「ピカ」と一致するもの

BASSの時代 - ele-king

 日本のベース・ミュージックについて改めて考えてみると、「ベース・ミュージック」という言葉を日本人が使いだしたのは東では〈Drum & Bass Sessions〉、西では1945 a.k.a KURANAKAが率いる〈ZETTAI-MU〉に代表される方々が支えてきた「ドラムンベース」や「ラガ・ジャングル」の登場以降だと推測される。
 しかし、近年では「ベース・ミュージック」という言葉の意味にかなり広がりを持つように進化し続けていると思う。もともとは海外でマイアミ・ベースやゲットー・ベースなどのヒップホップやエレクトロからの流れが「ベース・ミュージック」と言われだしたのがはじまりだろうし、「DUB STEP」という言葉にある「DUB」についてはもっと昔から存在する手法だ。
 そんな「ベース・ミュージック」の言葉が持つ深いポテンシャルに注目し、日本におけるベース・ミュージックの現在進行形を体験できる貴重な機会があったので、少々時間は経ってしまったが、レポートしようと思う。

 〈Outlook Festival〉とは、ヨーロッパはクロアチアにて数日間に渡って開催され、世界中のアーティストやDJ、そしてサウンドシステムが集結する世界最大級のベース・ミュージックの祭典だ。その錚々たるラインナップには、リー"スクラッチ"ペリーやマックス・ロメオやジャー・シャカといった、生きるレゲエ・レジェンドたちからスクリームやデジタル・ミスティックズなど、最先端ダブステップ・アーティストが一斉に名を連ねる。

 ある日、Part2Style Soundの出演するクロアチアの〈Outlook Festival〉に同行したeast audio sound system(イーストオーディオ・サウンドシステム)のtocciの体験談として「BASS MUSICは体で体感する音楽である。しかるべきサウンドシステムで鳴らせば、その重低音は肌から伝わり、体のなかを振動させ、ついには喉が震えて咳き込むほどの音楽だ」という見解を、過去にサイトにアップしていたのを読んで、自分の目を疑ったのと同時に「体感してみたい」という思いが芽生えた。その個人的な思いは「Outlook Festival Producer Competition」という、勝者はクロアチアへのチケットを手にすることができるコンペに自作曲を応募する形でぶつけてみた。仲間や応援してくれたみんなのおかげもあって、数多く存在するファイナリストまでは残れたものの、結果としては敗北に終わり、悔しい思いをしたのも記憶に新しい。
 そんな〈Outlook Festival〉の日本版がPart2Style とイーストオーディオ・サウンドシステムによって、今年も開催されると知ったのは春のはじまりのころで、それを知ってからは毎日のように「Outlookを体験したい」と心のなかで連呼したが、どうしても行きたい思いとは裏腹に、諸事情により今回のフェスへの参加を諦めていた。
 その矢先、小説家であり、ライターであり、大阪の夜の飲み先輩であるモブ・ノリオさんから一本の電話がかかってきた。
 以前、モブさんにとあるパーティで会ったときに酒を飲みながら〈Outlook Festival Japan Launch Party〉がいかなるものかと熱く説明したことがあり、そのときに何度も「それにはお前は行かなあかんやろ」と言われたが、「行きたいですねぇ......」と返すのが僕の精一杯の返答だった。それを察しての電話口だった。「〈Outlook〉行くの?」と聞かれ、「めちゃくちゃ行きたいですけど、もう諦めました」と返すと「行かんとあかんときっていうのは、どうしても行かんとあかん。お前、ああいうことを自分で書いといて、いかへんつもりなん? それはあかんぞ......あのな、エレキングで取材の仕事をセッティングしたから、行って来てレポートを書いてみぃへんか? 文化を体験するって行為は絶やしたらあかんで」
 涙がでるほどの奇跡が起きた。僕のなかで行かない理由はなくなった。

 5月26日、TABLOIDの隣にある、日の出駅に着いたときに、まず驚いた。改札を通るときに重低音の唸りが聴こえてきたからだ。駅から会場までの近さも手伝って、初めて行く会場への方向と道のりを重低音が案内してくれた。会場の建物がどれなのかは、低音の振動でコンクリートが「ピシッ」と軋む音でわかった。ついに ここに来ることができた、と胸が高まった瞬間だ。

 会場に入り、さっそくメインフロアであるホワイト・アリーナへ向かうと、先ほどの駅で聴いた重低音の唸りがSPLIFE RECORDINGSがかけるラガ・ダブステップだったことがわかる。そびえ立つモンスター・スピーカーたちの城から発せられるその音は、「爆音」なんてものではなく、まるで生き物のようにスピーカーから"BASS"が生まれ、フロア中を駆けめぐった後、壁を登り、遥か高い天井で蠢く、「獣帝音」と言えば伝わるであろうか。そう、これがイーストオーディオ・サウンドシステムとTASTEE DISCOが繰り出す、メインフロアの音だ。驚いたのは、出番が終わったあとにSPLIFE RECORDINGSのKOZOから聞いたところによると、これでまだ50%ぐらいの音量だというのだ。驚きとともに、100%の音量を出したときに自分は正気でいられるのだろうか? 建物は大丈夫なのだろうか? などと、少しの不安と緊張感を抱くとともに、武者震いをするかのように心を踊らせた。

 大阪から到着したばかりで腹がすいていたので、メインフロアの後方にあるFOODブースへと向かった。
 DUUSRAAのカレーを注文し、待っているあいだにおもしろい出来事があった。テーブルの上に置いてあった誰かのカクテルのカップが、重低音の振動で勝手に動き出し、なかに入ってあるカクテルが噴水のようにしぶきを上げ、こぼれだしたのだ。それぐらい、建物自体が振動していたということだ。

 知人の皆と、久しぶり感がまったくない(1ヶ月前に会ったばかり)挨拶やジョーク等を交わし、会場全体をウロウロとまわるうちに最初の狼煙が上がった。Part2Style最重要ユニット、ラバダブマーケットの登場だ。Erection FLOORと名付けられたフロアで鳴り響く、姫路は最高音響サウンド・システムの音も、サブ・フロアという陳腐な言葉では片づけられない、まさしく最高の音だった。その音は暖かく、どれだけの音量で鳴っていたとしても耳が疲れない、例えて言うならマホガニーサウンドだ。しかし、鳴っている音量はかなりのもので、ここのフロアが階段を登った2階にあったのも手伝ってか 振動が床を伝い、足から体全体が震え、まるで自分がスピーカーになったような錯覚すら覚えた。そんな最高音響でのラバダブマーケットのライヴは、フロアの反応も最高だった。Dread Squadの"Sleng Teng International Riddim"にジャーゲ・ジョージとMaLが歌う"Digital dancing mood"~e-muraのJUNGLEビート本領発揮の"Bubblin'"~突き抜ける"MAN A LEADER"の流れは、正にリーダーが告げるこのフェスの本格的開始合図だった。そしてその勢いは櫻井饗のエフェクターを駆使した多彩なビートボックス・ライヴへと継がれていった。

 ホワイト・アリーナへ戻ると会場にも人が溢れ返っていて、LEF!!!CREW!!!が、フロアにいるオーディエンスをハイテンションでガンガンにロックしていた。休憩しようと外へ向かう途中にグラス・ルームではDJ DONが、まだ生まれて間もないベース・ミュージック、ムーンバートンのリズムで"Bam Bam"をプレイしていた。僕もよくかけるリミックスだ。ついつい休憩のつもりがまたひと踊りすることに。Jon kwestのアーメンブレイクを切り刻んだムーンバートン(これまた僕もよくかける)など、ニクイ選曲にTRIDENTがパトワのMCで煽る。108BPMという、遅いような早いような不思議なテンポに錯覚してしまい、ついつい踊らされてしまうのがムーンバートンの魅力だろう。

 外の喫煙ブースでマールボロのタバコをもらい一服してからなかへ戻ると、さっきのグラス・ルームでは函館MDS CREWのボス、SHORT-ARROWがSUKEKIYOのMCとともにジャングルをプレイしていた。同じく函館から来ていたKO$は今回、カメラマンとしてもかなりいい写真を撮っていたので、是非チェックしてほしい。ここでも先ほどラバダブマーケットのライヴでも聴いたDread Squadの"Sleng Teng international"が聴けたし、時を同じくしてホワイト・アリーナではTASTEE DISCOがスレンテンをかけていた。

 この〈Outlook Festival Japan Launch Party〉の興味深いポイントとして、「ベース・ミュージックに特化したフェスティヴァル」ということでは日本ではかなり早いアクションだということだ。以前からPart2Styleは"FUTURE RAGGA"というコンセプトのもと、コンピュータライズドなレゲエをやっていたし、ジャングルやドラムンベースはもちろんのこと、最近ではダブステップやクンビアも自分たち流に消化して発信していたし、ムーンバートンを僕が知ったきっかけはMaL氏とNisi-p氏がふたりで作ったミックスだった。それらやその他もろもろを総じて、ベース・ミュージックと日本内で呼ばれ、波及しだしたのは ごく最近のことであり、まだまだ発展途上といえる段階だろう。スレンテンのベースラインは、この新しい試みのなかでも 互いに芯の部分を確かめ合うように呼応する不思議な信号や、電波のようにも聴こえた。

 時間が深まっていくなか、eastee(eastaoudio+TASTEE)が本領を発揮しだしたと感じたのはBROKEN HAZEのプレイだった。重低音が何回も何回も、ボディブローをいれてくるように体に刺さりまくる。激しいビートとベースで、まるでボクシングの試合でボコボコにされ、痛いどころか逆に気持ちよくなってしまう感覚だ。パンチドランカー状態になってしまった体を休めに、バー・スペースへ行きDUUSRAA Loungeの音が流れる中、友人と談笑したりした。

