「S」と一致するもの

Susumu Yokota - ele-king

 京都のレコード喫茶/バーの「しばし」。同店にゆかりのあるゲストがアナログ盤をかける企画「しばし円盤くらぶ」のスペシャル版として、横田進のリスニング・イベントが開催されることになった。日程は年明け後、1月17日(土)。
 今年はレーベル〈Lo〉が横田の没後10年を機にLP 7枚組ボックスセット『Skintone Edition Volume 1』をリリースしているが、これにあわせ同レーベルは世界各地で「Susumu Yokota World Listening Tour」を実施、日本ではしばしがオファーを受けることに。当日はそのボックスセットからele-king編集長・野田が選んだ2枚がプレイされる。

以下、編集長のコメントとイベントの詳細です。

「横田進さんの『Sakura』は、途中から聴くのではなく、できればそのレコードに針が落とされる前から、そこに待機していただけたら幸いです。というのも、その1曲目の“Saku”の最初の出音がスピーカーからこぼれた瞬間、その場が別世界になるからです。『Sakura』は、海外の人がしばしば言うのは「悟り」ということです。横田さんは特定の宗教に依拠していませんでしたが、彼のなかには彼自身さえ制御できないほどの夢見る力があったことはたしかです。その彼の能力がすばらしく具現化されたアルバムが『Sakura』です。『Image 1983-1998』は彼がハウス・ミュージックと出会う以前から書きためていた音のスケッチ集みたいなものです。これは、よりリラックスしながら、誰かと話ながら聴いてもいいと思います。どうぞ自由に楽しんでください」

● 1/17(土)18:00~21:00︎
しばし円盤くらぶ SPECIAL
Susumu Yokota World Listening Tour

selected by 野田努(ele-king編集長)
featuring albums;
『Sakura』
『Image 1983-1998』

─ リマスター音源
─ 野田努(ele-king編集長)による選盤

入場は無料(要ワンドリンク)
ご予約はDMか店頭にて

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『Skintone Edition Volume 1』

横田さんの没後10年を節目としたロンドンの〈Lo Recordings〉の企画で、7枚組のボックスセットが今年発売されました。
全作品はリマスタリングされ、アナログ盤ではカラー・ヴァイナル(全13枚の12インチの盤)仕様、各アルバムのカヴァーアートは新しくデザインされ、彼の詳しいバイオグラフィーが綴られたブックレットも封入されている。

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◎喫茶しばし(月曜定休)12時-19時

◎しばし ばー 毎週土日 17時-22時
(土日は喫茶17時終了、そのままばーopen)

場所
しばし
〒606-8335
京都府京都市左京区岡崎天王町76-16

 ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(以下、OPN)ことダニエル・ロパティンによる11作目のアルバム『Tranquilizer』が11月21日にリリースされた。その前夜、原宿に期間限定で展開されているBEATINK Listening Spaceでは先行試聴イベントが開催。一足早く、なおかつ高音質で『Tranquilizer』のサウンドを体験するために、OPN愛に溢れるリスナーが集った。
 高音質というのは、BEATINK Listening Spaceに設置された、「正確で曇りのない音」をコンセプトに掲げるドメスティック・スピーカー・ブランド、BWVによる最高音質のスピーカー・システムのみに由来するわけではない。今回は特別にオーディオ専門家視点で高音質の録音メディアの最高位とされるオープン・リール・デッキが導入。このオープン・リール・デッキは、スイスの老舗オーディオ・メーカーであるREVOX社製で、プロの現場でも親しまれてきた名機の最新型である。
 いわゆるヴェイパーウェイヴと呼ばれるジャンルの代表的アーティストとして名前を挙げられることも少なくないOPNの最新作を、このようなハイエンドな環境でリリースの前夜に聴くことに、この日、この場所に集まったリスナーがどのように価値をつけるのかはそれぞれの物差しに依るだろうが、とはいえ、特別な時間/空間だったことは間違いない。というのも、視聴前、視聴中と会場にはえも言われぬ緊張感が充満していたのだ。おそらく、それは見ず知らずの人とまだ聴いたことのない音楽を同じ場所で聴く緊張感というよりも、長いキャリアの中で様々なコンセプトを持って制作に取り組み、世界中のリスナーを知的かつ身体的に楽しませてきたOPNが作品に込めた意図を一聴して理解できるのだろうか、という自問によるところが大きいだろう。そこには要するに、ラーメンではなく情報を有難がって摂取しているというような状況が音楽にも往往にしてある中で、OPNの新作とほとんど情報のない状態で対峙する緊張感とスリルが立ち込めていたのである。

 視聴会は主催するビートインクのスタッフによる(おそらく、あえて作品そのもののコンセプトや背景に一切触れない)簡単な説明が終わるとすぐさまスタートする。ビートと呼べるものがほとんど存在せず、しかしカオスで、同時に美しい音の鎮座する前半。視聴会後のトークに登壇したOtagiriが触れていたように、オーディエンスはビートのない中でどこか節のようなものを見つけてかすかに揺れていたり(その揺れはそれぞれズレていたりもする)、じっと動かずに耳を傾けていたりと思い思いに楽しんでいたが、その掴めなさゆえだろうか、どこからどこまでが同じ曲というのもわからない状態だったのもあるが、場を支配している緊張感はむしろ膨らんでいたようにも感じる。
 オープン・リール・デッキの特性上テープの入れ替えで10分程度の小休憩が挟まれて、『Tranquilizer』の後半が再生される。後半、つまり終わりが見えてきているとはいえ、いつ終わるのかもわからない中でアルバムを聴くという行為は現代において極めて特殊で会場を覆う緊張感が途切れることは決してなかった。ただ、とりわけ終盤の激しいビートが登場し、アルバムが明確にクライマックスへと向かっていく段階では、その緊張の糸にほんの少し緩みが現れていたようで、視聴会を終えたリスナーの多くは安堵と満足感の混じりあったような表情を浮かべていたように思う。

 視聴会が終了すると、GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAEが主宰する、現代美術の展覧会とライヴを組み合わせたプロジェクト『獸(JYU)』などでアート・ディレクションやグラフィック・デザインを手がける八木幣二郎、社会的・政治的背景を帯びた音声や音響と音楽のあいだを往還する作品を制作する電子音楽家=Prius Missile、ラッパー/トラックメイカー/DJ として活動し『獸』にも出演するOtagiri がゲストとして登壇しトークがスタート。ここで重要だったのが、自己紹介より先にPrius Missileが『Tranquilizer』についてはっきりと「すごく音楽的」と評した瞬間だろう。筆者も含め、コンセプトや周辺情報を差し引いて、というかそういった情報の少ない中で作品に触れてまず抱いたであろう、「音楽として美しい、素晴らしい!」という感想を彼が代弁したことで、会場の緊張感は目に見えて崩れていった。
 その後、「到達していない未来から見た懐かしさ」のようなものを感じるという点でも共鳴しつつ、三者のトークが用意された資料に基づく“答え合わせ”にならず展開していったこともこのイベントを特別なものにしていただろう。それぞれが作り手としての視点とリスナーの視点を行き来しながら、『Tranquilizer』についての意見を交換していく。

 例えばPrius MissileはOPNを追いかけるリスナーの視点で最近の傾向をこう分析する。

「論じるよりも聴いた方が早いんですよね。例えば僕の大好きな『Replica』(2011年)は、その広告の音楽っていうルール、縛りをまず作って、それを音像に立ち上げるというような手法で制作されていて、何がどこからどうサンプリングされているかっていうのに論じ甲斐があるんですけど、特に最近のOPNのリリースに関しては聴くのがまず先。すごく絵画的というか、OPNの描いた情景をシェアしているような状態ですかね。その彼の文体がリリースを重ねる毎にアップデートされていて、それを追ってチェックしているような。この『Tranquilizer』はもっとシンセ・オタクとしてのOPNの、日頃作り溜めたアーカイヴ的なものという印象がすごくある」

