「UR」と一致するもの

alt-J - ele-king

 2012年のマーキュリー・プライズを受賞したalt-J。というのが彼らのレヴューの普遍的なオープニング文のようだが、ele-king的にいえば、2012年ele-kingベストアルバム・ランキングで16位。わたし個人のリストでは2位だったalt-Jのデビュー・アルバム『An Awesome Wave』に次ぐ2作目が『This Is All Yours』だ。
 あれ? ほんでわたし1位は何にしてたんだっけ。と見てみると、パンク母ちゃんだのロックばばあだの言われているわりには、1位はジャズ系じゃん。と気づいたが、やっぱそれはロック系よりそっち側の人たちのほうが全然おもしろかったからだろう。
 が、alt-Jは相変わらずクールだ。彼らはジャズに負けてない。

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 だいたい日本の地名を曲の題名にするにしても、彼らは“Nara”だ。京都でも、大阪でも、神戸ですらない。緑の芝の上で鹿が寝そべっている日本の古都、奈良を背景に、ジョー・ニューマンが「ハレルヤ、ハレルヤ」と独特のとぼけた哀愁のある声で歌う。フォーク・ステップと呼ばれるサウンドを生んだバンドの面目躍如といったところだろう。実際、2曲目“Arriving Nara”と3曲目“Nara”から、最終曲“Leaving Nara”まで、どうやら本作のalt-Jは、全編を通じて奈良を散策しているらしい。
 ギターの音が前面に躍り出て、ピアノ、フルート、鐘の音などが印象的に散りばめられている本作は、フォーク・ステップのフォークの部分が前作より遥かに強くなっている。よって前作の独特のアーバン・ギーク感は希薄になっているが、聴いているとサウンドから脳内に立ち上がる光景がやけに広がるようになった。というか、リスナーの意識が広がるというべきか。Alt-Jは本作で「マッシュルーム・ステップ」に移行した。と言う人がいるのも頷ける。チル。と呼んでしまうには、なんかこの眼前に広がる森林はドラッギーでいかがわしい。
 
 歌詞もまた、相変わらず淫猥である。

ハレルヤ、ボヴェイ、アラバマ
他の誰とも違う男と 僕は結婚する“Nara”

 アルバムの初頭では、同性愛婚を違法としているアラバマ州や共和党の創設者の1人ボヴェイの名を出したりして、芝に寝そべる鹿を眺めながらホモフォビアについて思索しているようだ。が、奈良を去る頃には

ハレルヤ、ボヴェイ、アラバマ
僕は恋人のたてがみの中に深く手を埋める“Leaving Nara”

 と想いはしっかり遂げたようだし、

女性の中に転がり入る猫のようにあなたの中に侵入したい
あなたをひっくり返してポテトチップスの袋みたいに舐めたい “Every Other Freckle”

 に至ってはもう、いったい彼らは奈良で何をしているのか。
 おタクのセクシネスが濡れぼそった森林の中から立ち昇るようではないか。
 音楽的な実験性いう点で、彼らはよくレディオヘッドと比較される。『ピッチフォーク』に至っては「レディオヘッドの2番煎じ。ギターとコンピュータが好きなUKバンド」などと乱暴に決めつけているが、わたしに言わせれば両者は似ても似つかぬ別物だ。
 alt-Jには、独りよがりではない、コミュニケイト可能な官能性があるからである。
 「ギターとコンピュータが好きなUKバンド」と『ピッチフォーク』が呼ぶジャンルの音楽、即ちナード・ロックを大人も聴けるセクシーな音楽にしたのはalt-Jである。

alt-Jの音楽は70年代のプログレッシヴ・ロックともよく比較される。が、わたしにとってプログレとalt-Jもまったくの別物だ。alt-Jの醒めた目で細部までコントロールし尽くしたサウンドは、自己耽溺性の強いプログレとは異質のものだからである。
前衛的インディー・ロックをすっきり理性的なポップ・ミュージックにしたのもalt-Jなのである。
 今年のUKロックは団子レース状態で似たりよったりゴロゴロ転がっていた。としか言いようがない。が、わたしはalt-Jには大きな期待を寄せている。
 セクシーさというのは、知性ではなく、理性のことだな。と最近とみに思うからだ。
 そして蛇足ながら、『ピッチフォーク』の評価とUK国内での評価が極端に違うUKバンドや個人ほど見どころがある。ということはもう広く知られていることだろう。