 上の階では、ZEN-LA-ROCKPUNPEE、そしてファンキーなダンサーたちによってオーディエンスが熱狂の渦と化していた。音の振動によってトラックの音が飛ぶトラブルもなんのその。
「皆さん、低音感じてますか? Macも感じすぎちゃって、ついつい音が飛んじゃいました。低音はついに800メガヘルツに到達! Everybody say BASS!!」とトラブルすらエンターテイメントへと変換させる話術は、お見事の一言では片づけられないほど素晴らしく、ごまかしや隠すことの一切ない、正に全裸ライヴだと実感した。ZEN-LA-ROCKは独自にこのフェスティヴァルをレポートしているので併せて見てほしい。



 楽しいライヴを満喫した後は、D.J. FULLTONOを見にグラス・ルームへと移動する。個人的にエレクトロやシカゴ・ハウス、ゲットーベース等を2枚使いでジャグリングをガンガンやっていた頃を知っているだけに、いま、日本のJUKE/JIT第一人者として〈Outlook Festival Japan〉に出演していることが不思議であり、同じ大阪人として嬉しくもあった。彼がプレイしている時間のフロアは、このフェスのなかでもっとも独特な空気を放っていただろう。矢継ぎ早に、時にはトリッキーに繰り広げられるJUKEトラック、"FootWurk"という超高速ステップ、難しいことは言わず自然体な言葉でフロアを煽るMC、仲間たちお揃いのBOOTY TUNE(FULLTONO主宰レーベル)のTシャツ、ブースに群がるクラウド、汗だくになりながらも、次々とフットワークを踊り、DJブース前のフットワークサークルを絶やそうとしないダンサーたち、出演者、観客、スタッフ、なんて枠組みは取り払われたかのように、そこにいる皆で夢中になってフロアを創った時間だった。その素晴らしさは、FULLTONOが最後の曲をかけてすぐさまフロアに飛び出し、さっきまでDJをしていた男がいきなり高速フットワークを踊りだした時に確認できた。僕にはその姿が輝いて見えた。

 メインフロアに戻ると、Part2Style Soundがいままで録りためたキラーなダブ・プレートを惜しげもなくバンバン投下しフロアをロックし続けていた。そのスペシャル・チューンの連発にフロアのヴォルテージが高まりすぎて、次の日に出演予定のチャーリー・Pが我慢できずにマイクを取ったほどの盛り上がりだ。そしてその興奮のバトンとマイクは、DADDY FREDDY(ダディ・フレディ)へと渡された。高速で言葉をたたみかけるダディ・フレディのライヴは圧巻であった。何回も執拗にライターに火を灯せ! とオーディエンスに求め、フロアは上がりに上がった。早口世界チャンピオンは上げに上げた後、だだをこねるように「もう行っちゃうぞ?」とフロアに問う。フロアは声に応え、ダディ・フレディを放そうとはしない。チャンピオンはノリノリでネクスト・チューンをうたい終えた後、またフロアに問う。「おれはもういくぞ!?」と。もちろん皆は声に応える。するとチャンピオンはノリノリで「ワンモアチューン!」と、まだまだ歌い足りなさそうだが、やはりチャンピオン。どのアクトよりも怒涛の勢いを見せつけた、素晴らしいステージだった。

 チャンピオンの勢いに圧倒された後に続いて、特別な時間がやってきた。
 DJ、セレクタのセンスと腕が問われる真剣勝負、サウンド・クラッシュ。今回、かなり楽しみにしていたイベントだ。NISI-Pの司会によってルール説明が行われ、場内は緊張感に溢れた。今回のルールとして、はじめにくじ引きで第1ラウンド出場者である3組の順番を決め、1ラウンド目はダブ・プレートではない曲で3曲ずつかけ、次ラウンドの順番が決まる。第2ラウンドが「Dub Fi Dub」(ダブプレートを1曲ずつかける)の流れだ。第2ラウンドで決勝進出の2組が決まり、ファイナルラウンドで一対一の対決となる。
 第1ラウンドの一番手はHABANERO POSSE(ハバネロ・ポッセ)だ。普段からイーストオーディオ・サウンドシステムの音を研究しているだけあって、音の鳴りはピカイチだった。ガンヘッドのDJにFYS a.k.a. BINGOのMCの勢いもハンパなく、スピーカーとオーディエンスを存分に震わせた。続いて、JUNGLE ROCKがプレイするジャングルはレゲエのサウンドマンの登場を物語る。サウンドクラッシュはレゲエから発生した文化だ、と言わんばかりにフロアに問いただす。最後に登場したDEXPISTOLSは、なんとレゲエ・ネタで応戦し、エレクトロの先駆者が異文化であるクラッシュへの参戦表明を見せつけたことで、このサウンドクラッシュがいままでのどのサウンドクラッシュとも違う、斬新なものであるかがわかっただろう。今回のサウンドクラッシュの見どころとして、ヒップホップやエレクトロの文化やレゲエの文化などが、カードの組み合わせによって異種格闘技戦となっていることも、おもしろい試みだ。
 肩慣らしともいえる第1ラウンドを終え、いよいよ本番、ガチンコ対決となる第2ラウンドへと続く。トップバッターはDEXPISTOLSだ。第1ラウンドのときとは、やはり気合いの入り方が違い、ダブプレートには自身たちの曲にも参加している、ZeebraJON-Eがエレクトロのビート上で声をあげ、DEXPISTOLSがDEXPISTOLSであることをオーディエンスに見せつけた。
 続くはHABANERO POSSE。ムーンバートン・ビートにのるラップの声の持ち主に耳を疑った。なんと、Zeebraのダブ・プレートである。まずは「ベース好きなヤツは手を叩け!」と、"公開処刑"、そしてビートがエレクトロへと急激にピッチが上がり、DEXPISTOLS自身がZeebraをフィーチャーした"FIRE"のダブへと展開し、DEXPISTOLSへ向けたレクイエムを送る。逆回転のスピンの音が少し短くて、思ったことがあった。「あれはもしかして、レコードかもしれない......。」その盤はアセテート盤と呼ばれる、アナログレコードをわざわざカットして鳴らされたものであるのも、block.fmで放送された後日談にて確認できた。HABANERO POSSEは、ぬかりのない綿密な作戦と、業が成せる完璧な仕事を僕らに見せつけたのだ。
 ラストのジャングル・ロックは、アーメンブレイクと呼ばれるジャングル・ビートに、猛りまくったMCで問う。「さっきも、V.I.Pクルーがかかってたけど、V.I.Pクルーって言ったらこの人だろ!?」と、BOY-KENがうたう様々なクラッシュ・チューンでレゲエの底力を見せつけた。
 ファイナルラウンドに駒を進めたのは、HABANERO POSSEとJUNGLE ROCKの2組だ。本気の真剣勝負の結果である。誰もそこに異論を唱える者はいなかったと思うし、オーディエンスの反応にも間違いなく現れていた。戦うセンスと実力だけがものをいう、音と音のぶつかり合い。それがサウンドクラッシュという音楽の対話だ。
 ファイナルラウンド、先行はJUNGLE ROCKだ。「おれがこのダブとるのに、いくら使ったと思ってんだよ!」と意気込みを叫び、ダブを投下した。鎮座ドープネスリップ・スライムからはPESとRYO-Zという、豪華なメンツにフロアは沸きに沸いた。そして後攻にHABANERO POSSE。なんとその場のゲストMCにSEX山口を迎え、マイクでフロアに物申す。「おれらの敵はJUNGLE ROCKでも、DEXPISTOLSでもない。本当の敵は、風営法だ!」なんと、YOU THE ROCKがラップする"Hoo! Ei! Ho!"のダブだった。



 優勝は満場一致で、HABANERO POSSEが受賞した。展開の読み、選曲、音像、すべてにおいて郡を抜く存在だった。本当に、普段から音の鳴りを研究した努力の賜物だったと思うし、あの時間にあのダブ・プレートを聴いた時の、ドラマのような展開に感動した。近年、風営法を利用した警察が、文化を発信している場所となるクラブを摘発していることへの、強烈なアンチテーゼを意味するメッセージでもあった。クラバーたちの真の戦いとなる風営法を、サウンドクラッシュという戦のなかで伝え、勝利という名の栄光を掴んだ、真のチャンピオン誕生の瞬間だった。

 この頃には酔いもできあがってしまって、BUNBUN the MCのライヴではPart2Styleのメンバー、DJ 1TA-RAWがカット(バックDJ)をやっているにも関わらず、大阪のオジキの大舞台を応援したい気持ちで僕もDJブースにノリこんでカットをやるが、酔った手がCDJの盤面に当たってしまい、ズレなくてもいいリズムがズレてしまって、「WHEEL UP!Selecta!」とすぐにお声がかかり、ネクストチューンへ。大変、お邪魔いたしました。。もちろん、ライヴはいつにも増して、大盛況であった。酔いも深まる中、タカラダミチノブのジャーゲジョージをフィーチャーしたDJにシビれ、朝を迎えた。

[[SplitPage]]

 2日目はひどい2日酔いのなか、昨日が夢のような1日だったため、目が覚めてもまどろみ状態がなかなか覚めなかった。そんな状態で、酒を飲む気分になれなかったので、この日はレッド・ブルだけを飲んで過ごした。
 会場に到着して、ブランチに虎子食堂のごはんを食べようと、真っ先にフードブースへ足が進む。フェジョアーダという黒豆ごはんを注文し、知人と一緒に「初めて食べる味ですねー」なんて話しながら、美味しくいただく。ふと、ブースの方へ向くと、Soi Productions(ソイ・プロダクションズ)がスタートダッシュのドラムンベースをブンブン鳴らしていた。会場の音も、昨日よりも開始直後からよく鳴っている印象だった。考えたら昼の2時だ。鳴らせる時間には鳴らさないと、サウンドシステムがもったいない。目もスッキリ覚めるほどのベースを浴びて、2日目がはじまったことを改めて確認した。

