「IO」と一致するもの

interview with DJ Nigga Fox - ele-king

 衝撃だった。
 アフロ・パーカッション、奇っ怪な声に素っ頓狂な弦のサンプル、ポリリズミックな音の配置、それらによってもたらされる絶妙なもたつき感――2013年に〈Príncipe〉からリリースされたDJ Nigga Foxの「O Meu Estilo」は、昂揚的なDJ Marfoxともまた異なるサウンドを響かせていて、リスボンのゲットー・シーンの奥深さを際立たせる鮮烈な1枚だった。キマイラを思わせるその音遣いは、アシッド要素の増した2015年のセカンドEP「Noite E Dia」にも引き継がれ、魅力的な才能ひしめく〈Príncipe〉のなかでも彼は頭ひとつ抜きん出た存在になっていく。同年には〈Warp〉の「Cargaa 1」に参加、翌2016年には〈Halcyon Veil〉の「Conspiración Progresso」に名を連ねるなど、国外からのリリースにも積極的になる一方、自らのホームたる〈Príncipe〉初のCD作品『Mambos Levis D’Outro Mundo』にもしっかりとトラックを提供。2017年にはがらりと方向性を変えた「15 Barras」を発表し、アフリカンな部分以外はわけのわからなかった彼の音楽の背景にテクノが横たわっていることも明らかとなった。

 そのNigga Foxが来日するという話が飛び込んできたのが昨年末。このチャンスを逃すわけにはいかないと鼻息を荒くしながら取材を申し込み、幸運にも1月26日、WWWβでの公演直前にインタヴューする機会に恵まれた。当日のDJはこれ以上ないくらいに強烈なセットで、曲の繋ぎ方なんかふつうに考えたら無茶苦茶なのだけど、それが破綻をきたすことはいっさいなく唯一無二の舞踊空間が出現させられており、まだ11ヶ月も残っているというのに今年のベスト・アクトだと確信してしまうほどの一夜だった。たぶん本人としてはとくに奇抜なことをやっている意識はないのだろう。記憶に誤りがなければマイケル・ジャクソンやリアーナが差し挟まれる瞬間もあって、彼がUSのメジャーなサウンドに触れていることもわかった。


DJ Nigga Fox
Crânio

Warp

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 そして、去る3月2日。なんとふたたび〈Warp〉から、今度はNigga Fox単独名義で新たなEP「Crânio」がリリースされた(以下のインタヴューで語られている「サプライズ」とはどうやらこのことだったようである)。この新作がまた素晴らしい出来で、かつてない洗練の域に達しているというか、“Poder Do Vento”にせよ“KRK”にせよ、彼特有のもたつき感は維持しつつよりテクノに寄ったサウンドが展開されており、「15 Barras」での実験を経て彼が次なるフェイズへと突入したことを教えてくれる。2018年の重要な1枚となることは間違いないだろう。いやもう正直、ここしばらく彼の紡ぎ出すヴァイブレイションに昂奮しっぱなしである。とうぶんNigga Foxのことばかり考えることになりそうだ。


郊外で育った自分たちにはプロデューサーも完璧なスタジオも、音楽活動をするためのサポートもなかった。

東京へ来てみていかがですか?

DJ Nigga Fox(以下、NF):とにかく東京は人が多いね。東京は、リスボンやポルトガルのどの街とも完全に違う都市だよ。大きな通りや、イルミネイションの美しい街だ。いろんな店が隣り合わせにいろいろ並んでいるのもおもしろい。うん、東京は好きだね。

東京はいまオリンピックへ向けてどんどん再開発が進んでいます。リスボンでは都市計画によってゲットーが隔離されているそうですが、じっさいはどのような情況なのでしょう?

NF:ええと……自分はいま東京にいるわけだけど、この街に関して詳しくはないんだ。テレビやネットの情報で知った東京のイメージが強い。再開発については知らなかったよ。大きなスタジアムや施設を建設するためなんだよね? 観光のためには良いことだと思うけど……。いまリスボンでは、ポッシュなコンドミニアムを建設するために、郊外の団地を破壊している。ちょっと悪いことだと思う。そこの以前からの住人や、すべてのポルトガル人がそういう大きな家やコンドミニアムを手にできるわけではないからね。平等じゃないよね。

あなたの音楽は、そういう場所だからこそ生まれたものだと思いますか?

NF:強く影響を受けていると思うね。街の人たちと違って、郊外で育った自分たちにはプロデューサーも完璧なスタジオも、音楽活動をするためのサポートもなかった。最低限のコンディションで音楽を作ってきたことや、自分たちの前向きな努力を、街の人たちも徐々に理解し始めてきていると思う。自分たちの音楽にはものすごい活力が込められているよ。

音楽を始めることになったきっかけはなんですか? 幼い頃から音楽に触れていたのでしょうか?

NF:17歳の時、家にあった兄のPCで音楽制作ソフトのFL Studioに触れたのがきっかけだね。兄は3歳年上で、DJ Jio P名義で音楽活動をしていて、それについていくような形で楽曲制作を始めた。クドゥーロ(Kuduro)っぽいものを作ってみたりね。そのあと、DJをしている友人たちからいろいろ教えてもらったりして。テクノやハウス・ミュージックが好きで、徐々にそういう音楽も取り入れていった。

〈Príncipe〉の面々は英米のダンス・ミュージックの影響をほとんど受けていない、という記事を読んだことがあるのですが、じっさいのところどうなのでしょう?

NF:ええと……〈Príncipe〉の他のメンバーに関しては何とも言えないから、自分のケースについて話すよ。昔はたしかにクドゥーロやアフロハウスを中心に聴いてた。その頃からテクノは聴いてたけどね。ポルトガル国外でも活動するようになってから、ハウスやドラムンベースとかにも興味を持って、それらの影響も自分のスタイルに取り入れていった。でも、それ以外の欧米の音楽からは、現時点ではあまり影響を受けていないんじゃないかと思うよ。

あなたの音楽はクドゥーロから影響を受けていると言われますが、それと異なっているのはどういう点だと思いますか?

NF:まず、クドゥーロはヴォーカルがあるよね、歌い手がいる。自分の音楽はインストゥルメンタル。そして、自分の音楽には、テクノのエッセンスをひとさじ加えてある。

Buraka som Sistemaについてはどう見ています?

NF:自分たちの作る音楽に注目が集まって世界中で紹介されるのは、彼らあってのこと。先駆者的存在だよ。彼らが活動していた頃は、曲を聴くのはもちろん、ライヴにも行ったよ。いまはメンバーそれぞれがべつべつに活動してるけど、中心人物のBranko(João Barbosa)のDJはいいよね。

〈Príncipe〉の面々のなかでもあなたはいちばん変わった、特異なトラックを作っていると個人的には思っているのですが、ご自身ではどう思いますか?

NF:〈Príncipe〉のアーティストそれぞれに、各々のスタイル、アイデンティティがある。たとえば、DJ Marfoxはもっとクドゥーロ100%って感じだし、他のアーティストも、よりアフロハウス風、ゲットー風とか、それぞれ個性がある。自分に関して言えば、よりテクノの影響が強いのが個性かな。〈Príncipe〉の他の面々はテクノを聴かないからね。テクノが好きなのは自分だけだ。そこが違いかな。

あなたや〈Príncipe〉の作品は複雑なリズムのものが多いですが、シンプルなビートを刻んではいけないというようなルールがあったりするのでしょうか?

NF:ノー、ノー、ノー(笑)。それぞれのアーティストが好きなことをする自由があるよ(笑)。自分はDJ Firmezaが大好きなんだけど、彼の音楽の独特のバランスを、自分の音楽にも取り入れることがある。互いに影響を与えあっているけれど、ルールはとくにない。メンバーそれぞれが、各々のイマジネイションから湧き出す音楽を作ってる。「複雑なリズムの音楽を作ってやろう」って意図はぜんぜんないね。たぶん、他の音楽に慣れた人が自分たちの音楽を聴くと、「何だこりゃ!?」って変なふうに感じる、ってだけなんじゃないかと思うね。

〈Príncipe〉所属のDJには名前に「fox」と付く方が多く、これはDJ Marfoxに敬意を表してのことだそうですが、あなたたちにとってMarfoxはどういう存在なのでしょう?

NF:これも自分のケースについて話すよ。2008年に、DJ Niggaって名前で活動を始めたんだけど、リスボンにはすでにべつのDJ Niggaがいることがわかったんだ。で、DJ Marfoxのことは知ってたし好きだったから、名前に「fox」を足すことにした。他のDJたちがなんで名前に「fox」って付けてるのかは知らないな。DJ Marfoxの影響かもしれないし、ただキツネが好きってだけかもしれない(笑)。自分は、DJ Marfoxのことをすごく尊敬してる。でも、〈Príncipe〉所属だから名前に「fox」って付けなければいけないってルールはないよ。〈Príncipe〉以前から名前に「fox」が付くDJはいたしね。ああ、他のDJの名前になぜ「fox」が付くのかは知らないけど、DJ Marfoxの名前になぜ「fox」が付くのかは知ってるよ。彼は『スターフォックス』っていうファミコンのゲームが大好きで、「fox」はそこから来たんだよ。

ちなみにキツネは好きですか?

NF:好きだよ(笑)。実物を見たことはないけど、かわいいよね(笑)。

あなたはアンゴラ出身だそうですが、〈Príncipe〉に集まっている面々はどういう出自の方が多いのでしょう?

NF:自分はアンゴラ生まれで、内戦を避けるため4歳のとき家族でポルトガルに移住して来たんだ。以来、アンゴラに戻ったことはないね。〈Príncipe〉のアーティストは、アンゴラ出身者、カーボ・ヴェルデ出身者、ポルトガル生まれ、DJ Marfoxはサントメ・プリンシペ出身だし、さまざまな国籍のアーティストが所属している。

リスボンではアフロ・ポルトギースは社会的にどのような立場に置かれているのですか? たとえば、いまアメリカでは人種差別が問題になっていますが、そういったことはポルトガルでもあるのでしょうか?

NF:昔はもっと複雑だったけど、いまは落ち着いてるね。以前は、アフリカ系の移民がピザ屋で働くのも大変だったというけれど。じっさい、ポルトガル人には少し閉鎖的なところがある。でもいまはふつうだよ、もっと落ち着いてる。いまは、皆が自分の可能性や才能を試すための扉が開かれていると思うね。

海に行って水平線を見ているのが好きだね。海が好きなんだ。音楽を作るためのエネルギーをもらえる気がする。

〈Warp〉の「Cargaa 1」(2015年)に参加することになった経緯を教えてください。

NF:自分が直接やりとりしたわけではないので詳しい経緯はわからないけれど、〈Warp〉のオウナーだったか誰かが自分のEPか何かを耳にして、〈Príncipe〉にコンタクトを取ってきたらしい。で、自分は2曲〈Warp〉に送って、それが使われたってわけ。おもしろかったよ。あの企画に参加できて楽しかった。

オファーが来る前、〈Warp〉の存在は知っていました?

NF:正直に言うと、知らなかった(笑)。そもそも、10年くらい前から楽曲制作はしていたけど、DJやプロデューサーとしての自分のキャリアを真剣に考え始めたのは、ポルトガル国外でもDJするようになった4年前なんだ。それ以前は、誰が有名だとか、どのレーベルがすごいとかの情報は気にしていなかったんだよね。

〈Halcyon Veil〉の「Conspiración Progresso」(2016年)に参加することになった経緯も教えてください。

NF:先方から来た話なのか、〈Príncipe〉側からのオファーなのか詳しくは知らないけれど、コンピレイション・アルバムに自分の楽曲を使いたいと言う話が出たので、OKと言ったんだ。自分たちの楽曲を広めてより多くの人に聴いてもらうチャンスだからね。

リスボン以外のレーベルから作品を出すことは、あなたにとってどのような意味を持ちますか?

NF:リスボン以外のレーベルから作品を出すことは、自分の音楽を自分の家の外に出すような感じだよ。国外でのリリースがきっかけで、自分たちの音楽は注目され始めたんだ。自分たちは立派なスタジオを持ってるわけじゃないし、限られたコンディションで音楽を作ってきた。自分の音楽が、自分のベッドルームから世界に飛び出て行ったことを、すごく誇りに思うよ。自分たちの音楽は、ポルトガル国内より、国外で注目されてきた。なんでかわからないけどね。でも最近ではそれも変わりつつあって、Sumol Summer Fest、Milhões de Festaみたいなポルトガル国内の大きな音楽フェスティヴァルや、Lux FrágilやMusicboxみたいなリスボンの大きなクラブでもパフォーマンスしている。

あなたや〈Príncipe〉の音楽はSoundCloudやBandcampなどネット上のプラットフォームを介して広まっていきました。アナログ盤もリリースされていますが、ご自身はふだんどのように音楽を聴いていますか?

NF:リスナーとしてもクリエイターとしても、完全にデジタルだね。自分の使いたいマテリアルはデジタル・フォーマットにしかないことが多いし、レコードを使ってDJしないしね。

インターネットは音楽にとって良いものだと思いますか?

NF:良いものだと思うね。レコードの再生機器を持ってない人も、インターネットを通じて音楽にアクセスすることができる。SoundCloud、YouTube、Spotifyにはいろいろおもしろいものが転がってる。うん、良いことだと思うよ。

ふだん曲を作るときは、アイデアがふっと湧いてくるのでしょうか? それともあらかじめみっちり構成を練って作るのですか?

NF:まず、ビートの断片が頭に浮かんでくる。自分のイマジネイションの世界からビートがやってくるんだ。でも、曲は1日では完成しないね。FL Studioで練ってみたり、インスピレイションが湧くまで1週間かかることもある。いろいろ混ぜてみて、次の日にはぜんぜん違う音楽になってることもある。こういう試行錯誤は、家でひとりでやるんだ。大勢に囲まれて「こうじゃない」「これはこうしたほうがいい」とかいろいろ言われながら作るのは好きじゃない。家で、ひとりで、静かに曲作りするのが好きだね。

では、これまで誰かと共作したことはない?

NF:あるよ。一度、〈Príncipe〉のほとんどのミュージシャンが曲の断片やアイデアを持ち寄って、1曲作ったことがある。DJ FirmezaやDJ Marfoxと曲作りをしたこともあるし。

トラックを作るときに、音楽以外の何かからインスパイアされることはありますか?

