「Not Waving」と一致するもの

Sugiurumn - ele-king

 スギウラム、ワイルドで、情熱的な、ベテランDJ……。ハウス、トランス、ロック、ブレイクビート、ミニマル、この男にジャンルがあるとしたら、ダンス・ミュージックってことのみ。踊れるってことがもっとも重要なんだよ。
 スギウラムは、90年代初頭に活躍した日本のインディ・ロック・バンド、エレクトリック・グラス・バルーンのメンバーとしてシーンで頭角をあらわすと、インディ・ダンスのDJとしての活動をおっぱじめて、ずーっとDJであり続けている。ハッピー・マンデイズのベズが彼のトラックで歌ったこともあるし、イビサではパチャのメイン・フロアを沸かせたこともある、京都では24時間ぶっ通しでプレイした。電気グルーヴのリミックスも手がけている。ほんとにいろんなことをやってきた。
 スギウラムが主宰する〈BASS WORKS RECORDINGS〉がレーベル初となるオリジナル・アルバムをリリースする。
 実は〈BASS WORKS RECORDINGS〉は、2013年の4月から、毎週水曜日に新曲をリリースするという、週刊リリースを続けている。この11月、週刊リリースが前人未踏の80週を超えた。配信だからできることだが、しかし、個人でここまでオーガナイズするのは並大抵のことじゃない。
 この1年半のあいだにリリースした楽曲数は250曲以上。アーティスト、リミキサーなどの顔ぶれをみれば、ハウス、テクノ、若手、ベテラン、アンダーグラウンドなどなど、ジャンルや世代を超えて数多くの人たちが参加していることがわかるが、こんなバレアリックな離れ業ができるのもスギウラムだからだろう。

 スギウラムが満を持してレーベル初のオリジナル・アルバムとして、自身の作品『20xx』をリリースする。初のフィジカルCDリリースだ。研ぎ澄まされたテック・ハウス満載で、彼自身がDJブースとダンスフロアから学び取ってきたスピリットの結晶である。この20年、日本のパーティ・シーンをつっぱしてきた男のソウルを聴こうじゃないか!

https://bass-works-recordings.com

SUGIURUMN / Seventy-Seven



SUGIURUMN - 20xx
BASS WORKS RECORDINGS

 先日はele-kingでも合評を掲載! ディアフーフが結成20周年と新作リリースを記念して大ツアーを敢行する。12月2日の代官山〈UNIT〉を皮切りに全国11都市にて13公演。20年経ってもいまだリアルなシーンに緊張感を生み、古びない音と世界観を提示しつづけている彼らは、今回も必ずや記憶に残るライヴを披露してくれるだろう。

 新作『La Isla Bonita』から公開中の“Mirror Monster”MVを再生しながらチェックしよう!




AHAU - ele-king

グラフィックデザイナーです。
今年作業中に聴いていた音楽の中から選んでみました。順不同。

展示スケジュール
下北沢BROWNDOOR 作品常備展示中
11/8 ManMachine@幡ヶ谷FORESTLIMIT 作品展示

Facebook : https://www.facebook.com/AHAUts
ahau shop : https://ahau.thebase.in/


Arca - ele-king

 ジェシー・カンダによる禍々しく、グロテスクなアートワークをじっと見つめながら音に意識を集中する。アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズのファースト・アルバムのジャケットを思い出したのは僕だけではないはずだ。徹底して異物であろうとすること。異物……両性具有あるいは無性であろうとすること。耳から入ってくるきわめて抽象的な音の応酬はやがて、男でも女でもない性が叫ぶ声とすすり泣く声に聞こえてくる。

 『FADER』のインタヴューは、この謎めいたプロデューサーがどういったところからやって来たのかを明らかにしているが、このアレハンドロ・ゲルシという青年の率直さと飾り気のなさにはずいぶん驚かされた。そして僕は、ベネズエラでゲイとして生まれることを想像してみる。たとえば今年、ソチ五輪開催時にロシアにおける同性愛者への弾圧が取り沙汰されたとき僕たちが知ったのは、かの国ではゲイだということが明らかになると暴力を受けて命を落とす可能性さえあるということだった。ベネズエラは……どうなのだろう。はっきりとはわからないがしかし、ゲルシ本人が「ベネズエラの社会ではそれに気づくことすら許されないんだ」と言うのだから、まあそういうことなのだろう。が、「ママがいなくなったら毛布をドレスみたいにし」、「高校の女の子とデートし」、「ゲイをやめたいって祈ってた」という部分はよくわかる。僕はこんなゲイがたくさんいることを……たくさん、日本にもいることを知っている。自分の場合は幸運なことに、海外の音楽やカルチャーに多感な時期に触れる機会があったためにそこで多くの同性愛者たちと「出会っていた」からよかったが、もしそうでなかったらと思うとぞっとする。かつてのゲルシ青年のように、どうかストレートになれますように、と毎日祈っていたのかもしれない……それがどれだけ自分を傷つけることになるかも知らずに。

 アルカがベネズエラで生まれたゲイであったからポスト・インターネット時代の寵児となり得たと言うのは乱暴だが、しかし自分はまったく無関係だとも思わない。僕の友人のゲイには、自分と同じような人間がいることを知ることができたというただ一点において、インターネットに救われたと真顔で言う者もいる。しかしゲルシは「自分のような人間」をただ探すだけに留まらなかった。竹内正太郎による国内盤のライナーノーツによれば、インターネット上のWAVファイルを拾い集めたことがアルカの創造性の萌芽だったそうだが、それはすなわち、ゴミを手に入れ配合し継ぎ接ぎすることによって、自分が生きる世界には存在しなかった、あるいは許されていなかった異物を、グロテスクな何かを生成する行為だったのではないか。そうして、折衷的と呼ぶにはあまりに情報過多なアルカの音楽は「異形」と呼ばれることになる。

 世間からの注目を存分に集めたのちついに世に放たれた『ゼン』は、しかし、ミックス・テープ『&&&&&』よりはるかに、音としてもコンセプトとしても内省的な一枚となった。もちろん、オウテカを聴いていたという彼のIDMからの影響が残るメタリックなトラックもあれば、ポスト・クラシカル的なストリングスが強く印象に残る“ファミリー・ヴァイオレンス”もあるし、先行して公開された“シーヴァリー”にはポップな感触がたしかにある。アルバム全体で言えば相変わらずきわめて断片的で散らかった内容だ。しかしながらたとえばタイトル・トラック“ゼン”の、“シーヴァリー”の、“バレット・チェインド”の、強迫観念的なビートと不穏さには頭を両手で掴んでシェイクされているような気分にもなるが、それと同じくらい……もしかするとそれ以上に、“フェイルド”、“ウーンド”における気が遠くなるほど優美なメロディが訪れる瞬間に引き込まれる。ドラマティックなストリングスとエフェクトのかかったエモーショナルなヴォーカルが聴けるトラックを“ウーンド”、すなわち「傷」と名づけているその衒いのなさに、アルカそのひとの横顔が見えてくるようだ。『ゼン』は、カニエもビョークもFKAツィッグスも意識から消えたところで、複雑怪奇なリズムと半音階と不協和音にまみれながら、アルカただひとりと対峙するアルバムである。