 バー・スペースではDJ DONがクンビアを気持ちよくかけている。今日はどうやって過ごそうかな? とタイムテーブルを見ながら周りを見渡す。ここは〈DUB STORE RECORDS〉や〈DISC SHOP ZERO〉がレコードを販売しているフロアでもある。ふと見ると、E-JIMA氏がレコードをクリーニングするサービスなんてのもあって、もしレコードをもってきてたら、超重低音でプレイする前にキレイにしたくなるだろうな、と思ったりした。

 入り口付近のグラス・ルームではKAN TAKAHIKOがダブステップのベースの鳴りをしっかりとたしかめるように、自作曲も交えながらプレイしていたり、2階へ行くと、DJ YOGURTがスモーキーで渋いラガ・ジャングルをかけていて、最高音響で聴くアーメン・ブレイクは体にスッと馴染みやすく刺さってくることを確認したり、NOOLIO氏との久々の再会がグローカル・アリーナで太陽を浴びながら聴くグローカルなハウスだったり、ホワイト・アリーナに戻っては、G.RINAの生で聴く初めてのDJにテンションが上がってしまい、BUNBUN氏とふたりしてかっこええわ~なんて言いながら楽しい時間はあっという間に過ぎていく。

 グラス・ルームでワイワイと楽しそうにやってたNEO TOKYO BASSの姿は、誤解を招くのも承知で書くと、やんちゃな子どもたちが はしゃいでいるようにも見えて、その楽しそうな姿に、ついついこっちまで指がガンショットの形になってしまった。クボタタケシのクンビア・ムーンバートンを交えたセットも素晴らしかった。この時にかかっていたKAN TAKAHIKOの"TOUR OF JAMAICA"のエディットはこのパーティ中に最も聴いたチューンのひとつだ。

 Tribal Connection(トライバル・コネクション)の1曲目は、ジャングル・ロックの昨日の決勝戦のチューンだった。昨日のバトルの雰囲気とはうってかわって、パーティ・チューンに聴こえたのもセレクター、DJとしてかける意味がかわって聴こえたりもして、趣が深かった。悔しそうに、そして楽しそうに。深いジャングルの時間だった。続くJxJxはグラス・ルームをファンキーに彩るムーンバートンで、大都会の夕暮れの時間を鮮やかに彩った。

 そうこうしている内にはじまったPart2Style Soundが、確実にメインフロアを唸らす。興奮もピークに近づいてきたところで、やってきたのはCharlie P(チャーリー・P)だ。まだ若いらしいが、堂々としたステージはベテランのようで、スムーシーに唄うその声は、ときに激しく、ときにまとわりつくように耳から脳へとスルリと入ってくる。続いて登場したSolo Banton(ソロ・バントン)は先日、大阪で見た時よりもキレがあり、"Kung Fu Master"や"MUSIC ADDICT"など、堂々としたステージングでオーディエンスをグイグイ引き寄せる。そして時には、ソロとチャーリーが交互に歌ったり、お互いの声質が異なることによるスペシャルなブレンド・ライヴを展開した。かなりマイクを回しあっただろう。時間が終盤に近づくにつれ、グルグルと回るマイクをもっと回せと口火をきったのはRUMIだ。"Breath for SPEAKER"の「揺らせ! スピーカー!」のフレーズで、正にスピーカーとフロアを存分に揺らした。すかさずソロがたたみかけるようにうたう、すると今度はなんと、CHUCK MORIS(チャック・モリス)が出てきては「まんまんなかなか、まんまんなかなか、ド真ん中!」と、すごい勢いで登場し、「たまりにたまった うさばらし! Outlookでおお騒ぎ!」と、けしかけては、「ハイ! 次! ソロー!」とソロ・バントンにマイクを煽る。ソロがすかさず歌い返すも、Pull UP! ちょっと待ったと、いきなり現れた二人のMCに たまったもんじゃないソロはなんと、ダディ・フレディの名を呼んだ。「ジーザス、クライスト!」とダディフレディが一言、そこからのトースティングは即座にフロアを頂点へとのし上げた!!! ダディ・フレディは会場に集まった皆と、Part2Styleに感謝を述べ、よし、マイクリレーしよう!と閃き、なんとスペシャルなことか、ダディ・フレディとソロ・バントンとチャーリー・P、3人の怒涛のマイクリレーがはじまった。これにはフロアもガンショットの嵐!! 最高のスペシャルプレゼントステージだった。Nisi-pが「もう一度、3人に大きな拍手を!!」と叫ぶと、会場は拍手大喝采に見舞われた。



 SKYFISHがクンタ・キンテのフレーズを流したのはその直後だ。ラスコの"Jahova"にチャック・モリスが歌う、"BASS LINE ADDICT"。続くRUMIのアンサーソング"BAD BWOY ADDICT"と、さすが、UK勢にも引けをとらないふたりのコンビネーションがフロアをぶちかました。今回のフェスで誰が一番のアクトだったかなんてことは、到底決められないけども、個人的にBASSを浴びる、いや、BASSをくらったのはNEO TOKYO BASSのときだ。腹にかなり直撃で受けてしまい、なんというかお腹のなかで内臓が揺れているのだ。いや、いま思い返せばそれが本当だったかはわからない。しかし、記憶していることは、体のなかが、なかごと、ようするに全身震えていたのだ。音が凶器にも感じた瞬間だった。ずっとフロアで聴いていたから低音には慣れているはずなのに、NEO TOKYO BASSがエグる、BASSの塊に完全にKOされてしまった。
 メインフロアを出た後、グラス・ルームでは、KEN2D-SPECIALが"EL CONDOR PASA"を演奏していた。どうやらラスト・チューンだったらしく、もっと見たかったが、そこで久しぶりの友だちと会い、話をしながらINSIDEMAN aka Qのかけるディープなトラックに癒された。少し外で休憩した後はクタクタだったのもあり、グローカル・エリアの帽子屋チロリンにて少し談笑したりした。すぐ隣にあるグローカル・エリアで見た1TA-RAWから大石始への流れはトロピカル・ベース~ムーンバートン~クンビア~民謡と、自然に流れるダイナミクスへと昇華され、僕が見たグローカル・エリアでは一番のパーティ・ショットだった。そして最後に見たのは、OBRIGARRD(オブリガード)だ。ハウスのビートから徐々にブレイクビーツ、クンビアへとビートダウンしてく"Largebeats"~"Ground Cumbia"の流れは素晴らしく、個人的にエンディング・テーマを聴いているような、寂しく、狂おしい瞬間だった。

 僕の〈Outlook Festival 2012 Japan〉Launch Partyは、こうして幕を閉じた。
 いまになって思い返してみても、なんて素晴らしく、楽しい体験だったのだ。体験したすべての人たちが、それぞれの形で、記憶に残る2日間になったと思う。そして日本のベース・ミュージックにとっても、キーポイントとなるような歴史的な2日間だったのではないか。
 出演していた あるアーティストに「今回出演できて、本当に良かった。もし、出演できていなかったら、自分がいままでベース・ミュージックを頑張ってきたことはなんだったんだろう? と、思っていたかもしれない」という話を聞いた。もちろん、自分も「出たいか?」と問われたら、即答で「出たい」と答えるだろう。それほどまでに、魅力溢れるパーティだ。個人的に思う〈Outlook Festival 2012 Japan Launch Party〉が残した大きな功績は、アーティストやDJたちが「次も出演したい」と、または「次は必ず出演したい」と、いわば、「目標」を主宰たちが知らず知らずのうちに創ったことだろう。その目標を叶えるためにも、来年、再来年と、また日本で〈Outlook Festival〉が開催されることを、切実に願っている。

 Part2Styleとイーストオーディオ・サウンドシステム、会えた方々、関係者の方々、そして体験する機会を与えてくれた「ele-king」の松村正人さんとモブさんに最大級の感謝をここに記します。

追記
 そしてこの夏、Part2Style Soundが2011年に引き続き、本場はクロアチアで開催される〈Outlook Festival 2012〉に出演する。本場のベース・ミュージック フェスティヴァアルに2年連続で出演し、何万人といった海外のオーディエンスを熱狂させることを思うと、同じ日本人としてとても誇らしい気分にさせてくれる。
 きっと彼らはまた素晴らしい音楽体験を得た後、その景色を少しでも日本へと、形を変えて伝えようとしてくれるだろう。
 進化し続ける「ベース・ミュージック」。未来のベース・ミュージックはどんな音が鳴っているのだろうか。
 僕はその進化し続ける音楽を体感して追っていきたい。

Las Malas Amistades - ele-king

 僕の生まれ育った町は、全国でも有数のサッカーどころとして知られている。小学校に入学すると、クラスのほとんどの子供は、3年生になると学校に唯一あった運動部のサッカー部に入る。運動場にはゴールがあり、昼休みにはサッカーをやる。このようにサッカーが盛んであることは、ただその人口が多いというだけの話ではない。そのスポーツに対する考え方も多様化し、深まることも意味する。僕の生まれ育った町には「外に出さないサッカー」を目指している指導者がいる。そう、つまり、ピンチのときもDFは外に出さない。極論すれば、コーナーキックはサッカーの本質ではないという発想だ。スポーツが勝負事であることを念頭におけば無茶な考えに思われるかもしれないが、スポーツを芸術と見るなら、創造的で、前衛的な考えだ。外に出さないサッカーが目指すのは、足(あるいは肩や頭)が手のように自由に動き、ボールを自在に扱える世界だ。
 もっともこの前衛的な発想は、勝利至上主義の前で一掃される。ゆえに少年サッカーという、それでもわりと勝利至上主義から自由な領域で試される。僕はスポーツは、やるのも見るのも好きだが、オリンピックでいまひとつ面白くないのは、勝ち負けにしか脚光が当たらないことだ。柔道が良い例。僕が日本の柔道を好きなのは、僕が南米のサッカーが好きなのと同じ理由からで、そこに美学があるからだけれど、オリンピックではその美学は弱点となり、相手はそこを突いてくる。勝負事としての緊張感はあるが、美学の点では面白くない試合ばかりだ(※この話と清水エスパルスが勝てないこととは関係ありません)。

