「The Men」と一致するもの

YUKSTA-ILL - ele-king

 すでに3枚のフル・アルバムを送り出している三重は鈴鹿のラッパー、YUKSTA-ILL。これまで名古屋を拠点とするレーベル〈RCSLUM〉で培った経験をもとに、先日自身のレーベル〈WAVELENGTH PLANT〉を設立することになった彼だが、早速同レーベルより彼自身のニュー・アルバム『MONKEY OFF MY BACK』のリリースがアナウンスされた。
 セカンド『NEO TOKAI ON THE LINE』のときのインタヴューで「アタマからケツまで構成があって起承転結がある作品を作りたかった」との発言を残している YUKSTA-ILL は、単曲でのリリースがスタンダードになった昨今、1曲単位よりもフル・アルバムに強い思いを抱くラッパーである。レーベル設立の告知と同時に公開された新曲 “FIVE COUNT (WAVELENGTH PLANT ver.)” がまたべらぼうにかっこいい一発だっただけに、ひさびさのフルレングスにも期待大だ。新作『MONKEY OFF MY BACK』は4月5日(水)にリリース。フィジカル盤には盟友 DJ 2SHAN によるミックスCDが付属するとのこと。確実にゲットしておきたい。

三重鈴鹿を代表する東海の雄YUKSTA-ILLが4年ぶり4作目のフルアルバムリリースへ
自身の新レーベル「WAVELENGTH PLANT」からTEASER動画&トラックリストを公開

東海地方から全国へ発信を続ける名古屋の名門レーベル「RCSLUM RECORDINGS」で15年間培った経験・知識を地元三重に還元すべく、今月1日に自らのレーベル「WAVELENGTH PLANT」の設立を発表したばかりのYUKSTA-ILL。
同日より配信されている彼のローカルエリアを題材にしたシングル「FIVE COUNT」から間髪入れず、4年ぶり4作目となるフルアルバム「MONKEY OFF MY BACK」を4/5(水)にリリースする。
全13曲からなる今作にはBUPPON、Campanella、WELL-DONE、ALCI、GINMENが客演参加、トラックのプロデュースをMASS-HOLE、OWLBEATS、Kojoe、ISAZ、UCbeatsが担当。
ブレないスタンスをしっかりと維持しつつ、これまでリリースしてきたフルアルバムとはまたひと味違った世界観、アーティストとしての新境地を感じさせる内容の仕上がりとなっている。
尚、配信と同タイミングでリリースされるフィジカル盤には、YUKSTA-ILL自らホストを務めた地元の盟友DJ 2SHANによる白煙に包まれた工業地帯をイメージしたMIXCD「BLUE COLOR STATE OF MIND」が購入特典として付属される。
レーベルより公開されたTeaser動画、及びアルバム情報は以下の通り。

MONKEY OFF MY BACK Album Teaser
https://youtu.be/dpeE46hW7bU

【アルバム情報】
YUKSTA-ILL 4th FULL ALBUM
「MONKEY OFF MY BACK」

Label: WAVELENGTH PLANT
Release: 2023.4.5
Price: 3,000YEN with TAX
(フィジカル盤購入特典付)

{トラックリスト}
01. MONKEY OFF MY BACK
02. MOTOR YUK
03. FOREGONE CONCLUSION
04. GRIND IT OUT
05. JUST A THOUGHT
06. SPIT EAZY
07. OCEAN VIEW INTERLUDE
08. DOUGH RULES EVERYTHING
09. EXPERIMENTAL LABORATORY
10. TIME-LAG
11. BLOOD, SWEAT & TEARS
12. TBA
13. LINGERING MEMORY

{参加アーティスト}
ALCI
BUPPON
Campanella
GINMEN
WELL-DONE

{参加プロデューサー}
ISAZ
Kojoe
MASS-HOLE
OWLBEATS
UCbeats

【作品紹介】
ラッパーはフルアルバムを出してなんぼだ。
USの伝説的ヒップホップマガジン「THE SOURCE」のマイクレートシステムはフルアルバムでないと評価対象にすらならなかった。
派手なシングルや、コンパクトに凝縮されたミニアルバム、客演曲での印象的なバースも勿論良い。
だが、そのラッパーの力量・器量を計る指針となるのはやはりフルアルバムなのである。

三重鈴鹿から東海エリアをREPするYUKSTA-ILLは、まさにそのフルアルバムにかける思いを強く持つ“THE RAPPER”の一人だ。
自らの疑問が残る思想への解答を模索した1st「QUESTIONABLE THOUGHT」、
NEO TOKAIの軌道に乗った己を篩に掛けた2nd「NEO TOKAI ON THE LINE」、
世間を見渡しながらも自身のブレない精神力を全面に押し出した3rd「DEFY」、
これらはすべて明確なコンセプトの下、起承転結を意識して作り込まれたフルサイズのヒップホップアルバムである。

そんな彼が約4年ぶりにフルアルバムを引っ提げて戻ってきた。
「MONKEY OFF MY BACK」と名付けられた4枚目のフルとなる今作は、
立ち上げたばかりの自身のレーベル「WAVELENGTH PLANT」から世に送り出される。

「疫病の影響で時間は有り余る程にあった。その結果、楽曲は大量生産された。
只、アルバムを意識せず制作を続けていたので、まとまりを見いだすのに苦労した」、とは本人の弁。
しかし度重なる挫折と試行錯誤の末、やがてそれは本人の望むまとまった作品へと形を成していった。
その期間中に経験した、成長した、変化した、様々な出来事が楽曲に色濃く反映されたのは言うまでもない。

日々の葛藤、金銭問題、目を背けたくなるネガティビティをアートへ昇華する。
ローカルに身を置き、バスケを嗜み、嫁の待つ家へと帰り、リリックを書く。何気ない日常の描写すらドラマチックに魅せる。
適材適所に散りばめられた客演陣、そして夢見心地なサウンドプロダクションが、何かを始めるにはうってつけのSEASONに拍車をかける。
長い沈黙を破り2020年から2022年にかけフルアルバム4枚リリースの記録的なランを見せてくれたレジェンドNASの様に。
無二の境地に到達したYUKSTA-ILLが今、リスナーの鼓膜に向けてSPITを再開する。

【YUKSTA-ILL PROFILE】
三重県鈴鹿市在住、その地を代表するRAPPER。
バスケットボールカルチャー、SHAQでRAPを知り、何よりALLEN IVERSONからHIP HOPを教わる。
「CLUBで目にしたRAPPERのダサいライヴに耐えきれずマイクジャックをした」
「活動初期のグループB-ZIKで制作したデモを鈴鹿タワレコ内で勝手に配布しまくっていた」
という衝動を忘れることなく、スキルの研鑽と表現の追求、セルフプロモーションを日々重ねる。
2000年代後半はUMB名古屋予選で2度の優勝を果たし、長い沈黙と熟考を経てMCバトルへの参戦を2022年末より解禁。
地元で「AMAZON JUNGLE PARADISE」と称したオープンMICパーティーを平日に開催。
”RACOON CITY”と自称する地元の仲間達と結成したTYRANTの巻き起こしたHARD CORE HIP HOP MOVEMENTはNEO TOKAIという地域を作り出した。
そのトップに君臨するRC SLUMのオリジナルメンバーであり最重要なMCとして知られている。
RC SLUMの社長ATOSONEと共に2009年に「ADDICTIONARY」と題されたMIX CDをリリース。
立て続けに2011年にはP-VINE、WDsoundsとRC SLUMがコンビを組み1stアルバム「QUESTIONABLE THOUGHT」をリリース。その思考と行動を未来まで広げていく。
2013年にはGRADIS NICE、16FLIP、ONE-LAW、BUSHMIND、KID FRESINO、PUNPEEと東京を代表するトラックメーカーとの対決盤EP「TOKYO ILL METHOD」をリリース。YUKSTA-ILLのRAPの確かさを見せつける。
NEO TOKAIの暴風が吹き荒れたSLUM RCによるモンスターポッセアルバム「WHO WANNA RAP」「WHO WANNA RAP 2」を経て、2017年には2ndアルバム「NEO TOKAI ON THE LINE」、
2019年にはダメ押しの3rdアルバム「DEFY」をP-VINE、RC SLUMよりリリース。さらなる高みへと昇っていく。
OWLBEATS、MASS-HOLEとそれぞれ全国ツアーを敢行し、世界を知り、自身をアップデートしていく。
RAPへの絶対的な自信があるからこそ出来るトラック選び、時の経過と共にそこへ美学と遊び心が織り込まれていく。
ISSUGI, 仙人掌, Mr.PUG, YAHIKO, MASS-HOLEと82年のFINESTコレクティブ”1982S”のメンバーとしてシングル「82S/SOUNDTRACK」を2020年にリリース。
世界を覆ったコロナ禍の中「BANNED FROM FLAG EP」「BANNED FROM FLAG EP2」を2020年にリリース。ラッパーとは常に希望の光を灯す存在である。
2021年には自他共に認めるバスケットフリークであるRAMZAと故KOBE BRYANTに捧げる「TORCH / BLACK MAMBA REMIX」を7インチでリリースし、NBA情報誌「ダンクシュート」にも紹介される。
さらに同タッグはシングル「FAR EAST HOOP DREAM」をリリース。B.LEAGUEへの想いを放り込んだ、HIP HOPとバスケットボールの歴史に残るであろう1曲となっている。

”tha BOSS(THA BLUE HERB), DJ RYOW, KOJOE, SOCKS, 仙人掌, ISSUGI,
Campanella, MASS-HOLE, 呂布カルマ, NERO IMAI, BASE, K.lee, MULBE, DNC,
BUSHMIND, DJ MOTORA, MARCO, MIKUMARI, HVSTKINGS, BUPPON, Olive Oil,
RITTO, TONOSAPIENS, UCbeats, OWLBEATS, DJ SEIJI, DJ CO-MA, FACECARZ,
LIFESTYLE, HIRAGEN, ALCI, ハラクダリ, ILL-TEE, BOOTY'N'FREEZ, HI-DEF, J.COLUMBUS,
BACKDROPS, DJ SHARK, TOSHI蝮, GINMEN, MEXMAN, DJ BEERT&Jazadocument, and more..”