 八木幣二郎は最新作のデザインと『Age Of』のデザインを比較してこう語る。

「OPNのジャケの話だと、『Age Of』ではDavid Rudnick(デヴィッド・ラドニック)という今の流行の一つのChrometypeの元祖のような人がやっていて。中世の音楽シーンを意識してあえて装飾的にロゴを作ったりしている人で。その次とかはちょっとサイケっぽくなって。今回のアルバムはElliott Elder(エリオット・エルダー)というロンドンの方がやっているんですけど、最近はブラック・ミュージック、ヒップホップ周辺でよく仕事をしている印象のある人なんです。彼がよくやるのは結構固めに組んだ文字をあえて印刷してスキャンして画像に取り込んでちょっと陰影とか紙のノイズ感とかを入れていくような手法で。そういう手触り感みたいなものを意識的に取り込んでいて、なおかつ高解像度のディスプレイで見られることを前提にしているから細かい文字もあえて使っていたりする。で、今回のアルバムを聴くと、細かい文字感とロゴっぽさってちょっと未来っぽく見えるんですよね。SFチックなデザインをあえてやっているんだろうなって」

 一方でOtagiriは手法が先か、デザインが先かという話題を登壇者に回しつつ、『Tranquilizer』から感じた羨ましさを紐解いていく。

「というのも私がイメージというものをあまり持ちながら創作をしたことがなくて、手法に寄っているんですけど、『Tranquilizer』はイメージと手法が一緒にあるような気がしたんです。イメージ先行は画家の場合だと「こんなこと描きたいのに、それが描けない、つらい」みたいな状況が起こる。手法が先だと、例えば私はヒップホップ的な、ラップ的なことやっているんですが、ヒップホップが一人称であることに昔から嫌悪感があって、誰よりかっこいいとか、金持ちだとか、強いとか、女の子にモテるとか、そういうのもいいんだけど、私はそういう人ではないし、もっと登場人物が勝手に喋ってくれればいいなと思っていた。だから今は6個世界を作って、世界ごとの主人公を作って。Chat GPTさんと協業しながらプロットを作って、その人たちがどんなことを喋るかというようなことをやっているんです。だから完璧に手法が先なんですね。と定義したときに、皆さんの話を聞いていて、イメージと手法が同時にあるようなものを羨ましい、それをやりたいって思ったんだろうなという気がしました」

 最後まで、共通する意見と、それぞれの視点が次々に現れ、示唆に富んだトークが展開されていった。そこには、みんなで集まって音楽を聴くこと、その感想を言い合うことの意義がたしかに存在していたのではないだろうか。トークは「明日別の環境で聴くのも楽しみ」「来年のライヴに行きましょう」といういわばありがちな締めによって終わるが、その頃には会場を満たしていた緊張感はすっかり溶け、代わりにそれぞれがそれぞれの視点でOPNの作品と向き合うことの尊さにも似た何かが漂っていた。それは紛れもなく、この特別な時間と空間の成果だろう。


 VINYLVERSEをご利用いただいているコアなユーザーの皆様にお話を伺う連載企画『ユーザーズ・ヴォイス』。今回で3回目となる本企画では、次は若い世代の声に耳を傾けたいと思い、白羽の矢を立てたのが「Kang」という名義でアカウントを運用されている23歳の中尾莞爾さんです。

 時代の主流とは異なるフォーマットであるレコードをあえて選ぶ。その選択の裏側には、どんな価値観や感覚があるのか。中尾さんの言葉を通して、レコード文化の“今”を少しでも浮き彫りにできたらと思います。


——こんにちは。中尾さん、今日はありがとうございます。 今回お声がけさせていただいたきっかけが、中尾さんが大学院でサブスク時代のレコードを研究されてるとプロフィールに書いてあったので、面白いお話が伺えるんじゃないかなと考えてお声がけさせていただきました。

中尾:はい。大変光栄です。ありがとうございます。
今は大学院修士1年なんですけど、2年間かけて研究していこうかなっていう感じで思っております。

——まず中尾さんがVINYLVERSEを知ったきっかけを教えてください。

中尾:はい、ele-kingで出しているVINYL GOES AROUND監修の『レコード復権の時代に』を読ませていただいて、内容がすごく面白かったのですが、その中のVINYLVERSEの記事を読んで、レコードっていう家の中にあるものをアウトプットするオンライン空間、そういうメディアって今までなかったなと思って、これはかなり面白いと思いまして、それで使わせていただきました。

——ありがとうございます。現在はどのように使われておりますでしょうか?

中尾:僕はコレクターって言うほど全然枚数を持ってなくて、ただ本当に買ったものをそのままアップしていて、今アップしているものがほぼ全部なんですけど、 レコードを買ってはVINYLVERSEに乗っけて、例えば友達と話をする時に、「俺こんなレコード持ってるよ」っていう風に画面で説明したりだとか 。あとはなんだろうな。それこそ自分で眺めて、「俺こんなん持ってたわ」みたいな、そういう確認をする時によく使わせていただいております。

——VINYLVERSEに何かしら興味を持たれているのであれば、その魅力ってなんでしょうか。

中尾:肌感覚の話になってしまうのですが、僕って音楽の話をするのがすごく苦手なんです。 例えば「好きな音楽は何?」って聞かれた時に自分の本当に好きなものを言えない。これって割と最近の若者全体に、この風潮があると思っているんですけど、その時にフィジカルを持っているっていうこと自体が自分の中での、 自信というか「その音楽を好きで、理解しているひとつの根拠になるな」という風に感じています。そういう時に、「こういうレコードを持ってるんだ」ってアプリ内のギャラリーを見せれば、その音楽のビジュアルを提示できるっていう点がとても便利です。あとはレコードの単純な物量であったり、「このジャケットのこのデザイン面白いよね」っていうところをすごく簡単に共有できるところ。それはインターネット空間でもそうですが、リアルの空間でも、実際にスマホの画面を見せながらそういったコミュニケーションを外側に開いていけるメディアとして魅力があるというか、自分みたいなタイプの人間にはめちゃくちゃありがたいと思っています。

——ご友人でも使われている方って結構いらっしゃるんですか?

中尾:そうですね。僕自身がVINYLVERSEをめちゃくちゃ広めていまして。「これめっちゃ面白いから使ってくれ」ってレコード持ってる人に言って回っています。それこそコメント機能がまだないので、人のギャラリー覗いては、LINEとかで友達に「これいいじゃん」みたいな。そういう事をやっていますね。

——それはとてもありがたいです。そんな中尾さんにとって初めてレコードを買ったきっかけって何だったのでしょうか?

中尾:レコードを買い始めたのは、大学1年生のときです。ちょうどその頃に横浜へ引っ越して、同時にサブスクも使い始めました。世の中的には、サブスクを使い始めたタイミングは、わりと遅い方だったと思いますが、使っていくうちにあんまり音楽をちゃんと聴けてないという感じがしました。というのも、月額1000円ぐらいで無限に何でも聴けるがゆえ、音楽が自分の中にうまく定着していないような感覚があって、自分のプレイリストを見ても、「なんだったっけこれ?」みたいな曲が増えてきてしまい、「もっとちゃんと聴きたい」と思って、レコードを買ってみたーーというのは1つ理由としてあります。やっぱり物として存在するのと、あと時空間が束縛されるので、しっかり聴かざるを得ない。 なので、音楽をちゃんと聴かせるメディアとしてはレコードって、今の時代にはとても貴重だなと思っています。おそらく、今、若者がレコードを買っている理由の一つにこういう視点も、もしかしたらあるんじゃないかなと思っています。

——ちなみに初めて買ったレコードって何ですか?

