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Tune-Yards

Indie Rock

Tune-Yards

I Can Feel You Creep Into My Private Life

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木津毅   Mar 07,2018 UP

わたしはただの人間  “Heart Attack”

 トランプ時代においてアイデンティティ・ポリティクスが新たな展開を迎えている。フェミニズムははっきりと第3の波が訪れているとされているし、人種問題の議論も収まる気配を見せず、文化がそれらを足元から支えている。音楽もまた……自分が何者であるかと向き合い、定義し、そして社会的なエネルギーを掘り起こそうとする動きに呼応しようとする。

 これまでも政治的な問題意識やアティチュードをその音楽に包含することを厭わなかったチューン・ヤーズことメリル・ガーバスは、サウンド作りのパートナーとしてネイト・ブレナー(ネイトロニクス名義で奇妙な感触のエレクトロニカ・ポップをやっていた人物だ)を迎え、この4枚めのアルバムでさらに複雑な領域に踏みこんでいる。テーマはアメリカで白人女性として生きること。ある属性ではマイノリティであり、また別の属性ではマジョリティである自分が、果たしてどんな言葉を持ち、どんな音を鳴らすことができるのか。そもそもチューン・ヤーズの音楽はつねにエクレクティックであり、アフリカやカリブ海など「ワールド」の要素が重要なものとして取り入れられてきた。そのリズム感覚こそが彼女の実験的な試みをダンサブルでポップなものにしてきたのは間違いない。ではそれは、どうすれば「搾取」から自由でいられるのか。そうした葛藤や矛盾を、彼女はここで包み隠そうとしない。
 そのようなデリケートなテーマが本作ではさらなる音の実験を導くこととなった。たとえば、海外の評を見ると必ずと言って引用されている“Colonizer”(“植民地開拓者”)の歌詞に「わたしはわたしの白人女の声をアフリカ男性との旅を物語るために使う」という扱うのが難しい問題に言及するものがあるが、そのトラックのイントロはまるでハード・ミニマルのようなサウンドを持っている。そこにアフリカ的なパーカッションが被されば、グリッチとジャズがグニャグニャと混ざり合うような展開を見せる。「わたしの声に血の匂いがする」。あるいは、ガーバスのソウルフルな声がしかしブツブツと途切れるように処理される“Now And Then”では、「善良な」白人としてレイシズムと対峙する様が描写されているという。これまでのチューン・ヤーズではあまり前に出なかった不安や不穏な響きを持ったこうした曲では、非白人の権利が訴えられる現在のアメリカにおいて、リベラルでありたいと思っている白人の後ろめたさや混乱が表現されている。

 だが、オープニングの“Heart Attack”がハウシーなピアノとファンキーなベース、そしてガーバスのパワフルなヴォーカルが躍動する得意のダンス・ナンバーとなっていることからもわかるように、総合的にはチューン・ヤーズらしい前向きなエネルギーに満ちたアルバムでもある。冒頭で挙げた歌詞はリズムが鳴りやむブリッジで呟かれるが、コーラスでは感情の昂ぶりがそのまま身体に訴えかけようとする。「わたしに話させて、わたしに息をさせて」――ただの人間として。そこでは複雑なアイデンティティに引き裂かれたわたしたちが、しかし同じ音に身を任せることでどうにか同じ祝祭を共有できないかを探るようである。ミュージック・ヴィデオでは様々な人種がカラフルな衣装で踊る……といういかにも今時の企業CMになりそうなダーヴァーシティをモチーフとしながら、ガーバスの涙や困惑もしっかりと描かれている。そしてその上でこそ、彼らはヘンテコで愉快なダンスを繰り広げるのである。

 アルバムの重要なインスピレーション元のひとつとして、やはりポール・サイモンの『グレイスランド』があるという。サイモンが素朴に「歌が異文化を乗り越える」とした1986年から時代も移り変わり、グローバル経済や移民問題によるさらなる困難がわたしたちを縛りつけている。ガーバスも考えずにはいられなかったのだろう……異文化を取り入れるときに、わたしたちはどのように政治的な葛藤を乗り越えていくのか、あるいはそこに留まるのか。彼女はここで積極的に悩むことを選んでいる。少なくとも、『アイ・キャン・フィール・ユー・クリープ・イントゥ・マイ・プライヴェート・ライフ』には、様々な国や文化に根差した音がじつに複雑に混ざり合っている。なぜなら、わたしたちの文化的アイデンティティも国籍や肌の色やジェンダーによって簡単に定義できないほど入り組んでいるからだ。
 彼女はここで明確な答を出していないし、本作の実験的な試みがすべて成功しているとは言いにくい。が、「考えるな、感じろ」ではなく、徹底的に考えながら感じるのがチューン・ヤーズのダンス音楽である。

木津毅