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Submotion Orchestra

DowntempoDubstepElectronicJazzSoul

Submotion Orchestra

Kites

SMO Recordings / Pヴァイン

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小川充   Mar 26,2018 UP

 サブモーション・オーケストラの新作『カイツ』を手に取ったとき、そのジャケットのアートワークが醸し出す雰囲気から、シネマティック・オーケストラの『マ・フルール』(2007年)をふと思い起こした。『マ・フルール』のジャケットは美術家のマヤ・ハヤックが撮影した風景写真で、アナログ盤にはほかにも10数枚のレコード・サイズの写真が同封され、音楽とアートワークでひとつの作品として成立するものだった。作品内容もそれ以前のジャズ色の濃い重厚で壮大なものから、フォークトロニカやアンビエント寄りの穏やかで美しいものへと変化し、ストリングスに象徴されるオーガニックなテイストも印象的だった。シネマティックの転機となった作品で、彼らの最高傑作に推す人も多い。『カイツ』の方はフィルムのコマ送りのように分割された多数の写真を用い、収録曲それぞれに一枚ずつの写真が割り振られている。その中の“ブランチズ”に添えられた写真は、構図や色合いなど『マ・フルール』のジャケットにかなり近いイメージで、そんなところからもシネマティックのこの作品を想起したのかもしれない。『カイツ』の写真はサブモーション・オーケストラのメンバーがそれぞれ撮影したものだそうだ。松原裕海氏のライナーノートより、ドラマーでバンド内ではプロデュースやアレンジの役割も担うトミー・エヴァンスの言葉を引用すると、「(前のアルバム『カラー・セオリー』からの)過去2年間で、新しい人生や家族の死など、個人的に重要な出来事が私たち全員に起こりました。その出来事を創造的なインスピレーションとするために、私たち7人はそれぞれインスタントカメラを購入し、その出来事が表わすテーマに基づいて36枚の写真を撮り切り、全部で252枚の写真から10枚の写真を選び、このアルバムの各10曲のインスピレーションとして使用しました。それぞれのトラックと写真の組み合わせは、異なる出来事を、テーマや感情を探求しています。全てが正直で、妥当で、その多くが非常にパーソナルなんです」とのこと。楽曲タイトルも“アローン”“トンネル”“ナイト”など象徴的だったり、曖昧なイメージを喚起するものが多く、それと対になる写真はそのイメージに基づく抽象的な風景だったりする。

 2010年のデビュー以来、ダブステップ・バンドとして確固たる地位を築いてきたサブモーション・オーケストラだが、3作目の『アリウム』(2014年)あたりからはダブステップという言葉に限定されない多様な音楽性を持つバンドへ進化している。そして、マッシヴ・アタックやポーティスヘッドから、ジェイムズ・ブレイクに至るUKのダウナーなソウル・ミュージックの系譜を引き継ぐと共に、シネマティック・オーケストラに比類する広大で奥行きのあるサウンドスケープを持つバンドへと成長していった。『アリウム』ではそれまでになかったようなポップなアプローチが表われ、続く『カラー・セオリー』(2016年)ではリード・シンガーのルビー・ウッド以外に男性シンガー陣を招くなど、より幅広い作風を取り入れている。『カラー・セオリー』については、バンドの中心的存在のドム・ハワードによるプロデュースのほか、外部プロデューサーとのコラボ曲もあり、全体的にはプログラミングによるエレクトリックな側面が目立ったアルバムでもあった。それから2年ぶりの『カイツ』は、『カラー・セオリー』とは違ってゲストなどが入らず、久しぶりにバンドの原点に立ち返ったものと言えるだろう。レーベルも『アリウム』と『カラー・セオリー』をリリースした〈ニンジャ・チューン〉傘下の〈カウンター〉を離れ、自主レーベルからの作品となっている。冒頭の“プリズム”や“ヴァリエーションズ”、それから“ブランチズ”や“ユース”などを聴いてもわかるように、『カイツ』は今までになくストリングスがフィーチャーされたアルバムで、それとエコーやリヴァーヴなどエフェクトを有機的に結びつけている。また、音と音の隙間が緻密で、非常に綿密で丁寧に作り上げられている。こうした緻密さがサウンドスケープとなり、写真と結びついたアルバム・コンセプトを体現する。シネマティック・オーケストラとサブモーション・オーケストラとの共通性は、こうした視覚的な音作りにある。優しく夜の眠りに包み込まれるようなバラードの“ナイト”は、途中からディープなダブステップへとスライドする、サブモーション・オーケストラらしさが表われたナンバー。この曲や“オウン”と、ルビーの美しい声を生かしたバラード系のナンバーも印象に残るが、これらでのサイモン・ベッドーのトランペットは、まるでチェット・ベイカーのようでもある。そして、彼のホーン・アレンジメントが秀逸なアルバムでもある。表題曲の“カイツ”ではダブ特有のエコー効果を生かしたホーン・アレンジで、それとストリングスの絡みが素晴らしい。冒頭で述べた、シネマティック・オーケストラの『マ・フルール』と共通する味わいを感じさせる楽曲と言えるだろう。そして、ヴォーカル、ピアノ、ストリングス、ホーンなど全ての音のパーツが最良のバランスで配された“ユース”。こうした音のパーツを下で支えるドラムとベースも研ぎ澄まされており、“トンネル”や“ブリッジ”のようなダブステップ寄りの作品では深遠なプロダクションを見せる。そして、エコーの効いた音の毛布に包まれるような“アローン”でアルバムは締めくくられる。シネマティック・オーケストラにとっての『マ・フルール』がそうだったように、『カイツ』はサブモーション・オーケストラがまたひとつ覚醒し、さらなる高みに到達した姿を見せてくれるアルバムとなった。


小川充