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Various

BassIDMTrip Hop

Various

To Illustrate

Wisdom Teeth

三田格 Dec 06,2022 UP

 W杯で日本に負けたスペインのエンリケ監督が試合後のインタヴューに答えているのを観ていたら「日本には失うものがなかったから」とかなんとか話していて、それって、最近どっかで聞いた言葉だなーと思っていたら、ああ、山上容疑者を「無敵の人」と評していた人たちの理屈だったと思い出した。そっかー、サッカーの日本代表と山上容疑者はどちらも失うものがなく、それで思い切ったことができたのかーとサッカーファンでも山上ファンでもない僕は簡単に納得しちゃうのであった(野田努から火炎放射機のような反論が飛んで来そう~)。デビューして間もないプロデューサーというのも、まあ、何をやってもまだ失うものは何もないわけで、ブリストルのグランシーズ、リーズのイグルー、そして日本のアベンティスに加えてナゾのフスコ(Hussko)、ナゾナゾのクレメンシー、ナゾナゾナゾのユッシュ(Yushh)といった無名の新人たちを集めた『To Illustrate』というコンピレーションも内容が実に思い切っていて、これがなかなかに素晴らしかった。彼らに加えてレーベル・オーナーであるファクタとK~ローン、そしてフロリダからニック・レオンと韓国からサラマンダも曲を寄せ、タイトルは『(例を挙げて)説明する』と付けられている。え、何を説明するの?と思ったら「まだ名前のついていない音楽」とのことで、それはレゲトンにインスパイアされたクラブ・ミュージックだったり、トリップ・ホップ・リヴァイヴァルやUKベースがいずれもBPM100前後のゆっくりとしたテンポで展開されている現状を例証していくというコンセプトだという。あえてジャンル名はぶち上げませんよということでしょう。それは賢明なやり方です。名前をつけると、いらない人のところにまで飛んでいってしまうから。

 なるほどゆったりとしたグランシーズ “Sun Dapple(木漏れ日)” で幕を開け、そのままR&Bに着想を得たというファクタとK-ローンの共作 “Kiss Me, Can't Sleep” へ。今年、フエアコ・Sの大阪ツアーをサポートした日本のアベンティスもダンスホールをふわふわにした “Bicycle” で同じヴァイブレーションを持続させ、同じくダンスホールを暗いモードで聞かせるフスコ “Two Nights In Peter's Bog”、少し目先を変えてファニーな要素を加えたイグルー “Rockpool Pool Party” へ。いつものアンビエントではなく、水中にいるようなダブステップのサラマンダ “κρήνη της νύμφης” から比較的長いキャリアを持つニック・レオンはマイアミ・ベースをUKベースに変換したとインフォーメイションには書いてあったけれど、僕にはゴムとアマピアノの中間に聞こえる “Separation Anxiety” を(この人は昨年リリースした「FT060 EP」が素晴らしい)。続いてレゲトンにダブのエフェクトを加えまくったヘンツォ “Whirlpool Vanish” とカンがダンスホールに取り組み、そのテープが水浸しになったようなクレメンシー “Girl Food” (この人も一昨年の「References」が妙な余韻を残している)。最後は再びレーベルー・オーナーのファクタがユッシュと組んだ “Fairy Liquor” で、ダンスホールを柔らかくリスニング・タイプに仕上げたもの。そう、半分ぐらいは〈Warp〉の『Artificial Intelligence』ダンスホール編とか、そんな感じのことをやっていて、これをやったところで失うものは何もなさそうなものばかり。

 〈Wisdom Teeth〉というレーベルは10年近く前にベース・ミュージックのレーベルとしてスタートし、これまでにレーベル・オーナーのK-ローンとファクタ以外にロフト(アヤ)やパリス、ピエツォやトリスタン・アープと、かなり痺れるメンツを揃えてきたレーベルであるにもかかわらず、その人たちをまったく起用せず、彼らが考える新しい傾向を「例証」するコンピレーションとして新顔ばかりを集めてきた。K-ローンが2年前にリリースしたデビュー・アルバム『Cape Cira』やファクタが昨年リリースした『Blush』にももちろん通じるものはあり、まっすぐに進んだ結果が『To Illustrate』だということなのだろう。緊張感あふれるこの世界をもっと柔らかくしたい。彼らのそんな願いが僕には通じた1枚です。

三田格

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