Shop Chart
1 |
2 |
||
---|---|---|---|
3 |
4 |
||
5 |
6 |
||
7 |
8 |
||
9 |
10 |
1 |
2 |
||
---|---|---|---|
3 |
4 |
||
5 |
6 |
||
7 |
8 |
||
9 |
10 |
ワルシャワが渋谷から下北沢に移転して、新譜をチェックする店がまたひとつ近場になくなってしまったので、ディスク・ユニオンの4階にいったら、ローリー・アンダーソンの12インチ・シングルがあった。
ローリー・アンダーソンは随分久しぶりに聞く名前である。しらべると、2001年の『ライフ・オン・ア・ストリング』以来の『ホームランド』なるアルバムが来月に出るらしく、このシングルはアルバムからの先行カットらしい。ビル・フリゼールやヴァン・ダイク・パークスやドクター・ジョンが参加しハル・ウィルナーがプロデュースした『ライフ・オン~』は、タイトルの通り、ヴァイオリンを弾くパフォーマンス・アーティストである彼女の個人史を、それと密接に関わるアメリカとの関係で読み解いた、静謐であると同時に重く、生や死や救済といったものを感じさせる、全体的には"O Superman"と似ていないクラシカルなアルバムだった。私は『ホームランド』は当然まだ聴いてないが、シングルの2曲、たとえばA面の"Only An Expert"はゼロ年代に流行ったパンキッシュなディスコを彷彿させる楽曲で、ピーター・シェラーやエイヴィン・カンといったロフト・ジャズ系の参加(シングルにははいってないがアルバムのクレジットにはジョン・ゾーンも名前もある)は想定内だが、急逝したスティーヴ・リードとの双頭作が印象的だったフォー・テットことキエラン・ヘブデンや、オマー・ハキムの存在がこの曲を〈DFA〉といかないまでも80Sマナーのダンス・トラックにするのに貢献しており、音の間から彼女の(内縁の?)夫であり、『ホームランド』を共同プロデュースしたというルー・リードのフリップ&イーノを思わせるギターが顔をのぞかせるのは、攻撃とはいわないまでも前作と好対照である。
夫唱婦随と書くと反感をかいそうだが、ルーとの関係がローリーに『ホームランド』を作らせたのではないと断言できない。もっとも私はローリーがルーに唯々諾々と従ったわけではなく、彼らの住居の居間での音楽やアートや政治についての対話が心にのこり、彼女に10年ぶりの新作を作らせた可能性は否定できないといいたいのであり、それをいえば、エドガー・アラン・ポーのきわめて象徴的な長編詩「The Raven(大鴉)」のタイトルを借りた、ルーの最新作にあたる03年の『ザ・レイヴン』も舞台劇として考案されており、パフォーマティヴな方法論ということでいえば、ローリーの影響が先であった。
別に私は「どっちがどっち色に染まった」というゴシップを話したいのではなく、男女がたがいに影響を交わし、作品が本人たちも気づきがたい符牒を投げかけることにおもしろさを感じるし、史実や確定した評言を精査しつつも固執せず、仮定の連鎖で思考を拡散させるのが批評でなくて、なにが批評なの?と思います。
話がそれてしまった。私はローリー・アンダーソンのシングルを聴いて、なにを思い出したかといえば、先月出たデイヴィッド・バーンとファット・ボーイ・スリムの『ヒア・ライズ・ラヴ』である。このアルバムはフェルディナンド・マルコス比国大統領の夫人であるイメルダを描いたもので、バーンのライナーノーツによれば彼のアイデアの元はリシャルト・カプシチンスキーがエチオピアの独裁者でありマーカス・ガーヴェイの汎アフリカ主義によりジャーと名指されたラス・タファリ・マッコウネンことハイレ・セラシエ一世を描いた『皇帝ハイレ・セラシエ――エチオピア帝国最後の日々』(筑摩書房、のちに筑摩文庫)にあり、彼は宮廷内のシュールでシアトリカルな世界を、3千足のクツを亡命後の宮廷にのこしたイメルダに重ね、彼女と彼女の乳母にあたるエストレーリャを並行して描くことで、甘さと切なさが同居するミュージカルに仕立てた。と書いて思ったのだが、「甘さ」と「切なさ」は古典的な物語では対立項ではない。というかそれがワンセットになったのが悲劇や喜劇や歌劇であり、演劇の革新運動はそれらに対するアンチテーゼであり、かつゼロ年代の演劇(のことはよく知らないが)をとりまく磁場であったのだったら、バーンがいかにライナーノーツで「私が興味を持っている物語は、影響力のある人物の原動力――何が彼等を動かすのか、どのようにして先へ先へと駆り立てるのか、そういった疑問に対する答えにあります」と誠実に狙いを説明しても、というか、誠実になればなるほど、パンクでもワールドミュージックでもオルタナティヴであったバーンによって、『ヒア・ライズ・ラヴ』は最後まで周到に甘いミュージカル仕立てなのにミュージカルから確実に踏み外しているのには驚くべきことだ。イーノとの『ブッシュ・オブ・ゴースツ』以来の共作である前作『エヴリシング・ザット・ハプンズ・ウィル・ハプン・トゥデイ』のポップさとこの甘さはまるでちがう。イーノとの作品はあえてポップなのにノーマン・クックとの1枚はなぜかミュージカルにならない。
[[SplitPage]] 私はこの2枚組を通して聴いて、実験的な曲があったほうがよかったのではないかと最初思ったのだけど、バーンはイメルダが70年後半から80年代前半、ディスコ(スタジオ54とかレジーンズとか)通いしたことに着想を得て、当時のディスコの再現をノーマン・クックに依頼しており、音楽性の振れ幅はかえって全体の調和を乱すと思った。で、音楽はといえば、あの時代のディスコ――EW&Fとかコモドアーズとか、ニューウェイヴ~ニューロマでもマイケル=クインシー――ではなく、それらを忖度したオリジナル・スコアで、つまり、まっとうなミュージカルの方法論で、私などマブタのウラにありし日の鈴木英人の表紙の『FMステーション』が浮かぶほどの清涼感あふれるポップスなのである。やや低音が強すぎる気がするが、ディスコとエキゾチシズムの匙加減は絶妙であり、"Every Drop Of Rain"の打ち込みベースの下世話なグリッサンドなど笑えるポイントもある。バーンの相手が、たとえばアトム・ハートだともっと上手に当時のムードを再現しただろうけど、それだときっと芸が細かすぎる。ようは似すぎないのが肝要なのだろう。