interview with Shin Sasakubo + Dai Fujikura - ele-king

 現代音楽という、「芸術音楽」の最前衛の世界で活躍する藤倉大は、これまでに数々の受賞経験を持ち、現代音楽界の巨匠であるピエール・ブーレーズにも認められた、現在の日本を代表する作曲家のひとりである。かたや笹久保伸は、ペルーでアンデス音楽を習得し、帰国してからは「秩父前衛派」なるユニットを立ち上げ、昨今盛り上がりつつある秩父における芸術運動に先鞭をつけるギタリストだ。このまったく出自の異なるふたりを結びつけたのは、音楽に対する態度、すなわち「売れるもの」をまるで忘れて音楽に没頭してしまうという姿勢に、共振するものがあったからだという。ロンドン在住の藤倉と秩父在住の笹久保が、一度も顔を合わせることなく『マナヤチャナ』を完成させ、そしてついに対面を果たした。このインタヴューが行われたのは10月10日であるが、その前日に、ふたりは初めて「出会った」のである。


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■笹久保伸+藤倉大『マナヤチャナ』
作曲家、ギタリスト、映画監督として活動する笹久保伸と、イギリスを拠点に活動する作曲家、藤倉大。フェイスブックで出会ったというふたりが、それぞれ秩父とロンドンからデータを送りあって制作したというサウンド・インスタレーション作『マナヤチャナ(未知のもの)』が本年9月にリリースされた。笹久保がギターのサンプルを藤倉に送り、それにエレクトロニクス処理を藤倉が加えて笹久保に戻し、それをもとにさらに笹久保がパーツを録音して送り……という作業の果てに生まれた9曲にはケチュア語の曲名がつけられ、ワールド・ミュージックにジャズやポップスが溶け合いながら、エレクトロニカやアンビエントとしても楽しめる異色の作品となっている。

『マナヤチャナ』みたいなお金にならない制作をやっちゃったりとかしているけど、そういうことをする人はあまりいないんですよね。だから僕たちは似ているなって思ったんです。(藤倉)

おふたりが実際にお会いしたのは昨日が初めてなんですよね?

藤倉:そうです。

笹久保:昨日初めて直接会って、声も聞きました。電話すらしたことなかったので。

対面してどう思われましたか?

笹久保:Facebookでずっとやりとりをしていたのと、お互いの音楽を通じて人柄はわかっていたので、予想通りといいますか。べつに予想も何もしてなかったですけど。そのままでしたね。

藤倉:音楽って自分のDNAが紛れ込んでいるというか、本質を見せちゃうものなので、自分を隠せませんからね。どういう人なのかっていうのは、そういう面で僕もわかっていました。

『マナヤチャナ』は、Facebookで笹久保さんが藤倉さんに声をかけるところから制作がはじまったんですよね?

笹久保:そうですね。ただ、制作をはじめるために声をかけたわけじゃないです。藤倉さんがこれまでに作曲したギターの曲は“Sparks”というものしかなくて。それはクラシック・ギター・ソロのための曲なんですけど、1分くらいのすごく短い曲なんですよ。だから他にギターのための曲はないのかなと思って、今年の2月ぐらいにFacebookで問い合わせてみたんですよ。新曲があるのかないのか。もしくは新曲はどういうふうに、どんな経緯で依頼したら書いていただけるのかとか。

“Sparks”は、デレク・ベイリーふうのハーモニクスからはじまって、でもそのいわば乱雑なフレーズが繰り返されるという、緻密に構造化された楽曲ですよね。笹久保さんは“Sparks”を聴いてどう思われましたか?

笹久保:あの曲はおもしろいんですけど、すごく短い。たとえばコンサートの中でどのような扱いで弾くかっていうのが難しいんですよ。「これが藤倉大の曲だ!」って提示するには難しい。藤倉さんもあれは自分の作品をつくるというか、ギャラがない仕事で頼まれて作ったんですよね?

藤倉:そう、チャリティーだからね。

笹久保:だから、藤倉大のギター音楽のエッセンスがすごく凝縮されて入っている1分というわけでもないだろうなと僕は思ったんですよ。あれを聴いて。曲はおもしろいんですけどね。

演奏時間の長い“Sparks”的なものを求めたということですか?

笹久保:“Sparks”っぽくても、全然関係なくてもいいですけど、ギターのための作品で気合を入れて書いたものがあったらすごくいいなと思ったんですよ。まぁ、誰しもがそう思っているんじゃないでしょうか。でも、そこでもし仮にそういうギター曲がすでにあったなら『マナヤチャナ』はやってないんですよね。

藤倉:だろうね。

笹久保:だから、よかったな、とも思いますけどね。

藤倉:そうかもしれない。

笹久保:ギター曲があったら「あ、じゃあこれ弾いといて」みたいな(笑)。

藤倉:「はい、これ」って言って(笑)。

笹久保:2000円で買ったりして。「ありがとうございます」って言って終わっていたと思いますね。

藤倉:いやいや、もう、あげますよ。

藤倉さんはそこで笹久保さんのためにギター曲を書こうとは思わなかったんですか?

