「CE」と一致するもの

Dasychira - ele-king

 言葉は便利だ。とりあえず「OPN/アルカ以降」と言っておけばいい。いやもちろん、OPNとアルカを一緒くたにしてしまうのはいささか乱暴だとは思う。でも、そういう言い方をすることで伝わる何かがあるのもたしかだ。じっさい「OPN/アルカ以降」としか形容しようのないサウンドというものもある。けれど幸か不幸か、まだそういうサウンドを的確に指し示す言葉は発明されていない。ヴェイパーウェイヴだとか、ウィッチハウスだとか、ブロステップだとか、これまでいろいろと言葉は編み出されてきたけれど、こと「OPN/アルカ以降」に関しては、いまだに適切なタグが生み出されていないと言っていいだろう。言葉は便利だけれど、いつも少し遅れている。

 そんな「OPN/アルカ以降」という大雑把なくくりのなかで、アッシュ・クーシャと並ぶくらいのポテンシャルを感じさせてくれるのが、このダシキラだ。フォルティDLの主宰するレーベル〈Blueberry Records〉からリリースされた彼のデビュー作「Immolated」は、まさに「OPN/アルカ以降」の王道を行く作品である。
 蛾の一属の名称を自身のステージネームとして使用するこの風変わりな男は、本名をエイドリアン・マルテンス(Adrian Martens)と言い、南アフリカ出身で、ニューヨーク在住のプロデューサーだ。ちなみに南アフリカといえば昨年はゴムが話題になったけれど、特にその周辺と接点があるわけではない模様。

 「生贄」と題されたこのEPは、全体的に冷たく硬質で、ダークなムードに貫かれている。2曲めの“Caduceus”なんて、イントロからもうktkr感満載である。まさにOPNとアルカが仲良く同居しているかのようなトラックで、ときおり挿入される鋭いサウンドは虫の鳴き声を表現しているようにも聴こえる。4曲め“Sensation”も同じ路線で、インダストリアルな電子音がこれまた虫の鳴き声のように耳に突き刺さる。小さな箱に閉じ込めた虫さんを自らの手でじわじわとなぶり殺しにしている場面の生々しいドキュメントとでも言おうか……『進撃の巨人』の殺戮シーンが好きな人ならきっと気に入るだろう。6曲め“Sanctuary”でも、細かく切り刻まれたサウンドたちがまるで殺されゆく者の悲痛な叫びのように鳴り響いている。

 それらの曲とは打って変わって、ブルックリンのシンガーソングライター Embaci がフィーチャーされた先行公開曲“Vipera”では、その神秘的なヴォーカルが支配の実権を握っており、もの悲しげな鍵盤と相まってひと味異なる雰囲気を醸し出している(が、ここでもやはり細かい音響がなんとなく虫の立てる雑音のように聴こえる)。タイトル曲の“Immolated”もノイズとオリエンタルなメロディが奇妙なコミカルさを演出していておもしろい。

 しかし、ダシキラというステージネームといい、「Immolated」というタイトルといい、このアートワークといい、彼は虫に対して何か特別な想いを抱いているのだろうか? ググってみると、カマキリの生活環がどうとか、死んでいく昆虫の瞬間がどうといった話がヒットするので、おそらく何かしらコンセプトはあるのだろう。カドゥケウスはヘルメスの杖だし……
 ところで虫の第一人者と言えば、個人的には真っ先にミラ・カリックスを思い浮かべるのだけれど、彼は彼女の音楽を聴いたことがあるのだろうか? もしインタヴューする機会に恵まれたら、OPNやアルカについてよりも先に、まず虫について尋ねてみたい。

行松陽介 - ele-king

ZONE UNKNOWN List

DJ予定
4/21(金) at COMPUFUNK with Kane Ikin
4/23(日) at 難波Bears “line in da utopia”
4/24(月) at 京都 外 with Kane Ikin
5/12(金) at 京都METRO “KYOTOGRAPHIE x CLUB LUV+ 2017”

soundcloud
https://soundcloud.com/yousukeyukimatsu

Ikonika - ele-king

 いや、まず名前がステキなんですよ、アイコニカ。響きが最高に心地よい。アイコニカ。シンプルだし、日本語とも妙にマッチしているし、何度も呟きたくなる名前です。アイコニカことサラ・アブデル=ハミドは〈ハイパーダブ〉に所属するプロデューサーで、ダブステップ~それ以降のサウンドを果敢に追求し続けているチャレンジャーです。その名前の由来については『Contact, Love, Want, Have』のレヴューを参照していただくとして、彼女が6月2日に新作をリリースします。ゲストにも興味深い名前が並んでいます。楽しみです。因習打破! 因習打破!

I K O N I K A

UKクラブ・カルチャーの真価を体現し続ける
型破りの天才女性プロデューサー、アイコニカ
待望の最新アルバム『Distractions』のリリースを発表!

コード9率いる〈Hyperdub〉の中核メンバーであり、UKクラブ・カルチャーの真価を体現し続ける才媛、アイコニカが4年ぶり3作目となる最新アルバム『Distractions』のリリースを発表! 先行シングル「Manual Decapitation」を公開!

Ikonika - Manual Decapitation
https://soundcloud.com/hyperdub/manual-decapitation?in=ikonika/sets/distractions-2017

2013年の前作『Aerotropolis』発表以降、ドーン・リチャードからチャーチズまで幾多の傑作リミックスを手掛け、世界中をDJツアーで回りながら制作されたという本作は、UKガラージ~ファンキーやハウスから彼女のヒップホップ~R&Bの骨格や構造美に対するフォーカスへとシフトした作品に仕上がっている。サイボトロンがグライムをカマしたかのようなミニマル・エレクトロが炸裂する先行シングル“Manual Decapitation”、アンドレア・ギャラクシーとの〈Night Slugs〉~〈Fade To Mind〉直系R&B“Noblest”やダブステップにヒップ・ハウスのドラムを配合したスロウジャム“Sacrifice”では爆発的な盛り上がりを見せるグライム新世代を担うMCジャムズを迎えるなどこれまで以上にコラボレーションにも意欲的なトラックが顔を揃えている。〈Night Slugs〉の新鋭スウェインJとの官能的なウェイトレスR&Bに同僚ジェシー・ランザのヴォーカルが悶えるエモーショナルな終曲“Hazefield”で幕を降ろすまで、金属のクランク・サウンドと鎮静ファンクのハイテクでミニマルなブレンドが絶妙すぎる2017年にしか生まれえないUKクラブ・カルチャーの真価を体現する傑作!

label: HYPERDUB
artist: IKONIKA ― アイコニカ
title: Distractions ― ディストラクションズ

release date: 2017.06.02 FRI ON SALE

輸入盤CD: HDBCD035 定価: OPEN
輸入盤2LP+DLコード: HDBLP035 定価: OPEN

[ご予約はこちら]
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002160
iTunes Store: https://apple.co/2oQGj1x

