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John Grant

Folk RockSynth-pop

John Grant

Pale Green Ghosts

Bella Union

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木津 毅   Oct 25,2013 UP
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 僕がジョン・グラントの音楽を聴くことになったのは、ジャケットの彼と目が合ったからである。なんとなく海外のレヴュー・サイトをウロウロしているときに一際鋭い視線に捕らわれて、ついクリックしてレヴューを読んでみたらば、彼はゲイで、HIVポジティヴであることをカミングアウトしているという。思わずぎょっとして再びジャケットを見てみる……髭面のいかつい男は相変わらずこちらを睨んだままだ。それがたしか、5月のこと。気がつけば、この年僕はこのアルバムをもっとも繰り返し聴いている。

 ジョン・グラントはフォーク/カントリーを基調としたバンド、ザ・シーザーズの元ヴォーカリストであり、本作『ペイル・グリーン・ゴースツ(青緑色の幽霊たち)』がソロの2作目。2010年のソロ・デビュー作『クイーン・オブ・デンマーク』は評論家の間でそこそこ高く評価されたらしいが、僕は知らなかった。恐らくゲイ・シーンの繋がりでヘラクレス・アンド・ラヴ・アフェアとツアーを回ったこともあるそうで、HIVに関してはそのツアーのときに発表したそうだ(ゲイのオーディエンスを意識した上での決断だったのだろう)。
 サウンドは70年代シンガーソングライター風バラッドとフォーク、80年代ニューウェイヴをほどよく交配したよく出来たものである。ちなみに、シネイド・オコナーがパートナーのように3曲でコーラスとして参加している。ゲイ・アーティストで言えば……ルーファス・ウェインライトとジョン・マウスとヘラクレス・アンド・ラヴ・アフェアの間のどこかにいるような。近年のモリッシーのソロ作を聴く感覚とも遠くはないだろう。冒頭を飾るタイトル・トラックは仄かにダークで攻撃的な、ニューウェイヴ調のシンセ・ポップだ。その上でグラントがバリトン気味のよく伸びる声で朗々と歌う。続く“ブラック・ベルト”はややディスコ調のダンス・トラック。ヴァースごとにサウンドをガラッと変えるオールドスクールなマナーも気が利いている。続く“GMF(グレイテスト・マザーファーッカーの略)”はフォーキーなバラッド……普通に聴いていれば、良い声を持った40代のシンガーソングライターによる、影響元を上手く消化したソングブックとして楽しめたのかもしれない。
 だが、このアルバムでグラントが隠さないネガティヴな言葉と感情を耳と頭が探り当ててしまったとき、もう簡単に聞き流すことはできなくなってしまう。続く優雅なバラッド“ヴェトナム”では彼の元恋人、もちろん男の恋人に、「お前の沈黙は兵器だ/まるで核弾頭のような/ヴェトナムで使われた枯葉剤のような」と断罪の言葉を浴びせる。ヴィデオも象徴的だ。白黒の映像に映るのはグラントそのひとで、そして彼はよくあるMVのように口ずさみもせずに、ひたすら画面の向こうからこちらを見つめ、ときどき視線を外す。そしてまたこちらを睨みながら、こう告げるのである。「俺を慰めるただひとつのことは、お前がこの先誰といようが、お前はいつも孤独だろうってわかることだよ」……とても、穏やかに、深い声で、美しいストリングスとアナログ・シンセの和音に乗せて、そう歌うのだ。画面の前で、僕はただ彼と見つめ合うことしかできない。



 これも同様に、かつて愛した人間を「心配するフリなんかしなくていい/思ってもないことなんて言わなくてもいい」と責める“ユー・ドント・ハフ・トゥ”もなかなか強烈だ。「ひと晩中ファックしたのを覚えてるか?/俺も覚えてない、いつもへべれけだったから/痛みを扱うのにたくさんの酒が必要だったんだ」……。だが、サウンドはどこかファニーですらあるシンセ・ポップ。そもそも歌い出しからして、「犬を連れて、寄り添って公園を散歩したのを覚えてるか?」と言いながら、すぐさま「ま、俺たち犬なんて飼ったことないし、いっしょに公園も行ったことないんだけど」とオチをつけずにはいられない。しかしながらこの皮肉は、彼の傷痕から血が吹き出るのをどうにか抑えるための苦肉の策のようでもある。“センチメンタル・ニュー・エイジ・ガイ”におけるパーカッシヴなディスコ・トラックで、なかばやけっぱちにおどけて歌うグラントはしかし、そうして理性をと保とうとする。
 続く“アーネスト・ボーグナイン”(グラントが尊敬するという性格俳優)はHIVポジティヴだと発覚した心境についての歌だという。「医者は俺を見ずに、きみは病気だと言った」。ここで、どうして彼がジャケットからこちらを真っ直ぐに見つめていたかがわかる。グラントは目を逸らされたくないのだ。自らのみっともなさからも気まずさからも卑小さからも。混乱はある、が、錯乱はしていない。「俺はこのクソのような町が大嫌いだ」と軽やかに歌い、過去との訣別を宣言する。そしてラスト・トラックの“グレイシャー”で誇らしげに鳴らされるピアノの高音はそのことを自ら祝福するかのようだ。グラントはそして、アイスランドへと移住したという。
 僕にとってこれは穏やかな精神状態で聴ける作品ではないが、しかしそれなりの覚悟を持って向き合いたいと思える音楽だ。ジョン・グラントはありったけの憎悪と皮肉と悲哀をこめて、愛を歌っている。ユーモアも忘れずに。だから僕は、ジャケットの彼と睨み合いを続けようと思う。

木津 毅