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Home >  Interviews > interview with Toshio Matsuura - UKジャズの現在進行形とリンクする

interview with Toshio Matsuura

interview with Toshio Matsuura

UKジャズの現在進行形とリンクする

──松浦俊夫、インタヴュー

取材:野田努    写真:小原泰広   Feb 19,2018 UP

ロンドンは活気がありますよ。アフリカ大陸からの新たな移民とかも含めて、より人種が多様になってきているじゃないですか。今回のアルバムのメンバーにもユセフ・カマールのユセフ・デイズなんかはそうですし。ヤズ・アーメドはバーレーンだし、ヌビア・ガルシアもそうですし。

前に取材させていただいたのがHEX(ヘックス)のときで、HEXのときは松浦さんがモーリッツ・フォン・オズワルドの影響を受けていて、アシッド・ジャズのリスナーが望んでないかもしれないことに挑戦したというか、長いキャリアのなかでも違う側面を見せたじゃないですか。しかし今回は、「バック・トゥ・ベーシック」に立ち返って、それを現代版としてアップデートして見せるみたいな感じでやったと。今回のプロジェクトをはじめるにあたって、なにかきっかけはあったんですか? 

松浦:結局自分が納得のいくものを作っても聴いてくれなければ意味がないなと思っていて、HEXの場合は本当にやりたいことだけやったというところがあって、すごくコアな層に届いて、ブルーノート・レコーズ社長のドン・ウォズにも気に入ってはもらえてアメリカでアナログをリリースするかもって話にはなったんだけど、結局出ずじまいになってしまって。説得力に欠けたかもしれないなと思ったんですよね。いま野田さんが仰って下さったようなことがリスナー全員にわかってもらえるとは限らないので。

長い活動をしていれば当然求めているものもあるので、そことのバランスの取りかたというのは難しかったと思いますね。


Toshio Matsuura Group
Loveplaydance

ユニバーサル

Jazz not Jazz for dancefloor

Amazon Tower HMV

松浦:もしかしたらこの新しいアルバムでなにか拡げることができたら、HEXをもう一度やり直すこともあるかなという気持ちもあったんですよね。だからどうしてもひとつひとつに全部を集中しようとすると、U.F.O.だったらその名のもとにできたんですけど、ただ自分でやるとなってアウトプットをどうしようかと考えたときに、これをやり終えてみて肩の荷が下りたところがあったので、いまはもっといろんなことをやってもいいかもと思えるようになったというか。だったらHEXだけじゃなくて、いろんな名前でいろんなことをやるほうが伝えやすいのかもしれないなというのはやってみて思ったことですよね。これで自分がいったんこのシーンにピリオドをつけられたかなと思っていますね。ジャイルス(・ピーターソン)はアシッド・ジャズも含め、いわゆる「ジャズ」という括りのなかで表現されないようにすごく気をつけているのを感じたんですよね。

それはどういうことですか?

松浦:「ジャズ」というカテゴリーのなかに自分を当てはめられたくないというようなことですね。イギリスってクールかどうかというところが大事じゃないですか。だからいまの時代はオルタナティヴみたいなほうがクールというか、そういうところで評価されたいのかなということを傍から見ていて思うんですよね。

それはたとえば『マーラ・イン・キューバ』だとか、南米の音楽との接続というか。

松浦:そうですね。いまも(ジャイルスは)キューバに行っていますけど。なにか未知の物を求めたがるので、そこで新たな出会いを求めるというのが彼の場合はブラジルだったり、キューバだったりしたのかなとは思いますね。ヨーロッパのシーンだと人によってはアフリカのほうが多いじゃないですか。レアなアフリカの音源とか、アフリカのディスコ音源とか。そういうなかで彼の関心は、いま南米のほうにあったのかなという気はしますね。