数年前まで、映画ではドキュメンタリーが流行り、あまつさえ音楽映画にもそういうものが多かったが、本作は『キャデラック・レコード』よりも『ドリーム・ガールズ』で、モデルをひとつの似像ではなく多義的なイメージの集積ととらえている。ここでのイメルダは、フローレンス・ウェルチであり、ルーファス・ウェインライトの妹のマーサであり、シンディ・ローパーであり、カミーユであり、B-52'sのケイト・ピアソンであり、10,000マニアックスのナタリー・マーチャントであり、もちろんエストレーリャ役のトーリ・エイモス、マルコス元大統領役のスティーヴ・アールの独唱もある。イメルダのイメージは上記のようにまことに多彩だが、ダブル・キャストというのはあるにしても、主役が分裂するのがミュージカルかといえば否で、舞台に何人もアニーがいれば混乱の元だろう(ちかごろの学芸会では配役が自己申告制になっていて、同じ役の子が何人もいるがあれはかえってブキミだ)。本作はその意味で――ネコもシャクシも使うので使いたくないが――メタ・ミュージカルであり、それが実際わかるのは、終始登場人物の対話劇/モノローグで進んできたこのアルバムの終盤でバーン本人が歌う "アメリカン・トゥログロダイト"である。この曲だけは歌い手(配役)が「アンサンブル」となっていて、これが演奏者を指すなら、オペラでオーケストラ・ピットの楽団員が突然歌い出すようなものだ。ここでは以下のように歌っている。
アメリカ人は例のセクシーなジーンズを穿いている
アメリカ人はテクノロジーを駆使している
アメリカ人は例のインターネットをサーフィンしている
アメリカ人は例の50セントを聴いている
"American Troglodyte"(永田由美子訳)
この曲が転換点であり、このあと物語は佳境をむかえるのだが、バーンが仕組んだ虚構の裂け目は、(メロ)ドラマをカタストロフに収斂させない後ろ髪を引くような感じをあたえる。それは本作をイメルダにまつわるミュージカルとして聴こうとする私たちの能動性を反転させ、その形式のシュミラークルを作るだけでなく、彼の地でいまだ血気さかんなイメルダのあり得たかもしれない似像を作りさえするという意味で、バーンの(内縁?)の妻であるシンディ・シャーマンがマリリン・モンローやソフィア・ローレンに扮装し架空の映画スチールを撮影したシリーズを思わせる。彼女はのちに対象を、女性の卑近な記号であるセレブリティや先人(リキテンシュタインとか)のパロディから人形や死体まで拡張したが、あれはエルロイの『ブラック・ダリア』のように即物的でグロテスクだった。『ヒア・ライズ・ラヴ』に描かれたイメルダはシンディ・シャーマンの写真のなかの女ようにグロテスクではなく、むしろ表面的には真逆だがしかし、バーンがイメルダに惹かれたのは権力者の内面のわからなさであり、彼がそれをグロテスクと感じなかったとは思えない。
婦唱夫随と書くとマッチョな方に怒られそうだが、バーンの女性観にはシンディの影がつきまとう。彼は多数のシンガーを証言者に見立て、イメルダのドキュメンタリーをエディットしたともいえなくはなく、私はもしこれをミュージカル映画にするならリンチかトリアーに撮ってもらいたい。バーンは『ヒア・ライズ・ラヴ』で政治にもっともちかい場所にいた人物をとりあげながら政治をひとつ道具立てとしか考えていないが、もし仮にこれが映画になるなら〈帝国〉の独裁が横行したゼロ年代のパロディにはなるかもしれない。
私は書き忘れたが、政治に言及するのはローリーのほうである。〈NONESUCH〉ホームページによれば、ローリー・アンダーソンは『ホームランド』で「アメリカの外交政策、拷問、経済の崩壊、個人的自由、医療過誤、宗教~」が作品の主要なテーマになり、それをほのめかすように彼女のシングルのB面にはゲイであるアントニーをフィーチャーしたアルバム未収録曲"Pictures And Things"が入っている。男声でも女声でもないアントニーの「中声」は"Pictures And Things"のなかでローリーのヴォイス・エフェクトによりさらに変態(メタモルフォーゼ)したグロテスクな言葉の連なりとして夢のように現実に響くのだった。
私はそれにもうひとつ書き忘れたが、ふたりはレーベル・メイトだった。
"In a Strangeland"はカーボンコピーではない。アンドレア・エンブロのドラミングは、深く突進する足音とパキっとしたエナジーとの特徴的な組み合わせである。ヴォーカルは死にものぐるいの声とカレン・Oとキム・ゴードンの溝を手玉に取る。"In a Strangeland"はイミテーションではなく、インスピレーションの結実である。 『Pitchfork』
ノーウェイヴがもしいまも生きているのなら、ブルックリンのデュオ、トーク・ノーマルがその目安となる。ドラマー、アンドレア・エンブロの驚くべきほど正確なパーカッション。ギタリストのサラ・レジスターは彼女のオノから不協和音ノイズとおぞましさを引き出す。 『Lost At E Minor』
トーク・ノーマルはライト級ではない。ダークでムーディで、リズミカルだ。しかしそれは我々が好んで耳にするようなフレンドリーな音ではない。 『Time Out New York』
芸術気取りの音楽が野蛮さへと奇妙に変換される進化の歴史がある。ニューヨークのふたり組、トーク・ノーマルはこのヘドロ状の葬送歌というブランドの耳を維持し続けている。それはもっとも素朴なやり方で完璧に実現しているのだ。 『The Fader』
彼女たちの音楽の背後にはNYのノイズ・ロックの系譜が広がる。烈しいギターと声があり、他方ではまるでミュータント・ディスコを思わせるようなドライヴするビートもある。が、もっとも重要なことは、女性ふたりによるこのバンドの音楽が素晴らしくパワフルであるということだ。『ピッチ・フォーク』は彼女たちの音楽を「いまはヴェルヴェットの次元にまでは到達していないかもしれないが、将来そのぐらいの魔法を引き起こすことも可能であることを保証しよう」と評価する。
今回のジャパン・ツアーは彼女たちだけではない。各公演における共演者たち――待望のアルバムのリリースを控えている七尾旅人、コラボレーション・アルバムを完成したばかりのiLL、同じくアルバムを発表したばかりのあふりらんぽのPIKA、空間現代とオオルタイチ等々にも注目して欲しい。
6/9 | SHIBUYA O-NEST w/オオルタイチ、空間現代 他 open/18:30 start/19:00 ¥3500(tax in) ドリンク別 O-nest 03-3462-4420 |
6/13 | 京都METRO w/iLL、OUTATBERO 他 open/18:00 start/18:30 ¥3500(tax in) ドリンク別 METRO 075-752-2787 |
6/14 | 心斎橋FANDANGO w/iLL、太愛鼓(PIKA drum solo) open/18:30 start/19:00 ¥3500(tax in) ドリンク別 FANDANGO 06-6308-1621 |
6/15 | 新代田FEVER w/iLL, 七尾旅人 open/18:30 start/19:00 ¥3500(tax in) ドリンク別 FEVER 03-6304-7899 |
チケット | e+ / ローソンチケット / チケットぴあ |
ブルックリンのふたりの女は実験的なノイズ・ギターとドライヴするドラミングを容赦なくぶちまける。ブルースの偉人、サン・ハウスの曲を残忍な都会の地響きへと変換する。ローリー・アンダーソンの芸術を絶え間ないフィードバックのなかに爆発させる。圧倒的にパワフルな音をかき鳴らす噂のトーク・ノーマルが突然来日することになった!