HIP HOPだけでなくHARD CORE BANDの作品にも参加。キラーバースの数々を叩きつけている。

2023年、自らのプロダクションWAVELENGTH PLANTを設立。鈴鹿のビートメーカーUCbeatsのプロデュースでリリースしたシングル「FIVE COUNT」に続き、約4年ぶりとなる4枚目のフルアルバム「MONKEY OFF MY BACK」をリリースする。
その目の先にあるものを捉え、言葉を巧みに扱い、次から次へと打ち立てていく。YUKSTA-ILLはまだまだ成長し続ける。

HP : https://wavelengthplant.com
Twitter : https://twitter.com/YUKSTA_ILL
Instagram : https://www.instagram.com/yuksta_ill/
YouTube : https://www.youtube.com/@wavelengthplant

Squid - ele-king

 2021年5月に〈Warp〉からリリースしたデビュー・アルバム『Bright Green Field』(全英チャート初登場4位)で高く評価された5人組スクィッドが、パンデミックの影響で延期となっていたロンドンでの初の単独ヘッドライン・ショウをおこなった。この前日に2年ぶりとなるセカンド『O Monolith』リリースの告知および新曲 “Swing (in A Dream)” も発表されたばかりのタイミングで、バンド側も「新曲寄りの内容になる」と予告していた通り約80分のセットで1枚目からは4曲のみ(セカンドに収録されていない新曲もプレイした)。一種のプレヴュー的ショウと言えるが、2021年夏に「Fieldworks(現地調査)Tour」と称して英数カ所の会場でセカンド向けのマテリアルを試運転したこともあるだけに、演奏はすでに見事に化合していた。

 パーカッション奏者も加わっての6人編成で、ステージ両端左&右にそれぞれアーサー・レッドベター(Keys)とオリー・ジャッジ(Vo / Ds)が陣取り、中央にギター/ベース/サウンド・マニピュレーション/パーカッション/コルネットを自在に切り替える3名=ルイス・ボーラス、ローリー・ナンカイヴェル、アントン・ピアソン。ステージそのものはけっして広くないのでたまたまああなったのだろうが(何せ機材の数が多い!)、イカの触手が広く長く伸びるように見えたのは面白い。

 その「触手が伸びた」は、あながちヴィジュアル面での印象だけではなかったと思う。1曲目 “Undergrowth” からバスドラを合図にアフロ・ラテンなパーカッションのさざ波が起こり、安定したヨコ揺れのグルーヴ上に構築されていくサウンドの緻密な網が場内をすっぽり包む。スクィッドと言えばタテノリのファンク・パンク~鋭角的マス・ロックの印象が強いが、この新たに獲得したサイキックな広がりには引きずり込まれる。シニカルさと自虐ペーソスが交錯し、頓狂にキレるオリーの独特な歌声──音楽の中で「第四の壁」を破る存在と言えるだろう――も抑えた表現でサウンドの一部と化す場面が増え、後半ではキットを離れハンドマイクで歌うことも。続く “If You Had Seen The Bull’s Swimming Attempts You Would Have Stayed Away” ではタイトで重層的なリズムの波動とダイナミックなアレンジがぶつかり合い、その醍醐味に思わずマグマを想起した。

 セット中盤の2曲、淡々とはじまった “Devil’s Den” のフォーキィなメロディ(と言ってもフォークロアの方)の不気味なゆかしさ、そしてコルネットを生ループで重ねる印象的なイントロから鉄槌のギター・リフでビルドアップしていく “After the Flash” の耳で聴くホラー映画の迫力。どこかのグロットでおこなわれる儀式のようなただならぬムードに、会場全体が圧倒され全身で聴き入る。このようにスロー・バーンでポップとは言いがたい楽曲を、しかしオーディエンスの感性を信頼してぶつける度胸が彼らにはあるし、初めて耳にする曲で聴き手を虜にするだけの演奏力もある。

 観客の放つエネルギーとの相互交流からマジックが生じるのもライヴの良さだし、その面はファーストからの人気曲で存分に楽しませてもらった。キース・レヴィンを彷彿させるルイスのギターにリードされはじまった3曲目 “G.S.K.” でたちまちシンガロングが起こり、後半に畳み掛けた “Peel St.” と “Documentary Filmmaker” で「待ってました」とばかりにフロア中央でモッシュ開始。オイルをたっぷり差した歯車のようにスムーズに熱いグルーヴを繰り出すバンドの手の平に乗り、“Narrator” では老いも若きも本能に任せて踊り歌う――コーラスの「narrator!」を繰り返し絶叫するだけでもいまの時代のうっぷんがちょっと晴れるし、イカ型の電球付きおふざけ帽子(笑)姿の男性客がクラウドサーフィンを成功させた姿に、このときばかりはメンバーも笑い出して喜んでいた。

 ショウ全体のピーク点がここだったのは間違いない。だが、それに続いてラストに披露されたセカンドからの第一弾曲 “Swing (in A Dream)” がとても印象的だった。“Narrator” のカオティックな盛り上がりでもみくちゃになった後だったので余計にそう感じたのかもしれないが、シンセやエフェクトのコズミックな電気音のスモッグを抜け、一気に視界がカーッ! と開ける爽快感を備えたこの素晴らしいポップ曲は、ダイヤモンドのごとく澄み切ったギター・サウンドと相まって彼らがそのK点を大きく伸ばしたことを痛感させた。

 『Bright Green Field』はコンクリートとアスファルトの都会的景観を主たる舞台としたアルバムであり、それゆえのアイロニックな反語的タイトル(=明るい緑の草原)だったわけだが、『O Monolith』での彼らは実際に多様な風土や歴史に腕を伸ばし、モダニストでありつつアルカイック、ナチュラルでありながらテクノな、どこにもない音世界を作り上げたのを感じたギグだった。「南ロンドン派」云々の形容はもう必要なし、現在のスクィッドは自力で立っている――客電が灯り、フランキー・ヴァリの “君の瞳に恋してる(Can’t Take My Eyes Off You)” が流れる場内を後にしながら、セカンド投入で全貌が明らかになる、彼らのたくましい浮上からはまさに「目が離せない」と思った。

Rob Mazurek - ele-king

 シカゴ・ジャズ・シーンにおけるキーマン、かつてガスター・デル・ソルやトータスの作品に参加しポスト・ロックの文脈でもその名が知られる作曲家/トランペット奏者のロブ・マズレク(現在はテキサスのマーファ在住の模様)が、ニュー・アルバムを送り出す。古くからの仲間と言えるジェフ・パーカーを筆頭に、クレイグ・テイボーンやデイモン・ロックスといったメンバーが終結。ブラジル在住時の経験がインスピレーションになっているそうだ。昨年亡くなったジャズ・トランぺット奏者、ジェイミー・ブランチに捧げられた作品とのこと。発売は4月5日、チェックしておきましょう。

Rob Mazurek - Exploding Star Orchestra
『Lightning Dreamers』

2023.04.05(水)CD Release

シカゴ・アンダーグラウンド、アイソトープ217°、サンパウロ・アンダーグラウンドで知られる作曲家/トランペット奏者のロブ・マズレクによる、エクスプローディング・スター・オーケストラ名義の最新作。ジェフ・パーカーを筆頭に豪華メンバーが集結してグルーヴ感溢れる演奏を聴かせる中、故ジェイミー・ブランチも参加し、彼女に捧げたアルバムとして完成された。ボーナストラックを追加し、日本限定盤ハイレゾMQA対応仕様のCDでリリース!!

ジェフ・パーカーとの共作 “Future Shaman” でスタートするロブ・マズレクの新作は、流れるようなグルーヴ、宇宙空間を漂うようなメロディラインと音響によって彩られている。それは、彼が3年間住んでいたブラジル、マナウスで、リオ・ネグロ(黒川)とリオ・ソリモンエス(白川)の合流地点にインスパイアされた感覚の表明でもある。アマゾンの支流を船で日々移動することは、過去、現在、未来の精神を呼び起こしたのだという。画家でもあるマズレクの視覚と聴覚へのアプローチも、エクスプローディング・スター・オーケストラというプロジェクトの目的も、水の流れ、時の流れから彼が掴んだ一種の再生の表現だ。故ジェイミー・ブランチも参加し、彼女に捧げられているアルバムに相応しいテーマである。(原 雅明 ringsプロデューサー)

ミュージシャン:
All music composed by Rob Mazurek (OLHO, ASCAP).
Words by Damon Locks.
Recorded at Sonic Ranch, Tornillo, TX, September 23rd & 24th, 2021.

Rob Mazurek (director, composer, trumpets, voice, launeddas, electronic treatments)
Jeff Parker (guitar)
Craig Taborn (wurlitzer, moog matriarch)
Angelica Sanchez (wurlitzer, piano, moog sub 37)
Damon Locks (voice, electronics, samplers, text)
Gerald Cleaver (drums)
Mauricio Takara (electronic percussion, percussion)
Nicole Mitchell (flute, voice)

Engineered by Dave Vettraino.
Additional Recording by Jeff Parker, Mauricio Takara, Nicole Mitchell,
and Rob Mazurek.
Produced and Mixed by Dave Vettraino & Rob Mazurek.
Mastered by David Allen

Album art by Rob Mazurek Radical Chimeric #1 #2 (mesh, screen, mylar, canvas, video projection) 2022.
Insert Photo by Britt Mazurek.
Design by Craig Hansen.
Thank You Britt Mazurek.
This album is dedicated to jaimie branch.


