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野田 努 Mar 23,2017 UP

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(小川充)

 2016年はジ・インターネットとしての作品リリースはなかったが、その中心人物でリード・シンガーであるシド・ザ・キッド(シドニー・バーネット)の活動は精力的だった。昨年から今年にかけてリリースされたものでも、ケイトラナダ、ジェシー・ボイキンス3世、ヒュー・オースティン、コモン、リトル・シムズ、キングダムなど、いろいろなアーティストの作品に参加している。タイラー・ザ・クリエイター率いるオッド・フューチャー出身のシドは、もともとプロデューサー/DJとして頭角を現わしてきたのだが、マット・マーシャンズ(マシュー・マーティン)と組んだオルタナR&Bユニットのジ・インターネットで初めて歌を歌い、その成功によって今ではシンガーとしての活動に重きを置いている。

 ジ・インターネットは2011年に『パープル・ネイキッド・レディーズ』でアルバム・デビューするが、2013年のセカンド・アルバム『フィール・グッド』では生演奏のバンド・スタイルへと移行し、ソウル/ファンクやジャズ/フュージョン、ブギーの要素が強くなった。この頃からライヴも活発におこない、2015年のサード・アルバム『エゴ・デス』にはロナルド・ブルーナー・ジュニアやサンダーキャットの兄弟でもあるジャミール・カーク・ブルーナーなど、ミュージシャンも多く参加したバンド・サウンドを確立している。グラミーにもノミネートされた『エゴ・デス』リリース後は、ツアーの合間に新作の準備に取り掛かるとともに、シドの外部客演に見られるように、メンバーそれぞれのソロ活動も動き出した。そうして今年の頭、シドがソロ・シンガーとしての初アルバム『フィン』を発表するのとほぼ時を同じくして、マット・マーシャンズがファースト・ソロ・アルバム『ザ・ドラム・コード・セオリー』、ギターとベースのスティーヴ・レイシー(1970年代に活躍したフリー・ジャズのサックス奏者とは同名別人)が初のミニ・アルバム『スティーヴ・レイシーズ・デモ・EP』をリリースした。スティーヴ・レイシーは『フィン』と『ザ・ドラム・コード・セオリー』にも参加し、シドは『ザ・ドラム・コード・セオリー』でも1曲歌っているのだが、ジ・インターネットとはまた別の形でそれぞれの表現をおこなったものとなっている。

 『フィン』はジ・インターネットと同じく〈コロンビア〉からのリリースということで、ある程度メジャーを意識した作品である。ビヨンセと組むメロー・Xやヘイズバンガ、カニエ・ウェストやジェイ・Zと組むヒット・ボーイ、ケンドリック・ラマーと組むラーキなどのプロデューサーの起用にそんな一端が窺える。とは言っても、シドの持味であるクールでアンビエントなテイストが出ており、バンド化する以前のエレクトリックなジ・インターネットの『パープル・ネイキッド・レディーズ』に近い雰囲気である。もともとはほかのアーティストへの楽曲提供としていろいろ曲を書き貯めていくなか、自身のアルバムの構想が芽生えたそうだ。シド自身がプロデュースと作曲を手掛ける以外に、アンソニー・キルホファーほか前述の外部プロデューサー陣と曲ごとにコラボし、またジ・インターネットのスティーヴ・レイシーと、『エゴ・デス』にも参加して重要な役割を担ったニック・グリーン(ニッキー・デイヴィ)が曲作りに関わっている。リード・シングルの“オール・アバウト・ミー”はスティーヴ・レイシーのプロデュースで、ドレイクあたりに通じるメジャー感のあるR&Bナンバー。ティンバランドを彷彿とさせるビートを現在のトラップへと発展させたような曲だが、シンセなどでエキセントリックな味付けを加えているのがスティーヴの腕前で、ジ・インターネットのメンバーのなかでも最年少という彼の、今後の活躍を予感させる曲だ。同じくスティーヴ参加の“ダラー・ブリス”は、彼のギターがアクセントとなったポップなテイストの作品。同じくポップななかにトリッキーさを見せる“ノウ”はニック・グリーンが手掛けており、ティンバランドを彷彿とさせるプロダクションとアリーヤを想起させるシドの歌が好マッチを見せる。“ナッシン・トゥ・サムシン”や“ゴット・ハー・オウン”、そして“ボディ”や“オーヴァー”では、シドならではの覚醒感に満ちた世界を展開している。クールでエレクトリックなプロダクションが真夜中のチル・アウトなムードを見事に表現しているが、特にメロー・Xと組んだ“ボディ”はFKAツイッグス×アルカ、ケレラ×キングダムといった名コラボに匹敵する出来栄えだ。メロウやジャジーということでは、“スマイル・モア”や“インセキュリティーズ”が抜きんでている。これらはジ・インターネットで培った生演奏がバランスよく配合されており、“インセキュリティーズ”にはロバート・グラスパーも客演している。