しかし今回は、“L.M.Ⅱ (Loud MinorityⅡ)”は驚きましたけどね。

松浦:これももともとは(原曲を)やり直そうとしていました。いままでにミュージシャンと三度プレイしたことがあるのですが、90年代の新宿のリキッドルームでU.F.O.のパーティをやったときに、マンデイ(満ちる)さんやMONDO GROSSOのミュージシャンの方々に協力していただいて生演奏したのが最初で、2回目は3年前にユニットでクロマニヨンとHEXが対バンでライヴをやったとき。あともう1回は2016年にスタジオコーストでジャイルスと一緒にソイル(&ピンプ・セッションズ)と日野(皓正)さんを組み合わせたり、ミゲル・アトウッド・ファーガソンとサンラ・アーケストラが出演したりしたイベントがあったんですけど、そのときにソイルにやってもらったんですけど、結局やってもらっておきながら、さっきの話じゃないですけどサンプリング・ミュージックを生でやってもそれ(原曲)を超えることが出来ないというところに行き着いてしまったんですね。
ただ去年で“Loud Minority”を作って25周年だったということもあって、いわゆるクラブ・ジャズみたいなものだったり、自分はもう所属していないもののU.F.O.がもっと評価されていいんじゃないかという思いもあったりして、だったら抜けた人間だけどもカヴァーして聴かせるということがプロジェクトの肝にもなっていたんですね。とにかくその3回の生演奏を自分で客観的に聴き直して「なんか違うな」というところに行き着いて、すごく矛盾しているんですけど今回のスタジオに入るというときに、いかに“Loud Minority”から離れられるか、というかいかにサンプリング要素を削ることができるかということに挑戦しはじめて、その結果曲の途中で一瞬だけベースが出てくるんですけど。

僕はこの曲にHEXとの繋がりを感じたんですよね。だってCANみたいじゃないですか(笑)。

松浦:完全にそうですね。だから本当はオーヴァーダビングするかもしれないということを想定して、ドラムとベースとキーボードの3人での30分くらいセッションが残っているんですけど、最初にああじゃないこうじゃないといろいろやってみて、リズムとかも変えてみて、瞬間的にこれだというのがリズムから出たので、それを中心に回してくださいってことをエンジニアに言ったら、それで演奏が始まっちゃったからもうほっておいたんですよね。それで30分くらいしたら止めたから(笑)、これでOKってことで。あとでオーヴァーダビングもしなくていいからこのままにしようってことで、あとで自分がエディットしたものを聴いてもらうから、それでよければこれでOKですってことでセッションは終わったんですけどね。そのときにこれってHEX2かもしれないって思ったんですよね。もしかしたらこれが次のヒントになると思っていたんですけど……これはたぶんリキッドルームの壁に書かれている「alternative / jazz」ってことなのかなと。それが体現できたかなと思いますね。

ちなみにアルバム・タイトルは最初からこれ(『LOVEPLAYDANCE』)に決まっていたんですか?

松浦:これも悩みました。「ジャズ」とか「クラブ・ジャズ」という言葉を入れるべきか入れないべきかみたいなところでいろいろ考えて、当初は『DANCEPLAYLOVE』か『PLAYDANCE&LOVE』だったんですよ。ちょうどそれを決めなきゃいけないときにトマト(TOMATO)のサイモン・テイラーが来日していて話をしたんですけど、自分が考える英語とネイティヴの連中の英語のニュアンスの受け取り方はたぶん文字以上に違うだろうなと感じていて、「&LOVE」にするとすごく感傷的になると言われたんですね。そのニュアンスは自分にもあったんですよ。クラブでも出会いと別れがたくさんあったような気がするなあと(笑)。それも含めてだったんですけど、その感傷はいったん置いておこうと思ったんですね。「LOVE」を頭に持ってきたほうがおもしろいし、ワン・ワードのほうがいいってサジェストしてくれたので、それにしようと代官山のデニーズで決めました(笑)。

(笑)。「DANCE」は松浦さんがずっとやってきたことで、ダンス・ミュージックということが基本にあると思うのでわかるんですけど、この「LOVE」というのはどうやって出てきたんですか?