[リリース情報]
Artist:Rob Mazurek - Exploding Star Orchestra(ロブマズレク・エクスプローデイング・スター・オーケストラ)
Title:Lightning Dreamers(ライトニング・ドリーマーズ)
価格:2,600円+税
レーベル:rings / International Anthem
品番:RINC99
ライナーノーツ解説:細田成嗣
フォーマット:CD(MQA仕様)

*MQA-CDとは?
通常のプレーヤーで再生できるCDでありながら、MQAフォーマット対応機器で再生することにより、元となっているマスター・クオリティの音源により近い音をお楽しみいただけるCDです。

[トラックリスト]
01. Future Shaman
02. Dream Sleeper
03. Shape Shifter
04. Black River
05. White River
+Japan Bonus Track 収録

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008618139
https://www.ringstokyo.com/items/Rob-Mazurek---Exploding-Star-Orchestra

 ‟ガールズ・バンド ” という概念は、元来不条理なものだ。
 勿論、ガールズ・グループに対してボーイズ・バンドという言葉も存在する。これは最近では、おおむね作りこまれたポップな商品であることを意味する。この業界のある側面は、しばしば搾取的であり、このようなアーティストたちはあきらかにメンバーの性的な魅力を利用して売り出されていることも、すべての加担者が基本的に理解していることだ。しかし、ロックの分野では “ガールズ・バンド ” という言葉は通常、外部から押し付けられたものであり、女性の芸術形式を男性の規定値から分離し、女性たちの作品が何を伝えようとしているかに関わらず、性別というレンズを通した型にはめてしまうのだ。私が東京で時々一緒に仕事をしている、女性がリードする素晴らしいポスト・パンク・バンド、P-iPLEは、Twitterのプロフィールに素っ気ない調子で「私たちはガールズ・バンドではない」と記している。
 もうひとつ、明らかにガールズ・バンドではない男性ばかりから成るアイルランドのノイズ・パンクスであるガール・バンドは、最近バンド名をギラ・バンドに改名した。10年前に元のバンド名を採用したのは、まさにその不条理さにこそあり、多くの人にとっては今でもどちらかというと無害な皮肉ぐらいに捉えられるのは、名前に込められたジョークがあきらかにバンド自身のことを指しているからだ。それでも彼らには絶え間ない反発が寄せられ、何年も前に馬鹿々々しいジョークとしてつけたバンド名を使い続ける利点よりも、最終的にはこの言葉が人を不快にする、あるいはノン・インクルーシヴ(非包括的)であると受け取られるリスクの方が高いと判断したようだ。

 社会の生々しい部分を指摘する人たちへの無責任な対応は、何も新しいことではなく、激しい対立や整合性のない指摘は、リスナーに音響的な不快感を与えようとする音楽と密接に結びついている。スティーヴ・アルビニが1980年代にビッグ・ブラックやレイプマン時代に放った過激な挑発の数々は、ガール・バンドという間抜けなバンド名のユーモアと比較するのは必ずしも有効とは言えないが、アルビニが当時について語ったことから、このような問題やそれを指摘する人への対応の背景にある暗示などの興味深い洞察を得ることができる。
 それは、大雑把でリベラルであるアーティスティックなバブルのなかで生活をしていると、自分が属する社会集団の規範が、必ずしも外の世界と共有されていないことを忘れがちになることに起因する。アルビニは「自分自身、そして多くの仲間たちは思い違いをしていた。人びとの平等とインクルーシヴネス(包括性)の獲得への戦いはすでに勝利で終わり、やがては社会においてもそれが発現し、私たちが対立や衝撃、嘲りや皮肉で何かを害することはないと思っていた」と総括している。

 4人組の男が “ガールズ・バンド ” というような馬鹿げた発想で遊ぶのは、性差別に打ち勝った勝利のダンスをしているように見えるかもしれない。だが、音楽の世界で活動する女性たちがあらゆる障害に直面し続けることを考えると、このジョークはもはや同じようには通用しないし、ミュージック・シーンでハラスメントや差別を経験した女性たちは、それらの問題を顔面に突き付けられたように感じるかもしれないのだ。
 バンド名の変更は、ほんの数文字を変える小さなもので、バンド自身は軽視していたもの確かだ(彼らは私がここで問題提起しているよりもずっと小さなこととして扱った)。だが私にとって興味深いのは、彼らの芸術がオーディエンスにますます敬意を持って受け入れられている様であり、それこそがギラ・バンドのニュー・アルバム『Most Normal』の素晴らしさの鍵となるかもしれないということだ。

 ノイズ・ロックは元来、不条理な音楽だ。
 それは、聴く者に居心地の悪さを与えようとする音楽だ。メロディやハーモニー、そして従来の心地よさや満足感をもたらす全てのツールを意図的に除去するかわりに、ディストーション、騒音や断片的なリズムを武器としている。それはまた、ある種の子供じみた音楽でもあり、物を壊してかき混ぜ、そこに出現するカオスや混乱、悪臭などに喜びを見出す。
 だがそれは同時に遊び心があり、好奇心をそそる音楽でもある。思いがけない音のテクスチュアに、厳格なロックの伝統の外側にあるものを感じ、再発見する喜びに没頭できるのだ。この分野で活動するバンドが3枚目のアルバムを作る際、冒険心を失わずに成長するにはどうすればいいのだろうか?
 ひとつの方法は、鳴り響く金属的な不協和音や、吹き出す紙やすりのようなディストーション、そして対立するリズムの一つひとつがどのように着地するのかに注意を払うことだ。どの混乱した音が痺れるようなものに変化するのか、どこで喜びと痛みの間に走る緊張感を保つのか、そしていつそのバランスを、酔ったようなよろめきで一方向に傾かせるのかに敏感になることだ。

 『Most Normal』は、1トンの爆発物のような着地を見せるが、バンドの過去2作のアルバムと比較して、その分野に対しての高まり続けるインテリジェンスや自覚に導かれている。オープニング・トラックの ‟The Gum“ の金切り声のようなディストーションを強調するように反復するディスコ・パルスは、バンドがエレメントのバランスを取ることに確信を深めているのが分かり、2曲目の ‟Eight Fivers” を際立たせる轟音の爆発は、拳を突き上げるような高ぶりからEDMのビート・ドロップに着地する。アルバムを通して、ギラ・バンドはサウンドをこれまでにないほどの挑戦的な極限へと押しやり、ほとんどメロディを落ち着かせることはないながらも、それぞれのエレメントの、オーディエンスへの作用を敏感に感じ取り、恍惚とした残酷さでリスナーの感覚を操っている。
 微かな旋律の気配が漏れ出る最後から2曲目の ‟Pratfall” では、Lowの前2作のアルバムの特徴であった素早く走るようなディストーションに引き裂かれ、ふるいにかけられる。他でも同様に、アルバムがタイトでまばらなビートと吐くようなノイズの発作の間を飛び火する様は、リスナーを、その忍耐力の限界までプッシュすることを存分に意識した内部のリズムによって作られている。

 ギラ・バンドが改名についての説明をする際に、あまり深く考えずに決めたことで、「この選択を正当化したり、説明したりすることは不可能だとわかった」と言及している。この、説明できないということこそが、彼らが名前を変えたことが正しかった理由であり、『Most Normal』の音楽が、不快感を享受しながらより鮮明な音楽的な理由でもって、それを証明している。それは未だに馬鹿げた、生意気なパンク的な面白さだが、薄っぺらに着想されたものでも気まぐれなものでもない。いまやすべての要素が、なぜそこにあるのかを正確に把握しているようだ。


Gilla Band – Most Normal
Rough Trade /ビート

 

Gilla Band, girl bands, and musical discomfortby Ian F. Martin

The idea of a “girl band” is essentially an absurd one.

Of course the term boy band exists too, as the alliterative counterpart to the girl group: nowadays meaning a more or less manufactured pop product. Exploitative as this side of the industry often is, it’s basically understood by all participants that these acts are being sold explicitly on the gendered appeal of the members. In the rock arena, though, the term “girl band” is typically imposed from the outside, segregating women’s art from the implicitly male default, framing their work through the lens of their gender regardless of what they intend to communicate. One band I sometimes work with in Tokyo, the wonderful female-led post-punk band P-iPLE, put it bluntly on their Twitter bio: “We are not girls band.”

Another band who are definitely not a girl band are all-male Irish noise-punks Girl Band, who recently renamed themselves Gilla Band. The absurdity of the term was at the heart of their adoption of it as their band name ten years ago, and to a lot of people it probably still seems like a more or less harmless bit of irony, where the joke is clearly on the band themselves. Still, they received a steady stream of pushback over it and eventually seem to have decided that the potential for it to be read as mocking or non-inclusive outweighed the benefits of sticking with a name they clearly came up with as a silly joke years ago.

This sort of playing fast and loose with signifiers that poke at raw spots in society is nothing new, with harsh juxtapositions and mismatched signifiers going hand in hand with music that seeks to sonically provoke discomfort in the listener. The extremeness of the provocations Steve Albini unleashed via Big Black and Rapeman in the 1980s mean they’re not necessarily a very useful comparison with the goofy humour of a band name like Girl Band, but Albini’s subsequent discussion of that time does offer some interesting insights into the thinking behind and implications of playing with these issues and signifiers.

Partly, it comes down to how life in a broadly liberal artistic bubble makes it easy to forget that the norms of your social group aren’t always shared by the world outside. Albini summarises, “For myself and many of my peers, we miscalculated. We thought the major battles over equality and inclusiveness had been won, and society would eventually express that, so we were not harming anything with contrarianism, shock, sarcasm or irony.”

So four guys playing with a patently absurd idea like the notion of a “girl band” might feel like a victory dance over defeated sexism. However, once you consider that women in music continue to face all manner of obstacles, the joke doesn’t work in the same way, and to women who have faced harassment or discrimination in the music scene, it could feel like having those troubles thrown in their face.

It’s true that the name switch was a small change, of just a couple of letters, and one the band themselves downplayed (they made it far less of a deal than I’m making of it here). What interests me, though, is that it shows a growing respect fot how their art lands with its audience, and this maybe offers a key to what’s so fantastic about the new Gilla Band album “Most Normal”.

Noise-rock is essentially absurd music.

It’s music that wants to make you uncomfortable, It deliberately strips songs of their melody, harmony and all the conventional tools to trigger comfort and satisfaction, instead reaching for distortion, discord and fractured rhythms as its weapons. It can be a childish sort of music too, that breaks things and stirs the shit just to delight in the chaos, mess and bad smells that emerge.

