「CE」と一致するもの

インディ・ゲーム名作選 - ele-king

まだ見ぬ世界が、ここにある。

史上初! インディ・ゲームの決定版ガイドブック
これだけはプレイしておきたい名作250タイトルを精選

「Untitled Goose Game ~いたずらガチョウがやって来た!~」「Firewatch」「Among Us」「Getting Over It」「Doki Doki Literature Club!」「Undertale」「Hotline Miami」「Minecraft」「Super Meat Boy」「東方Project」……

アクション、シューティング、アドベンチャー、RPG、ストラテジー、パズルなどなど、目移りするほど多くの注目作のなかから、“ハズさない” 250タイトルを紹介

初心者はもちろん、コアなファンにとっても新たな発見のある一大図鑑!!

執筆陣:
田中 “hally” 治久、今井晋、千葉芳樹、徳岡正肇、野村光、古嶋誉幸、洋ナシ、木津毅

表紙イラスト:沖真秀

A5判・176ページ

目次

序文
S1 3D Action 3Dアクション
S2 3D Shooter 3Dシューティング
S3 2D Action 2Dアクション
S4 2D Shooter 2Dシューティング
COLUMN 1 インディゲーム入門:
  あなたはスマホ派? ゲーム機派? それともPC 派? (田中 “hally” 治久)
S5 Adventure アドベンチャー
S6 Adventure (walking simulator) アドベンチャー(ウォーキングシミュレーター)
COLUMN 2 一本のインディゲームが、社会を変えた:
  ポーランドの場合 (徳岡正肇)
S7 Adventure (point and click) アドベンチャー(ポイント&クリック)
S8 Puzzle パズル
S9 Role-playing ロールプレイング
COLUMN 3 インディの自由:
  ゲームにおける性的マイノリティの描写について (木津毅)
COLUMN 4 そもそもインディゲームとは何か?
  その歴史を振り返る(1) (今井晋)
S10 Strategy ストラテジー
S11 Others その他
COLUMN 5 そもそもインディゲームとは何か?
  その歴史を振り返る(2) (今井晋)
索引

[サンプル]

[執筆者紹介]

田中 “hally” 治久
ゲーム史/ゲーム音楽史研究家。作編曲家。主著/監修に『チップチューンのすべて』『ゲーム音楽ディスクガイド』。ゲーム音楽では『ブラスターマスターゼロ』等に参加。レトロ好きなのにノスタルジー嫌いという面倒くさいインディ者。

今井 晋
IGN JAPAN副編集長。2010年頃からゲームジャーナリスト、パブリッシャー、リサーチャーとして活動。世界各国のインディーゲームの取材・インタビュー・イベントの審査員を務める。

千葉 芳樹
IGN JAPAN編集者。もとは個人ブログでインディーゲームのレビューやインタビューを行っており、これがきっかけでメディアに身を置くことになった。そういう意味では「インディーゲームに育てられた」とも言えるのかも。

徳岡 正肇
アトリエサード所属のゲームジャーナリスト・シナリオライター。東欧・中欧・北欧を中心としたヨーロッパのゲーム技術カンファレンス・ゲームショウに招待され、取材や技術講演を行う。モバイル及びインディゲームにシナリオを提供。

野村 光
ゲームレビューに特化した兼業ゲームライター。2014年から商業誌で活動し、2020年時点でレビュー記事を130本執筆する。好きなジャンルは宇宙ストラテジーと格ゲー。オールタイムインベストは『ニュースペースオーダー』。

古嶋 誉幸
一日を変え、一生を変える一本を! ゲーム好きの現場監督から無職のバックパッカーを経てフリーランスライターとなる。さまざまな国を回った結果、花粉症から逃れられる国はなさそうだと悟る。

洋ナシ
フリーライター。IGN JAPAN、Game SparkなどのWebメディアで執筆。ゲームの情報同人誌を発行していたところスカウトされ、ライターとしてのキャリアをスタートした。ひんぱんに自分は女子高生だと主張している。

木津 毅
ライター。1984年生まれ。2011年にele-kingにて活動を始め、以降、音楽、映画、ゲイ/クィア・カルチャーを中心にジャンルをまたいで執筆。編書に田亀源五郎の語り下ろし『ゲイ・カルチャーの未来へ』(Pヴァイン)。

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お詫びと訂正

interview with Tune-Yards - ele-king

E王
Tune-Yards
sketchy

4AD/ビート
※日本盤には歌詞対訳あり。

Indie RockElectronicPolitical PopSoul

 どうしたらこの社会はよくなるのだろう。こんな身も蓋もない言葉の前には、いつだってシニシズムが現れる。関係ねー、そう思ったほうが楽だろう。だが、好むと好まざるとに関わらず、ステージ上でドラムを叩きながらダンスし歌うことで知られるチューン・ヤーズのメリル・ガーバスは、そんなことを真面目に考えているインディ系のミュージシャンとして知られている。しかもその音楽はこの10年、いろんな国のメディアやリスナーから支持され続けている。チューン・ヤーズのような音楽があること自体、我々にとって幸福なことなのだから。
 チューン・ヤーズの主題は、白人至上主義、人種差別、気候変動、フェミニズム、資本主義の欠陥や都市の再開発などであって、恋愛やドラッグの話ではない。そして彼女の明瞭なオピニオンと思考の痕跡は、たいていの場合リズム主導のダンサブルな音楽とともにある。5枚目のアルバムとなる本作『sketchy』も例外ではない。前作以上に内省的な一面があるとはいえ、それでもパワフルだし、聡明で、知的で、喜ばしくもあり、ときにはアジってもいる。

 さて、メディアや芸能界、あるいはポップ音楽やアニメの世界には、おうおうにして男社会が望むであろう女が描かれている。こうした女性像、お決まりのジェンダーを破壊したのが、パンク〜ポスト・パンクの女性たちだった。ぼくの思春期は、彼女たちに教育されたと言っていいだろう(出来は悪いが、アイドルに熱をあげることもなかった)。チューン・ヤーズのメリル・ガーバスもそうした、世界が押しつける性から解放されている女性のひとりで、この話はじつはBLMにも繫がっている。

 BLMを紐解けば、その発端には奴隷貿易があり、その背後には植民地主義がある。植民地主義とは人種差別だけの問題ではない。子供から大人になる過程の青年期における教育と深く関わっている。ヨーロッパから教育を輸入した日本も同じで、それは、男はこうあるべきで女はこうあるべきだという設定のことでもある。本来ロックとはその設定を破壊する音楽であり、じっさいその役目を果たしてきた。だから過去に戻りたい人がいるいっぽうで、チューン・ヤーズのように内面化された設定を破壊して未来に進みたい人はいまもいる。

 チューン・ヤーズはしかも、軽やかなスリーヴデザインや彼らの明るい写真とは裏腹に、深い。政治をテーマにしつつ、正しいと思っていることの背後に自分を隠さない。例えば白人の特権についての考察など困難なテーマにも、真摯に向き合っている。そのことは以下のインタヴューを読んでもらえればわかるだろう。
 もうひとつ重要なのは、チューン・ヤーズは言うなれば左翼で、一貫して“ポリティカル”ではあるが、その音楽はじつにポップでもあるということだ。もう少しサウンドについて訊けば良かったと思わないわけではないが、やはりこの人たちには、BLMやトランプ、あるいはアリエル・ピンクついて訊かないわけにはいかなかった。そしてチューン・ヤーズを構成するふたり、メリル・ガーバスと彼女のパートナーのネイト・ブレナーは、彼らの葛藤もふくめ、しっかりと質問に答えてくれた。

わたしたちは「自分の近辺にトランプ支持者はいない、彼らからはかけ離れている」、そう思っているわけだけど、じつはトランプは多くの意味で真実を語っているんじゃないかと。
もちろん、ここで言うのは注意書きつきの「真実」だけどね、彼は嘘八百だし。

今日はお時間いただきありがとうございます。

メリル・ガーバス&ネイト・ブレナー:こちらこそ!