 ラス・マラス・アミスタデス(悪友という意味)は1994年、コロンビアのボゴタにて、1994年に映画科に通う学生によって結成されている。結成当時はセルジュ・ゲンズブールとキャプテン・ビーフハートに影響されたそうだが。『VICE』という雑誌が「スペイン語で歌っているヤング・マーブル・ジャイアンツみたいだ」と書いたので、そのフレーズが日本でも広がっているようだが、実際はヤング・マーブル・ジャイアンツというよりはキャレクシコに似ている。複数のアコースティック・ギターのアンサンブルを基調とした漂泊の感覚を持ったDIYミュージックだ。
 このアルバム『マレサ』は、〈オネスト・ジョンズ〉からは3枚目となるが、2007年に『パティオ・カツオ』というアルバムが3枚目のアルバムだとBBCは書いているので、BBCを信じるなら本作が4枚目となる(初期の5~6年の録音を編集した『ラ・ムジカ・デ・ラス・マラス・アミスタデス』が最初のアルバムだという)。
 〈オネスト・ジョンズ〉から初めてのリリースとなった2005年の『ハーディン・インテリオール』や『パティオ・カツオ』では、カシオトーンやドラムマシン、玩具っぽいパーカッションなどを駆使している。音楽はよりローファイで、遊び心があり、トン・ゼーっぽくもある。が、新作『マレサ』は勝手が違う。ほとんど全編に渡って、アコースティック・ギターの音(たまにハーモニカ、控え目に電子音や鍵盤、パーカッションなど)で構成されている。3分から1分ほどの短い曲が28曲も収録されている。

 アングロサクソン文化圏において、スペイン語のポップは、クンビアやキューバ音楽のような伝統的な音楽と違って、音楽としての面白味がよほどなければ受け入れられないとBBCは言っている。ラス・マラス・アミスタデスは、広く言えばトロピカリア(トロピカリズモ)の相続人でもある。スペイン語を知らない僕に歌詞の中身までは知りようもないが、レーベル側は音と歌を聴けばわかると言っている。希望とメランコリー、そして怒りが聴こえるでしょう......と。

 『マレサ』は70年代前半のカエターノ・ヴェローゾのような美しさを持っている。ラテン的な感傷が時代の生々しい風のなかから聴こえる。僕はこのアルバムの1曲聴いて、買うことに迷いはなかった。ラス・マラス・アミスタデスの音楽と同様に、サッカーや柔道も美さを忘れないで欲しい。メダルの数ばかりを報道するテレビの醜悪さを見ながらつくづくそう思った。ちなみに『マレサ』とは、雑草という意味。

Shop Chart


1

J Dilla - Dillatroit Mahogani / US / 2012/7/1
超絶推薦盤!遂に入荷!<MAHOGANI>×J DILLA!!極上のJ DILLA未発表ビーツを軸に展開されるデトロイト・ブラックネス!KDJによるエクスクルーシヴ・エディット・テイクを収録。マスト盤。

2

DUMP - NYC Tonight Presspop Music / Zelone / US / 2012/6/30
パンク・ロッカーG.G.ALLINによる"NYC TONIGHT"を原曲の趣を一切排除し、まさかの極上ブリージン・ディスコへリメイクしてしまった最早カヴァーの域を超越した驚異的一枚。その JAMES MCNEW自身によるビートダウン・ブギーなディスコ・ロック・ヴァージョン、そして坂本慎太郎によるアコースティックな黄昏トロピカル・サマー・ヴァー ジョンの2テイク、共にインストも完備した鉄板内容で収録!

3

Richie Phoe - Echo Outernational Balance / US / 2012/6/28
レイドバックした極上メロウ・ダビー・ダウンテンポ山盛り収録!UK/ブライトン在住のクリエイターRICHIE PHOE絶品内容スギル傑作ファースト・アルバム!

4

Hikaru - High Psy (Limited Edition) Modulor Japan / JPN / 2012/6/20
※7inch付き限定盤今年も来ましたDJ HIKARUニュー・ミックス!万遍無い音楽愛に溢れた極上クロスオーヴァー・ミックス推薦盤!

5

Rodena Preston & The Voices Of Deliverance - Must Jesus Bare The Cross Alone (Joaquin Joe Claussell's Edit) Sacred Rhythm Music / US / 2012/6/30
JOE CLAUSSELL自身もパーティーの終盤など"ここぞ"というときにプレイしてきた至高のゴスペル・チューンRODENA PRESTON & THE VOICES OF DELIVERANCE"MUST JESUS BARE THE CROSS ALONE"を、DJユースに長尺化(オリジナルの倍近くとなる7分弱)したそのJOE CLAUSSELLエディットに加え、何とオリジナル・ヴァージョンもカップリング収録!

6

V.A. [Compiled, Edited And Mixed By The Idjut Boys] - 5 Years Of Claremont 56 Claremont 56 / UK / 2012/6/30
祝!<CLAREMONT 56>5周年!傑作リリース連発のレーベル音源をIDUJT BOYSが厳選セレクトしエクスクルーシヴ・エディット/コンパイル、そしてライブ・ミックスしてしまった豪華フルヴォリューム3枚組!

7

Mo-waii / DJ Shinya - Star House / Novo Samba NNNF / JPN / 2012/7/3
某プロデューサーの覆面プロジェクトMO-WAIIによる極上レイドバック・ダウンビート、そして前作に続く登場のDJ SHINYAによるブラジリアン・ブレイクビーツをカップリングしたリミテッド7"!

8

Almunia - Pulsar / The Magician Claremont 56 / UK / 2012/7/3
レーベル設立5周年を迎えた絶好調PAUL MURPHY主宰<CLAREMONT 56>が新たにフックアップするイタリアの注目バレアリック・デュオALMUNIA、昨年リリースの傑作アルバム「NEW MOON」に続く待望の新作12"シングル!

9

The Reflex - Re-Visions Vol.3 G.A.M.M. / SWE / 2012/6/27
<MOTOWN>を題材にしたTHE REFLEXによる好評「THE RE-VISIONS」シリーズ第3弾!STEVIE WONDER名曲郡の絶品リワーク/リエディット×3!

10

Slow Motion Replay Presents Dunk Shot Brothers - Love Celebration SMR / JPN / 2012/6/30
ONUR ENGINに触発された和モノ・レアグルーヴ・エディッツ!SLOW MOTION REPLAYのマッシュアップ/エディット・プロジェクトDUNK SHOT BROTHERSサード・リリース。

Various - ele-king

 なにも知らずにこのコンピレーションを聴いたら、どう感じるのだろうか......。ベッドルームで作られたローファイ・ソウル? ドリーミーで、ちょっとドラッギーでソウルフルなザ・フライング・リザーズ? これは......シカゴ・ハウスやデトロイト・テクノが生まれる前の、1970年代なかばから80年代初頭の忘却の記録。
 
 スライ&ザ・ファミリー・ストーンの1971年のマスターピース『暴動(There's a Riot Goin' On)』には、スライ自身によるドラムマシン(リズムボックス)の重ね録りによるビート――麻薬的で、陶酔的なビート――が注がれていることは有名な話だが、〈チョコレート・インダスリーズ〉(1990年代後半から2000代にかけてアブストラクト・ヒップホップの拠点でもあったシカゴのレーベル)が発表する『パーソナル・スペース』、17曲からなるこのアンソロジーは、そうしたドラムマシンやシンセサイザーの普及にともなって、1970年代後半にひっそりと作られ、ドーナッツ盤としてひっそりとリリースされた"個人的な空間"すなわちベッドルーム・ミュージックすなわち黒人宅録音楽の記録だ。ダン・カーファンガとロブ・ゼヴィアによるライナーノーツにはこのように書いてある。「70年代から80年代前半に、自主制作の、多くの単独作業から生まれたエレクトロニック・ソウル。多くが耳にしたことのない、そのひっそりとした地下世界的姿を垣間見せてくれるのが本作だ」
 たしかに彼らが主張する通り、それらは「のどか、奇怪、ファンキーと姿を変える」「時代の先を行っていた広大なるサウンド」なのだ。シンセとBOSSのドラムマシンで作った1曲目のジェフ・フェルプスの"Excerpts From Autumn"を聴けばよくわかる。感情を引っ掻くようなひどく安物のドラムマシンの音がたまらない(フェルプスはもう1曲収録されているが、それはいわば黒いクラフトワークである)。以下、興味深い曲が最後まで続いている。ギター・レッドの"Disco From A Space Show "のドラミングは学研のおまけのような音質だが、しかし、これはシカゴ・ブルース界の巨匠による作品だというから驚きだし、ジェリー・グリーンの"I Finally Found The Love I Need"はヤズーの青写真のようであり、ベースラインはサイボトロンのようなロボット・ファンク。トライバルなキー&クリアリーの"A Man"もいいが、彼の人生の躁鬱病が影を落としているとライナーで説明されているスポンタネアス・オーヴァースローによるエレクトロ"All About Money"の不気味さは、オッド・フューチャーやクラウド・ラップともそう離れてはいない。
 スケベ心いっぱいのUSエリーズの"Are You Ready To Come?"やダビーなミキシングによるその"Pt.2 "、メーカーズによる風呂上がりでトロピカルな"Don't Challenge Me"、デトロイトのジョニー・ウォーカーによるプレ・ムーディーマンとも言える"Love Vibrator"......デボラ・ワシントン&ジ・アスターズによる出来損ないのファンク"Shortest Lady"、スティーヴ・エリオットによる哀愁を誘う"One More Time"、女のあえぎ声が反復する宇宙的ダブ"My Bleeding Wound"......。