松浦:だからやはり出会いと別れですよね(笑)。

そういう意味なんですね。

松浦:音楽をプレイすることも好きだったし、踊ることも好きだったし、人を愛することもすべてそこにあったというか、それがすべてだったような気がしていて。それで人生が回っていたのってすごく幸せだったんだなと。ノスタルジックになっちゃいけないんですけどね。

でもそれはいまでも絶対にあるものだと信じていますね。

松浦:だからそれも含めて「&LOVE」じゃなくて「LOVE」を頭に持ってきて、このジャケットをぶつけたというのはあえて先入観を取り払うためというか。ちょっとポップに見えるじゃないですか。昔だったらもっと渋いジャケットになっていたんだろうと思うんですけど、ポップだけど狂気があるみたいな感覚を表現したかったんですよね。こういうデザインも、作るまではすごく試行錯誤をして悩んだりしたんですけど、最終的には一瞬で決まったんですよね。だいたいそうやって直感的に決まるものはのちのちうまくいくというか、“Loud Minority”然りなんですけど。

“Loud Minority”が当時どれだけすごかったかというのは本当にリアルタイムで知らないとなかなか伝わらない部分があると思うんですけどね。

松浦:2日間くらいスタジオに篭って、卓の下で順番に仮眠を取っていましたからね。だからエンジニアの人辛いなあと(笑)。3人がかりでずっと寝ないで立ち会われているから大変だったと思います。

当時はものすごくヒットしたじゃないですか。

松浦:そういうのがいまの20代の人たちに掘り起こされているということも感じていて。ただし、今回は“L.M.Ⅱ”という名前に改題してオリジナルにしようと思ってやりましたね。

そうですよね。これだけは、カヴァーではなく、ほとんど松浦さんのオリジナルですもんね。

松浦:まだ“Loud Minority”の可能性は残していたときにある人に聴かせてみたんですよ。そしたら一瞬だったんですけど、聴き終わったときにその人の表情を見たらちょっと顔ががっかりしているんですよ。“Loud Minority”じゃないって(笑)。

(一同笑)

松浦:それがわかって、これは(曲名を)変えたほうがいいかもしれないと思ったんですよね(笑)。作っているほうは新しいことができたから「これぞ“Loud Minority”じゃないか」と思っていたんですけど、“Loud Minority”に強い思いを持っている人こそ「なんで!?」って思いが聴いたときに出ると思うんですよね。

それはそうでしょうね(笑)。難しいですよ。去年のゴールディの“Innercity Life”のブリアル・リミックスが賛否両論であったように(笑)。では最後に松浦さんの今後の抱負をお聞かせください。今日も会った瞬間からさっぱりされているなと思ったんですけど、下手したら4年前よりも元気なんじゃないかなと(笑)。

松浦:そうですね。昨日も氷点下のなか10キロくらい走ったりしていたので。

はははは。運動のしすぎはダメですよ(笑)。

松浦:この時期は寒いのに抵抗力ができますからね。12月くらいはすごく寒くてへこたれたんですよ。だからダメだなと思って日々心がけて運動をしていたら、この寒さのピークのときに寒さを感じなくなったので、こういうことだなと思って。とくにこのアルバムが出るのが3月ですし、毎年東日本震災の子どもたちのチャリティでランニング大会をやっているんですね。今年の3月11日は日曜日で、皇居周りをみんなで走るという企画を毎年やっているんですよ。

松浦さんが主催なんですか?

松浦:そうです。基本的には僕がやっています。その参加費をみなさんから集めて、それを現地の子どもたちのために動いてくださっているNPOのかたに送るというのを毎年やっているんです。

本当にえらいですよね。

松浦:いやいや。やっぱり何者でもなかった自分が音楽に拾われたみたいなところがあって、いままでこうやって生業みたいなこととしてできてきたことが幸運だっただけに、恩返しは続けていかないといけないなという思いがあるので。意固地になっている部分はあるのかなと思いますけど。自分も好きなことをやるためにはもっと土台をしっかりさせないとさせなければいけないなと感じますよね。でも前向きなので、根拠のない自信ではあるんですけどなんとかなるんじゃないかなと思っています。

それは重要ですよね。ありがとうございました。

※このページもぜひチェックしてみて! 80年代のUKソウル/ジャズから現在までが聴けます。
https://www.universal-music.co.jp/toshio-matsuura-group/news/2018-02-13-playlist/

取材:野田努(2018年2月19日)

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