さて──(カウチに並んで座っているふたりの膝の上にペットの子犬が割り込んできてじゃれる)お、こんにちは! あなたは誰? 男の子かな、女の子かな?

メリル・ガーバス(以下メリル):(笑)女の子。

めちゃくちゃ可愛いですねー。

メリル:フフフッ!

以前にも増してパワフルな作品で、しかもより強いメッセージがあるアルバムになりましたね。アルバムの最後が叫び声で終わっているのはなぜですか? やりたいことをやった後に自然と出てしまった叫びなのかと受け止めましたが。

メリル:いや、あれはじつはわたしの妹(ルース・ガーバス)の声。彼女は素晴らしいシンガーでね。とにかく彼女のやったことを気に入ったんだ、音程を合わせる云々を気にせずに生(き)のまま、少しリヴァーブをかけた程度の彼女のヴォイスが。すごくクールな響きだと思ったし──あっ、あれにリヴァーブはかけていないっけ。純粋に彼女の声だけだ。で、あれが自分にはとても強烈に響いたし、素晴らしいと思った。あっ!(子犬が急にクッション相手に猛烈にじゃれはじめたのをあきれて眺めつつ)あー、この子、ちょっと興奮気味。クックックックックックッ!

ネイト・ブレナー(以下ネイト):(苦笑)

メリル:(ひとしきり笑いこける)……えーと、うん。とにかくあの声をちょっとフィーチャーしたいと思ったし、これといった意味/概念を持たせるつもりは自分にはなかった。それよりもっと、あの叫びの音響としての要素のほうが重要だったし、ばっちりだと思えた。(ネイトに向かって)彼も使うのがいいと確信させてくれたし。

ネイト:フフフッ!

アルバムの歌詞には直球なアジテーションが多いように思います。それというのも、やはりいまの時代状況という背景があると思います。社会的にも動乱の多い時期ですし。

メリル:うん。

アルバム・タイトルの『sketchy』は時代をスケッチする、そんな時代状況を描くということですよね?

メリル:フム。物事にひとつに限らず違った意味がいろいろある、というのはいいなと思うんだよね。で、「sketchy」という言葉だけど、いまというのはわたしからすれば、しっかり揺るぎないものとは思えないことが多い、不安定な時期であって。だから、物事は鉛筆で輪郭をざっと描いたスケッチ(素描)程度に思えるし、それだけにいまのわたしたちは未来をあまり遠くまで見通すことができずにいる、というのが背景にあるアイディア。
それもあるし、「sketchy」という言葉の使い方には「あんまり信用できない」というのもあって(sketchy=不完全な、不十分な、漠然とした等の意味もあり)。だから、「things are kinda sketchy(なんか胡散臭いなあ)」なんてたまに言うでしょ?

ああ、はい。

メリル:あんまり真剣に捉えるべきじゃないとか、眉唾ななにか、怪しいから疑ってかかれ、という。その意味合いも、このアルバムでわたしたちが取り上げた様々な事柄の多くにとてもぴったりだと思う──付け加えると、あの言葉はわたし自身にも当てはまるんだろうな!(笑)

(笑)へえ、それはなぜ?

メリル:いやだから、聴き手も疑問を抱くべきだろう、みたいな発想から来てる。歌詞はわたしの書いたものだけれども、じゃあそれを書いている主体、このわたしはどんな人間なんだ? と。その面も考慮に入れて欲しいってこと。

covid-19のパニックがはじまって1年が経ちますが、この1年は本当にいろんなことが起きました。BLMもあったし、アメリカではトランプにQアノンなどいろいろ。日本ではこの1年政府の汚職や不祥事が続き、オリンピック問題や女性差別問題もいま持ち上がっています。ほかにも香港やミュンマーの民主化を求めるデモとか、世界の北半球だけでもいろんなことが起きていますよね。全地球で言えば気候変動問題もあります。

メリル&ネイト:(うなずきながら聞いている)

こうした諸問題は、じつはひとつに繫がっているという見方もあるわけですが、いろいろあるなかで、今作がこの激動の時代とどのように絡んでいるのかを教えて下さい。

メリル:そうだな、多くの意味で願っているのは……このアルバムを書いたのはパンデミックが起きる以前のことで。アルバムを仕上げ、ミキシング・エンジニアに音源を送ろうとしていた、まさにその矢先にこっちでパンデミックがはじまった。というわけで楽曲のテーマの多く、たとえば“hold yourself”(※本作のクライマックスであるこの曲の解説は後述されています)などは、わたしにとってあれは間違いなく──もう42歳になりつつある、れっきとした大人である自分が過去を振り返るのはどういうことか、という曲で。
わたしは1979年生まれだけど、ということはあの時点でわたしたちは温室効果ガスの存在を知っていて、それが気象変動に影響する可能性も知っていた。ところが当時の権力側はそれに対してなにもしなかったわけ。それにもちろん、現在のわたしたちが未来のために進んで払うべき犠牲や変化のために下せる様々な決断、それらが起きていない点にも目を向けている。いくつかの歌はよりはっきりとジェントリフィケーション(都市の再開発)について、あるいは心の準備について歌っているし、収録曲の多くが……たとえばいま言った“hold yourself”は明確に「これ」と言う事柄について歌っている曲とはいえ、それでもなお、音楽そのものも含めて、いま現在と繫がっていて意義のあるものであって欲しいな、と。

いろんな問題やトラブルのうちのなにかひとつにフォーカスしたというよりも、あなたに興味のあるいくつかの問題やテーマ、それに対するあなたの反応が組合わさったアルバム?

メリル:(うなずきつつ)うん、それもあるし、たとえ人びとが「この問題」、「あの問題」なんて具合に箇条書きにするとしても──この国(アメリカ)では、「気象変動問題」、「人種差別による不平等」といった具合に、物事を分けて考える傾向があるんだよね。けれども、それらのじつに多くは、完全に相関関係にあって。

ですよね、こんな風に(と、両手の指を絡ませ合うジェスチャー)。

メリル:(笑)そう。

ネイト:(笑顔でうなずく)

メリル:だから気象変動ひとつを取り上げるとしても、と同時にそれは有色人(people of color)や貧しい人びとにそれがもたらすインパクトについて話すということであって。あるいは避難民、暮らしてきた土地から移動させられた人びとについて、気象変動によっていろんな社会にのしかかる重圧について考えることでもある。正直言って、そこまで含めて問題が語られるのを耳にすることはあまりない。だけどこの、「パンデミックが起きている」ということ自体、気象変動ととても密接に関わっているわけで。なのにわたしたちは、どうして我々はこうなってしまったのか、なぜここに行き着いてしまったのか? すら語り合っていないという(苦笑)。もちろん、いずれそれについて語り合わざるを得なくなると思う。でも、言い換えればそれは……好むと好まざるとに関わらず、こうした状況は何年も、というかもう数ディケイドにもわたって準備され、互いに関わり合ってきたものだ、と。で、それはこれからも続くだろう、そう思ってる。

誰だって、臭いものにはフタをして、現状や自分たちのライフスタイルを維持する方が楽ですしね。でも、変化のときなんだと思います。

メリル&ネイト:そう。

1曲目の“nowhere, man”、2曲目の“make it right.”は男性社会への怒りと女性への激励のような展開ですが、いきなりどうしてこのような出だしになったのでしょうか?