 もしかすると、この音楽の正体不明な佇まいゆえにゲルシの素顔は知りたくなかった、重要でないという向きもあるかもしれない。けれども僕は、アーサー・ラッセルの音楽に勇気をもらったひとりのアーティスト志望のゲイ青年が、ある晩はじめて男とセックスをするというエピソードの「普通さ」こそに胸を打たれる。なぜならば……彼はやがて、自身の内に抱え続けた異物をこしらえ、そして音楽の名のもとにそれを思う存分解放させたのだから。ここにはいびつだが、純粋な官能がある。奇怪でグロテスクで、この世のものとは思えない、エイリアンが作ったような音の蠢き……しかしそれは、僕にはもう、ひどく人間的な感情の揺らめきに聞こえる。

interview with Clark - ele-king


Clark
Clark

Warp/ビート

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 今年はエレクトロニカ/IDMの年だったというひとも少なくないだろう。EDMが席巻し、バカ騒ぎのイメージばかりが目立ってしまったフロアに対するカウンターとしてエレクトロニック・ミュージックの実験主義はいまこそ存在感を増しているし、何と言ってもエイフェックス・ツインさえも復活してしまったのだから。クラークによる7枚めのアルバム、その名も『クラーク』は、そんな年の締めくくりにふさわしい1枚だ。

 クリス・クラークは2001年の『クラレンス・パーク』のデビュー以来、エイフェックス・ツインと度々比較され、その多作ぶりで結果的にエイフェックスの不在を埋めることとなったが、時代はけっしてずっとIDMに味方していたわけではなかった。彼自身はマイペースに、そしてワーカホリックに気の向くままひたすら作曲を続けてきたとの発言を繰り返しているが、しかしながら大胆にハードなテクノ、あるいはエレクトロに転身した『ターニング・ドラゴン』(08)、オーガニックな生演奏をふんだんに取り込んだ『イラデルフィック』(12)など、かなり思い切った変化を見せてきた。いま思うと、その変身と多面性が彼のこの10数年のサヴァイヴのあり方だったのかもしれない。
 本作『クラーク』の特徴をいくつか挙げるとすれば、まずはビートが比較的リニアなものが多くダンサブルであること。序盤はBPMが同じトラックが続く場面もある。次に、これまで彼が辿って来た音楽的変遷がたしかに溶け込んでいること。シンセやピアノ、あるいはストリングスによる多彩な音色使いによって曲ごとのカラーはさまざまで、“アンファーラ”のような勇壮なテクノ・トラックもあれば、“ストレンス・スルー・フラジリティ”のようなピアノ・ハウス、“バンジョー”のような音の隙間で聴かせるユーモラスな電子ファンクもある。ラストの“エヴァーレイン”はほとんどドリーミーなアンビエントだ。そして、ほとんどのトラックで印象的で美しいメロディが奏でられている。
 本作のポイントは、雪を踏みしめる音や雷雨を録音したフィールド・レコーディングであるという。しかし、それらは一聴してわからないほどサウンドに溶け込んでおり、あくまで隠し味としてアルバムのそこここに息を潜めている。この事実が示しているように、ずいぶん複雑で洗練されたやり口で彼のエレクトロニック・ミュージックの実験と冒険はここで編み込まれているのだ。考えてみればキャリアも10年を悠に超えるこのベテランは、その間ずっと作曲ばかりをしてきたのだ。
 この多様な表情が隠されたアルバムのアートワークが彼のセルフ・ポートレイトの黒塗りになっているのは、クラークならではのジョークだと思えばいいだろうか。どこか飄々とした彼のこれまでの歩みが、このセルフ・タイトルの静かな自信へと辿りついたことが何とも感慨深い。

イギリスの田舎にある古い農家のなかで作った。誰もいなくて、村みたいな場所だった。だからその4ヶ月間、曲を書く以外ほとんど何もしなかった。すごく特別な4ヶ月だったよ。本当に孤立していたんだ。

やはり、まずはここから訊かせてください。7作めにして、タイトルを『クラーク』としたのはなぜですか?

クラーク:この質問、みんなから訊かれるんだよ(笑)。たしかかに変だからね。普通だと最初の作品をセルフ・タイトルにするひとのほうが多いからね。今回のアルバムは最初、自分をテストするような作品だったんだ。エレクトロニック・ミュージックにおいて自分がやってきたことをただまとめるだけじゃなくて、もう少し自分のサウンドを表現してみたいと思った。だから自分をテストしてみることにして、4ヶ月かけてこのアルバムを書いたんだ。いままでにそんなことはなくて、いつも何年かかけて書いてきたトラックを集めてアルバムを作ってた。でも、この作品に関しては、4ヶ月かけて最初に何もない状態から書きはじめて完成させたアルバムなんだ。すごく集中していたし、そのエナジーが反映された作品だと思うよ。

■(通訳)その新しい試みは、実際やってみていかがでしたか?

クラーク:どうだろうね。前まではやっぱりコレクションだった分、コラージュって感じであまりトラックが直線上に並んだ感じはしなかったと思う。でもこれは4ヶ月集中して……って、さっきからなぜ「クラーク」ってタイトルにしたかの答えにあまりなってないよね(笑)、ごめん。でもとにかく、そういう理由があって、アルバムを「クラーク」と呼ぶのがすごく自然に感じたんだ。制作の最初の時点からこのアイディアはあって、セルフ・タイトルってすごく大胆だから、正直不安はあった。果たしてじゅうぶん良い作品になるんだろうか、とか、失敗するかもしれない、とか、愚かなアイディアかもしれない、とか。でも最終的にアートワークも含め見てみると、すごく自然に感じたんだ。このアルバムにタイトルは必要ないと思った。すごくいい気分で、いろいろ経験してついてきた自信がこのレコードに反映されていると思っているんだ。作品の内容自体がよければ、タイトルってあまり気にならないだろ? 自分がそう感じることができたってことは、自分がこのアルバムに心地よさを感じることができてるってことなんだと思う。

■(通訳)制作はどこで?

クラーク:イギリスの田舎にある古い農家のなかで作った。誰もいなくて、村みたいな場所だった。だからその4ヶ月間、曲を書く以外ほとんど何もしなかったね(笑)。すごく特別な4ヶ月だったよ。本当に孤立してたんだ。ヒゲも伸びまくって(笑)。実際やってみて、集中できたからすごくよかったよ。

リミックス・アルバムであなたは自分の音楽性を「フィースト」と「ビースト」という、ふたつに大別していました。それをこのアルバムでひとつにしたかったのではないかとわたしは感じたのですが、そういった意図はありましたか?

