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Dasychira

ElectronicExperimentalIDM

Dasychira

Immolated

Blueberry Recordings

bandcamp iTunes

小林拓音   Apr 20,2017 UP

 言葉は便利だ。とりあえず「OPN/アルカ以降」と言っておけばいい。いやもちろん、OPNとアルカを一緒くたにしてしまうのはいささか乱暴だとは思う。でも、そういう言い方をすることで伝わる何かがあるのもたしかだ。じっさい「OPN/アルカ以降」としか形容しようのないサウンドというものもある。けれど幸か不幸か、まだそういうサウンドを的確に指し示す言葉は発明されていない。ヴェイパーウェイヴだとか、ウィッチハウスだとか、ブロステップだとか、これまでいろいろと言葉は編み出されてきたけれど、こと「OPN/アルカ以降」に関しては、いまだに適切なタグが生み出されていないと言っていいだろう。言葉は便利だけれど、いつも少し遅れている。

 そんな「OPN/アルカ以降」という大雑把なくくりのなかで、アッシュ・クーシャと並ぶくらいのポテンシャルを感じさせてくれるのが、このダシキラだ。フォルティDLの主宰するレーベル〈Blueberry Records〉からリリースされた彼のデビュー作「Immolated」は、まさに「OPN/アルカ以降」の王道を行く作品である。
 蛾の一属の名称を自身のステージネームとして使用するこの風変わりな男は、本名をエイドリアン・マルテンス(Adrian Martens)と言い、南アフリカ出身で、ニューヨーク在住のプロデューサーだ。ちなみに南アフリカといえば昨年はゴムが話題になったけれど、特にその周辺と接点があるわけではない模様。

 「生贄」と題されたこのEPは、全体的に冷たく硬質で、ダークなムードに貫かれている。2曲めの“Caduceus”なんて、イントロからもうktkr感満載である。まさにOPNとアルカが仲良く同居しているかのようなトラックで、ときおり挿入される鋭いサウンドは虫の鳴き声を表現しているようにも聴こえる。4曲め“Sensation”も同じ路線で、インダストリアルな電子音がこれまた虫の鳴き声のように耳に突き刺さる。小さな箱に閉じ込めた虫さんを自らの手でじわじわとなぶり殺しにしている場面の生々しいドキュメントとでも言おうか……『進撃の巨人』の殺戮シーンが好きな人ならきっと気に入るだろう。6曲め“Sanctuary”でも、細かく切り刻まれたサウンドたちがまるで殺されゆく者の悲痛な叫びのように鳴り響いている。

 それらの曲とは打って変わって、ブルックリンのシンガーソングライター Embaci がフィーチャーされた先行公開曲“Vipera”では、その神秘的なヴォーカルが支配の実権を握っており、もの悲しげな鍵盤と相まってひと味異なる雰囲気を醸し出している(が、ここでもやはり細かい音響がなんとなく虫の立てる雑音のように聴こえる)。タイトル曲の“Immolated”もノイズとオリエンタルなメロディが奇妙なコミカルさを演出していておもしろい。

 しかし、ダシキラというステージネームといい、「Immolated」というタイトルといい、このアートワークといい、彼は虫に対して何か特別な想いを抱いているのだろうか? ググってみると、カマキリの生活環がどうとか、死んでいく昆虫の瞬間がどうといった話がヒットするので、おそらく何かしらコンセプトはあるのだろう。カドゥケウスはヘルメスの杖だし……
 ところで虫の第一人者と言えば、個人的には真っ先にミラ・カリックスを思い浮かべるのだけれど、彼は彼女の音楽を聴いたことがあるのだろうか? もしインタヴューする機会に恵まれたら、OPNやアルカについてよりも先に、まず虫について尋ねてみたい。

小林拓音