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interview with Toshio Matsuura

interview with Toshio Matsuura

UKジャズの現在進行形とリンクする

──松浦俊夫、インタヴュー

取材:野田努    写真:小原泰広   Feb 19,2018 UP

Toshio Matsuura Group
Loveplaydance

ユニバーサル

Jazz not Jazz for dancefloor

Amazon Tower HMV

 まあとにかく集まって、互いに音を出す。思わずディナーショーの席を立ち、汗まみれのダンスフロアに向かう。エクレクティックな音楽をやる。SoundCloudからは見えないそのシーン、いわば現代版「Jazz not Jazz」現象がUKでは注目を集めている。松浦俊夫のソロ・アルバムは、まさにその瞬間にアクセスする。
 彼の新しいアルバム『LOVEPLAYDANCE』は、表向きには90年代のクラシックをカヴァーするアルバムとなっているが、それは表層的な情報で、目指すところは「過去」ではない、「現在」だ。参加メンバーを紹介するのが早いだろう。
 メルト・ユアセルフ・ダウンやサンズ・オブ・ケメト、あるいはフローティング・ポインツでドラムを叩くトム・スキナー。レディオヘッドにも参加しているバーレーン出身の女性トランペッター、ヤズ・アーメド。アコースティック・レディランドのベーシスト、トム・ハーバート。ヘンリー・ウーとのプロジェクト、ユセフ・カマールのユセフ・デイズ。ザ・コメット・イズ・カミングのダン・リーヴァーズ……そして『We Out Here』にも参加した今年の注目株のひとり、アフリカ系の女性サックス奏者、ヌビア・ガルシア。要約すれば、UKジャズの新たなるエース、シャバカ・ハッチングス周辺、そしてフローティング・ポインツやペッカムのフュージョン・ハウス・シーンのキーパーソン、ヘンリー・ウー周辺の人たちである。
 DJはプロデューサーであり、オーガナイザーであり、ときにはジャーナリストでもある。松浦俊夫とジャイルス・ピーターソンは、たったいま南ロンドンで起きていることをとらえて、そのエネルギーを90年代のダンスフロアで愛された楽曲にぶつけた。こうして生まれた『LOVEPLAYDANCE』は、ノスタルジーという誘惑を見事に退けて、現在から明日へ向けられるアルバムとなった。しかもこのタイミングでのリリース。これは大きいかも。

この20年くらいで世のなかがまったく変わってしまったので。うーん、生き方が変わったという気はしますよね。だからそれぞれがしょうがないからこうやって生きるかみたいなところで受け入れたり、諦めたりする部分が出てくるのかなと思っていて。自分もけっこういまその岐路に立っていると思っているんですけど……諦めきれないんですよね。

まずはアルバム、『LOVEPLAYDANCE』のコンセプトについて教えていただけますか? いままでのご自身のキャリアのなかでとくに思い入れのある曲ということで選んだんでしょうか?

松浦:曲目を見ていただけるとわかると思うんですけど、90年代前半の曲が意外となくて、90年代半ば以降のサンプリング・ミュージックからすこし移行したあたりの楽曲が中心になっています。最初に何百曲か選んでみて、サンプリング・ミュージックをいま生でやり直すということってどうなのかなと思うところがあったんですよね。サンプリングを通過したクラブ・ミュージックが展開していくうえで、逆にミュージシャン的な人たちを必要とした時期があって。生のバンドでやり直すんだったらそこらへんなのかなと思ったんです。

時期を限ったというか。ところで、ご自身のDJ歴はいつからになるんですか? 

松浦:人前で名前を出してDJをしたのは、川崎のクラブ・チッタが出来たころですね。クラブキングにいたときに、「革命舞踏会」というイベントを(桑原)茂→さんがやっていたんですね。そのクラブ・チッタのイベントでやってからなので、実は今年でちょうど30年目なんです。

30年前ですか。

松浦:クラブキングの頃もそうですし、ジャズ・クラブで働いていたときもそうだったんですけど、自分の音楽歴の要所要所ですごくターニング・ポイントになることがあって。そのターニング・ポイントの入り口を作ってくれたのが、ケニー・ドーハムの『Afro-Cuban』というブルーノートから50年代半ばに出たアルバムなんですけど、それをいまやるのも違うなと思ったんですね。やっぱりいまの時代にリプレイして聴き直す、あらたに世のなかにプレゼンテーションするとしたらなんなんだろうか、というところが実はいちばんこだわったポイントです。
とくに時間的な縛りを設けたというよりは、自分が作り手として出す以上にDJとしていまの時代に出すという意味も含めて考えたときに、自分は作曲だとは思っていないんですけど、曲を作ることと曲を紹介するということが両立出来ないといけないなと思ったんですね。それはどちらかに寄せるだけでもいけないなと思ったので、すごく難しいところではあると思うんですけど。コンセプトはすごくシンプルなんですけど、この楽曲ラインナップになるまではけっこう迷い続けていたところがあったかもしれないですね。