But it’s also playful and curious music. It delights in the unexpected, in the texture of sound, it’s steeped in a sense of rediscovery outside the rigours of rock tradition. For a band in this general arena making their third album, how do you mature without losing that sense of adventure?

One key way is to pay attention to how every piece of clanging dissonance, blown-out sandpaper distortion and rhythmical confrontation lands — to be conscious of which fucked-up sounds resolve into something electrifying, when to hold the tension between pleasure and pain and when to let the balance lurch drunkenly one way or the other.

“Most Normal” lands like a tonne of explosives, but it’s guided with a growing intelligence or awareness of its terrain compared to the band’s previous two albums. The repetitive disco pulse that underscores the screeching distortion of opening track “The Gum” offers an immediate sense of the band’s growing assurance in how they balance their elements, while the bursts of thundering noise that punctuate second track “Eight Fivers” land with the fist-pumping heart-surge of an EDM beat drop. Throughout the album, Gilla Band push sounds to ever more challenging extremes, hardly ever reaching for the comfort of melody, but somehow applying each element with a keen sense of how it’s working on the audience, puppeteering the listener’s senses with ecstatic cruelty.

Where the hint of a tune does filter through, on penultimate track “Pratfall”, it’s ripped apart and filtered through the sort of skittering distortion that characterised Low’s last couple of albums. Elsewhere, the way the album ricochets between tight, sparse beats and convulsions of vomiting noise happens according to an internal rhythm that’s aware of the limits of the listener’s patience just enough to push them.

When explaining their change of name, Gilla Band noted that they had chosen it without much thought and increasingly “found it impossible to justify or explain this choice.” This inability to explain is the most important reason why they were right to change it, and the music on “Most Normal” in its own way proves the point, revelling in discomfort but with an increasingly clear musical reason. It’s still silly, snotty punk fun, but it’s not flimsily conceived or whimsical: every element now seems to know exactly why it’s there.

LEX - ele-king

 初めて発表した曲は XXXテンタシオンのリミックス。それが14歳のときだというから早熟だ。2019年に16歳で初のアルバムを送り出した若き湘南出身のラッパー、LEX はその後〈Mary Joy〉とサインし、この4年ですでに4枚ものアルバムを送り出している。近年の日本のラップ・シーンを牽引する代表的プレイヤーのひとりだ。
 彼はラップをメッセージをこめることのできるアートフォームとして大いに活用してもいる。たとえば1年前に発表された “Japan”。ニルヴァーナ風のトラックをバックに、抽象的な発声で「若者金ない 大人も病んでいる/なのにこの国はシカトをかます/大胆な演説をカマして何度も嘘をつく」「不満がある奴は俺と叫んでくれ」とラップされている。あるいはセカンド収録の “GUESS WHAT?” のMVには国会答弁中の安倍元首相が映し出されていたり。「若者の政治離れ」なんて言ったのはだれだ? すくなくとも LEX はまったく萎縮していない。
 というわけでエレキング注目のラッパーが本日、5枚目のアルバム『King Of Everything』をリリースしている。今回の新作にも “大金持ちのあなたと貧乏な私” なる、ロミオとジュリエット的な格差社会を思わせる曲が収録されている。ぜひチェックしてほしい。

LEXが最新アルバム『King Of Everything』をリリース!
LEXをフィーチャーしたAmazon MusicとGQ JAPANのコラボドキュメンタリー「RPZN Stories」が配信開始。

湘南出身のアーティストLEXのニューアルバム「King Of Everything」が本日リリースされた。

客演にJP THE WAVY、Young Coco、Young Dalu、Leon Fanourakis、Only U、ShowyVICTOR、UKのBEXEY、USのMatt OxやKid Trunksなど国内外のアーティストを迎え、LEXらしいレパートリーに富んだ17曲を収録している。

また、アルバムの制作中に撮影されたAmazon MusicとGQ JAPANとのコラボレーションドキュメンタリー「RPZN Stories」が、GQ JAPANのYouTubeチャンネルにて配信開始された。ドキュメンタリーの中で、LEXは自身のキャリアにおける葛藤やメンタルヘルスにまつわるパーソナルなエピソードを赤裸々に語っており、家族や仲間からの証言を交えて、普段のSNSやライブでは知れないLEXの意外な一面を見せている。

LEX - King Of Everything
https://lexzx.lnk.to/KingOfEverything

Tracklist:
01. GOD (produced by 1bula)
02. King Of Everything (produced by VLOT, MrOffbeat, kaaj & evanmoitoso)
03. Killer Queen (produced by Trippop)
04. Busy, Busy, Busy (feat. Only U) (produced by june)
05. 金パンパンのジーンズ (feat. Young Coco & JP THE WAVY)
06. READYMADE (feat. Leon Fanourakis) (produced by k4stet)
07. 1/3 (feat. Kid Trunks)
08. Hertz (feat. Matt Ox)
09. Move (feat. ShowyVICTOR) (produced by DJ JAM)
10. LOVE PISTOL (feat. Young Dalu) (produced by FOUX)
11. Strength blindness (feat. Only U) (produced by Dee B)
12. Come To My World (feat. BEXEY)
13. This is me
14. 大金持ちのあなたと貧乏な私 (produced by In Bloom)
15. If You Forget Me (produced by eeryskies & Arcane)
16. Need It (produced by Kevin Jacoutot)
17. 庭の花 (produced by prodkult)

Artwork by Anton Reva, Photography by Uran Sakaguchi, Motion Cover by FROMKIERAN
Mix & mastering by KM, except #2 “King Of Everything” by VLOT. Contributors: KM, VLOT, DJ JAM & STEELO

「RPZN Stories」
GQ JAPAN YouTube チャンネル 【1月25日(水)9時30分より「RPZN Stories」配信】
https://www.youtube.com/watch?v=e0uB-_IRgC4

LEX (レックス) Profile:
湘南出身、2002年生まれのヒップホップ・アーティスト。天性のメロウボイスと、攻撃的な楽曲とのギャップ、感情むき出しのリリックがユース世代を中心に熱狂的な支持を得ている。14歳からSoundCloudに楽曲をアップロードしはじめ、2019年4月、16歳のときにファースト・アルバム『LEX DAY GAMES 4』で衝撃的なデビューを果たす。2019年12月にセカンド・アルバム『!!!』、2020年8月にサード・アルバム『LiFE』を次々と発表。2021年にはBAD HOPやJP THE WAVYらの作品に客演参加し、ロンドンのBEXEYとのコラボEP「LEXBEX」、横浜のOnly U & Yung sticky womとのコラボEP「COSMO WORLD」を発表するなど、勢いは更に加速。8月にJP THE WAVYを客演に迎えたシングル “なんでも言っちゃって”、9月には4枚目となるアルバム『LOGIC』を発表し、同年GQ Men Of The YearのBest Breakthrough Artistを受賞するなどその活動が高い評価を受けた。

2022年3月にSoundCloud初期音源と未発表曲をコンパイルした『20 (Complete Mixtape)』を発表。4月には10代最後となるシングル “大金持ちのあなたと貧乏な私” をリリースし、8月からはZepp Yokohama、なんばHatch他6都市を周る “With U Tour” を成功させた。メンタルヘルスの問題も抱えながらプレッシャーや葛藤と向き合い、2023年1月に満を持して5枚目のアルバム『King Of Everything』を発表する。

2021 GQ Men Of The Year Best Breakthrough Artist
2022 Space Shower Music Awards Best Hip Hop Artist

Everything But The Girl - ele-king

 トレイシー・ソーンとベン・ワットによるエヴィリシング・バット・ザ・ガール(EBTG)が新しいアルバム『Fuse 』を4月21日にリリースする。これは1999年の『Temperamental』以来の新作で、EBTGにとっての通算11枚目のアルバムとなる。
 先行で発表されたシングル曲“Nothing Left To Lose”は、ハウス・ミュージックの影響下にあった90年代のEBTGの延長にあり、アルバムの内容も、エレクトロニックであり、ソウルであるという。

 以下、レーベルの資料からの抜粋です。

 2021年の春から夏にかけてベン・ワットとトレイシー・ソーンによって書かれ、制作された『Fuse』は、バンドが90年代半ばに初めて開拓した艶やかなエレクトロニック・ソウルを現代的にアレンジしたものとなっている。
サブ・ベース、シャープなビート、ハーフライトのシンセ、空虚な空間からなるワットのきらめくサウンドスケープの中で、ソーンの印象的で豊かな質感の声が再び前面に出ており、これまで同様、現代的、同時代的なサウンドでありながらエイジレスなバンドのサウンドに仕上がっている。
  バンドの再出発とニュー・アルバムについて、トレイシーはこう語っている
 「皮肉なことに、2021年3月にレコーディングをスタートしたとき、このニュー・アルバムの完成されたサウンドについて、あまり関心事がなかったの。もちろん“待望のカムバック”といったプレッシャーは承知していたから、その代わりにあらかじめ方向性を決めないで、思いつきを受け入れる、オープンマインドな遊び心の精神で始めようとしたのね」
  2人は自宅とバース郊外の小さな川沿いのスタジオで、友人でエンジニアのブルーノ・エリンガムと密かにレコーディングを行った。
 希望と絶望、そして鮮明なフラッシュバックが交互に現れるこのアルバムの歌詞は、時にとらえどころがなく、時に詳細に描写され、再出発することの意味をとらえている。
  ベンは次のように語っている。
 「エキサイティングだったね。自然なダイナミズムが生まれたんだ。私たちは短い言葉で話し、少し顔を見合わせ、本能的に共同作曲をした。それは、私たち2人の自己の総和以上のものになった。それだけでEverything But The Girlになったんだ」
  二人のスタジオでの新たなパートナーシップは、新しいアルバム・タイトルにもつながった。
 「プロとして長い間離れていた後、スタジオでは摩擦と自然な火花の両方があった」とトレイシーは言う。「私たちがどんなに控えめにしていても、それは導火線に火がついたようなものだった。そして、それは一種の合体、感情の融合で終わった。とてもリアルで生きている感じがしたわ」