[TRACKLISTING]
01. Girlfriend
02. Noblest ft Andrea Galaxy
03. Manual Decapitation
04. Lear
05. BGM
06. 435
07. Do I Watch It Like A Cricket Match?
08. Sacrifice ft Jammz
09. Love Games
10. Lossy
11. Not Actual Gameplay
12. Not
13. Hazefield ft Sweyn J & Jessy Lanza

DJ DIE - ele-king

 いや、ジャングル来てますな。先日のパウウェルのライヴもジャングル、昨年末のベリアルの12インチもジャングル、ゴールディーの「インナー・シティ・ライフ」がベリアルにリミックスされる、ロンドンでは地下鉄占拠で一区間のジャングル・パーティ──ジャングルですよ、レイヴですよ、ハードコアですよ、「もうやってられっか!」ということでしょうか、そして彼の地ででは、レイヴを知らない世代がいよいよレイヴをはじめているこのとき、ブリストル・ジャングルの先人、ダイが来日します。
 絶対に行ったほうがいいです。

■東京
2017/04/28 (FRI)
at 東京渋谷回遊

BS04GF -DJ DIE Japan Tour in Tokyo-

Venue 1 at Star lounge:
open: 24:30-5:00

DJ DIE from Bristol / UK (Gutterfunk / Digital Soundboy / XL Recordings)
L?K?O
Maidable
Soi Productions
Bim One Productions

P.A.:
eastaudio SOUNDSYSTEM

Shop:
Disc Shop Zero

Venue 2 at 虎子食堂:
open: 21:00~2:00

BS04GF - Tropical Disco Lounge

Selector:
G.RINA
1-DRINK
e-mura (Bim One Productions)
1TA (Bim One Productions)

入場料:
通常前売: 3000円+1D (500円)
特別前売: 3000円+1D (500円)
当日券: 4000/1D (500円)
当日虎子のみの入場: 2000円
当日虎子からスターラウンジ : +2500円w/1Dチケット(スターラウンジ)

Webサイト
https://www.bs0.club/

前売り
特別仕様前売り券 - https://www.bs0.club/#159223881093
e+ (イープラス) - https://bit.ly/2ousjKu
Livepocket - https://t.livepocket.jp/e/n8y_g
取り扱い店舗更新中! - https://www.facebook.com/events/172307596609899

*全公演日程

■4/28(Fri) 東京 at Star Lounge / 虎子食堂〈BS0〉
■4/29(Sat) 高知 at music cafe BEAT〈RESOUND ZERO〉
■5/2(Tue) 名古屋 at CLUB MAGO / Live & Lounge Vio〈PURE______ (pure blank)〉
■5/3(Wed) 高崎 at club WOAL Takasaki〈"re"place〉
■5/5(Fri) 大阪 at Compufunk Records〈DIRT〉
■5/6(Sat) 静岡 at Rajishan〈hypnotize〉


DJ DIE
DJ DIEは、ハードコア~ジャングル~ドラム&ベース・シーンのパイオニアであり、XL Recordings、Talkin' Loud、そしてもちろんFull Cycleといった影響力のあるレーベルからリリースをしてきたブリストルのアーティスト。
彼は革新者であり続け、彼が受けてきた広範な影響と未来への確固としたヴィジョンを通じ、ルールや伝統を無視した新たな錬金術を創造してきた。
DIEの情熱は、境界の無い新しい音楽を発見し創造することに向けられており、その情熱は、彼が運営するプロデューサー/DJ/アーティストが集まるレコード・レーベルであり創造的ハブでもあるGutterfunkに集中している。
彼の最近のコラボレーションやプロジェクトには、進行中のDismantleとのDieMantleや、Addison Grooveとの共同作業、そして現時点では秘密のプロジェクトがある。
2017はDJ DIEにとってエキサイティングな1年になるに違いない。

いまモリッシーを聴くということ - ele-king

英紙から“国宝級”とまで呼ばれるロックスター、
その素晴らしい矛盾をいま聴くこと──

人気コラムニストがディスクガイド形式で描く、かつてないザ・スミス/モリッシー論。
ブレグジット後の「いま」だからこそ響く、もうひとつのUKポップ・カルチャーと地べたの社会学。

「これはアンオフィシャルなブレグジットのテーマだ」
「クソ左翼のバカな見解にすぎない」
 このふたつのコメントは、この歌詞がいかに正反対の解釈で読まれることが可能かということを端的に示している。左と右、上と下、グローバリズムとナショナリズム。いろんな軸が交錯し、いったい誰がどっち側の人間なのやら、従来の政治理念の枠では語りづらくなってきた英国のカオスを、モリッシーは12年前にすでに予告していた。 (本文より)


ザ・スミス時代からソロ活動まですべてのアルバムを追いながら、30年以上にもわたるその歩みを振り返る。
UKでもっとも重要なロック・ミュージシャンと言っても過言ではない、モリッシーの痛切なメッセージが“いま”さらにまた私たちの耳に突き刺さる──

人気沸騰中のコラムニスト、ブレイディみかこ待望の書き下ろし新刊!

目次

  なぜいまモリッシーを聴くのか

section 1: The Smiths
  The Smiths(1984)
  Hatful of Hollow(1984)
  Meat Is Murder(1985)
  The Queen Is Dead(1986)
  Strangeways, Here We Come(1987)
section 2: 1988~1997
  Viva Hate(1988)
  Bona Drag(1990)
  Kill Uncle(1991)
  Your Arsenal(1992)
  Vauxhall and I(1994)
  Southpaw Grammar(1995)
  Maladjusted(1997)
section 3: 2004~
  You Are the Quarry(2004)
  Ringleader of the Tormentors(2006)
  Years of Refusal(2009)
  World Peace Is None of Your Business(2014)

  あとがきにかえて
  参考文献

Harvey Sutherland - ele-king

 いま影響力をほこる(ジャーマン・ディープ・ハウスの重要人物)モーター・シティ・ドラム・アンサンブルのレーベルからのシングル・ヒットなどがきっかけで日本でも人気に火が着いているのがメルボルンのハーヴィ・サザーランド(Harvey Sutherland)。先月〈sound of speed〉(90年代から続いてる日本のナイスなレーベル)がディスクユニオン経由でリリースした彼にとっての最初のアルバム『Harvey Sutherland』も好調なようだ。メロディアスでユルくもありグルーヴィーでもあるコズミック・ディスコ/ディープ・ハウスで、これが受けるのも納得できる。

 その彼が、今月末、サーカスにて開かれる「Choutsugai 」にライヴ出演する。ハーヴィ・サザーランドの個性は彼の生演奏にもあり、そこにいる人たちを間違いなくハッピーな気持ちにさせてくれるだろう。ぜひ!