メリル:必ずしも、曲のテーマゆえにああいう出だしにしたとは思わないな。わたしたちがアルバムの曲順を決めるときに決め手になるのは、大抵はとにかく……

ネイト:……歌詞の内容よりむしろ、その曲のテンポや曲の持つエネルギーを重視する。

メリル:ある意味、理にかなっているのかも……

ネイト:そうだよ。音楽的に強烈なフィーリングのある曲は歌詞の面でもパンチがあるわけで。だから“nowhere, man”みたいな曲が最初に来る、と。

メリル:なるほど。(ネイトと分析し合うノリになっていたので、取材者に説明する姿勢に切り替えて)さて、うん、あの2曲のどちらにも、たしかにエネルギーが宿ってる。リズム面でのエネルギーがね。だから、たぶんあの2曲をオープニングに持ってきたのは、歌詞の内容云々よりも音楽的な選択だった、わたしたちはそう思ってる。

冒頭から聴き手のアテンションをがっちりつかもうとした?

メリル:そういうこと。

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言い換えれば、内在化した女性蔑視を抱えているのは、なにも男性ばかりとは限らない、ということ。
自分のなかのミソジニーの正体を見極め、それを変えていくのは難しい。

質問者(=野田)もよく妻を怒らせているので偉そうなことを言える立場ではないのですが──

ネイト:ハハハッ!

日本が男女同権に関して後進国なのは知ってますか?

メリル&ネイト:(首を横に振って)いいや。

たとえばつい最近も、オリンピック会長の女性蔑視発言が問題になりました。彼によれば「女性は喋り過ぎる」んだそうで。

メリル:ひぇーっ??(目を丸くする)

ネイト:あいたた!(驚いた表情でメリルと顔を見合わせる)

ほかにも育児休暇もほとんどの企業で認められず夫婦別姓も実現しそうにない等々、いろいろあります。

メリル:なるほど。

日本での女性に対する姿勢等については、あまりご存知ないようですね。

メリル:いいえ、知らない。知らなかったな、それは。っていうか、あなたみたいな人に教えてもらうまで、わたしたちには知りようがないし。ノー、知らなかった。

BLMにおける民衆の蜂起には並々ならぬ思いがあったと思います。というのも、あなたは、2011年の『WHOKILL』の時点で、オークランドの地下鉄で丸腰の黒人が警官に射殺された事件を問題視していましたから(※“Doorstep”でオスカー・グラント射殺事件を取り上げた)。また、今作の“silence”という曲ではGrace Lee Boggsという、ブラック・パワーとフェミニズムにも関与していた女性活動家の言葉も絡んでいるようですね。

メリル:ええ。

まずはあなたがBLMをどう捉えているのかを教えて下さい。ポジティヴな変化が起きている?

メリル:イエス! そう。猛烈にポジティヴなことだし、だからこそ、この国でじつに多くの白人がBLMに反撃し激しい巻き返しも起きているんだと思う。というのも、BLMは本当に、ものすごくパワフルで、義心から起きている運動だから。希望に満ちあふれたムーヴメントだし、真の意味での前進を達成させる方法や実際に物事を前に進めるための知恵を備えた国内のオーガナイザーや活動家たちがたくさん参加している。

なぜGrace Lee Boggsの言葉を歌詞に引用したかについてもお聞かせ下さい。残念ながら彼女のことを当方はあまり知らないので、ぜひ。

メリル:グレイス・リー・ボグスは、中国系アメリカ人の活動家。デトロイト出身、というか生涯の大半をデトロイトで過ごした人だった(※グレイス・リー・ボグス/1915−2015。中国移民二世の社会活動家/哲学者/フェミニストで、C.L.R.ジェームズやラーヤ・ドゥエナフスカヤといった社会主義理論家と活動と共にした後、同じく活動家である夫ジェイムス・ボグスと1953年にデトロイトに転居し社会運動や執筆活動をおこなった)。
 少し前に亡くなったはずで、それで彼女の作品や活動に興味を抱く人がいま増えている。でも、注目されているのは、彼女は人びとに対して相手を強く非難・糾弾する姿勢をとらないように、わたしたちの思考回路や「物事はこう変化すべきだ」という考え方に関してあまり強硬にならないようにと諭したからであって。むしろ、わたしたちが自分自身に向かって「自分がこの世界に求める変化を実現するために、自分はどう変化する必要があるだろう?」と問う行為を彼女は求めた。
 で、それはきっと、その手の「相手をやりこめる」型の非難調の政治をわたしたちは長いこと、これまでの人生ずっと目にしてきたからなんだと思う。この国では民主党と共和党がいがみ合い、二党間で意見がえんえん行ったり来たりするばかりで、実際はなんにも前に進んでいない気がする。
 で、少なくともわたしにとっては、彼女の哲学がとても魅力的なものと映るのは、「自分はどう変わればいいのか」という考え方なら、それはわたし自身の手に負える範疇だし、自分自身の変容であれば自分にもコントロールできるし、変容に自主的に集中できる。そうやって、この決して楽ではない自己改革の過程のなかにあっても、強さ、パワー、クリエイティヴィティを見つけ出していこう、と。
 それもあるし、「信じる」ってことだと思う──これは実際にわたし自身感じていることだけど、信じることがわたしたちみんなを繋げているというのかな──だから、誰もがなにかを信じて常にそれを実践していれば、もしかしてたぶん、世界も実際に変化するんじゃないか? と。そのパワーを、たとえば権力者や政党の手に委ねるのではなくて。

変化はわたしたちのなかにある。対立する意見を持つ人びとを非難するのではなく、わたしたち自身のなかから変化を作り出していこう、と。

メリル:(うなずきながら)それは“nowhere, man”みたいな曲にも当てはまる。たしかにあの曲は、誰かを非難しているように聞こえるかもしれない。でも、と同時にわたしはあの曲で自問してもいる。要するに、「女とはなんであるか」という問いに答えきれない、そんな自分のなかにあるのはなんなんだろう? という疑問(苦笑)。

(苦笑)

メリル:(笑)言い換えれば、内在化した女性蔑視を抱えているのは、なにも男性ばかりとは限らない、ということ。

そこはいまだに自分(=通訳)も葛藤します。れっきとしたフェミニストではありませんが、そんな自分でも「なんでこうなるの?」という疑問に出くわしてきました。ただ、よく考えると、女性である自分のなかにもたしかに女性蔑視は巣食っていて。

メリル:うん。

自分の考え方は生まれ育った文化や社会に形作られたものでもあるし、家族他を見て「これが当たり前だ」と思って育った面もあって、難しいです。

メリル:うん。自分のなかのミソジニーの正体を見極め、それを変えていくのは難しい。それは、わたしも同じ。

誰もがなにかを信じてそれを実践していれば、もしかして世界も変化するんじゃないか? と。
そのパワーを、権力者や政党の手に委ねるのではなくて。

E王
Tune-Yards
sketchy

4AD/ビート
※日本盤には歌詞対訳あり。

Indie RockElectronicFunkSoul

“silence”という曲、これはパート1は“when we say <we>”の副題があり、パート2は“who is <we>”ですが、歌詞にある主体のweとは、誰のことでしょう?