NF:海に行って水平線を見ているのが好きだね。海が好きなんだ。音楽を作るためのエネルギーをもらえる気がする。あとは、クラブに行って他のスタイルの音楽を聴くのも好きだね。クドゥーロ、テクノ、ポップ、トラップとかね。

「15 Barras」(2017年)は長尺の1トラックで、それまでとはがらりと作風が変わりました。インスタレイションのために作られたものだそうですが、この曲が生まれた経緯を教えてください。

NF:「15 Barras」はある種の実験だったんだ。「Nigga Foxの音楽とは完全に正反対のものを作ろう」という意図のもとに生まれた。15分のトラックで、完成までかなり試行錯誤したよ。何日もいろいろ考えて、あちこち切り貼りしたり、時間をかけてね。結果的に、良いフィードバックをもらったし、うまくいったと思ってる。あくまで単発の実験だけどね。「15 Barras」は朝4時にクラブで聴く類の音楽ではなくて、日中とか旅行中に聴く音楽、って感じだね。完全に違うトラックだよ。

今後アルバムを作る予定はありますか?

NF:もうすぐサプライズがあるよ(笑)。いまはまだ言えないんだけどね。2ヶ月後位にアナウンスできるんじゃないかな〔註:この取材は1月末におこなわれた〕。

あなたの音楽を一言で表すとしたら、何になりますか?

NF:VIBE。ヴァイブレイションだね。

Kumo No Muko - ele-king

 君はAlixkun(アリックスクン)を覚えているかい? 歴史に埋もれた掘り出し物をを求め、ほとんどの休日を関東圏のあらゆる中古レコード店めぐりに時間とお金を費やしている、日本在住のフランス人DJであり、正真正銘のディガーだ。Alixkunの最初の探索は、日本のハウス・ミュージックの発掘からはじまった。そしてその成果は、まったく美しいコンピレーション・アルバムへと結実した
 Alixkunの次なる冒険は、80年代の日本で録音されたアンビエント&シンセポップだった。綿雲のうえを歩くようなサウンドに彼は取り憑かれ、そしてレコードの狩人となって来る日も来る日も探求を続けた。そして出会った小久保隆、井上敬三、渡辺香津美、坂本龍一、井野信義、宮下富実夫、小山茉美、鈴木良雄、Dip in the Pool……彼は舐め尽くすようにレコードの1曲1曲を聴き続け、吟味して、それがいよいよコンピレーション・アルバムとなって発売される……
 タイトルは『雲の向こう A Journey Into 80's Japan's Ambient Synth-Pop Sound』。発売は6月27日だが、HMVのホームページにて予約を開始した。アートワークも最高だし、内容も素晴らしい。ぜひチェックして欲しい。

■V.A.『雲の向こう A Journey Into 80's Japan's Ambient Synth-Pop Sound』
CAT NO.:HRLP108/9
FORMAT:2枚組LP
発売日:2018年6月27日(水)発売

[収録曲]
A1. Underwater Dreaming / Takashi Kokubo
(Music by Takashi Kokubo)

A2. Kitsu Tsuki / Keizo Inoue
(Music by Kazumi Watanabe)

A3. Window / Nobuyoshi Ino
(Music by Kazumi Watanabe)

B1. A Touch of Temptation / Masaaki Ohmura
(Music by Masaaki Ohmura)

B2. Kuroi dress no onna -Ritual- (English Version) / dip in the pool
(Music by Masahide Sakuma / Words by Miyako Koda)

B3. Silver Snow Shining / Shigeru Suzuki
(Music by Shigeru Suzuki)

C1. Obsession / Chika Asamoto
(Music by Kazuo Ohtani)

C2. Love Song / Mami Koyama
(Music by Masanori Sasaji / Words Yuho Iwasato)

C3. In The Beginning / Fumio Miyashita
(Music by Fumio Miyashita)

D1. The Mirage / Yoshio Suzuki
(Music by Yoshio Suzuki)

D2. Watashino Basu / Yumi Murata
(Music by Akiko Yano)

D3. Itohoni / Chakra
(Music by Bun Itakura / Words by Bun Itakura / Mishio Ogawa)

dialogue: suppa micro pamchopp × Captain Mirai - ele-king


Various Artists
合成音声ONGAKUの世界

Pヴァイン

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 ボーカロイドやその他の音声合成ソフトを用いて作られた音楽はいまその幅を大きく広げ、アンダーグラウンド・シーンも成熟へと向かっている(そのあたりの流れは『別冊ele-king 初音ミク10周年』『ボーカロイド音楽の世界 2017』を参照のこと)。そんな折、『合成音声ONGAKUの世界』なるタイトルのコンピレイションがリリースされた。帯には、まるでそれが正題であるかのように、「ボカロへの偏見が消えるCD」と記されている。監修を務めたのはスッパマイクロパンチョップ。1998年に竹村延和の〈Childisc〉からデビューを果たした彼は、最近になってボーカロイド音楽の持つ魅力に気がついたそうで、それまでの自分のように偏見を持った人たちに少しでも興味を持ってもらおうと、精力的に活動を続けている。今回のコンピもその活動の成果のひとつと言っていいだろう。じっさい、ここに収められているのはシンプルに良質なポップ・ミュージックばかりで、もしあなたがなんとなくのイメージで避けているのであれば、それはほんとうにもったいないことだ。そんなわけで、監修者のスッパマイクロパンチョップと、同コンピにも参加している古参のクリエイター、キャプテンミライのふたりに、このコンピの魅力について語り合ってもらった。あなたにとってこれがボーカロイド音楽に触れる良い機会とならんことを。

※ちなみに、スッパマイクロパンチョップのブログでは、今回の収録曲から連想される非ボーカロイド音楽のさまざまな曲が紹介されており、ロバート・ワイアットやエルメート・パスコアール、ダーティ・プロジェクターズやディアンジェロなど、興味深い名前が並んでいる。そちらも合わせてチェック。


たまたま耳に入った曲が自分の好きな感触じゃなかったら、そのイメージしか残らなくて、それ以外が想像できないという状況だと思うんですよね。 (スッパマイクロパンチョップ)

対バンした相手と表面上は仲良く話していても、心の底では「なんだあいつ」みたいに思っていたり(笑)。〔……〕ボーカロイドを始めてみたらみんなすごく開けていたんで、それもすごく驚きましたね。 (キャプテンミライ)

スッパさんがボカロの音楽を聴くようになったのはわりと最近のことなんですよね?

スッパマイクロパンチョップ(以下、S):そうですね。ボカロの音楽を聴き始めたのは去年の8月末からなんです。初音ミク10周年のタイミングですね。それまではあまり興味がなかった。でも、Twitterでたまたま流れてきたyeahyoutooさんとPuhyunecoさんのふたりの曲を聴いてとても感動したんですよ。それ以来ニコニコ動画でアーカイヴを掘りまくっていますね。そこから自分でも曲を作り始めるようになって、10月にはもうボカロに関するトークイベントをヒッキーPと始めていましたね。

キャプテンミライ(以下、C):最近スッパさんという方がボーカロイドに熱中しているという噂は僕も聞いていて、ちょっと前からTwitterとかでスッパさんの発言を拝見しているんですが、ようはその2曲がボーカロイド音楽を聴き始めるきっかけになったわけですよね。

S:そうですね。

C:僕も似たような感じで、ボーカロイドを始めるきっかけになった曲があるんですけど、やっぱりそれって、ボカロ云々を抜きにして音楽として良かったっていうことで、ようはすごくかっこいい曲に出会ったということですよね。

S:ですね。キャプミラさんの出会いの曲はなんだったんですか?

C:すんzりヴぇrP(sunzriver)という人の曲ですね。僕はもともとバンド畑の人間で、「ライヴハウスだ、バンドだ、ギターだ」みたいな世界でやっていたんですが、じつはその頃からすんzりヴぇrとは知り合いだったんですよ。彼は最近何をやっているんだろうと思って調べてみたらいつの間にかボーカロイドを始めていて。もちろん僕もボーカロイドの存在は知っていたんですが、なんとなくの見た目のイメージくらいしかなかったんですね。でも彼の楽曲を聴いてみたら、彼がそれまでやっていたものとぜんぜん変わらない、むしろボーカロイドによって魅力が増しているかもしれないと感じたんです。これはおもしろいなと思って、自分でもやってみることにしたという流れですね。

S:それは2008年ですか?

C:2008年ですね。

けっこう初期ですよね。

C:そうです。当時はまだ偏見もいまより大きかったし、バンド畑の人間だったので、ライヴハウスとかで周りに「ボーカロイドというのを始めてさ」って言うと、反応が冷たくて。「お前、何やってるんだよ」みたいな反応をされることが多かったですね。でもそれからどんどん初音ミクがメジャーになっていったので、やっている側としては広まりきった感はあったんです。でも今回のスッパさんの活動を見ていると、まだまだ広がりきっていなかった部分があったんだなというのを感じましたね。

S:その「広がった」というのも、もしかしたら偏見が広がったということかもしれないですよ(笑)。

C:まあ、同時なんでしょうけどね。ただ若い世代にはふつうに広まっている感はありますね。だからいまスッパさんが届けようとしているのは、若い子よりも少し上というか、ミドルで音楽好きの人たちという感じですよね。それこそバンド畑の人とか、ロックやエレクトロニカを聴いているようないわゆる音楽好きの層というか。

S:そこにも届けたいってことですよね。自分もライヴハウスとかクラブとかはよく出演しているんですけど、そういうところで出会う人たちの偏見ってすごく根強くって。キャプミラさんが「お前、何やってるんだよ」と言われたときと、いまもまったく同じ状況なんですよ。

C:そうなんですね。難しいですねえ。たとえば「初音ミク」という名前自体はそれこそ誰でも知っているものになっていますけど、じっさいにそれを聴いているかは別問題ってことですよね?

S:たまたま耳に入った曲が自分の好きな感触じゃなかったら、そのイメージしか残らなくて、それ以外が想像できないという状況だと思うんですよね。だから、このコンピを聴いて考え直してほしいってことですね(笑)。

C:でもどうなんでしょうね。偏見ってじっさいそんなに強いのかな……いや、やっぱり強いのかなあ。

S:強いと思いますよ。Twitterで「これ最高! ヤバい!」ってYouTubeのリンクを貼るのと、ニコニコ動画のリンクを貼るのとでは違いがあるというか。ニコニコ動画なんか誰も覗いてくれないんですよ。「そっちの世界は行きたくない」みたいな偏見はあると思います。

音楽ファンって、ほかの何かのファンと比べると、なかなかそういう壁を崩さない感じはありますよね。オープン・マインドに見えて、じつはすごく閉じているというか。

S:ですよね。だから今回はそういうボカロのネガティヴなイメージをすべて取っ払って、音楽だけに集中して見せたいんですよね。音楽活動をしている知り合いには若い子が多いんですが、若い子でも外へ出て音楽をやる人と、家のなかだけで音楽をやる人とではちょっと違いがあって。やっぱり外でやるおもしろさを知っている人は偏見を持ちがちですね。キャプミラさんの場合はボカロとの出会いが早かったから良かったというのもあると思うんです。すんzりヴぇrさんやディキシー(Dixie Flatline)さんとは、ちょっと仲間意識みたいなものもあるんじゃないですか?

C:そうですね。当時はボーカロイドをやっている人たちの横の繋がりがすごくあったんですよ。初投稿日が近い人たちなんかで良く会ったりしていて。バンドをやっていると意外にギスギスしているところがありますよね。たとえば対バンした相手と表面上は仲良く話していても、心の底では「なんだあいつ」みたいに思っていたり(笑)。ライヴハウスではそういう空気をバンバン感じることがあったんですが(笑)、ボーカロイドを始めてみたらみんなすごく開けていたんで、それもすごく驚きましたね。だから10年前に出会った人たちとはいまだに会ったりするような仲になっていますし、それが世代ごとにいろいろとあるんじゃないですかね。いまの若い人は若い人たちでコミュニティがあるんじゃないかという気はします。

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僕が言う「偏見」って、世代的な断絶でもあるんですよね。高年齢の音楽マニアとのあいだにすごく大きな壁があるというか。 (スッパマイクロパンチョップ)


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今回のコンピはどういった基準で選曲していったのでしょう?

S:これを聴けば偏見が吹き飛ぶだろう、という選曲ですね。よくあるボカロのイメージにそぐわない曲というか。「え、これボカロなの!?」って、あっさりボカロを好きになっちゃうような選曲のつもりです。とはいえボカロのおもしろい曲ってすごくバラエティに富んでいるので、それを「ベスト・オブ・ボカロ・ミュージック」みたいにひとつにまとめるのは難しい。そこへ、「音楽好きの人がさらっと聴ける」「BGMとして心地良く聴ける」のがいいというお話をいただいたので(笑)、それもテーマにしました。もちろん自分の趣味も入っているんですけど、それだけじゃなくておしゃれに聴けることを意識したというか。ボーカロイドってべつに「おしゃれ」のイメージはありませんよね。

C:そうですかね。

S:偏見を持っている人たちは、アニメとか萌えとか、そういういわゆるオタクな世界に悪いイメージを抱いていて、それは「おしゃれ」とは正反対だと思うんです。もちろん音楽ファンも「おしゃれ」だけを基準に聴いているわけではないですけど、やっぱりイメージってあると思うんですよね。「このサウンドがいまいちばんかっこいい」っていう感覚って、「(そのサウンドが)おしゃれ」ってことでもあると思うので、そのラインは守っているというか。「ボカロっておしゃれかもしれない」とか「意外と気持ちいいんだな」と思ってもらえるよう選曲していますね。たとえばでんの子Pさんの曲でも、選曲を間違えたら「え……」って思われちゃうかもしれないので(笑)。だから、突出した才能を持っているけど、その人のなかでも耳触りが良いもの、たとえばエルメート・パスコアールなんかと同列に聴けるもの、という基準ですね。キャプミラさんも名曲揃いですから、どの曲でもよかったんですが、せっかくなので僕がいちばん感動した“イリュージョン”を選びました。僕、ボカロを聴いて泣いたのはその曲だけですからね(笑)。

C:おお(笑)。ありがとうございます。

今回の収録曲のなかではいちばん古い曲ですよね。

C:そっか、ディキシーさん(Dixie Flatline)より古いのか。

S:ディキシーさんのは最近の曲なんです。2015年。古いのはTreowさんとキャプミラさんだけです。おふたりはクラシック代表なんですよ。

ということは、この曲で使われている鏡音リンのヴァージョンも初代ということですよね?