■Choutsugai presents - Harvey Sutherland

Harvey Sutherland(Clarity Recordings) -Live Set-
Takuya Matsumoto(iero / Meda Fury / Clone Royal Oak / FINA)
XTAL (Crue-L / Beats In Space)
Broken Sport(Jazzy Sport)
Sayuri
Kunieda
Sora Mizuno


RGL(cosmopolyphonic / Breaker Breaker)
Tidal(cosmopolyphonic)
Fujimoto Tetsuro(cosmopolyphonic)
Danny MW
Stupid Kozo
CALPIS
MMFM
gunjiakifumi

interview with Clark - ele-king


Clark - Death Peak
Warp/ビート

Techno

Amazon Tower HMV iTunes

 そういえば、たしかに珍しいケースかもしれない。テクノは音響的な冒険を繰り広げる実験音楽としての側面を持つ一方で、機能的なダンス・ミュージックとしての側面も有しているわけだけれど、実際に生身のダンサーとコラボしたテクノ・ミュージシャンはそれほど多くないのではないだろうか。
 ちょうど25年前、エレクトロニック・ミュージックは『Artificial Intelligence』を境に大きくその進路を変更した。そこに参加していたオウテカやリチャード・DらによってIDM=リスニング・テクノの礎が築かれ、ダンスフロアではなくベッドルームが志向されるようになったのである。
 そのようなIDMの旗手たちが、がらりとスタイルを変えたり長い沈黙に入ったりした2001年という節目の年にデビューを果たし、以後コンスタントに作品を発表し続けることで00年代のリスニング・テクノを支えてきたクラークは、今回発表された新作『Death Peak』と連動するUSツアーにおいて、ふたりのダンサーを起用している。もちろん、これまでに彼がフロア寄りのトラックを作らなかったわけではない(紫色のアートワークで統一された〈Warp〉のフロア向け12インチ・シリーズに彼は3度も登場している)し、そもそも本人にそういう二項対立的な分別の意図はないのだろうけれど、スタイルを変えつつも基本的にはリスニング・テクノの文脈を引き受けてきたと言える彼が、前作『Clark』でダンサブルな側面を展開し、そしていま生身の肉体表現に関心を寄せそれを自身のステージに取り入れているのは、彼が無意識的にベッドルームとフロアとの間に橋を架け直そうとしているからなのではないか(肉体との関わりで言えば、人間の声が多用されていることも本作の特徴のひとつである)。
 そのような橋の建設構想は、このアルバムの構成にも表れ出ている。序盤にこそ前作を引き継いだようなダンサブルなトラックが並んでいるものの、アルバムは中盤から雰囲気を変え、その後はどんどんアブストラクトな領域へと足を踏み入れていく。最終的に行き着くのは“Un U.K.”という意味深なタイトルを持つダイナミックなトラックで、クラークにしては珍しく政治的なトピックから触発された曲でもある。『Death Peak』というアルバム・タイトルからもうかがえるが、本作の構成にクラークの並々ならぬパッションが注ぎ込まれていることは間違いない。
 テクノに肉体を持ち込むこと。それと同時に、エクスペリメンタリズムも手放さないこと。奇しくもこのアルバムにはAIをテーマにした曲も収められているが、『Artificial Intelligence』のリリースから25年が経ったいま、クラークはテクノ~IDMの歩みにひとつの区切りを設けようとしているのではないだろうか。

肉体と電子音楽の相違関係は、何にとってもテーマになるべきだね。もっとみんなやればいいのにと思うよ。特にダンス・ミュージックならなおさらだ。

2年半ほど前、前々作『Clark』がリリースされたときのインタヴューで、あなたは「北極で爆発音をレコーディングしたい」と仰っていたんですが、その望みは叶いましたか?

クラーク(Clark、以下C):はは(笑)。まだ実現していないよ。それは次のアルバムになるかな。あのアイデアは気に入ってはいるんだけど、ちょっとハードルが高くて(笑)。でも、実行しないと嘘を言ったことになってしまうからな(笑)。

あなたは2015年にYoung Vicシアターで上演された舞台『マクベス(Macbeth)』の音楽を手がけています。また、昨年リリースされた『The Last Panthers』は同名のTVドラマのサウンドトラックでした。そのように何かに付随する音楽を制作する際、自身のオリジナル・アルバムを作るときとどのような違いがありましたか?

C:そのふたつはぜんぜん違うね。やはり、自分のためでない音楽を作る方が責任が大きい。でも、そのぶん達成感も大きい。自分以外の人々を満足させるし、驚かせることができるからね。良い監督というのは、人に指示をするよりも、相手を信用して彼らからサプライズされることを求める。監督から受けた注文を基盤に自分で何かを爆発させるというのはすごくやりがいを感じるんだ。一方、自分の作品を作るというのは自己中心的でもあるし、自由だよね。

通訳:どちらが好きですか?

C:両方好きだよ。自分が心地よく感じる場所から出るのが好きなんだけど、それは両方でできるから。楽なのは、クラークのレコードを作る方かな。作る場所が自分の家だから。

ちなみに、ドラマ『The Last Panthers』のテーマ曲はデヴィッド・ボウイの“★ (Blackstar)”でした。サウンドトラックを作る際に、ボウイの曲との整合性やバランスなどは意識されたのでしょうか?

C:そのトラックは聴いてない。だから、バランスは意識しなかったね。

今回のアルバム・リリースのアナウンスの後に公開されたUSツアーのトレーラー映像ではダンサーが起用されていますね。この映像の試みは新作のテーマやツアーの内容と連動したものなのでしょうか?

C:そう。ツアーではダンサーふたりがステージに立つ。僕の妻が振り付けを担当しているんだ。肉体と電子音楽の相違関係は、何にとってもテーマになるべきだね。もっとみんなやればいいのにと思うよ。特にダンス・ミュージックならなおさらだ。そのうちみんなやり出すんじゃないかな。振り付けがシンプルで好きなんだ。シンプルだから、ライヴの音楽を邪魔しない。僕自身がギグを見にいくときも、いろいろ目の前で起こりすぎるライヴは好きじゃないんだよね。みんな、真の目的である音楽をちゃんと楽しめない。だから、振り付けはシンプルにしているんだ。そのダンスを無視しながらも、そのダンスが作り出す何かにのめり込んでいけるような、そんな感じだよ。

新作の1曲め“Spring But Dark”はこれから何かが起こる予兆を感じさせるトラックで、壮大な物語の序章のような雰囲気を持っています。その後アルバムの前半はフロアで機能しそうなダンサブルな曲が並んでいますが、6曲めの“Aftermath”以降は何かが崩壊してしまった後の世界を描写したような曲が続きます。アルバム・タイトルは『Death Peak(死の山頂)』ですが、本作のコンセプトはどのようなものなのでしょう?

