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interview with Baths

interview with Baths

LAの青い夢

――来日したバス、インタヴュー

橋元優歩    写真:小原泰広   Dec 07,2011 UP

"プリー"を書いたときには僕は少し落ちこんでいた。世界は真っ暗だってくらいのテンションだったかもしれない。それがすごく表現されているとは思うよ。いまは、まったく違うテンションで、そんなことは全然思ってないんだけど。

■白と青がコンセプトだというのは、タイトルの『セルリアン』にも表れていますが、『セルリアン』というイメージはどこからきたものなんですか? そしてそれは何を表現しているんでしょう?

バス:セルリアンという色自体、たくさんの段階を持った色なんだ。このジャケットでも薄いところや濃いところがあるけど、そのどれもがセルリアン。いろんな可能性を秘めているという比喩だね。それにセルリアンっていう言葉は、ラテン語では「ヘヴン」とか「スカイ」とかそういうポジティヴな意味を持ったものなんだ。そういうところにも惹かれたし、バラエティをもった概念だと思ってタイトルに選んだんだ。それにこのセルリアンという言葉はアルバムを作る前から頭の中にあった。曲を作っているときも、「これは"セルリアン1"。これは"セルリアン2"」って感じでイメージしてたから、バラバラでありながらどこか統一感のあるものになっていると思う。

■へえ! いいお話がきけました。実際にそういう天国、天上的な雰囲気がすごくありますね。アニマル・コレクティヴ以降のインディ・ロックには何らかの形でそういった肯定的なムードが示されているようにも感じるのですが、あなた自身のロック体験というものについてうかがいたいです。バスはビート・シーンの俊英という枠に収まらない、とてもロック的な存在だと思うんですが。

バス:ロックの影響はとてもあって、音楽をはじめたばかりの頃はクラシックだったんだけど、そのあとにエレクトリック・ベースとかギターとかそういうものをひと通りさわって、それからネフューズといういわゆるマスロック・バンドを組んだんだ。バンド体験は大きいよ。僕はベースだったんだけど、まずライヴというものをどうやってするかってことを学んだし、ひとりでやるのとはエネルギーが全然違う。観客からのフィードバックとか、メンバー同士での掛け合いなんかも一人でやるときには体験できないことだから、総合的にはとても得がたい経験だったよ。あと、バンドのほうがミステリアスなことができるしね。あの頃のことを思い出すと、うれしくてテンションあがっちゃうな。

■バンドの方がミステリアスだっていうのはおもしろいですね。ところでもうちょっと白い線の話でひっぱりたいんですが(笑)、あのようなヴィジュアル的な見せ方を含め、バスには実際にとてもアート的な雰囲気を感じます。お母様が画家だともうかがいましたが、そのような環境や美術の世界から影響を受けていると思いますか?

バス:たしかに、育った環境のなかにアートというものが大きく含まれていたので、そういう影響は知らないうちに受けていると思う。調べてくれたように、母親は画家で水彩画と油絵をやってる。とてもクラシカルなものを描いてるんだ。父はテレビの脚本家をやってて......だから、そういうクリエイティヴィティといったものはどこかで受け継いでいるのかなとは思うよ。僕自身は、音楽でもアートでも映画とかその他の表現ジャンルでも、いちばん大事なのはそこにきちんとエモーションやハートに訴えかけるものがあるかどうかだと思っている。それに、シンプルな表現が好きなんだ。シンプルでありながら多くのことを語っているものがね。マンガやアニメとかでも、白い紙にさらっと線だけが描かれた絵コンテみたいなもの......そこにストーリーがあって、自分の想像力を自由にふくらませることができるようなものに惹かれる。たとえば、E.E.カミングスっていう詩人が好きなんだけど、彼は詩の朗読をしながらスケッチをするんだ。ほんの3~40秒くらいでささっと描いちゃうんだけど、そのなかでとっても好きなのが、ふたりの人が手をとりあっていて月が出ている絵なんだ。ほんとにシンプルで、だけどそこにいろんなストーリーを想像して何時間でも眺めていられる。ていうか、ビョークもE.E.カミングスの詩を使ってるんだ。"サン・イン・マイ・マウス"って曲なんだけど。あとは、ファッションの世界ではアレキサンダー・マックイーンも大好き。ニュー・ヨークのエキシヴィジョンには行けなかったけど、オンラインで全部みて、すごくインスパイアされたよ。いま挙げたものの全部に共通するのが、シンプルであることと、シンプルでありながらそこにきちんとストーリーが存在すること。だから自分が表現をするうえでも、派手派手しい形をとるのではなくて、シンプルだけど......