中尾:ディアンジェロの『Voodoo』が1番が最初ですね。当時は全然お金もなかったので、確か渋谷のフェイスレコーズで6000円ぐらいで売っていたものを、思い切って買ったのですが、そこでお金がなくなっちゃったので、それ以降1ヶ月間くらい食事はパスタばっかり食べてました。

——中尾さんがVINYLVERSEに上げていただいているレコードの中で、特に思い入れのある1枚ってありますか?もしあればその理由もお伺いできますか。

中尾:インク・スポッツのベスト盤ですね。基本的に僕はレコードはインターネットで買わず、リアルな実店舗に行って出会ったものを買うという探し方をずっとしているんですけど、ある時インク・スポッツが欲しくなって店を巡ったのですが、どこにもないんですよ。本当にどこの店に行っても。でも、どこを探していいかもわかんないし、ボーカル・グループなのかジャズ・ボーカルなのかっていうのもよくわらなくて、全然見つからなくて。で、「今日は必ずインク・スポッツを見つけるぞ」って思い立った日があって、たくさんのレコード屋さんを回ったんです。横浜と渋谷とか。でもなかなか見つからない。朝から出かけたのですが、夜の8時ぐらいまで探していても見つからなくて。そうしたら、本当に最後の最後でインク・スポッツのレコードが出てきて、半分泣きながら「これお願いします」ってレジに持っていった・・という思い出がありますね。

——インク・スポッツって、まだドゥワップがでてくる直前のすごい絶妙な、ある意味、時代のはざまにいるグループなんですね。ジャズではないし、R&Bの先駆け的な音楽なのですが、他に同時代にこういうコーラス・グループ的なスタイルの音楽をやっているって実はかなり珍しいんです。なおかつ、レコードとしても高額なレコードじゃないから、お店も積極的に仕入れたり、目立つところに置いたりしないんですね。 レコード自体は珍しく無いんですけど。

中尾:そうなんですよ。

——でも、なんでインク・スポッツなのでしょうか?どこで出会ったんですか? 23歳の人がインク・スポッツに出会うタイミングって、非常に興味深いです。

中尾:バイオショックっていうゲームがあるんですけど、このゲームが1930年代頃の音楽をBGMに使っていて、それのプレイリストにぶつかった時に多分知ったんだと思います。

——なるほど。すごい。そんなところにこういうのがあるんですね。音楽以外で、例えば映画、アート、ファッションとかで何か好きなものってありますか?

中尾:あんまり「好き」って言えるほど自信はないんですけど 、本を読むのはすごく好きですね。映画もちろん好きです。本当に広く浅くというか。音楽きっかけでいろんなものを知った、みたいなところはあるかなと思います。それこそインク・スポッツも『ショーシャンクの空に』の冒頭で使われていることを知って、それがきっかけで観てみたり。あとは『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』が好きなのでそのサントラのレコードを探してるんですけど、これもなかなか見つからないですね。

——ところで中尾さんにとってレコードは昔のメディアだと思うのですが、レコードを新しいものに感じているのか、それともレトロなものに感じているのか。またレコードに新しさを感じるとしたらどういうところに感じるのでしょうか?

中尾:僕の研究と少しかぶってくるんですけれども、レコード自体の「古い」「新しい」というよりも、レコードっていうものに付与されてる意味みたいなもの、レコードがどういうイメージなのかみたいなものが、おそらく昔の時代とは変わってきていると思うんです。特に若者の中で。多分それってサブスクの影響がものすごく強くて。僕が時空間に束縛されているって言ったのは、サブスクが、いつでもどこでも気軽に聴けるーー加えて何でも聴けるっていうような、聴取空間を作り出したわけですよね。その中で、みんながそういったものを使っている環境の対局にあるのがレコードだと思っています。レコードは再生する装置やレコードそのもの自体にも、すごくお金がかかるし、基本的には室内で聴かなければいけない。かつ、レコードが再生している時間っていうのは改変できない。針を飛ばしながら聴くことはできますが、スマホのボタンひとつでスキップとかはできない。レコードってその特性が現代のメディアに比べると、融通が効かないんですよ。そんな中でも、すごく今はレコードっていうものが「若者にとって正当性のあるもの」―――って話し出したら説明が長くなってしまうのですが、つまり趣味っていう、そのものが他人との闘争みたいな、マウントの取り合いって言ったら語弊があるかもしれないのですが、でもそういった側面もあると。 で、例えば極端な話かもしれませんが、1970年代ごろだったら、クラシックを聴いている人はハイソサエティで、ロックを聴いている人は労働者階級、みたいな。ジャンルごとのイメージや、リスナーの音楽性に基づいたヒエラルキー(文化的な上下関係)が、当時は確かに存在していたと思うんです。
 でも、サブスクが普及してからは、みんなそこまでジャンルを意識せずに音楽を聴いている。じゃあ今の時代、何がその文化的なマウントの序列を担保しているのか?と考えると、僕は「メディア」なんじゃないかと思っています。
 レコードを買うという行為には、それなりの経済的余裕も必要だし、作品を理解するための教養も求められる。
 そういった意味で、レコードというメディアは今、文化的ヒエラルキーの中で比較的高い位置にあると思うんです。
 だからこそ、レコードの存在意義や象徴性が、今、大きく変わりつつあるんじゃないかと感じている……というような研究をしてます。

——面白い研究をされてますね。

中尾:ありがとうございます。

——でもそれは、あるかもしれないですね。やっぱり、他人とのコミュニケーションの中で“マウントを取り合う”というのは、人間としてある程度避けられない部分があると思います。それって、きっと全世界共通の感覚なんじゃないかなと。僕らの時代、「お前、そんなもん聴いてんのかよ」っていう、ある種ネガティブな競争意識の中で音楽を聴いていた実感がありました。でも今は、例えばすごくマニアックなソウルを聴いている人が、同じ感覚でアイドルやJポップも聴いていたりする。それがごく自然なこととして受け入れられていて、「そんなの聴いてるの?」とか「そんなの知らないの?」みたいな発言で優位に立てる、というコミュニケーション自体が、あまり成立しなくなっている。
 ただ、その中で例えば「俺はレコードで聴いてるよ」「お前、まだサブスクだけ?」という価値観には、確かにある種の上下関係が感じられます。
 もう1個だけ、ちょっとその発展で話させてもらうと、極論かもしれませんが、昔よりも今の方が「お金持ちが優位」な感じが強くなっている気がするんですよ。ステータスとして。30年前は「お金持ち=かっこいい」っていうイメージもゼロではなかったけど、今ほど強くなかったと思うんです。それよりも、知識があったり、スポーツができたり、文化度が高かったり、もっと言えば人情味があるとか。もちろん外見もあるけど、その人自身のポテンシャルの方が評価される時代だったように思います。
 でも今は、経済的に成功した人=かっこいい、っていう空気をすごく感じるんですよね。
 昔は音楽に詳しくなくちゃ話にならない、みたいな雰囲気もあったし、貧乏でも哲学や学問に深い人がリスペクトされた。でも今は、そういう人ってちょっと“変わり者”みたいな扱いをされがちで、それよりも“お金を持っている人”がもてはやされる。なのでみんなまずは「お金が欲しい、お金で成功したい」と思いがちな気がします。そうなると、音楽や哲学、文学といった“すぐにはお金に結びつかないもの”が後回しにされてしまって、結果的に文化活動全体が軽視されていくように感じるんです。いわば文化の衰退につながってきている。
 そういう価値観が、昔よりもあからさまになってきてる気がするんですよね。
 だからもっと、中尾さんみたいに若い世代に文化的な人が増えていってほしいと思うし、そういう人がかっこいいと思われる社会になってほしい。
 で、ここでもうひとつ聞きたいんですけど、ただ中尾さんを見てると、ステータスの感じ方もまた少し変わってきてるのかなと感じまして。――今の若者って、「文化度が高い人=かっこいい」っていう感覚って、あるんでしょうか?