C:そうです。初代のリンってソフトウェアのエンジンがVOCALOID2という古いヴァージョンなんですけど、いまの環境で動かすにはちょっとめんどくさいんですよね。Windows10とかだとけっこう微妙な感じになっちゃっていて。データをコンヴァートしたりしなきゃいけなくて、かなりたいへんなんです。

この曲に感動して同じような音を鳴らしたいと思った人がいても、それはもう難しいという。

C:そうなんですよね。ソフトはどんどん新しくなっていって、もちろん内容は素晴らしくなっていっているんですけど、やっぱり声が違うので「初代のほうが良い」みたいなことはありえますよね。

楽器だといわゆるヴィンテージの機材を追い求める人たちもいますが、これからVOCALOIDもそういう感じになっていくのかもしれませんね。

S:そういう時代は来そうですね。

C:そしたらリヴァイヴァルするかもしれないですよね。いまのエンジンで当時の声がそのまま出るよ、みたいな感じのライブラリを出してもらえるといいんですけどね。

今回のコンピには入っていませんが、多くの人がボカロと聞いて思い浮かべるだろう、テンポの速いロック系の曲についてはどうお考えですか?

S:数年前に流行った高速ロックの流れもまだそんなに廃れていないというか、「ボカロと言えばとにかく速い」みたいなイメージが一般的にもあると思うし、じっさいそういうものがたくさん聴かれているのはすごく感じるんですよね。わりと再生数を稼げる人たちのなかでも、ボカロのそういう側面を追求する層と、どうやったら「おしゃれ」に作れるかで競っている層と、ロックか「おしゃれ」かみたいなふたつの線があるように思いますね。

C:いまのバンド・シーンの若い子たちのなかでも、あの頃の高速ロックの流れを汲んだバンドは多いですよね。BPMが速くて、四つ打ちで、速いギター・リフみたいな。中学生のときにもうボーカロイドがふつうにあってそれを聴いて育ったから、大きくなってバンドをやろうってなったときにおのずとそういう楽曲が出てくる、そういう世代がもうけっこういるのかな。やっぱり高速ロックは影響力ありますよね。

S:ありますね。だから僕が言う「偏見」って、世代的な断絶でもあるんですよね。高年齢の音楽マニアとのあいだにすごく大きな壁があるというか。若い子が音楽を始めようと思ったときに、いまだとやっぱりコンピュータで音楽を作るという選択肢があって、それで作ったものをアウトプットする場所としてボーカロイド・シーンがすごく身近なんだろうなと。曲を作ってアップロードするだけならべつにSoundCloudでもいいんですけど、若い子からしてみると華やかな感じというか、SoundCloudにアップするよりもキャラクターとビデオのあるボーカロイド・シーンのほうが注目されるんじゃないか、というような期待があるんでしょうね。そもそも音楽と最初に出会った場所がニコニコ動画だったという人も多いでしょうし。それでいろんなタイプの音楽が集まってきているような気がします。

キャプミラさんが今回の収録曲のなかでいちばん印象に残った曲はどれですか?

C:羽生まゐごさんの“阿吽のビーツ”かな。民族っぽいパーカッションのリフで始まる曲。でも、たしかに全体的におしゃれだなとは思いましたね。

S:1曲目とその羽生さんの“阿吽のビーツ”はガチでおしゃれだと思います。それ以外はオーソドックスな感じもあって、「エヴァーグリーン」という感じですね。僕はどんな音楽を聴くときも普遍的かそうでないかみたいなところでジャッジしていて、もちろんそうでなくてもいいんですけど、コンピを組む場合は50年後とかに聴いても古いと思わないような強度のある曲を選んでいるつもりなんですよね。それでいてサラッと聴ける曲。あまりにも濃いと引っかかっちゃうので。作業しながら聴いていて「えっ!」って(笑)。

僕は松傘さんやでんの子Pさんが好きなので、その両方が入っていたのは嬉しかったですね。でも、彼らの曲のなかではわりと聴きやすいというか、比較的癖のない曲が選ばれていますよね。

S:松傘さんの個性ってずば抜けているところがあるんですが、松傘さんが単独で作っている曲をこのコンピに入れるのはちょっとエグいかなあと(笑)。でんの子さんもそうなんですよ。でも彼らのおもしろさはなんとか伝えたいので、誰が聴いても「良いな」って思ってもらえそうな曲を選びましたね。

C:そういう意味では、最近のボーカロイドをそれほどチェックできていない僕みたいな人向けでもあるというか、ここからいろいろ漁っていくという聴き方もできそうですね。

S:そうなんです。たとえばある曲に惹かれて、もっと掘ろうと思ってその作り手の他の曲を聴いてみると、そっちはそれほどでもなかったり、というようなことがボカロではわりと多いんですよ。だから今回のコンピも、その曲に出会った人がもっと掘っていったときにがっかりしないように、そもそも作っている曲が全体的におもしろい人たちのなかから選りすぐっていますね。あと、ぜひ入れたいと思ったけど、そもそも連絡先がわからないというパターンもありました。連絡が取れないとどうしようもないので、現実的にコンタクトできてOKしてくれそうで、それでいて誰が聴いても良いと思える曲がある人、という基準で選んでいます。

C:そうなるとけっこう難しそうですね。連絡の取れない人、多そうだから(笑)。

S:難しかったですね(笑)。でも良い内容にできたとは思っています。

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試しに作ってみると世界が変わると思いますよ。声を合成するというのは、やっぱり音楽をやっている人ならおもしろいと思える部分があるはずですので。 (キャプテンミライ)


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今回のコンピに収録されているような、シンプルにグッド・ミュージックだったりちょっと尖った曲を作っている方たちって、やっぱり再生数は低かったりするんでしょうか?

C:たとえば鈴鳴家さんも音作りがものすごくて狂気じみていますけど、再生数の面ではそこまで評価されていませんよね。だからボカロ界にはもったいない人がいっぱいいますよ。

S:なぜなんでしょうね。プロモーションのしかたなのかなあ。

C:でもディキシーさんやTreowさんはすごく再生数の高い曲を持っていて、数字が付いてきているというか。

S:そうですね。ちなみに羽生まゐごさんはむちゃくちゃヒットしていますね。あと、1曲目の春野さんもわりとおしゃれ系でヒットしています。まだ20歳らしいですよ。

C:おお。いや、まさにそこなんですよね。最近の音楽自体ちょっとヤバいというか、いまは若くても本当にすごいものを作ってくる。むかしはそんなことはなくて、若い子は若い音楽しか作らなかった。町田町蔵が出てきたときに、「すごい10代」みたいに言われていたんですけど、ボーカロイドをやっていると、そのすごい10代がいっぱいいる感じがするんです。環境が良くなっているのかな。コンピュータで音源も安く買えて、いきなりすごい音が出せるみたいなことの影響もあるんですかね。

S:あると思いますね。

C:2007~09年にボーカロイドが盛り上がっていった時期って、いろんなインフラが整っていった時期でもあると思うんですよ。音楽制作をしたい人がコンピュータでそれをできるようになって、プラグインも安くなって手が届くようになった。動画もそうですよね。動画編集ソフトにも手が届きやすくなって、個人で作れるようになった。絵もデジタルで描く方法が確立されて、pixivのようなものが出てきて盛り上がっていった。そういった人たちが集まって何かを作ろうというところにちょうど初音ミクが登場して、ニコニコ動画という場もあって、「僕が楽曲」「僕が動画」「僕が絵」みたいな感じでどんどん盛り上がっていった。それがおもしろかったんですよね。同じような時期に、アメリカやヨーロッパではインディ・ゲームのシーンが盛り上がっているんですよ。それもたぶん同じように誰でもプログラミングできたりグラフィックを作れたりする環境が生まれて、じゃあ何を作るかってなったときに、日本みたいにニコニコ動画があるわけじゃないから、みんなでゲームを作ろうというような感じで盛り上がっていったんじゃないかと思うんです。それがいまはまた分裂して、絵を描く人は絵だけで行こう、みたいになっているような気がしますね。当時ボーカロイドをやっていた人のなかでも、いまはプロの作家にスライドして曲を作っているような人も多くなっているので、音楽は音楽でやっていこうという感じなんですよね。あのときにみんなでガーっとやっていたところからどんどんひとり立ちしていって。そう考えると10年の歴史の流れを感じるというか、じーんときますね(笑)。いや、でもやっぱりみんな若いんですねえ。

S:詳細な年齢まではわからないけど、新着の初投稿の曲を聴いていても、いきなり成熟したポップスみたいなものがわりと多いんですよ。そこは謎なんですよね。最初からスケッチ的なものじゃなくて、しっかりポップという。

C:ポップスってけっこう理論とかがわかっていないと作れないものなのに、それをさらっと作っちゃいますよね。それは、たんにツールが良くなっただけじゃできない。耳も良いのかな。

音楽活動はべつにやっていて、匿名で投稿しているケースもあるんでしょうね。

S:それはいっぱいあると思いますよ。

C:言いかたの問題もあるでしょうね。ずっと音楽はやっていたけどボーカロイドは初投稿です、みたいなケースもあるのかもしれないですしね。

S:いまはまだ偏見を抱いているクラブ・ミュージックの作り手とかが、いつか「ボカロっておもしろいんだな」と気づいて、自分でもボカロで歌ものを作ってみてハマる、そういう可能性を持った作り手ってじつは山ほどいるんじゃないかと思っていて。

C:僕がそうだったんですけど、イメージで偏見を持っていても、じっさいにボーカロイドを使ってみると、打ち込んで、機械が歌ったときにちょっと感動があったんですよね。「声が聴こえてきた!」みたいな。それで急にキャラクターにも愛着が湧いてくるというか、「このソフトはこんな声をしているのか」という感じで世界が広がったことがあったんです。だから作り手の人に、もちろんまずは聴いてほしいですけど、じっさいに作ってみてほしいんですよね。べつにニコニコ動画やYouTubeにアップロードしなくてもいいんで、試しに作ってみると世界が変わると思いますよ。声を合成するというのは、やっぱり音楽をやっている人ならおもしろいと思える部分があるはずですので。

S:そういうものを作らなさそうな人にこそ作ってみてほしいですよね。

C:あとは音質の話ですけど、ニコニコ動画にアップロードしている人たちには、ミックスやマスタリングの癖みたいなものがありますよね。とにかく音がデカくてバチバチにしているし、低音も切り気味だし。もしかしたらそれをクラブ・ミュージックの人が聴くと、物足りない感じに聴こえちゃうのかもしれない。パッと聴きでもう質感が違うと思っちゃうのかなという気もします。

S:自分は家ではデスクトップのパソコンに大きなスピーカーを繋げて聴いているんですけど、どんなにクオリティの低い曲でも小さな音で再生しているぶんにはなんにも気にならないんですよ。でも、ヘッドフォンで聴くと不快になるってことは多いですね。なので今回のマスタリングでは、全体的に高域をちょっと削ってマイルドで優しい聴き心地になるようリクエストしています。ボカロの声って高音が痛かったり刺さることが多いですし、そもそもそれが嫌いだと言われちゃったら薦められなくなりますからね。

C:じっさいに作っていると声の癖も気にならなくなるんですけどね。僕の場合、ボーカロイドはちょっと楽器的に使っているんですよ。使い方を楽器的にするということじゃなくて、人間が歌うときとはオケも変わってくるので、アレンジ含めてボーカロイドを楽器として扱ったほうがおもしろくなるんですよね。僕がボーカロイドですごく良いと思っているのは、歌詞がそんなに聴こえてこないところなんです。ものすごくクサかったり恥ずかしかったり中二っぽい歌詞でも、ボーカロイドが歌うと成り立つんですよ。人間がこれを歌ったらちょっと恥ずかしいだろうというものでもボーカロイドだとさらっと歌えちゃう。それはやっぱり機械が歌っているからこそで、ようするに歌詞の幅がものすごく広く取れるんですよね。じっさいボーカロイドの歌詞ってすごく個性的というか、振れ幅が大きいですよね。癖のある歌詞も多いですけど、それはボーカロイドならではですよね。

S:素人の方々の「歌ってみた」ヴァージョンを聴いて、ボカロ・ヴァージョンより良いと思うことはあんまりないんですよね。人間が歌うとエゴが入ってくるというか、味がありすぎて。

C:そうなんですよ。歌詞も聴こえてきちゃうんですよね。

S:たとえばライヴでどっぷり浸かるようなときはそれでもいいんですけど、部屋のパソコンで聴いていると、その人間の味がうるさすぎるよなって感じるケースが多い。だからたぶんボカロで曲を作ったことがない人は、そういう匂いの消し方とか、そういう力をあまり知らないというところもあるんじゃないかなと思いますね。だから、そういう人たちをうまい具合に引き寄せられたら、第二次ブームみたいなことも可能だと思うんですよね。いや、ブームになってほしいなあ。

C:まあ、ある意味ではずっとブームなんですけどね(笑)。

Submotion Orchestra - ele-king

 サブモーション・オーケストラの新作『カイツ』を手に取ったとき、そのジャケットのアートワークが醸し出す雰囲気から、シネマティック・オーケストラの『マ・フルール』(2007年)をふと思い起こした。『マ・フルール』のジャケットは美術家のマヤ・ハヤックが撮影した風景写真で、アナログ盤にはほかにも10数枚のレコード・サイズの写真が同封され、音楽とアートワークでひとつの作品として成立するものだった。作品内容もそれ以前のジャズ色の濃い重厚で壮大なものから、フォークトロニカやアンビエント寄りの穏やかで美しいものへと変化し、ストリングスに象徴されるオーガニックなテイストも印象的だった。シネマティックの転機となった作品で、彼らの最高傑作に推す人も多い。『カイツ』の方はフィルムのコマ送りのように分割された多数の写真を用い、収録曲それぞれに一枚ずつの写真が割り振られている。その中の“ブランチズ”に添えられた写真は、構図や色合いなど『マ・フルール』のジャケットにかなり近いイメージで、そんなところからもシネマティックのこの作品を想起したのかもしれない。『カイツ』の写真はサブモーション・オーケストラのメンバーがそれぞれ撮影したものだそうだ。松原裕海氏のライナーノートより、ドラマーでバンド内ではプロデュースやアレンジの役割も担うトミー・エヴァンスの言葉を引用すると、「(前のアルバム『カラー・セオリー』からの)過去2年間で、新しい人生や家族の死など、個人的に重要な出来事が私たち全員に起こりました。その出来事を創造的なインスピレーションとするために、私たち7人はそれぞれインスタントカメラを購入し、その出来事が表わすテーマに基づいて36枚の写真を撮り切り、全部で252枚の写真から10枚の写真を選び、このアルバムの各10曲のインスピレーションとして使用しました。それぞれのトラックと写真の組み合わせは、異なる出来事を、テーマや感情を探求しています。全てが正直で、妥当で、その多くが非常にパーソナルなんです」とのこと。楽曲タイトルも“アローン”“トンネル”“ナイト”など象徴的だったり、曖昧なイメージを喚起するものが多く、それと対になる写真はそのイメージに基づく抽象的な風景だったりする。