Everything But The Girl
Fuse

Virgin Music
2023年4月21日、配信・輸入盤CD/LPにて発売予定
https://virginmusic.lnk.to/EBTG_NLTL

■バイオグラフィー
 エヴリシング・バット・ザ・ガールは、トレイシー・ソーン、ベン・ワットの2人により、1982年にコール・ポーターの「ナイト・アンド・デイ」の荒々しいジャズ・フォーク・カバーで登場した。その後、80年代を通じて英国でゴールド・アルバムを次々と発表。1992年にワットが難病の自己免疫疾患で死に瀕した後、1994年に彼らの最大のヒット曲である「Missing」が含まれ、ミリオンセラーとなった熱烈なフォークトロニカ『Amplified Heart』で復活を遂げる。その後90年代を通じて多くのヒットを生み出し、96年リリースの『Walking Wounded』がバンド初のプラチナ・セールスを記録するなど、多くのヒット曲を生み出すが、1999年のアルバム『Temperamental』のリリースを最後に2000年に活動を停止する。
 2000代はトレイシー、ベンそれぞれソロ活動を展開。ソロ・アルバムやノン・フィクションの出版、また自身のレーベル、Buzzin’ Flyの成功など、その才能を遺憾無く発揮してきた。
 そして2023年、EVERYTHING BUT THE GIRLとして24年ぶりとなる新作アルバム『FUSE』を4月21日にリリースする。

■ アーティスト日本公式サイト
https://www.virginmusic.jp/everything-but-the-girl/

Theo Parrish - ele-king

猪股恭哉

 ダンス・ミュージックにおけるミックスCDというフォーマットは、重要な表現手段としてかつて機能していた。クラブでのプレイをライヴ・レコーディングしたものから、よりアルバム的な、コンセプトを定め微細な箇所まで作り込んだ作品が精力的に発表されていた。フランソワK『Essential Mix』、リッチー・ホウティン『De9: Closer to the Edit』などなど。現在ではインターネット上でオフィシャル、アンオフィシャル問わず、無限に広がり続けていくミックス音源は、自身のスタイルを提示する名刺としての役割へ変化していくことになった。
とはいえ、DJやプロデューサーが貴重なレア音源や忘れ去られていた作品をセレクトしたり、自分のお気に入りのフレッシュな才能を世の中に送り出すキュレーションとしての機能は、かつても現在も駆動し続けている。

 さて、セオ・パリッシュのDJ-KICKSである。自身のレーベル〈Sound Signature〉から数多のミックス音源をリリースしてきた彼によるオムニバス的な側面ではない、初のオフィシャルなミックス作品である。DJとしての評価は揺るがないものを確立し長いキャリアを重ねてきたベテランとしては意外かもしれないが、様々なジャンルや歴史を横断する彼のスタイルを踏まえるとライセンス問題をクリアするのが困難だったのかも知れない(余談ではあるが、かつてMinistry of Soundが一世を風靡した人気ミックス・シリーズ「Masterpiece」にセオが登場するのでは? という噂があった。真偽のほどは不明ながら実現していれば……)。

 本作は、『Detroit Forward』という副題がつけられているとおり、デトロイトのアーティストたちで構成されており、地元音楽コミュニティをセオがキュレーターとして紹介する形をとっているといえるだろう。セオ自身がクレジットされているのは1曲のみで、他はすべてがデトロイトを中心としたローカルな才能たち。アンプ・フィドラーのリミックスを手掛け、近年はソロ活動を積極的に行っているビートメイカーであるメフタ。独特の浮遊感を漂わせるビートメイキングがラッパーJOHN C.とのコラボでも非凡なプロデュースセンスを発揮する。鍵盤奏者としてアンドレスやオマーS、スコット・グルーヴス作品に参加してきたイアン・フィンクが、セオ・パリッシュのクラシック”Moonlite”をカヴァー(コンガでアンドレスも参加している)。マッド・マイク譲りのモーターシティ・ソウルを受け継ぐマルチ・プロデューサーのジョン・ディクソン。デトロイトではないが〈Sound Signature〉からアルバムもリリースしたDJのスペクターがパワフルでタフなジャズ・ビートダウンを提供。セオやアンドレス、ワジードといったプロデューサーから、スカイズー、ドゥウェレ、エルザイらヒップホップ・アーティスト作品にも携わる女性シンガー、モニカ・ブレア。
 そして、本作にクレジットされたアーティストのうち唯一3曲も参加しているデショーン・ジョーンズ。マッド・マイクの薫陶を受け、デトロイトが誇る偉大なトランペット奏者であるマーカス・ベルグレイヴの弟子であり、グラミー賞へのノミネート経験もあるサックス・プレイヤーによる秘蔵トラック。シンガー・イディーヤとコラボしたメロウR&Bに、シンガーやラッパーをフィーチャーした濃厚なファンク、ホーンとコンガとピアノによる巧みなコンビネーションが冴えるハウスまで、名うてのトランペット奏者の知られざる一面を引き出したセオの彗眼に唸らされる。
 ほかにも、YouTubeで公開されている公式ショートフィルムでもフィーチャーされているDJのフーダットとシンガーソングライター・ソフィアEが手掛けたミニマルなデトロイトハウス、プロデューサー/ドラマーのノヴァ・ザイイがヴォーカリスト・ケスワを迎えたスペーシーでサイケデリックなモダンソウル……。
 事程左様にローカルな才能が結集し、様々なスタイルの音楽が次々を広がっていく様は、まるでセオが率いるバンドが演奏しているようで、グルーヴとストーリーが独特の時間軸の変化を見せ聴き手を魅了する(全体のプロデュースをセオがコントロールしているような統一感!)。音楽の街デトロイトで脈々と受け継がれてきたコミュニティが、最高のDJの手でミックスCDとしてキュレートされ、メディアとして世界へ発信される。デトロイト・パワー。

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野田努

 『J・ディラと《ドーナッツ》のビート革命』は良いところもある本だが、ひとつ、大きな間違いがある。アメリカ人の著者が、おそらくは自分が読んだ記事のみによって、デトロイトのクラブ・シーンを「テクノに支配されていた」と紹介している下りである。んなわけないだろ。少なくとも90年代は、デトロイトもほかのアメリカの都市と同様、ロックとヒップホップが人気であって、テクノやハウスなんて音楽は少数派の音楽だったし、そもそもクラブ・シーンと言えるほどのシーンもなかった。
 また、ローカルにおいてはラップとテクノは繋がってもいる。昨年の元スラム・ヴィレッジのワージードのアルバム『Memoirs Of Hi-Tech Jazz』(完璧なテクノ作品)はその好例で、昔で言えば、たとえば同書で鬼の首を取ったように述べている「ジット」(昔ながらのチンピラ風情)、彼らをデトロイト・テクノ第一世代が拒絶したのは書かれている通りだが(喩えれば、高校の文化祭を荒らしに来るヤンキーを追っ払うようなものだから)、しかしその「ジット」にリンクしているシーンこそ、かの地でもっとも大衆的に盛り上がっているエレクトロのシーンであって、そこから出てきたのがオックス88やドレクシア、そのシーンとテクノとの回路を作ったのが(初期においてヒップホップの影響を受けていた)URだ。デトロイト・テクノがブリング・ブリング・シットや不良自慢と距離を持とうとしたのはまったくの事実だが、これはこれでじつに意味のある話なので、いつかしてみたい。

 いずれにせよ、デトロイト・テクノおよびハウス、ひいてはハウス・ミュージックそのものがアメリカ内部においてはいまだに理解が浅いのだろう。そういう観点からすると、ビヨンセがハウスをもってアルバムを作り、彼女以前にラナ・デル・レイやドレイクがムーディーマンをフィーチャーしたのは(ずいぶん前の話になるがミッシー・エリオットがサイボトロンを引用したのも)、アメリカにおいては文化闘争と言える。大袈裟に思われるかもしれないが、スペシャル・インタレストのようなアメリカのパンク・バンドの口からジェフ・ミルズやドレクシアの名前が出るのは、ぼくからしたらかなり例外的なことだったりするのだ。
 だいたい、アメリカの先鋭的なブラック・エレクトロニック・ダンス・ミュージックは、60年代〜70年代のジャズのように、母国よりもヨーロッパにおいて評価され、多くは大西洋を渡ったところに活動の場を見出している。そして、ゼロ年代において、UKを拠点に活動しているエレクトロニック・ミュージシャンを取材した際に、もっとも多くインスピレーションの源として名前を聞いたのがセオ・パリッシュだった。