中尾:文化度が高い人が“かっこいい”とされる感覚、今の時代だからこそ実はあるのかもしれません。たとえば、音楽の聴き方でいうと、今はサブスクリプションを通じて音楽を聴く人がほとんどですよね。サブスクの面白いところは、そこに“経済的な優位性”が出にくいという点なんです。みんな同額の金額しか払っていないので。つまり、お金を持っているかどうかではなく、どれだけ幅広く聴いているか、どれだけ知識があるか、といった“リテラシー”が問われる仕組みになっていると思います。たとえば、あるアーティストの名前がふと出たときに、「あ、それって○○の系譜ですよね」みたいな話ができる人は、音楽好きとしてちゃんとリスペクトされる。そういう価値観は、サブスクやSNSの中にも確かに存在していると思います。
一方で、その対極にあるレコードが“救世主”になれるかどうか、という視点もすごく重要だと思っています。さっきも話したように、レコードには「所有していること自体に価値がある」と捉える文化もありますよね。例えば、高価なレコードの所有を誇示するスタイルや、インテリアとしてレコードを「飾る」ような感覚などです。これは、ele-kingが刊行している『ヴァイナルの時代』でも語られていたことですが、レコードのモノ性にだけ頼りすぎると、かえってその内実である音楽が蔑ろにされてしまう。ここで大事なのはそれがサブスクでもレコードでも、「どんなメディアで聴くか」ではなく、「どう聴くか?」が問われなければならない。「レコードで聴いているから=素晴らしい」といった単純な価値観にも注意が必要で、ここも今の音楽文化の難しいところかなと思います。
 つまり大事なのはメディアが持っている文脈、それこそ「レコードは正当」ーーだとか、「サブスクは幅広く聴いているやつが偉い」とか、そのような価値観をどう個人が「自身の気持ちの中で読み替えていくか」っていうところに意義があると思っています。大事なのはいつの時代も「音楽」そのものなので。ただ、僕個人の意見ですが、レコードで音楽を聴くことで、サブスクでの体験との違いみたいなものが、明確に実感できるだろうし、その比較の中で音楽の輪郭もはっきりしていく。だからこそレコードって今は非常に大きな価値があるし、今後の音楽文化を救う可能性があるのではないかなというふうに感じています。

——どうもありがとうございます。勉強になります。最後にサブスクしか使ってない人にレコードを聴かせようとする場合、その人たちにレコードをお勧めする方法やご意見があれば教えてください。

中尾:ありがとうございます。多分サブスクしか使ってない人の中には最初の僕と同じような感覚、なんか音楽をちゃんと聴けている感じがしないであるとか、 自分のものとして音楽を吸収できている感じがしないっていう人が多分いると思うんですよね。で、それこそレコードっていうのは、参入障壁が高い、お金もかかるし、機材揃えなきゃだし、機材の知識ないしみたいな感じなので、 多分踏みとどまっているというか、なかなかそこに行けてない人っていうのは一定数いると僕は思っています。で、 その人たちに向けてメッセージを送るとするならばとりあえず買ってみよう。 安いスピーカー内臓のプレイヤーでも何でもいいから。とりあえず自分の好きなアーティストをそれで聴いてみて欲しいなってすごく思います。やっぱそのレコード体験っていうのは、そういうモヤモヤがある人にとってはすごく貴重なものになると思うので。是非迷っている人がいれば、 買って聴いてみてください。


Kangさんのギャラリーはこちら
https://vinylversemusic.io/gallery/kang


 音楽を取り巻く環境が日々進化し、スマートフォンやストリーミングサービスなどの利便性、AIの発展が極まる中で、レコードというアナログメディアは、再生に手間がかかり、保管にも場所を要するなど様々な制約があります。にもかかわらず、彼の言葉からは、そうした「不便さ」こそが、レコードに特別な価値を与えているのだという強い意識が伝わってきました。選ぶという行為そのものに意味があり、自らの意思で音楽と向き合う時間が、現代においては逆に新鮮で豊かな体験となっていると感じ取れました。

 VINYLVERSEは、そうした一人ひとりの文化的なこだわりや、主体的な選択を尊重し、それを外に向けて自由に発信できる場でありたいと考えています。そして今後は、人と人とがつながり、価値観を共有し合えるようなコミュニケーションのハブとして、より一層の発展を目指していきたいと思います。

VINYLVERSE アプリ

Geinoh Yamashirogumi - ele-king

 山城祥ニが主宰する音楽集団、芸能山城組の代表作『輪廻交響楽』(1986)がアナログでリイシューされる。レーベルはロンドンの〈Time Capsule〉(ちなみにレーベル・オーナーのケイ・スズキのインタヴューは『ele-king vol.33』に掲載)、発売日は2026年の2月20日。
 当時同作を聴いた大友克洋が『AKIRA』に使わせてほしいと問い合わせたところ、それなら一からつくるということで1988年に『Symphonic Suite AKIRA』が生まれることに──というエピソードをご存じの方もままおられるかもしれないが、こたびのリイシューはかなり気合いが入っている。というのも山城は、人間の可聴域を超える高周波であっても脳や身体に直接影響を与えるという理論「ハイパーソニック・エフェクト」の提唱者なのであるが、今回のリイシューではその理論が実践され、耳では聞こえない音域まで盤に刻まれているという。
 また、その『輪廻交響楽』第一章~第四章までの再現ライヴ《「幻響」其之弐〈転生〉》も開催が決定している。12月14日(日)、会場はなかのZERO大ホール。これは見逃さないほうがよさそうです。

アーティスト:芸能山城組
タイトル:輪廻交響楽
レーベル:タイムカプセル
カタログ番号:TIME024
発売日:2026年2月20日
ジャンル:エレクトロニック・クラシック・フォーク、ワールド、
スタイル:ニューエイジ、アンビエント、トライバル、合唱、声明、ガムラン
フォーマット:世界初の〈ハイパーソニック・エフェクト〉オーディオ強化処理 × ハーフスピード・マスタリング盤。8ページ・インサート/初回プレス限定帯
ライナノート:Anton Spce
マスタリング:Miles Showell (Abbey Road)
キュレーション:関塚林太郎(VDS)、Kay Suzuki

https://timecapsulesounds.taplink.ws/

芸能山城組公演
「幻(げん)響(きょう)」其之弐〈転生(てんしょう)〉開催のお知らせ

2025年12月14日(日)
なかのZERO大ホール

芸能山城組は、来る12月14日(日)、芸能山城組公演「幻響」其之弐〈転生〉を、なかのZERO大ホールで開催いたします。
危機に瀕する地球の未来を精神世界から転換させる試みに挑戦し大反響を巻き起こした昨年の「幻響 其之壱」に続く、待望のシリーズ第二弾となります。
芸能山城組が長年追求してきた意識を失わない恍惚の状態〈ライト・トランス〉性の音表現で、地球生命の循環を謳うライブ空間です。
第一章の『輪廻交響楽』は、東洋の宇宙観の根底をなす〈輪廻転生〉をモチーフに、地球生態系の循環メカニズムを讃えた1986年の作品です。大友克洋監督にアニメ「AKIRA」の音楽を芸能山城組に託すことを決意させた作品でもあります。
今回、作曲者・山城祥二自らが全編を刷新し、絢爛たるガムランの響きや人の声が豊かな生命力を謳いあげます。
第二章では、アニメ映画の金字塔「AKIRA」(大友克洋監督)の世界を彩った『交響組曲AKIRA』を基に、人の声、ジェゴグ、ガムラン、電子楽器が交錯し、見違えるような変貌を遂げたライブパフォーマンス『幻響AKIRA』をお楽しみいただきます。

【公演概要】
■名称:芸能山城組公演「幻響」其之弐〈転生〉
■日時:2025年12月14日(日) 開演16:00 開場15:30
■会場:なかのZERO大ホール(JR・東京メトロ東西線「中野駅」南口から徒歩8分)
■チケット(全席指定):HS席8,000円/S席6,000円/A席4,000円
■チケット取り扱い:イープラスeplus.jp 好評発売中

【演奏曲】
第一章『輪廻交響楽』から〈翠生〉〈散華〉〈瞑憩〉〈転生〉
第二章『交響組曲AKIRA』から〈金田〉〈クラウンとの闘い〉〈鉄雄〉〈ケイと金田の脱出〉〈未来〉他