クラーク:うーん……でもそう感じるのはありだと思う。今回の作品は、ライヴ楽器を一切使っていない生粋のエレクトロニック・アルバムなんだ。シンセと古い機材しか使ってない。『フィースト/ビースト』もそういうアルバムだったし、『クラレンス・パーク』や『エンプティ・ザ・ボーンズ・オブ・ユー』に戻る部分もあると思う。すべてのトラックが俺の昔の作品が持つ何らかの要素を思い起こさせる。でも今回は、それを表現するだけじゃなくて、新しいフォームに作り替えることにフォーカスを置いたんだ。

実際、『フィースト/ビースト』はあなたの全キャリアを振り返る作業となったわけですが、そこで何か発見したことはありますか?

クラーク:何かを発見すると言うより、リミックスはただ好きでやってるんだよね。リミックスはひとの作品だから、その作品は自分にとってそこまで重要じゃないから、良い意味で遊べるんだよ。周りから与えられるプレッシャーも好きだし。だいたい一週間くらい与えられるんだけど、その時間のプレッシャーがあると最高の作品が出来る。「仕上げないと殺すぞ!」みたいなプレッシャーに駆り立てられるんだ(笑)。で、完成したら報酬をもらって、次の作品制作に進む。そのシンプルさが好きなんだよね。

以前から疑問に思っていたのですが、あなたは音楽性をガラッと変化させるときも、ほかの多くのエレクトロニック・ミュージシャンのように、名義を使い分けるようなことはしませんでしたよね。そういったことはまったく考えてこなかったのですか?

クラーク:名義の使い分けはあまり意味がないと思っていて……どんな作品であれ、みんな結局それが同一人物の作品ってわかるわけだし、俺はジャンル・ミュージックは書かないし。ひとによっては、これはテクノのプロジェクト、これはヒップホップのプロジェクト、これはダブステップでこれはトラップ、みたいにプロジェクトをわけて名前を使いわける。でも俺は、なんでそういう風にジャンルにリミットを定めて音楽を作るのかわからないんだ。

とくに前半ですが、本作はビートが一定のものが多く、非常にダンサブルなアルバムとなっています。『イラデルフィック』のときあなたは、「テクノ・ミュージックから少し距離を置きたかった」とおっしゃっていましたが、今回ストレートにテクノ・サウンドを打ち出してきたのはどうしてですか?

クラーク:前に探索していたものに戻って、そこからまた何かを広げていこうと思ったんだ。

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俺はアンディ・ストットが大好きなんだ。彼のニュー・アルバムも良かった。『クラーク』を書いているときに聴いていたとか、それを意識していたわけではないけど、言われてみるとたしかに通じるものはあるかもね。彼のサウンドは、イギリスの北部を思い起こさせるんだ。


Clark
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最近のベルリンのテクノ・シーンに興味はありますか? (以前は少し興味を失ったとおっしゃっていました。)

クラーク:そうでもない(笑)。でも嫌いってわけじゃない。テクノのレコードは買うし、聴くのも好きだよ。でも正直ベルリンのテクノはあまり知らないんだ。俺がハマってるのはシカゴのサウンド。あとイギリスのテクノのほうが好きなんだよね。でもアンチじゃないよ(笑)。

■(通訳)住んでいるのはまだベルリンなんですか?

クラーク:そう。まだアパートはある。でもいつも旅してるから、そんなにはいないけどね。

■(通訳)そろそろ引っ越したいとは思います?

クラーク:まだ決めてないんだ。ベルリンに帰るのは好きなんだよね。でも同時に他の場所を回るのも好きだし……旅をすると、疲れるというよりも逆に元気になるんだ。ペットが飼えないのがデメリットだけど(笑)。おかしなライフスタイルなんだよ。タイムゾーンも違うし、みんなが俺を変人だと思ってる(笑)。俺はずっとそれをやってるからあまり変わってるとは思ってないけどね。

資料にはフィールド・レコーディングで環境音を取り込んだと説明されています。そうした手法を取ろうと思った理由は何でしょうか?

クラーク:自然の音がたくさん入ってる。機械的なエレクトロニック・サウンドにこういった音が入ることによって出来るコントラストが良いと思ってね。風、雪、雨なんかのサウンドが、レコード全体に重なって入ってるんだ。

■(通訳)いつ思いついたんですか?

クラーク:このアルバムは、春にイギリスで作ってたんだけど、冬にリリースされることがわかってたから、冬っぽいレコードにしたいと思ったんだ。冷たいというか……冷たいとはいっても、感情がないってわけじゃないよ。天候や自然のサウンドを入れて、惹きつけられるような、何か雪っぽく、肌寒い、ロマンティックな冬の雰囲気を作りたかった。確実にサマー・レコードではないよね(笑)。

■(通訳)そういったサウンドはベルリンで録ったんですか?

クラーク:ベルリンってめちゃくちゃ寒いんだ。氷が溶けないくらい寒いんだよ。だから、ブーツが氷を踏む音とか、そういう音をレコーディングした。ドラムの下に隠れてるからあまり明確じゃないけどね。あまりにわかりやすいとちょっとつまらないと思ったから、あくまでも背景にあるサウンドとして使いたかったんだ。

録るのにもっとも苦労したのはどんな音ですか?

クラーク:フィールド・レコーディング自体はそんなに難しくないけど、そこから何を実際に使うかを決めるのが苦労だと思う。何時間もかかるんだ。雪の音を2時間聴いて、どの部分が好きかを決める。そこにエフェクトを加えると4時間かかったりもするし。どの音を使うかを決めるプロセスが大変なんだ。レコーディング自体はそんなに大変じゃないけどね。

アルバムは“シップ・イズ・フラッディング(船が浸水する)”の不穏なノイズとオーケストラで幕を開けますが、この不安を呼ぶタイトルは何を示唆しているのでしょうか?

クラーク:この曲を聴いていると、すごくパワフルなイメージが思い浮かぶと思う。それを表しているのがこのタイトルなんだ。遭難した船や、その船に打ち付けられる水。そして船が浮いたり沈んだり。この曲のサウンドにはこのタイトルがピッタリだと思った。サウンドもダークだし、このシンプルなタイトルがそれをよく表してると思ったんだよ。

その曲と、“ゼアズ・ア・ディスタンス・イン・ユー”の後半ではとくにオーケストラの要素が大きく入っていて少し意外に思いました。実際、クラークの音楽にはクラシックや現代音楽からの影響は強くあるのでしょうか?

