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Perfume Genius

合評

Perfume Genius- Put Your Back N 2 It

Matador/ホステス

Feb 28,2012 UP 文:木津 毅、野田 努 E王
12

いまも暗闇に生きるひとりひとりへ
文:木津 毅


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Put Your Back N 2 It

Matador/ホステス E王

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 たしかガス・ヴァン・サントの『ミルク』が公開された前後の時期だったと思うが、アメリカでも有数のゲイ・コミュニティ・タウンであるサンフランシスコを有するカリフォルニア州において、いったん認められていた同性結婚を禁止する「提案8号」が住民投票によって可決された。以来カリフォルニアでは同性結婚が認められていなかったはずだが、ついこの間、連邦高裁によってその同性婚禁止こそが違憲であるという判決が下りたという。ニューヨークでの同性結婚の合法化によって勢いがついたのは間違いないだろう。ワシントン州でも成立、ニュージャージー州の上院も通過、アメリカで暮らすゲイとレズビアンはいま追い風を感じているかもしれない(いっぽうでノースカロライナやミネソタなどの州では結婚を男女間のみのものと規定した「結婚保護法」が制定されているらしいので、そう単純な問題でもないのも事実だが)。
 そんななか、シアトルのひとりのゲイ青年は街中で恋人の手を握ることすら躊躇ってしまう自分への苛立ちを歌っている。「混んだ道端できみの手を取り/躊躇なく近くに抱き寄せられたなら」"オール・ウォーターズ"――青年の名はマイク・ハッドレアスといって、ドラッグのオーヴァードーズで死にかけた経験もあるそうだ......が、彼はいまも生きて、震えるような声でゲイとしての生についてひっそりと語りかけてくる。

 パフューム・ジーニアスの歌はあるとき突然発掘された。デビュー作『ラーニング』において、くぐもった音の向こうでノイズとともにようやく聞こえるボロボロの録音で無名のシンガーが歌っていたのはドラッグや自殺や虐待、そして疎外感や息苦しさ、だった。その危うい音質とも相まってそこには簡単に聞き流すことのできない迫力と切実さがあり、しかし同時にその苦しみをどうにか押し止めようとする不思議な穏やかさもあって、母親のベッドルームで録音されたというそれらの歌はまるで身体のなかに染みこんでくるような親密な関係をリスナーと結んだ。優れたベッドルーム・ポップはある種の生々しさを伴いながら、時空を超えて孤独な部屋と部屋を接続してしまう。

 『プット・ユア・バック・イントゥ・イット』はベッドルーム・ポップではなく、スタジオにプロデューサーを迎えて制作されたミュージシャンとしてのマイク・ハッドレアスの初めての作品である。たしかに音質はクリアになり、ピアノとシンセの長音のなかをメロディがひたすら浮遊するようだった前作に比べれば、より歌としての起伏が感じられる内容になったと言えるだろう。苦悩に満ちた半生を送った母親に捧げられたという"ダーク・パーツ"、毛むくじゃらのマッチョなポルノ俳優と出演したヴィデオが素晴らしい"フード"、これらの曲でピアノの演奏とマイクの歌はそれぞれ明確に役割を自覚し、ピアノ・バラッドとしての美しさに磨きをかけている。"ノー・ティアー"や"テイク・ミー・ホーム"のように明るいトーンの開放感が広がるナンバーもまた、このアルバムのムードを柔らかくしている。
 しかしながら、ここでもパフューム・ジーニアスの歌はひとが好んで見ようとしない暗闇こそを見つめている。それも、マイノリティとして......ゲイとして生れ落ちた宿命のようなものを聴き手の耳元で晒そうとする。オープニングのドリーミーにすら聞こえる"エイウォル・マリーン"でモチーフになっているのは、妻にドラッグを買うためにゲイ・ポルノに出演するオッサンについてだという。"17"は自分の外見的な醜さを恥じる10代のゲイの「遺書」、先述した「明るいトーン」の"テイク・ミー・ホーム"は売春をテーマにしたポップ・ソング......。迷うことのない徹底ぶりで、マイクは社会から転落した人間たち、あるいはあらかじめアウトサイダーとして生を受けた人間たちの呟きを代弁する。いや、ここではほんとうに彼自身の感情としてそれらは発声されていて、だからこそその歌は呼吸が耳を撫でるような親密さでもって迫ってくるのだ。「いらないんだ/このゴツゴツした手も、このおかしな顔も/熟れきって、むくんだ体型も」"17"......パフューム・ジーニアスの痛みに満ちたその告白は、はっきりとその感情を知っているベッドルームの誰かにこそ向けられている。アルバムはそして、とても穏やかで慈愛に満ちた聖歌のような"シスター・ソング"で終わる。そう、ブラザーではなく、シスターだ。「行け、行け/ぼくの特別な人/止まらずに/自分が消えたとわかるまで」

 マイク自身によるアートワークは、60年代の水泳チームの写真から取ったものだそうだ。中央の青年ふたりの口元が覆われている......あらかじめ自分たちの正直な想いが封じ込められたことを表象するように。時代がどれだけ前に進んでも、変わらない苦悩というものがあると言うように。
 その消えない痛みを穏やかなバラッドに変換するパフューム・ジーニアスは、そして愛を求めている。アルバムが"フード"を通過するたびに、僕はその切実さに両の拳を握らずにはいられない。「本当の僕を知ったなら/二度とベイビーなんて呼んでくれないだろうね/ああでもぼくは待ちくたびれたよ/きみの愛が欲しくて」。アントニーのようにハイ・アートの拠りどころもなければ、当然ルーファス・ウェインライトのように絢爛な舞台装置もない。あるのは痛ましいまでのあけすけさと、震える声と呼吸だけ。「僕は闘うよベイビー/きみに間違いを起こさないように」......そう宣言するとおり、マイク・ハッドレアスは闘っている。かつての自分と、いまも口元を覆われて暗闇に生きるひとりひとりのために。

文:木津 毅

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