【お問合わせ先】 
芸能山城組 公演プロジェクト 
〒164-0003 東京都中野区東中野1-22-3 芸能山城組事務所内
Tel 03-3366-4741 Fax 03-3366-4742
メール:kouen@yamashirogumi.jp
公式サイト:https://www.yamashirogumi.jp/

NEW MANUKE & Kukangendai - ele-king

 〈HEADZ〉が2020年に新たにスタートさせた京都拠点のレーベル〈Leftbrain〉。去る11月30日、同レーベルから刺激的な2作品がリリースされている。
 1枚は、ブラック・ダイスなどを彷彿させるバンド、NEW MANUKE(ニューマヌケ)による初めてのアルバム。これまで日野浩志郎のレーベルからカセットテープをリリースしてもいる彼ら、フルレングスでの冒険を楽しみたい。
 また同日、空間現代が2023年に発表したアルバム『Tracks』のリミックス盤も同レーベルから発売されている。D.J.Fulltono、カール・ストーン、マッドテオなど強力な面々が参加、こちらも見逃せない1枚だ。ぜひチェックしておきましょう。

アーティスト:NEW MANUKE
アルバム・タイトル:『SOUR VALLEY』

レーベル:Leftbrain / HEADZ
カタログ番号:LEFT4 / HEADZ270
発売日:2025年11月30日
フォーマット:CD/レコード
レコード ¥3,630(税込)
CD ¥2,530(税込)

1 SPECIAL
2 OMAE CAN
3 11 Lappy
4 POWER BIS
5 Street Ocean
6 Fire communication
7 iPAD, LICK FINGER AND SWIPE, GRANDSON GETS ANGRY (live)

NEW MANUKE:
Pedal Kurihara
Masamitsu Araki
Distest

Recorded at Soto Kyoto
Mixed by Pedal Kurihara and Tatsuki Masuko
Vinyl Mastering and Cutting by Atsushi Yamane

NEW MANUKE プロフィール

Pedal Kurihara(sampler、guitar、drum effect)
Masamitsu Araki(sampler、voice、mixer feedback)
Distest(sampler)

2009年結成のトリオ音楽グループ。
サウンドは主にサンプリングとコラージュ、シーケンスされたビートとループされたミキサーフィードバック、それらの上で極少量のポップスと共に破壊と脱構築を繰り返す。
ライブはまったく踊れないビートによる逆トランスの誘発。それらはライブハウスやクラブ、アンダーグラウンドと場所を変えては日夜、爆音で鳴らされる。
2011年、自主カセットテープ「nannomondaimonainiwa」をリリース。
2017年、goat率いるKoshiro
Hino主催レーベルbirdFriendよりKuknackeとのスプリットカセット『Kuknacke/NEWMANUKE』をリリース。
2018年、カセットテープ『 iPad,lick finger and swipe,grandson gets angry
』を自主リリース。original mix、M/D/G remix、KAZUMICHI KOMATSU remixが収録。
2025年、初のアルバム『SOUR VALLEY』をリリース。

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アーティスト:空間現代
アルバム・タイトル:『Tracks Remixes』

レーベル:Leftbrain / HEADZ
カタログ番号:LEFT3 / HEADZ269
発売日:2025年11月30日
フォーマット:レコード
レコード ¥3,520(税込)

1. D.J.Fulltono - Burst Policy (remix)
2. Element - Look at Right Hand (remix)
3. 友人カ仏 from Moe and ghosts - Beacons (remix)
4. Carl Stone - Fever was Good (remix)
5. Madteo - Hatsuentou (remix)

Digital Mastered by Tatsuki Masuko
Vinal Mastering and Cutting by Atsushi Yamane

2023年にリリースした空間現代の傑作アルバム『Tracks』のリミックス盤をリリースします。
ジューク/フットワークのDJ「D.J.Fulltono」、WIREのベストにも選出された日本の新鋭DUBプロデューサー「Element」、
ヒップホップグループMoe and ghostsのトラックメイカー「友人カ仏」、
コンピューターミュージックの巨匠「Carl Stone」、
Honest Jon'sやDDS、Sahkoなどから作品を発表するNYの鬼才「MADTEO」のリミックスをそれぞれ収録しています。
レコードに付属のダウンロードコードからダウンロードいただくと、更に2曲ボーナス・リミックスをお聴きいただけます。

Kazumi Nikaido - ele-king

 10月に新作7インチ「リトル・トラベラー/つけっぱなし」が発売され注目を集めた二階堂和美。やはりアルバムが控えていた。オリジナル・アルバムとしては、代表作『にじみ』以来14年ぶりの新作で、『潮汐(ちょうせき)』と題されたそれは1月21日にCDでリリース。
 これに先がけ12月21日には渋谷でワンマンライヴが開催されることになっているが、同会場ではこの『潮汐』が先行発売されるそうだ。

 と、そんな二階堂和美の最新インタヴューが、今年の紙エレキング年末号には掲載されています。この10年をどんな思いで過ごしてきたのか、赤裸々に語られています。年末号の発売は、レコ店とアマゾンが12月18日、書店は12月25日です。そちらもぜひ。

二階堂和美、実に14年振りとなる待望のオリジナル・アルバム『潮汐』、2026年1月21日にリリース決定!共同プロデューサーに原田郁子(クラムボン)を迎え、ソングライターとして辻村豪文(キセル)、髙城晶平(cero)、皆川 明(minä perhonen)が参加。
潮が幾度となく満ちて引いていき、朝と夕が繰り返すように― 長い時を経た"今"の二階堂和美にしか歌うことのできない、慈しみに満ちた歌がここにある。

オリジナル・アルバムとしては、代表作『にじみ』以来、実に14年ぶりとなる新作『潮汐』。
今作はソングライティングに旧知のクリエイター陣を迎えて制作。二階堂からの要請を受けて共同プロデュースを原田郁子(クラムボン)が担当、ソングライターには辻村豪文(キセル)、髙城晶平(cero)、皆川 明(minä perhonen)と個性的で豪華な面々が揃った。
加えて、自身で作詞作曲した曲を半々で収め、それらを自身のプライベート・スタジオで録音。広島在住の二階堂を最も近くで支え、二階堂にとってなくてはならない存在であるピアノ・黒瀬みどりをはじめ、コントラバス・岩見継吾、ドラム・中村亮、そして三田村管打団?といった各地の仲間たちと丁寧に作り上げた。『にじみ』のバンドメンバーであったガンジーとの結婚、二児の出産、実家である寺の継職、そして死別と、人生の悲喜交々を経た”今”の二階堂和美が色濃く映し出される作品になった。


アルバムは、髙城晶平の紡ぐ物語を歌とピアノだけで描いた「リトル・トラベラー」で幕を開ける。静かに、それでいて突き上げるような歌を経て、ものづくりの魂を感じさせる皆川明の詩を伸びやかに歌った「つけっぱなし」へ。プロデューサーでもある原田郁子による「あれもこれも」は、一筋縄ではいかない展開が日々の慌ただしさを表すよう。辻村豪文による愛おしさと寂しさを織り交ぜた「恋しがっているよ」で前半を終える。
後半の楽曲は全て二階堂自身が作詞・作曲。軽快なスウィングに乗ってスキャットが炸裂する「BILLIE」、ポジティヴなエネルギーに溢れる「つながりあって生きている」、壮大なスケールと普遍性が真に迫る「うまれてきたから」と、いのちについて自らの胸の内をストレートに曝け出したような楽曲が並ぶ。そして、穏やかでささやかな生活の喜びを歌うライブ音源「あうん」でアルバムは幕を閉じる。

ジャケットまわりを手がけるのは、先行7インチから引き続き、装幀家のサイトヲヒデユキ。カバー写真は二階堂が撮ったプライベートフォトを使用。表と裏が一枚の写真であることを忠実に生かしたジャケットや、ブックレットに添えられている二階堂のメッセージと共にCDパッケージの魅力も味わっていただきたい。
長い年月を経た今だからこそ歌える、静かな迫力と、大きな慈愛を兼ね備えた、心揺さぶる名作がここに誕生した。

さらに、本作のCDは、12月21日(日) 東京・渋谷区文化総合センター大和田さくらホールで開催される『二階堂和美 ワンマンライブ “Tomoshibi no Yoru”』の会場にて先行販売を予定しています。チケットは現在発売中。発売に先駆けて新作をいち早く手にしていただける特別な機会となります。どうぞお見逃しなく!