クラーク:もちろん。いろんな意味でね。伝統的な音楽や楽譜に、自由なことをやるスペースがないのは好きじゃないけど。あれには満足できない。ああいう音楽だと、本来はフィールド・レコーディングのサウンドなんて入れることはできないし許されない。でも同時に、曲作りに関して制約があるのも好きなんだ。バイオリンだけで曲をたくさん書くのは無理だから、どうにかするために知恵をしぼって、いろいろなやり方を試して曲を作らなければいけない。そのチャレンジが好きなんだよね。

“ストレンス・スルー・フラジリティ”は3分に満たない曲ですが、そのなかで美しいピアノ・ハウスが表現されていて引き込まれました。ここで連想されるような、80年代後半から90年代頭にかけての古いハウス・ミュージックはもともとお好きなんですか?

クラーク:俺はもともと強いメロディが好きなんだ。このトラックは、じつはもっとハウスっぽくなるかもしれなかったけど、途中でプロダクションを変えた。曲の半分では激しい雷雨のフィールド・レコーディングが鳴っていて、それがトラックのベースになってる。最初は細くて繊細なサウンドからはじまって、段々と重みのある深いサウンドになっていく。

ラストのビートレスのトラック“エヴァーレイン”はあなたのこれまでのトラックのなかでも、最高に陶酔的なアンビエントになっています。この曲でアルバムを終えようと思ったのはどうしてですか?

クラーク:この曲は20分でレコーディングした曲だ。ワンテイクだった。音楽はたまにそうやって生まれる。変な感じはするけど、どこかで満足ができてるんだ。変えようとも思ったけど、やっぱり何かがしっくり来ていたから変えずにそのまま使うことにした。そんな風にできる作品もあれば、完成までに4ヶ月かかるものもある(笑)。俺にとっては、できあがった時点ですごく結論的な音楽に感じたから最後のトラックにした。うまく説明はできないけど、たくさんのフィーリングが詰まってる作品で、ほかのトラックをあとにもってくるのが非常に難しいトラックだった。だから最後にこのトラックを持ってきた。

一方で、“ソディウム・トリマーズ”にはインダストリアル・テクノめいた圧迫感のあるサウンドが展開されています。最近はレーベル〈モダン・ラヴ〉をはじめとして、インダストリアル・サウンドが目立っていますが、そうしたものに共感はあったのでしょうか。

クラーク:俺はアンディ・ストットが大好きなんだ。彼のニュー・アルバムも良かった。『クラーク』を書いているときに聴いていたとか、それを意識していたわけではないけど、言われてみるとたしかに通じるものはあるかもね。彼のサウンドは、イギリスの北部を思い起こさせる。あのサウンドは好きだね。アンディは好きだけど、〈モダン・ラヴ〉のほかの作品に関してはあまりよく知らないんだ。彼の音楽はほかと違っていて、スローで、ダウンビートで、すごくヘビーだ。俺みたいにメロディックじゃない。そこは違いだと思う。俺はいろいろなタイプの音楽に影響されてるんだけど、もちろん彼の音楽もそのひとつだと思う。

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グリーンランドみたいな寒い気候の場所にも行きたいね。冗談じゃなくて本気だよ。すごく美しいはずだよ。イヌイットとかと生活するような場所に行きたいね。3ヶ月くらいいられたらベストかもね。俺は太陽が嫌いなんだ。脳が溶かされて、決断力が鈍ってしまうからね。だから北極に行きたい。外は寒くて、家のなかで何枚かブランケットを着て……っていうのがいい(笑)。


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Warp/ビート

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本作『クラーク』は、1曲のなかに入っている要素も多く、かなり多様なサウンドや音楽性が聴くことのできるアルバムとなっています。これは意図的なものだったのでしょうか。それとも、結果的にこうなったのでしょうか。

クラーク:自分ではまったく考えてなかったね。多様なサウンドや音楽性を聴くことができるアルバムという認識もない。さっきも言ったように、俺にとってはすべてが一直線に繋がっていて、いろんなジャンルを詰め込んでいるという意識がないんだよ。このアルバムの多くの曲のテンポは同じだし、この箇所はちょっとハウスっぽくしようとか、ここにちょっとダブステップを入れて……とか、俺の頭はそういうふうには機能してないんだ。どんなジャンルが取り込まれているかは、俺じゃなくてジャーナリストが決める。俺は全然ジャンルを意識したり選んだりはしていないからね。ただ音楽を作っているだけなんだ(笑)。

アートワークはセルフ・ポートレイトですよね。しかし顔が真っ黒に塗られている、このアイディアはどこから出てきたものなんでしょうか?

クラーク:『フィースト/ビースト』のアートワークを担当してくれた女性がこのアイディアを思いついたんだ。そのナチュラルなイメージが、このテクノ・レコードに逆に合うと思った。最近のテクノ・レコードの、いかにもテクノっぽい、未来的で人工的なお決まりのアートワークに飽きていたしね。でもこのアートワークはナチュラルでタイムレス。現代だけじゃなくて、どの時代も表現できるイメージだと思ったんだ。

■(通訳)なぜ真っ黒に塗ったんですか?

クラーク:顔を変えたかったら変えられるから(笑)。みんな、自分の好きなものをそこに持ってこれるだろ? 電話番号を乗せたっていいんだよ(笑)。

エイフェックス・ツインが13年ぶりに新作を出したことが大きな話題になっています。あなたは何度も彼と比較されてきたと思うんですが、結果的に〈ワープ〉における彼の不在を埋めてきました。しかしながら実際のところ、エイフェックス・ツインと比較されることはフェアではないと思いますか?

クラーク:俺だけじゃなくて、エイフェックス・ツインと比べられてるアーティストはたくさんいるし、フェアじゃないとまでは思わない。彼は影響力のあるアーティストだしね。俺だけが特別彼と比べられているわけじゃなく、音楽を作らないひとたちだって彼と比べられるんだと思うよ。俺の母親だって(笑)。でも俺はあまり気にしない。みんなが俺と彼を比べても、へえーって思うだけなんだ。

■(通訳)うんざりしたこともないですか?

クラーク:そんなに。本当に、ただ気にしないだけ。俺にとっては意味のない比較だからね。雑音みたいなもので、そういう比較は俺の耳には残らないんだ。

ひとつあなたと彼との違いでわたしが思うのは、あなたはワーカホリックと言えるほど、作曲だけでなくライヴも数多くこなしてますよね。あなたにとってその多忙さ、勤勉さは自然なことなのでしょうか?