Talk Normal / Sugarland Rare Book Room |
ティーンエイジ・ジーザス&ザ・ジャークスやソニック・ユース......とかくそれらの名前を引き合いに語られるトーク・ノーマルは、ドラマーのアンドレア・エンブロ(77ボア・ドラムに参加している)、そしてギターのサラ・レジスタ(マスタリング・エンジニアとしてのキャリアを持ち、ソニック・ユースの『ダーティ』をはじめ多くの作品に関わっている)のふたりからなる。昨年末にデビュー・アルバム『シュガーランド』を発表、これが都内の輸入盤店で評判となって、あっという間に売り切れている。今年に入ってからはCDRのみの発売だったシングル「シークレット・コグ」がヴァイナルとして発売され(1曲目がサン・ハウスのカヴァー)、これもまた話題となった。トーク・ノーマルはいま日本で流行の"ブルックリン系"と表象されるアーティでソフトなバンドと違って、鋭くやかましいバンドである。雑誌の表紙を飾るファッショナブルな男の子バンドの影に隠れながらも、しかしライヴハウスで力強い"音"を演奏しているふたりの女性によるバンドだ。その生の音をどうかこの機会に聴いて欲しいと思います。
トーク・ノーマルは、ローリー・アンダーソンが本で着ていたTシャツにインスパイアされたの。"Talk Normal"って書いてあったんだけど、サラがそれを組み立て直して、その単語をテープで冷蔵庫に貼ってあったの。
トーク・ノーマルのアルバム『シュガーランド』が出たとき、東京の輸入盤店で話題になって、わりと早く売り切れてしまったんですよ。知ってましたか?
アンドレア:とてもスィートね。
まずは、トーク・ノーマルの結成までの経緯を知りたいのですが、サラさんはすでにマスタリング・エンジニアとしてのキャリアがありますよね。
サラ:私はミュージシャンとしては、まだ4年ぐらいだけど、エンジニアは18歳のときからはじめたの。そう考えるとかなり長いわね。基本的にフリーランスだけど、いまでもスタジオでマスタリングをすることもあるわ。アンドレアもプロフェッショナル・エンジニアよ。
ふたりは、同じことをしているのですか。
サラ:いいえ、アンドレアは基本的にライヴ・サウンドやパフォーマンスに関連したことが中心。他にラジオなど、いろんなヴァラエティがあるわ。
例えばどんなところでやっているのですか?
アンドレア:私は長いあいだトニック(エレクトロ、アンビエント、ノイズなどNYの老舗ライヴハウス)でライヴ・サウンドを担当していたの。あと、バワリーボール・ルームとか。大きなビッグ・バンド、例えば、ミシェル・ンデゲオチェロ(R&B)、ダイアマンダ・ギャラス(アヴァンド・オペラ)や 最近はオ・ルヴォアール・シモーヌなど。ミシェル・ンデゲオチェロとは、2回日本にも行ったことがあるのよ。彼女は90年代の人でとてもナイスよ。
サラ:私は、ずっと音楽で何かやりたいと思って、エンジニアになってレコードを作りたいという、大きなアイディアがあったの。ミュージシャンかエンジニア、どちらもなりたかったんだけど、後になって、ミュージシャンになることにもなってよかったわ。
ふたりはどこであったのですか?
アンドレア:大学で、ふたりともNYU(ミュージック・テクノロジー科)に通っていたの。
同じクラスですか?
サラ:いいえ、私はエンジニア、彼女はパフォーマンスを勉強していたの。
トーク・ノーマルはどのようにスタートしたのですか。
サラ:アンドレアはAntonius Blockというバンドをやっていて、私はそのバンドが好きで、そこに加入することになったの。そのバンドが終わって、私たちは続けて練習をしたり、プレイしていたの。それがトーク・ノーマルになったの。
アメリカといえども、女性でエンジニアを目指すというのもまだまだ少数じゃないですか?
サラ:そうは思わない。たぶん、多くはなってきているのかな。この仕事をやっているからかもしれないけど、私はまわりでいつも見ていると思う。
バンド名の由来は?
アンドレア:トーク・ノーマルは、サラが、ローリー・アンダーソンが本で着ていたTシャツにインスパイアされたの。"Talk Normal"って書いてあったんだけど、サラがそれを組み立て直して、その単語をテープで冷蔵庫に貼ってあったの。その単語は私のなかでも成長していって。バンドに名前が必要になったとき、これを使うのは自然なことだったの。
[[SplitPage]]
私はこの"トライバル"という言葉に対して、何か平和なものを見つけたいけど、その用語に対しては憤慨している。なぜなら、私はロック・シンコペーションがプレイできるけど、あえて選んでいない。
最初からふたりでやろうと思ったんですか?
アンドレア:私たちは、よく誰かとプレイしているわ。この前のアルバムは3人だった......? いいえ、ふたりね。レコーディングでは、友だちなどゲストミュージシャンを招いて、ベースやいろんなサウンドを加えていっているの。新しい曲はベースやサックスや他の音が入ったりしているわ。7月の末にソニック・ユースとプロスペクト・パークでショーをするんだけど、このときは何人かと一緒に音を組み立てていってプレイしたいと思っているの。
なぜデュオ・バンドが最近増えたと思いますか?
アンドレア::簡単にバンドが組めるからかな? じゃあ、一緒にプレイしようか、とか。でも、ふたりだけで音の隙間を埋めるのは簡単じゃないと思うけど。この形態は最近はじまったことじゃないし、日本のルインズといちど一緒にショーをしたことがあるんだけどすごいと思う。あと、ミック・バーとかね。
トーク・ノーマルの音楽を手短に言うならば、ノイズとトライバル・ビートだと思うんですけど、いかがでしょう?