【リリース詳細】
二階堂和美
アルバム『潮汐』(Chou-Seki)

発売日:2026年1月21日(水)
価格:3,000円(税込)/ 2,727円(税抜)
品番:PCD-18928
レーベル:P-VINE / KAKUBARHYTHM
p-vine.lnk.to/n4M4Jm

【収録曲】
1.リトル・トラベラー
詞・曲 髙城晶平

2.つけっぱなし 
詩 皆川 明 / 曲 二階堂和美

3.あれもこれも
詞・曲 原田郁子

4.恋しがっているよ
詞・曲 辻村豪文

5. BILLIE
詞・曲 二階堂和美

6.つながりあって生きている
詞・曲 二階堂和美

7.うまれてきたから
詞・曲 二階堂和美

8.あうん
詞・曲 二階堂和美

【LIVE INFO】
『二階堂和美 ワンマンライブ “Tomoshibi no Yoru”』
日程:2025年12月21日(日)
会場:東京・渋谷区文化総合センター大和田さくらホール
開場16:30 / 開演17:30

【チケット】
前売り 大人5,900円(税込・全席指定)
前売り 小・中学生 3,000円(税込・全席指定)
※高校生以上は大人料金
※未就学児もご入場いただけます。膝上鑑賞の場合は、大人1名につき1名無料。お席が必要な場合は小・中学生料金となります。

【プレイガイド】
イープラス
チケットぴあ
ローソンチケット

枚数制限:お一人様4枚まで
発券形態:紙、電子チケット併用
主催/企画制作:カクバリズム
問い合わせ:ホットスタッフ・プロモーション 050-5211-6077 (平日12:00〜18:00) http://www.red-hot.ne.jp/


PROFILE
ジャンルにとらわれない音楽性と類いまれな歌唱・表現力で国内外から支持されるシンガーソングライター。1999年のデビュー以来、約20作を発表し、代表作は2011年のアルバム『にじみ』。最新作は2025年10月15日発売の7インチシングル『リトル・トラベラー / つけっぱなし』。スタジオジブリ映画『かぐや姫の物語』(2013年)では、主題歌「いのちの記憶」を作詞・作曲・歌唱。NHK「おかあさんといっしょ」への楽曲提供に「ショキショキチョン」(作詞・作曲)、「ぎゅーっ はかせ」(作曲:渋谷毅)がある。
著書に『負うて抱えて』(晶文社) 他。CM歌唱も多数。広島県在住。浄土真宗本願寺派の僧侶でもある。

二階堂和美HP:http://www.nikaidokazumi.net
カクバリズムHP:http://www.kakubarhythm.com

Masaaki Kobayashi - ele-king

 なんとも濃密そうな1冊、小林雅明による書籍『ヒップホップ名盤100』がイースト・プレスから刊行されている。「ヒップホップの50年を知るなら、この100枚。時代背景とリリック/サウンドの聴きどころを1冊に凝縮」というコンセプトでつくられたこの書籍は、オールドスクールからゴールデン・エイジ、ギャングスタやサウスはもちろん、アンダーグラウンドから今日まで、半世紀以上におよぶヒップホップの歴史を果敢にも100枚で俯瞰。この狭き門を潜り抜けることができたのは、はたしてどの盤たちなのか……本を手にとって確認してみたい。

書名:ヒップホップ名盤100
著者:小林雅明
発行:イースト・プレス
定価:1,980円(本体1,800円+税10%)
ISBN:9784781624891
発売日:2025年11月26日
判型:四六判
製本:並
ページ数:232ページ

K-LONE - ele-king

 K-ローンの新譜をリピートしている。もっと言うと、夜、ひとりの帰り道なんかでじっくりと、繰り返し聴いている。前作『Swells』を河村祐介さんが「鼻歌まじりで歌いたくもなるメロディアスで涼やかなアルバム」と評したように、デヴュー作『Cape Cira』を含む諸作は何より明るく、カラフルな音が持ち味だった。しかし、本作の公式インフォによれば「これまでで最もパーソナルな作品/父の死後に制作されたこのアルバムは、逃避と内省の場となった」とあるように、きわめて内面的かつ静ひつな領域へと足を踏み入れている。

 ファクタと共同設立した〈Wisdom Teeth〉は、ペヴァラリストの〈Livity Sound〉やバトゥの〈Timedance〉などと並び、いずれも2010年代以降、ベース・ミュージックを通過したUKサウンドの更新に貢献してきた。K-ローンは間違いなくその現行のクラブ/ダンス・カルチャーを担う人物のひとりであるわけだが、今作においてシンコペートするUKガラージのリズムやダブステップのウォブリーなサブ・ベースは主役ではない。……もっとも、前者は自主レーベル〈Sweet 'N' Tasty〉、後者は名門〈Tempa〉からの12インチなどでその趣味を発散させてはいるのだが。
 しかし本作の自己内省に必要なのは、空間を包みこむダブ処理、アンビエント的なパッド、リッチなシンセ・ワーク、あるいは繊細なイーヴン・キックだったりする。こう書くと、根城である〈Wisdom Teeth〉ではなく、DJパイソンフエアコ・Sの作品を揃える、アンソニー・ネイプルズ主宰の〈Incienso〉からの投下であることは、サウンドを掴むための重要な手がかりに思える。

 まず先行シングルの “slk” がいきなり素晴らしい。ダビーな音響空間と催眠的な4/4キックが不規則にうねり合うダブ・ハウスといった具合で、端的に言えばこの空気がアルバムに充満している。“slide by side” のメランコリックにゆれるディープ・ハウス、またヴォイス・チョップの面白い仕掛けで作品に躍動感を加える “sslip” も欠かせない。だが何より、一番の見せ場は冒頭の “someone else” に尽きる。ほの暗く沈みこむヴォーカル・サンプル、もこもこと浮遊するコード、ときおり挟まれる光沢あるシンセ・フレーズは今作最長の6分半に及ぶ。背後で鳴るこれらの音は掴みようのない霧のよう。だが同時に、そぎ落とされた最小限のビートが音の核に位置する。一発でこの音世界への没入を誘う、随一の曲に仕上がっている。

 と、こうして聴き進めるとK-ローンの個人的な気分がそのままアルバムの空気に反映されていることは間違いない。一方で〈Wisdom Teeth〉が提示する、UK(ロフト期のアヤ、パリス)からアジア(名古屋のアベンティス、韓国のサラマンダ)まで、才人への審美眼が冴え渡る良質なレーベル・コンピとのつながりにも言及すべきだろう。
 引き合いに出すのはダウンテンポ志向の『To Illustrate』や高速BPMの『Club Moss』ではなく、2025年の『Pattern Gardening』。K-ローンの愛する00年代ミニマルへの愛を示したこのコンピでは〈Perlon〉の古いカタログを参照したそうで、今作に通底するクリック感ある繊細なリズムと明らかに符合する部分があり、レーベルのいまの方向との同期を感じさせる。また、ベース・ミュージックの感覚を通じて四つ打ちを展開してきた〈AUS Music〉からは、「Catching Wild」シリーズなる12インチを出している。ここにある初期ハーバートめいたハウスの文脈の延長線と捉えることもできそうだ。これらミニマル/マイクロ・ハウスなビートを基礎としつつ、K-ローンことジョー・グラッドウェルのパーソナルな感情を織り込んだサウンドを空気として漂わせることで、今作はひとつのかたちになったのだろう。

