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2年前、カリブーのレーベル〈ジャオロング〉からツォンガ・ダンスのシングル「ヘケ・ヘケ/ホザ」は出た。視聴したときにそのBPM170超えのあまりの速さと、妙なメロディ使いに面食らってしまったけれど、踊れそうとか、DJに使えそうとかそんな考えそっちのけで、何かヤバいものを感じてそのままレジに直行した。それが自分と南アフリカのプロデューサー、ノジンジャとシャンガーン・エレクトロの出会いだ。
2004年頃からノジンジャことリチャード・ムセトワは、アフリカの伝統的な音楽&ダンス・カルチャーであるシャンガーンにミュージシャンとして関わるようになったという(もともとはダンサーだった)。もともとシャンガーンはアフリカ土着の楽器でのみで演奏されていたのだが、60年代にエレキ・ギターなどが導入され、スタジオ録音のもとエディットが施されるようになり、ゼロ年代、そこにノジンジャが先導切ってドラムマシーンやシンセサイザーを大体的に導入。そうやってシャンガーンはエレクトリックなダンス・ミュージックになった。
ノジンジャの活動が目に止まり、2010年に〈オネスト・ジョンズ〉からジャンル最初のコンピが出て、その流れがアールピー・ブーからリカルド・ヴィラロヴォスまで参加したリミックス盤に繋がるほど、シャンガーン・エレクトロは大きなものになりつつあった。しかし意外にも今回の『ノジンジャ・ロッジ』が〈ワープ〉から発売されるまで、ひとりのアーティストによるまとまったアルバム作品が話題に上ることはなかったようだ。
そういった背景もあり今作に対する期待は高まっていて、それに応えるように、ノジンジャはいままでのシャンガーン・エレクトロのイメージを引き継ぎつつも、歌物やギターなども取り入れ、ジャンルの世界観を更新した。
しばし、そのリズムの速さや体を高速に動かすダンスのスタイルから、ジュークとも比較されるシャンガーンだが、この作品によって類似性よりも違いの方が顕著になったように思える。まず、キックの打ち方がぜんぜん違う。ジュークで聴けるような三連のもたつくリズムはほとんどなく、ストレートなリズム・セクションは動物の大群が坂を上から下に駆け抜けるかのような怒涛の疾走感を呈している。
それから低音がびっくりするくらいスカスカだ。そのせいもあって、ダンサーが身にまとう衣装のようにカラフルな上モノに、リスナーの視線が完全に奪われてしまう。そこで漂うメロディはときにR&Bのようでもあり、さらにときには演歌のようでもある。
「シャンガーン・ダンスの方がフットワークのステップより5倍は速いぜ」とノジンジャは語るが、おそらくはそういったトリックが視覚的にだけではなく、感覚的にもダンスの速度を上げているのだろう。
この音楽がプレイされているのは、アパルトヘイト以降の南アフリカの大地だ。ノジンジャは今年45歳になる。つまり、あのとき南ア全体を覆い尽くしていた狂った装置の現状を彼は知っている。シャンガーンが政治的に社会とどのような距離にあるのかはわからないが、少なくともノジンジャは黒と白に色分けされた世界で大いに踊っていたはずである。
ダンス・ミュージックはその歴史で多くの人びとを自由にしてきたし、シャンガーンが同じような役割を果たしてきただろうということも、容易に想像できる。そういった意味で、狂った法案が通ろうとしている日本において、ノジンジャを聴くことは実は相当にクールな体験なのかもしれない。現実に絶望するくらいならシャンガーンのスピードに身を委ねたい。というか、そうしようぜ。
高橋勇人