 ベルリンの〈!K7〉レーベルによる「DJ-Kicks」は、DJによるミックスCDの長寿シリーズで、2016年にはムーディーマンの魅力的な1枚をリリースしているのだが、DJミックスがネットで無料で聴けてしまう今日においては、ますます存在意義が問われてもいる。選曲に関しても、すべてをフラットにしたがる情報過多な現代では、そこに実験音楽があろうがJ-POPがあろうが誰も驚きはしない。よほどの何かがなければ、商品として成立しないだろう。
 セオ・パリッシュは、ある意味まっとうなコンセプトでミックスCDの意義を我々に再確認させる。ここに収められている20曲中19曲が未発表で(ほとんど新曲のようだ)、クレジットされている17人のプロデューサーは、セオ本人(それからジョン・ディクソン)を除けば格段有名なわけではない。しかしどうだ、みたことかと、素晴らしいなんてももんじゃない、驚きの連続なのである。
 これらハウスやテクノの進化形を聴いていると、デトロイトで何が起きていたのかまだ外の人間が知らなかった時代の、デリック・メイのDJミックスの音源(当時はカセットテープ)を思い出す。ほとんど知られていないシカゴのアブストラクトなディープ・ハウスばかりがミックスされたそれは、「音楽研究所(ミュージック・インスティテュート)」と呼ぶに相応しい、アンダーグラウンドという実験場からの生々しいレポートだった。『デトロイトの前線(Detroit Forward)』と銘打たれたセオ・パリッシュのこれは、いまだかの地において音楽研究が続行されていることを明白に訴えている。そして、デトロイトの神話体系の外側、すなわちメディアやネット系プラットフォームが目配せしないところにこそ、もっともスリリングなサウンドがあるのだと主張しているようでもある。
 ゼロ年代以降のセオ・パリッシュが彼のディープ・ハウス・スタイルを追求しながら平行して手がけていたのは、「レジスタンス年代記」と命名されたサン・ラーへのトリビュート作の発表、あるいは〈Black Jazz〉レーベルの編集盤の監修といった、70年代スピリチュアル・ジャズとの接合である。それを思えば、彼のセレクションにジャズ色が際立っているのは必然なのだろう。本作において唯一3曲に絡んでいるDe'Sean Jonesはスティーヴィー・ワンダーのバックも務めていたこともあるその筋のエリートで、彼はマカヤ・マクレヴェンのバンドでも演奏している。タイムライン(URのサブプロジェクト)のメンバーとして日本で演奏経験もあるサックス奏者だが、彼が入ったときのライヴはほとんどフリー・ジャズで、これまで何度もあったURの来日ライヴのなかの3本の指に入るインパクトだった。
 で、そのDe'Sean JonesとアイディーヤのR&Bヴォーカルによる“Pressure”というダウンテンポの曲がアルバムのオープナーとなっている。凄腕の楽器奏者としてのジョーンズはそこそこ知られているかもしれないが、ここではトラックメイカーとしての彼の姿が表出している。“Flash Spain”という曲ではラテン・ジャズ・ハウスを、“Psalm 23”ではハード・ゴスペル(とでも呼びたくなるような曲)を試みているが、どの曲も大胆さを忘れていない。
 デトロイト・テクノの発展型を知りたければDeon Jamarの“North End Funk”をお薦めするが、その叙情性はWhodatとSophiyah Eによる“Don't Know”にも受け継がれている。ドラム奏者のMeftahによる“When The Sun Falls”と“Full”という曲も深夜の友になりえる恍惚としたアンビエント・ハウスだ。
 かつてサブマージからアルバム(ウマー・ビン・ハッサンやバーニー・ウォーレルがフィーチャーされていた)を出したことのあるDuminie DePorresは、セオ・パリッシュとともに、それこそジュリアス・イーストマンの前衛にリンクするであろう、ジャジーなミニマルを見せている。もうひとつ、実験精神に関しては、セオの〈Sound Signature〉からも作品を出しているH-Fusionによる、テリー・ライリーとドレクシアが出会ったかのような“Experiment 10”が突出している。彼はこの先、ヨーロッパで影響力を持つことになるかもしれない。
 女性アーティストでは、Monica Blaire(mBtheLight名義で〈マホガニー〉からアルバムを出しているが、本作でも同名義の曲がセオによってリエディットされ収録されている)とKesswaがこの先期待大の独創的なサウンドを披露している。そして、カーティス・フラーやフィル・ラネリンなどレジェンドたちと共演経験のある気鋭のジャズ・ピアニスト、Ian Finkelsteinがセオ・パリッシュの曲“Moonlite”をそのエレガントなピアノ演奏によってカヴァーすれば、Sterling Toleは“Janis”という曲によってデトロイト・ヒップホップのファンキーな側面を強調する。

 昨年はディフォレスト・ブラウン・ジュニアが著書『黒いカウンター・カルチャー集会(Assembling a Black Counter Culture)』をとうとう上梓し、デトロイト・テクノの政治的な文脈をより深く紐解いている。こうした新たなデトロイト研究が顕在化している最中、セオ・パリッシュによる『デトロイトの前線』が、モーターシティの音楽がいまも成長しその幅を押し広げていることを見せ、目立ちはしないがそれは音楽の価値やブラック・ミュージックの気高さとは無関係であるとあらためて証明したことの意味は、そう、じつに大きい。

butasaku - ele-king

 butajiと荒井優作によるアンビエントR&Bユニット、butasakuが2022年リリースした、1stアルバム『forms』のリミックス盤『forms Remixes & Covers』が本日、bandcamp限定でリリース。tofubeatsによるリミックス楽曲のみ各社ストリーミングでも配信開始。
 Jim O'Rourke、Dove、tamanaramen、SUGAI KEN、Itsuki Doiのほか、韓国からはJoyul、ロシアからはKate NVが参加。かなり面白いメンツではないでしょうか。それにbutajiと荒井優作の2人によるセルフカヴァーおよびセルフリミックスも収録した全12曲。また、tofubeatsによる“silver lining (tofubeats Remix)”のみストリーミング各社でも配信開始。チェックしよう。

butasaku
forms Remixes & Covers
2022年12月23日(金)
Bandcamp限定リリース
https://butasaku.bandcamp.com/album/forms-remixes-covers

1. time (butaji Cover)
2. atatakai (Dove Cover)
3. silver lining (tofubeats Remix)
4. the city (tamanaramen Remix)
5. abstract (Yusaku Arai, this is not grey mix)
6. letyoudown (Joyul Remix)
7. picture (SUGAI KEN Remix)
8. forms (Itsuki Doi Cover)
9. the city (Kate NV Remix)
10. forms (Jim O'Rourke Remix)
11. echo (Itsuki Doi Remix)
12. picture (Yusaku Arai Remix)

butasaku

- butaji(Vocal)
- 荒井優作(Track)

Info:https://lit.link/butasaku
Bandcamp: https://butasaku.bandcamp.com/
Twitter:@butasaku_jp
Instagram:@butasaku.jp

Shovel Dance Collective - ele-king

 伝統的なフォーク・ソングは、上手く演奏されると尋常ではないクオリティーの高さを発揮する。空気中の何かが変化したかのように、演奏者もオーディエンスも、その会場にいるのが自分たちだけではないことに気付くのだ。シャーリー・コリンズが、かつてインタヴューで「私が歌うと、過去の世代が自分の背面に立っているように感じる」と語ったように。
 これは、現代のフォーク・アンサンブル、Shovel Dance Collectiveの音楽を特徴付ける性質のひとつである。ロンドンの9人組は、いわゆるフォーク・ソング歌手のようには見えない。まずほとんどのメンバーがまだ20代であり、ドローン、メタル、アーリー・ミュージック、そしてフリー・インプロヴィゼーションなどの異端なジャンルへの愛着を公言する。数年前の結成以来、まるで歴史修正主義者のような熱意でフォークの正典に向き合い、労働者階級、クィア、黒人、プロト・フェミニズムの物語を前面に出してきた。その切迫感が音楽にも乗り移り、生々しく、土臭く、非常に生き生きと感じられる。端的に言えば、存在感があるのだ。
 2021年のクリスマスにShovel Dance CollectiveのYouTubeアカウントに投稿された動画は、まさに彼らの典型的なアプローチの仕方といえる。ヴォーカリストのマタイオ・オースティン・ディーンが、がらんとした工業用建物に独り佇み、19世紀の哀歌“The Four Loom Weaver”を歌う。労働者階級の失業と飢餓についての苦悩の物語だ。荒涼としたセットの感じが、ディーンの、首を垂れ、目を閉じてトランス状態にあるかのように切々と歌うパフォーマンスにさらにパンチを加えている。

 これまでのShovel Dance Collectiveのレコーディングの多くは、洗練よりも即時性を重視している。彼らの最初のリリース、2020年の『Offcuts and Oddities』は、手持ちのレコーダーや携帯電話で収録され、しばしばハープ奏者のフィデルマ・ハンラハンのリビング・ルームで録音されているのだ。彼らが従来のスタジオ録音を行うことは想像しにくく、これまででもっとも充実したリリースとなった『The Water is the Shovel of the Shore』(水は岸辺のシャヴェルである、の意)も、勿論そうではない。
 アルバムは4つの長尺の作品(シンプルにIからIVと番号付けられている)で構成され、ヴォーカルとインストゥルメンタルの演奏に、ロンドンのテムズ川とその近辺の水路などで収録された環境音がブレンドされている。マルチ・インストゥルメンタリストのダニエル・S.エヴァンスにより継ぎ合わされたこれらのメドレー/サウンドコラージュは、存分に感情に訴えてくる。
 そこかしこに水が在る。激しく流れ、足元を跳ね上げ、天上から滴り落ちる。たくさんの声が、溺れた恋人や海で遭難した船員、捕鯨船団や、海軍の遠征の話を語り、亡霊のように霧の中から浮かび上がる。しかし同時に、観光客がカモメに餌をやる音、艤装の際の軋む音、そして聖職者が毎年行う川への祝福の音なども聞こえてくる。過去が現在と共存している。歌と、歌に込められた物語は、街そのものから切り離せないものとなる。
 このアルバムは、エヴァンス、ディーンと同じくヴォーカルのニック・グラナータが、ロンドン南東部のかつては水車で埋め尽くされていた地帯であるエルヴァーソン・ロードDLR駅地下を走るトンネルで録音したセッションに端を発する。航海にまつわるテーマの“Lowlands”や“The Cruel Grave”といった曲ではディーンとグラナータの声が幽霊のように空間に轟く。
 他のメンバーたち(彼らのことをショヴェラーズと呼んでもOK?)も水にまつわるテーマを取り上げ、ヴァイオリン、ハンマー・ダルシマー(訳注:イギリスの伝統音楽で多用されるピアノの原型の打弦楽器)、そして私のお気に入りであるバスハーモニカなどの楽器で、バラッドやジグやシーシャンティ(船乗りたちの労働歌の一種)に貢献している。多種多様な録音の忠実度が、hi-fi/lo-fiがブレンドされたcaroline(キャロライン)の自身の名を冠したアルバムを思わせる、ある種の面白いコントラストを生み出している。実際、「The Rolling Waves」の美しいヴァージョンを演奏しているヴァイオリニストのオリヴァー・ハミルトンとロー・ホイッスル奏者のアレックス・マッケンジーは、両方のグループに共通のメンバーだ。
 アルバムに付随するエッセイでは、テムズ川の象徴性と一般的な水について深く掘り下げている。「土地と人々の支配に欠かせない水は、土地の文化とは一線を画した、植民地化、奴隷制度、人種差別、資本、商品や人々の移動の過程で形成された独自の文化を持っている。」という認識は、選曲や演奏のスピリットにも反映される。それは決して騒々しいものではないが、ブリティッシュ・フォークと聞いて多くの人が想像するような気取った田園風のものでもない。
 複数の民族の血を引くこの集団のメンバーと同様に、音楽は特定の国や地域に限定されておらず、イングランド、スコットランド、アイルランドにガイアナの歌がある。アルバムはガイアナ人の母親を持つディーンが歌う「Ova Canje Water」で幕を閉じるが、この曲は旧イギリス領ギアナで逃亡した奴隷が、新しく手にした自由について思いを巡らせながら、タイトルにもなっているカンジェ川の水を振り返って見渡すと言う内容だ。
 荒涼とした話になりがちなこのアルバムのなかでは、希望のある終わり方だ。特に第2部の冒頭を飾る悲痛なバラッド“In Charlestown there Dwelled a Lass ”(チャールズタウンに一人の小娘が住んでいた)がそうで、ハンラハンのハープをバックに、グラナータがアノーニのような情感豊かな震える声で、悲運のロマンスを表現している。衝撃的だ。
 全員によるアンサンブルを聴けるのは、冒頭の“The Bold Fisherman”の1曲のみであるにも関わらず、このレコードにみる団結力のすごさは印象的だ。個々の声が組み合わさり、何よりも大きな物を創造する、真の意味での集団的な仕事なのである。曲の多くが断片としてしか聴こえてこないのも、生きた伝統に触れているという感覚を高めてくれる。人から人へと受け継がれるもの、時が止まっているのではなく、常に動いているもの。過去から未来へと流れる共同体のようなものを。

