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interview with Andrew Weatherall

interview with Andrew Weatherall

「野心はあってもいいけどがんばるな」

──アンドリュー・ウェザオール、ロング・インタヴュー

野田 努    photos by Steve Gullick   Nov 07,2012 UP

「芸術」を生業としている人がそれを「仕事」と称すると、それを聞いた人はおかしな印象を受ける。芸術に対して屈辱的な言い方だと感じるようだ。芸術は仕事ではなく、神秘的な行為のように考えている人が多い。けど実際はそんなことはない。俺にとっては仕事だ。俺が大好きな仕事だ。


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"ザ・クワイエット・ディグニティ・オブ・アンウィットネスト・ライヴズ"からはちょっとバレアリックな、80年代末のようなピースなアトモスフィアを感じます。何からこの曲はインスピレーションを得たのでしょうか?

AW:ティムがはじめエレクトロっぽいビートを作ったから、俺がそれにベースラインを書いたんだ。もともとはダブのトラックにする予定だったと思う。だから聴いてみるとダブ寄りのサウンドになっているよ。そこから曲が発展して、俺がキーボードをのせたからよりポップな感じになった。そしてティムがさらにパートを加えていく。そのとき俺たちの頭のなかにはソフト・セルの"セイ・ハロー・ウェイヴ・グッドバイ"がかかっていた。無意識的にね。そして俺は、「マーク・アーモンドに電話してヴォーカルを歌ってもらおう」なんてことを考えてた。俺がもっと金持ちで大きなレコード会社と契約していたら、たしかにそう言っていると思うけどね。そういう無意識的なソフト・セルへの愛がこめられている。ニュー・オーダーのアルバム『パワー、コラプション&ライズ(権力の美学)』の要素も入っている。それも80年代中旬な感じがする一因かもしれない。
 でも最初からそういうのを意識して作ってるのではなくて、曲ができあがってから、ほかの人に「この曲は○○に似ているね」と指摘される。アルバムのすべての曲はドラムとベースラインが基本で、そこから作り上げられている。そこから曲がどう発展するのかはわからない。それがアナログ・シンセを使うよろこびでもある。すべての曲はドラムとベースラインからはじまり、シンセなどを使って、「ジャム」しながらできあがっていく。「ジャム」という表現はつまらないしロックっぽいから本当は使いたくないんだが、プロセスとしてはそういうことになる。
 バンドがギターやドラムを使って徐々に曲を書いていく作業と同じように、俺たちも自然なセッションをしながら曲を作っていく。作っている曲は電子音楽だけど、手法は基本的な作曲の手法だ。お互いにパーツを作って、「これはどうかな?」とアイデアを投げ合っていく。ふたり以上の人がいっしょに音楽を作るということはそういうことだ。だから俺はエンジニアといっしょに仕事をするのが好きだし、過剰に独学で習得しようと思わない。アマチュアでいいんだ。エンジニアとのやりとりに楽しみを感じるからだ。エンジニアから学ぶのはおもしろい。
 俺は50になるけど、まだ知らないことがあると認めることができるよ。すると人生はいちだんと楽なものになって、学ぶ作業も楽しく感じられる。ひとりでやる作業よりも、共同作業の方が俺にとってはずっと楽しい。最近の電子音楽を作るミュージシャンはひとり作業が好きな人もいるが、俺にとって音楽制作において好きなプロセスは共同作業の部分だ。お互いと競いあうのではなくお互いを笑わせようとする共同作業。もちろん音楽に対する態度は真剣なんだが、たまにはおもしろいことをやる。たとえば、絶対ありえないようなパーツをわざと入れる、とかね。お互いを笑わせるためだけにね。ジ・アスフォデルスはそういうふうに音楽制作をする。たとえダークな音楽を作っていても、意外な要素を入れたりして、お互いをニヤリとさせる。仕事をするにしても、楽しんで仕事をするべきだと思うんだ。会社で座っていても、向こうに座っているやつと冗談を言い合って笑う。それでいいと思う。

そして、クローザー・トラックの"ア・ラヴ・フロム・アウター・スペース"へとつづきます。80年代末に生まれたA.R. ケインのこの曲もある種の前向きさを感じる曲ですね。この曲についてコメントをお願いします。

