自分の部屋でずっと夢想していただろう風景をやっと手中に収めたね、おめでとう! というのがぼくの率直な感想。『ポート・エントロピー』は、自分で用意したたくさんの楽器/非楽器をひとりオーヴァーダビングしながらドリーミーな風景を構築していくトクマルシューゴの、2年半ぶりとなる4枚目のフル・アルバムだ。朝日新聞ではコラム連載、NHKテレビでは特集が組まれ(クリエイティヴな発言が多数ありました)、海外でも高い評価を受けるなど、いまや国際的アーティストとして注目を集めているトクマルだが、自身も初めて「自信作かな」と語るほどのキャリア最高の傑作の誕生だ。
初期の作品はフランスのトイ・ポップ、ブライアン・ウィルソン、ジョン・フェイヒィ、ガスター・デル・ソル、ミュージック・コンクレートといった数々のキーワードが「ベッドルーム・サウンド」という名の下に混在していたが、もはやそれらはトクマルシューゴの手癖というか、ブランドとしてスタンダードになったように思える。新作は世のなか(とくにブルックリン)のモードとも同時代的にリンクしながら、さらに評価されることだろう。ちなみにマスタリングはボブ・ディランやノラ・ジョーンズ、MGMTなどを手掛けたニューヨーク在住のグレッグ・カルビが担当。厳選された音数(アルバムで使用された楽器の数自体はこれまででもっとも多い)、その配置と鳴り、メロディとハーモニーの構築など、磨き抜かれた質の高さにも舌を巻くが、そこで描かれているファンタジーが素晴らしい。まるで自分がトクマルシューゴの箱庭の住人になったかのような錯覚に陥ってしまう。
初期の作品で描かれていた風景は、どちらかと言えばトクマルの脳内を覗いているような感覚があった。新作は彼がCDの中に箱庭をつくった、そんな感じだ。ここには以前より鮮明に具体化された風景が広がっている。森の奥で木々も小人たちもおもちゃもみんな唄い踊ってるような......そう、絵本やファンタジー映画、ブリティッシュ・トラッドなどに登場してくるケルトの森のような。先にリリースされたEP「Rum Hee」で描かれていた空想的な世界に繋がる話が12編用意されていると思ってもらえばいい(トクマル自身は「Rum Hee」を"宇宙でイカが飛んでるイメージ"と言っていたが......笑)。取材でトクマルはこの新作の全体像について、「孤児院の子供たちが無邪気に遊んでるイメージ、そういうのは裏の裏の裏くらいにコンセプトとしてある」と語っていたが、チャイルディッシュなかわいさと同時に残酷なもの哀しさを孕んだお話という部分では、世間でも囁かれているようにグリム童話のような世界が音で描かれているとも言えそうだ。
さしづめ、「ベッドルームの夢想家」あらため「音で綴る童話作家」というところだろうか。いずれにせよ、どんな曲解も許容するような強度と余白が、この作品にはある。






















photo Yasuhiro Ohara
photo Yasuhiro Ohara
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デッド・ビートやイントリュージョンとともにミニマル・ダブを発展させるビート・ファーマシーことブレンダン・モーラーがスタートした注目の〈ステッドファスト〉から5番目となるリリースは、フランソワの〈ディープ・スペース〉一派から頭角を現し、独自のダブ音響を拡大するブルックリン出身の新鋭、ビリー・シェーンによるストイックなミニマル・ダブである。ニューヨークで生まれ育ち、ボビー・コンダースやフランキー・ナックルズ、初期のシカゴ・アシッドに影響を受け、長年DJとして活動していた彼ではあるが、その作品には回顧的な色合いはいっさいない。〈ベーシック・チャンネル〉を経由して新たな発展を見せるニューヨークのIMAを伝えるサウンドとなっている。
モントリオール出身でベルリン在住のミニマル・プロデューサーであるマイク・シャノンの運営する〈サイノシュアー〉が昨年発足から10周年を向かえた。月日が経つのは本当に早い。ゼロ年代のテクノの最前線にはアクフェンに端を発するモントリオール勢がいつもその名前を連ね、10年のあいだにテクノの世界地図は大きく変わった。マイク・シャノンは大きなヒット作こそ出していないものの、マシュー・ジョンソン、デット・ビートとともにアクフェンが切り開いた土壌を拡大してきたアーティストのひとりである。
トゥー・ロココ・ロット(上から読んでも下から読んでも)はベルリン出身のロナルドとロベルトのリポック兄弟とデュセッルドルフ出身のステファン・シュナイダーによる3人組みによるエレクトロ・アコースティック・バンドだ。1995年に〈キティ・ヨー〉からのデビュー、〈サブ・ポップ〉や〈ファット・キャット〉など、ポスト・ロックやエレクトロニカのフィールドからのリリースを重ね、現在は主に〈ドミノ〉を中心に活動している。ドラムとパーカッションを担当するロナルド・リポックはタルヴェルターのメンバーとして〈モール・ミュージック〉からダビーなダウンテンポをリリース。ギターを担当するロバート・リポックは〈ラスターノートン〉から美しいアンビエントをリース、現代音楽の方面からの注目を集めている。ベースのステファン・シュナイダーはマップステーションとして〈シュタオプゴルド〉から秀逸なエレクトロニカをリリースしている。
クラブ・ジャズとダブ・ステップとテクノを結びつけ、さまざまな方面から注目を集めるフローティング・ポインツことサム・シェパード。
〈R2〉からリリースされたデビュー・シングル"Love Me Like This"では、セオ・パリッシュのようなスローなファンクを聴かせ、ジャイルズ・ピーターソンをはじめとするクラブ・ジャズ系のDJからの支持を集めている。〈プラネット・ミュー〉からリリースされた"J&W Beat"は初期のブラック・ドックにも似た雰囲気のトラックで、新世代のインテリジェント・テクノとして、ダブステップやテクノDJからの支持を集めている。