メリル:あの曲で発したかった疑問は……わたしたちがよく使う「we(我々)」という言葉、そこに込められた意味は何なのかを問いたかった。別の言い方をすれば……自分にもよく分からなくて(苦笑)。だから、自分の速度をゆるめてじっくり考えない限り、「自分が言う<we>は、実際は誰を指しているんだろう?」というのは曖昧で。自分の想像力のなかで、自分の考えている主体とは誰なのか。あるいは、そこに自分が含めていないのは誰だろう、という点に関してね。たとえばこっちでラジオを聞いていたとして──ラジオの提供するニュースに関してわたしたちも満足しているし、報道ももっと先進的で、「少なくとも、自分たちはフォックス・ニュースを聞いてはいないし」と。

ハハハ!

メリル:(苦笑)うん。ところが、それでもやっぱり含みはあるわけで。だから、自分たちの聞いているラジオ局で誰かが「我々(we)」という主語を発すると、いまの自分はつい耳をそばだてて「フム。ここでラジオの言っているこの<we>って、誰を指すのかな?」と考えてしまう。「we」という言葉/主体を使っているけど、それを使っているのはそれにふさわしい人だろうか? ここで彼らの言っていることは誰もを含めたインクルーシヴな意見? それとも仮定としての「we」なんだろうか? と考える。たぶん仮定の「we」のほうが多いと思うし、ということは、その「我々(we)」に含まれない人びととの間にある壁を叩き壊すことにはならない。だから、この曲の疑問を発するのは自分には重要なことに思える。とりわけいまのように、わたしたちが地球の未来を決めつつある段階ではね。誰について、そして誰のために発言しているのか、それを常に自覚する必要がわたしたちにはあるんじゃないか、と。

“hold yourself”の歌詞の根底にあるのは、白人文化の過去に対する批判、もしくはあなたの親の世代による一種の裏切りに対する眼差しですよね? この曲で言いたかったことを説明してもらえますか。

メリル:そうした思いは、間違いなくあの曲に含まれてる(苦笑)。ただ、話しにくいテーマなんだよね、わたしは両親を心から愛しているし、べつに親に「裏切られた」と思ってはいないから。でも……たぶん、自分たち自身も──わたしたちに子供はいないけど、なろうと思えば親になっていてもおかしくない、そういう年代に自分たちも達した。で、おそらく人生のそういう一時期に入ったことで、「親だって子供」という概念を理解できるようになったんじゃないかと。この歳になっても、この世界について知らないことがまだ山ほどあると感じる自分がいるんだし(苦笑)、それを思えば自分の親だってわかっていなくて当然。自分に子供がいたとしたら、子供はわたしを見て「親だから、わかってやっているんだろう」とお手本にするだろうけど、じつはそんなわたしにもまだ理解しきれちゃいない、という。

(苦笑)ですよね。

メリル:フッフッフッフッフッ! というわけで……その意味では正直、少し悲しみも混じる。だから、あの曲で歌っているフィーリングの大半、わたしからすればそれは、悲嘆ってことになる。それくらい、「もう取り返しがつかない、手遅れだ」と感じるものがたくさんあるってことだから。そう感じるくらい、わたしたちはいろんなものを壊滅してきてしまったんだ、という。(苦笑)ぶっちゃけ、そうでしょ。それに、無力感もあると思う。自分たちに子供はいないけど、普段からキッズとたくさん接しているし、子持ちの友人も多い。だから、感覚としてはこう……なにかが起きつつある場面をスローモーションで眺めている感じ。大災害が起こりつつあるのを低速で見ている。

ネイト:うんうん。

メリル:夢のなかで悲劇がゆったり展開していくのをただ眺めている、みたいな。でも、夢だから自分には手の出しようがない、悲劇が起こるのを食い止めることはできない。そういう感覚があの曲にはある。

ほんと悲しいですね、それは。

メリル:うん、ほんとそう。

でも、これまでもそうした無力さを感じて悩んだひとはいたと思います。それに、たとえばBLMを見ていると、若い世代に限っていえば、そうした社会的な意識はそうとう更新されているように思いました。報道を見ていると、若い白人のキッズが多くBLMに参加していて、旧世代よりも団結心がありそうで。そこに希望が持てます。

メリル&ネイト::うん(うなずく)。

去年の10月のアメリカ人ライターのラリー・フィッツモーリスとの取材で、あなたの政治意識が若い頃から芽生えたことや、ブレヒトの人生に関する本を読んでいること、マルクス主義や共産主義について話している記事を読みました。

メリル:うん。

では、音楽の分野において、あなたが政治的に信頼を寄せているミュージシャンに誰がいますか?

メリル:ああ……その質問は楽じゃないな(と考えつつ)。たくさんい過ぎて「このひと」と特定しにくいから。わたしたちの音楽仲間のじつに多くが同じような思いを共有しているし、この世界で正義と平等とが実現するのを求めていて、気象変動問題にも対応している。うん、だから……(苦笑)たぶん、アメリカってこうなんだろうな。要するに、自分の生活する狭い範囲、その範疇ではほとんどの人間が自分と同じように考えている、と。となるとそこで生じる問題は、では、自分と同じ考え方をもたない人びとと会話を交わし、彼らと相互交流するにはどうすればいいのか?ということで。そうは言っても、もちろん、オークランド(※メリルとネイトが暮らす米西海岸の都市)もすごく多様だけどね。たとえば、そのなかでも非常に「進んでいる」とされるエリアですら、やっぱりトランプ支持者はいるし、彼らはいまどう感じているのやら、想像もつかない(苦笑)

(笑)

メリル:(笑)でも、いわゆる「先進的なムーヴメント」のなかですら──それはそうよね、異なるアプローチや視点があるんだし。ただ、そんなわたしたちは白人的過ぎる。大卒の学歴があり、アート系のキャリアを築いている、そういう人が多いし……だから、わたしたち(=高学歴の白人)こそ多くの人びとにとって問題だ、という(苦笑)。

いや、必ずしも問題ばかりだとは思いませんが。

メリル:うん、もちろん。ただ、わたしたち自身、自分たちのいま暮らしているこの地域のジェントリフィケーション(都市の再開発)の一端を担っているわけで。その責任を、わたしたちは問われるべきだと思う。

ロンドンからこのZOOM通話に参加していますが──

メリル:えっ、そうなんだ?!

はい。たとえばわたしの暮らす南ロンドンも、以前は荒っぽいとされていましたが、ジェントリフィケーションが進んで小じゃれたコーヒー店やクラフト・ビールのお店等々が増えて中流階級の住民が流入しています。

メリル:なるほど。

おかげで、治安はよくなったかもしれません。ただ、主に貧しい人びとが住んでいたエリアとそのコミュニティが乗っ取られたという感覚はありますし、そんなことを言っている自分もジェントリフィケーションの一因かもしれませんし。

メリル:日本でも起きている?

日本でもジェントリフィケーションは起きているでしょうね。というか、世界的な現象なんじゃないでしょうか?

メリル:ああ、そうよね。

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チューン・ヤーズをはじめた当時、わたしはアフリカ音楽ばっかり聴いていたのが大きい。
自分が内面化していたのはアフリカ音楽とそのリズムだった。
たとえば“Bizness”は明らかにフェラ・クティとトニー・アレンに多くを負っている。

ちなみに、パンク・ロックからの影響は? あなたたちのバックグラウンドはパンクやインディペンデントなDIYカルチャーにあると思っています。パンクやその周辺のDIYコミュニティは先進的な思想を掲げ、人びとを啓蒙しようとし、社会における不平等とも闘ってきました。あなたたちも強く影響されましたか?