C:“Aftermath”は、僕のお気に入りのトラックでもあるんだ。あのトラックは、エンニオ・モリコーネ(Ennio Morricone)みたいに聴こえる。彼が作りそうなトラックを作りたかったんだよね。カウボーイが馬に乗ってクラブを歩いているような、そんなトラック(笑)???

今回のアルバムでは、ほとんどの曲に声が使われています。それは結果的にそうなったのでしょうか、それともあらかじめ意図して声を導入していったのでしょうか?

C:友人にチェリストがいて、彼女はアルバムでチェロを弾いてくれているんだけど、ついでに流れで彼女に歌ってもらったんだ。彼女の声はすごく高くて、エイリアンみたいに聴こえる。それがおもしろいと思って、一緒にたくさんレコーディングしたんだよ。でも、ヴォーカルというよりは、ひとつの楽器として使っている。Aメロ、Bメロ、コーラスがあるポップ・ソングを作ろうとしていたわけではないからね。サウンドの要素のひとつとして声を使ったんだ。

2曲め“Butterfly Prowler”や先行公開された3曲め“Peak Magnetic”は非常にダンサブルですが、これまでのあなたのダンス・トラックよりも重さや激しさを感じます。同じく先行リリースされた4曲め“Hoova”は、巨人が大地を踏み鳴らすかのような強烈なドラムが印象的です。アルバム前半のこの激しさは、「Death Peak(死の山頂)」へと至る道中だと考えていいのでしょうか?

C:そうかもしれないし、もうすでに頂上にいる状態なのかもしれない。または崖の端かもしれないし、そこから落ちるかもしれない(笑)。解釈は自由だよ。自分でも特定の何かを定めているわけではないし。僕は物理的存在が好きなんだけど、原始的で土っぽい感じから始まって、途中からもっと抽象的でドリーミーになっていく。感情がハイになっていくんだよ。どこかでピークを迎えたり、何かに変化していくというか、僕のなかでは作品の最初と最後は繋がっているんだ。このアルバムはひとつのサークルなんだよ。

5曲め“Slap Drones”は、このアルバムのなかでもっともおもしろい展開を見せるトラックだと思いました。「Slap Drone」とは「懲罰用ドローン」とのことですが、それはどのようなものなのでしょう?

C:お仕置きしてくれるドローンさ(笑)。

通訳:存在するものなんですか(笑)?

C:ないけど、あった方がいい。たとえば、チョコレートを食べすぎたらペシっと叩いてくれるとかさ(笑)。

通訳:架空のものということですが、アイデアはどこから?

C:本からのアイデアなんだ。僕が考えついたわけじゃないよ(笑)。

この曲には他のヴァージョンもあるんですよね?

C:いや、それはない。アルバムのトラックすべてが作った過程で変化しているから、いまでき上がったものとは違う“ヴァージョン”は存在するけど。たとえば、もともと10分だったものがアルバムでは短くなっているけど、その10分のものもまだ存在はしている。トラックはパフォーマンスのなかでも変わってくるし、その変化がエキサイティングなんだ。だからパフォーマンスって好きなんだよね。

これはEU離脱に対する僕の思いを表現したもので、これまでの自分の作品のなかでもいちばん政治的だと言えると思う。でも、あまり文字どおりに解釈しすぎてもらいたくはないんだ。音楽に関しては熱くいたいけど、政治ではそうなりたくないね。

6曲めの“Aftermath”からアルバムの雰囲気が変わります。“Catastrophe Anthem”や“Living Fantasy”などは「Death Peak(死の山頂)」を迎えた後の展開と考えていいのでしょうか?

C:そう思いたければそう思ってくれてまったく問題ない。それは、僕が指摘できることじゃないからね。人の解釈はコントロールできない。このアルバムに、ピークはないんだ。すべてのトラックにクライマックスがある。僕の音楽はとにかく展開がたくさん起こるから、アルバムのなかで1ヶ所、もしくは数ヶ所だけではなく、トラックごとに盛り上がりがあるんだ。

7曲め“Catastrophe Anthem”では「われわれはあなたの祖先である(We are your ancestors)」という子どもたちの歌声が繰り返されます。この曲は「シミュレーション仮説(simulation hypothesis)」をイメージして作られたそうですが、この子どもたちはシミュレーションの世界の住人なのでしょうか? それとも私たちリスナーがその住人でしょうか?

C:そう、子どもたちはその世界の住人で、人工の子どもたち。このトラックはAIについてだからね。もしかしたら、リスナーも住人なのかもしれないし、いまは違っても住人になるかもしれない(笑)。

本作の最後のトラックは“Un U.K.”というタイトルです。ビリー・ブラッグ(Billy Bragg)を意識したプロテスト・ソングだそうですが、この曲にはいまのUKの状況が反映されているのでしょうか? 冠詞が「the」ではありませんよね。これは否定の接頭辞の「un-」でしょうか、あるいはフランス語で男性名詞に用いる不定冠詞の「un」ですか?

C:否定の「un」だよ。これはEU離脱に対する僕の思いを表現したもので、これまでの自分の作品のなかでもいちばん政治的だと言えると思う。でも、あまり文字どおりに解釈しすぎてもらいたくはないんだ。音楽に関しては熱くいたいけど、政治ではそうなりたくないね。まあ、世界が完全に良い状態になることはないけど、いまは特に良くない状況ではあると思う。だから、それに対する怒りが音楽に反映されている部分はあるよ。“Un U.K.”はEU離脱に関したものではあるけど、僕はミュージシャンは政治のことなんて把握してないと思うし、逆に政治家は音楽のことなんてぜんぜんわかってないと思うし、音楽を使って政治をどうこうしようとしているわけじゃない(笑)。ただ、EU離脱に対する自分の感情を表現してみただけなんだ。それだけさ。歌詞があるわけでもないからメッセージを込めているわけでもないし、自分があの出来事にがっかりしたことだけを表現しているんだ。人種差別者たちに対する気持ちとかね。でも、それをあのトラックを通してどうにか伝えようとしているわけでもない。みんなが好きに解釈してくれればいいと思ってるんだ。アルバム全体でそれを表現しているわけでもないし。

昨年、国民投票の後にあなたは「ブレグジット後にイングランドで高まった外国人嫌悪は痛ましくて悲しい。民主主義は不完全ではあるけれど、壊れやすく(だからこそ)戦うに値する」とツイートしていました。それから9ヶ月が経ちましたが、ブレグジットやその後の経緯についてどうお考えですか?

C:そのとき僕はオーストラリアでアルバムを制作していてイギリスにはいなかったからよくわからない。僕はジャーナリストではないから、自分のインタヴューで政治的なコメントはしたくないんだ。離脱が正しい決断だったとバカな発言をしている人たちもいるけど、それを僕たちが騒ぎ立てなくても、歴史がそれは間違いだったと証明してくれるはずさ。僕のレコードはアノーニ(Anohni)のレコードではないから、何かを人に伝えようとしているわけではないんだよ(笑)。

今回の新作のタイトル『Death Peak』は、昨年8月からずっと考えていたものだそうですが、それはやはり国民投票(昨年6月23日)の結果からも影響を受けているのでしょうか?