 『ザ・ドラム・コード・セオリー』と『スティーヴ・レイシーズ・デモ・EP』は、〈スリー・クォーター〉というレーベルからの配信限定リリースで、『フィン』に比べてより個人の趣味性の高い作品である。『ザ・ドラム・コード・セオリー』はドラムのほか、多種の楽器を扱うマルチ・ミュージシャン/プロデューサーで、イラストレーターでもあるマットの多才ぶりが表われた作品で、スティーヴ・レイシー、シド、タイラー・ザ・クリエイターら仲間が一部に参加するものの、ゲストは最小限に留めて、自宅スタジオで好きなように作ったミックス・テープやビート・テープに近い形態。“スペンド・ザ・ナイト/イフ・ユー・ワー・マイ・GF”や“サザン・アイソレーション”のように、生ドラムやパーカッションと電子ビートを巧みに融合させたトラックメイカーという部分と、“ダイアモンド・イン・ダ・ラフ”や“ホワット・ラヴ・イズ”に見られるバンド/ミュージシャン的な部分がミックスされている。ただ、“ダイアモンド・イン・ダ・ラフ”も“ホワット・ラヴ・イズ”も、前半と後半で曲調がガラっと変わり、全く異なるふたつの曲を強引にひとつに繋ぎ合わせた構成だ。こうした変則的な曲が多いのも本作の特徴で、そのあたりにマットのエキセントリックさが表われている。シドとスティーヴ・レイシー参加の“デント・ジュセイ”は、比較的ジ・インターネットの作品に近いものの、途中でブッツリと途切れてしまい、あとはストリートでの会話が延々と続いていく。電子ファンク・サウンドの“ホエア・アー・ヨー・フレンズ”や“ベイビー・ガール”など、コズミックな質感とコミカルな質感が同居するのはPファンク的でもあり、自身で手掛けたジャケットのアートワークにも通じている。レイジーなソウル・ミュージックとしての骨格を持ちながらも、テープの逆回転などを用いた“ダウン”のように、至るところで音遊びや音楽実験をやっている印象だ。こうした前衛的な音楽実験を経ていくなか、いろいろと整理をおこなって分かりやすくし、ポップ・ミュージックへと完成させていったのがジ・インターネットの作品とすると、その原型ともなる部分をカットしたり希釈せず、ダイレクトに形にしていったアルバムが『ザ・ドラム・コード・セオリー』ではないだろうか。

 『スティーヴ・レイシーズ・デモ・EP』は2分前後の曲を6つ収めた小作品で、文字どおり完成前のデモ的な意味合いが強いもの。そうしたなかでもスティーヴの才能の片鱗を見せており、特にソングライター、メロディ・メイカーとしての能力がとても優れていることを窺わせる。ギタリストとしての能力を生かした曲が多く、“サム”あたりを聴くと、彼がジ・インターネットで果たす役割がとても大きいことがわかるだろう。この“サム”はカーティス・メイフィールドからプリンスの影響を窺わせるところもあるが、そのほかスライ・ストーンやシュギー・オーティスあたりを連想させる“ルックス”や“ダーク・レッド”、ディアンジェロのドープなところを抽出したような“サングス”などが並ぶ。ソウルやファンクのアーシーで骨太な側面を見せる一方、“ヘイターラヴィン”はオルタナ・ロックやニュー・ウェイヴ的な作品で、スティーヴの実験的な部分が表われている。ブラック・ミュージックだけではない彼のフィールドの広さを示す好例だろう。なお、この後にもジ・インターネットのドラマーのクリストファー・スミス、ベースのパトリック・ペイジ2世のソロ・アルバムも予定されており、それらがリリースされてから満を持してジ・インターネットのニュー・アルバムを完成させるという。ソロ作でそれぞれのスキルを高めていき、それが集まった先にジ・インターネットのさらなる進化をヴィジョンしているようだ。

小川充

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