なるほどね。たとえばカール・クレイグの“At Les”やロニ・サイズの“ Brown Paper Bag”みたいな曲とか、ニューヨリカン・ソウルの曲(“ I Am The Black Gold Of The Sun”)はそれ自体がカヴァーだったので違いますけど、クルーダー&ドーフマイスターみたいな人たちの打ち込みの曲なんかは、やっぱりそのローファイな音質やアナログ・シンセの音があって成立する曲かなと長いあいだ思っていたんですね。でも松浦さんの今回のアルバムを聴いて、楽曲そのものの良さというのが他の人がやっても生きているというように思ったんですよ。20年くらい前の曲が入っていますけど、20年経ったいまも楽曲として生きていますよね。そういう意味でいま松浦さんが仰ったことの主旨には納得しましたし、アルバムを聴いたときにもそれは感じました。だから、ひとつにはこういう90年代の打ち込み主体の曲が、いまも楽曲として生きているということを証明するアルバムとも言えるじゃないかと。

松浦:録音自体は4日しかなかったんですけど、そこまでに時間がかかりましたね。実は収録していない曲もあったりして、もしこれが世のなかに認知されたら続編というかたちもあるかなと思ってあえて入れなかったんですね。未完成の状態だったので、新たに作り直したほうがより楽曲としてこなれるだろうなと。どちらかと言うとテック寄りの楽曲だったので、もうちょっと良くなると思って今回はあえてカットしました。

全部ロンドンで録音したんですよね? ぼくもこの2年くらい南ロンドンのペッカム周辺のシーンを好きで聴いていたんですが、松浦さんのアルバムがそのシーントリンクしていてすごく嬉しく思いました。だからこのアルバムはノスタルジーになっていないんですよね。こういうことをやるときってそこが微妙じゃないですか!

松浦:そうなんですよ。だから許される条件として当事者であるということと、いまのイギリスのシーンのなかで頑張っている人たちと世代が違うのに一緒にやれたというところが大きかったですね。実際に演奏してくれた人たちにしてみるとノスタルジックな思いというのは一切なかったりするんですよね。トム・スキナーというミュージカル・ディレクターのドラマーの彼はすごく音楽を知っていて、“At Les”なんかも好きだって言っていたんですけど、基本的にほとんどのプレイヤーは“Brown Paper Bag”も知らないという人たちがほとんどでした。でも逆に知らなくて良かったのかなと思いますけどね。

知らないからこそ良かったんでしょうね。

松浦:事前に楽曲データを送って、余裕があれば聴いてくださいねとは伝えていたんですけど、みんな忙しかったのでロクに聴いていないという(笑)。でもそれが逆に良かった。思いもよらないようなアレンジが途中で出て来たりしたので、それはそれで自分の考える「ジャズ」みたいなものにとっては結果オーライだったんじゃないかなと思っているんですよ。もともとジャズを作ろうと思ってやっているわけではないですし、ジャズはジャズ・ミュージシャンのものだと思っているので。気持ち的にジャズの精神みたいなところ、新しいものに挑戦していくということと、すべてを吸収するものがジャズだという考えであれば、このプロジェクトはOKじゃないかなと思ったんですよね。

ある意味では意図した部分ではあるんでしょうけど、すごくフレッシュな演奏ですもんね。楽曲を知っているヴェテランがやってしまったら……。

松浦:いわゆるカヴァーになっちゃうと思うんですよね。打ち込みの音楽を生でやりました、というか。

ああ、ありましたね。なるほど(笑)。

松浦:いわゆるスタンダードをいなたく、いまのミュージシャンを使ってやるというだけだとたぶん失敗するなと思ったんですね。そこに関してはスタジオでもかなり気を使いました。

なるほどね。なるべくオリジナルに囚われない自由な発想で演奏してほしいということですよね。

松浦:そうですね。だからそもそもイギリスでやろうと思ったのはそこが大きいと思います。

取材:野田努(2018年2月19日)

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