■象徴性の高いもの?

バス:そう、潔くて、たくさんのものをインスパイアできるものにしたいと思ってる。それは僕が日本のカルチャーが好きということにもつながると思うんだけど、日本のカルチャーはシンプルなものが多いよね。トータルに、僕の表現はそういうものにしていきたい。

■うんうん、だから、ほら、つながったじゃないですか、白い線! フライング・ロータスの場合、それはお面になるんですよ。けど、バスは一本の線になるんです。シンプルの極致ですね。ビョークもそこまでシンプルではない。あの一本の線の喚起力っていうのはすごくて、バスというアーティストについてとても正確に表現し、伝えてくれるものだと思います。

バス:撮ってるときは無意識にやったことなんだけど、たしかにそうかもしれないね。いまこうやってアナライズしてもらって、やってよかったって思えるよ! すごくいい写真に思えてきた(笑)。

■ははは、そうですよ! しつこくてすみませんねー。では、アートつながりでもうひとつ。"ラヴリー・ブラッドフロウ"のミュージック・ヴィデオがありますね(※2)。あれにはまさに日本のファンタジー、ジブリ的な世界が......

バス:(独り言で)あ、ジブリって言った。

■あははっ、さすがにジブリは耳が拾っちゃうんですね! 三鷹にも行ったんですよね。......そう、で、そのジブリ的な世界が展開されていると思ってんですが、あんな舞台を設定したり、侍をモデルにしたのはなぜですか?

バス:ディレクターがふたりいて、アレックスとジョーっていうんだけど、メインのアレックスが僕と同じようなカルチャーやアーティストに影響を受けているんだ。影響を受けていたものをリスト・アップしたらほとんどカブっていたくらい。で、いちばんはじめにいろんなアイディアがあったんだけど、その中でざっくり決めていたことが日本を舞台にしようということと、アニメーションにしようということなんだ。ふたりとも石岡瑛子という日本のアーティストの衣装デザインが好きで、その雰囲気を取り入れたいと思ったのもある。それからあまりにベタにアニメっぽいものではなくて、また違ったレヴェルに引き込めるものにしたいとも思った。ほんとにいろんなことを考えていたんだけど、3分のヴィデオにするにはあまりに壮大なアイディアばっかり出てきちゃって......。僕はパッケージでもアートワークでも曲でもパフォーマンスにしても、すごくこだわりをもってやってるんだ。アレックスは僕のそういうこだわりを僕以上に理解してくれてて、歌詞の内容やメッセージについても彼の方が深くいろんなものを感じとってくれてた。だから、途中からクリエイティヴ・コントロールがすべてアレックスの手に移ってしまったんだ。現場での僕はADみたいなもので、「サンドイッチ買ってきて」とか言われてパシリになってたよ(笑)。

■ははは。

バス:(笑)そのくらい彼を信用して全面的に任せたんだ。あとは何度も出てきている「シンプル」ってキーワードなんだけど、ここでもそれは大事にした。けど、印象的にはしたいけど、ショッキングにしたくはなかったんだ。穏やかにこのイメージを伝えたかった。『もののけ姫』の雰囲気だね。とてもインスパイアされているよ。自然とか、生命の息吹とか、そんなものを大事に表現したかった。最後、お侍が死んで、土になって、葉っぱとかになって戻ってくるんだ。

■ああ!

バス:輪廻転生っていうかね。そんなふうに命を表現した作品なんだ。たださっきも言ったけど、そんなテーマだとふつうは3分のミュージック・ヴィデオじゃなくて映画の規模になっちゃうよね。アレックスとジョーはとても上手にまとめてくれたと思う。すごく満足してるんだ。

■うんうん。すごくよくわかります。じゃ"ブラッドフロウ"っていうのは人間の血流というより、宇宙の血流、宇宙のブラッドフロウってことなんですね。

バス:イエス。そうだね! 歌詞からはストレートな意味でとれるけど、自分の血の流れっていうことでは必ずしもないんだ。それはインスピレーションだったり、比喩的なものだったりもするし。

■はい。うんうん、今のですごくよくあの歌詞の意味がわかりました。なるほどなあ。あの曲ってどのパートからできたんですか?

