ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. ele-king vol.36 特集:日本のシンガーソングライター、その新しい気配
  2. BLACK SMOKER ——ブラック・スモーカーがドイツ実験映画に音を加える演奏/上映会
  3. Debit - Desaceleradas | デビット
  4. P-VINE ──設立50周年を迎えるPヴァインが特設サイトをオープン、記念キャンペーンも開始
  5. ポピュラー文化がラディカルな思想と出会うとき──マーク・フィッシャーとイギリス現代思想入門
  6. R.I.P. Jimmy Cliff 追悼:ジミー・クリフ
  7. interview with NIIA 今宵は、“ジャンル横断”ジャズ・シンガーをどうぞ | ナイア、インタヴュー
  8. MODE ——ミニマル・ミュージック界の異色の作家、アーノルド・ドレイブラットが来日
  9. sugar plant ──新作が待たれるシュガー・プラント、30周年記念ライヴが2月7日に開催
  10. Geese - Getting Killed | ギース
  11. VMO a.k.a Violent Magic Orchestra ──ブラック・メタル、ガバ、ノイズが融合する8年ぶりのアルバム、リリース・ライヴも決定
  12. Columns なぜレディオヘッドはこんなにも音楽偏執狂を惹きつけるのか Radiohead, Hail to the Thief Live Recordings 2003-2009
  13. Sorry - COSPLAY
  14. アンビエント/ジャズ マイルス・デイヴィスとブライアン・イーノから始まる音の系譜
  15. Quadeca - Vanisher, Horizon Scraper | クアデカ
  16. Oneohtrix Point Never - Tranquilizer | ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー
  17. Columns 2025年のFINALBY( )
  18. Masaaki Hara ──原雅明『アンビエント/ジャズ』刊行記念イベントが新たに決定、老舗ジャズ喫茶「いーぐる」で村井康司とトーク
  19. K-LONE - sorry i thought you were someone else | K-ローン
  20. interview with LIG (Osamu Sato + Tomohiko Gondo) 至福のトリップ体験 | 佐藤理+ゴンドウトモヒコ、インタヴュー

Home >  Reviews >  Album Reviews > Various Artists- Hyperdub:5 Years of Low End Cont…

Various Artists

Various Artists

Hyperdub:5 Years of Low End Contagion

Hyperdub/Ultra Vibe

Amazon iTunes

野田 努 Nov 10,2009 UP
E王

 2009年はダブステップの多様化をさらに強く印象づけられた年だった。2008年に発表したベンガの『Diary Of An Afro Warrior』(Tempa)にはジャジー・ヴァイブやハウスのビートが注がれ、2562の『Aerial』(Tectonic)にはミニマル・テクノのグルーヴが脈打っていた。2009年にはマーティン(Martyn)の『Great Lengths』(3024)やフェルティDLの『Love Is A Liability』(Planet Mu)といったデトロイト系ダブステップもあったし、ジョーカーやジェイミー、グイードといったブリストル新世代によるGファンクとの融合もあった。ハウスへの接近という意味で言うなら、何よりもブリアルの「Moth」(Text)があった。ブリアルの学校の先輩にあたるフォー・テットのレーベルから出されたその真っ黒なヴァイナルは、ガラージ/2ステップから派生したUKのアンダーグラウンド・ミュージックの、地下数100メートルからのダンス回帰のように感じられた(個人的には今年のベスト)。

 ダブステップはここ数年、ずっと好きで聴いているのだけれど、ハウスやテクノやジャングルなどと比較するまでもなく、それが踊りやすい音楽だとは思っていない(DJミックスを聴いていると決してそんなことはないんだけれど......)。レイヴ・カルチャーの発展型でありながら、むしろ孤独を好むようなところがこの音楽からは感じられ、その倒錯した感覚を僕は気に入っている。が、この2年における著しい多様化とハウスやテクノとの接合のなかで、ダブステップもその孤独に背を向けようとしているようにも思える。ハルモニアとイーノの曲のシャックルトン・ミックスの12インチ、やっぱ欲しいでしょう!

 〈ハイパーダブ〉レーベルにとって初めてとなるコンピレーションは、多様化するダブステップを見事に見せているが――いや、多様化というか、正確に言えば、この編集盤の音源はもはやダブステップとは言えないのだけれど、同時にその孤独さも際だたせている。その意味において、奇妙な輝きを放っていると言える。キング・ミダス・サウンド(ザ・バグによるダブ・プロジェクト)の濃い霧に包まれたスモーカーズ・サウンド"Meltdown"で幕を開けるこのCD2枚組、全32曲の地下旅行は、1枚がレーベルの新局面、もう1枚がレーベルのクラシック音源で構成されている。冒険的なのは、もちろん1枚目のほうだ。"Meltdown"が終わると、レーベル主宰者であるコード9のメランコリックなファンクへと続く。それから注目株のひとり、ダークスターによる美しいテクノ・サウンドが聴こえる。

 フライング・ロータスはこの素晴らしいディストピア・サウンドの編集盤に1曲提供している。彼の個性的なビートの余韻が残っているうちに、日本人アーティストによるダークR&B、ブラック・チャウの"Purple Smoke"がはじまる。そして多くのファンが聴きたいであろう、ブリアルのイクスクルーシヴ音源"Fostercare"がはじまる。1枚目のクライマックスだ。この曲を聴いていると、かつてマッシヴ・アタックに期待してきた音楽をいまはクロイドンのこの秘密主義者がやっていることがよくわかる。
 昨年、レーベルから12インチ2枚組を発表しているゾンビーは(今年は〈Ramp〉から奇妙なミニ・アルバムを出している)、出来損ないでがらくたのドラムンベースを披露する。『XLR8R』によれば「たくさんのジョイントとチキン」が彼の日課だそうで、彼のつかみ所のない作品にはその怠惰な感じがよく出ていて面白い。1枚目のCDの最後を飾るのはジョーカーで、パワフルなエレクトロ・ファンクを披露する。

 もう1枚のCDには、コード9の素晴らしい"9 Samurai"や"Ghost Town"、ブリアルの決定的な"South London Boroughs"や"Distant Lights"といったクラシックが収められている。そしてゾンビー、ザ・バグ、ジョーカーといったいま勢いのある連中の曲に混じって、コード9のダブ/レゲエ趣味がところどころで顔をのぞかせる。「1日1本のspliff(意味は調べよ)は魔除けとなる」、手の付けられないスモーカーであるゾンビーの"Spliff Dub"は、そう繰り返して主張する。コード9は大学で教鞭を執るほどのインテリだが、レーベルにはチンピラやオタクも一緒に混じって、この新時代のアンダーグラウンド・サウンドを楽しみ、変化を与えているようだ。

 『ピッチフォーク』はこのアルバムを1992年の〈ワープ〉による『アーティフィシャル・インテリジェンス』に比肩するものだと評しているが、僕も賛同する。思い出して欲しい、あの作品が出たときもみんなが言ったものだ。この音楽では踊れないと。だが、それは確実に時代を切り拓いたのである。

野田 努