AW:"ア・ラヴ・フロム・アウター・スペース"は俺が長年好きな曲だった。A.R. ケインも大好きなバンドだ。イギリスの、少し変わったポスト・パンク・バンドで、"ALFOS"は俺のこれまででいちばんお気に入りのひとつに入る。あの曲には、リリースされてからずっといい思い出が残っていて、俺は曲のファンだったから、そのカヴァー・ヴァージョンは自分の頭のなかにはつねにあったよ。そしてイヴェントをやるときに〈ALFOS〉とつけて、その名前をつけたからにはヴァージョンを作らなければいけないなと思った。
 曲はとてもアップ・リフティングな曲だ。俺はそれをバラードにしようなんて思わなかったけど、自分なりのヴァージョンを作りたかった。このアルバムに入っているヴァージョンは、『マスターピース』に入っているヴァージョンと少し違う。ストリングスを加えたんだ。そうすると、ハッピーな曲なんだけれど、メランコリックな要素が少し加わる。俺は鬱になったりはしないが、ものがなしい雰囲気は好きだ。メランコリックな感情というのはポジティヴだと思うから、自分が実際にメランコリックでいる状況を好むよ。だから、ハッピーな曲にものがなしさやメランコリックな要素を多少加えるのが好きなのかもしれない。

DJはどのくらいのペースでやっているのでしょうか?

AW:毎週末だよ。俺の週末は来年の半ばまで空きがない。5年前「DJギグはいつまでもつかな」なんて思っていたけど、いまは(DJ依頼の)電話が鳴りやまないんだ。電話が鳴りやまないからいまでもつづけている。電話が鳴らなくなったらほかのことをすると思うけど、いまのところはやりつづけるよ。とても疲れる仕事だけどDJするのは楽しい。平日の4~5日間はスタジオで仕事をして、金曜と土曜はクラブでDJをすると。とても疲れるよ。だから俺にとっては仕事だね。とても素敵な仕事だとは思う。世界中を旅して、2~3時間ほかの人の音楽をかける。他人にうらやましがられる職業だ。だけど、日曜日に帰宅した俺を見ると、みんな、俺がどんなに働きものかということがみてとれるだろうね。もちろんDJはとても楽しい仕事だよ。

UKではダブステップ以降のダンス・ミュージックがものすごく大きくなっているとききます。若い子たちはみんなレイヴによく行くそうですが、あなたは現在のUKのダンス・カルチャーをどう見ていますか?

AW:いまの時代、UKのダンス・カルチャーをほかのダンス・カルチャーと切り離すことはできない。アメリカのおかげでダンス・カルチャーは世界的なカルチャーとなり、ポップ・カルチャーとなった。情報が普及するスピードがこんなに速いおかげで、ジャスティン・ビーバーの新曲にはダブステップの要素が入っていたりする。最近はディプロがジャスティン・ビーバーといっしょに仕事をしているらしいじゃないか。アンダーグラウンドからオーバーグラウンドへの移行がすぐにできる現代では、現状をうまく分析することはできないな。
 たとえば、誰かが曲を週末にレコーディングしてそれがロンドンのダブステップのクラブで翌週にプレイされ、同じ週の木曜にサウンドクラウドにアップされる。翌週の月曜日には何万人もの人がその曲を聴いている――世界中の映画会社関連の人、レコード会社関連の人、プロデューサーなども含めてだ。そういう人がそれを聴いて「いまロンドンで流行っているのはこれだ。これを使おう」と言ってその要素を自分たちのポップ・ソングに注入する。ダンス・カルチャーがポップ・カルチャーだというのはそういう意味だ。だからダンス・カルチャーに関してはこういうコメントしかできないよ。
 それに、俺は自分の道は自分で決めて、その上を歩んでいくことにしている。まわりを見渡してほかに何があるのか、この先何が起こりうるかということを少しは気にするけど、この年になると方向を外れることはない。昔はよくいろんな方面に行っていたよ。ある週はドラムンべースにはまっていたり、翌週は別のことをしていたり......昔はほかの人が何をやっているかということに気を取られ過ぎていた。いまでは自分が好きなもの、やりたいことにしか集中していない。だから他のカルチャーもあまり見ていないんだ。ダブステップを聴いて、いいと思うものがあればそれが誰か探して、そこからさらにいろいろ聴いていくかもしれない。ほかの人のクラブ・カルチャーは視野に入っているけど、いまもっとも集中しているのは、自分がクラブで何をやりたいのかということだね。

あなたはリミキサーとしてもひとつの道筋を作ってきたと人ですが、ここ最近であなたがリミックスをしたくなるような若いバンドがいたら教えてください。

AW:好きなグループを聴いて「このバンドをリミックスしたい」とはあまり思わないよ。リミックスという行為自体を批判するわけじゃないけど、世のなかにはリミックスが必要ない曲もある。大好きな曲のリミックスを頼まれたが、断った経験は何度もあるさ。オリジナルの曲が好きすぎて、リミックスをしたいと思ってもできないんだ。曲を聴いて、もうこれ以上よくならないと感じたり、反対に、自分が共感できるパートがひとつもない場合、その曲のリミックスはしない。好きな音楽は、リミックスしようと考えるのではなくて、そのままにしておくことが多いかな。

取材:野田 努(2012年11月07日)

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