C:いや、それはないよ。

昨秋あなたはファブリック(Fabric)を支援するためのコンピ『#savefabric Compilation』に曲を提供していました。日本からはなかなか見えづらいのですが、いまロンドンではファブリックを取り巻く状況はどうなっているのでしょう?

C:閉鎖はしないみたいだね。良かったよ。いろいろなアーティストたちがフィーチャーされているあのコンピは、僕自身も気に入っているんだ。でも、ファブリックにはじつは行ったことがない。タダでトラックをあげたから、そろそろ招待されるかな(笑)?

あなたは昨年Adult Swimの企画でD∆WN(Dawn Richard)の“Serpentine Fire”をプロデュースしていました。昨年はフランク・オーシャン(Frank Ocean)やソランジュ(Solange)のアルバムが話題となりましたが、あなたは最近のR&Bやソウル・ミュージックをどのように見ていますか?

C:あまり聴かないからわからない。聴かないからといって、嫌いなわけじゃないよ。ただそんなに聴かないだけ。聴かないことに対して理由もないし。

ご友人のビビオ(Bibio)が昨年リリースしたアルバムは、ソウルやファンクからの影響を彼独自に消化=昇華した内容になっていました。個人的にはあなたのそういう側面も聴いてみたいと思うのですが、その予定はありますか?

C:はは。たぶんノーだな。数年の間に自分がソウルやファンク・ミュージックを作るとは思わない。でも、わからないよね。もしかしたらこれからそういった音楽を聴くようになるかもしれないしさ。

通訳:以上です。ありがとうございました!

C:ありがとう!

Gigi Masin - ele-king

 昨年ele-kingからも12インチをリリースしたイタリアのアンビエント・ミュージシャン、ジジ・マシンが来日ツアーを開催します。東京、新潟、大阪、そしてふたたび東京をまわります。これまで彼のリリースに携わってきた国内レーベルやアーティストたちが集結した今回のツアーは、きっと歴史に残る公演になるでしょう。詳細はこちらから。
 また、今回の来日にあわせてジジ・マシンのキャリアを総括したコンピレーション盤『For Good Mellows』が4月19日にリリースされます。さらに、ジジ・マシン再評価を誘導したオランダの〈Music From Memory〉の、初となるレーベル・コンピレーションも発売されています。これは要チェックですね。


混沌の現代へ呼び起こされる記憶の温もり、
イタリアの伝説的電子音楽作家Gigi Masinの
待望の初来日ツアーのフルラインナップと全詳細が発表

1986年に『Wind』でデビュー、Björk、Nujabes、To Rococo Rotなどのサンプリング・ソースとしても名を馳せ、ドラマのディレクターも務めるヴェネツィアの電子音楽家Gigi Masin。80年代Brian Enoや〈ECM〉とも共振するニューエイジ・アンビエントやバレアリックの記憶を呼び起こし、至高の憩いとなったアムステルダムの振興レーベル〈Music From Memory〉からリリースされた編集再発盤『Talk To The Sea』(2014)の話題を皮切りに国内外のレーベルから再発と新譜のリリース・ラッシュとなり、遂にはライヴを始動。現代社会の憧憬とも言える80年代のエレガンスまとうシンセサイザーとピアノの美しきアンビエントの海原にそよぐ心地の良いバレアリックな風と祈りにも似た神秘への越境、本ディケイドにて実しやかに浮かび上がリ、過去から未来を投影する新時代(ニューエイジ)の「記憶」がいよいよ本邦初公開。

東京は渋谷WWWにて、ツアー初日の4/12(水)は東京公演のみとなる貴重なピアノ・コンサートにオープニング・ゲストとしてharuka nakamuraのアンビエント・セッション・プロジェクト「LABO」とDJにGigi Masinの名盤『Wind』の再発とキャリア・ベストのコンピレーションをリリースする橋本徹(SUBURBIA)とファッション、音楽、文芸など様々なフィールドに精通する〈BEAMS〉の青野賢一を迎え、Gigi Masinの叙情性をフィーチャー。ツアー最終日の4/18(火)にはベテランDJ3人、〈Music From Memory〉初のコンピレーションも監修したChee Shimizu(Organic Music)、COMPUMAによるニューエイジ・セット、橋本徹のオープニングと、ライヴにやけのはら率いるアンビエント・ユニットUNKNOWN MEとTerre Thaemlitz主宰のレーベル〈Comatonse Recordings〉からDJ Sprinklesとシリーズのコラボレーション作品を発表したWill Long(Celer)を迎え、アンビエントを軸にバレアリックを拡張し、現代におけるGigi Masinの多様性をフィーチャーした電子音楽イベントの2公演が開催。

4/15(土)新潟公演は待望の新作を携えDustin Wong & 嶺川貴子とふたりの盟友でもあるASUNAが出演、4/16(日)大阪公演はリズム、メロディ、ロジックの3要素を主体とする岡本右左無と山田厭世観のパーカッション・デュオ、ダダリズムとDJには関西が誇る女性DJ威力とイベント主催のSAITO(Newtone)が出演、ツアー前日の4/11(火)にはDommuneも開催され、イントロダクションとしてGigi Masinのトークに名曲“Clouds”のリミックスも手がけた電子音楽作家Inner Scienceと様々なコラボレーションで目下精力的な活動をみせる中村弘二のアンビエント・プロジェクトNyantoraのライヴ、そしてやけのはらのアンビエント名義NOHARA TAROがDJで出演決定。

Gigi Masin Japan Tour 2017 (Full Lineup)

■4/11 (火) 東京 at Dommune | Gigi Masin - introduction -
START 21:00 DOOR ¥1,500
Talk: Gigi Masin w/ 橋本徹 & Chee Shimizu
Live: Inner Science / Nyantora
DJ: NOHARA TARO (やけのはら)

■4/12 (水) 東京 Shibuya WWW | Gigi Maisn - piano concert -
OPEN 19:00 / START 20:00
ADV ¥4,800+1D *全席座り (170席限定)
Ticket Outlet: e+ / Lawson [L:72573] / WWW店頭
Live: Gigi Masin
opening guest: haruka nakamura LABO
DJ: 橋本徹 & 青野賢一
more info: https://www-shibuya.jp/schedule/007624.php

■4/15 (土) 新潟 Sakyu-kan | experimental rooms #25
OPEN 17:00 / START 17:30
ADV ¥4,000円 / DOOR ¥4,500 / 県外 ¥3,500 / 18歳以下無料
Ticket Info: info@experimentalrooms.com
Live: Gigi Masin / Dustin Wong & Takako Minekawa / Asuna
DJ: Jacob
more info: https://www.experimentalrooms.com/events/25.html