 父との別れと、その喪失の感情。この主題をアンビエントやダブをもってして抽象化した今作のサウンドはどこか暗い影を落としている。一聴したときは、歌もあるポップな前作と較べると思い切りのよい作風の転回だと早合点した。「鼻歌まじり」というより、シリアスに対峙すべき作品だと。しかし何度も聴くうち、深い霧の奥にシグネチャーたる明るくきらめく瞬間が随所にあることにも気付く。それは幕引きの “the haze” を聴くといい。つまりは思い切った「転回」ではなく、むしろK-ローン(とレーベル)のいま現在を踏まえた「洗練」や「深化」と呼ぶべき到達点ではないか。そうして研ぎ澄まされたサウンドとビートは、今夜もまたひとりの帰り道に優しく寄り添ってくれるはずだ。

Vol.2:霜月エモエモdays✶ ࣪˖࿐ * - ele-king

 Hello Hello!  hey hey!  heykazmaですッ!!
 融解日記第二回スタートですヨ。11月、後半めっちゃ寒くてびっくりだわ〜...
 heyに負けじと世の中も色々動き回っておりますね。
 失言·不用意·不適切...うっかりでは済まされないことが多々起きておる...。
 もはやこれは他人事ではないぞ! 我々みんな当事者なのだᕦ(ò_óˇ)ᕤと思う今日この頃でございます。
 そんな感じで、ハロウィンリミキシーズのリリパが終わったあとは、北海道〜仙台でDJをしてきました。そのあと東京で数本DJして、今です。あっという間に12月が近づいてきている。色々な締切やミーティングなどに追われていますが、まゔたちとご飯〜♪行ったり、遊びに行ったりもしちゃってますゾ。なにしちゃってんだか〜〜〜(ワロタ。
 ここ最近起きたことでびっっっきりに嬉しかったのは、テクノ界の超大御所Jeff Mills大大大大校長様にお会いできたこと! KATAでおこなわれていた展示のレセプションにお邪魔しました。身長が私と同じくらいで運命って感じで嬉しかったョ♡ DJはナイトイベントだから見れずすごく残念。みんな行ってて羨ましいゾンヽ(`Д´#)ノ

 パーティ行けないの悔しいのでTOGAとコラボのJeff様Tシャツを購入しちゃった。
 ものすっごっ〜〜〜くオキニイリでやんす!!
 これ着てタンテのDJの練習をたくさんしようと思う〜〜〜ッ⁺˚⋆。 °✩₊

 こないだね、自分のDJ Mixのアーカイヴを一人で聴いて反省会やったんだけど、ほんとにさあ問題点おおすぎワロタなの。wwwwwww。4つ打ちsetなのにブレイク多すぎるなーって感じたり、ゲイン調整ちょっと甘かったりなんかキリないほど課題あって〜ン泣泣泣。みんなから「DJめちゃ良かったです‼️」ってよく言われるけど(もちろんめっちゃ嬉しい~~~!ラヴ~~~!だが!!!!)、俺ならもっと頑張れると思うので‼️‼️
 見守ってて欲しいなってすごいよく思う‼️ みんな、俺のこと、応援してくれえ‼️‼️

 そんなわけで、わたしが結構影響を受けているDJの方を今回は3人紹介&最近聴いてよかった音楽2つを紹介できたらなと。全員要チェックだぞっっっ❣️☆


WHY BE on NTS 20.10.25  (DJ mix)
 Why Beパイセンはコロナ禍、緊急事態宣言がでて自宅学習で学校も行けず暇をしていたときにネットサーフィンしまくっていたらみつけたベルリンのアーティストで、影響を受けまくっているDJの一人。WHY BEパイセンの定期的に提供されているNTS RadioのDJ Mixは非常に刺激をもらいまくってるにょ。Bass MusicやAmbientを軸にしてたり、選曲の幅は広め。昨年の3月にWWWβにて来日公演が行われていたけど、ナイトでの開催だから遊びに行けずで...超絶悔しいですわ。𐔌՞꜆˃̣̣̥⋏˂̣̣̥꜀՞𐦯


Prettybwoy / CIRCLE at SALOON 8 April 2025 air-rec
 プリヴォさんもコロナ禍、緊急事態宣言がでたりでなかったりしていたときにDÉDÉ MOUSEさんとPrimulaさんと3人でTwitchでDJ配信している様子とこを見て、一気にファンになたのよ。大好きなアーティスト。リスペクトしまくり。このMixは代官山Saloonでエア撮りされたもの。プリヴォさんの手元だけずーっと見ていたいぐらいテクニックがすごい。非常に感動ですワ...

 先日6年越しにやっとパーティでお会いできた。感動の極み(っ’-‘)╮ =͟͟͞͞ ʟᴏᴠᴇ 💖


BEAMS RECORDS w/ lostbaggage: 31st Oct '25 (DJ mix)
lostbagaggeことあんなちとは、今年1月、私が仙台(地元)に住んでいたときにマヴが企画してるパーティで共演して出会いました。一緒に大崎八幡宮のどんと祭(地元トークすぎてやばい)にいったりしたんだよ〜。それ以来、彼女が働いているBonoboやSPREADに遊びに行くと、ばったり会ったり〜って感じ。彼女のDJはどんな状況でもいつも己の魂感じるような展開で、フロアの真ん中で聴くととても心地が良すぎるんです。わんちゃん、幽体離脱ってことかもね。大パイセン。早くまたDJ聴きたいョ〜。⁠:゚⭑⁠:⁠。


hatchcatch - Nu-Disco & House Mix
 地元のDJで一番仲の良い、最高フレンドhatchcatch。
 私が出演してたパーティに遊びに来てくれて、声かけてくれたのが最初の出会いで、そこから一瞬で意気投合。本当に全てが最高すぎる!! J-POP〜Techno〜House、様々なジャンルでDJできちゃうのも尊敬。毎月開催していて、私も以前出演させてもらった彼女の主催パーティ「A.B.C DISCO」。次回11/29で在仙ラスト回らしいので、現地にいる人は絶対行こうね(あっしは行けないけど!泣)


北村蕗 - Spira1oop (album)
 私と音楽ユニット・machakaru、そしてフォト・コレクティヴ・HEAVENLY KILLERSとしても一緒に動いてる、まゔの北村蕗が11月26日にリリースする1st Album『Spira1oop』。一足先に聴かせてもらった! 北村ちゃまとはもう5〜6年ぐらいの仲で、かけがえのないおもろいマヴであり、ずっと変わらずカッコ良い戦友。ここ最近の進化っぷりはほんとに半端なくて、曲を聴いてると「これ誰にでも作れる音じゃないよな…」って思わされる。いろんな世代のダンスミュージックを通ってきて、しかもクラシックもルーツにある北村だからこそ作れる、フロアユースでありながら繊細なトラックがぎゅっと詰まってて、音の階層がとにかく深い。全人類必聴✦ ﹒₊˚𓂃
 12/6には代官山UNITでワンマンもあるらしいので、これは行くしかない。よっっしゃあ!
https://avyss-magazine.com/2025/11/14/66207/


セーラーかんな子 - PRESENTDAY
 かんな子っちは、今年6月に幡ヶ谷Forestlimitで開催された「Deep Forest」というイベントで共演したことがきっかけで知り合ったの。それまで彼女のことを知らなかったんだけど、オファーをいただいたタイミングで楽曲を聴いた衝撃はいまでも鮮明に覚えてる。
 彼女の音って、生々しさと切実さが同居してて、一度聴いたら本当に忘れられないタイプのものだった。さらに、ガザで起きているGenocideの現状についてわかりやすく発信して、声を上げ続けている姿勢は本当に頭が下がる。尊敬しかない。PRESENTDAYはbandcampでデータを購入すると売り上げが日本国際ボランティアセンター(JVC)パレスチナ緊急支援事業のほか、GoFundMeを通じてガザに住む方達に寄付される!
https://sailorkannako.bandcamp.com/track/presentday


 以上、おすすめheyのloversコーナーでした!
 どのアーティストもリスペクト超ありまくり。絶対チェックして欲しいです♡‧₊˚

 そんなわけで、heyの今後の予定は!

