ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Wool & The Pants - Wool In The Pool (review)
  2. Grischa Lichtenberger - Re: Phgrp (Reworking »Consequences« By Philipp Gropper's Philm) (review)
  3. Adrian Sherwood, Roots Of Beat & Exotico De Lago ──エイドリアン・シャーウッドの来日公演にオーディオ・アクティヴ、ドライ&ヘヴィの面々からなる新バンドが出演、エキゾティコ・デ・ラゴも (news)
  4. Hair Stylistics ──2004年のファーストが初めてヴァイナルでリリース (news)
  5. interview with BBHF 歓びも、悲しみも痛みもぜんぶ (interviews)
  6. Mall Boyz ──Tohji 率いる Mall Boyz が全国ツアーを開催 (news)
  7. Danny Brown ──ダニー・ブラウンがまもなくリリースされるアルバムより新曲のMVを公開 (news)
  8. マスターズ・アット・ワーク来日直前特別対談 時代を越える存在──DJ NORI と Dazzle Drums が語る MASTERS AT WORK (news)
  9. Neue Grafik Ensemble - Foulden Road (review)
  10. Alva Noto & Ryuichi Sakamoto ──アルヴァ・ノト&坂本龍一がライヴ盤をリリース (news)
  11. TNGHT ──ハドソン・モホークとルニスによるユニットが6年ぶりに再始動、独自企画盤CDをリリース (news)
  12. Nightmares On Wax ──ナイトメアズ・オン・ワックスが来日 (news)
  13. interview with KANDYTOWN 俺らのライフが止まることはないし、そのつもりで街を歩く (interviews)
  14. Columns JPEGMAFIA『Veteran』の衝撃とは何だったのか (columns)
  15. クライマックス - (review)
  16. Columns Stereolab ステレオラブはなぜ偉大だったのか (columns)
  17. Madame Gandhi - Visions / Various Artists - Manara International Presents: The Ultimate Spice Mix (review)
  18. The Art Ensemble of Chicago - We Are on the Edge: A 50th Anniversary Celebration (review)
  19. Local X9 World Hyperdub 15th ──15周年を迎える〈ハイパーダブ〉が来日ショウケースを開催 (news)
  20. NITRODAY × betcover!! ──ミニ・アルバムを発売したばかりのニトロデイがツアーを開催、ninoheon の参加も決定 (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Arca- Mutant

Arca

ElectronicHip HopIndustrial

Arca

Mutant

Mute / トラフィック

Tower HMV Amazon

木津 毅橋元優歩   Nov 16,2015 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加
12

禍々しい美
木津毅

 faggot、すなわちカマ野郎――という言葉が消えていく。性の多様性が正しいこととなっている現在において、不適切な単語はより無難で口当たりの良いものによって覆い隠されていく。まるで「カマ野郎」への侮蔑も消え失せてしまったかのように……。だが、まだそのワードに出くわすところもある。インターネットと、そしてアルカの新作である。
 アルバムの最後から3曲めに収められた、アルカにおけるアンビエンスがより追求されたそのトラック、すなわち“ファゴット”がなぜそのタイトルとなったのかまず自分は引っかかった。抽象的かつインダストリアルな感触の残るビートと複雑に折り重なっていくように鳴らされるほのかに東洋的なメロディとピアノの単音。アルカの入り組んだ美への探究は明らかにここで繊細な進化を見せている。このトラックを“ファゴット”と名づけずにはいられないところに彼のアーティストとしての姿勢が見て取れるが、これに呼応するのはアルバム・タイトルでもある“ミュータント”だろう。そこで金属音は地を這いずり回っている。それはミュータントなる生命体がもがき苦しんでいる姿が音像化されたようであり、そしてそれはもちろん、前作のタイトル『ゼン』から連なる、無性の生命体――アレハンドロ・ゲルシが変身した姿である。

 その作品においてセクシャリティが抜き差しならない問題となっている点、あるいは進んで異形の者であろうとする点において、アルカは現代のエレクトロニカにおけるアントニー・ハガティである。『ゼン』においてはおもにアートワークからその連想をしたのだが、『ミュータント』においてはむしろ音からそのことを思う……よく歌っているアルバムだからだ。もちろん、相変わらず圧倒的な情報量がおもにビートにおいて分裂的に次々と姿を変えていくのだが、ゲルシが奏でるメロディはトラックによって色を使い分ける彼自身の声のようであり、それらは本作でよりダイレクトに体感できる。4曲め、“シナー”でガシガシした打撃音の上からピアノの音が降り注いだかと思えば、“スネイクス”や“フロント・ロード”のようにはっきりとしたメロディ・ラインが牽引するトラックもある。そしてそれらはとてもエモーショナルだ。内省的だった『ゼン』と対比すれば、ファッション・ショウのために書き下ろされたためある意味で企画ものだった『シープ』を挟み、より外交的でそのポップ・センスが磨かれたアルバムだと言えるだろう。ほぼノン・ビートの“エルス”の静謐さなどに顕著だが、クラシックへの素養をさらに前に出し、その優美さも高めている。チェンバロやハープを思わせる音色。“グラティテュード”から“エン”へと至る、荒々しく吹き荒れるエディットのなかで陶酔的なメロディが宙を回り続けるときの息を呑むテンションこそが、アルバムのピークを描いていく。それはミュータントのエクスタシーだ。
 アルカ本人が出演する本作の一連のヴィデオによく表れているが、身体ごとさらけ出し、自身の深い、そしてたぶんに抑圧されていた官能をゲルシはここで解放し飛翔させようとする。OPNやD/P/I/よりもストレートに感情のひとだろうと思うし、その異物感において、オート・ヌ・ヴの『エイジ・オブ・トランスパレンシー』の狂おしさと並べられるものであるとさえ思う瞬間もある。前提として自らを忌避されるような存在――「ファゴット」と呼ばれるような――と規定し、ときに過度にグロテスクなものとして現れつつ、しかしそこから立ちのぼる禍々しい美でアルカはわたしたちを引きずりこんでしまう。

木津毅


» Next 「赤いやつの進撃」(橋元優歩)

12