 2010年のデビュー以来、ダブステップ・バンドとして確固たる地位を築いてきたサブモーション・オーケストラだが、3作目の『アリウム』(2014年)あたりからはダブステップという言葉に限定されない多様な音楽性を持つバンドへ進化している。そして、マッシヴ・アタックやポーティスヘッドから、ジェイムズ・ブレイクに至るUKのダウナーなソウル・ミュージックの系譜を引き継ぐと共に、シネマティック・オーケストラに比類する広大で奥行きのあるサウンドスケープを持つバンドへと成長していった。『アリウム』ではそれまでになかったようなポップなアプローチが表われ、続く『カラー・セオリー』(2016年)ではリード・シンガーのルビー・ウッド以外に男性シンガー陣を招くなど、より幅広い作風を取り入れている。『カラー・セオリー』については、バンドの中心的存在のドム・ハワードによるプロデュースのほか、外部プロデューサーとのコラボ曲もあり、全体的にはプログラミングによるエレクトリックな側面が目立ったアルバムでもあった。それから2年ぶりの『カイツ』は、『カラー・セオリー』とは違ってゲストなどが入らず、久しぶりにバンドの原点に立ち返ったものと言えるだろう。レーベルも『アリウム』と『カラー・セオリー』をリリースした〈ニンジャ・チューン〉傘下の〈カウンター〉を離れ、自主レーベルからの作品となっている。冒頭の“プリズム”や“ヴァリエーションズ”、それから“ブランチズ”や“ユース”などを聴いてもわかるように、『カイツ』は今までになくストリングスがフィーチャーされたアルバムで、それとエコーやリヴァーヴなどエフェクトを有機的に結びつけている。また、音と音の隙間が緻密で、非常に綿密で丁寧に作り上げられている。こうした緻密さがサウンドスケープとなり、写真と結びついたアルバム・コンセプトを体現する。シネマティック・オーケストラとサブモーション・オーケストラとの共通性は、こうした視覚的な音作りにある。優しく夜の眠りに包み込まれるようなバラードの“ナイト”は、途中からディープなダブステップへとスライドする、サブモーション・オーケストラらしさが表われたナンバー。この曲や“オウン”と、ルビーの美しい声を生かしたバラード系のナンバーも印象に残るが、これらでのサイモン・ベッドーのトランペットは、まるでチェット・ベイカーのようでもある。そして、彼のホーン・アレンジメントが秀逸なアルバムでもある。表題曲の“カイツ”ではダブ特有のエコー効果を生かしたホーン・アレンジで、それとストリングスの絡みが素晴らしい。冒頭で述べた、シネマティック・オーケストラの『マ・フルール』と共通する味わいを感じさせる楽曲と言えるだろう。そして、ヴォーカル、ピアノ、ストリングス、ホーンなど全ての音のパーツが最良のバランスで配された“ユース”。こうした音のパーツを下で支えるドラムとベースも研ぎ澄まされており、“トンネル”や“ブリッジ”のようなダブステップ寄りの作品では深遠なプロダクションを見せる。そして、エコーの効いた音の毛布に包まれるような“アローン”でアルバムは締めくくられる。シネマティック・オーケストラにとっての『マ・フルール』がそうだったように、『カイツ』はサブモーション・オーケストラがまたひとつ覚醒し、さらなる高みに到達した姿を見せてくれるアルバムとなった。


Oneohtrix Point Never - ele-king

 昨年は映画『Good Time』の劇伴坂本龍一のリミックスを手がけ、最近ではデヴィッド・バーンの新作に参加したことでも話題となったOPNが、5月にNYで開催されるライヴのトレイラー映像を公開しました。これ、新曲ですよね。しかもチェンバロ? 曲調もバロック風です。この急転回はいったい何を意味するのでしょう。そういう趣向のライヴなのか、それとも……。

ONEOHTRIX POINT NEVER
5月にニューヨークで行われる大規模コンサートの
トレーラー映像を新曲と共に公開!

昨年、映画『グッド・タイム』でカンヌ映画祭最優秀サウンドトラック賞を受賞したことも記憶に新しいワンオートリックス・ポイント・ネヴァーが、【Red Bull Music Festival New York】の一環として5月22日と24日にニューヨークで行われる最新ライブ「MYRIAD」のトレーラー映像を公開した。ダニエル・ロパティン(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー)自らディレクションを行い、その唯一無二の世界観が垣間見られる2分間の映像には、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー名義の新曲も使用されている。

Oneohtrix Point Never - MYRIAD
https://opn.lnk.to/MyriadNYC

Video by Daniel Swan and David Rudnick
Directed by Oneohtrix Point Never
Animation by Daniel Swan
Produced by Eliza Ryan
Videography by Jay Sansone
Additional Animation by Nate Boyce
Thrash Rat™ and KINGRAT™ characters by Nate Boyce and Oneohtrix Point Never
Engravings by Francois Desprez, from Les Songes Drolatiques de Pantagruel (1565)
Additional Typography by David Rudnick

本公演が開催されるパークアベニュー・アーモリー(Park Avenue Armory)は、以前は米軍の軍事施設だった場所で、ライブが行われるウェイド・トンプソン・ドリル・ホール(Wade Thompson Drill Hall)は航空機の格納庫のような巨大なスペースである。当日にはスペシャルゲストやコラボレーターも登場し、ここでしか体験することのできない特別なライブ・パフォーマンスが披露されるという。

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー|Oneohtrix Point Never

前衛的な実験音楽から現代音楽、アート、映画の世界にもその名を轟かせ、2017年にはカンヌ映画祭にて最優秀サウンドトラック賞を受賞した現代を代表する革新的音楽家の一人。『Replica』(2011)、『R Plus Seven』(2013)、『Garden of Delete』(2015)と立て続けにその年を代表する作品を世に送り出してきただけでなく、ブライアン・イーノも参加したデヴィッド・バーン最新作『American Utopia』にプロデューサーの一人として名を連ね、FKAツイッグスやギー・ポップ、アノーニらともコラボレート。その他ナイン・インチ・ネイルズや坂本龍一のリミックスも手がけている。さらにソフィア・コッポラ監督映画『ブリングリング』やジョシュ&ベニー・サフディ監督映画『グッド・タイム』で音楽を手がけ、『グッド・タイム』ではカンヌ・サウンドトラック賞を受賞した。


label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Good Time Original Motion Picture Soundtrack

cat no.: BRC-558
release date: 2017/08/11 FRI ON SALE
国内盤CD:ボーナストラック追加収録/解説書封入
定価:¥2,200+税

【ご購入はこちら】
beatink: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=4002
amazon: https://amzn.asia/6kMFQnV
iTunes Store: https://apple.co/2rMT8JI


label: Warp Records / Beat Records
artist: Oneohtrix Point Never
title: Good Time... Raw

cat no.: BRC-561
release date: 2017/11/03 FRI ON SALE
国内限定盤CD:ジョシュ・サフディによるライナーノーツ
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとジョシュ・サフディによるスペシャル対談封入
定価:¥2,000+税

【ご購入はこちら】
beatink: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=9186
amazon: https://amzn.asia/gxW5H63
tower records: https://tower.jp/item/4619899/Good-Time----Raw
hmv: https://www.hmv.co.jp/artist_Oneohtrix-Point-Never_000000000424647/item_Good-Time-Raw_8282459

interview with Chris Carter - ele-king

 未来なんてわからないものだ。当人たちも驚いているように、昨年のTG再発における反響は、1979年の時点では到底考えられないことだった。しかしながらTGサウンドは、40年という歳月を生き抜いたばかりか、さらにまた評価を高め、新しいリスナーを増やしている。制度的なアートやお決まりのロックンロールを冒涜した彼らがわりと真面目に尊敬されているという近年の傾向には、もちろん少々アイロニカルな気持ちも付きものではあるが。

TGはどこかに帰属することの観念から得られるいかなる快適さを感じさせるような音楽ではなかった。
──ドリュー・ダニエル


Chris Carter
Chemistry Lessons Volume One

Mute/トラフィック

ElectronicExperimental

Amazon Tower disk union

 そう、快適な場所などまやかしだといわんばかりだ。そして、ことに311以降の、政治的に、そして経済的に、あるいは環境的にと、あらゆる場面に「死」が偏在する現代を生きるぼくたちにとって、TGはもはや故郷である。その伝説のプロジェクトにおけるエンジン技師がクリス・カーターだった。彼の手作りの機材/音響装置によってTGは自分たちのサウンドをモノにしているのだから。

広く知られているように、TG解散後、クリス・カーターは元TGの同僚であり妻でもあるコージー・ファニ・トゥッティとのプロジェクト、クリス&コージーとして長きにわたって活動した。近年は、カーター・トゥッティと名義を変えて作品を出している。このようにクリス・カーターは長年活動しながら、しかし滅多にソロ作品を出しておらず、この度〈ミュート〉からリリースされる『ケミストリー・レッスン・ヴォリューム・ワン』がソロとしては5枚目となる。

  念入りに作り込んでしまったがゆえの退屈さ、そして未完成であるがゆえの面白さ、というのはたしかにある。『ケミストリー・レッスン・ヴォリューム・ワン』に収録された25曲には、素っ気ない不完全さがある。画集にたとえるなら、書きかけの絵ばかりが並んでいるようだ。しかし描きかけの絵の面白さというのは確実にある。

あるいはこれはアイデアのスケッチ集なのだろう。通訳(および質問者)の坂本麻里子氏によれば、「科学者とか研究者、大学講師と話しているような気分」だったそうで、クリス・カーターのような冷静な人がいたからこそTGという倒錯が成立したのだ。実際、彼はぼくたちの先生であり、アルバムはさながら研究所の実験レポートである。

それは先週末にも誰かと話していたことなんだけどね、「TGの音楽はかなりの長寿ぶりを誇るものだ」、という。で、初期TGのマテリアルの多くには、ある種のタイムレスなサウンドが備わっているんだよね。それがなんなのかは、僕にもわからない。TGのメンバーの間ですら、そのサウンドがなにか? を突き止められなかったからね。あれは相当に「ある瞬間を捉えた」という類いのものだったのに、でもどういうわけか歳月の経過に耐えてきた。

あなたがソロ・アルバムを発表するのはものすごく久しぶりなことですよね。そしてあなたはこれだけ長いキャリアのなかでソロ作品というものをわずか4枚しか出していないですよね? 

CC:うん、そうだね。

最後のソロ・アルバムが1999年の『Small Moon』になるんですか?

CC:ああ。

ではこのソロ新作は18、19年ぶりという。

CC:(苦笑)そうなるね。(独り言をつぶやくように)長くかかったものだ……

とにかく、ここまでソロ作品が数少ないのはなぜでしょうか? それはあなたの気質なのでしょうか? あるいは、ひとりで作るよりも共同作業が好きだからでしょうか? それともコージー・ファニ・トゥッティとの共同作業があなたにとっては表現活動の基盤になっているからでしょうか?

CC:ただ単に、僕は実に多くの(ソロ以外の)プロジェクトに関わっている、ということなんだけれども。

(笑)なるほど。

CC:いや、本当にそうなんだよ! だから、前作ソロが出た17、18年くらい前を思い返せば、あれはTGが二度目に顔を合わせて再結成する前の話だったわけだよね? 僕たちはあの時点ではまだカーター/トゥッティとして活動していたし、でもそこからTGが再び結集することになって……本当に長い間、僕の人生は再び稼働したTGに乗っ取られてしまったんだ。で、そのTGとしての活動が終わったところで、続いて今度はクリス&コージーが、なんというかまた動き出したし、それに伴い僕たちもクリス&コージーとしてツアーをやりはじめることになってね。
そんなわけで僕としては、あれら様々な他のプロジェクトの合間に自分自身のソロ・レコード制作をはめ込もうとしていたんだ。それに、クリス&コージーの後にはカーター/トゥッティ/ヴォイドが続いたし、また僕たちはリミックスや映画向けの音楽も制作していたからね。
というわけで、うん、基本的にはそれらすべてをこなすのが僕の日常的な「仕事」になっていた、と。だから、(苦笑)自分個人のソロ作品をやるための時間が残らなかったんだね。要するに、しょっちゅう脇に置かれて後回しにされるサムシングというのか、よくある「時間がなくていまはやれない、後で」という、そういう物事のひとつになっていたんだよ。(苦笑)まあ……僕はゆっくりとしたペースでこれらのトラックすべてを構築し、楽曲のアイデアを掴みはじめていった、と。だからソロ・アルバム向けのマテリアルに関しては、他の色々なプロジェクトの合間の息抜きとしてやるもの、そういう風に僕は取り組んでいたんだね。

各種プロジェクトにソロと、あなたは常になにかしらの作品に取り組んでいるみたいですね。

CC:(自嘲気味な口調で苦笑まじりに)そうなんだよねぇ……自分にはいささか仕事中毒な面があると思う。

「ソロ作をやろう」と思い立って一定の期間に一気に作ったものではなく、長い間かかって集積してきた音源を集めたもの、一歩一歩進めながら作った作品ということですね。

CC:ああ、そうだったね。アルバムに収録したトラックの一部は、かなり以前に作ったものも含まれているし……本当に古いんだ。そうは言ったって、さすがにいまから17、18年前というほど古くはないんだけれども。その時点ではまだこの作品に取りかかってはいなかったし。だから、それらは6、7年前にやった音源なんだけど、それでもかなり古いよね。

ソロ新作がこうしてやっと完成したわけですが、正直、いまの気分はいかがですか。

CC:エキサイトしているよ! 本当に興奮しているんだ。というのも、実に長い間、これらの音源は誰の耳にも触れないままだったわけだからね。もちろんコージーは別で、彼女は聴いたことがあったけれども。僕たちふたりは自宅に、居間とキッチンの隣にスタジオ空間を設けているからね。で、ちょっと一息入れたいなというときには、僕はスタジオに入ってモジュラー・システム作りに取り組んでいた。だからコージーは僕がどんなことをやっていたのか耳にしていたし、この作品をちょっとでも聴いたことがあるのは自分以外には彼女だけ、そういう状態のままだったんだ。とても長い間、何年もの間ね。そんなわけで、この音源を〈ミュート〉に送るまで、僕はちょっとしたバブルのなかに包まれていたんだよ。で、それは……そうだな、奇妙な気分だった。というのも、ある面では自分としても、あれらの音源を手放したくない、と感じていたから。

(笑)そうなんですか。

CC:だから、自分はそれだけ楽曲に愛着を感じていた、ということだね。あれはおかしな感覚だった。で、〈ミュート〉の方はなんと言うか……送った当初は、彼らからそれほど大きな反応は返ってこなかったんだよ。まあ、実際僕としても、それほど期待していたわけではなかったし。だから、「試しに音源を送って、彼らが聴いてどう思うか意見を教えてもらおう」程度のものだったんだ。そうしないと、この作品を聴いたことがあるのはやっぱり自分だけ、ということになってしまうし、その状態がずっと長く続いてきたわけだからね。で、いまのこの時点ですら……だから、ジャーナリストたちもようやく試聴音源を聴けるようになったところで、作品に対する彼らからのフィードバックを受け取っているんだよ。この作品についての第三者の意見は、本当に長いこともらっていなかったことになるなぁ……ただ、うん、いまはかなりエキサイトさせられているんだ。本当にそうだ。

長い間ひとりで大事にしまっておいた何かを遂に解放した、と。

CC:ああ。「遂に」ね(苦笑)。

ピーター・クリストファーソンがおよそ7年前(2010年)に亡くなりましたが、そのことと今作にはどのような繋がりがありますか?