■4/16 (日) 大阪 Grotta dell' Amore | Gigi Masin Japan Tour Osaka
OPEN 17:00 / START 17:30
ADV ¥3,900+1D / DOOR ¥4,500+1D
Ticket Outlet: Newtone Records (店頭/通販) / Meditations (京都) / Noon+Cafe (梅田)
Live: Gigi Masin / ダダリズム
DJ: 威力 / SAITO
more info: https://www.newtone-records.com/event.php?eid=715

■4/18 (火) 東京 Shibuya WWW | Gigi Maisn - balearic state -
OPEN 18:30 / START 19:00
ADV ¥3,300+1D / DOOR ¥3,800+1D
Ticket Outlet: e+ / Lawson [L:72573] / RA / WWW店頭
Live: Gigi Masin / UNKNOWN ME / Will Long
DJ: Chee Shimizu / COMPUMA *New Age set / 橋本徹
more info: https://www-shibuya.jp/schedule/007625.php


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《ツアー関連新譜リリース情報》

■3/20 (月) 発売
V.A – 『Music From Memory』
Compiled by Chee Shimizu [Music From Memory / ritmo calentito]

ジジ・マシン再評価を先導したオランダの新興発掘レーベル〈Music From Memory〉が Chee Shimizuとのコラボでレーベルのキャリアを総括する初コンピレーションをリリース!
more detail: https://calentitomusic.blogspot.jp/2017/01/rtmcd1237.html


■4/19 (水) 発売 ※東京公演会場先行発売
V.A. – 『Gigi Masin For Good Mellows』
Compiled by Toru Hashimoto for Suburbia Factory [SUBURBIA / disk union]

チルアウト・メロウ・ピアノ・アンビエントの最高峰、絶大な再評価を受けるイタリアの生ける伝説、ジジ・マシン(Gigi Masin)のキャリア集大成ベスト・コンピレーション『Gigi Masin For Good Mellows』誕生!
more detail: https://apres-midi.biz

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主催: WWW, Newtone Records, experimental rooms
協力: Music From Memory/calentito, SUBURBIA/disk union, ele-king/P-Vine, Organic Music

https://www-shibuya.jp/feature/007626.php

Basic Rhythm - ele-king

 Imaginary Forces としてドラムンベースの黎明期から活動を続けてきた Anthoney J Hart が、別名義 Basic Rhythm で突然USのレーベル〈Type〉からデビュー・アルバム『Raw Trax』をリリースしたのは昨年のことだ。『Raw Trax』は、ソリッドなドラムにベース、そして女性ヴォーカルのサンプリングが駆け抜ける。初期ジャングルの感覚を現代にアップデートし、140bpm に落とし込んだアルバムとも言えるだろう。
 リリース後はベルグハイン出演や初来日など、ツアーなどでも精力的に活動している。Radar Radio では Kwam や Darkos Strife といったグライムMCが参加する回もあれば、彼のダブプレートを含むジャングルを詰めた2時間もある。彼はUKの音物語(*)を自由自在に行き来しているように見える。

 ロンドンに帰ってきた彼から届けられた2枚目のアルバム『The Basics』は、BPMの幅を広げながら個性を存分に聴かせてくれた。

 前半の02.“E18”(東ロンドン郊外 Woodford 周辺を指す)ではグライムMCの声がサンプルされ、03.“Fake Thugs”では、Mobb Deep の口撃が使われ、MCのエネルギーが抽出される。04.“Silent Listener”、05.“Cool Breeze (Summer In Woodford Green)”では、サイン波の低音に混じってヒップホップ的なサンプリング・カットアップが織り込まれる。06.“Blood Klaat Kore”は、Basic Rhythm 版の攻撃的なグライム・トラック、そして最後のトラック08.“Night Moves”は、キックとベースと1発の効果音だけで4分攻め切る。

 来日時に彼と話したとき、もっとも衝撃を受けたのは「ドラムを組んで、ノイズを乗せて、それでよければ曲は完成だ」と話していたことだ。
 構造的にはけっして4×4ビートではないが、エレクトロニック・ダンス・ミュージックのダンスの機能性に忠実すぎるほどで、それがかえってアヴァンギャルドな作風を作り出している。女声ヴォーカルと男声MC、ドラムマシンとサイン波、一瞬の静寂。テクノ、グライム、ジャングル、Basic Rhythm はどの呼び名にもハマりきらない、モダンで荒いダンス・ミュージックを鳴らし続ける。

(*) Simon Reynolds による、UKの90年代の音楽に関する理論では、「UKハードコア連続体」の言葉で説明される。
The Wire 300: Simon Reynolds on the Hardcore Continuum: Introduction

The Necks - ele-king

季節の即興音楽、あるいは形式に還元されざる余剰の響き

演奏の展開はいつも同じで、まず手探りのようにはじまり、まんなかで盛り上がり、静かにおわる。この曲線がかならずついてまわる。これ以上の形式がないとしたらまったく空疎だとしかいいようがない。 ――ギャヴィン・ブライアーズ

 昨年の夏、とあるミュージシャンが率いるグループのライヴを観に行った話から始めよう。そこでは電子楽器とアコースティックな楽器が入り混じった7、8人ほどの演奏者たちによる、いくらか「決めごと」を設けられた即興アンサンブルが披露されていたのだが、演奏が開始したとき、もの凄く奇妙な体験をしたことをよく覚えている。まるでサイン波のような電子的な音を発する管楽器や声が、エレクトロニクスの響きと混ざり合い、どちらがどちらともつかないような、どの音がどの人間から発されているのかわからなくなるような、視覚的な風景と聴覚的な体験が撹乱されるような不可思議な音響空間が成立していたのである。「これはすごい! ここからどういうふうに展開していくのだろう」と思ってしばらくすると、しかしアンサンブルは、そのミュージシャンの音盤で経験したことのある「あの感じ」に近づきはじめていく。それぞれのプレイヤーが短いフレーズを繰り返すことで即興を織り成していくその演奏は、そこからは案の定「あの感じ」を追体験/再確認させるかのようにして、予想した通りの展開になっていった。探り探り始められたアンサンブルは盛り上がりをみせ、その後静かになっていき終了した。

 もちろん、音盤と同じ展開をみせるのは、なにも悪いことではない。むしろそのミュージシャンの変わらぬ個性を聴くことができた、と言うこともできる。しかしその日の演奏で素晴らしかったのはやはり、最初の段階でみられた「聴いたことのない」サウンドだったのだ。そしてこと即興演奏に関しては、互いの探り合いから始まり、それがノってくると盛り上がり、そこから終わりへ向けて静かに収束していく、という展開は、このミュージシャンに限らず広くみられるものである。