藤倉:いや、そう思ったんですよ。でも……。

笹久保:こういう国際的に活動している作曲家に、パッと曲を書いてくれと言ったからといって、書いてもらえるわけじゃないんですよ。それは所属している事務所のこととか、さまざまな問題がある。

藤倉:笹久保くんに限らず、そうやって言われたら、委嘱をしてくれる場所とそれを初演する音楽祭とかいろんなところをあたってみようってことになるんですよ。助成金の申請なんかもして、だいたい1、2年。クラシック音楽の世界って2年先までロックされていることが普通なんで。いま僕が進めている仕事の話は2016年か2017年のものですね。2015年なんてもう全部決まっていますから。ほんとに時間がかかるんですよ。

笹久保:僕はその当時、まぁ今年の2月ですけど、そのころコンサートイマジンっていう事務所にいまして、藤倉さんは別の事務所にいて。ギター曲を書いていただくとなると、個人的にできるような規模じゃないから、事務所同士が協力して、藤倉さんに委嘱して、海外のフェスティバルなり特別なコンサートなりでブッキングしなければならない。そうやってお金を発生させて、藤倉さんには委嘱費がいくし、僕にもギャラがいくと。そういうことができるかどうかを相談していた翌日に、僕が事務所を辞めまして。それはただ辞めただけなんですけど、それでその話は成立しなくなってしまった。

藤倉:びっくりだよね。Facebookで「辞めます」って言うから。「え!?」みたいな(笑)。

笹久保:そうそう。だからそこで委嘱するっていう話は終わって。でも「なんかできるんじゃないの?」って藤倉さんが言ってくださって、じゃあとりあえず15秒ぐらいのサンプル音源でも送ってなんかはじめようってなったんですよ。


委嘱するっていう話は終わって。でも「なんかできるんじゃないの?」って藤倉さんが言ってくださって、じゃあとりあえず15秒ぐらいのサンプル音源でも送ってなんかはじめようってなったんですよ。(笹久保)

藤倉:笹久保くんはギタリストであるだけじゃなくて、生活を切り詰めて、レーベルの運営もしている(CHICHIBU LABEL https://www.ahora-tyo.com/)。僕もそうなんですよ。身を削りながらレーベルの運営もしているし。だからお互いに似ているなって思った。やっぱり自分の生活を音楽のまえに置かない人ってけっこう多いんですよ。インタヴューで綺麗なこと言ってても、実際は。

笹久保:じつは音楽優先じゃないってことですよね?

藤倉:うん。だから僕なんかは、笹久保くんも話をきくとそうみたいなんですけど、来月の家賃とかどうなるかわかんないなって思いつつ、『マナヤチャナ』みたいなお金にならない制作をやっちゃったりとかしているけど、そういうことをする人はあまりいないんですよね。すごい高いクルマとか乗ってるのに。だからそういうことしない人が多い中で、僕たちは似ているなって思ったんです。『マナヤチャナ』なんかは誰かが依頼しているわけじゃないですから。1ヶ月かけて作ったんですよね?

笹久保:そうですね。

藤倉:できちゃったんですよ。

笹久保:もちろん1ヶ月で終わらせるつもりじゃなかったんですけどね。

藤倉:合間にやるってことですよ。

笹久保:仕事の合間にちょっとずつやっていって、いつかアルバム1枚分ぐらいになったら、どこか、まぁ自分たちで出そうかって言っていたんですよ。

アルバム・リリースをするために作ったのではなく、気づいたらそれだけの量ができてしまっていたということですか?

藤倉:そうですね。アルバムみたいになっちゃったからね。笹久保くんが秩父でやっているレーベルはCDを作っていて、僕のレーベルはデジタル配信だけなんですよ。でも世界配信。だからもし自分たちで出すのであれば、盤は〈CHICHIBU〉で作って、僕はデジタル配信をやればいい。

笹久保:3秒ぐらいで話が終わりますよね。

藤倉:ビジネス・ミーティング3秒で終わる、みたいな(笑)。

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強いて言えば藤倉さんがやったことは全部狙ってやっていますよね。考えて作っている。そういう意味では、逆に僕がやっていることは何も狙っていないと言えるかもしれない。(笹久保)

