺らされる。まとわりつくようなグルーヴ、メンバーによる軽妙なコーラスもどこか怪しい味付けだ。そして迎える“Last Tango in Paris”。軽業師、高木壮太ここにあり! と思わず合いの手を入れたくなるこのセンス、白眉のカバーであるのは間違いない。『ラストタンゴ・イン・パリ』劇中の性描写を再現するような、なまめかしい鍵盤の調べは見事の一言。さて、この熱演でライヴは中入り。いまのうちにカラカラになった喉をビールで潤しておこう。
 気を取り直して後半戦。人が散り散りになったフロアに呼びかけるように、Booker T.&the MG's“Melting Pot”、Chic“Everybody Dance”とファンク&ディスコ・クラシックを畳み掛ける。グッとフロアの熱を上げたところで披露するのが、“Take Me To the Mardi Gras”。「ねえ、マルディグラに連れてってよ!/そこでは、みんなが歌い演奏してるの/ダンスも素敵なんだって」と呼びかける、ポール・サイモンによるニューオリンズ讃歌でリズムを変える。いきなりのギア・チェンジに戸惑う聴衆を気づかうように、ゆるやかに熱を保つこの選曲はハウス・バンドしての役割を担ってきたCAT BOYSの懐の深さを顕著に示しているように思う。つづく“Stay Cool”はこの夜いちばんのメロウ・チューンだ。ここまで来ると心はホカホカ、短い映画を見終えたような心持ちである。だけれど、まだ夜は終わらない。幻のバンドManzelのカバー“Space Funk”で、彼らはもう一度フロアの熱を上げていく。じっくりと愛撫をするように聴衆の身体を温めるレゲエ調のアレンジが絶妙だ。さあもう一回! もう一回だけ愛し合おうじゃないか。
 もっともっと! と欲しがる相手がいるならば、遠慮はいらない。当然最後はこの曲、文句なしのパーティ・チューン“Funka de Janeiro”――ただしここではリアレンジされ、より都会的に洗練された“Arabella”として演奏される。原曲の野蛮さを流麗なグルーヴに置き換えた創造的な再構成だ。アンコールは大貫妙子“都会”のカヴァーで涼やかに。まるでボーナス・トラックのような演奏になぜだか少しだけセンチメンタルな気分になる。あれだけ熱くなったのに、あんなに激しく踊ったのに。どうしたって夜は終わるのだ。分かっているのに虚しくなる。頼む。朝よ、来ないでくれ。このままずっと酔いつづけていたいんだ……。

 このレヴューを依頼され、『vol.2』を聴き込むほどに浮かぶのはなぜか性的なイメージばかりだった(まったくもって稚拙ですが!)。CAT BOYSはきっとその夜いちばんの女を落とすための演奏をしているんだろう。だから彼らはまた密室に帰る。彼らに、陽の光はまぶしすぎる。酔いの抜けない身体をずりずりとひきずって午前3時のラウンジに這い戻り、懲りない面々の乱痴気騒ぎのアシストをする。そういうバンドであってほしい。2017年にリリース予定の『BEST OF CAT BOYS vol.3』ではどんな夜が描かれるのか、いまから楽しみに待っていよう。


植田浩平(茨城県のつくば市でPEOPLE BOOKSTOREを営んでいます。
https://people-maga-zine.blogspot.jp/


"BEST OF CAT BOYS VOL.2 DIGEST SAMPLER MOVIE"
https://youtu.be/KdVk6FRGQnA"FRGQnA

"MASTERED HISSNOISE"
https://www.msnoise.info/

"新 荒唐無稽音楽事典"
https://www.heibonsha.co.jp/book/b272188.html

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972 973 974 975 976 977 978 979 980 981 982 983 984 985 986 987 988 989 990 991 992 993 994 995 996 997 998 999 1000 1001 1002 1003 1004 1005 1006 1007 1008 1009 1010 1011 1012 1013 1014 1015 1016 1017 1018 1019 1020 1021 1022 1023 1024 1025 1026 1027 1028 1029 1030 1031 1032 1033 1034 1035 1036 1037 1038 1039 1040 1041 1042 1043 1044 1045 1046 1047 1048 1049 1050 1051 1052 1053 1054 1055 1056 1057 1058 1059 1060 1061 1062 1063 1064 1065 1066 1067 1068 1069 1070 1071 1072 1073 1074 1075 1076 1077 1078 1079 1080 1081 1082 1083 1084 1085 1086 1087 1088 1089 1090 1091 1092 1093 1094 1095 1096 1097 1098 1099 1100 1101 1102 1103 1104 1105 1106 1107 1108 1109 1110 1111 1112 1113 1114 1115 1116 1117 1118 1119 1120 1121 1122 1123 1124 1125 1126 1127 1128