アンドレア:OK、じゃあトライバルについて話そう。
サラ:たまに言われることがあるんだけど、トライバル・ビートという意味がいまいちわからない。私たちの典型的なドラムセットは、スネアドラム、そんなにシンバルを使わないけど、それがトライバルなビートかしら、それよりシンコペーションを使うと思うけど。
ちなみにックンロールの8ビートにある種の違和感のようなものがあるんでしょうか?
アンドレア:すでに自分は長いあいだやっているけど、とくにドラムプレイに関しては、伝統的でないアプローチにいく傾向があるの。はっきりしていないことをするのは、クリエイターとしての自分にとっていつでも重要なことよ。"トライバル"という言葉に関しては、ドラマーとしての女性に、より一般的に投げられる言葉で問題もあるわよね。彼女たちが、キック、スネア、ハイハット、シンコペーションを少なく、タムを中心としたビートを選ぶからかしら。私はこの"トライバル"という言葉に対して、何か平和なものを見つけたいけど、その用語に対しては憤慨している。なぜなら、私はロック・シンコペーションがプレイできるけど、あえて選んでいない。たんに女性のドラマーの、大きな分類にひとまとめにされている。これが"ダンサブル"や"地球の"という意味なら受け入れるけど......、でもこれが人びとをダンスさせるかしら。たぶん、これはダンスという意志ではなく文脈ね。少なくとも私たちトーク・ノーマルは、私たちのアイディアの文脈を与えようとしている。
それではトーク・ノーマルの音楽をふたつの単語で表して下さい。
サラ:ノイズ&ポップ
アンドレア:ノイズ&ドライヴィン・ビート
ホント、すごいパワフルなノイズですよね。『シュガーランド』もヒリヒリしたノイズからはじまる。トーク・ノーマルのノイズはどこから来るんでしょう? あなたがたの感情から?
アンドレア:みんなオリジナル・サウンドを作ろうとしているし、ノイズって言う音楽は人びとが毎日聴くような音楽じゃないわね。よりレアで、魅力的で、エッジなサウンドだと思う。
リディア・ランチなどノーウェイヴからの影響はどの程度あるんですか?
サラ:そんなにないわ。
アンドレア:私たちの音楽が、ニューウェイヴから影響を受けているとは思わないけど、彼女の作った音楽が、私たちが好きな音楽だというのはわかる気がする。
ビキニ・キルのようなライオット・ガールからの影響はありますか?
アンドレア:名前は知っているけど、ビキニ・キルはほとんど聴いたことがない。
サラ:私はまったく聴いたことがないの。でもいつかは聴いてみたいわ。
トークノーマルはどのような音楽に影響を受けているのですか?
サラ:自分の聴く音楽すべてに影響を受けていると思うのだけど、私の音楽の趣味の範囲はとても広いの。この仕事(エンジニア)をしているからもしれないし、すべてのことに興味があるからかもしれないけど、ほとんど何でも聴くわ。トップ40から、ビヨンセにもインスパイアされるし、スモール・バンドまで、点数を付けたりもしないし。私はたんに音楽が大好きなの。
では、最近好きなバンドはいますか?
サラ:この質問はアンドレアが担当ね。彼女はリストを持っているの。
アンドレア:Air Waves、PC Worship、Future Islands、US Girls、MNDR、 Zola Jesus、Rainbow Arabia、Antimagic、Jana Hunter、Coldcave、Real Estate、Xeno & Oaklander、Wet Dog、Explode Into Colors、3rd Law、 Golden Grrls、Peepholes、Trash Kit、tuneyards......。
サラ:このあいだ、アザー・ミュージックの横に出来た新しい会場(Annex)でマーサ・ウェインライトと共演したんだけど、普通にしていたら遭遇しなかったかもしれないけど、すべての瞬間がとても良かったわ。
トーク・ノーマルには政治的なところ、いわゆるフェミニズム的なところはありますか?
アンドレア:フェミニズムはないわね。
サラ:政治的に大きなメッセージがあるとしたら、たぶん来年ね(笑)。
[[SplitPage]]
女の子はいつも真剣に実験音楽を作っていたと思う。ただ、いままで露出がなかったから、気にもされなかったんだと思う。
なんか最近のブルックリンのバンドを聴いていると、アニマル・コレクティヴやMGMT、ヴァンパイア・ウィークエンドのような男の子のバンドがソフトになって、トーク・ノーマルのような女性のバンドがアグレッシヴになっているような......というのは早とちりですかね?
サラ:ハハハハ。
アンドレア:それは面白い意見ね。私は、これらのバンド(アニマル・コレクティヴやMGMT、ヴァンパイア・ウィークエンド)と同じレヴェルにいるとも思っていないんだけど。
これは日本から見た意見ですが......。
アンドレア:日本の人たちが、こういう風に思っているならとてもワイルドね(笑)。ただ、アグレッシヴな音楽をやっている男の子のバンドもたくさんいるし、ソフトな音楽をやっている女の子のバンドもたくさんいるわよ。
ちなみにアニマル・コレクティヴ、MGMT、ヴァンパイア・ウィークエンドの3つのなかで好きなバンドはいますか?
サラ:聴いたことがあるのは、MGMTかな。アニマル・コレクティヴは是非、聴いてみたいわね。
アンドレア:アニマル・コレクティヴは好きよ。
じゃあ、パティ・スミスとコートニー・ラヴとではどっちが好きですか?
サラ:どちらも平等に好きよ。違った角度で。
アンドレア:インスパイアという意味ではパティ・スミスだけどね。
昨年、〈Not Not Fun Records〉が女性バンドばかりを集めた『My Estrogeneration』というコンピレーションを出しましたよね。トーク・ノーマルも"Warrior"を提供してましたが、ああいうコンピを聴いていると、実験的な音楽をやる女性バンド(USガールズ、サン・アロウ、ポカハウティッドとか)がどんどん増えてきているんじゃないかと思うんですけど、どうです?
サラ:単純な話、たくさんの女の子バンドがノイジーな音楽を作っているわ。でもそれが男の子バンドよりも多いかどうかはわからない。
アンドレア:女の子はいつも真剣に実験音楽を作っていたと思う。ただいままで大量の露出がなかったから、気にもされなかったんだと思う。おかしいのは、人びとがすべての女の子をひとつのプールに放り込んで、彼女たちが勝手に自分の好きなように泳いでいるのが良いみたいに言うの。この分類や区別には気をつけたいと思う。新しいことを盛り上げようとするのはわかるけど、それが本当にあるのかないのか......。個人的に、レコードは、男性中心、男女混合のものを、女性中心のものと同じぐらい見るわ。
この10年でUSのインディ・ロックはどのように変化したと思いますか?