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Shovel Dance Collective

The Water is the Shovel of the Shore

Memorials of Distinction / Double Dare

James Hadfield
 
Performed well, traditional folk songs can have an uncanny quality. Something in the air seems to shift, as players and audience alike become aware that they’re no longer the only ones in the room. As Shirley Collins once told an interviewer[1] : “When I sing, I feel past generations standing behind me.”
This is a defining quality of the music made by contemporary folk ensemble Shovel Dance Collective. The London nine-piece don’t look like your typical folkies: most of the members are still in their twenties, for starters, and they cite an affection for such heterodox genres as drone, metal, early music and free improvisation. Since forming a few years ago, they’ve been tackling the folk canon with the zeal of revisionist historians, foregrounding working-class, queer, Black and proto-feminist narratives. That sense of urgency carries over into the music itself, which can feel raw, earthy, and very much alive. Simply put, it has presence.
A video[2]  posted to Shovel Dance Collective’s YouTube account on Christmas Eve in 2021 is typical their approach. Vocalist Mataio Austin Dean stands alone in a vacant industrial building and sings the 19th-century lament ‘The Four Loom Weaver’, a wrenching tale of working-class unemployment and starvation. The starkness of the setting gives added punch to what’s already an impassioned performance – which Dean delivers with his head bowed and eyes shut, as if in a trance.
Much of Shovel Dance Collective’s recorded output to date has prized immediacy over polish. Their first release, 2020’s “Offcuts and Oddities,” was captured on handheld recorders and phones; they often record in harp player Fidelma Hanrahan’s living room. It’s hard to imagine the group making a conventional studio record – and “The Water is the Shovel of the Shore,” their most substantial release to date, certainly isn’t it.
The album comprises four lengthy pieces (simply numbered ‘I’ to ‘IV’), in which vocal and instrumental performances are blended with environmental recordings captured along London’s River Thames and nearby waterways. Spliced together by multi-instrumentalist Daniel S. Evans, these medley/sound collages are richly evocative.
Water is everywhere: flowing in torrents, sloshing underfoot, dripping from the ceilings. Voices emerge like revenants stumbling out of the fog, telling stories of drowned lovers and sailors lost at sea, whaling expeditions and naval campaigns. But we also hear tourists feeding gulls, the creaking of rigging, and clergy conducting their annual blessing of the river. The past coexists with the present. The songs, and the stories they contain, become indivisible from the city itself.
The genesis of the album was a session recorded by Evans, Dean and fellow vocalist Nick Granata in a tunnel that runs under the Elverson Road DLR station in south-east London, a site once occupied by a watermill. Dean and Granata’s voices resound through the space, haunting it, as they perform nautically themed fare including ‘Lowlands’ and ‘The Cruel Grave.’
The other members (is it OK to call them “shovelers”?) pick up the aquatic theme, contributing ballads, jigs and sea shanties on instruments ranging from violin to hammered dulcimer and – my personal favourite – bass harmonica. The varying fidelity of the recordings makes for some delicious textural contrasts, redolent of the hi-fi/lo-fi blend on caroline’s self-titled album. Indeed, the groups share a couple of members – violinist Oliver Hamilton and low whistle player Alex Mckenzie – who do a beautiful version of ‘The Rolling Waves’ here.
An accompanying essay delves deeper into the symbolism of the Thames, and water in general: “Vital in the control of lands and people, water has its own culture, distinct from land cultures, formed by processes of colonisation, slavery, racialisation, movement of capital, goods, people.” This awareness informs both the choice of songs and the spirit in which they’re performed. It isn’t raucous, exactly, but nor is this the kind of genteel, bucolic stuff that most people think of when you mention British folk.
In keeping with the mixed heritage of the collective’s members, the music isn’t restricted to any one country or region. There are songs from England, Scotland, Ireland and Guyana. The album concludes with Dean – whose mother is Guyanese – singing ‘Ova Canje Water’, in which an escaped slave in what was then British Guiana looks back across the waters of the titular Canje River, contemplating his newfound freedom.
It’s a hopeful finish to an album whose tales tend to be bleaker in nature. That’s especially true of ‘In Charlestown there Dwelled a Lass’, the heartbreaking ballad that opens the second part. Accompanied by Hanrahan’s harp, Granata delivers a story of doomed romance in a quavering vocal with the emotional intensity of Anohni. It’s a stunner.
Only once – on the opening performance of ‘The Bold Fisherman’ – do we hear all of the ensemble together, yet it’s impressive how cohesive the record is. It’s a collective undertaking in the truest sense, in how the individual voices combine to create something greater than all of them. The way many of the songs are only heard as fragments heightens the sense of tapping into a living tradition: something passed on from one person to the next, in constant motion rather than fixed in time. Something communal, flowing from the past to the future.

Various - ele-king

 『地元コア!』と題されたエリア・コンピレーションで、ここ30年間にマイアミで名を挙げたダンス・アクトがほぼ一堂に会している(テクノ、ハウス、エレクトロが中心で、ヒップホップは除外)。壮観。全44曲。すべて新録のようで、ヴェテランもニューフェイスもなかなかにしのぎを削り合っている。短い曲が多いせいか、テンションも持続し、いわば「マイアミ・ベース以降」がまとめて体感できる。マイアミ・ベースはアトランタに波及してトラップに発展したり、中南米にはファヴェーラ・ファンクやファンク・カリオカといったシーンを誘発したものの、地元マイアミではどのような変化を遂げたのかということがまとめて報告されたことはなく、それがここに見晴らしよく並べられたという感じ。猥雑でダイナミック。簡単にいえばマイアミの魅力は大胆さと低音の太さに尽きるだろう。ロンドンやベルリンは新しいことをやろうとし過ぎて、時にヒネくれた感じになりやすいけれど、マイアミにはそういったことはない。自由闊達なダンス・ミュージックの最前線である。

 収録順ではなく、プロデューサーのデビュー順に聴いてみよう。まずはラルフ・ファルコンとオスカー・Gによるマーク(Murk)。彼らが名を挙げたのは92年にファンキー・グリーン・ドッグス名義のハウス・クラシック“Reach For Me”がデトロイト・テクノを広めた〈Network Records〉にライセンされ、ヨーロッパでヒットしてから。いわゆるシカゴ・アシッドとは異なるヘヴィなベースがマイアミらしさを打ち出し、本作にも2人はこの30年が何事もなかったように同じパターンの“Filth”を提供している。この不動の価値観。シカゴ・ハウスがヨーロッパに飛び火し始めた80年代後半、マイアミで最も人気だったのはエレクトロ・ヒップホップの2ライヴ・クルーで、彼らのサウンドはデトロイトのサイボトロンがマイアミでもヒットしたことから始まったとされる。2ライヴ・クルーのピークといえる『As Nasty As They Wanna Be』(98)の10年後にはそして、サイボトロンをダイレクトに継承しようとするイグザクト(Exzakt)やBFXが現れ、ここでは両者がタッグを組んで“Reach For Me”をミニマル化したエレクトロの“Let Go”を、また同時期にブルックリンで活動し、後にマイアミに移ってきたゴーサブはマッド・マイクを思わせるデトロイト・タイプのエレクトロ、“Who The Fuck Is Me?”をそれぞれに提供し、さらに少し遅れてデビューしたアルファ606は“Cacique”で、これらとはまったく違った神秘的なエレクトロをオファーしている(同作が全体のクロージング・トラック)。

 最近ではチャイルディッシュ・ガンビーノ“This Is America”のリミックスで名を挙げたジェシー・ペリッツは母親が2ライヴ・クルーのダンサーだったことから音楽の現場とは距離が近く、最初は俳優として活躍していた存在。なかなかの遅咲きで、“Jesse Don't Sport No Jerri Curl”が注目を集めるまでに7年かかり、エレクトロとハウスの中間をいくサウンドを模索。ここではエレクトロに寄った“Pocket Full Of Ones”を提供。エレクトロ回帰と同時期にマイアミに大挙して現れたのがグリッチ・ホップで、元ソウル・オディティのフォーニージア主宰による〈Schematic〉を中心にディノ・フェリペやオットー・フォン・シラクが頭角を現し、本作でも後者はオープニングとなる“Miami All-Stars (Tremendo Intro)”を、前者は当時と変わらずファニーな“In Order To Ground The Listener”をそれぞれに提供。彼らのサウンドはプリフューズ73やフンクシュトルンクなどと並べて聴くよりもマイアミ・サウンドの一部として聴いた方がしっくりとくることは間違いない。さらに活動の途切れていたプッシュ・ボタン・オブジェクツを約20年ぶりにレーベル・オーナーのダニー・デイズが担ぎ出して“I.E.”を共作、ピッチを早めたオールド・エレクトロにアシッド・ハウスを絡めたなパーティ・サウンドに仕上げたことはひとつの快挙といえる。

