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Columns

ポスト・ドリーム・ポップの時代

ポスト・ドリーム・ポップの時代

────「移行期」の抒情派ビートメイカー、Bathsの4作

木津毅、野田努、橋元優歩、竹内正太郎 Jul 09,2014 UP

「LAビート・シーンの鬼っ子」──フライング・ロータスに見初められ、年若くして〈ロウ・エンド・セオリー〉のレギュラー・パフォーマーとなり、間髪を入れず名門〈アンチコン〉からデビュー・アルバム『セルリアン』を発表したビート・メイカー、バス。アンファン・テリブルを地で行く彼はしかし、デビュー作から5年ほどの時間を経て、そのほとばしるエネルギーとエモーションのままに当初のアーティスト・モデルを大きく更新した。いまのバスは、ビートメイカーと呼ぶにはあまりに逸脱的な要素をあふれさせた存在だ。そしてセカンド・アルバム『オブシディアン』(2013年)制作期間中に重く患った経験は、バスの音をセルリアンから漆黒へと変え、わがままに愛くるしく錯綜しながら天を駆け回っていたビートメイキングを地の底へと叩き落とした。
しかしプロデューサーとしての充実はとどまることがない。落ち着くことなくより多くを求め、より切実に歌われる楽曲の数々に、バスのセカンド・ステージ──黒の時代のはじまりを垣間見たのが『オブシディアン』。そしてこのたびリリースされる『オーシャン・デス』は、その続編にして補遺、完結編ともなるであろうEPだ。本作発売に際して、ここまでのバスの歩みをディスク・レヴューで振り返ってみよう。

Cerulean
Anticon / Tugboat (2010)

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野田努

 バス、つまり「風呂」ことウィル・ウィーセンフェルドは、このアルバムのリリース当時、初来日を果たしてDOMMUNEにも出演した。ピザかなにかのコメディ映画の番組が終わったあとの30分のライヴで、かなりバタバタのセット転換のあとだったが、彼は動揺することなく、サンプラーの前に立つと自分の世界に入り込んだ。そして、音にあわせて、操作のひとつひとつに激しく身体を上下させた。それはじつにエモいライヴ・パフォーマンスで、この男は風呂場の鏡の前でライヴの練習をしていたに違いないと思うほど、動きがいちいち決まっていた。目も耳も惹きつけられ、わずか数分で、会場は彼のものとなった。
 当時、バスの音は、フライング・ロータスとトロ・イ・モワとの溝を埋めるものだと評されていたが、いまあらためて聴くとそのどちらにも近くないことがわかる。手法的には英国のゴールド・パンダに似ているが、バスの音楽はメロディアスで、キャッチーで、歌があり、つまりポップスとして成立しているのだ。

Pop Music / False B-Sides
Tugboat (2011)

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橋元優歩

 2010年のデビュー作『セルリアン』リリース後の音源を中心としたコンピレーション。2011年をツアーにあてて活動していたウィルが、ライヴへ足を運んでくれたファンのためのエクスクルーシヴな音源集として構想し、そもそもは配信でのみリリースされていた作品である。
 その名のとおりBサイドらしいラフな描線の上には、怜悧なセルリアンではなく、暖色系の何色かが柔らかく浮かび上がっている。思春期らしい攻撃性を持ったあの天衣無縫のビートメイクは、ここでは気まぐれに、愛らしく、遊びつかれて眠るように、カジュアルな隙を生み出している。かつてとは体制が異なっているものの、〈アンチコン〉が狭義のヒップホップではなく、エモやうたものとの縁を深く持った、じつにUSインディ的な良質レーベルだということを思い出させる。
 構築性における隙とともに、アコースティックな音づかいやラフなプロダクションもバスならではのビート・コンプレックスに空間的な広がりを与えていると言えるだろう。「フォールス」のニュアンスがしかとはつかめないが、それはBサイドの逆説として結像するものかもしれない。「B」という名の本物──ウィル自身も愛さずにはいられない、バスの偽りなきもう片面に光を当ててみせるコンピレーションである。

Obsidian
Anticon / Tugboat (2013)

Amazon Tower HMV iTunes

竹内正太郎

 暗い日曜日に、礼拝堂でウィッチハウスを聴きながらルイ=フェルディナン・セリーヌを読むようなもの、とでも言えばいいのだろうか。暗いといえば暗い。が、本人はそれを望んでさえいるのだろう。『夜の果てへの旅』よろしく、「生命の実感を味わうための身を切るような悲しみ」を探し求めるセカイの遭難者、というわけだ。そう、前作『セルリアン』は、LAビート・シーンとの照応を見せつけた広義のチルウェイヴと呼ぶべき何かだったが、この『オブシディアン』からはヒップホップ臭さやチルウェイヴ的なある種の軽さは後退し、あのホーリーなコーラスはストリングスやピアノなどのエレガントな調べの中で生まれ変わっている。ザ・ポスタル・サーヴィスのロングセラー、『ギヴ・アップ』にウィッチハウスのシャワーを浴びせてインダストリアルな加工を施したような何か、と言ってもいいかもしれない。LAビート・シーンの先達がこの期待株に望んだ方向性ではなかったかもしれないが、“アイアンワークス”や“インコンパーチブル”といった曲に耳を傾ければ、メインのビートの他に微細な凝ったビート(本人いわく「石を投げたり、それが欠けたりする音」)が脈打っているのがわかるだろう。グリッチも随所で利いている。他方、“マイアズマ・スカイ”はいつかのホット・チップを思わせるダンス・ナンバー、“ノー・アイズ”はパッション・ピットを思わせるシンセ・ポップに仕上がっており、すでにローカルなシーン語りの一部にしてしまっては窮屈な領域に向かっているのでは。

Pixies - Indie Cindy

Baths - Ocean Death EP
Anticon / Tugboat (2014)

木津 毅

セカンド・フル『オブシディアン』収録の“アース・デス”に対応しているであろうタイトルを持った5曲入りEP。「きみの身体を僕の墓場に埋めて(“オーシャン・デス”)」……アルバムから変わらず、死のイメージが抜き差しならないリレーションシップへの欲求と重なっている。 …つづきを読む


Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
音楽・映画ライター。1984年、大阪生まれ。2011年よりele-kingに参加し、紙版ele-kingや『definitive』シリーズにも執筆。

Profile

竹内正太郎竹内正太郎/Masataro Takeuchi
1986年新潟県生まれ。大学在籍時より、ブログで音楽について執筆。現在、第二の故郷である群馬県に在住。荒廃していく郊外を見つめている。 http://atlas2011.wordpress.com/

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