サラ:たぶん人びとはいろんな方向に向かっていると思う。よりたくさんのジャンルができたし、たくさんのレーベルがあるけど、オリジナルなレーベルはなくなったわね。何でもピック・アップするようになったし。本当の意味でメジャー・レーベルもなくなったし。バンドはあまりツアーをしなくなってきたわね。やっぱりインターネットの影響は大きいわね。
[[SplitPage]]
希望をなくした、特定の感情からインスパイアされている。私は"戦う曲"が書きたくて、怒りに乾杯し、モチベーションを動かすつもり。
トーク・ノーマルの言葉について話を訊きたいのですが、歌詞の面では誰の影響を受けたんですか?
サラ:違う方向からいろいろね。すべてが断片的で、私とアンドレア、両方が何かを持って来て、それを組み合わせていく。でき上がったものをまた、いろいろ変えてみたり......。
"Hot Song"や"In A Strangeland"のような曲、あるいは"Warrior"のような曲にもパンキッシュというか、ものすごい熱を感じるのですが、歌詞はどんなことをテーマにしているのですか?
サラ:"Hot Song"はね、私たちが練習をしている場所の近所に、たくさん子供がいるんだけど。この曲では、子供たちにスマイルを与えることはできなかったということがテーマ。子供は子供、違う文化だからね。
アンドレア:"In A Strangeland"は、20世紀の作家、ジェイムズ・ボールドウィンの小説『もう一つの国』からの影響よ、とてもエナジーを受けている。
サラ:"Warrior"は、何か具体的なことをしたいと思っていて、自分たちを強く、エキサイトさせようとしていたのね。
"Warrior"はまた狂った曲ですが、あの曲の狂おしさはどっか来ているのですか?
アンドレア:クレイジーさはすべて私たちのなかにあるの。PILのジョニー・ライドンは、自由なヴォーカル表現に特定の焦点があったわ。歌詞は、希望をなくした、特定の感情からインスパイアされている。私は"戦う曲"が書きたくて、怒りに乾杯し、モチベーションを動かすつもり。
"Uniforms"みたいな曲には社会風刺が込められているんじゃないですか?
アンドレア:いいえ、たぶんどこかのラインに"政治的な"ことが含まれているのかもしれないけど、全体的の曲の意志は、政治的でなく、むしろただたんに、社会的、政治的、個人的ないらだちなどの、心の底からの確信したリストなの。
"Transmission Lost"が大好きなんですが、あの曲の主題を教えてください。
アンドレア:さっきも言ったように、このテーマは、サラが見た霞んでいる夢から来ているの。彼女が選んだこの言葉は、夢をとても美しく描写し、曲のすべてだと思うし、その後、私たちでいくつかの言葉を当てはめていったの。最初にサラが、まどろみから覚め、夢を書き留められないぐらい、長く待ったように、ゆるいコンセプトが、そのメモリーをフェイドアウトさせるのでなく、より明確に待っていたことを発展させたの。
『シュガーランド』というアルバム・タイトルは何を意味していますか?
アンドレア:"シュガーランド"という言葉には、いろんな意味があって、元々は"Transmission Lost"の歌詞からとったの。歌詞がタイトルにあれば賢いし、ファンが自分の方法で見つけたら、より面白いと思ったの。この歌詞には、"ドリームランド"という詩的なテーマがあって、さっきも言ったようにサラが見た夢にインスパイアされているの。彼女のドリームランドだけは、本当にどこかにあって、"Transmission Lost"にあるドリームランドは、より曖昧な意味なの。そして"シュガーランド"という単語は、トニ・モリソンの本『ソロモンの歌』から引用したの。彼女は本の中で、詩的に"シュガーマン"という言葉をよく使っていて、私はいつも彼女の文章に、詩的なものを感じていたし、彼女の文章を口ずさむようになったの。あとはたんに"Sugarland"という言葉が好きだったの。シンプルで定番で、ちょっと遊び心もあって......。みんなはトーク・ノーマルを激しいサウンドと見ているだろうけど、これが私たち自身を表すと考えているの。
ゆらゆら帝国がお好きだそうですね。残念ながら彼らは解散してしまいましたが。
アンドレア:彼らがアメリカツアーをしたときにいちどサウンドを担当したことがあるの。サイケデリックでとても良いわよね。
1曲誰かのカヴァーをやるとしたら何をやりたいですか?
アンドレア:デペッシュ・モードなら何でも。あとは......The Ampsかな。
オールタイム・トップ・5のアルバムを挙げてください。
サラ&アンドレア:ロキシー・ミュージック『フォー・ユア・プレジャー』、ザ・クリーチャーズ『フィースト』、ローリー・アンダーソン『ビッグ・サイエンス』、デペッシュ・モード『ソングス・オブ・フェイス・アンド・デヴォーション』、カニエ・ウェスト『808's & ハートブレイク』、ロバート・フラック『ファースト・テイクス』、ブライアン・イーノ『テイキング・タイガー・マウンテン』......他にもたくさんあるけど。
それじゃ、日本で会えるのを楽しみにしています。最後にこれを読んでいるリスナーにメッセージをお願いします!
アンドレア:日本に行くのはとても楽しみ。この機会を頂けたのはとても光栄なことね。
サラ:とにかくエキサイト。待ちきれないわ。
長身のオリヴァーは紳士的に軽く会釈して、ロミーはまるで蝋人形のように無表情で、そしてジェイミーときたら......。無理もない。昨年、20歳そこそこの新人でありながら最高の賛辞を集めたUKのバンドの初来日だ。次から次へと取材をこなし、疲れているのだろう。正直、こっちも申し訳ない気持ちになってくる。
ニューヨークにくらべてロンドンが憂鬱な街だとは思わないけど、聴いてきた音楽の影響は間違いなくあるわね。私は憂鬱な人間じゃないけど、好きな音楽は悲しい音楽だったわ。
■お疲れのところ時間を作ってもらってありがとうございます。
一同:......。
■そういえば、「アイランズ」のリミックス・シングルが出てますよね。とても興味深いリミキサーを4人起用してますが、とくにロンドンのダブステッパー、アントールド、ロサンジェルスのトラックメイカー、ノサジ・シングのふたりの起用が良いですね。とくにアントールドは良かった。
オリヴァー:リミキサーって、いままでは旬のアーティストのなかからみんなで選んでいるんだけど、アントールドに関しては実はアントワープで彼のDJを聴いて、すごく面白いと思ったんだよね。
■バンドの好みで言うと、誰がいちばん良かったですか?