 こうした展開を前にして、即興音楽の形式の単調さに絶望し、作曲へと活動領域を移したのが、かつてデレク・ベイリーのもとでベーシストとして活躍していたギャヴィン・ブライアーズだった。たしかに言葉に還元してしまえば、多くの即興音楽はことほどさように単純極まりない形式をとっているようにみえる。じっさいに、こうしたある種の予定調和のような展開に安住する即興演奏家も少なからずいる。そのほうが展開を気にしなくていいぶん、より「自由」だとも言えるのかもしれない。だがしかし、同時に、言葉にしてしまえば単純だとしても、現実に鳴り響く音楽はより複雑で多様なありようをみせているものである。冒頭に書き記したライヴの体験でいえば、その展開と成り行きは「あの感じ」から逸脱するものではなかったのだとしても、少なくともその始まりの部分では、「探り探り」でありながら、この言葉には絡め取ることのできないようなサウンドに満ち溢れていた。そしてそうした言語化しえないような、還元された形式の外へと零れ落ちる響きを聴かせてくれるグループとして、たとえばここに、ザ・ネックスがいる。

 オーストラリア連邦最大の都市であるシドニーを拠点に活動してきたザ・ネックスは、ピアノのクリス・エイブラムズ、ベースのロイド・スワントン、ドラムスのトニー・バックという3人のメンバーによって1987年に結成された。かつて90年代の初めごろ、トニー・バックは日本とも交流をもち、大友良英らとともにバンドを組んでいたので、そこから彼らの存在に辿り着いたという日本のリスナーも多いのかもしれないが、とりわけ昨年の暮れにザ・ネックスは活動30周年を前にして初めての来日を果たし、東京、大阪、滋賀の3箇所でツアーをおこなったので、そのことから彼らの存在を知るに至った人も多いのかもしれない。東京公演にはわたしも駆けつけ、1時間近くも続けられるトリオ・インプロヴィゼーションに圧倒された。しかしながら彼らの音楽は言葉にしてしまうともの凄く単純である。メンバーのそれぞれが短いフレーズをひたすら繰り返す。彼らはそのフレーズを即興でゆるやかに変化させていく。時折フレーズ同士が絡み合い、グルーヴする場面もみられるが、無関係に並走することもある。3人ともにフレーズの繰り返しをおこなっているため、通常の即興演奏におけるような丁々発止のインタープレイはみられず、まるで植物の生長のような、あるいは広々とした空に流れる雲のような、じっと耳を凝らしていないと変化していることにさえ気づかないような緩慢な移り変わりを聴かせてくれる。それは静かな演奏から幕を開け、中盤では盛り上がりをみせ、また静かになって終えられる。

 ブライアーズが非難した単純極まりない形式である。けれどもそれは、予定調和と言ってしまうとちょっと違う。盛り上がった後に静まりかえって終わるのだろうなという予想はつく。しかし彼らの音楽は、その始まりからは予想だにしないような成り行きをいつも聴かせてくれるのだ。それはたとえば、緩慢な四季の移ろいが、春の後には夏が来て、秋の後には冬が来るとわかっていながらも、昨年の夏と今年の夏が異なっていることにも似ている。反復することが同じ結果をもたらすのではなく、繰り返すことが異なる結果をもたらすようなものとしての音楽。

 そんな彼らの19枚めのアルバムがリリースされた。リリース元は、1994年以来ザ・ネックスの音源を発表し続けてきた彼らの自主レーベル〈フィッシュ・オブ・ミルク〉ではなく、エレクトロニカ/電子音響作品で知られる〈エディションズ・メゴ〉の傘下にあり、Sunn O)))のスティーヴン・オマリーが監修するレーベル〈イデオロジック・オルガン〉である。過去の大半のアルバムでは1時間近くの長尺の演奏が1曲だけ収録されているというパターンが多く、それは74分間もの長さを記録することが可能なCDというフォーマットが、音楽の流通手段として人口に膾炙し始めたのと同時期に、ザ・ネックスが活動を始めたことと無関係だとは思えないのだが、ならばなおさら本盤が、2枚組LPおよび音源配信のみで出されているということは興味深い。収録されているのは15分ほどの曲が2曲、20分ほどの曲が2曲の計4曲で、それらはちょうどLPの片面の長さに相当する演奏である。だがCDというフォーマットの栄枯盛衰を眺め続けてきた彼らにとって、これがLPでリリースする初めてのアルバムというわけではなく、過去に『Mindset』(2011)『Vertigo』(2015)と2枚のLPアルバムを出している。

 ついでにザ・ネックスのこれまでの活動を音盤から振り返ってみると、彼らは1989年にファースト・アルバム『Sex』を発表し、同じフレーズが1時間近くも延々と続けられるその衝撃的な音楽を世界に提示した。しかし翌年にリリースされたセカンド・アルバム『Next』(1990)では早くもコンセプトをやや変えて、6曲の短い演奏(とはいえ、うち1曲は30分近くある)を、複数のゲストを迎えながら収めたものとなっている。続く3枚め『Aquatic』(1994)はそれから4年後にリリースされ、30分弱の、タイトルと同名の楽曲が2曲収録されているのだが、片方はトリオで、片方はハーディ・ガーディ奏者をフィーチャリングしたカルテットによる演奏。4枚めのアルバム『Silent Night』(1996)では1時間1曲というスタイルに戻り、しかしそれが2枚組アルバムとなって2曲まとめて発表された。その後は映画音楽を手掛けそのサントラ『The Boys』(1998)を出したり、ライヴ・アルバム『Piano Bass Drums』(1998)をリリースしながらも、スタジオ・アルバムとしては1時間1曲というスタイルが踏襲されていく(『Hanging Gardens』(1999)『Aether』(2001))。もちろん、同じスタイルとは言っても内容はそれぞれに異なるモチーフが扱われているためまったく別ものの演奏となっている。そして2002年にリリースされた4枚組のライヴ・アルバム『Athenaeum, Homebush, Quay & Raab』は、オーストラリアにおけるグラミー賞とも言うべきARIAミュージック・アワードにノミネートされた。続けざまにライヴ・アルバム『Photosynthetic』(2003)を出した彼らは、同年にリリースした『Drive By』(2003)でARIAミュージック・アワードのベスト・ジャズ・アルバムに選出されることになる。12枚めとなるアルバム『Mosquito / See Through』(2004)は2枚組で、木片が飛び散るような物音と力強いベースのグルーヴなどは、同じく1時間1曲の2枚組だった『Silent Night』を思わせもする。そしてさらに『Chemist』(2006)では2度めのベスト・ジャズ・アルバムに輝いてしまうのだ。同作品はそれまでのスタイルとは異なり、20分前後の楽曲が3曲収録されている。スティーヴ・ライヒmeetsロック・ミュージックな3曲め“Abillera”は、ポストロックにも通じるサウンドを聴かせてくれる。また、このあたりからドラムスのトニー・バックが積極的にギターも使用し始める。4枚めのライヴ・アルバム『Townsville』(2007)を挟んでからは、2曲収録されたLP作品『Mindset』(2011)を除いて、1アルバムに長尺の1曲というスタイルで『Silverwater』(2009)、『Open』(2013)、『Vertigo』(2015)の3枚の作品をリリースしていく。