クラーク:さっきも少し話したけど、ライヴでいろいろな場所を回ったりっていうのは、俺にとっては普通のこと。たくさんライヴをやることを楽しんでる。アルバムをリリースしてツアーをやらなかったら、作品が完成したと思えないんだよね。ツアーをやることで、みんなのフィードバックや評価を得ることが出来る。ジャーナリストだけじゃなく、全員の反応を知ることができるんだ。泣くひともいれば俺を嫌ってるひともいるし、笑って楽しんでいるひともいる。みんなが前にいるから直接それを見ることができるわけで、インターネットやメディアからそれは得られない。そういった反応を見て、はじめて新しい曲を書きたくなるんだよ。

最近では映像を使ったライヴ・ショウ【phosphor】がありましたが、そこから何かフィードバックはありましたか?

クラーク:みんな気に入ってくれているみたいだし、俺もハマってるんだ。でも、今回のアルバムがどんなショウになるかはわからない。シンプルなライトからだんだん広げていこうとは思ってるんだけどね。

あなたの頭のなかは膨大なアイディアでつねに渦巻いていると思うのですが、その一部をこっそり教えていただけないでしょうか? 「クラーク」として、いま一番やりたいことは何ですか?

クラーク:そうだな……火星に行きたい。あとはグリーンランドみたいな寒い気候の場所にも行きたいね。冗談じゃなくて本気だよ。すごく美しいはずだよ。イヌイットとかと生活するような場所に行きたいね。3ヶ月くらいいられたらベストかもね。俺は太陽が嫌いなんだ。脳が溶かされて、決断力が鈍ってしまうからね。だから北極に行きたい。外は寒くて、家のなかで何枚かブランケットを着て……っていうのがいい(笑)。

■(通訳)何か音楽的なものだとどうですか?(笑)

クラーク:聞きたいのはそれだろうね(笑)。音楽的には、北極で爆発音をレコーディングしたい。最近の機械でもそういうのは作れるのかもしれないけど、本物のサウンドを録音したいんだ。ビルの崩壊とか。そういうデッカいサウンドを一回レコーディングしてみたいんだよね。

今日はありがとうございました!

クラーク:ありがとう! 日本にも行けるといいんだけど。またね。

Burial Hex - ele-king

 ウェブ・レヴュー3度めの登場、久方ぶりのフルレンス・アルバム。え? 何枚めかって? 今年でデビュー10周年、CDRやカセットを含むと過去音源は通算80以上にのぼるブリアル・ヘックスのどれがスタジオ・アルバム仕様なのか、と遡るのを想像するだけでしんどい……。
 これがラスト音源だぜ! といったアナウンスが流れているが、過去に何度か同じことを言われ、騙されているわけで、今回もにわかに信じがたい……が、たしかに内容は最後を締めくくるにふさわしいと、言わざるをえないだろう。

 以前のレヴューでの紹介と重複するのでハショりますが、ブリアル・ヘックス(埋葬された呪い)は地底深くに隠されたある種のエネルギー・サイクルであり、それはヒンドゥー教の宇宙論において循環するとされる4つの時期の最終段階、万物が破滅にいたる終末の状態を表すそうだ。カリ・ユガ(Kali Yuga)である。
 クレイ・ルビー(Cray Ruby)にとってこのプロジェクトが自身の内包するドゥーム・スケープ(終末のヴィジョンとでも形容しようか)の具現化であることは過去十年間揺らがないのだ。ドゥーム/ドローン・メタル、パワー・アンビエントが台頭していたゼロ年代半ばにそのキャリアをスタートさせたブリアル・ヘックスはその後のネオ・サイケ・フォーク・リヴァイヴァルへの流れへと先陣を切りながら、自身が形容するところのホラー・エレクトロニクスという形で、近年〈デスワルツ・レコーディング(Death Waltz Recordings)〉がヴァイナルでの再発をおこなうようなカルト・ホラー・ムーヴィーのサントラから触発されたようなファンタジー性の高いソング・ライティングをおこなってきた。

 本作、ザ・ハイエロファント(The Hierophant)のタイトルは花京院のスタンドでお馴染み? の教皇のタロット・カードである。ステーク・ヘクセン(Sutekh Hexen)のケヴィンによる強烈な牛ジャケ・デザイン。そもそも教皇のカードを星座の牡牛に対応させるのは黄金の夜明け団による解釈であり、さまざまなオカルティズムにディープに精通するクレイによる暗喩がいつもより多めにこのアルバムに収められていることを象徴しているようだ。
 収録される楽曲も過去音源と比較してもダントツでキャッチーである。パワー・エレクトロニクス感は一切鳴りを潜め、同郷のゾラ・ジーザスばりにポップなアプローチを試みたと言っていいだろう。

 ちなみに過去の地元繋がりの両者による以下のコラボレーションは秀逸。)

 ハイエロファントの楽曲は上記のようなブリアル・ヘックスのポップ・センスが全面的にフィーチャーされたアルバムだ。ニューロマな方向にエモ過ぎる展開、じつはけっこう凝っているキャッチーな打ち込みビート、ファンキーな手弾きベース、やり過ぎなほどゴシックなオーケストレーション、そしてわりと全面通してウィスパーしたり唱いあげるクレイ。大聖堂のステンドグラスに降り注ぐ神々しい光と冬山に隠された洞穴でおこなわれる血塗られた儀式が交互にフラッシュバックする初冬に相応しいゴスな一枚。

第24回:異邦の人 - ele-king

 先月、8歳の息子がローマ国際映画祭に出席した。が、そんなもの親にとってはグラマラスもへったくれもない。
 「あんたシャツがズボンから出とろうが。しっかり入れんね、だらしなか」と外野から博多弁で叫ぶばばあはになっていたのはわたしだが、菊地凛子主演のイタリア映画『Last Summer』のレッドカーペットは思いのほか静かだった。というか、日本の映画人が映画祭に出席するとき特有の大名行列が存在しなかった。はっきり言って、出演者以外に日本人は一人もいなかったと思う。
 わたしが菊地凛子という女優を知るにあたり、まず驚いたのは、この人は一人でふらふらどこでも行くんだなあ。ということだった。日本の俳優にはマネージャーとかいろいろついて来るのがノームなんだろうが、彼女は本当に一人でやって来る。
 そのせいだろうか。主演女優として艶やかに君臨し、いつも人々の輪の中心にいるわりには、彼女にはどこか、いつもぽつねんと一人でいる印象があった。