 エレクトロからクランクへと歩を進めたヒップホップとは距離を置き、マイアミ独自のテクノやハウスが増えたのが00年代。まずはマークの後継としてラザロ・カサノヴァが現れ、ゴーサブ同様、ブルックリンからマイアミに移った彼は作風も“Reach For Me”を継承。ここではレイドバックしたダウンビートの“Nieve”を聞かせる。レーベル・オーナーのダニー・デイズもこの世代に属し、彼もどちらかといえば遅咲きで、『Silicon EP』『Speicher 80』(ともに14)では“Reach For Me”やジェシー・ペリッツの試みをテクノの領域に移植。彼が主宰してきた〈Omnidisc〉ではボディ・ミュージック・リヴァイヴァルのヘレン・ハフやアンソニー・ローター、ワタ・イガラシにブラック・マーリンとオルタナティヴ志向を強くしていたものの、16年にリリースしたヘヴィ・エレクトロの「Miami EP」から本作『Homecore!』のアイディアが膨らんでいったのだろう。〈Omnidisc〉では異色といえる本作には蛆虫が地を這い回るような気持ち悪い“110 Dudes”を提供してマイアミのイメージを根底から覆す役割を演じる一方、ひと世代下のニック・レオンと組んでラ・グーニー・チョンガ“Phonkay”ではアフリカ・バンバータそのままのエレクトロ・ヒップ・ホップも聞かせる。

 このところローレル・ヘイローからニコラス・クルスまであらゆるDJミックスに登場するニック・レオンは「マイアミを音楽都市として再浮上させたプロデューサー」と言われるほど評価の高いプロデューサーで、〈Alpha Pup〉からのデビュー・アルバム『Profecía』(16)ではリスニング寄りの穏やかな側面を見せ、世界中のレーベルからリリースされるシングル群ではワラチャというキューバのリズムやドラムンベース、最近はラプター・ハウスと称されるチャンガ・トゥキにデトロイト・テクノを縦横に駆使し、どれも外しがない。とはいえ、本作ではあまり本領を見せていないメカニカルなエレクトロの“Sapo”を提供していてやや残念。ヴォーカリストとしてニック・レオンと組む機会が多いビター・ベイブも本作にソロ名義で“Gimme”を提供し、レゲトン版ドレクシアなどと評されたニック・レオン「FT060 EP」(最高です!)に共作で参加していたグレッグ・ビートー(Greg Beato)はリズム感がそれほどよくないせいか、最近は実験的な作風に傾き出し、〈Schematic〉をエレクトロに戻したような作風をプッシュ。ここでは90sリヴァイヴァル風の“Hey Angel, Whatever”を提供している。

 ダニー・デイズと活動を共にしているジョニー・フローム・スペースことジョナサン・トルヒーヨはニック・レオンやシスター・システムらと合わせてニュー・スクールと呼ばれる若手の代表。DJパイソンの向こうを張る形でレゲトンのリズムに由来するデンボー(dembow)の使い手とされ、これをプッシュ・ボタン・オブジェクツなどのグリッチ・ホップと接続させたと評される。しなやかで柔軟性のある『R​.​E​.​M.』(ムスリムガーゼ、池田亮司、ヤン・イエリネクらに捧げられている)や『Tide』など彼は本当に才能豊か(“Sueño Latino”みたいな曲がたまにあるところもよい)。本作にはいままでとイメージが異なるタイトなエレクトロの“Refresh”を提供。本作でデンボーを扱ったものはMJ・ネブリーダによるフィッシュマンズみたいな“Arquitecto”も。また、トルヒーヨが新設した〈Space Tapes〉から4thアルバム『Parrot Jungle』をリリースしたニコラス・G・パディヤはエレクトロとベース・ミュージックを接合させたハイブリッドで、ニューエイジ用語をちりばめているわりに曲が荒々しいのは絶滅させられた少数民族の代弁者を名乗るからだろうか。本作にはガラッと変わってポリリズミックなブリープ・エレクトロの“Zone”を提供。ジョニー・フローム・スペース周辺からはほかにシスター・システム、バニー(Bunni)などがエントリー。

 ベース・ミュージックがマイアミと相性がいいのは当たり前というか、ハーフタイムとエレクトロをスムースにつなげ、珍しくUKガラージを意識したINVTも短期間にミニ・アルバムを量産しながら(この4年で『Sano』『DisruptionI』『Extrema』『Cambio De Forma』『Mundos』、ニック・レオンと組んだ『Paseo』『Media Noche』『Plaza』『Doble Carga』『Ritmo Caliente』『Gazebo』『Duro』『La Chamba』『MiradaI』『Prendida』など)クオリティは下がる気配もなく、本作では前述のワラチャを応用したらしき“Dassit”を提供。このドラムはたまらない。リトル・シムズの新作『No Thank You』に収められていた“X”もおそらくは同じリズムで、個人的にはこれがベスト・トラック。ほかにUKとダンス・ミュージックの文脈を共有しているのはFKAトゥイッグスを早回しにしているようなバブルガム・エレクトロのティドゥー(TIDUR.)、トッド・テリーが派手にジュークをやっているようなセル6(sel.6)、アレックス・リース“Pulp Fiction”を思い出すなというのが無理な90sドラムン・ベースのシノビ(Shinobi)、同じくドクター・ロキット名義のハーバート“Café De Flore”を思わせるスパニッシュ・ムードのハーフタイム、“Red Keycard”を聴かせるニア・ダークといったところ。UKはやはりどこかに冷静な感じがあるというか。

 ニック・レオン、ジョニー・フローム・スペースと並んでいま、マイアミにおける台風の目となっているのが、そして、フィー-ゴー・ジット(Fwea-Go Jit)。同じフロリダ州のタンパで生まれたジューク(スペルはJookで、ジュークボックスに由来)と呼ばれるヒップ・ホップ・ダンスがマイアミに飛び火してジャージー・クラブやダンスホールと融合し、DJキャレド“To the Max”(17)によって世界的に広められたバウンス・ビートを縦横に駆使した3thアルバム『2 La Jit』はけっこうな評判を呼んだ。MCの起用も多く、どこを取ってもピットブルかよと思う激しいダンス・ミュージックの嵐で、本作では折り返し地点に置かれた“Touch It Turn It”が微かな哀愁も漂わせつつ、次章への幕開けとなっている。また、リッチー・ヘルはこれまでになかったタイプというのか、バンド編成でマンボやクンビアを演奏し、ボビー・コンダースやモーリス・フルトンに近いリラックス・タイプ。本作にはクンビア調の“Rapto Cosmico”を提供。

 ここからは少し端折ろう。さすがに数が多過ぎる。ウィッチハウスとしてキャリアをスタートさせたブラック・アントことジャン・ピエール・アンソニーは少し変わり種で、初期には拷問のようなゴシック・ホップを掘り下げ、4作目から〈Schematic〉に移籍、レーベル・カラーに合わせてLAビートに転じている。5thアルバム『Hidden Packages (Islands 3 + 4)』はまさかのJ・ディラとラス・Gに捧げられ、本作にもフラッシュ音を強調したグリッチ・ホップの“Bellfast3”を提供。同じ〈Schematic〉からゾン・ジャマール(Sohn Jamal)とマックス・ブゾン(Max Buzone)、そしてロイジュー(Roiju)もエントリー。サイケデリック・ブレイクコアのジョセフ・ナッシングを思い出すゾン・ジャマールは比較的オーソドックスなグリッチ・ホップの“TQ Visa”を、哀愁に沈んだIDMのマックス・ブゾンはいままでとは比較にならない出色の“Epoch”を、そして叙情的なIDMのロイジューはパーカッシヴな“Sin Gravedad”をそれぞれに提供。珍しくミニマル・テクノのフィーフ(Feph)はまったく表情を変えずに“Resolve”をオファー。やはりマイアミには珍しく〈Warp〉風のリスニング・テクノからミニマルも射程内に置くエライアス・ガルシアも本作ではジェフ・ミルズ風の“Radiant”を。

 『Homecore!』は半数がここ2年でデビューした新人か本作で初めて曲を発表したニューフェイスで占められ、オープニングに続いて2曲目と3曲目に抜擢されているのがロウ・エンズ・レコーズとジ・オウ・ファイ(Tre Oh Fie)。どちらも荒々しいエレクトロを提供し、イメージ通りのマイアミで幕を開けるという役割を全うしている。御大マークの次に置かれたコフィンテクスツ(Coffintexts)も新人ながらやはり大役を担い、これもハードなブレイクビーツ路線とは少し変わってハーフタイムの“Muy Bien”で面白い流れをつくっている。無名どころの新人ではほかに(って僕が知らないだけかもしれないけれど)、ジャン・アンソニーによるポリリズムのエレクトロ、“Trees Whispers Leave”もなかなかに良かった。

 10年代の前半こそロサンゼルスにレイヴの舞台を奪われたものの、ほどなくしてその座を奪い返し、レイヴどころか『お熱いのがお好き』の昔から踊る天国であり続けているマイアミ。キューバとの関係が様々な意味でマイアミを活気づけ、介護される富裕層が共和党支持なら介護する労働者が民主党支持というスタンダードな政治風土を背景にマルコ・ルビオ上院議員や最近ではトランプの代替わりとされるロン・デサンティス州知事が吠える、吠える。ゲイ・クラブでの銃乱射事件が象徴しているように、いまや性別を気にしないノンバイナリーに対して性別をはっきりさせるバイナリーのテリトリーとしても強度を増し、マジック・マイクたち男性ストリッパーもステージ狭しとショーを続けている。最近になってマイアミに引っ越したジェフ・ミルズ夫妻によると日本並みに湿度が高く、コロナでも誰もマスクなんかつけていなかったというし(ロックダウンが解除されたと思ったら、あっという間に海岸がゴミだらけになったとも)。突拍子もない水着ショーも面白いし、できることならエルモア・レナードやカール・ハイアセンの犯罪小説を読み続けて一生を終えたいなー……と思った3時間半でした。

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