ロミー:ノサジ・シングよね。
オリヴァー:彼とはアメリカで1ヶ月ぐらい一緒にツアーをまわったんだよ。それですっかり仲良くなったんだ。それもあってお願いしたら、素晴らしいリミックスを上げてきてくれた。
■ジェイミーは?
ジェイミー:(小さな声で)僕はみんなと同じ意見。
The XX / The XX Young Turks /Hostess |
ザ・XXのデビュー・アルバム『XX』(これをチョメチョメって読んだ人はすごい)は、いま僕の言葉で簡潔に表すなら「ダブステップ以降のポップ・ミュージック」である。「ブリアル以降」、と言い換えても良い。セカンド・サマー・オブ・ラヴ以降の『スクリーマデリカ』のように......、が、しかし『XX』は『スクリーマデリカ』と違って、まばゆい陽光よりも真っ黒な闇の光沢を選んでいる。
■みんな黒が好きですね。今日のみなさんの服装も黒だし(ジェイミーのキャップも黒だった)、作品のアートワークも黒です。黒、夜......あなたがたのこういった感覚は3人に共通するものなんでしょうか?
オリヴァー:これだけ長く一緒にいると(彼らは幼なじみでもある)、着ている服も似てくるんだよ(笑)。意識していたわけじゃないけどね。アートワークの黒は、タイムレスな感覚、普遍性のようなものを表しているんだ。特定の何かを表現するものにしたくなかったし、黒はいつの時代でもクールでしょ。
■ザ・XXの音楽が夜の音楽だから黒ってわけじゃないんだ?
オリヴァー:アルバムのアートワークに入っている写真もぜんぶ自分たちの作品なんだけど、それら写真にしても黒いカヴァーにしても、すべては自分たちの音楽を聴いて出てきたものなんだよね。だから、すべては音楽に密接している。
ロミー:そう、写真は意外と明るい色も使っているわよね。だけど、夜の影響は間違いなくあるわ。実際に曲作りをしているのも夜だし、夜の要素は入ってきて、それが黒にも繋がっていると思うわ。
■みなさんがアルバムのなかで好きな曲は何ですか? 僕は"シェルター"がいちばん好きなんですが。
オリヴァー:聴いて好きなのは"スターズ"だね。これは16歳のときに書いた曲なんだけど、いまでも恥ずかしくない。いまでもこのときの気持ちがある。ライヴで演奏する曲で好きなのは、"シェルター"だね。
ロミー:私は"シェルター"が好きよ。もともと自分が作ったデモがあって、ずっと忘れられて、そのなかに埋もれていた曲なの。それを見つけてオリヴァーと何としようとカタチにした。個人的にも思い入れがある曲なの。ライヴでやるのが好きなのは、"ナイト・タイム"。あの動きがある感じがライヴでは良いのよ。
ジェイミー:曲の構成では"ナイト・タイム"かな。プロダクションという意味では、"ハート・スキップド・ア・ビート"だね。ライヴで好きなのは......、"シェルター"だね。
■ブリアル、マッシヴ・アタック、ポーティスヘッド......。
オリヴァー:いまキミは僕らが本当に好きなバンドを3つ挙げたよ(笑)。
■ハハハハ。こうしたメランコリアへの共感について話してもらえますか?
オリヴァー:ブリアルは素晴らしい。彼の音楽を聴き込んでいると、なんて美しい世界なんだろうと驚くんだ。さりげない美しさというかね。マッシヴ・アタックとポーティスヘッドに関しては、デビューしてから一貫して質の高い音楽を作っている。大好きだ。
■ちなみにマッシヴ・アタックではどのアルバムが好きですか?
オリヴァー:僕らはiTuen世代だから曲単位でしか聴いてないだけど......、曲で言えば"プロテクション"だね。
ロミー:"エンジェル"も最高だわ。
オリヴァー:"ガール・アイ・ラヴ・ユー"もね。あの歌を歌っている男性の歌手が、ホントにあり得ない美しというか......、女性的な声で......あれ誰が歌っていたんだっけ?
■ホレス・アンディですよ。素晴らしいですよね。で、ジェイミー?
ジェイミー:......んー......"プロテクション"かな。
■ああいうメランコリーはUK特有のものだと思うんですけど。
オリヴァー:気候のせいだよ(笑)。
■ハハハハ。
オリヴァー:そこしか知らないからね。他の国に住んだことないし。
ロミー:ニューヨークにくらべてロンドンが憂鬱な街だとは思わないけど、聴いてきた音楽の影響は間違いなくあるわね。私は憂鬱な人間じゃないけど、好きな音楽は悲しい音楽だったわ。
■悲しい音楽を楽しむというのは、どういうものなんでしょうね?
オリヴァー:強いエモーションを聴くということだと思う。悲しみというのは烈しく感情を揺さぶるでしょ。
ロミー:音楽的なところにもその悲しみがあるわけよね。たとえばダンス・ミュージックで、アップリフティングな曲調でも歌詞は悲しいうのが私たちは好きなんだと思う。その対極的なものがひとつの曲のなかにあるというか。
■ダブステップはよく聴く?
オリヴァー&ロミー:ジェイミー!
ジェイミー:最近はダブステップはもうあまり聴かないんだよね。ダブステップから発展した曲をよく聴くんだよ。UKファンキーや、あるいは僕らのリミックスをやってくれている人たちとか。
■みなさんクラブに遊びに行くような感じじゃないでしょ?
ロミー:彼(ジェイミー)がクラブ担当なので(笑)。
ジェイミー:イギリスに戻ったらなるべくクラブに行くんだ。そして、UKの最新の音楽を聴くことにしているよ。
■歌詞について聴きたいんですけど、言葉の面で影響受けた人はいますか?
ロミー:言葉は......多くの場合、他の音楽の歌詞からの影響が大きいわ。詩を読むのも本を読むのも好きだけど、文学からの影響と言うよりは歌詞からの影響ね。たとえばスティーヴィー・ニックスの作る歌詞であるとか、いろいろよね。
オリヴァー:僕は......ローリン・ヒルの"エックス・ファクター"の歌詞が大好きなんだ。
■音楽がなしうる最高のことって何だと思いますか?