CC:そうだね、なんと言うか、このアルバムのレコーディングには彼が亡くなる以前から着手していた、みたいな。僕はすでにいくつかのアイデアに取り組んでいたところだったし、スリージー(ピーター・クリストファーソンのあだ名)ともこのヴォーカルのアイデア、人工的なヴォーカルを使うという思いつきについて話し合っていたんだよ。ところが、そうこうするうちに彼が亡くなってしまった、と。それでなにもかもいったんストップすることになったし、彼の死から1年近くそのままの状態になっていたんだ。それくらいショックが大きかったということだし、少なくとも1年の間は、どうしても僕にはこの作品に再び戻っていくことができなかった。けれども、これらの音源に取り組んでいた間も、かなりしょっちゅう自分の頭の隅に彼の存在を感じていたね。だから、「スリージーだったらどう思うだろう?」、「スリージーだったらどうするだろう?」という思いはよく浮かんだ。
ただまあ……しばらく作業を続けていくうちに、やがてこの作品もこれ独自のものになっていった、と。でも、そうだね、彼の突然の死によるショックで、この作品をかなり長い間中断することになった。それは間違いないよ。

坂本:あなたとコージーはまた、ピーター・クリストファーソンが世を去る前から構想していた『Desertshore/The Final Report』(2012)を彼の死後に完成させましたよね。非常にコンセプチュアルな作品でしたが、様々なヴォーカリスト=異なる声を使っているという意味で、本作となんらかの繫がり、あるいは交配はあったでしょうか?

CC:いいや、それはなかったね。『Desertshore/TFR』は完全に独立した世界を持つアルバムだったし、あの作品向けのマテリアルの多くにしても、亡くなる直前まで彼が取り組んでいたものだったわけで。彼はかなりの間あの作品の作業を続けていたし、僕たちがパートを付け足したり作業できるようにと音源ファイルをこちらに送ってきてくれてもいたんだ。で、あれ、あのプロジェクトに関しては──僕たちとしても、あれ以外の他のもろもろとはまったくの別物に留めておこうと努めたね。というのも、彼には『Desertshore/TFR』に対するヴィジョンのようなものがちゃんとあったし、あの作品向けに彼の求める独特なサウンドというものも存在したから。で、彼が亡くなったとき、彼の遺産管理人が彼の使っていたハード・ドライヴ群や機材の一部を僕たちに送ってきてくれてね。そうすることで、僕たちにあのプロジェクトを完成させることができるように、と。

なるほど。

CC:そんなわけで、あのアルバムというのはちょっとしたひとつの完結した作品というか、それ自体ですっかりまとまっているプロジェクトだったし、それを具現化するためにはやはり僕たちの側も、あの作品特有の手法を用いらなければならなかったんだよ。そうは言っても、あのプロジェクトに取り組んでいた間も僕は自分のアルバムの作業を少々続けてはいたんだ。そこそこな程度にね。というのも、あの『Desertshore/TFR』プロジェクトの作業には僕たちもかなりの時間を費やすことになったし、あの作品に取り組むこと、それ自体がかなりエモーショナルな経験だったから。

父から小型のテープレコーダーをもらったのは、僕がまだ10歳か11歳くらいの頃だったんじゃないかな? で、そのうちに僕はテープレコーダー2台を繋げる方法を見つけ出したし、小型のマイクロフォンも持っていたから、それらを使っておかしなノイズをいろいろと作っていくことができたんだ。

今回のアルバムの背後には、あなた自身のルーツが大きな要因としてあると聴いています。そして、制作中には60年代の電子音楽とトラッド・フォークをよく聴いていたそうですね?

CC:ああ。

で、トラディショナルなイギリス民謡というのは……(笑)あなたのイメージに合わなくて意外でもあったんですけれども、どうしてよく聴いていたんでしょうか? どこに惹かれるんでしょうか。

CC:(笑)いやぁ……まあ、僕はとにかく「良い曲」が好きなんだよ。だから良い曲は良い曲なのであって、(苦笑)別に誰が作った曲でも構わないじゃないか、と。その曲を歌っているのは誰か、あるいは演奏しているのは誰かというこだわりを越えたところで、純粋に曲の旋律に耳を傾けるのもたまには必要だよ。だからなんだよね、僕はアバの音楽ほぼすべて大好きだし、本当に……ポピュラー音楽が好きなんだ。本当にそう。けれども、60年代の電子音楽、たとえばレディオフォニック・ワークショップ(※英BBCが設立した電子音楽研究所。テレビとラジオ向けに効果音他の様々なエレクトロニック・サウンド/コンポジションを制作した)に関して奇妙だったのは……あのワークショップにはかなりの数の人間が関わっていたから(※50〜60年代にかけての期間だけでも9名ほどが参加)、ときにはこう、とてもへんてこなサウンド・デザインや実験的な音楽、サウンド・エフェクツ作品を作ることだってあれば、その一方でまた、実にメロディックで、ある意味……やたら楽しげな、風変わりな歌だのテレビ番組のテーマ音楽をやることもあった、という。

(笑)ええ。

CC:だから、彼らの振れ幅は驚くほど広かったということだし、そのレンジは完全に実験的なものから感傷的な音楽、子供番組向けの感傷的でメロディックな歌もの曲まで実に多岐にわたっていたんだ。で、僕が気に入っているのもその点だし……そうだね、実際のところ、彼らが僕のアルバムになにかしら影響を及ぼしているとしたら、きっとそこなんだろうね。というのも、僕は奇妙なサウンドに目が無いタイプだし、もしも素敵なメロディを備えたトラックが手元にあったとしたら、なんと言うかな、そこに奇妙なサウンドを盛り込むことで、そのトラックをちょっとばかり歪曲させるのが好きなんだ。で、思うに自分のそういう面はレディオフォニック・ワークショップに影響されたんじゃないか? と。

あなたが最初に夢中になったアーティスト/曲はなんだったでしょう? そして、あなたが最初に聴いた電子音楽はなんだったのでしょう?

CC:ああ、最初に夢中になった対象……うーん、それはまあ、どの時期にまで遡るか、にもよるよね? というのも、僕は『Dr.Who』(※1963年から放映が始まり現在も続くBBCの長寿人気SFドラマ。オリジナルのテーマ音楽はレディオフォニック・ワークショップのディーリア・ダービシャーが演奏した)を観て育ったクチだし──

(笑)ああ、なるほど。

CC:それはまさに、いま話に出たレディオフォニック・ワークショップだったわけだよね? だから、ここで話しているのは60年代初期ということであって……かなりメロディ度の高い、『Dr.Who』のテーマ音楽みたいなものもあったし、それと同時にあの番組のなかでは様々な奇妙なノイズも使われていた。それに、BBCが制作した子供向けの番組を聴いていても、そこで使用されていた音楽がレディオフォニック・ワークショップによるものだった、というケースは結構多かったしね。でもその一方で、夜になると今度は自分のトランジスタ・ラジオでトップ・テン番組、いわゆるヒット・チャート曲を聴いていたんだよ。やがて僕の好みはプログレッシヴ・ロックやクラウトロックにも発展していったわけで、うん、自分の好みはかなり多様なんじゃないかと思う。

坂本:あなたの世代はたいてい最初はロックやブルースから入っていると思いますが、あなたの場合はどうだったんですか? たとえばビートルズ、あるいはストーンズの影響の大きさは、あの頃育った英国ミュージシャンが必ずと言っていいほど口にしますよね。

CC:というか、僕は実のところビートルズよりもむしろビーチ・ボーイズの方に入れ込んでいたんだ。ビーチ・ボーイズが本当に大好きだったし、なんと言うか、そこからビートルズを発見していった、みたいな。ああ、それにザ・キンクスの大ファンでもあったね。だから、ちょっと妙な趣味なのかもしれない(苦笑)。

たしかに面白いですね。多くの場合はビートルズから入り、そこからビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』を発見していく……という流れだと思いますが、あなたはその逆だった、と。

CC:そう、僕にとっては順路があべこべだったんだ。

どうしてあなたは電子音楽にのめり込んでいったのですか? 奇妙な、未来的なサウンドのどこに惹かれたのだと思いますか。

CC:んー……その面についての影響源としては、自分の父親も含めないといけないだろうね。というのも、彼はオーディオ・マニアだったし、ハイファイ機材を蒐集していて、とても高価なステレオ・システムをいろいろと持っていてね。すごく上等なスピーカーだとか。でも、そのなかにはテープ・レコーダーも2、3台混じっていて、父はかなり大型なテープ・レコーダーを所有していてね。それだけではなく小型のテープ・レコーダーも持っていたから、やがて父は小さい方の録音機を僕にくれることになったんだ。小さなリールが取り付けられた電池稼働式のテレコ、程度のものだったけれども。
父からあれをもらったのは、僕がまだ10歳か11歳くらいの頃だったんじゃないかな? で、そのうちに僕はテープ・レコーダー2台を繋げる方法を見つけ出したし、小型のマイクロフォンも持っていたから、それらを使っておかしなノイズをいろいろと作っていくことができたんだ。
だから、すべてはあの時期から来ているんだろうね。ティーンエイジャーの一歩手前の段階にいた自分が、父親の持っていた音響機材をあれこれ繋げていたあの時期──まあ、父が仕事に出て行った後にこっそりやっていたんだろうけども。というのも、(苦笑)あれらの機材を僕がいじったり繋げるのを父が許可してくれたとは思えないし……。

(笑)。

CC:(笑)ただまあ、そうだね、ほんと、すべてはあの経験から来ているんだと思う。子供時代の自分には音響/録音機材に触れる手段があった、という。それはあの当時としてはかなり変わっていたんじゃないかな。

お話を聞いていると、あなたは早いうちからただ音楽を聴いて楽しむだけではなく、音楽を作ることやサウンド・メイキングの可能性を自分なりに探ることに興味があったようですね?

CC:ああ、そうだったね。だから、僕はラジオを通じて番組や既成の音楽を録音するというのはほとんどやらなかったし、文字通り、「自分のサウンド」を作り出していたんだよ。もっとも、それらは真の意味での「音」に過ぎなかったけれども。音楽的なコンテンツはまったく含まれていない、サウンドによる純粋な実験だったんだ。それに、いまだに……たぶん僕は、音楽的にはディスレクシア(読字障害)の気があるんじゃないかと思っていて。だからいまだに、キーボード他に文字を書いて目印をつけないといけないんだよ。「これはこの音符に対応する」、みたいな。
僕はなにもかも耳で聴くのを頼りにやっているんだ。完全にそうだね。というわけで、(譜面を読める等の正統的な意味での)音楽に関してはかなり役立たずな人間なんだ。それでも、リズム面はかなり得意だけれども。で……そうは言っても、なにかを耳にしたり音楽が演奏されているのを聴くと、それが良い曲かどうか、さらには調子が合っているかどうかまで、耳で聴き分けられるね。だからほんと、僕はなにもかも耳で聴いてやるタイプなんだ。

アカデミックな訓練を受けた「音楽家」ではない、と。

CC:うん、まったくそういうものではないね、自分は。これといったレッスンを受けたことはなかった。だから、僕とコージーについて言えば、彼女は子供の頃にピアノのレッスンを受けたことがあったから、たぶんキーボード奏者としての腕前は彼女の方が上だろうね(苦笑)。

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僕は奇妙なサウンドに目が無いタイプだし、もしも素敵なメロディを備えたトラックが手元にあったとしたら、なんと言うかな、そこに奇妙なサウンドを盛り込むことで、そのトラックをちょっとばかり歪曲させるのが好きなんだ。


Chris Carter
Chemistry Lessons Volume One

Mute/トラフィック

ElectronicExperimental

Amazon Tower disk union

『Mondo Beat』と今作は、ビートがある楽曲においては似ていると思いますか?

CC:ああ、うんうん。その意見には賛成だね。ただまあ、やっぱり自然にそうなるものなんじゃないのかな? なんと言うか、僕の音楽的な遺産みたいなもの、それはあの作品からはじまっているようなものだしね。だから自分の初期作品にあった要素、それは間違いなく現在の僕がやっている音楽作品にも含まれていると思う。

さて、今回のアルバムについての質問ですが、ビッグなアルバムですよね。しかも2枚組という。

CC:(苦笑)たしかに。

これはある意味、先ほどの質問で答えてくださっているとも思うのですが、収録曲が25曲にまでになった理由はナンでしょう? 純粋に、長い間取り組んできた自然に蓄積してきた音楽をまとめた結果がこれだ、ということでしょうか。

CC:その通りだね。というか、今回リリースするものだけではなく、実はもっと他にもたくさんあるんだよ。

(笑)そうなんですね!

CC:ただ、そのなかでもベストなものを集めたのが今回のアルバムだ、と。だからなんだよ、この作品を『〜ヴォリューム・ワン』と名付けたのは。というのも、自分の手元にはまだかなりの数のトラックが残っているし、それらを今回とは別のセカンド・ヴォリューム、『第二巻』として出せるだろうな、と。それに……このソロ作に取り組んでいた頃、僕はかなりの部分をモジュラー・システムを使って作っていたんだよね。あれを使ってやっていると、自分でも気づかないうちにえんえんと際限なく作業にはまってしまいがちなんだ。いつの間にかスタジオにこもって同じトラックを相手に1時間も費やしていた、みたいな(苦笑)。そんなわけで、この作品をレコーディングしていた10年かそこらの間のどこかの時点で、もっと短く切り詰めるべく、違う作業の流れを開発していったんだ。もう少し自制を心がけた、というね。だからなんだ、収録トラックの多くは尺がとても短いものになったのは。

たしかにそうですよね。

CC:というのも、自分のやっていることに対して聴き手に退屈感を与えたくなかったし、人びとは僕がやろうとしていることの本質を2、3分くらいのトラックで掴んでくれるだろう、たぶんそれで充分じゃないか、そう考えたんだ。でも、そうやって短めな曲をレコーディングするようにしたことで、歳月の経つうちにかなりの量のトラックが集まることになった、と。気がつけば25トラック入りのアルバムができていたわけだよ。

なるほど。その点は次の質問にも絡んでくるのですが、いろんなタイプの曲がありますよね。インダストリアルなテイストのものからシンセポップ調のもの、“Moon Two”のようなメロディアスな曲もあります。それらは曲というよりも断片的というか、アルバムは断片集ともいえるような2〜3分の曲ばかりですね。どうしてこうなったのでしょう? やはり、いまおっしゃっていた自制の作用、制作過程をコントロールしようという思いの結果だった?