                *****

 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)。と邦訳されている条約実施法は、英語ではHague Convention on the Civil Aspects of International Child Abductionだ。
 International Child Abduction=国際的な子の誘拐。とはいかめしい言葉だが、これは文字通り、親が子を誘拐して海外に逃げないようにするための国際法だ。例えば、離婚係争中に片親が子を連れて海外逃亡するとか、親権を奪われた親が国外に子を連れ出した場合などに適用され、当該親が逃げて来た国の政府は、子供をもとの居住国に送還する義務がある。
 昔からわたしのブログを読んでくださっている方はご存知だろうが、わたしは『愛着理論』という話を書いたことがある。それはUK福祉当局に子供を取り上げられた日本人女性の話で、その中で主人公が弁護士から「子供を連れて日本に帰国すればよかったんですよ。そうすれば英国政府は手が出せないから」と言われるエピソードを書いたことがある。が、今年4月に日本もハーグ条約に加盟したため、それももう過去の話になった。
 『Last Summer』で菊地凛子が演じたのは、英国の富豪家庭に嫁ぎ、離婚して子供の親権を失った日本人女性の役だ。基本的に母親が有利と言われる親権争いで敗けたのだから、それなりの理由があったのだろう。映画ではその部分は全く語られていない。で、この日本人女性は、子供と会うことが法的に許された最後の4日間を夫の一族が所有するヨットで過ごすことになる。
 全員が白人である乗務員たちは、夫の一族に雇われた人々なので、最初から彼女に敵対している。彼女が親権を失った理由を全員が知っているようなので(おそらく彼女は過去に子供を連れて日本に逃げようとしたことがあったのかもしれない。または、虐待と取られかねない行動があったのかもしれない)、完全な監視体制が敷かれていて、子供に近づくことさえままならない。久しぶりに会う子供も、夫の一族にあることないこと言われているらしく、母親を完全無視するようになっている。
 要するにこの日本人女性には味方がひとりもいない。
 映画の中の菊地凛子は、いよいよぽつねんとしていた。

                 *****

 40年ロンドンに住んでいるという高齢の日本人が、「昔から、UK在住の日本人はふたつに分けられる」と言っていたのを聞いたことがある。
 まずひとつ目は、日系企業に勤めたり、日本に関係のある仕事をしたりしてジャパニーズ・コミュニティに籍を置きながら生きているタイプ。そしてふたつ目は「一匹狼」だという。こちらは日本とは関係のないところで、UK社会における移民のひとりとして生きているタイプだ。
 『Last Summer』ほどハイソではないにしろ、あの映画のような話が現実に起きていることをわたしは知っている。が、こうした話は「一匹狼」に起こりがちなので、日本では報道されない。在英の日本メディア人というのも、所謂ジャパニーズ・コミュニティのサークルで生きている人々だからだ。
 報道だけではない。映画もそうだ。
 そもそも考えてみれば、海外在住日本人というものが、ちょっと変な人だったり、サムライだったりする洋画の「くすぐり」として、または日本から大名行列を連れて行って撮影している映画の全く海外に住んでいる必要のないキャラクターとして登場する以外に、少しでもまともな描かれ方をしたことがあっただろうか。
 いまどき、ネットで外国語を読むことさえ厭わなければ海外の情報はいくらでも知ることができる。が、日本の人びとが一番知らないのは海外で暮らす同国人の真の姿だろう。
 日本のメディアに登場する海外在住の日本人は、ぽつねんとはしていないからだ。
 見栄を張ってそんな姿は見せない人もいるし、そんなうすら寂しい姿を知られてしまったら商売にならないので「憧れの海外在住者」路線を貫く人もいる。
 が、ある国で移民として暮らしている人間が、どれほど長くその国で暮らそうとも決して消えることのない違和感や、ある種のかなしみのようなものと背中合わせに生きていないというのは、よっぽど鈍感でもない限り、嘘だと思う。
 『Last Summer』の主人公からはそのかなしみが透けて見えた。それは菊地凛子という国際女優の体験や、置かれていた立場から毀れてしまったものかもしれない。

                 *****

 勤務先に日本人と英国人の親を持つ男児が来ている。わたしにとって日本人の子供を相手に働くのは初めての経験だ。
 バイリンガルの子供はモノリンガルの子供よりも話しはじめる時期が遅いことで知られているが、もうすぐ4歳になるその子は一言もまともに喋れない。
 人形のように表情が乏しく、他人の呼びかけに対して反応もしない。いつもぽつねんとひとりで座っている。大人が顔を突き合わせて話しかけてもただニコニコしているだけなので、「自閉症なんじゃないか」「言語以前の問題がある」と同僚たちが騒ぎはじめ、そうした子供を専門に見ている&日本語が喋れるわたしが担当に回されたのだった。
 が、ある日のこと。
 わたしが「Hannah!」と同僚のひとりを呼ぶと、彼がいきなり庭に走り出て行ったのである。庭は無人だったので急いで彼の後を追うと、彼は花壇のポピーを指さして私に言った。
 「ハナ」
 ヘレン・ケラー・モーメント。というのはまさにこういう瞬間のことだろう。
 「そう、花。花だよね。それは花。Hannahの名前と同じ発音だねー」
と日本語で言うと、さらに彼は自分の顔の中心を指さして
 「ハナ」
と言った。
 「うん。それも鼻。Hannahの名前と同じだねー」
彼は大きな茶色い瞳でじっとわたしを見ながら言った。
 「同じだねー」

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 菊地凛子の子供を演じたうちの息子の映像を見ながら、その幼児の瞳を思い出していた。自分の子供の顔を見ながら人様の子供を思い出すというのもどうかと思うが、日本人と西洋人の血が混ざった子供には共通する表情の特徴がある。
 親である移民が移民として生きていくように、子供である混血児も混血として生きていくのだ。ハーフはかわいい。という上っ面だけの認識とは違うリアリティが、彼らにはある。

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 『Last Summer』は日本人のこころを探究した映画。
 とイタリアの新聞に書かれていた。「日本人のこころ」だの「日本らしさ」だのいうのは、昨今の祖国の状況を鑑みると相当にヤバい(もちろん悪い意味で)。
 が、日本人が必要以上に日本人らしさを放棄するのも変だろう。国内では個性豊かな祖国の人々も、海外に出るとどうしても滲んでしまう共通の佇まいというものがあり、それを「日本人らしさ」というのであれば、それはわたしにはよくわかる。
 「世界の中の日本」という使い古された言葉は、本当の意味ではまだ探究されていないのではないか。
 その命題を理解する鍵は、本国から大名行列を連れていく日本や、海外でもリトル・ジャパンを展開する日本ではなく、ぽつねんとした異邦人としての日本の姿にこそあるだろうからだ。

 三池崇史の出品作とは対照的に日本ではどこも報道しなかったが、『Last Summer』はローマ国際映画祭で3つの賞を受賞した。
 そして面白いことに、イタリア人たちを魅了した当該作の「日本のこころ」を象徴するアイテムは、すべて沖縄のものだった。という若干ポリティカルなひねりも含め、ちょっと珍しい日本関連映画だと思うが、日本配給は決まっていないそうで、こういう作品は日本でもまた異邦人の映画なのだろう。
 異邦の人とは、きっと同国人の中でもぽつねんとする宿命にあるのだ。

 約50枚に及ぶアルバムを論じた『ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』。著者である萩原健太、そして特別ゲストにピーター・バラカン(ともにDOMMUNE初出演!)を迎えての大・大・大注目のトーク!!
 司会は、編集を担当した三田格。
 つーか、そもそもナンでele-kingから萩原健太の『ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』が刊行されることになったのか、その秘密がついに明かされるときが来た……っす。おふたりの、宇川直宏との対面も楽しみ。絶対に見て&来てね!