 いまさながら、金をかけずにアイデアを捻り出す連中の音楽の素晴らしさを知る。アルバムの最後では、オーティス・G・ジョンソンによるシンセ"ゴスペル"ポップの"Time To Go Home"が彼らの栄光を讃えている。我々と同じように彼らも時代に翻弄され、決して平坦ではない人生を歩みながらもこんなに大きな、そしてユニークな夢を見ていたのである。

googolplex - ele-king

 2年前、秋の武道館に安全地帯のライヴを観に行ったとき、まったくといいほどMCはなく、唯一、ステージで語ったことが、その年の6月に自殺したパク・ヨンハのことだった。根も葉もないネットの中傷を苦にして自殺したチェ・ジンシルや撮影を拒否してアメリカまで逃げたハン・イェスルもそうだけど、勝ち負けがはっきりと出てしまう韓国で芸能活動を持続するのはかなりのプレッシャーがあるらしく、なかなか玉置浩二のように意味不明な行動は取れないらしい(すぐ斜め前に青田典子がいて、アンコールで飛び出してきた玉置浩二に窒息しそうなほどディープ・キスをされていたw)。

 とはいえ、3大事務所(SM、YG、JYP)が牛耳る芸能界に反発する動きも強くなっているそうで、ソウルに「空中キャンプ」というライヴ・ハウスを設立したメンバーのひとりから5~6年前に聞いた話では、政治的なテーマを歌詞にしてはいけないなど、まだまだ規制も多いなか、細々とインディ・ロックも表現をやめてはいないということだった。どんなバンドがいるのか尋ねたところ「モノマネの域は出ていない」と彼も正直に言うので、あえて聴いてみたものはなかった。そのことを、いま、少し悔いている。グーゴルプレックスというバンドのことを知ってしまったからである(ソウルのライヴ・ハウス「空中キャンプ」に関しては『すばらしいフィッシュマンズの本』(INFAS)に収録された前田毅氏のリポートに詳しい)。

 韓国の〈ファウンデイション・レコーズ〉というレーベルがどういったものなのかさっぱりわからないんだけど、昨年、3枚目となるコンピレイション・アルバムに(個人的にはダグラス・ベンフォードのレシピなどを思い出す)〈エル・レコーズ〉風の柔らかくて春の日差しのような"シーブリーズ"を提供したグーゴルプレックスは、前後して4曲入りEP「エンドレスリー・ハイ&ディープ」でデビューし、それらから1曲を除いてすべてを採録し、新曲を5曲加えたデビュー・アルバムを今年の初めにリリース。これをオクターヴ・ソウルが国内盤としてライセンスしたということになるのかな。レーベルの謳い文句はウーリッヒ・シュナウスなどを引き合いに出したグローファイ・ドリーム・ポップ・ユニット、もしくは韓国版の逆輸入チルウェイヴとか。......まあ、最初はそうかなと思って聴いていて、韓国語で「夢」と題された5曲目で......ちょっと待てよ。

 フィッシュマンズに対する韓国からのアンサー......とは言わない。言わないけれど、中盤辺りから、あれッと思う箇所が何回も出てくる。「夢」に出てくるリフはまさかサンプリングじゃないかと思うほどそれっぽいし、"レット・イット・フロウ"から(韓国語で)"愚痴(ゲット・ロスト)"に変わる辺りもそうとしか聴こえない......。空耳アワーだろう。レバノンにもフィッシュマンズを思わせるスカ・バンドはいるし、空耳といえば、トーキング・ヘッズが叫ぶ「マッド・クラブ!」が......いや。そういえば、最近、人間ドックに入って......聴力には何も異常はなかった。しかし、ぜんぜんあり得る話ではないだろうか。ソウルの「空中キャンプ」では毎年、フィッシュマンズ・ナイトが開かれ、いつも100人ぐらいは集まると言っていた。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドを聴きに来た客が全員、楽器を持って演奏しはじめた......じゃないけれど、韓国のフィッシュマンズ・ナイトから生まれたバンドがいてもおかしくはない。ユニバーサル・コーリアが一回は対訳つきでフィッシュマンズのバック・カタログをリリースしようとしたこともあったぐらいで、佐藤伸治の歌詞がわからなくても音楽だけで伝わるものもあるということだろうから(フランスにもフィッシュマンズを神と仰ぐサイトがある)。

 とはいえ、フィッシュマンズと何ひとつ関係がなくても、"エンドレスリー・ハイ・アンド・ディープ"の夢見るような感覚や"チャーピング・バーズ"のトロピカル気分はそれだけで充分に素敵な気分をもたらしてくれる。グローファイ・ドリーム・ポップでもチルウェイヴでもなんでもいい。いまは、この甘ったるいシンセサイザーに少しでも長く包まれていたい(......って、それじゃ橋元UFOと同じじゃん!)。

 全曲試聴→https://soundcloud.com/fndt/sets/googolplex-behind-the-eyes

 DJとギターの男性二人組み(?)→https://blog.naver.com/

 *80年代の広島でハードコアをやっていた同名バンドに注意

Bear in heaven、Blouse、Doldrums @ Bowey ballroom may.8.2012

 最近のショーを見に行って感じるのがノスタルジック=懐かしさ。「音楽はもう最近見に行ってないんだ」と言っている30代後半の人でさえ、懐かしいバンドがプレイするとなれば、そこそこするチケットを買って、足を延ばして見に行く。
 1ヶ月ほど前に、『チックファクタ』というインディポップ・マガジンが20周年を迎え、当時活動していたバンドがこの日のためにリユニオンした。ブラック・タンバリン、アイラーズ・セット、スモール・ファクトリー、ジム・ルイーズ・グループ、ヴァーサス、スティーヴィー・ジャクソン(ベル・アンド・セバスチャン)、ソフティーズなど、好きな人にはたまらないラインナップである。パフォーマーも観客もほとんどが30~40歳代真っ只なか。仕事に疲れ、家庭にも疲れ(?)ている世代。でも、この瞬間はみんなとても活き活きする。笑顔がずーっと絶えない。
 そういえば、小沢健二も最近(3~4月)に復活コンサートを行った。かなりの競争率のチケット争奪戦を勝ち抜き、幸運にもチケットを手に入れた人は、さまざまな思いを胸に、それぞれの青春を取り戻していた。この話を知り合いにしたら、自分も最近クラフトワークが8日連続で毎日違うアルバムを演奏する(しかもミュージアムで)ライヴに、かなりの競争率のチケット争奪戦の末に行くことができたと、語っていた。入場者には3Dメガネが配られ、たくさんのファンと一緒にノスタルジッーをシェアしたと、キラキラした目で興奮しながら話してくれたのである。

 何だ! この、揃いも揃って昔を懐かしむ感は? いつも忙しいと言っている人でさえ、チケットの値段や日程も限定されているのに、時間を作ってこのために出かける。当時を経験している人たちだけの楽しみかと思えば、クラフトワークの彼は、オンタイムで経験していないが、このチケット取るのに最高級の力を注いだという。「懐かしさ」は人を動かすアドレナリンなのか?

 次から次へとバンドがクロスするニューヨークではいろんなショーが毎日やっていて、何を見に行くのかは自分にかかっている。私は自分の興味のあるライヴ、友だちが教えてくれて、自分も興味がありそうなライヴ、まったく調味はないが友だちが行くというのでついていくライヴ、いろいろあるが基本的に音楽が好きなので、どこに行ってもある程度楽しめるし、それぞれいろんな感想もある。最近のワッシュド・アウト、ヒア・ウィ・ゴー・マジックのショーの熱も冷めやらぬまま、今回はこの3組のショーに行った。ベア・イン・ヘヴン、ブラウス、ドルドラムス! まさにいまどきのメンツだ。


Bear in Heaven
Photo by Dan Catucci


Blouse


Doldrums
Photo by Amanda hatfield

 ベア・イン・ヘヴンは〈デッド・オーシャンズ〉という〈ジャグア・ジャグア〉傘下のレーベルと契約し、精力的ににツアーしている真っ最中。何だかんだと最近名前はよく耳にしていて、機会があれば見に行こうと思っていた。
 彼らを最初に見たのは5年ぐらい前のこと。プレフューズ73とツアーをしていた友だちから「友だちのバンドがガラパゴス(ノース6通りにあったアートギャラリー)でやるから見においで、ビア・イン・ヘヴンだよ」と言われた。ビア・イン・ヘブン? 天国にビール? ビール飲み放題? バンド名だとも知らず(しかも聞き間違ってる)、勝手に勘違いして行くと、ベア・イン・ヘヴン。天国にいるクマか? ビールじゃなかったのって。そのときはきちんとしたバンド体制で(たしか5人ぐらいメンバーがいた)、キーボードの印象が強いバンドだなと思っていた。

 さて、話を戻そう。オープニングのふたつのバンドは、この会場を上手にウォームアップした。どちらもうしろのプロジェクションを使い、うまい感じにこのノスタルジック感を演出していた。

 ドルドラムスはカナダ、トロント出身の3ピース。見た目はいかにもオール・セインツのモデルになりそうな、カーリーヘアのユニセックスな男の子。女の子のような、エンジェリックなヴォーカルはエキゾチックでトロピカル。かなりハイトーンなのに絶叫系。フロント2台のキーボードをくるくる変えながら横にあるドラムパッドを叩く。後ろにはフーディを深くかぶったドラマーがビートをキープし、バンドをまとめている。打楽器音が多いから音がトロピカルに聴こえたのか、いちばん面白かった。

 次に登場のブラウス(Blouse)は、ポートランド出身の80年代ノスタルジック・ポップ・バンド。ローキーな女の子のヴォーカルは、アイラーズ・セットとゾーイ・デシャネルを足して2で割ったような、コクトー・ツィンが現れた感じ。ダークでゴス、チルでセンチメンタル、そしてギターのディストーションがシューゲイザーしている。うしろに流される七色のプロジェクションが何ともアーティーで哀愁を誘う。これも一種チルウェイヴか?