CC:それはあったよね。それに、いくつかのトラックに関しては、ほとんどもう他のトラックの「イントロ部」に近い、というものだってあるし(苦笑)……だから、以前にも僕たちはTGやクリス&コージーの楽曲で3分、2分程度のイントロはやったことがあったんだよ。で、今回の作品の一部のトラックもそれらに近いものだ、と。そうは言っても、なにかを味見程度だけに留めておく、その自制の姿勢は自分でもかなり気に入っていてね。この作品を作っている間、それは僕にとって魅力的な行為に映ったんだ。だからなんだよ、アルバムのトーンがかなりガラッと変化するのも。スリージーが亡くなった後、僕は何曲かもっとメランコリックなものを作ったし、けれども時間が経過するにつれてムードも変わっていって、もっとアップリフティングな曲も生まれた。そんなわけで、楽曲の並べ方を決めるのは少々難題になったね。どの順番で並べるか、それを見極めるのにはちょっと時間がかかった。

坂本:なるほど。「克明になにもかも表現した」とまではいかないにしても、ある面で、この作品はここ数年のあなたの人生に起きたていこと、そのダイアリーでもあるのかもしれませんね。

CC:ああ、それは良い形容だね。そうなんだと思う。

もちろん1曲1曲にストーリーがあるというわけではありませんが──

CC:それはない。

あなたの潜っていたムードの変化が聴いてとれる作品、という。

CC:うん。良い解釈だと思う。

僕はラジオを通じて番組や既成の音楽を録音するというのはほとんどやらなかったし、文字通り、「自分のサウンド」を作り出していたんだよ。それらは真の意味での「音」に過ぎなかったけれども。音楽的なコンテンツはまったく含まれていない、サウンドによる純粋な実験だったんだ。

『Chemistry Lessons Volume One』というアルバム・タイトルは、実験報告書のような印象を受けますが、これは現時点でのレポートで、ここから発展していく、しばらく続いていくものなのでしょうか?

CC:うん、だと思う。当初の『Chemistry Lessons』の全体的なコンセプトというのは、非常にエクスペリメンタルな内容になるだろう、そういうものだったんだ。10年くらい前に、その最初期のコンセプトに基づいて作ったトラックを何曲か、オンラインにアップロードしたこともあったんだ。というのも、その時点での『Chemistry〜』のコンセプトはアルバム作りですらなく、ただのプロジェクトだったからね。僕がスタジオで様々な実験をおこない、その結果のいくつかをオンラインで発表し、もしかしたら一部を音源作品として発表するかもしれない、程度のプロジェクトだった。
ところがそれが進化していったわけで、自分の手元にどんどん音源が蓄積していくにつれて、「オンライン云々を通じてではなく、これで1枚のアルバムにできるかもしれない」と自分でも考えたんだ。ただ、次のヴォリュームは今回とはやや違うものになるだろうし、3作目もまた同じく、ちょっと毛色の違うものになると思う。そこはちょっと似ているなと思うんだけど、かつてBBCが70年代にリリースしていた『サウンド・エフェクツ』のレコード(※効果音を集めたライブラリー音源シリーズ)、あれからは今回インスピレーションをもらっていてね。あれはテーマごとに編集された効果音のレコードで、『第一巻』のテーマはこれ、『第二巻』ではまた別のテーマで音源を集める、といった具合だった。
というわけで、ちゃんと準備してあるんだよ。今作には含めずにおいた未発表トラック群、あれらがあれば、『Chemistry〜』のセカンド・ヴォリュームはまたかなり違った響きの作品になるだろうな、と。おそらくもっと長めの楽曲が集まるだろうし、1作目とは異なるトーンを持つものになると思う。

坂本:この『Volume One』のテーマを要約するとしたら、なにになると思いますか?

CC:そうだね、これはシリーズ全体の「見本」みたいなものなんだ(笑)。

(笑)「これからこういうものがいろいろ出てきますよ」と。

CC:(笑)うん。だからこれはある意味、あらゆる側面を少しずつ見せたもの、紹介する内容だね。したがって曲ごとの作風もかなり違う、という。

人工的な歌声を使った曲がいくつかありますよね? “Cernubicua”とか“Pillars of Wah”とかでしょうか? 

CC:うんうん。

あれらの声は、機械で合成したものですか? それとも実際の人間の声を加工したものでしょうか?

CC:その両方が混ざっているね。一部ではヴォコーダーを使っているし、それに……スリージーが『Desertshore』向けに購入した機材も僕たちの手元にいくつかあって、なかにはそれらの機材を使用してヴォイスを加工した例もあった。だから、実際にヴォーカルが歌っていることもあれば、ソフトウェアを使って加工したこともある、と。そうやって異なるテクニックを組み合わせていったものだよ。アルバム制作が進行していくにつれて、どうやってそれを実現させればいいか、そのための作業の流れを発展させていったんだ。だから手法も変化していったし、アルバム作りのはじまりの段階で使ったもののもう自分の手元にはない機材もあったし、その際は改めて別のやり方を見つけ出していったり。だからヴォーカルに関しては、似たような響きに聞こえるものがあったとしても、それらは違うテクニックを用いて作ったものだったりするんだ。リアルな人間の声であるケースもあれば、完全に合成されたものもあるよ。

なるほど。

CC:で、本物の声と人工の声をと聞き分けられないひとがたまにいる、その点は自分としてもかなり気に入っているんだ。

(笑)。あなたのこうした人工的な歌声へのアプローチは、なにを目的としているのでしょうか? どんな狙いがあったのか教えて下さい。

CC:まあ、一部のヴォイスは僕自身の声なんだ。過去に自分の初期のソロ・アルバムでも、自分の声を使ったことは何度もあったしね……。でまあ、一部は自分の声だし、ただ「それ」とは分からないくらいとことん加工されている、と。だから、僕はとにかく……自らになにか課題を与える厳しさというか、難題に取り組むのが好きなんだね。で、クリス&コージーみたいに聞こえる作品にしたくはなかった。というのも、僕たちふたりで作る作品でコージーが歌いはじめた途端、それがどんなトラックであれ、「クリス&コージー」になってしまう、というのは自分でも承知しているからね。まあ、それは当たり前の話だよね、僕たちふたりで作っているんだからさ。ただ、今回の作品に関しては、僕は完全に「ソロ」なプロジェクトにしておきたかった。そう言いつつ、用いた一部のアイデアやテクニックについては生前のスリージーと「どうやればいいか」と話し合いはしたんだけれど、それを除いては、このアルバムではとにかく僕が自分ひとりでやっている、と。だからとにかくすべてを自分内に留めておきたかったし、これは文字通りの「ソロ・アルバム」というわけで、僕以外には誰も関わっていないんだよ。

いくつかのトラックではかなり高音の女性ヴォーカルらしきものが聞こえますが、あれもあなた自身の声を加工したものですか?

CC:うん、それも含まれるだろうし、他のヴォイスも手元にあったね。スリージー所有のハード・ドライヴから発見したもので、彼がアイデアとして使っていたヴォイスがいくつかあったし、それにオンラインで見つけてきたものも混じっている。ただ、それらを非常に高い声域で鳴らすことで、「女性」っぽく聞こえるようになる、と。一方でまた、とても低い音域で楽曲の下方で鳴らしたこともあったし、女性/男性の区別がつけられないんじゃないかな。

なるほど。キメラというか、もしくは両性具有というか──

CC:ああ、うん。

どちらの「性」にもなり得る、と。そうした人工的な声の持つ可能性、無限のポテンシャルがあなたには非常に魅力的なんでしょうか?

CC:まあ、このアルバムに関してはそうだった、ということだね。だから、もしかしたら次のアルバムはインスト作になるのかもしれないし。そうやって、自分にもうおなじみの世界に留まって(苦笑)、シンセサイザーやモジュラーなんかを使った、自分にはかなり楽にやれる音楽をやるのかもしれない。というのも、ああいうヴォーカルを用いると、作業にかなり長くかかってしまうんだ。毎回うまくいくとは限らないし、悲惨な結果になることだってあるしね。

(苦笑)そうなんですね。

CC:(苦笑)ああ。だからまあ、このルートには一通り足を踏み入れたということで、しばらくはこれで充分かもしれない。

初音ミクって知ってますか?

CC:ああ、うん。あの、ヴォーカロイドというのは、以前に自分も使ったことがあったんじゃないかな? (独り言のようにつぶやく)いや、というか、今回のアルバムの1曲でも、もしかしたらヴォーカロイドは一部で使っているかも……? んー……? まあとにかく、うん、僕個人としてはあんまり結びつきを感じられなかったね。あれは純粋にソフトウェアだし、僕はハードウェアを多く使用する方がずっと好きな人間だから。類似したことをやれるプログラムではなくて、むしろ実際のハードウェア機材でやってみるのが好きなんだ。たまに「かなり自分好みのサウンドだな」と思うものもあるとはいえ、あれは聴くのがきつい、というときもある音だよね。

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このソロ作に取り組んでいた頃、僕はかなりの部分をモジュラー・システムを使って作っていたんだよね。あれを使ってやっていると、自分でも気づかないうちにえんえんと際限なく作業にはまってしまいがちなんだ。いつの間にかスタジオにこもって同じトラックを相手に1時間も費やしていた、みたいな(苦笑)。


Chris Carter
Chemistry Lessons Volume One

Mute/トラフィック

ElectronicExperimental

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最初に作った自作の機材はどんなものだったのでしょう?

CC:60年代に『Practical Electronics』という雑誌を読んでいたことがあったんだけど、回路基板が付録で付いてきたんだよね。毎月、自分の手でなんらかの電子機材を組み立てることができて、パーツも購入できて。

メール・オーダー式の雑誌?

CC:そう。いろんな部品を注文し、自分で組み立てるという。だから僕が初めて作ったシンセサイザーは、あの雑誌で見かけた設計図にすべて基づいていたよ。そこからどんどんもっと大型のシンセを組み立てていくようになったし、他にももっといろんなもの、たとえばエフェクト・ペダル等も作っていって。TGに加入してからは、「グリッサライザー」(Gristleizer:エフェクト・ユニットのモジュール。TGの作品やライヴで多く使用された)というものを作ったね。あれは他の人間の考案したデザインに基づいていたけれども、自分でそれを改めてデザインし直したものだった。というわけで長年にわたって、僕はあらゆる類いの機材を自作してきたわけだね。
ところが歳をとるにつれて既製品を買ってしまう方が楽になってきたし、そうやって買って来たものにたまに改良を加えたり。でもまあ、近頃はあまり機材の自作はやらないね。オリジナルの『Chemistry Lessons』プロジェクトを開始した頃はまだ機材を作っていて、たくさんこしらえていたけれども。たとえばコージーのために「トゥッティ・ボックス」という名の小さなシンセサイザーを作ってあげたりした。で、そこから僕はモジュラーものにハマっていくようになって、自分用にモジュールをいくつか作ったこともあったね。ただ、いまの僕は主に市販のモジュールを購入してやっているよ。というのもモジュラーであれば、独自なものを作るように設定を組むのが可能だからね。モジュールをまとめてどうパッチしセッティングしていくか、そのやり方はひとそれぞれに違うわけで。だからおそらく、僕は自分で回路板を作る作業を、モジュールの購入で代用しているんだろうね。

それらをご自分の好みに合うように改良している、という。

CC:ああ、そうだね。それは自分はよくやるよ。

大学生のときに初めてのソロ・ライヴをやっているんですよね? それはどんなライヴ演奏だったのですか?

CC:(「大学でソロのライヴ・ショウをやったことがあるそうですが」と質問を聞き違えて)ああ、先週やったライヴのことかな? あれは週末におこなわれたムーグ・シンポジウム(※サリー大学が主宰する「Moog Soundlab Symposium」のこと。2018年版は2月3日開催)に参加したときのことで、小規模なライヴ向けのセットアップでやったものだったね。完全に実験的な内容で、キーボード等は一切使わず、モジュール群と箱があるだけ。それらを相手にちょっとしたライヴ演奏をやったんだ、40分くらいの短いものだったけれどね。別にムーグを使ってパフォーマンスしたわけではなくて、僕は単にあのイヴェントの一環だったんだよ。でも、あれは興味深かったな。というのも、僕はあまりライヴはやらないし、とくにソロ・ショウの場合は珍しいからね。ここ2、3年はカーター/トゥッティ/ヴォイドやクリス&コージーで僕たちもたくさんショウをやったけれども、ソロではあまりやってこなかった。だからあれは面白かったよ。

緊張しましたか?

CC:いや、そんなにあがるタチじゃないんだよね。うん、それはないな……自分がなにをすべきか分かってさえいれば、緊張することはまずない。だって、結局は自分が表に出て行って、そこでは人びとが待ち構えている、というだけのことだしね。で、音源を入れてなんらかのノイズを作り出して、それを気に入ってくれる者もいるだろうし、もしも気に入らないひとがいたら、残念でした! ということで。

(笑)。

CC:ハハッ。でも、自分は楽しんだよ。それに、観客たちも気に入ってくれたし、うん、あれはグレイトだった! 会場も良かったし、様々なヴィンテージのムーグ機材が置かれた横で演奏させてもらって、環境としてもばっちりだった。会場は素晴らしい空間だったし、音響設備も良くてね。それには大いに助けられたよ。

なるほど……と言いつつ、そもそもの質問は、あなたが大学生だった頃にやった初のソロ・ライヴはどんなものだったのか?ということでして。こちらの訊き方が明確ではなくて伝わらなかったかもしれません、すみません。

CC:ああ! というか、僕は大学には進学しなかったんだけどね。ただ、若い頃、70年代にたくさんの大学でライヴをやったのはたしかだね。イギリス各地の大学を回るツアーをやって、ソロでショウをやったこともあったし、ときには2、3人の友人たちと一緒に回ることもあって、彼らはライト・ショウを担当してくれてね。で、ライト・ショウをお伴に、僕は自家製のシンセサイザーでライヴをやった、という。あれは一種のコンセプチュアルなショウみたいなものだったし、うん、僕たちはイギリス各地の様々な大学を訪れてショウをやったものだったよ。

完全なインスト音楽とライト・ショウによるパフォーマンスだったんでしょうか?