バス:ええと、2年くらい前に作ったからいま一生懸命思い出しているんだけど......確実なのはベース・ラインからできたってことだね。

■ベース? へえ。

バス:なんとなくベースを弾いてたときに、日本ぽい感じのフレーズだなっていうのが出てきて、それを録音して重ねていったんだ。で、何度も聴いていろいろ録音しているうちに、すごくダークな雰囲気が生まれてきた。そのダークな雰囲気に自分自身がインスパイアされて詞が出てきたんだ。そんな順序だね。このアルバムは、基本的にはポジティヴなものとして作っていたんで、すごくダークなものっていうのは入れているつもりがないんだけど、結果的にはこの曲はダークなものになったかもしれない。

■ダークっていう言葉、じつは私もキーワードとして考えていたものなんです。いま聞いてとてもその言葉が響きました。『セルリアン』というタイトルについて話してくださったように、このアルバムには天上的な雰囲気がありますね。明るくて透明なものです。でもそのなかに攻撃性とか暗さというものが分かちがたく張りついていると思うんです。実際に"プリー"なんかには「ダーク・ワールド」ってモチーフが出てきますよね。「セルリアン」は同時にダーク・ワールドを表現してもいるんじゃないかって......あなたは、この世界がほんとに「ダーク・ワールド」だって思いますか?

バス:ええと......この、いま生きている世界がダークな場所だってふうには思っていないよ。他の曲でも、必ずしも書いたことが本心からそう思っていることだというわけではないんだ。と言いつつも、"プリー"を書いたときには僕は少し落ちこんでいた。世界は真っ暗だってくらいのテンションだったかもしれない。それがすごく表現されているとは思うよ。いまは、まったく違うテンションで、そんなことは全然思ってないんだけど、ライヴで演奏するとその時のエモーションがすごく戻ってくるんだ。だから聴いてくれるオーディエンスの人びとにもそれが伝わってしまうんじゃないかな。歌詞の内容は恋の話なんだけど、実際に自分はそのとき恋愛をしていなかったんだ。でも恋愛というものがどういうものか、どんな気持ちになるのかっていうのは、一般的な情報としては知っているから、曲を書くときにそのキャラクターにはなりきれる。そういう演じていた部分もあるかな。よくこういう取材とか友だちからの質問で、恋愛の相手は誰なんだ? ってきかれたりするんだよね。でも相手はべつにいないんだ。

■"プリー"の演奏はほんとに心に残りますよ。逆に冒頭の"アポロジェティック・ショルダー・ブレイド"は教会音楽的な響きを持っていて、ずばり天上のイメージなんですが、あの「ヒュー」っていうモチーフはなんですか?「ヒュー」がコンピューターから這い出したってことを祝福する音楽なんですか?

バス:あははは! あれ、くだらないんだけど、ヒュー・ジャックマンのことなんだ。

(一同笑)

■が、出てきたんですか(笑)? このインタヴュー、締まらないじゃないですか!

バス:いや、ヒュー・ジャックマンが好きで......あはは! 夢の話なんだ。夢ってすごくロマンチックなものなんだけど、実際の内容はすごくバカみたいでありえなかったりするよね!

■あれ、あのワン・センテンスしかなくて(※「ヒューがコンピュータから這い出していった」という一行のみの詞)、しかもむちゃくちゃハイ・トーンで感情こめて歌うじゃないですか(笑)。

(一同笑)

バス:一番はじめに指摘してくれたように、このアルバムはすごく若さにあふれたものなんだ。若いときの攻撃性とかパッションとかエモーションが詰まってるって言ってくれたけど、この曲なんかはまさにそうで、若気のいたりですらあるよ。このときは、こんなふうにやるのが超おもしろいって思ったんだ!歌詞はもっとあったんだけど、全部切ってこれだけにした(笑)。

■超、印象的ですね。全部切って正解ですよ。ええと、時間がないということで、私まだまだいろいろ聞くことあったんですけど......

バス:さっき、ダークネスって話も出たけど、次の作品は「ダーク」なものにしよう、そういうインテンスなものにしようと思ってるんだ。楽しみにしててください。アリガトウ!

※2

取材:橋元優歩(2011年12月07日)

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