 トリはベア・イン・ヘヴン。3人編成で、うしろにはピンクとブルーの蛍光レーザーライト&スモークマシンが何の遠慮もなく、がんがん施される。ジョンは主に歌とシンセ、そしてダンスと盛り上げ役だ。アダムはクールにギター、ドラマーのジョーはマイアミ・ヴァイス・スタイルのフィルをマシンガンのように叩き続ける。
 ちなみに、ドラマーのジョーは私の近所のバーのバーテンでもある。目つきが鋭いブレードランナーのような体力の持ち主で、ドリンクを作るのも早い。
 
 ベア・イン・ヘヴンの印象は、ノスタルジックでドラマチック。蛍光ライトにワッシュド・アウトを思い出し、究極に歌にのめり込んでいく姿は80年代の映画の世界......あるいは"ダンシング・クイーン"、『サタディ・ナイト・フィーヴァー』の世界(?)。見ている方がはらはらして体力を使い果たして、最後に抜け殻のようになってしまった。まわりを見ると楽しんでいる人と消耗している人両方いる。
 このバンドが、ブルックリンでどの位置にいるのかを説明するのは難しい。『ローリング・ストーン』にレビヴューが載っていたり、NPRにもフィーチャーされているので、少なくてもアンダーグラウンドではない。かといってデス・キャブ・フォー・キューティ、シンズなどのメジャーに近いインディというわけでもない。オーディエンスの層もミックスで、音楽マニアというよりは大衆音楽、ある程度の懐かしさを期待する、まったく新しい何かを求めているというよりは自分が安全で快適な音楽に浸りたい、オーヴァーグラウンドとアンダーグラウンドのすれすれの観客。今日の観客と次どこのショーですれ違うかは、興味のある所でもある。少なくとも、『ショーペーパー』は読んでいないかな......。

https://www.brooklynvegan.com/archives/2012/05/bear_in_heaven_12.html

Tam Tam - ele-king

 一聴してよく制御されたダブ・サウンド、という印象。快楽のポイントを衝くエフェクト、そして揺さぶりをかけるベース、とダブの基本をきっちり抑えている。20代前半のバンドと喧伝されているが、たしかに年齢を思うと完成度が高い。そして、ひょっとしたら渋い? 女性ヴォーカルに強力なバック・バンド、という編成からポスト・パンク世代のニュー・エイジ・ステッパーズを想起させる。もう30年も前のバンドだが、Tam Tamのルーツがその辺にあることは容易に想像がつく。いま、20代前半の子がどんな音楽を聴いてるのか詳しく知らないが、このバンドのメンバーは他の同級生から浮いていたに違いない。きっと、授業中に音楽誌を隠し読みしているようなタイプだ。

 そう、Tam Tamは〈On-U〉、あるいはダブステップまで脈々と流れるブリストル・サウンドの魔力を体感している人なら好きになる音だ。レゲエとロックの混血、さらにはエレクトロニック・ミュージックまで呑み込んでしまうサウンドの生命力は強く、世紀をまたぎ、また遠い東京という地で装いも新たに登場した......というと話がでか過ぎるか。このアルバムはどちらかというとロックと親和性が強く、ゆえに聴きやすくキャッチー。黒田さとみの伸びやかで美しく、ときに力強いヴォーカルはスターのオーラを早くも漂わせている。決してセル・アウトを意識しているわけではない、ただ自分たちに気持ちのよい音を追求した良質なポップ。まずは、そんな評価ができると思う。

 本作はファースト・フル・アルバムでリトルテンポのHAKASE-SAN(exフィッシュマンズ)をプロデューサーに迎えている。昨年、自主流通で発表したミニ・アルバム『Come Dung Basie』がレゲエやスカのルーツに忠実だったのにくらべ、今作はもっと色彩ゆたかで、軽やかにジャンルを横断している。ダブというフォーマットのうえでマッド・サイエンティストのごとく実験しているよう。でも彼らの場合、サイエンティストというよりはプロフェッサー(!)=博士だ。やはり優等生然としている感は否めない。良くいえばサウンドに対して誠実であり貪欲ということ。バック・バンドの3人が揃ってメガネ男子なのも、何かを物語っている。僕個人はそんな姿勢に親近感を持っている。弱肉強食の時代にメガネ男子は大変なのだ!

 アルバム冒頭はヴォーカル黒田の北海道厚岸の音頭を素材にシャッフルした"Akkeshi Dub"からはじまる。ここから前半は"Dry Ride"のようなステッパーズ・リディムあり、ダンスホールに接近したものありとベースの疾走感が際立つナンバーが続く。アルバム中盤ルーツ・レゲエを奏でたあと、黒田のヴォーカルが引き立つラヴァーズ・チューン"Stop The Alarm"ではトロピカル・フルーツのような濃厚な甘さが空間を支配する。一転、インストに呟くようなリーディングが乗っかる8曲目から、ファンクが加味された曲があったり、"Train"はまさにブリストル・サウンドで、マッシヴ・アタックから現在のダブステップまでを彷彿とさせるナンバー。後半は深く、ポーティスヘッドやサイレント・ポエッツのような暗さを持っている。黒田の歌声は「叫び」にはならず呪文のように囁いている。繊細なニュアンスや謎を残し、アルバムは終焉へと向かう。

 洗練していてスタイリッシュで、率直にいってすごく格好いい。紛れもないダブ・ミュージックだが、その範疇をときに乗り越えてしまう振幅があり飽きさせない。でもね......ひとつだけ注文したくなる。Tam Tamにそれを求めるべきではないかもしれないが敢えて言わせてもらおう。レゲエ=レベル・ミュージックであって欲しいと思う人間にとって、「レベル」は何処にあるのだ、とあら捜しをしたくなる。アリ・アップは「拝金主義者が消え去る(フェイド・アウェイ)」と歌っていたし、原発事故以降、デモを渡り歩く筆者にとってサウンド・デモで謳うリクル・マイの誠実なプロテストに純粋に感動していたので、どうしても、そこがね......と。

 でも、本人たちはそんなこと百も承知のうえだろう。何の運命の悪戯か正真正銘「ジュネ」と読む名前を授かり、URやザ・ブルー・ハーブを愛するベースの小林樹音が作詞した"Inside The Walls"ではチェルノブイリで石棺され、いまも原子炉に埋もれる「壁のなか」の遺体のことを描き出しているという......。歌詞を読んでもそれは伝わらないかもしれない。そっと忍ばしているという感じ。たしかに、被害が明白で、世論の大勢がいまや異を唱える原発問題を表現するのは難しい。レベル・ミュージックとして、あまりにありふれた表現に陥る可能性はあるし、反原発の表現は、それでよいのかもしれない。"Inside The Walls"は熟慮し現れた表現なのではないか。より抽象的に表現することで広義に解釈できるというような。「レベル・ミュージック」などとTam Tamにいらぬ責任を負わせるよりも、いまはサウンド・プロフェッサーとしてさらなる進化を期待させる音にひたすらヤラれ、そして聴き惚れていればよいのかもしれない。自分たちの鳴らしている音楽が一体どんな出自を持っているのか、それが嫌でも突きつけられる日がくるだろう。
 ちなみにベースの小林樹音はJitteryJackal名義で〈術ノ穴〉のコンピレーションにも参加しポスト・ダブステップ風味の曲を提供している。Tam Tamのダークサイドのような感じで印象的だ。また、アルバムに先攻して〈JET SET〉とコラボし制作された"Dry Ride"のEPも発売されている。

Washed Out/Memory House @ Highline Ballroom 4/22/2012
Here We Go Magic @ Knitting Factory 4/26/2012

Photo by Dan Catucci

 4月21日のレコード・ストア・ディの翌日(ブラック・ダイス、フォー・テットなどのゲストが1時間毎に出演した、アザー・ミュージックには、2ブロックを超える長い行列ができた。)ウォッシュト・アウトをハイライン・ボール・ルームに見に行った。この場所はマンハッタンのミート・パッキング・エリア(ちょっとしたファンシーエリア)にあり、ジャズ、フォーク、R&B、ワールド・ミュージック、インディ・ロックなど(4月のカレンダーはスザンヌ・ヴェガ、レイチェル・ヤマガタ、チック・コレア、アタリ・ティーンエイジ・ライオットなど)、ジャンルはバラバラ、ベテランから新人まで出ている。近くの観光名所ハイライン・パークから名前がつけられた、700人を収容できる比較的新しい会場だ。
 私はウォッシュト・アウトについては、この日までノーマークである。チルウェイヴという言葉くらいは知っているが、自分がよく見に行くバンド(エンターテイン重視で、フレンドリーなバンド)にはあまりないタイプだ。チルウェイヴには、いろんな評価があるだろう。だから、ウォッシュト・アウトに関しては「いまの時代を表す新世代の音だろう」という知識だけでライヴを見て、自分がどう感じるか興味あった。
 ショーはソールド・アウト(翌日のブルックリンでのショーもソールドアウト!)。少なくとも700人がチケットを前もって買っている、つまり評価が高い、期待も高まる。

 オープニングはウォッシュト・アウトと同じ〈サブ・ポップ〉にサインした、オンタリオ出身のデニースとエヴァンのドリーミー・ポップ・デュオ、メモリー・ハウス。女の子(デニース)の穏やかで、湖にこだまするようなヴォーカルが乗り、憂さ、そしてストリングスの音がせつなく響く音楽だ。個人的にはオ・レヴォワール・シモーヌのエリカ嬢(ソロが出ました!)を彷彿させるが、可愛い女の子が見れるというだけでもテンションはあがる。
 なのに、会場に到着すると、ちょうどメモリー・ハウスが終わったところだった。がっかりしながら、せめて物販だけでもと物販テーブルに行く。ドットのワンピースの女の子がいたので、「今日のショーはどうだった?」と尋ねて見ると、彼女はその本人! デニース。とっても気さくに今日のショーのこと、ツアーのこと、ギアーを盗まれてしまったこと(!)などを話してくれた。近くで見るとより可愛い。