 ここまで振り返ってみて興味深いのは、ゼロ年代の終わりごろを境にして、彼らの音楽性がやや変化しているということである。それまでは「リフ」とも言うべきベースとドラムスの具体的/音楽的なフレーズの反復を基盤にして、その上で主にピアノが装飾的な彩りを加えていく、というアンサンブルの組み方がなされていたのだった。場合によってはベースとドラムスは徐々に変化するということもなく、『Sex』のように全く同じフレーズを1時間ひたすら続けるということもあった。しかし『Townsville』あたりからそうしたスタイルに変化の兆しが見え始める。ベースとドラムスはともに同じリズムを奏でるのではなく、それぞれが独立し各々のフレーズをゆるやかに変化させていく。そのフレーズも具体的/音楽的というよりは、反復されることで初めてリズムやパターンを見出せるような抽象的/音響的なものとなっていく。『Open』や『Vertigo』などに顕著だが、リズムを生み出す下部構造としてのベース&ドラムスに対して彩りを添えるウワモノとしてのピアノ、というのではなく、むしろ三者がそれぞれリズムもサウンドも担いながら三様に変化していき、それらが絡み合いときに衝突しあるいは共振するアンサンブルといったものになっていく。その時点でザ・ネックスは結成からすでに20年以上経っているわけだが、彼らの音楽がクラウト・ロックやミニマル・ミュージックとは全く異質な独自のインプロヴァイズド・ミュージックとなったのは、むしろここからのようにも思える。しかも彼らはあくまでピアノ・トリオという伝統的なジャズ・フォーマットを踏襲した上でそれをおこなっているのである。新たな音楽性へと突き進むためにメンバーが次々に楽器を持ち替えていくというわけではなく。

 そして本盤『Unfold』はまさにそうしたザ・ネックスに独自の音楽が収められた現時点での最高傑作である。叙情的なピアノの旋律から幕を開ける1曲め“Rise”は、さらにオルガンの揺らめく響きとベースのアルコ奏法による持続音が漂うなかで、雨音のようにパラパラと叩かれるシンバルが絡み合い、終始穏やかな音の風景を聴かせてくれる。2曲めの“Overhear”では、アルコ奏法の持続音が鳴り響く一方で、ドラムスは速度感のあるパルスを刻んでいき、そしてそれらのサウンドの波に乗るようにしてオルガンは旋律を奏で続けていく。より「波」の形容が相応しいのは3曲め“Blue Mountain”だ。ベースは太い低音を出しゆったりとしたリズムを形成し、ドラムスは強くなったり弱くなったりするスネアやシンバルのロール奏法を聴かせ、そこにオルガンの揺らめきが加わるサウンドは、まるで打ち寄せては引き返していく浜辺の波のようでもある。だが後半では、ドラムスのリズムが速度を増していき、それに呼応するようにベースとピアノも変化することで、演奏の緊張感が高まっていく。その高まりを打ち破るかのように4曲め“Timepiece”は強烈な打撃音から幕を開ける。不規則なパルスがポリリズミックに絡み合うその演奏は、しかしながらしばらく聴いていると、ある周期で反復されているために一定のグルーヴを生み出しているのがわかるようになる。そこにオルガンが入ったサウンドは、どこかエレクトリック期のマイルス・デイヴィス・グループを彷彿させる。あるいはその揺らぎモタつくシャッフル・ビートは祭囃子のようでもある。それはいくつもの自動機械が置かれた工場のなかで、それぞれの機械が自らの周期で反復することから生まれる、空間全体のアンサンブルを耳にしていると形容することもできる。

 1時間に長尺の1曲だけが収録されたアルバムというのは、いかにも取っつき難そうに思えるかもしれず、その意味では本盤は、抽象化/音響化以降のザ・ネックスの音楽が、それぞれに特徴的な4つの楽曲として、LP片面というほどよい短さで収録された、彼らについて知るための導入口として打って付けのアルバムになっている。ちなみに余談だが、本盤に収録されている楽曲の長さを合計すると74分40秒弱になり、CD初期の収録可能時間74分42秒とほぼ一致する。それが偶然の産物なのか意図的に編集されたものなのかは定かではないものの、たとえLPというフォーマットでリリースされた「ほどよい短さ」の楽曲であったとしても、ザ・ネックスの音楽にCDのフォーマットが纏わりついているという事実は、基本的にはアコースティックなピアノ・トリオでありながら、多重録音やプログラミングにも取り組んできた彼らの、音響テクノロジーとの関わりを象徴的に示しているように思える。この30年はザ・ネックスの活動の軌跡であるとともにCDというフォーマットの栄枯盛衰の歴史でもあったのだった。生きた即興音楽を録音するとは如何なる行為なのか? それは避けられるべき演奏を殺す行為なのだろうか? 少なくともザ・ネックスにとってそれは、彼らの表現を成立させるための基盤になってきた条件のひとつであった。彼らの即興音楽はCDになることで死物と化するのではなく、むしろそのフォーマットによって生み出された身体感覚を備えることではじめて可能になるような特異性を内包している。それはLPでは短すぎ、音声ファイルでは際限がなさすぎるのである。そうした特異性の影が、「ほどよい短さ」であるLPの片面に収められた演奏にも、ひっそりと刻印されていると考えることはできないか。余談が過ぎたようだ。ともあれ、これまでとはレーベルを変えて出されたということも含めて、活動を始めてから30周年を迎えたザ・ネックスにとって、本盤のリリースが画期となる出来事であることはあらためて述べるまでもないだろう。

 最後に付言しておくと、ザ・ネックスの音楽にじっくりと耳を傾けてみるならば、ここまで述べてきたような様々な発見と出会いと驚きがあるものの、かといってバックグラウンド・ミュージックのように聞き流すことができないものであるというわけではない。その点では、集中的聴取に耐え得る強度を備えた音楽でありながら、同時にその場の空間に溶け込んでしまうこともできるような特徴もあるという、「環境音楽」(ブライアン・イーノ)としての側面を備えている。聴感的にもアンビエント・サウンドやポスト・クラシカルな傾向と共振するものがあるとも思う。とはいえ、やはり彼らの音楽はあくまでも「即興音楽」なのである。少なくともこの側面なくして彼らの音楽は成立することはないだろう。なぜなら事前に音を配置しては決して得られることのないようなサウンドの移り変わりこそが、ザ・ネックスの音楽に特有の独自性であると言うことができるから。そしてそれはやはり、変わりゆく移ろいそのものの美しさというものであり、あるいはわたしたちが気づかぬ間にそこで生成し変化していき、ふと振り返ると美しく佇んでもいるような、迷路のように複雑に入り組んだ「季節」に似ている。

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