オリヴァー:エスケーピズムはそのひとつだろうね。
ロミー:ムードを変えることだと思うわ。気持ちを変えるのよ。そして音楽を聴いていると現実を忘れることができるわ。しかも音楽を聴いていると、自分の人生を反芻するのよ。音楽のそんなところが好きだわ。
翌日、ジェイミーはDOMMUNEでDJをやった。これがホントに格好良い選曲で、ガラージやファンキーを交えながら、ピンチの"ゲット・アップ"やフォー・テットの"シング"など、たしかにダブステップから発展した音を彼はスピンした。彼のDJが終わったときに、ブースまで言って「ナイスDJ!」と握手を求めるとジェイミーは初めて笑顔を見せた......のである。
1 |
2 |
||||
---|---|---|---|---|---|
3 |
4 |
||||
5 |
6 |
||||
7 |
8 |
NICK CURLY & MARKUS FIX / 2 Years Cecille Records
2 Years Cecille Records
CECILLE / JPN
»COMMENT GET MUSIC
|
|||
9 |
10 |
1 |
2 |
||
---|---|---|---|
3 |
4 |
||
5 |
6 |
||
7 |
8 |
||
9 |
10 |
1990年代後半にムーディーマンやセオ・パリッシュらによって押し広げられたテンポ・ダウンされたハウス・ビート。そのキックとキックの「間」には漆黒のサイケデリックが埋め込まれているかのようで、我々を排水溝に吸い込まれていく水のようにゆっくりと別の場所へと連れて行く。ザラついたサンプル同士が交錯し、幻聴のような効果を生む彼らのトラックは実験的でもあるのだけど、それ以上に官能的で、セオの霞がかかったような半覚醒状態のトロけ具合は本当に素晴らしいと思うし、ムーディーマンに至ってはエロとサイケは同義語みたいなものだろう。
そういえば今年の3月にロンドンでおこなわれた〈Red Bull Music Academy〉のトークショーに登場したムーディーマンことケニー・ディクソン・ジュニアは、まわりにはべらせたセクシーな黒人女性たちにヘアー・セットをさせたり、酒を作らせつつ「マザ・ファッキン!」を連発しながら喋りまくり、勝新的俺流な時空のネジれを発生させていた。しかし、何だったのだろうアレは......。
そしてムーディーマン(Moody名義)の新作「Ol'dirty Vinyl」は、その濃度にむせるようなジャケット・ワークに包まれて届けられた。内容はいつも以上にヴァラエティに富んでいて、タイトル曲の"Ol'dirty Vinyl"などは珍しく爽やかな雰囲気もありつつ「気分がいいと思ったらいつの間にかあの世だった」というような感じだし、"We Don't Care"はKDJ自身のVoがのるジャズ・ナンバーで、"No Feed Back"は歪みまくったギターがのたうつKDJ流ブラック・ロック。そして、彼らしいセクシーなハウス"It's 2 Late 4 U And Me"の後には、混沌とした電子音楽" Hacker"が待っているという具合だ。
ある意味、寄せ集め的な作品集なのだけど、最近それなりに洗練されていく傾向をみせていたことに若干不満を感じていた僕のような人間からしたら、この自由度の高い錯綜ぶりは大歓迎だ。さぁ我々をエロとサイケの奈落の一番深いところまで連れて行ってくれよ、KDJ。
オールドスクールなシカゴのエッセンスやアレやらコレやらをデトロイトのフィルターを通して再定義した俗に言うビートダウンの種子は様々な場所へと伝搬し、そのBPMと同様にゆっくりと、しかし確実にそれぞれの場所で独自の発展を遂げている。ドイツのソウルフィクション(Soulphiction)、モーター・シティ・ドラム・アンサンブル(Motor City Drum Ensemble)、ニューワールドアクアリウム(newworldaquarium)、イギリスのトラスミー(Trus'me)やロシアのヴァクラ(Vakula)(UKの〈Firecracker〉からリリースされるシングルが素晴らしい)などなど、エトセトラエトセトラ。ようするに国境を越え、それぞれがあちらこちらの地下で重心低めのディープなリズムを響かせているというわけだ。
そしてその影響力は巡り巡って、昨年ひっそりとリリースされた日本のモンゴイカ a.k.a. T.Contsuの12インチにまで及んでいたりもする。モンゴイカ(戸田真樹)とは、ヒップホップ・ユニットの降神をはじめとした〈Temple ATS〉のアートワークを手掛ける画家でありトラックメーカー。その彼が、自身の〈Close Eye Recordings〉から出した「KIMI EP」のローファイでスモーキーな4つ打ちには、やはり何処か日本的な叙情と孤独が忍び込んでいて、その事実がとても面白く思う。
このようにデトロイト・ビートダウンが拡散し、かつ各エリアで様々なヴァリエーションを見せるなかで、ドイツのSoulphiction及び彼の主宰するレーベル〈フィルポット〉は、もはやフォロワーという域を越えた存在になりつつある。ソウルフィクション(Michel Baumann)のアナザー・プロジェクトであるというミッシング・リンクスの前作「Who to Call」に収録さていれた"a Short History of..."は、強烈なバネをもった美しい野獣のようなファンクだったし、この新作の「Got A Minute」も削ぎ落とされた筋肉のようなビートが脈打っている。
ドイツから放たれたこれらの音は、本家とはまた異なる種類の緊張感を漂わせ、非常にシンプルでタイトだ。黒人音楽をサンプリングしてそれっぽく仕上げただけのフォロワーも多いけれど、リスペクトとコピーは別ものだし、ときにはリスペクトなんて言葉は忘れるべき。
ちょっと手前味噌なのだけど、僕がリミキサーとして参加した作品を紹介させていただきたい。HUMAN RACE NATION(以下HRN)から出たG.I.O.N.の「Echoes of Our Minds Pt.1」がそれだ。言うまでもなく、デトロイトから影響を受けつつ、そこから受け取ったものを独自に展開し活動している者は日本にも存在する。音楽ユニットG.I.O.N.として硬派なミニマリズムを追求するフジサワ・アツシとコシ・シュウヘイによるHRNもそのひとつ。
HRNは長野で活動しながらもドイツ経由でワールドワイドにヴァイナルをリリースするという、ローカリズムとグローバリズムを兼ね備えた日本では非常に希有なレーベルである。 今まで彼らは地元長野でデトロイトやドイツを中心としたアーティストを迎えたパーティーを行い、地道にコネクションを築いてきた。それは2007年のシングルでのフランク・ムラー、本作における元UR、ロス・ヘルマノスのメンバーのDJ S2ことサンティアゴ・サラザール、そして次のリリースでのDJ3000とレニー・フォスターのリミキサー起用にも繋がっている。一方そこにトラックス・ボーイズや岩城健太郎、d.v.dとしても活動するJimanicaや僕などの国内リミキサーも混ぜることにより、既出の4枚のヴァイナルはちょっとした異文化交流の機能も果たしてもいる。