 11/30中目黒HEVNにて、『WAIFU 🦄🪩 TRANS JOY IS RESISTANCE 🍉❤️‍🔥』に出演!トークショー(w/Hikariちゃん&Andromeda♡)とDJ(90minくらい)で出演します☺︎
 がっつりTechnoやる!
  https://www.ele-king.net/news/012018/

 12/7長野県・松本市、club INNERSIDEにて『Happy Halloween Remixes 2025 Curated by heykazma Release Party 松本編』、開催されます!
 企画はりんご音楽祭主催でお馴染みのDJ Sleeperぴょん。食品まつりぽよ、カワムラユキ姐と一緒に松本向かいます。長野県民ちゃんはもちろん、色んな子たちマスカム!
  https://www.instagram.com/p/DRRVYHgkzy4/?img_index=1

 そのほかのDJ GIGのinfoはlitlinkをチェックしてね!
  https://lit.link/heykazma

 それでは次回の連載、どこかのパーティでお会いしましょう˖ . ݁
 以上、heykazmaでした!

claire rousay - ele-king

 カナダ出身テキサス育ち、現LAの音楽家クレア・ラウジーは、この数年で、世界中のアンビエント・リスナーの耳を最も静かに惹きつけたアーティストのひとりである。クレア・ラウジーの音楽は「音響」「エクスペリメンタル」「アンビエント」という枠では収まりきらず、より人間的で、生活の質感に近いサウンドスケープを展開している。ラウジーのマイク=耳を通して聴こえるのは、録音という行為を通じて鳴っている音だ。ラウジーは「生きること」と「聴くこと」を同じ地平に置いてきたといえる。
 初のヴォーカル・アルバムだった前作『sentiment』から一転し、本作『a little death』ではエクスペリメンタル/アンビエントの音世界へと回帰している。いやそもそも回帰とはいえないかもしれない。ここでは音響と旋律、音と声の境界線が消失し、声/旋律のない「うた」(ようなもの)の心が生成しているのだ。音による情緒・記憶・感情の生成。思えばラウジーの音楽はいつもそうではなかったか。

 本作『a little death』は『a heavenly touch』(2020)、『a softer focus』(2021)に連なる系譜の作品という。確かに全編を通して電子音、環境音、生楽器が重なり合い、音の空間性とレイヤー感覚はこれまで以上に美しく、叙情的で、豊かだ。
 アルバムのタイトルは、彼女が暮らしていたテキサス州サンアントニオのワインバー「Little Death」に由来する。しかし本作で描かれるのは「比喩としての死」ではなく、日常の中に潜む「小さな終わり」の感覚に近い。過ぎ去る時間。消えていく記憶。静かに閉じていく一日の余韻。その繊細な瞬間を音に封じ込めた作品である。
 本作に用いられた最初のフィールド・レコーディングは、『a softer focus』のプロモーション時にラウジーが取材を受けたワインバーで録音されたものという。ラウジーにとって録音は記憶を掘り起こし、時間の堆積を音に変換する行為である。彼女は過去作での「実験」をより柔らかく解体し、記録に宿る詩情を掘り当てているのだ。
 『a little death』にはこれまでの作品を支えてきた盟友たちが再び集結している。3月のコラボ作『no floor』に続き、モア・イーズ(More Eaze)が本名マリ・モーリス(Mari Maurice)としてヴァイオリンで参加。6月リリースの共作『quilted lament』以来となるグレッチェン・コァスモー(Gretchen Korsmo)がクラリネットを提供し、アンドリュー・ウェザーズ(Andrew Weathers)はラップ・スティール・ギターで加わる。『a softer focus』にも参加していたアレックス・カニンガム(Alex Cunningham)、そして9月に名盤『Tender / Wading』を発表したエム・セイジ(M. Sage)もクラリネット、エレクトロニクス、ピアノで参加している。この豪華な布陣は、ラウジーの歩んできたネットワークの深さと信頼関係を象徴しているといえよう。

 本作『a little death』のサウンドには、音と音のあいだに独自の「温度」がある。電子的なノイズが立ち上がった直後に、生楽器の柔らかな音色がそっと現れ、その往復の中で聴き手の感情が静かに揺れ動く。声のない歌とでもいうべき感覚だろうか。メロディやリズムは明確ではないが、代わりに「時間の流れ」そのものが音楽の中心にある。ラウジーにとって録音とは作曲であり、記憶を編集する行為でもあるのだろう。そこには深い「親密さ」がある。
 ラウジーの作品にいつも深い親密さが宿るのは、音の背後に「生活の息づかい」が聴こえるからだ。それらは背景音ではなく、ラウジーにとっての「時間の証拠」として刻まれている。そう、ラウジーにとって音楽とは現実からの逃避ではなく、「現実そのものを聴き取る」ための芸術なのだろう。
 1曲目 “i couldn't find the light” では、声とノイズが交錯する55秒の短い断片から、2曲目 “conditional love” へと静かに接続され、アルバムはその世界観を自然に提示する。細やかな物音や硬質な電子音が交錯し、日常と非日常のあいだを音が滑走していく。続く3曲目 “just (feat. m sage)” はピアノの音から幕を開け、音の色彩は一気に抒情的なムードへと転じる。エム・セイジによる電子音が音の空間を広げ、余韻を残す。4曲目 “somehow” では静謐なアンビエント/ドローンが展開されるが、ここでも言葉/声が突如差し込まれ、記憶の層と音響が交錯する。ここまでがアルバム前半といってよいだろう。
 アルバム後半はギターとピアノが重要になる。5曲目 “night one” では、ギター、ピアノ、環境音とともに柔らかなアンサンブルを形成する曲だ。デヴィッド・グラッブスを思わせる素朴な音楽性と、実験的な音響空間が交錯し、あの90年代シカゴ音響派へとつながる気配を漂わせる音楽性であった。6曲目 “doubt” では密やかな電子ノイズが立ち上がり、その背後から霞んだピアノの音色が浮かび上がる。7曲目 “somewhat burdensome” も抒情的なギターから始まり、ジム・オルークが探求してきた実験音楽とアメリカーナ的な音世界の系譜にあるかのような響きを宿す。
 8曲目、アルバム最終曲にして表題曲 “a little death” では、これまでの曲で描かれてきた音楽世界がゆったりと静かに再生する。アンサンブルとレイヤー、管楽器と弦楽器風の和声、環境音、声が交錯し、「音楽」が静かに立ち上がっていく。エクスペリメンタルでありながら大袈裟にならず、素朴さと洗練が共存する、実に見事な楽曲だ。5分20秒付近の小さな空白を挟み、音楽はそれまでの抒情性を大きく開放するようにドラマチックな展開を迎える。
 私見ではあるが、この控えめでエモーショナルな叙情性に90年代シカゴ音響派からの明確な系譜が感じられた。かつてジム・オルークやデヴィッド・グラッブス、トータスらがアメリカ音楽、実験音楽、アヴァン・ロックを交錯させつつ、「アメリカ音楽の歴史」を音で描いたように、ラウジーもその系譜の中で音による音楽史を構築しているのではないかと想像してしまう。ともあれ本曲は、エクスペリメンタル音楽家としてのラウジーのひとつの到達点と言って差し支えない。それほどに感動的な曲なのだ。

 ラウジーの音楽には、記録と感情、歴史と個人、客観と主観のあいだを漂う「曖昧さ」が常にあり、その揺らぎこそが表現の核心ではないかと思う。本作『a little death』は、これまで彼女が探求してきた「生活としての音楽」「継承としての音楽」が有機的かつ多層的に交錯し、空気のように揺らいでいる作品である。前作『sentiment』で試みたヴォーカル表現を経て、音の背後にある沈黙や呼吸が、これまで以上に強い存在感を放っていた。本作に耳を澄ませば、私たちの記憶の輪郭もまた静かに、そして新たな陰影と共に浮かび上がってくるだろう。

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