 そして、ウォッシュト・アウトに戻る。ジョージア州出身のアーネスト・グリーンのプロジェクト、きちんとしたバンド編成でのライヴだ。

 セッティングに20分あまりを要し、照明が落ちたところでメンバーが登場する。フロントにシンセが3台、左からアーネスト、ブレア(アーネストの奥さん)、ベース・プレイヤー(キーボードもプレイ)、そして後方いち段上がったところにドラマー。アーネストは白のパリッとしたボタンダウンシャツに黒のパンツというシンプルな出で立ち。観客は「ウォッシュト・アウトがプレイするよ。これ行かないといけてないでしょ」とでも吹聴しそうな(?)、20台前半のパーティ好きが大半を占めている(大体バドライトを飲んでいるか、ここぞとばかり、ファンシーなカクテルをオーダーしている)。いちばん前で見ていたので、後方はあまり見えなかったが、フロントのいち部の観客がノリノリなのはよく見えた。
 アーネストはiPadを一時も(どの曲でも)離さず、キーボードを弾き、トラックを進める。ベースとドラムはずっしりお腹に響くが、シンセの音は儚く、ノスタルジックな夢心地で頭のなかを駆け巡る。そんな浮遊中に、「どう、そっちは、元気?」と、曲間に突然、アーネストが観客を煽ったりするから、どこまでが夢でどこまでが現実なのか、はっとさせられてしまう。
 ウォッシュト・アウトのニュー・アルバム『ウィズイン・アンド・ウィズアウト』は、パンダ・ベアの『パーソン・ピッチ』に影響を受けている。ライヴノスタルジアなダンシーなシンセを展開する。新しいけど古めかしく、実験的要素のなかにハーモニーやコーラス部分もあり、観客をダンスさせる......たしかにパンダ・ベアのアルバムにも共通する、クールな音楽が好きな、新世代感覚を持った音楽で、「ちょっと懐かしいけど新しい」という感覚を持っている。そして、これは何でもミックスするいまの時代を表してもいる。
 全体的に気だるく、ドラマティックで、内に秘めた音楽、これこそがチルウェイヴなのだろう。曲間に「ヘイ! 気合いれてダンスしよう!」などと煽りを入れたり、キャラクターあるベースとドラムをいれ、バンドのバランスを保っているのは、彼自身のなかに表面には出さないが、ものすごく熱い「ダンス・パンク」精神が息づいているからだろう。

https://www.brooklynvegan.com/archives/2012/04/washed_out_play_1.html


Here we go magic w/glass ghost @ knitting factory 4/26(thu)


HERE WE GO MAGIC Photo by Dan Catucci

 こちらも新世代バンド(と著者が解釈)、ヒア・ウィ・ゴー・マジック。5月8日に新しいアルバム『A Different Ship』が発売されるので大忙しだ。彼らは1年前にも野外で見ていてほんわりするバンドという印象だった。以前の曲は、ウォッシュト・アウトに通じるところ(浮遊感、シンセ音)も多々ありなのだが、新しいアルバムはよりポップでトロピカル、暖かい。チル(ウォッシュト・アウト)とトロピカル(ヒア・ウィ・ゴー・マジック)ならちょうど良い。
 このニュー・アルバムにはエピソードがある。2010年、彼らは、グラストンベリー・フェスティヴァルでお昼前にプレイした。彼らのコンディションは悪い(前の日にほとんど寝ていない)、お客さんもほとんどが二日酔いというシチュエーションのなか、いちばん前にいたふたりだけがノリノリだった。それがレディオヘッドのトム・ヨークとプロデューサーのナイジェル・ゴッドリッチ。これがきっかけでナイジェル・ゴッドリッチが、このアルバムをプロデュースすることになった。

 シングル曲「How Do I Know」は、私がよく聴いているカレッジ・ラジオでもヘヴィーローテーションで、シンプルなギター、ヴォーカル、ドラム・コンボで、クルクル回るシンフォニーが心地よい日当たりの良いトラック。いちど聴くと「おっ、またかかっているな」と、ついつい口ずさんでしまう。

 この日もウォッシュト・アウトと同じくソールドアウト。観客は、みんな彼らの友だち(?)かと思うほど、彼らのことをまるで自分のことのように一生懸命話していた。いちばん前には、カメラを一時も離さないノリノリなメンバーの両親がいた。
 メンバーは、白を基調した衣装で登場。少し緊張も感じられたが、演奏がはじまるとリラックスし、良く見せようとすることもなく、自分たちにできる精一杯を出し切っているように見えた。それが好感度の秘訣なのかもしれない。ラ・ラ・ライオット、ガールズあたりと被るところが多々あった。
 "How Do I Know"はラストから2番目に演奏した。ここまで、ほとんどMCのなかったメインガイのルークが、「今日は来てくれて本当にありがとう、あと2曲演奏します」と丁寧に言った。

 ウォッシュト・アウトは彼らの両親の世代には理解し難いかもしれないが、ヒア・ウイ・ゴー・マジックはどの世代でも受け入れる包括力がある。メンバーのキャラ、演奏力(少し音を外したりするのがまたいい)、応援したくなる要素が満載だ。アンコールでは観客一緒にハンド・クラップしたり、昔の曲を出してきたり盛り上がり、最後はギターのディストーション音、ノイジーサウンドが白く続いたあと、ピタリと終了した。

 ウォッシュト・アウトとヒア・ウィ・ゴー・マジック。行った場所がマンハッタンとブルックリンという決定的な違いもある、来ている観客も違っただろう、一緒にプレイするのは、フェスティヴァル以外にないだろうが、このふたつのバンドはなぜか私のなかでリンクしている。共通点がたくさんあるというわけでもなく、正反対でもない。そして互いに新しい音を生み出そうとする新世代の代表で、同世代からの支持を得ている。

Slugabed - ele-king

 ジャンルのことをぶつくさ言う人がいるけれど、何かがはじまって、それがまだ未分化の状態にあるときに、何が何だかわからないままに楽しんだことがないと、それは文句もいいたくなるでしょう。ジャンル名というのは、結果的につけられるものだし、文句を言っている人たちはいちばん面白いところを逃しているわけだから。セカンド・サマー・オブ・ラヴなどというのはそれの巨大なものだった......もいいところで、ドラムンベースが分かれて出てくるまでに7年が経過し、さらにはシカゴ第2波からフレンチ・タッチに飛び火して、余裕で10年以上も続いたというポテンシャルは、分化していく過程そのものがレイヴ・カルチャーの推進力にもなっていたさえ思えてくるし(1899年にパリのムーラン・ルージュから始まったサマー・オブ・ラヴが再び100年後のパリに戻ってくるという円環構造もまた素晴らしい→12回めの映画化となるバズ・ラーマン監督『ムーラン・ルージュ』から「I first came to Paris one year ago. It was 1899, the summer of love. I knew nothing of the Moulin Rouge, Harold Zidler or Satine. The world had been swept up in the Bohemian revolution and I had traveled from London to be a part of it. On a hill near Paris, was the village of Monmatre. It was not what my father had said. But the center of the Bohemian world. Musicians, painters, writers. They were known as the children of the revolution. Yes! 」。

 ルーマニア語でスルガベーを名乗るグレゴリー・フェルドウィックがリック・ジェイムズ"スーパーフリーク"をネタにマッシュ・アップをリリースしたときも、これはなんだろうという感じで、その音楽にジャンル名がつけられないもどかしさとその快楽は多くのDJやリスナーを魅了した。これが、たった3年前のことだったとはとても思えない。同じ09年に〈ランプ〉からリリースされた「グリットソルト」は初のオリジナルだったにもかかわらず、あまりいい出来ではなかったので、彼の名前はあっという間に廃れていく。しかし、ココ・ブライスとの変則スプリットを経て、〈プラネット・ミュー〉からのリリースとなった「アルトラ・ヒート・トリーティッドEP」(10)が彼の知名度を回復させ、いや、飛躍的に高め、2011年には〈ニンジャ・チューン〉と契約。「ムーンビーム・ライダーEP」「サン・トゥー・ブライト・ターン・イット・オフ」「セックス」と順調にリリースを重ね、その度に、ダブステップだ、ヒップホップだ、いや、エレクトロだと言われながら、何が何だかわからないままファースト・アルバムまで辿りついてしまった。その間にもココ・ブライスの『トロピカル・ヒート』シリーズやアキラ・キテシとのタッグ、さらにはサージョンのミックスCDにも使われていたスターキーを始めとする山のようなリミックス・ワークもこなし、なかではリコーダによるレーベル・コンピレイション『アストロダイナミクス』に提供した「クランク・クランク」が圧倒的な素晴らしさだったといえる。そして、そのどれもがいまだにジャンル分けされず、未分化のビートを鳴らし続けている。しかも、統一感はありまくる。スゴい。

 とはいえ、少しはジャンル分けに挑戦してみよう。コズミックで複雑怪奇なダウンビートの"ムーンビーム・ライダー"、ワールド・ミュージックを徹底的に脱色したような"ドラゴン・ドラム"、キラビやかなグリッチ・エレクトロを聴かせる"セックス"をそれそれ先行EPから採録し、新たに9曲をプラスした『タイム・ティーム』は全体にどこか儚い叙情性に覆われつつ、ジ・オーブをフュージョンに解体したようなアーバンかつ夢見がちな気分にあふれかえっている。ラスティフローティング・ポインツの中間を行く"マウンテインズ・カム・アウト・オブ・ザ・スカイ"や"クライミング・トゥリー"ではどこまでも美しい景色が続き、かつては初期のフィル・アッシャーやイアン・オブライアンが見せてくれたものとまったく同じ場所へと連れ去られる。それはすでにオープニングから予感ははじまっていて、いちども裏切られることはない。グルグルと螺旋を描きながら、同じでありながら少しずつ違う景色へと運ばれていく。そして、終わり方はきっと誰にも予想できない。そこにはまた新たな未分化が待ち受けている。なんて巧妙なんだろう......

