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高橋勇人   Jul 29,2014 UP

 2004年にスタートした〈ハイパーダブ〉も今年で10周年。レーベル主宰者のスティーヴ・グッドマンは、かつてはオンライン・マガジンを運営していたダブステップの理論家である。ブリアルを見いだし、自らのプロジェクト、コード9名義の諸作によって、ダブステップにディストピック・ヴィジョンを持ち込んだことでも知られている。
 〈ハイパーダブ〉は、それから、ファンキー、フットワーク、ダブ、テクノ、グライム……と、アーティストで言えば、ゾンビー、ローレル・ヘイロー、キング・ミダス・サウンド、クーリー・G、テラー・デンジャー、そしてなんと言ってもカイル・ホールにDJラシャドと、ダブステップにこだわらずに多彩なリリースを続けている。
 ちなみに、2008年、スティーヴ・グッドマンはもうさほどダブステップへの興味は無いと語っているが、〈リヴィティー・サウンド〉や〈オシリス・ミュージックUK〉といった、ダブステップの現在進行形を体現するレーベルはほかに存在している。むしろスティーヴ・グッドマンは、積極的にダブステップ以降の音楽に焦点を当てていると言えるだろう。
 
 『ハイパーダブ10.1』には、シーンの最先端で動いている音楽が36曲収録されている。マーラの重低音(マーラの参加は意外だったが、ここにはコード9のダブステップへの愛が感じられる)、UKグライムのフロウダンの魔術的なラップ、DVAやクーリー・G、アイコニカらに混じって、『10.1』においてまず印象に残るのがフットワークのトラックだ。DJラシャドをはじめ、DJアール、テイソー、ヒーヴィー、スピナらの曲が、このコンピの色を特徴付けるかのように、ずらっと並んでいる。
 そして、彼らのトラックには、フットワークの多様な表情がある。これらは、たしかにダンスフロアでステップを踏む音楽だが、同時に、それだけの音楽ではない。とくにDJスピナの新曲“オール・マイ・テックライフ”は白眉で、パーカッションの連打と休止のあいだに広がる空間は、是非とも聴いていただきたい。
 スティーヴ・グッドマン自身も、コード9として、“シンフー・ルー”(実際に上海にある道、幸福路の意)という、ポリリズムを持った、瞑想的な曲を収録している。あたかも、シカゴのストリートとベッドルームを繋げる橋渡しをしているかのような曲だ。

 このような、フットワークにインスパイアされた音楽をさらに一歩押し進めているのが、カイル・ホールによる“ガール・ユー・ストロング”だ。繰返されるサンプリング音に周回遅れて追いつくキックとコズミックなメロディは、従来のフットワークよりも遅いスピードで再生される。そこには、ジャングルのブレイクビーツの感覚もある。もちろん、この曲に合わせて人がどう踊るのかまったく予測がつかない。ともかく、アメリカで生まれたフットワークがイギリスに渡って、そしてまたアメリカに戻ってさらに発展するという文化の渾融をカイル・ホールはやっている。彼の才能をあらためて思い知る曲である。
 
 2006年に発表されたブリアルのファースト・アルバムの収録曲“スペースエイプ”も収録されている。8年前に発表された、荒廃した未来都市で響いているかのような音楽は、今日聴いてもまったく古くなっていない。この退廃的なビートは、なおも未来から我々に語りかけているようなのだ。

高橋勇人