メリル:……たぶん、ネイトはこう答えるんじゃないかな──

ネイト:(苦笑)

メリル:(笑)──パンクから、音楽的にはべつに影響されてない、って。ただ、精神性という意味ではイエス、影響された。パンク・ロックはそれほどがっつり聴いているわけじゃないんだ。ふたりとも、正直そんなに聴かないし……いや、そうは言ってもラモーンズの曲は聴いたことがあるし、ザ・クラッシュの音楽はよく聴く。ただ、それだって自分にとっては、クラッシュを聴くのは彼らがレゲエを取り入れていたからであって。

ネイト:そうだね。

メリル:彼らはそうやって、ほかの音楽伝統の数々を自らの音楽に含めていたし。だから、パンク・ロックおよびそのDIYな精神については、たしかに自分も影響を受けたと思う。そうは言っても、アメリカのパンク・シーンの多くは白人が圧倒的に大多数を占めることが多く、ゆえにそれぞれ問題を抱えていた、そこは承知しているんだけどね。ただ、あの「パワーは自分たちの側にある」というパンクの気風とか、巨大な力を持つ大企業に支配されずにリリースされた唯一の音楽だったこと、そして金銭目当てではなくたってポピュラーな音楽を作ることはできると教えてくれた、そういった意味では、うん、パンクは確実に、わたしの信条システムのなかに大きな位置を占めている。

なるほど。はじめてチューン・ヤーズを聴いたときはザ・スリッツを重ねてしまったので、ポスト・パンクに影響されたのかな? と思ったんです。

メリル:うんうん。わたしの耳を通過してきた音楽はたくさんあるし、きっとそのなかにスリッツも混ざっているんだろうな。それもあるし、単に「美しい」だとか、「天使のような歌声」と形容される以外の女性の声を耳にするのって……それが誰であれ、「女性の声はこういうもの」と普通思われているものとは違う歌い方をする女性シンガー、大声で張りさけぶひとたちは(笑)、わたしにはとても大切な存在。

アフリカのリズムを取り入れるきっかけはなんだったんでしょうか? またどうして自分の音楽にパーカッシヴな律動を取り入れたいと思ったのですか? 

メリル:べつに「そうしよう」と決めてやったことではなくて……いまあれをやろうと思ったら、たぶん二の足を踏むだろうな。それくらい、(アフリカン・リズムを白人が取り入れるのは)問題をたくさん引っ張り出す行為だから(苦笑)。
でも、それよりむしろ──チューン・ヤーズをはじめた当時、わたしはアフリカ音楽ばっかり聴いていたのが大きい。自分が消化し内面化していたのはアフリカ音楽とそのリズムだった。たとえば“Bizness”(『whokill』収録)は明らかにフェラ・クティとトニー・アレンに多くを負っているし、ほかにもいろいろある。ああ、もちろん『Nikki Nack』(2014)も。あのアルバムはとくにそうだな、実際にハイチに行ってハイチ音楽とダンスを習った上で、現地の音楽を学んだことで生まれたレコードだから。でも、意図して取り入れたのではなく、良くも悪くも、わたし自身が心から反応した音楽がアフリカ音楽だった。
それもあるし、アフリカ音楽へのアクセス路もあったから。要は、大学を卒業した頃にインターネットが存在するようになった、と(笑)。子供の頃からアフリカ音楽をいくつか聴いて育った面もあるとはいえ、目覚めたきっかけの多くはやっぱり、インターネットの登場以来もっと多くの音楽に触れることができるようになった、そこだろうな。でも──うん、さらに付け加えれば、わたしたちのどちらも、主にアフリカン・ディアスポラによる音楽を聴きながら育ったわけで。それはニューオーリンズ産の音楽かもしれないし、ジャズかもしれない。マリやナイジェリアの音楽、ジャマイカの音楽等々にハマっていったし……。うん、そういった音楽にわたしはとにかく、常に惹き付けられてきた。本当に、ごく若い頃からね。

それはもしかして、あなたはダンスが好きだからでは?

メリル:ああ、たぶんそう! アッハッハッハッハッ! たしかに、踊るのはずっと好きだから(笑)。

アメリカのことで、今回あなたに訊きたかったことがひとつあります。1月のトランプ騒動(議会乱入事件)の際にアリエル・ピンクもワシントンに出向き、トランプ応援を表明しましたよね。

メリル&ネイト:ああ……(顔をしかめる)。

音楽コミュニティ、とくにインディ音楽シーンの住人はまず反トランプ派だろうと思っていたのであれはかなりショッキングだったんですが、なぜ彼のような人がトランピストになるのか、あなたの意見を聞かせて下さい。

メリル:……(フ〜〜〜ッと大きく息をついて考え込み、ネイトと顔を見合わせる)

ネイト:……ぼくにもさっぱりわからない。不思議に思う、っていうか、同じ質問を自分自身に「なんで?」と尋ねているくらいで。

メリル:(苦笑)

ネイト:(苦笑)

メリル:答えるのは難しいな。ほかの誰かさんの頭のなかがどうなっているかを勝手に憶測したくはないし。ただ、ひとつ思うのは、わたしたちは……フム、これはどう言ったらちゃんと伝わるかな?(と軽く考え込んで)……うん、だから、わたしたちは「自分の近辺にトランプ支持者はいない、彼らからはかけ離れている」、そう思っているわけだけど、じつはトランプは多くの意味で真実を語っているんじゃないかと。彼は形式張らずに言いたい放題で、この、一種の──いや、もちろん、ここで言うのは注意書きつきの「真実」だけどね、彼は嘘八百だし。けれども彼は……

ネイト:……彼はそれこそ、もうひとつのリアリティを作り出してしまったって感じがする。だから、彼の支持者になると、その人間は彼の言う何もかもを鵜吞みにするようになり、メディアの報道は一切信じなくなる。大統領選で彼は破れたわけだけど、そのオルタナティヴなリアリティのなかでは勝ったことになっている、と。深くハマっていけばハマっていくほど、人びとは彼の言葉に心酔しのめり込み、完全に彼を支持するようになる、みたいなことだと思う。彼らの見方だと、実際のリアリティ/現実がちゃんとあるのに、彼らにとってそれはぜんぶ嘘だ、ということになって……(首を横に振りながら)いや、ぼくにもさっぱりわからないんだけどさ!

メリル:(吹き出す)クハハハハハッ!

ネイト:ただまあ、そんな風にいったんワームホールにものすごく深く、深く落ち込んでしまうと、突如として別の場所に抜ける、みたいなことじゃないかと。そこでは真実は何なのか、リアリティは何なのかがもはやわからなくなる。上昇が下降になり、下降しているつもりが上昇していたり、いわばあべこべの世界という。

メリル:(話し出そうとして)ごめん、発言を中断させた?

ネイト:いいよ、気にしないで。

メリル:いや、わたしにもひとつ言わせて。考えるんだけど……というか、つい思ってしまうんだよね……真実やなにかを想像し責任を負うことって、とりわけ白人男性にとっては、難し過ぎてやれないことなのかな? って──(「白人男性」に含まれるネイトに向かって)いや、あなたは除くから安心して。

(笑)

メリル:ただ、白人男性はいまや様々な批判にさらされているわけで。たとえば“nowhere, man”でわたしが取っ組み合っている疑問は、あなたはどんな風に──というか、自分を例にとって言うと、白人としてのこのわたしは、自分の生きるこの社会、そのすべてが自分(=白人)のために築かれたものであるという現実、それをどう受け止めるか? ということで。で、トランプが白人男性に対して──もちろん白人男性以外にもたくさんいるけど、彼がとくに白人男性層に向けて言っているのは「現実は悲惨過ぎる。事態がこんなにひどいなんてあり得ない、嘘に違いない。だからわたしの言うことを信じなさい」みたいなことで。
で、そういうひとたちが考えるのは……自分の環境を支配すること、そこなんだと思う。いまは生きているのがおっかない、本当におそろしい時代だし、だからこそ自分自身の引き起こしてきたいろんな破滅・破壊や苦痛の数々を自覚し脅威を感じるよりも、むしろ自分なりのこの世界の理解・把握にしがみつくことを選ぶ、そういう人びとが一部に出て来るんだろうな。

E王
Tune-Yards
sketchy

4AD/ビート
※日本盤には歌詞対訳あり。

Indie RockElectronicFunkSoul

最後の質問というかお願いですが、“be not afraid.”に込めたあなたの思いについて話してもらえますか?