 ご予約はこちらから。
https://www.dommune.com/reserve/2014/1106/

■ele-king Books Presents 実写版「ボブ・ディランは何を歌ってきたのか」

2014年11月6日(木)
19:00~21:00
刊行記念番組!
ele-king Books Presents 実写版「ボブ・ディランは何を歌ってきたのか」
出演:萩原健太、ピーター・バラカン
司会:三田格

ENTERANCE : ¥1,500
OPEN : 18:50頃 (第1部~第2部入れ替え無し! 番組途中入場OK! 再入場不可! BARあり!)
〒150-0011 東京都渋谷区東4-6-5 ヴァビルB1F
TEL : 03-6427-4533
地図 : https://goo.gl/hKHia


■ボブ・ディランは何を歌ってきたのか
好評発売中!
978-4-907276-18-8
四六判 384ページ
本体1,800円+税

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サタデー・ベース・ウェイト! - ele-king

 なんということだ。今週土曜、ジャー・シャカが〈ユニット〉を揺るがしに東京にやってくる。しかも、ファット・フレディーズ・ドロップも同じフロアに参加。さらに、〈サルーン〉ではなんとマムダンスやブランコまでもがプレイするときている。今日のサウンド・システム・カルチャーの土台を作り上げた始祖と、その意志を継ぎ前線で戦うプレイヤーの両方を同じ場所で目の当たりにできるというだけで、足がひとりでに代官山へ向かってしまうではないか……!!!

 だがここにひとつ、贅沢な問題がある。お隣は恵比寿〈リキッドルーム〉では、同じ日にUKベース・テクノの現在を語るうえで外せないペヴァラリスト、カウトン、アススの3人がついにリヴィティ・サウンドとしてのプレイを披露するのだ! 彼らに加え、早い段階から彼らの曲をプレイしてきたDJノブやムードマン、C.Eのトビー・フェルトウェルがパーティを加速させる。

 ベース・カルチャーをバックグラウンドに持つリヴィティの根源に何があるかを理解するためには、ジャー・シャカを体感することは必須条件。また、ジャー・シャカを聴いてしまったら、彼が伝えた「意志」が世代から世代へどう伝わっていったのかを目撃しないではいられません。人力でルーツを探求するファット・フレディーズ・ドロップから、マシーン・ミュージックで伝統に切り込むリヴィティ・サウンドやマムダンス。「ダブ」をキーワードにシーンには素晴らしい多様性が生まれているのですから。
 さぁ、あなたはどちらを選ぶ? いや、選ばなくたっていい。ハシゴするだけの価値がオオアリなサタデー・ベース・ウェイトだぜ!

■11月8日(土)
会場:代官山 UNIT
Red Bull Music Academy presents The Roots Commandment: Tokyo In Dub

UNIT :
Jah Shaka

Fat Freddy’s Drop
Cojie from Mighty Crown

SALOON :
Branko,Mumdance,Dengue Dengue Dengue!, Jah-Light 
UNICE :
Fred, Felix, JUNGLE ROCK, ZUKAROHI

Open/Start 23:30
adv.3,000yen / door 3,500yen
info. 03.5459.8630 UNIT

20歳未満入場不可、要ID

■11月8日(土)
会場:LIQUIDROOM
HOUSE OF LIQUID

LIVE:
LIVITY SOUND (Peverelist, Kowton, Asusu / Bristol, UK)

DJ:
MOODMAN (HOUSE OF LIQUID / GODFATHER / SLOWMOTION)
TOBY FELTWELL (C.E Director)
DJ NOBU (FUTURE TERROR / Bitta)

Open/Start 23:00
adv. 2,500yen[limited to 100] door 3,000yen(with flyer) 3,500yen

info LIQUIDROOM 03-5464-0800 https://www.liquidroom.net

20歳未満入場不可、要ID

■JAH SHAKA

ジャマイカに生まれ、8才で両親とUKに移住。60年代後半、ラスタファリのスピリチュアルとマーチン・ルーサー・キング、アンジェラ・ディヴィス等、米国の公民権運動のコンシャスに影響を受け、サウンド・システムを開始、各地を巡回する。ズールー王、シャカの名を冠し独自のサウンド・システムを創造、70年代後半にはCOXSON、FATMANと共にUKの3大サウンド・システムとなる。'80年に自己のジャー・シャカ・レーベルを設立以来『COMMANDMENTS OF DUB』シリーズをはじめ、数多くのダブ/ルーツ・レゲエ作品を発表、超越的なスタジオ・ワークを継続する。 30年以上の歴史に培われた独自のサウンドシステムは、大音響で胸を直撃する重低音と聴覚を刺激する高音、更にはサイレンやシンドラムを駆使した音の洪水!! スピリチュアルな儀式とでも呼ぶべきジャー・シャカ・サウンドシステムは生きる伝説となり、あらゆる音楽ファンからワールドワイドに、熱狂的支持を集めている。heavyweight、dubwise、steppersなシャカ・サウンドのソースはエクスクルーシヴなダブ・プレート。セレクター/DJ/MC等、サウンド・システムが分業化する中、シャカはオールマイティーに、ひたすら孤高を貫いている。まさに"A WAY OF LIFE "!

■LIVITY SOUND (Peverelist, Kowton, Asusu / Bristol, UK)
UKガラージからの影響を色濃く反映したブロークン・ビーツとヘビーな低音を組み合わせることによって今までにない独自のグルーヴを提唱し続けるペヴァラリスト。グライムのエッセンスをテクノ・ハウスに落とし込んだダーティーでざらついた音楽の在り方を新たに提唱し、1つのスタイルへと昇華させたカウトン。ダブワイズな音響処理と確かな技術に裏付けられたプロセッシングを硬質なビートに施した中毒性のある高純度のミニマル・ミュージックを展開するアスス。LIVITY SOUNDは、そうした3つの突出した個性による相乗効果によって、単なる足し算ではなく、三位一体となった1つの「個」を創出してきたライブ・プロジェクト兼レーベルだ。ダブステップの潮流が大型レイヴの方向へと進行し、サウンドシステムの起源から離れていく中、ダンス・ミュージックにおける既存の枠組を取り払い拡張する、という根幹となる視点を維持し続け、新たな領域を積極的に切り開こうとする三者の意思が結実したものだと言ってもいい。その意思はハードウェアを中心としたライヴセットの中でも有機的に絡み合い、ダブ・エフェクトと即興性を活かした、まさに"セッション"と呼ぶに相応しいパフォーマンスを繰り広げることにつながっている。3人がこれまでに受けてきた音楽的な影響を抽出したものから生まれたソロ作、および共作は、それゆえにUKガラージ、テクノ、ハウス、ジャングルなど多くの方向性へとリンクしていくことが可能な音楽性を孕んでいる。この点こそ、多くのリスナーを魅了している理由であり、Resident Adviserにおける2013年レーベル・オブ・ザ・イヤーにも選ばれた要因の1つだろう。今年に入り、彼らの音楽が持つ拡張性を示すかのように、Surgeon、Nick Hoppner、Kassem Mosse、A Made Up Sound、Ron Morelli、MMMの他、広範囲に渡るリミキサー陣が、LIVITY SOUNDの作品を手がけている。現在進行形のUKアンダーグラウンドを体現するLivity Soundのライヴセット、またとないこの機会をぜひとも逃さないでほしい。

