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Tam Tam

Tam Tam

Meteorite

Mao

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一色こうき   May 14,2012 UP

 一聴してよく制御されたダブ・サウンド、という印象。快楽のポイントを衝くエフェクト、そして揺さぶりをかけるベース、とダブの基本をきっちり抑えている。20代前半のバンドと喧伝されているが、たしかに年齢を思うと完成度が高い。そして、ひょっとしたら渋い? 女性ヴォーカルに強力なバック・バンド、という編成からポスト・パンク世代のニュー・エイジ・ステッパーズを想起させる。もう30年も前のバンドだが、Tam Tamのルーツがその辺にあることは容易に想像がつく。いま、20代前半の子がどんな音楽を聴いてるのか詳しく知らないが、このバンドのメンバーは他の同級生から浮いていたに違いない。きっと、授業中に音楽誌を隠し読みしているようなタイプだ。

 そう、Tam Tamは〈On-U〉、あるいはダブステップまで脈々と流れるブリストル・サウンドの魔力を体感している人なら好きになる音だ。レゲエとロックの混血、さらにはエレクトロニック・ミュージックまで呑み込んでしまうサウンドの生命力は強く、世紀をまたぎ、また遠い東京という地で装いも新たに登場した......というと話がでか過ぎるか。このアルバムはどちらかというとロックと親和性が強く、ゆえに聴きやすくキャッチー。黒田さとみの伸びやかで美しく、ときに力強いヴォーカルはスターのオーラを早くも漂わせている。決してセル・アウトを意識しているわけではない、ただ自分たちに気持ちのよい音を追求した良質なポップ。まずは、そんな評価ができると思う。

 本作はファースト・フル・アルバムでリトルテンポのHAKASE-SAN(exフィッシュマンズ)をプロデューサーに迎えている。昨年、自主流通で発表したミニ・アルバム『Come Dung Basie』がレゲエやスカのルーツに忠実だったのにくらべ、今作はもっと色彩ゆたかで、軽やかにジャンルを横断している。ダブというフォーマットのうえでマッド・サイエンティストのごとく実験しているよう。でも彼らの場合、サイエンティストというよりはプロフェッサー(!)=博士だ。やはり優等生然としている感は否めない。良くいえばサウンドに対して誠実であり貪欲ということ。バック・バンドの3人が揃ってメガネ男子なのも、何かを物語っている。僕個人はそんな姿勢に親近感を持っている。弱肉強食の時代にメガネ男子は大変なのだ!

 アルバム冒頭はヴォーカル黒田の北海道厚岸の音頭を素材にシャッフルした"Akkeshi Dub"からはじまる。ここから前半は"Dry Ride"のようなステッパーズ・リディムあり、ダンスホールに接近したものありとベースの疾走感が際立つナンバーが続く。アルバム中盤ルーツ・レゲエを奏でたあと、黒田のヴォーカルが引き立つラヴァーズ・チューン"Stop The Alarm"ではトロピカル・フルーツのような濃厚な甘さが空間を支配する。一転、インストに呟くようなリーディングが乗っかる8曲目から、ファンクが加味された曲があったり、"Train"はまさにブリストル・サウンドで、マッシヴ・アタックから現在のダブステップまでを彷彿とさせるナンバー。後半は深く、ポーティスヘッドやサイレント・ポエッツのような暗さを持っている。黒田の歌声は「叫び」にはならず呪文のように囁いている。繊細なニュアンスや謎を残し、アルバムは終焉へと向かう。

 洗練していてスタイリッシュで、率直にいってすごく格好いい。紛れもないダブ・ミュージックだが、その範疇をときに乗り越えてしまう振幅があり飽きさせない。でもね......ひとつだけ注文したくなる。Tam Tamにそれを求めるべきではないかもしれないが敢えて言わせてもらおう。レゲエ=レベル・ミュージックであって欲しいと思う人間にとって、「レベル」は何処にあるのだ、とあら捜しをしたくなる。アリ・アップは「拝金主義者が消え去る(フェイド・アウェイ)」と歌っていたし、原発事故以降、デモを渡り歩く筆者にとってサウンド・デモで謳うリクル・マイの誠実なプロテストに純粋に感動していたので、どうしても、そこがね......と。

 でも、本人たちはそんなこと百も承知のうえだろう。何の運命の悪戯か正真正銘「ジュネ」と読む名前を授かり、URやザ・ブルー・ハーブを愛するベースの小林樹音が作詞した"Inside The Walls"ではチェルノブイリで石棺され、いまも原子炉に埋もれる「壁のなか」の遺体のことを描き出しているという......。歌詞を読んでもそれは伝わらないかもしれない。そっと忍ばしているという感じ。たしかに、被害が明白で、世論の大勢がいまや異を唱える原発問題を表現するのは難しい。レベル・ミュージックとして、あまりにありふれた表現に陥る可能性はあるし、反原発の表現は、それでよいのかもしれない。"Inside The Walls"は熟慮し現れた表現なのではないか。より抽象的に表現することで広義に解釈できるというような。「レベル・ミュージック」などとTam Tamにいらぬ責任を負わせるよりも、いまはサウンド・プロフェッサーとしてさらなる進化を期待させる音にひたすらヤラれ、そして聴き惚れていればよいのかもしれない。自分たちの鳴らしている音楽が一体どんな出自を持っているのか、それが嫌でも突きつけられる日がくるだろう。
 ちなみにベースの小林樹音はJitteryJackal名義で〈術ノ穴〉のコンピレーションにも参加しポスト・ダブステップ風味の曲を提供している。Tam Tamのダークサイドのような感じで印象的だ。また、アルバムに先攻して〈JET SET〉とコラボし制作された"Dry Ride"のEPも発売されている。

一色こうき