CC:ああ、そうだった。だからまあ、いくつかのシークエンスを伴うアンビエント音楽、みたいなものだったね。

……観客の反応はどんな風だったんでしょう? いまならともかく、その当時としては、こう、かなり風変わりなパフォーマンスだったんじゃないかと想像しますが。

CC:(笑)。

それこそ、「なんだこれは?」と当惑するひともいたんじゃないですか?

CC:(苦笑)ああ……でも、音楽はかなりアンビエントなものだったし。それに、立体音響式でやったんだよね。その点は僕たちしては非常に興味深かったし、当時は立体音響にハマっていたから。ただまあ、お客の多くは「ロックンロール・バンドの類い」を期待して集まってくれたんだろうし、考え込んでしまうひとや困惑するひとたちは多かったね。それでも、おおむね観客の受けは良かったよ。

いろんな部品を注文し、自分で組み立てるという。だから僕が初めて作ったシンセサイザーは、あの雑誌で見かけた設計図にすべて基づいていたよ。そこからどんどんもっと大型のシンセを組み立てていくようになったし、他にももっといろんなもの、たとえばエフェクト・ペダル等も作っていって。

ところで、コージーの『Art Sex Music』を読んだ感想は? じつはいま日本版を訳しているんですよ。

CC:あー、そうだな……

かなり長い本ですけれども。

CC:そうだね。でも僕は、執筆が続いている間に、様々な推敲段階のヴァージョンを読んできたからね。あの本は元々はもっと長くて、それをフェイバー社側が編集してページ数を減らしていったんだ。というわけで僕はあの本のいろんなヴァージョンはすべて読んだことになるね……最終的にまとまった編集版の一部に「カットされて惜しいな」と思った箇所は少しだけあるけれども、でもまあ仕方ないよね、千ページの大著を出版するわけにはいかないんだし、ある程度は編集で減らさないと。
ただ……あれを読むとかなりエモーショナルになってしまうんだ。最後にあの本を読んでからかれこれ1年くらいになるけれども、いくつかの箇所は、読むのがかなりきついからね。そうは言っても、あの本は本当に好きなんだよ。すごく良いなと思ったし、ファンタスティックな本だ。とにかく、コージーのことを本当に誇らしく感じる、それだけだね。というのも、あれらをすべてページに記していく、その勇気が彼女にはあったわけだから、

彼女とのパートナーシップはいまも続いているわけですが、あなたが彼女から受けた影響はなんでしょう?

CC:あー……参ったな(苦笑)! それは大きな質問だよ。

(笑)ですよね、すみません。

CC:いやあ……答え切れるかどうか、それすら自分には分からない(笑)。

分かりました。じゃあ、これは次に取材する機会があるときまでとっておきますね。

CC:(笑)うんうん、次回ね。僕の次のアルバムが出るときに。

最後の質問です。いまだにTGの音楽がひとを惹きつけているのは何故だと思いますか?

CC:自分でも見当がつかないんだ。というか、それは先週末にも誰かと話していたことなんだけどね、「TGの音楽はかなりの長寿ぶりを誇るものだ」、という。で、初期TGのマテリアルの多くには、ある種のタイムレスなサウンドが備わっているんだよね。それがなんなのかは、僕にも分からない。TGのメンバーの間ですら、そのサウンドがなにか? を突き止められなかったからね。あれは相当に「ある瞬間を捉えた」という類いのものだったのに、でもどういうわけか歳月の経過に耐えてきた。一方で、多くの音楽は……ときに古い音楽は、20年くらい経ったらうまく伝わらなくなっている、ということもあるわけだよね? 「いま聴くと最悪だな!」みたいな。でもTG作品の多くには、なにかしら時間を越えた資質めいたものがあるんだよ。
思うに、その資質なんじゃないのかな、古くならないのは。だから、いまTGを聴いている人びと、いまTGを発見しているひとたちがいるのは僕も知っているし、彼らは聴いてかなりぶっ飛ばされているんだよね。で、それはグレイトだと思うし、素晴らしいことだと思っていてね。けれども、どうしてTGの音楽が聴き手にそういう効果をもたらすのか、それは自分でもいまひとつはっきりしないんだ。だから、TGのメンバーたち自身にも見極められないなにか、ということだし、他にもいろいろとあるよく分からないもの、そういうもののひとつだ、ということじゃないのかな?

なるほど。それに、そもそも長寿を意図して作ったものではなかったわけですしね。

CC:それはまったくなかったね。

坂本:2ヶ月ほど前にコージーに取材させてもらう機会があったんですが、そこで彼女も「40年以上経って人びとがまだTGを聴いてくれているなんて思いもしなかった。だからとても嬉しい」と話していましたから。でも、どうなんでしょうね、とても始原的な音楽だからかな? とも感じますが。

CC:ああ、そうだね! それはあるかもしれない。

もちろん、プリミティヴとは言っても電子音楽の形でやっているわけですが。

CC:うん、でも、彼女が言った通り、人びとが僕たちの音楽をその後も聴き続けるだろうなんて、僕たち自身考えてもいなかったからね。40年どころか、10年もしたら忘れられているだろう、そう思っていた。とにかくああして作品/活動をやっていっただけだし、それが終わったらおしまい。次にはまたなにか他のことをやっていこう、と。そうは言ったって、もちろん当時の僕たちはかなりいろいろと考えてTGの活動をやってはいたんだよ。ただ、だからと言って自分たちに「大局的な図」が見えていたわけではなかった、という。もしかしたら、だからだったのかもしれないよね、あんなにうまくいったのは。

4人のまったく異なる個人がTGというグループにおいてみごとにひとつに合わさったこと、それもあったかもしれません。

CC:ああ、そうだね。パーツを組み合わせた結果が単なる総和よりも大きなものになる、そういうことはたまに起きるからね。

わかりました。今日はお時間をいただいて、本当にありがとうございました。

CC:こちらこそ、話ができて楽しかったよ。

新作がうまくいくのを祈ってます。

CC:僕もだよ。聴いた人びとに気に入ってもらえたら良いなと思ってる。

大丈夫だと思います。

CC:そうかな、ありがとう。

ではお元気で。さようなら。

CC:バーイ!

(了)

Yoshimi O, Susie Ibarra, Robert Akiki Aubrey Lowe - ele-king

 今年に入ってからインプロヴィゼーションをよく聴いている。家や電車のなかで、あるいは世田谷のはずれをとぼとぼと歩きながら。すごい時代に生きているなと思う。70年代のドン・チェリーの作品、たとえば『オーガニック・ミュージック・ソサエティ』のようなカルト的な2枚組、はたまたアリス・コルトレーンが1982年から1995年のあいだに自主で(カセットテープで)リリースした作品が朝9時の京王線のなかでも気軽に聴けるなんてことは、少し前までは考えられないことだった。
 紙エレキングvol.21にも書いたように、あるときぼくは、昨年から生演奏が入った作品(新譜)をよく聴くようになっていることに気が付いた。この場合の“生”への接近には、氾濫するデジタル・サウンドへの反動的な要素も含まれているだろう。電子音は日常生活において、もはや支配的だ。家の家電から小学校のダンスや校内放送、そしてスーパーや商店街にいたるまでと、すっかり生活音化している。ゆえにアンダーグラウンド・テクノ・シーンではIDM的な不規則さのほうが支持されているのだろうし、70年代のインプロヴィゼーション的なる自由でヒューマンな精神がアクチュアルなインディ・シーンのなかに、少しずつではあるが、注目の度合いを高めているのだろう。あたかもロボット社会に戦いを挑む戦士たちのように。

 むしろそうした勇ましさから逃れるような本作は、2016年12月、NYのブルックリンにおけるライヴ録音盤で、YoshimiO、ロバート・アイキ・オーブリー・ロウ、スージー・イバラの3人によるインプロヴィゼーションの記録である。
 YoshimiOは、Saicobab、ボアダムス、OOIOOなどの活動で知られるところだが、スージー・イバラはヨ・ラ・テンゴの諸作で演奏し、巨匠デレイク・ベイリーやマーク・リボーとのコラボ作、レオ・スミスとジョン・ゾーンとのコラボ作も出しているほどの、キャリアあるフリー・ジャズ・ドラマーだ。昨年、突如デムダイク・ステアの〈DDS〉からアルバムを発表したロバート・アイキ・オーブリー・ロウは、もともとはドゥーム・メタル・バンドのOM、あるいはLichens名義で活動しながらドローンの作品を発表していることでその筋では知られている。

 で、およそ1年前の録音になる本作『フラワー・オブ・サルファ(硫黄華)』だが、いま聴けて良かったというのが正直なところで、それはたんに1年前の自分にはこの音を受け入れるほどの柔軟性がなかったのではないかと思うからだが……や、そんなことはないか、この演奏がぼくを自由気ままな旅に誘う契機となったかもしれない。全4曲、“Aaa”“Bbb”“Ccc”“Ddd”から成るこのアルバムには、他で味わえない平静さ/静寂があり、休息があり、動きがある。ばらけているようで、有機的で、ことスージー・イバラのドラミングは特筆すべきだ。彼女の間合いの取り方ひとつでも、ぼくはデジタルな生活音の外側の生活音に瞬間移動できる。
 ぼくはこの演奏を聴いて、思わず70年代初頭のヨーロッパに渡ってからのドン・チェリー作品を聴き返してしまった。スピリチュアルと呼ばれる音楽の目的とは、早い話、硬直化した心を柔らかくすることだろう。感じ方がひとつのクリシェになってしまわないように。『フラワー・オブ・サルファ』の展開には、無駄な荒々しさも、強制的な重々しさもない。アンビエントがウェイトレスなる言葉に置き換えられて広まっている今日のアンダーグラウンド・シーンの動向と共鳴しているし、IDM的な非反復的なアプローチとも重なっているわけだが、なにはともあれ、自分の心のなかに平和な場所を確保できるのが嬉しい。

 「ボーカロイド音楽」という言葉を目にしていまあなたは何を思い浮かべましたか? 高音が耳に残るアイドル・ソングでしょうか。テンポの速いロック・サウンドでしょうか。もちろん、それらも間違いではありません。が、ヒップホップやレゲエ、フューチャーベース、ブレイクコアやジュークなど、ボーカロイドあるいは他の音声合成ソフトを用いて作られた音楽は現在、想像以上にその幅を広げています。日に日に深化を遂げているこの音楽の最新の状況を知っていただきたく、『ボーカロイド音楽の世界 2017』をお届けします。

 2017年、ボカロ・シーンは初音ミク10周年という大きな節目を迎えましたが、それ以外にも同じく10周年を迎えた鏡音リン・レン、初音ミク中国語版の発売、「王の帰還」現象と新世代の擡頭、『♯コンパス』コラボ曲の席巻など、多くのトピックが目白押しでした。本書では「The World of Vocaloid Music 2017」と題しそれらの動きを俯瞰しています。
 巻頭インタヴューはEHAMIC。Google ChromeのCMにも出演していた彼は、ボカロを用いて曲を作るのみならず、それをLPやカセットテープといったアナログ・メディアでも展開している興味深いアーティストです。そのこだわりについて存分に語っていただきました。
 もうひとつの目玉は、「The 50 Essential Songs of 2017」と「The 20 Essential Albums of 2017」。2017年に発表された楽曲とアルバムからそれぞれ50曲/20枚を精選し、一挙にレヴューしています。再生回数にはいっさいとらわれず、何よりもまず「グッド・ミュージック」という観点からさまざまな楽曲/アルバムを紹介しています。
 また「Various Aspects of Vocaloid Music」ではさまざまな執筆者に協力を仰ぎ、「ジャズ」「アンダーグラウンド」「中国」「ニコニ広告」というテーマで近年の動向をフォロウ。とくに、ビリビリ動画を震源地として大きな盛り上がりを見せている中国ボカロ・シーンの紹介は、これまで気にはなっていたもののどこから手をつければいいのかわからなかった方にとって、格好のガイドとなるでしょう。

 また、本書の発売と同じ3月14日に、『合成音声ONGAKUの世界』というコンピレイションCDもリリースされます。1998年に竹村延和のレーベル〈Childisc〉からデビューしたスッパマイクロパンチョップ監修による充実の15曲を収録。こちらもぜひ手にとってみてください。きっと新たな発見があるはずです。

[書籍]
ボーカロイド音楽の世界 2017
2018年3月14日 発売
ISBN: 978-4-907276-93-5
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[contents]

VOCALOIDはボサノヴァ――an interview with EHAMIC (しま+小林拓音)

The World of Vocaloid Music 2017
ボーカロイドに関する2017年の重要トピック (しま)
初音ミク10周年のトピック (しま)
鏡音リン・レン10周年のトピック (アンメルツP)
まえがき ~みんながよく話す「ボカロ」という言葉~ (ヒッキーP)
2017年は新陳代謝の年 ~初音ミク10周年を祝った旧世代と無視した新世代~ (ヒッキーP)
ぼからんで見る「2017年」という時代 (あるか)

The 50 Essential Songs of 2017 (キュウ+しま)
The 20 Essential Albums of 2017 (キュウ+しま)

Various Aspects of Vocaloid Music
ボカロとジャズ (Man_boo)
ボーカロイド・アンダーグラウンド (ヒッキーP)
中国ボーカロイド・シーンの発展と現状 (Fe+しま)
VOCALOIDタグ動画におけるニコニ広告の拡大とそのランキングへの影響 (myrmecoleon)


[CD]
合成音声ONGAKUの世界
2018年3月14日 発売
PCD-20389
Amazon

[tracklist]

01. 春野 「nuit」
02. Treow 「Blindness」
03. piptotao 「春 etc.」
04. 羽生まゐご 「阿吽のビーツ」
05. 拓巳 「Kaleidoscope」
06. cat nap 「ぺシュテ」
07. 鈴鳴家 「フリーはフリーダム」
08. 松傘, mayrock, sagishi, 緊急ゆるポート, trampdog 「人間たち」
09. でんの子P 「World is NOT beautiful」
10. のうん 「箒星」
11. ぐらんびあ 「孤独、すべて欲しい」
12. キャプテンミライ 「イリュージョン」
13. Dixie Flatline 「シュガーバイン」
14. yeahyoutoo 「lean on you」
15. Noko 「只今」