メリル:あれは……(ネイトに向かって)音楽的なフィーリングでなにを表現したかったか、覚えてる?

ネイト:(おどけた表情で「思い出せない」という仕草)

メリル:フッフッフッ!……あの曲のヘヴィなドラム・ループが本当に気に入ったんだ。どこかしらこう、地に足の着いた感覚を抱くし、たくさんの人間があのループに合わせて行進できそうな、そんな気がした(笑)。歌詞の面で言えば、あれはわたしからのお願い、でしょうね。あの曲で、わたしは自分をもっと責任を問われるポジションに置いていて、進んで責任を問われたがっている。自分の周囲にいる愛する人たち、彼らに、これまでわたしがどんな風に彼らを傷つけてきたか、それをわたしに教えてもらいたいと思ってる。
それにあの曲の多くには、いままさに大きくなっている子供たちに向けたもの、というフィーリングもあって。彼らに対して「いいよ、はっきり言ってくれて大丈夫。わたしは批判を受け止められるから」と呼びかけている、みたいな。これまで自分が数多くの害と破壊を引き起こしてきたことは自覚しているし、あなたたちの未来をより困難にしているもの、自分がその一端を担ってきたのはわたしも承知しているから、と。
だからあの曲は、そういう決して楽ではないことをやろうという誘いだし、耳に痛い言葉を聞かせてちょうだい、と招いている。どうかあなたの言葉を聞かせて、我慢して内にため込んだりしないで欲しいし、わたしに直球でぶつけてくれていいんだよ、と。

質問は以上です。今日はお時間いただき、どうもありがとうございます!

メリル&ネイト:こちらこそ、ありがとう!

新作をわたしもとても気に入っていますし──

メリル:ありがとう。

──あなたたちが再びツアーできる日が来るのを祈っています。

メリル:同感〜〜〜っ! ほんとそう! ともあれ、起きて取材に付き合ってくれて本当にありがとう。ロンドンでしょ? そっちはいま何時?

えーと、午前1時45分です。

メリル&ネイト:(仰天した表情で口々に叫ぶ)えええぇーっ!? まさか!

(苦笑)

メリル:そうなんだ? なんてこと……(とひたすら申し訳ない表情)

いや、よくあることなんで。あんまり気にしないでください。

メリル:本当に、本当にありがとう。
(子犬がまたもふたりの膝に飛び乗って画面に割り込み、大あくびする)

(笑)遊んでもらいたいみたいですね。じゃあこのへんで。

メリル:(子犬を愛おしげに眺めて笑顔)クックックックッ!

さようなら、お元気で!

メリル&ネイト:ありがとう! おやすみなさーい!

Overmono - ele-king

 2013年の「Hackney Parrot」や「Nancy’s Pantry」で大きなインパクトを残し、近年は〈Whities〉(現在は〈AD 93〉に改名)からもリリースしているテッセラ(Tessela)ことエド・ラッセル。
 その彼と、トラス(Truss)名義で活動するトム・ラッセルから成る兄弟デュオがオーヴァーモノだ。昨秋のEP「Everything You Need」も良かった彼らだが、去る3月24日に最新シングル “Pieces Of 8” がリリースされている。

 どうです、かっこいいでしょう。これまで彼らのライヴで披露されてきたこの曲は、4月9日に発売される12インチ「Pieces Of 8 / Echo Rush」のA面に収録予定。B面も楽しみだ。

Alan Vega - ele-king

 2016年7月に他界した、NYノーウェイヴの始祖スーサイドのヴォーカリストだったアラン・ヴェガ。彼が1995年から1996年にかけてニューヨークで録音した未発表作品が『Mutator』というタイトルで〈Sacred Bones〉から4月23日にリリースされることが先日アナウンスされた。そのリリースに先駆けて、アルバムから“Fist”なる曲が公開されている。Liz Lamereによればこの曲は「人びとが力を集め、いっしょになってひとつの国を作るための強力な行動の呼びかけ」だという。
 なお、〈Sacred Bones〉にはほかにもヴェガの未発表音源のアーカイヴがあり、『Mutator』以降も発表する予定だ。

Andy Stott - ele-king

 10年代を代表するプロデューサーのひとり、アルバムごとにいろんな表情を見せるマンチェスターの異才、アンディ・ストットが通算8枚目となる新作『Never The Right Time』を〈Modern Love〉からリリースする。これまでの彼の作品の進化型であると同時に、ノスタルジアや魂の探求に導かれた曲もあるようだ。現在 “The Beginning” が先行公開中。ストットの元ピアノ教師にして近年のコラボレイターであるアリソン・スキッドモアのヴォーカルがフィーチャーされている。発売は4月16日。

Goat Girl - ele-king

 ゴート・ガールのセカンド・アルバムは、2021年初頭のクライマックスのひとつだろう。本作がリリースされた1月から2月にかけてのおよそ1ヶ月ものあいだ、ぼくは三田格とともに『テクノ・ディフィニティヴ』改造版のため、ほぼ毎日、1日8時間以上、エレクトロニック・ミュージックを片っ端から耳に流し込んでは文章を書きまくっていたので(それはそれで充実した日々だったけれど)、ほかの音楽を聴く時間などなかったし、ましてや新譜などエレクトロニックでなければ後回しである。で、『テクノ・ディフィニティヴ』が終わったと思ったらここ1ヶ月は、またしても三田格とともに別冊のフィッシュマンズ号のために取材をしたり調べたり、ほぼ毎日、1日8時間以上はフィッシュマンズを聴いている……わけではないので、いまようやくゴート・ガールまで追いついたという。ふぅ、いまようやく、彼女たちの新作『On All Fours』が素晴らしい出来であることを知ったのであった。

 にしても……バンドというものは、こうして成長するのか。本作3曲目に“Jazz (In The Supermarket)”という曲がある。喩えるなら、この曲はザ・クラッシュの『サンディニスタ!』やザ・レインコーツのセカンドのなかに入っていたとしても不自然ではない、そう言えるほどの舌打ちしたくなるような格好いい雑食性がある。レゲエ風のリズムも個人的にかなりツボで、本文を書いているたったいま現在かなり空腹であることから、ロンドン郊外のあまり高級ではないエスニック・レストラン街が夜霧の向こうに見えてくるようだ。
 ふざけている場合ではない。『On All Fours』はメランコリックで、雑多で、不機嫌で暗い顔をしている人たちをひそかに讃えながら、不安の波が打ち寄せる空しい夜の甘い甘いサウンドトラックとなる。“P.T.S. Tea”のトランペットといい、“Once Again”のベースラインといい、“A-Men”のドラムマシンといい、そしてアルバム全体を浮遊し漂泊するシンセサイザーやギターの音色といい、ゴート・ガールはポストパンク流の格好の付け方をよくわかっている。ちなみに1曲目の曲名は“ペスト”、歌詞は読んでいない、ぼくはまだ音だけに集中している段階なんだけれど、本作がパンデミックの状況にリンクしていることは確実だろうし、メンバーの深刻な病も無関係でないだろう。
 しかし『On All Fours』には、そうした不吉なムードを払いのける強さもある。ザ・フォールの前座を務めたという経歴は伊達ではなかったし、憂鬱で冷たくて、しかし13曲すべてにそれぞれ固有のアイデアがあって、それらすべての曲がキャッチーでもあるこのアルバムは、ものごとがどうにもうまくいかない愛すべき人たちのなかで何度も反復されるだろう。フィッシュマンズのことを考えている最中に聴いても、あまり違和感がない。

REGGAE definitive - ele-king

全世界の音楽ファン必読のディスクガイドが登場!