■Fat Fredy’s Drop

ファット・フレディーズ・ドロップはニュージーランドの音楽史を塗り替え続けているバンドである。インディペンデント・アーティストとして過去最大の売上を記録するなど、音楽賞は総なめ、そして世界中の名立たるフェスティヴァルにも呼ばれ続けている(グラストンベリー、SONAR、ベスティヴァル、WOMAD、ローランズやロスキルドなど)。そして世界の由緒ある会場でも満員のライヴを開催し続けている(ブリクストン・アカデミー、オランダのパラディソ、ロスのヘンリー・フォンダ・シアターやパリのル・トゥリアノンなど)。レゲエ/ダブをベースに、ソウル/ファンク/ジャズ、そしてミニマルなダンスミュージックのグルーヴをクロスオーヴァーした絶妙な塩梅のバンド+打ち込み・サウンド、そして嫌いな人は絶対いないビター・スウィートな美声で万人を虜にするジョー・デューキーのボーカルなど、彼らの魅力はジャイルス・ピーターソンをはじめとする著名人を虜にしてきた。1999年にウェリングトンのアンダーグラウンド・クラブ・シーンに、ファンクやハウス、ヒップホップなどのレコードをスピンするDJ Mu(akaフィッチー)と共に演奏していたバンドが13年経った今も、同じ友情と気持ちで演奏を続けている。その進化は今日も止まる事が無い。
1st Album『Based on A True Story
2nd Album『Blackbird

Kero Kero Bonito - ele-king

 ここ数年、戸川純のライヴは皆勤に近いほど観に行っている。そのうち半分は対バン・シリーズで、大森靖子やマヒトゥ率いる下山など、なぜか彼女は若いバンドとしかカードを組まない。そして、そうした若手はしっかりとした美学を持っていることが多く、神聖かまってちゃんでもVampillia(ヴァンピリア)でもコンセプトが明快で、どこか80年代を思わせるムードに彩られている。先日もフロッピーというラップ・トップ使いが対バンで、氣志團がYMOに憑依したようなストリート風エレクトロニック・ポップを展開していた。つづいて登場した戸川純がMCで思わず「同期モノがやりたくなってしまった」というほど派手なステージだった。原宿〈クロコダイル〉で観たクリスタルバカンスがフラッシュバックするほど。

 可及的速やかに視野を狭めて80年代リヴァイヴァルがどうだとか言う気はない。プリンスがカムバックし、ブラッド・オレンジやカインドネスが呼び水になったとか、イギリスではABCが『レキシコン・オブ・ラヴ』(1982)全曲再現ライヴを何度もソールド・アウトし、ボーイ・ジョージやジョン・フォックスの復活も本格的だとか。そもそもヴェイパーウェイヴはどうして80年代のクズ拾いに躍起になっているのか。セイント・ヴィンセント、モリッシー、ディアフーフ……そういうことをいくつか並べ立てていれば、なんでも現象にしてしまえるのがメディアというものだし、もともとが見たいものしか見ないのが人間というものなので、インターネットは、その「見たいもの」を加速させる装置としては申し分ないこともわかっている。わかってはいるけれど……しかし、そう、サウス・ロンドンから現れた男女3人組はまったくもってフランク・チキンズではないか! 彼らの存在をほかに、どのような文脈に当てはめてケース・クローズドにすればいいのか(それは完全に職業病です)。関係ないけど、フランク・チキンズの歌を思い出そうとすると、山田邦子『邦子のかわい子ぶりっ子(バスガイド篇)』(1981)と歌詞が混ざってしまって、いつもヘンな歌になってしまいます……。

 ケロケロ・ボニトのデビュー・アルバムをまずは聴いてみるケロ。


 ラップ担当のサラはフランスと日本のハーフだそうで、歌詞も半分は日本語。微妙に感性を掴んでいるようなズレているような内容で、「発音のいい英語」に比べてどうも無表情に聴こえてしまう。音楽性でもいいし、バンドのコンセプトでもいいけれど、人工性を強調することは80年代におけるひとつの様式美だった。どこか覚めたところがあって、没入の否定=「呑み込まれていない」ということを示す必要があったケロだろう。それが、ここでは、そのような紆余曲折もなく、素直に人工的なセンスが実現されていて、なんとなく妙な気分ではある。それだけ日本のエイティーズが多様な屈折の上に咲いた花だったということかもしれないので、それがいつしか聴き応えというようなものにすり替わってしまい、僕の耳が素直なものにはそのまま向かい合えないということもあるのかもしれない。歌詞がストレートにティーンエイジのそれだということも手伝って、つまり、日本の音楽史のどこかに置こうとしても、どの時代にも属しようがないために、聴けば聴くほど、この妙な感じは増幅する。どう考えても歌詞が日本語でなければ、こんなことにはならなかったはずである。こんなことが続けば……そう、ヴェイパーウェイヴだって、いい加減、戸惑う時があるのに、この先、日本を意識したポップ・ミュージックが増えてきたりすれば、さらに混乱した気分になってしまいそう。

 ディプロがゴテゴテのマッチョにしか思えなくなってくるほどチープでシンプルなサウンドもその効果には一役買っている。イギリスから発信されている以上、90年代もゼロ年代もなかったかのようなエイティーズ・サウンドが繰り返されるわけもなく、ここにはUTFO・ミーツ・ジェントル・ピープルとでも言いたくなるような箱庭的世界観の敷衍からグライムの反対側にネクストを探ろうとする野心は見つけられる(身体性が希薄であることも80年代の様式美には組み込まれていた)。日本のラップがなんだかんだいって情緒過多だということもあって「乾いたサウンドに日本語」という組み合わせはそれだけで驚くほど新鮮で、さらにはオキナワン・エレクトロみたいな曲もドライさには拍車をかけている。

※日本先行CDにはスパッズキッドほかによる6曲のリミックスがプラスされている。

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