Home > Regulars > Random Access N.Y. > vol.33:誰もがノスタルジーを買っている?
Bear in heaven、Blouse、Doldrums @ Bowey ballroom may.8.2012
最近のショーを見に行って感じるのがノスタルジック=懐かしさ。「音楽はもう最近見に行ってないんだ」と言っている30代後半の人でさえ、懐かしいバンドがプレイするとなれば、そこそこするチケットを買って、足を延ばして見に行く。
1ヶ月ほど前に、『チックファクタ』というインディポップ・マガジンが20周年を迎え、当時活動していたバンドがこの日のためにリユニオンした。ブラック・タンバリン、アイラーズ・セット、スモール・ファクトリー、ジム・ルイーズ・グループ、ヴァーサス、スティーヴィー・ジャクソン(ベル・アンド・セバスチャン)、ソフティーズなど、好きな人にはたまらないラインナップである。パフォーマーも観客もほとんどが30~40歳代真っ只なか。仕事に疲れ、家庭にも疲れ(?)ている世代。でも、この瞬間はみんなとても活き活きする。笑顔がずーっと絶えない。
そういえば、小沢健二も最近(3~4月)に復活コンサートを行った。かなりの競争率のチケット争奪戦を勝ち抜き、幸運にもチケットを手に入れた人は、さまざまな思いを胸に、それぞれの青春を取り戻していた。この話を知り合いにしたら、自分も最近クラフトワークが8日連続で毎日違うアルバムを演奏する(しかもミュージアムで)ライヴに、かなりの競争率のチケット争奪戦の末に行くことができたと、語っていた。入場者には3Dメガネが配られ、たくさんのファンと一緒にノスタルジッーをシェアしたと、キラキラした目で興奮しながら話してくれたのである。
何だ! この、揃いも揃って昔を懐かしむ感は? いつも忙しいと言っている人でさえ、チケットの値段や日程も限定されているのに、時間を作ってこのために出かける。当時を経験している人たちだけの楽しみかと思えば、クラフトワークの彼は、オンタイムで経験していないが、このチケット取るのに最高級の力を注いだという。「懐かしさ」は人を動かすアドレナリンなのか?
次から次へとバンドがクロスするニューヨークではいろんなショーが毎日やっていて、何を見に行くのかは自分にかかっている。私は自分の興味のあるライヴ、友だちが教えてくれて、自分も興味がありそうなライヴ、まったく調味はないが友だちが行くというのでついていくライヴ、いろいろあるが基本的に音楽が好きなので、どこに行ってもある程度楽しめるし、それぞれいろんな感想もある。最近のワッシュド・アウト、ヒア・ウィ・ゴー・マジックのショーの熱も冷めやらぬまま、今回はこの3組のショーに行った。ベア・イン・ヘヴン、ブラウス、ドルドラムス! まさにいまどきのメンツだ。
Bear in Heaven
Photo by Dan Catucci
Blouse
Doldrums
Photo by Amanda hatfield
ベア・イン・ヘヴンは〈デッド・オーシャンズ〉という〈ジャグア・ジャグア〉傘下のレーベルと契約し、精力的ににツアーしている真っ最中。何だかんだと最近名前はよく耳にしていて、機会があれば見に行こうと思っていた。
彼らを最初に見たのは5年ぐらい前のこと。プレフューズ73とツアーをしていた友だちから「友だちのバンドがガラパゴス(ノース6通りにあったアートギャラリー)でやるから見においで、ビア・イン・ヘヴンだよ」と言われた。ビア・イン・ヘブン? 天国にビール? ビール飲み放題? バンド名だとも知らず(しかも聞き間違ってる)、勝手に勘違いして行くと、ベア・イン・ヘヴン。天国にいるクマか? ビールじゃなかったのって。そのときはきちんとしたバンド体制で(たしか5人ぐらいメンバーがいた)、キーボードの印象が強いバンドだなと思っていた。
さて、話を戻そう。オープニングのふたつのバンドは、この会場を上手にウォームアップした。どちらもうしろのプロジェクションを使い、うまい感じにこのノスタルジック感を演出していた。
ドルドラムスはカナダ、トロント出身の3ピース。見た目はいかにもオール・セインツのモデルになりそうな、カーリーヘアのユニセックスな男の子。女の子のような、エンジェリックなヴォーカルはエキゾチックでトロピカル。かなりハイトーンなのに絶叫系。フロント2台のキーボードをくるくる変えながら横にあるドラムパッドを叩く。後ろにはフーディを深くかぶったドラマーがビートをキープし、バンドをまとめている。打楽器音が多いから音がトロピカルに聴こえたのか、いちばん面白かった。
次に登場のブラウス(Blouse)は、ポートランド出身の80年代ノスタルジック・ポップ・バンド。ローキーな女の子のヴォーカルは、アイラーズ・セットとゾーイ・デシャネルを足して2で割ったような、コクトー・ツィンが現れた感じ。ダークでゴス、チルでセンチメンタル、そしてギターのディストーションがシューゲイザーしている。うしろに流される七色のプロジェクションが何ともアーティーで哀愁を誘う。これも一種チルウェイヴか?
トリはベア・イン・ヘヴン。3人編成で、うしろにはピンクとブルーの蛍光レーザーライト&スモークマシンが何の遠慮もなく、がんがん施される。ジョンは主に歌とシンセ、そしてダンスと盛り上げ役だ。アダムはクールにギター、ドラマーのジョーはマイアミ・ヴァイス・スタイルのフィルをマシンガンのように叩き続ける。
ちなみに、ドラマーのジョーは私の近所のバーのバーテンでもある。目つきが鋭いブレードランナーのような体力の持ち主で、ドリンクを作るのも早い。
ベア・イン・ヘヴンの印象は、ノスタルジックでドラマチック。蛍光ライトにワッシュド・アウトを思い出し、究極に歌にのめり込んでいく姿は80年代の映画の世界......あるいは"ダンシング・クイーン"、『サタディ・ナイト・フィーヴァー』の世界(?)。見ている方がはらはらして体力を使い果たして、最後に抜け殻のようになってしまった。まわりを見ると楽しんでいる人と消耗している人両方いる。
このバンドが、ブルックリンでどの位置にいるのかを説明するのは難しい。『ローリング・ストーン』にレビヴューが載っていたり、NPRにもフィーチャーされているので、少なくてもアンダーグラウンドではない。かといってデス・キャブ・フォー・キューティ、シンズなどのメジャーに近いインディというわけでもない。オーディエンスの層もミックスで、音楽マニアというよりは大衆音楽、ある程度の懐かしさを期待する、まったく新しい何かを求めているというよりは自分が安全で快適な音楽に浸りたい、オーヴァーグラウンドとアンダーグラウンドのすれすれの観客。今日の観客と次どこのショーですれ違うかは、興味のある所でもある。少なくとも、『ショーペーパー』は読んでいないかな......。
http://www.brooklynvegan.com/archives/2012/05/bear_in_heaven_12.html