スカ、ロックステディ、レゲエ、ルーツ、ダブ、ダンスホール

60年以上もの歴史のなかから
選りすぐりの1000枚以上を掲載
初心者からマニアまで必読のレゲエ案内

A5判・オールカラー・304ページ

Contents

Preface

●Chapter 01 The Ska era (1960-1965)

Column No.1 サウンド・システムのオリジン

●Chapter 02 The Rock Steady era (1966-1968)

Column No.2 1968 最初のレゲエ

●Chapter 03 The Early Reggae era (1969-1972)

Column No.3 DJというヴォーカル・スタイル
Column No.4 ルーツ・ロック・レゲエ、バビロン、Fire pon Rome

●Chapter 04 The Roots Rock Reggae era (1973-1979)

Column No.5 スライ&ロビーとルーツ・ラディクス、ロッカーズからダンスホールへ

●Chapter 05 The Early Dancehall era (1980-1984)

Column No.6 ダンスホールの時代
Column No.7 サイエンティストの漫画ダブ

●Chapter 06 The Digital Dancehall era (1985-1992)

Column No.8 My favorite riddims.
Column No.9 レゲエと聖書とホモセクシュアル

●Chapter 07 The Neo Roots era (1993-1999)

●Chapter 08 The Modern + Hybrid era (2000-2009)

Column No.10 大麻問題

●Chapter 09 Reggae Revival era (2010-2020)

Column No.11 Reggae Revivalというコンセプト

Index

[著者]

鈴木孝弥
ライター、翻訳家。訳書『レゲエ・アンバサダーズ 現代のロッカーズ──進化するルーツ・ロック・レゲエ』、『セルジュ・ゲンズブール バンド・デシネで読むその人生と音楽と女たち』、『ボリス・ヴィアンのジャズ入門』ほか。レゲエ・ディスクガイド関係の監修では『ルーツ・ロック・レゲエ 』や『定本 リー “スクラッチ” ペリー』など。『ミュージック・マガジン』のマンスリー・レゲエ・アルバム・レヴューを15年務めている。

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3 久しぶりにCDを買った。 - ele-king

 先日久しぶりにCDを買いました。

 自分でCD買ったのは中学1年生のときのThe Strypes以来。Blue Collar Jane。懐かしい。 雑貨屋さんで良さげな音楽がかかっていて、売ってるものも可愛いし、いい店だなと思いながら見ているとCDが売っていてどうやら店内でかかっているのもそのCD。手に取ってみる と自作で小さい字でタイトルと曲名とアーティスト名がプリントされたシールが貼ってあるだけ。情報量の少なさが俄然興味をそそる。お店の方の話を聞くと店員さんの同居人が作っ たそう。ミステリアスで益々気になる。

1. Tomoya Ino - Phantasmagoria

 帰ってきて、埃のかぶったCD読み込むやつを探し出しダウンロード。17曲入りで全部良い。適当に買ったのにこんなに良いのってくらい良い。

 ほとんどインスト曲だけどギターの曲、ピアノの曲、padぽいシンセのアンビエントなどなど、バラエティ豊かだけど雑多で無く、派手すぎず地味すぎず、ちょうど良い。基本Lo-fiだけど飽きてきた頃にカオティックなノイズが出てきたり。こういうオールラウンドな“ちょうど良さ”を見つける感覚って貴重。

 残念ながら僕の買ったアルバムはネットには上がっておらず、アルバムの中の数曲が soundcloudとBandcampで聴けるようです。

 ネット上になかった僕のお気に入りの''Good morning''という曲はSteve Hiett, The Durutti Columnライクなメロディアスなギターの曲。ヴィニよりもバレアリック、チルアウト、 Lo-fi寄りなのが現代っぽい。

 最近僕はこういうまだほとんど世に知られていない音楽やミステリアスなアーティストに心惹かれる気持ちをより大切に思っていて。検索すればわりとマイナーなアーティストでもインタヴューの1、2本は出てくるし、TwitterやらInstagramで本人のつぶやきや私生活が見れる人もいるからネット上に情報が少ない人って好奇心をくすぐられる。 いままで貴重で興味深いものだったアーティストの私生活が、インターネットの発達とSNSの普及によって価値が薄れていってるのは社会全体でもあるんじゃないか。

2. Daft Punk

 さらばDaft Punk、the most enigmatic superstars in pop。いまさらダフト・パンクについてレヴューすることもないのですが、いざ解散すると言われると彼らについて話したくなる。僕は小学生のときipodに入れてもらってよく聴いていたので、たぶん僕のダンス・ミュージックの原体験はDaft Punk。自分がダンス好きって気付く前にポップ・ミュージックとしてDaft Punkを聴いてた人、若い世代だと多いのではないのでしょうか。

 久しぶりに“One More Time”なんか聴いたら、月並みですが、本当に体が勝手に踊り出す。“One More Time”の歌詞なんか気にしたことなかったけど、「We're gonna celeblate, don't stop dancing」ってダンス・ミュージックの歌詞としてこれ以上ないんじゃないかとちょっと感動。幼少期の記憶と結びついてる空っていうのもあるけど、開放と祝祭性の濃度が高すぎてパソコンの前で聴いてるだけなのにお腹がくすぐったくなる。

3. Zongamin - O! Versions

 カナダ・モントリオールの〈Multi Culti〉から2018年リリースの「O!」のリワーク版、「O! Versions」。 Mukai Susumuさんという日本生まれイギリス在住のアーティスト。Funk、Disco、House、Post Punkなど要素が多くて形容しがたいけど、怪しくオリエンタルな雰囲気で統一されて いる。自身で手掛けているジャケットのイラストも変で良い。

 KEXPでのFloating Pointsのライヴ映像でベースひいてたり意外なところで見かける。Mukai さんがメンバーのVanishing Twinというサイケバンドも◎。

4. ​Heisei No Oto - Japanese Left-field Pop From The CD Age (1989-1996)​- Various Artists

 アムステルダム、〈MUSIC FROM MEMORY〉から日本が最高潮で微妙な時代の珍妙なポップス。 僕はこの時代の邦楽全然聴いていないし、生まれてもいないので時代感もいまいちわからないのでJ-popというよりどこか近くの別の国の音楽に聞こえる。僕と同世代には新しいジャンルの音楽かも。

