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interview with Perfume Genius

interview with Perfume Genius

茨の“クイーン”

──パフューム・ジーニアス、インタヴュー

木津 毅    Sep 26,2014 UP

 わたしたちはあるドキュメントに立ち会っている。それは、自らを傷つけていた過度に内向的なゲイ青年が、何も持たず、内側に湧き上がる音楽だけを頼りに外界に立ち向かっていくという……。と、書けば一種典型的なストーリーのようだが、自らをパフューム・ジーニアスと名づけたマイク・ハッドレアスの足取りは非常にドラマティックなものだ。そしてそれは、現代に生きるゲイたちが置かれた状況と無関係であるとは、僕にはどうしても思えないのだ。

E王
Perfume Genius
Too Bright

Matador/ホステス

Indie Rock

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 まるでボロボロの自分をそのまま差し出すかのようなローファイさ自体が衝撃的だった『ラーニング』、ミュージシャンとしてのハッドレアスの覚醒を印象づけた『プット・ユア・バック・イントゥ・イット』を経て、3作めとなる『トゥー・ブライト』においてパフューム・ジーニアスは華麗にドレスアップし、そしてサウンド面において大胆に変身を遂げている。ピアノの弾き語りを基調としたトーチ・ソングめいたバラッドという骨格は変わらないが、アリ・チャントとポーティスヘッドのエイドリアン・アトリーという玄人肌のプロデューサーを迎えバンド・サウンドやシンセを大部分で導入し、よりゴージャスで、よりダークで実験的で、より挑発的な態度を晒しているのだ。ドゥーム・メタルすら連想させる不穏な3拍子のナンバー“マイ・ボディ”や、アブストラクトなシンセ・ポップ“ロングピッグ(人肉)”など、これまでのパフューム・ジーニアスにはまったくなかったものだ。“アイム・ア・マザー”のようにおそろしくヘヴィなダーク・アンビエントもあり、感情の振れ幅においても手加減していない。

 以下のインタヴューは先日の〈ホステス・クラブ・ウィークエンダー〉のライヴ後に行ったものであり、この時点でまだテクストとして歌詞は目にしていなかったが、いくつか耳に残ったフレーズについて尋ねることができた。その言葉の強さゆえである。歌詞において自己嫌悪や劣等感を隠そうとしないその痛ましいまでの姿はこれまでと変わらないが、しかしながら、その正直さゆえに彼は作品を重ねるごとに、歌をひとつ歌うたびにタフになっていったように思える。“クィーン”は自らを女王と……すなわち、この世界における異物だと宣言し、だからこそ誇り高く振る舞おうとするアルバムを象徴する一曲だ。

 ジョン・グラントでもルーファス・ウェインライトでもアントニー・ハガティでも……フランク・オーシャンでもいいが、いまゲイやトランスジェンダーのシンガーソングライターたちは異端者としての生をその表現において隠そうとしない。それは、社会が無視してきた「クィーン」たちからの逆襲のようだ。マイク・ハッドレアスはつねに自分へのセラピーとしてその歌を紡いできたと言うが、しかし同じように悩みを抱える誰かに自分の音楽が届くことも確信している。だからアルバムのラスト2曲……“トゥー・ブライト”から“オール・アロング”へと至るじつにパフューム・ジーニアスらしいスウィートでフラジャイル、そして美しいピアノ・バラッドは、その力強い眼差しに貫かれているように感じられる。

Perfume Genius/パフューム・ジーニアス
シアトル出身のシンガー・ソングライター。2010年にファースト・フル・アルバム『ラーニング』を、2012年にセカンド・フル・アルバム『プット・ユア・バック・イントゥ・イット』をリリースし、多くのメディアやアーティストから高い評価を受け、注目を集めた。3作めとなる今作にはプロデューサーの一人にポーティスヘッドのギタリスト、エイドリアン・アトリーが参加している。