Various Artists - ele-king

 南アフリカからのGqomに続き、今度は東アフリカのタンザニアからとてもかっこいい新しい音楽がやって来ました。今回ご紹介するのはその新しい音楽Singeliの最新形態楽曲をウガンダのレーベル〈Nyege Nyege Tapes〉が編纂したコンピレーション・アルバムです。
 Boomkatのスタッフは「これは2017年に聴いた物の中でも、疑いなく最もトチ狂ったエキサイティングな新しい音楽だ」と、興奮気味にコメントしています。

 僕が知らないだけかもしれませんが、日本ではおそらくSingeliという音楽がほぼ認知されていないと思いますので、少しその背景を調べてみました。過去15年間に渡って東アフリカの中ではタンザニアの大都市ダルエスサラームが、最もエキサイティングなアンダーグラウンド・エレクトリック・ミュージック・シーンを形成してきたそうです。Mchiriku、Sebene、Segere(全て音楽形態の名称と思われる)などの星座のように点在する小さなシーンはやがて数年間のアンダーグラウンドでの潜伏期間を経て、最新の音楽形態Singeliとして爆発的に広まり、タンザニアの若者たちの間で人気だったBongo Flavaというジャンルに取って代わりメインストリームへ躍り出たという事です。

 ここでおそらく多くの人が疑問に思うのはBongo Flavaって何? という事だと思うのですが、これを調べてみるとちゃんと日本語のウィキペディア・ページがあり、YouTubeで検索すると「New Bongo flava songs 2017」「同2018」というプレイリストが出てきますが、レコード店でこの名称を用いて取り扱っているのはCompuma氏もお勤めのEL SUR RECORDSくらいのようですので、やはり日本での認知度は低そうです。

 Bongo Flavaは東アフリカにおける共通語であるスワヒリ語のLyricが特徴で、欧米のHIP HOPの大きな影響を受けていると同時にローカルな音楽(Taarab、Filmi、リンガラ音楽など)の要素がMIXされ、タンザニアンHIP HOPと呼ばれることもあるそうですが、Singeliを聴いた後では結構普通に聴こえてしまいます。ではSingeliとはどんな音楽なのかと言うと、日本語のウィキペディア・ページはまだありませんが、YouTubeで検索するとそれらしき物が出てきます。

 これなんかを見ますと日本との文化の違いを痛烈に感じます。経てきた歴史も土地の位置・風土も全く違うわけで当たり前なのですが、ウィキペディアで歴史を少し辿るだけで植民地、クーデター、エボラウィルスなどの単語が出てくるわけで、この音楽に漲(みなぎ)っているエネルギーはそうした歴史の中にあっても満ち溢れる生命力を示しているかのようです。

 タイトルにある「Sisso」というのはシーンの要となっているSISSO STUDIOというスタジオの名称のようです。それではそろそろ本題に入りたいと思います。

 とにかく全14曲すべてが高速で、BPMは遅いものでも170以上、200を超えるものも珍しくなく、ラスト・トラックのSuma“TMK”などは240近く、ということはBPM 120のものとMIXできる事になります。言語はおそらくBongo Flavaと同じくスワヒリ語でしょう。何を言っているのかは全く分かりませんが、歌唱法としてはRAPと言っていいと思います。RAPも乗せるトラックが高速なので勢いがあり、50centのようなDOPEさは出ないものの、ある種の催眠性のようなものがミニマル・ミュージックのごとく醸し出され、曲によっては呪術的なムードを湛(たた)えたものもあります。Lyricの内容は警官の汚職から別れた恋人とのいざこざまで、という感じらしく、彼らの日常を反映したもののようです。

 Dogo Suma Lupozi“Kazi Ya Mungu Haina Makosa26”(A2)はBPM 175くらいでミニマルに繰り返されるレイヴィなシンセコードに乗ってMCがひたすら休みなく声を出し続けます。時折スクリュード・ヴォイスがユニゾンで付き添う。シンセコードが小節頭のように感じるので、キックはBPM 175四分音符裏打ちで入っている(ように僕は感じる。速過ぎて混乱します笑)から、MIXするとちょっとややこしい事になりそうです。このミニマルに繰り返されるシンセコードが癖になります。スワヒリ語の語感や言い回しも独特な感触があり、こちらも面白い。TRAP風の引きずるようなベースラインも出てきます。以降もアルバム全体を通してスクリュード・ヴォイスは度々登場しますが、この音楽そのものがスクリューされたもののようでもあります。

 昨年リリースされたBullion“Blue Pedro”(名曲)〈TTT058〉のギター・フレーズを高速化したような旋律の上をMCが煽るように何か言い、スクリュード・ヴォイスが少年合唱団のごとく歌いあげて始まるDogo Niga“Polisi”(A3)。ベースラインも高速化されてバカテク・ベーシストの演奏のようになっていて、特にスライドを多用している部分なんかは面白い。陽気なメロディーが高速でミニマルに繰り返されていて、ベースラインに耳を傾けると少し笑ってしまいますが、聴いていると催眠的に幸福感が湧いてくるような曲です。しかし調べてみると「polisi」はスワヒリ語で「police」を意味するようなので、Lyricの内容は幸福感と真逆なものなのかもしれません。わざと対比させて皮肉っているのかも? もしそうなのだとすれば風刺的な1曲という事になります。

 MCのリフレインが癖になりそうな、少しダークでどこかGRIMEっぽい雰囲気が漂うMzee Wa Bwax“Mshamba Wa Kideo”(B2)に続き、物凄い勢いで迫りくるMCとレイヴィ・シンセ・フレーズが一丸となって繰り返されるDogo Niga“Kimbau Mbau”(B3)に圧倒されます。出だしは勢い余って、という感じでベースキックの音がブーストして歪んだりします。とにかくシンセ・フレーズが最高で、然(しか)るべきトラックに少しずつこの曲をMIXしていけば相当かっこいいのではと想像できます。時間も6分30秒あり、たっぷり。

 C sideが特に最高でお気に入りなのですが、Ganzi Mdudu“Chafu Pozi”(C1)は畳み掛けるようなRAPがかっこよく、タイトルだから聞き取れる「Chafu Pozi」というサビのフレーズの野太い声もかっこいい。重いキックの音にも痺れます。途中で速回しのような軽い音も入ってきたりしてメリハリも付いているし、デカい音で聴くと最高な予感。続くDogo Niga“Nikwite Nan”(C2)はダンスホールっぽくて、バックの音は細かく割られてはいますが、BPMは176でも88の感じでも聴けます。繰り返される三味線のような音のフレーズはアフリカの民族楽器なのでしょう。音のユニークな組み合わせを感じます。威勢の良いMCが最高にかっこいいMzee Wa Bwax“Mshamba Video Mster”(C3)はバックトラックも最高で、やっぱりレイヴィなんですよね。チープな感じの音のシンセ・フレーズに上がります。こういう曲たちがどんな風に聴かれているのかを想像してみるのも楽しい。

 煽るようなMCは声を出し続け、ひたすらタイトルを連呼する声はサンプリングされたものだろう、リズムトラックのごとく機能し細かく刻まれるリズムと同調、楔(くさび)のように裏に入りシンコペーションさせる音が相まって、全体的にダークなムードを醸し出しながら物凄い勢いで駆け抜けるDogo Niga aka Bobani“Tenanatena Rmx Cisso”。そして最後を締めるのは前述のSuma“TMK”。始まりは少し陽気なラテン・フレーバーも感じますが、すぐに何かに追われるかのような焦燥感が暗い感触を生み、MCは6分間言葉を発し続けます。この曲を実際に現場でMIXするのが楽しみです。

 このアルバムを評す際によく引き合いに出されているのはガバやブレイクコア、スピードコアなどのジャンルですが、僕はそれらのジャンルについてほぼ何も知りません。アフリカのローカルな音楽についても同様です(個人的には大石始さんのこのアルバムのレヴューがあれば読んでみたい)。そんな僕でもこの音楽のかっこよさはビンビン感じるし、レヴューを書くために何度も聴いていると無性にNozinjaが聴きたくなり、久しぶりに〈WARP〉のアルバムがターンテーブルに乗り、また新たな魅力を感じたりする事になるなど、音楽って本当に素晴らしいですね、と改めて、というか何度も何度も再確認している事を、また確認できました。多謝。

 このレヴューを書くに当たって、bandcampのテキストを参照しました。そのbandcampで全曲フル試聴ができます。元は限定版のテープで出ていたもので、ヴァイナル化に当たりMatt Coltonによるリマスタリングが施されています。Boomkatでは限定カラーヴァイナルも発売中。

Joe Armon-Jones - ele-king

 どんどん燃え上がるサウス・ロンドンのジャズ・シーン。2月に〈Brownswood〉からリリースされたコンピ『We Out Here』はその熱気を切り取った格好のドキュメントであり、今年最初の重要作でありますが、そこに参加していたジョー・アーモン・ジョーンズが初のソロ・アルバムをリリースします。エズラ・コレクティヴの一員としても活躍する彼は、クラブ・ミュージック~エレクトロニック・ミュージックの文脈とも密接にリンクしていて(昨秋サン・ラのカヴァーで話題になった彼らのEP「Juan Pablo」のミックスはフローティング・ポインツが担当)、つまりジャズ好きのあなたにとってはもちろんのこと、「ジャズはあまり得意じゃないんだよなあ」というそこのあなたにとっても注目すべき重要なアーティストなのです。一部ではポスト・フライング・ロータスとも表現されており……ほら、気になってきたでしょ? 発売日は4月27日。

いまもっとも熱い注目を集める南ロンドン・ジャズ・シーンの真打
ジョー・アーモン・ジョーンズ、待望のデビュー・アルバム『Starting Today』
日本先行リリース決定!
ロンドンのストリート・サウンドを示す新世代ジャズの新たな潮流

エレクトロニック・ミュージックの世界からロック~パンクに至るさまざまな分野で、現在もっとも注目を集めるサウス・ロンドン。シンガー・ソングライターでもキング・クルールやトム・ミッシュなど若い才能が続々と登場しているが、そうした南ロンドンでもひときわ熱いのがジャズ・シーンである。特にロバート・グラスパーの登場以降、アメリカでは、ケンドリック・ラマーやフライング・ロータスが自身の作品に積極的にジャズを取り入れ、カマシ・ワシントンやサンダーキャットといったニュー・ヒーローが生まれる一方、ロンドンでもシャバカ・ハッチングス、モーゼス・ボイド、ヌビア・ガルシア、ユセフ・カマールなどの台頭で湧き、そうした熱い息吹はジャイルス・ピーターソンのコンピ『We Out Here』でも伝えられるが、ここにシーンの最重要キーボード奏者及びコンポーザー兼プロデューサーであるジョー・アーモン・ジョーンズのデビュー・アルバム『Starting Today』が登場した。今回の発表に合わせてアルバムのオープニングを飾るタイトルトラックが公開された。

Joe Armon-Jones - Starting Today
https://youtu.be/mdz9jHg-mWM

アフリカンやカリビアン系黒人の多い南ロンドン・ジャズ・シーンにあって、ジョー・アーモン・ジョーンズは異色とも言える白人ミュージシャン。しかし、黒人さながらのグルーヴとフィーリングを有し、アフロ・ジャズ・ファンク・バンドのエズラ・コレクティヴの一員として活躍。ファロア・モンチやアタ・カクのツアー・サポートも務めている。2017年はエズラ・コレクティヴでサン・ラーの“Space Is The Place”のカヴァーを含むEP「Juan Pablo: The Philosopher」をリリースする一方、DJ/トラックメイカーにしてベースも操るマックスウェル・オーウィンと組んでEP「Idiom」をリリース。アコースティックとエレクトロニックを自在に行き来するジャズとディープ・ハウスの中間的な作品集で、Boiler Roomでのライヴも好評を博する。「Idiom」には女性版カマシ・ワシントンとも言うべきサックス奏者のヌビア・ガルシア、ギル・スコット・ヘロンとキング・クルールが出会ったようなギタリスト兼シンガー・ソングライターのオスカー・ジェロームも参加しており、ジャズ・ミュージシャンでありながらクラブ・サウンドやエレクトロニック・ミュージックにも通じるジョー・アーモン・ジョーンズの姿を映し出す作品集となった。

前述の『We Out Here』にも、自身の作品やエズラ・コレクティヴで参加したジョー・アーモン・ジョーンズが、満を持して発表する『Starting Today』には、現在の南ロンドン・ジャズ・シーンの最高のメンバーが集結する。「Idiom」に続いてヌビア・ガルシア、オスカー・ジェローム、マックスウェル・オーウィン、エズラ・コレクティヴのトランペット奏者のディラン・ジョーンズに加え、ザラ・マクファーレンのプロデューサーとしても活躍する天才ドラマーのモーゼス・ボイド、オスカーと共にアフロビート・バンドのココロコで演奏するベーシストのムタレ・チャシらも参加。女性シンガー・ソングライターのエゴ・エラ・メイ、ラスタファリ系ポエトリー・シンガーのラス・アシェバーらもフィーチャーされる。

『Starting Today』にはジャズ、アフロ、レゲエ、ダブ、ソウル、ファンク、ハウス、テクノ、ヒップホップ、ブロークンビーツなど、ジョー・アーモン・ジョーンズが吸収した様々な音楽のエッセンスが詰まっていると共に、それは折衷的で雑食的なロンドンのストリート・サウンドを示している。インナーゾーン・オーケストラのテクノ・ジャズとロニー・リストン・スミスのアフロ・スピリチュアル・ジャズ・ファンクを繋ぐような高揚感溢れる表題曲に始まり、メロウなAOR~アーバン・ソウルの“Almost Went Too Far”はサンダーキャットにも対抗するようなサウンド。スペイシーなエフェクトが効いたダブ・ミーツ・ジャズの“Mollison Dub”、サン・ラー風のコズミック・ジャズをバックにオスカー・ジェロームがファンクとレゲエ・フィーリングをミックスさせて歌う“London's Face”は、ジャマイカンやアフリカ移民の多いUKらしさを象徴する作品。“Ragify”はJディラを咀嚼したようなヒップホップ調のビートを持ち、ロバート・グラスパーやクリス・デイヴらUS勢に対するUKからのアンサーと言えるナンバーだ。

南ロンドン・ジャズ・シーン最重要アーティスト、ジョー・アーモン・ジョーンズのデビュー・アルバム『Starting Today』は、日本先行で4月27日(金)にリリース! 国内盤CDには、ボーナストラックとして、ジャイルス・ピーターソンが手がけたコンピレーション『We Out Here』に提供された“Go See”を追加収録。iTunesでアルバムを予約すると、公開されたタイトルトラックがいち早くダウンロードできる。

label: Beat Records / Brownswood Recordings
artist: JOE ARMON-JONES
title: Starting Today

BRC-572 (国内盤CD) ¥2,200+tax
ボーナストラック追加収録

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