「Echoes of Our Minds Pt.1」は昨年末にヨーロッパでリリースされ、G.I.O.N.のオリジナル、DJ S2 REMIX、僕の手掛けたREMIXそれぞれが、ベルリンのBerghainのレジデントDJであるMarcel Dettmannや、フランスの Syncrophone(Theo ParrishとかAnthony Shakirのリミックス盤を出している)のオーナーDidier Allyneらのチャートに入るなど高い評価をもらった。しかし、ヨーロッパで品薄となり、日本には極少数しか入荷されない状態で残念だったのだが、近々ディストリビューターを変えて再リリースされるとのこと(そんな理由もあり、出てから少し時間が経っている本作を敢えて紹介させてもらった)。そして間もなく「Echoes of Our Minds Pt.2」の方も出るようだ。
彼らとは今後も諸々関わっていく予定で、実際に現在進行中のプロジェクトもある。そういえば僕と彼らの最初の接点はというと、確かmixiのデリック・メイのコミュに僕がパーティの告知を書き込んだのを、HRNのフジサワくんが見てコンタクトをとって来たのがそもそもの始まりであった。ここはmixiとデリックに感謝するべきなのだろう。
〈A.R.T.〉〈B12〉に〈ラッシュ・アワー〉、〈プラネットE〉と、このところAS ONEことカーク・ディジョージオがリリース・ラッシュである。同じく90年初頭のデトロイト・リヴァイバル~インテリジェント・テクノを代表するアーティスト、B12が同名のレーベルを一足先にリスタートさせたのに続き、カークもかつて自身が運営していたA.R.T.を復活させたりと、何だかこの辺り盛り上がっている模様。一時期〈モワックス〉などでリリースしていた生ドラム再構築モノは封印し、完全にテクノ/ハウスへ舵を切っているものの、音自体は〈A.R.T.〉の頃の音というよりも、疾走するリズム+エレガントな上モノのコンビネーションの、昨今割りとよくあるデトロイト・フレイヴァーのテック・ハウスという感じのものが主だったりする。
そんななか、ドイツの良質なディープ・ハウスレーベル〈Mojuba〉のサブ・レーベルである〈a.r.t.less〉は、その〈A.R.T.〉とカール・クレイグの名曲"At Les"を掛け合わせたような名前からもわるように、恥ずかしいほどの初期デトロイトへの愛が丸出し状態だ。更にオーナーであるドン・ウィリアムス自身の「Detroit Black EP」からはじまる黒、赤、青のデトロイト三部作は、モロに初期〈トランスマット〉。とくに青盤は初期のカール・クレイグ、ひいてはインテリジェント・テクノであり、もうところ構わず「好きだ~!」と叫んでいるような1枚。
思えば当時のデトロイト・リヴァイバル~インテリジェント・テクノというのは、結局のところ初期のカール・クレイグのサウンドのコピーだった。例えばデリック・メイのラテンにも通じるようなバウンドするリズム感ではなく、それは 69名義で豪快な実験を繰り広げる以前のカール・クレイグ、ようするにPsyche名義での"Elements"や""Neurotic Behavior"などの音を指す。孤独で繊細で壊れやすく、思わず「詩的」なんていう恥ずかしい言葉がまるで恥ずかしいと思わなくなる程に、それは魅惑的な青白い輝きを放っていた。そう、色で言うとデリック・メイは赤で、カール・クレイグは青だ。
それにしても、このドン・ウィリアムスの「Detroit Blue Ep」は、何だかこちらが赤面するくらいの青臭さに満ちていて、これをどう評価するべきなのか正直僕にはわらない。しかし、カール・クレイグがPsycheで描いた音世界は、当の本人でさえもう作れない類いのものだと思うし、結局その後放置されたままになっているのもたしか。その先の音が知りたい。
DJ ネイチャーことマイルス・ジョンソン。またの名をDJ MILO。ネリー・フーパー、ダディー・G、3D、マッシュルームが在籍していたブリストルのDJチーム、ワイルド・バンチの中心人物である。82年から86年まで活動したこの伝説的DJチームは、その後のUKサウンドの核、つまりパンク~ニューウェヴの残響とレゲエのサウンドシステムとヒップホップの接点を体現した存在であり、解散後、ネリー・フーパーはSOUL II SOULを、そしてダディー・G、3D、マッシュルームはマッシヴ・アタックとして活動することとなる。一方のMILOはUKの喧噪と離れ、ニューヨークのハーレムで黙々と音を紡ぐこととなるのだが、それはなかなか世に出ることはなかった。しかし、元ワイルド・バンチという伝説に彼を閉じ込めるべきではないし、実際に彼の音楽はブリストルで得たものを更なる深みに向けて解き放ったものである。
そして今年、彼の12インチが日本の〈ジャジースポート〉から届けられた。この「Necessary Ruffness」と題されたヴァイナルに収録されたトラックは、いずれもディープ・ハウスよりもさらにディープでロウなハウスであり、そのくぐもった音質が独特の空間を生み出していて、それは意識しているのか無意識なのか、デトロイトのビートダウンやベルリンのシーンなどとも共振する類いのものになっている。そして、その音楽性は日本の〈DIMID〉から2003年にリリースされたMILOの初のアルバム『Suntoucher』(表記はDJ MIL'O)ですでに示されていた。
ここで個人的な話しを少々。2004年に出た僕のS as in Soul.名義のアルバムは、元々は〈DIMID〉から2003年に出る予定だったのだが、途中でA&Rが独立することとなり、それに伴い1年後に〈Libyus Music〉の第一弾としてリリースされた。当時の〈DIMID〉~現〈Libyus Music〉の竹内君とS as in Soul.のリリースの打ち合わせしている時、このMILOのアルバムを出すべきかどうかを相談されて、僕は絶対出すべきだと答えたのを憶えている。そのことがどれだけの影響したのか知らないが、あのアルバムが世に出るキッカケを僅かでも与えることが出来たのならば、それは非常に光栄なことだ。
僕としては、現在のマッシヴ・アタックよりもMILOの音のほうが遥かに魅力を感じるのだけれど、そんな比較など本人からしたら迷惑な話しでしかないだろう。この12インチの後に控えているというニュー・アルバムを楽しみに待つのみだ。
1 |
MAYNARD FERGUSON
PAGULIACCI-JOE CLAUSSELL REMIX
COLUMBIA (US)
»COMMENT GET MUSIC
|
2 |
|||
---|---|---|---|---|---|
3 |
4 |
||||
5 |
6 |
||||
7 |
8 |
||||
9 |
10 |
1 |
2 |
||
---|---|---|---|
3 |
4 |
||
5 |
6 |
||
7 |
8 |
||
9 |
10 |