敵対心とか、そういうものはないよ。ひとを傷つけたくはないしね(笑)。

(〈ホステス・クラブ・ウィークエンダー〉の会場にて)今日はお疲れのところすいません。

マイク・ハッドレアス(以下MH):だいじょうぶだよ。

今回は新作について訊きたいんですけど、その前にいくつか違う話題をさせてください。2年前にお会いしたとき、YouTubeから削除された“フッド”のヴィデオの話をしましたよね。あのヴィデオに出演していたポルノ俳優のアルパッド・ミクロスが亡くなってしまって、ゲイ・コミュニティにも衝撃が走りましたし、僕もすごくショックでした。もしあなたがつらくなければ、彼の話を聞かせてくれませんか。

MH:彼とはあのPVの撮影のときに会っただけだから、思い出を語ること自体が申し訳ないなって感じるんだけど……でも、亡くなったことはほんとに悲しかったよ。

その前に発表された“テイク・ミー・ホーム”のヴィデオも印象的でした。あなたがアメフトか何かのユニフォームを着て、ハイヒールを履いて夜の街を闊歩するという。あれはどういうところから出てきたアイデアだったんでしょうか?

MH:あれは自分のクローゼットにあったものを選んできちゃったんだけど(笑)。ちょっとシリアスさもあって、でもジョークっぽさもあって、悪っぽさもあって、そのバランスを取るようにして。アメフトのジャージっていうのはヒップホップのヴィデオなんかでもよく使われてて……リアーナなんかも着てるし、おもしろいかなって思って。

ヒップホップのヴィデオっていうのは、ああいうマッチョさに逆らいたい気持ちもありました?

MH:敵対心とか、そういうものはないよ。ひとを傷つけたくはないしね(笑)。もっと感覚的な部分での表現なんだよ。

じゃあ、ちょっと話題を変えて。フランク・オーシャンのカミングアウトとアルバムについてはどう思いましたか? というのは、あの正直さやセンチメントっていうのに、僕は少しあなたのことを連想したんですよ。

MH:フランク・オーシャンのカミングアウトは、本当に勇敢だったと思う。クリエイティヴな仕事をしていると、そうやってオープンにすることでファン・ベースを狭めてしまう可能性もあるんだよね。ただ、ゲイだからと言ってゲイの音楽だけを聴くわけじゃないし(笑)、フランク・オーシャンもR&Bやヒップホップのフィメール・アーティストの音楽も聴くけど女性じゃないよね。だからそういう意味で、100パーセント共感できなくても音楽は聴いてもらえると思うんだ。(カムアウトすることで)ファンを狭めるって意見もあるけど、僕は必ずしもそうは思わないんだ。彼にはいま音楽しかないし、それを取ってしまったら何もなくなってしまうだろうから、カミングアウトすることはすごく怖かったと思うし、周りも勧めなかっただろうけど、自分を表現するってことはとても大切なことだから、それは正しかったと思う。

もっとこだわらず、自分の好きなようにやればいいと思ったときから自分らしい音楽が書けるようになってきて……

なるほど。では新作『トゥー・ブライト』について訊かせてください。アルバムを聴きましたが、すごく驚きました。録音も違うし、演奏もアレンジも違うし、アルバム全体のトーンも違います。アルバムを作る上で最初にテーマは何か設けていたんでしょうか?

MH:音楽をはじめてこの世界に入ったときっていうのは、もう何もわかってなかったんだけど、セカンド・アルバムからはより真剣にプロ意識を持って、チャンスを生かすようにしてきたんだ。あと、2枚めまではサウンドよりも歌詞に重点を置いてたんだ。で、そこについてはだんだん自信がついてきたんで、今回はサウンドのほうに重心を置きたかった。
 アルバムのトーンや内容が変わったことに関してなんだけど、曲作り自体はいままでと変わらなかったんだよ。曲を書いて作りはじめてから少しずつ変化が出てきたんだけど。3枚めだから周りからのプレッシャーも感じたし、家族や友だちを喜ばせたいって気持ちもあって、最初少し萎縮してしまってたんだ。だけどある時点でそれが弾けて。もっとこだわらず、自分の好きなようにやればいいと思ったときから自分らしい音楽が書けるようになってきて……で、前2作のセラピー的な感じで、より暗く、ワイルドで、怒りがこもった曲が仕上がっていったんだ。

木津毅(2014年9月26日)

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Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

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