 細野晴臣アレンジの井上陽水「Pi Po Pa」は’90年NTTのイメージソングだったらしいですが、電話ランデブーって笑。いかにもバブリーな語感でウケる。
 シティポップ旋風もそろそろ下火かなと思ってたけどまだまだ掘り下げるようです。 そのうち“うっせぇわ”や“夜に駆ける”がどこかの国でヴァイナルとして再発されることでしょう。

tau contrib - ele-king

 電子のシャワーか。仮想空間に降り注ぐ光の雨か。電子音の欠片が粒子になって、透明な音の結晶としてリコンストラクションされていくかのごときエレクトロニック・サウンドか。不可思議なサイエンス・フィクションがもたらす電子的ノスタルジアの安らぎか。ここにあるのはまさに電子の精霊たちの饗宴、とでもいうべき清冽なサウンドスケープである。奇妙なオリジナリティに満ちた電子音響/アンビエントを聴いた。タウ・コントリブの『encode』(https://sferic.bandcamp.com/album/encode)のことである。
 リリースはロメオ・ポワティエ『Hotel Nota』、ジェイク・ミュアー『he hum of your veiled voice』などの優れたアンビエント作品のリリースで知られるマンチェスターのアンビエント・レーベル〈Sferic〉からだ。このレーベルからリリースされたこれらのアルバムは、どの作品も仮想空間をトラベルするような独特の没入感を誇るサウンドを有している。いわば「ネオ・アンビエント」とでもいうべき新時代の音響作品ばかりなのだ。『encode』もまた同様に2021年の「新しいアンビエント」を象徴するような聴きやすさと緻密さを併せ持った仮想空間アンビンエス・サウンドを構築していた。

 タウ・コントリブは、ライプツィヒ在住のアーティストである。彼は2019年にベルリンのレーベル〈Infinite Drift〉からオティリオ名義の『6402』(https://infinite-drift.bandcamp.com/album/6402)を2019年にリリースしているが、タウ・コントリブとしては今回の『encode』が初のリリースでもある。オティリオのときからすでに実現していた有機的に交錯する電子音のサウンドデザインは、『encode』ではよりいっそう研ぎ澄まされていたのである。
 アルバムには全7曲が収録されているが、全曲を通してサウンドが大きなウェイヴを描くように展開しており、じっくりと聴き込んでサウンドに没入していくと、心地良いノイズと電子音のシャワーが交錯し聴覚に浸透していくような感覚を覚えた。まるで電子音響を通じて自身の知覚が「エンコード」されていくようである。
 いわゆるアンビエント・ドローンのように一定の音に波が心地良く流れていくようなサウンドではない。『encode』の音たちは、まるでいくつもの音の生命が動き、飛び、弾け、交錯し、ひとつの音響空間を生成するような独特のものである。それはときに歪ですらあり、同時に透明な光の粒が輝くようなクリスタルなサウンドでもある。このような質感やコンポジションはほかのアンビエント作家には、近年あまりない。むしろフェネスやピーター・レーバーグ(ピタ)、フロリアン・ヘッカーなどの初期グリッチ/電子音響作家の系譜を継ぐもののようにも思えてくる(本作のマスタリングを手掛けたのがジュゼッペ・イエラシであることも見逃せない)。
 そのような00年代的なサウンド・アート的なサウンドに、10年代的なポストインターネット/ヴェイパー感覚と、20年代的なチルのムードが交錯しているところに『encode』の「新しさ」がある。この「新しさ」はASMR的な音の聴取が普通になった時代特有の「モード」でもあるように思えた。

 そうして生まれた音はいかなるものか。いわば「非反復的」な音の構成というものだ。この「非反復的」ともいえる電子音の蠢きは、反復音や持続音とは違う気持ち良さがある。例えば波の音は一定の反復ではないが、しかしその音には不思議な安らぎがある。『encode』から感じるサウンドも同様なのだ。例えば3曲め “thripSwarms” を聴いてほしい。サウンドの持続と接続が交錯することとで、非反復的な電子音の心地良さが生まれていることが分かってくるのではないか。大げさなたとえを許して頂ければ『encode』の音たちは、それぞれが自由に電子の海を泳ぐ生命体のようだ。まるで音の人工生命か、音による人工自然の生成か。
 タウ・コントリブの音響は、サウンド・アートだけでもなく、アンビエントだけでもなく、ドローンだけでもない。そうではなくそれら「すべて」が音響空間のなかで同時に自律し、生成していくような音なのだ。その音はとても清冽で美しい。まさにネオ・アンビエント/ネオ・アンビエンスである。

KID FRESINO - ele-king

 今年1月の頭にリリースされた KID FRESINO の2年ぶりとなるアルバム『20, Stop it.』。まだ年が明けて2ヶ月ほどしか経っていないが、間違いなく2021年の日本の音楽シーンを代表するアルバムであり、日本のヒップホップ・シーンの最先端かつ輝かしい未来というものを見せてくれる素晴らしい作品だ。

 2018年にリリースされた前作『ai qing』では、バンド編成を軸にトラックの制作をしながら、セルフ・プロデュース曲に加えて外部のプロデューサーも入り、ゲスト・アーティスト勢も含め、アルバム全体のディレクション/トータル・プロデュースという面でも素晴らしい才能を発揮した KID FRESINO。制作方法に関しては本作も前作と同じ流れの上にあるわけだが、約2年という月日の中でより研ぎ澄まされ、洗練されたサウンドへと発展している。ひと昔前はヒップホップとバンド・サウンド、あるいは他ジャンルとの融合というのは、あくまでもオルタナティヴなものであったり、完全には一体化しないズレみたいなものを楽しむ部分もあった。そんな時代と比べると、本作のようにここまでシームレスに混ざり合うのは驚きでもあるし、ジャンルの融合というものを意識することさえ野暮のように思える。これほどまでの完成度の高さは、ある意味、KID FRESINO 自身がひとつのジャンルとも言えなくもないが、そのバックボーンにはしっかりと “ヒップホップ” というものが存在している。しかもそれは最高級の “ヒップホップ” だ。

 先行シングル曲でもある “No Sun” や “Rondo” が本作の主軸となっているが、その一方でサウンドの面での振れ幅は非常に広い。その中でも最も激しく触れているのが1曲目の “Shit, V12” だろう。ロンドンを拠点に活動する object blue によるテクノとベース・ミュージックをミックスしたようなトラックの上に KID FRESINO がバイリンガルの高速ラップを乗せ、感覚的に発せられる彼のラップの絶対的な格好良さがストレートに伝わってくる。外部プロデューサーという意味では、前作から引き続き参加の Seiho が手がけた “lea Seydoux” のトラップやダブステップなど様々なテイストが入り混じったトラックに対する、KID FRESINO の乗りこなし方も実に見事だ。

 一方でこれらの曲とは全く異なる方向性で非常にエッジの効いているのが、バンド・サウンドが全面に出ている “Lungs” という曲で、ゲスト参加している Otagiri というラッパーの存在感は群を抜いている。彼のスタイルはラップというよりもポエトリーにも近いのだが、フロウや言語感覚が実に独特で、しかもバンド主体のトラックとも相性良く、KID FRESINO との掛け合いまで全てが完璧だ。ラッパーの参加曲としては Campanella をフィーチャしたトライバルなビートがめちゃくちゃ格好良い “Girl got a cute face” や “incident” (JAGGLA参加)、“dejavu” (BIM参加)といずれも素晴らしい出来なのだが、結局、“Lungs” を一番繰り返して聞いてしまっている。そんな中毒性がこの曲にはある。

 一方でシンガーをフィーチャした “Cats & Dogs” (カネコアヤノ参加)と “youth” (長谷川白紙参加)も本作の振れ幅の広さを象徴する曲だろう。フォーキーなテイストを持つ前者に、現代音楽とポップスを融合させたような後者と、それぞれテイストは全く異なるのだが、KID FRESINO のフィルターを通すことでそれぞれがひとつのアルバムの中で見事に溶け合っている。
 本作はヒップホップ以外のフィールドにいるリスナーにも間違いなく響く作品であるし、逆にヒップホップの中にいる人にも新たな刺激と気づきを与えてくれる作品に違いない。

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