Battles - ele-king

つまり識は「テクノ」にへと 文:三田 格

Battles
Dloss Glop

Warp/ビート

Amazon iTunes

 「踊れるサムラ・ママス・マンナ」。それがバトルズの正体だろう。SMMは70年代にスウェーデンで結成されたプログレッシヴ・ロックの4人組で、例によって解散→再結成を経てゼロ年代からはドラムスにルインズの吉田達也が参加している。悲しいかなバトルズは超絶技巧だけでなく、ユーモアのセンスまでSMMを模倣していて、オリジナルといえる部分はレイヴ・カルチャーからのフィードバックと音質ぐらいしか見当たらない。疑う方はとりあえずユーチューブをどうぞ→
https://www.youtube.com/watch?v=yqSmqh-LdIkhttps://www.youtube.com/watch?v=ZYf7qO9_MV8https://www.youtube.com/watch?v=jkWL1lOi1Hg、etc...

 ......といったことを割り引いても、昨年の『グロス・ドロップ』はとても楽しいアルバムだった。バーズやP-ファンクにレイヴ・カルチャーを掛け合わせたらプライマル・スクリームで弾けまくったように、SMMにレイヴ・カルチャーを掛け合わせてみたら、思ったよりも高いポテンシャルが引き出された。そういうことではないだろうか。おそらくはまだロックにもそうした金鉱は眠っているはずである。テクノやハウスだって、どう考えてもそれ自体では頭打ちである。何かを吸収する必要には迫られている。アシッド・ハウス前夜にもどれだけのレア・グルーヴが掘り返されたことか。そう、アレッサンドロ・アレッサンドローニやブルーノ・メンニーなんて、もはや誰も覚えちゃいねえ(つーか、チン↑ポムなんてザ・KLFのことも知らなかったし......)。ためしに誰かブルース・スプリングスティーンにレイヴ・カルチャーを掛け合わせてみたらどうだろう......なんて。

 本題はそのリミックス・アルバム。人選がまずはあまりにも渋い。しかも、様々なジャンルから12人が寄ってたかってリミックスしまくっているにもかかわらず、おそろしいほど全体に統一感がある。シャバズ・パレス(元ディゲブル・プラネッツ)の次にコード9だし、Qのクラスターからギャング・ギャング・ダンスなどという展開もある。しかも、そこから続くのがハドスン・モーホークとは。全員がバトルズに屈したのでなければ、セルフ・プロデュースの能力が異常に高いとしか思えない。

 オープニングからいきなりブラジルのガイ・ボラットーが情緒過多のミニマル・テクノ。マカロニ・ウエスターンに聴こえてしまうギターがその原因だろう。ミニマルの文脈を引き継いだシューゲイザー・テクノのザ・フィールドは、一転してヒプノティックなテック-ハウス仕上げ。続いてドラマ性に揺り戻すようにしてヒップホップを2連発。このところ壊疽=ギャングルネとしての活動が目立っていたアルケミスツはソロで90年代末に流行ったダンス・ノイズ・テラー風かと思えば、昨年、一気にダブ・ホップのホープに躍り出たシャバズ・パラスは彼の作風に染め上げただけで最もいい仕事をしたといえる。ダブステップからUKガラージに乗り換えつつあるコード9はそれをまたコミカルに軌道修正し、2年前に"エル・マー"のヒットを飛ばしたサイレント・サーヴァントやラスター・ノートンからカンディング・レイはそれぞれのスタイルでダブ・テクノに変換と、いささかテクノの比重が高すぎる気も。これは自分たちにできないことをオファーしているのか、それとも自分たちが次にやりたいことを先行させているのか。いずれにしろ、その結果はユーモアの低下とリズムの単調さを招き、チルアウト傾向ないしはリスニング志向を強めることになった(クラスターの起用はまさにその象徴?)。

 後半で最大の聴きどころは、珍しく同業のパット・マホーニーを起用した"マイ・マシーン"で、シンプルなリズム・ボックスに絡むゲイリー・ニューマンのヴォーカルは最盛期の気持ち悪さを思わさせるインパクト。ジャーマン・トランスにありがちなリズム・パターンなのに、ロック・ミュージックとして聴かせてしまう手腕はかなりのもので、思わず、ほかにはどんなリミックスを手掛けているのだろうと調べてみたら、まったくデータが見つからなかった(これが初仕事?)。エンディングはヤマタカ・アイで、トライバルとモンドの乱れ打ちはこの人ならでは。ダイナミズムよりもリスニング性を優先したことで最後に置くしかなかったのかもしれないけれど、それはちょっと消極的な判断で、僕ならギャング・ギャング・ダンスとハドスン・モーホークのあいだに置いただろう(バトルズの意識が「テクノ」に向かっている証拠ではないか)。

文:三田 格

»Next 松村正人

[[SplitPage]]

そして『グロス・ドロップ』の完全なる分解 文:松村正人

Battles
Dloss Glop

Warp/ビート

Amazon iTunes

 アンダーグラウンドのスーパーバンドから『ミラード』で転身したバトルズはタイヨンダイ・ブラクストンは抜けたが、『グロス・ドロップ』で前作をさらに発展させ、そこでは初期のハードコアを構築し直した鋭利な、しかし同時に鈍器のようだったマス・ロックの風情は退き、かわりにポップな人なつこい音が顔を出した。強面だった数年間からは考えられない柔和な表情をしていたが、いまのパブリック・イメージはむしろこっちである。それまでのいくらかすすけたモノトーンはツヤめいた内蔵の色に塗りこめられた。ジャケットがそれを暗示する。有機的であり抽象的であり生理的でもある。私は以前にレヴューを書いてから聴いていなかった『グロス・ドロップ』を、『ドロス・グロップ』を書くために、しばらくぶりに苦労してひっぱりだして聴いたが、おもしろかった。たしかここに書いたレヴューは最初おもしろくないと思ったと書いたと思ったが、聴き直したらやはりおもしろくないことはなかった。私は『ドロス・グロップ』を先に聴いて、原曲をたしかめるために聴いたからかちがいがおもしろさを後押ししたが、オリジナルとリミックスの幸福な相乗効果がうまれたのは、前者が音で語ることに腐心したアルバムであったことに多くを負っている。そこには内面は投影されていない。語るのはあくまで音楽であり、バトルズの連中ではない。それに任せる。タイヨンダイというアイコニックな人材を欠いた逆境がある種のスプリングボードとなり、バンドを、音楽の生成を何よりも彼ら自身がたのしんでいる(たのしまざるを得ない)、陽性の作品性へ追いこんだのだと穿つこともできなくはないが、この結果はいってみれば、往時のダンスカルチャーの匿名性を思わせるものであり、その意味で、リミックスという行為との親和性はいうまでもなかった。
 
 アルバムは先行した4枚の12インチを若い順に並べた。テクノ~ヒップホップ~(ポスト)ダブステップ~ミニマル~ワールド~ディスコパンクなど、ゼロ年代以降のダンスミュージックを巡礼する構成で、総花的なつくりでもあるが、散漫な印象を与えないのは、カテゴリーの遍歴そのものが音楽を前のめりにさせるからだろう。サンパウロのギ・ボラットとストックホルムのザ・フィールド、〈コンパクト〉勢のループは『ミラード』までのバトルズの交響的な――つまり縦軸の――ループを横倒しにしたように、渦を巻き滞留するようでありながら、前方へジワジワと音楽を煽り、ヒップホップ/ブレイクビーツ~2ステップ/UKファンキーのブロックへバトンタッチすることでアルバムのタイムラインは最初の山と谷(もちろん逆でもいい)を経過する。山はすくなくともあとふたつはあるようである。3つかな?と思うひともいるであろう。それはどっちでもいいが、この高低差は現行のダンスカルチャーの地形図であり、すくなくともリミキサーたちは所属するジャンルに奉仕する職人的な仕事に徹することで、楽曲を解体するだけでなく、原曲とリミックスとの間の、あるいはトラックごとの偏差が彼らの特質をあぶりだしもする。なんであれ解釈が生じる場合、ズレがうまれる。その隙間を広げるか埋めるかが、音を仲立ちにした対話では焦眉の問題になるが、原曲はどうあがいても完全な姿で回帰しない。このあたりまえのところにうまみがある。
 私は先に職人的な仕事と書いたが、解釈はいずれも大胆である。とくにクラスター、ブライアン・デグロウ(ギャング・ギャング・ダンス)、ハドソン・モホークのブロックは原作を再定義したというか、たとえばデグロウのリミックスは原曲のリフの音色が喚起するリズムのつっかかりをビートに置き直し『グロス・ドロップ』でいちばんポップでカラフルだった"Ice Cream"をデジタル・クンビア的な疑似アーシーな場所にひきつけることで、スラップスティックかつフェイク・トロピカリアとでも呼ぶべき原作のムードを二重に畳みこんでいく。ハドソン・モホークの着眼点もたぶん同じで、クラスターの作家性とはちがう――しかしそれはこのアルバムのアクセントでもある――が、デグロウ=モホークの視点はバトルズのそれとも同期し、元ネタの笑いをトレースし、さらに展開する、難儀な作業を的確にやっている。もっともそのユーモアはモテンィ・パイソンがミンストレル・ショーを実演するような、ねじれた、くすぶった笑いではなく、現代的な抑制が利いたものなのだが、であるからこそ、LCDサウンドシステムのドラマー、パット・マホーニーのディスコ・パンク調の"My Machine"という最後の山だか谷だかのあとのヤマンタカ・アイの、原作にひきつづきシンガリをつとめた"Sundome"で『グロス・ドロップ』は完全に分解したように思える。そして私は聴き終えたあと、ヘア・スタイリスティックスが聴きたくなった。

文:松村正人

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25