『マナヤチャナ』では、ギターにプリパレーションを施していたり、調弦を変則的なものにしたり、素材の段階からさまざまな試みがなされていますよね。

笹久保:プリペアド・ギターはかなり考えて弾いたんですよ、じつは。ジョン・ケージみたいにどこに何を置いたらどんな音がするのか、メモしながらやったわけじゃないですけど。あと素材は多ければ多いほどいいだろうなとは思いました。あとで何かをする上でも選べるじゃないですか。

藤倉:僕の選択肢は多くなるからね。

笹久保:そういう意味で素材のヴァリエーションを豊富にしたほうがいいとは思いました。でもそれよりも、それ以前に、僕が出したい音っていうのがあって、それをいろんなパターンで録音したってことですよね。

藤倉:断片ですよ。たくさんの断片。

笹久保:僕が録音した素材を使って藤倉さんが何をするのかは、その時点ではどうでもよかったっていうことなんですよね。自分にできることをまずやった。僕がいちばん最初に録音したわけですからね。

藤倉:もうほんとに盛りだくさんだったよね。

笹久保:ものすごい量の音源を送ったんですよ。そこから藤倉さんがどんどん引き算して。たとえば僕が2時間の音源を送ったとしたら、藤倉さんはその中の3秒ぐらいを使って、引き伸ばしたりしながら加工していく。

藤倉:たとえばその中のひとつの、プリペアドしたときのギターの音を聴いたときに、笹久保くんが普通のギターで弾いているサウンドを、まぁ古典的な手法ですけど、リングモジュレーターとかに入れたら、プリペアド・ギターと同じような音が出るだろうなって思ったりしたんですよ。それでいろんなサンプルを作っていった。音源をね、1音ずつ。それを組み合わせてやると、プリペアドしているのかエレクトロニクスの音なのかわからないようなトラックができあがる。

素材の音なのか加工された音なのか、聴き手が混乱してしまうようなことを、狙って作っていったということですか?

藤倉:もちろん。

笹久保:強いて言えば藤倉さんがやったことは全部狙ってやっていますよね。考えて作っている。そういう意味では、逆に僕がやっていることは何も狙っていないと言えるかもしれない。

藤倉:あぁ、そうだよね。

笹久保:藤倉さんは僕が録った素材をもとに作曲をしているわけですから。

藤倉:素材を聴いたときに、作曲する手法だとか使うソフトとかが一気に思い浮かぶんですよ。「あ、これだ!」って。

笹久保:リミックス・アルバムとかありますけど、たとえば誰かが演奏したものにビートをつけてとか、ちょっと加工してみたいな、そういうのとはぜんぜんちがうものですよね。あと人によってはシンセサイザーの音を重ねているんじゃないかって言いますけど、このアルバムに入っているすべての音が僕のギターをもとに作られている。歌は別ですけどね。

藤倉:もとからある音色をそのまま使ったりしているわけじゃないんですよ。すべてギターから作っているわけですから。ほわ~っていう音もギターなんですよ。


リミックス・アルバムとかありますけど、たとえば誰かが演奏したものにビートをつけてとか、ちょっと加工してみたいな、そういうのとはぜんぜんちがうものですよね。(笹久保)

それはもう現代音楽の、電子音楽のスピリットですよね。(藤倉)

編集的な態度というよりも、作曲家的な態度で音を置いていったということですか?

藤倉:編集っていうようなものじゃないですよね。笹久保くんが普通に弾いているフレーズとかでも、1音だけとったりするわけですから。1音どころか、波形にしてハーモニクスの上の部分だけを取り出してループさせたりとか。それで10秒ぐらいになったのを、またちがうエフェクトで加工したり、それをさらに引き伸ばしたり。それはもう現代音楽の、電子音楽のスピリットですよね。ポップスの人たちが編集する感覚とはちがいますね。

そこにまた笹久保さんがギターを重ねていったんですよね? それは音源を聴いて、音に合うように考えてギターを弾いたんですか?

笹久保:考えてないですね。ほとんど録り直しとかしないで、聴きながらぱぱって、即興的にやっていったんですよ。

藤倉:弾く前にバッキング・トラックは聴いてんの?

笹久保:聴かないでやっていたかもしれないですね。

直接会うことなく、インターネットを通じて音楽制作を行うことに利点あるいは欠点があるとすれば、それはどのようなものだと思いますか?

藤倉:欠点なんかないんじゃない?

笹久保:まぁ、たまたまこういう方法になっただけですよね。

藤倉:うん、だって僕がもし秩父に住んでいたら、普通に会って録音していたよね。というか会う会わないっていうことはあんまり重要じゃないんじゃないですか?

笹久保:藤倉さんが日本にいてもメールでやっていたかもしれないですよね。

藤倉:そうそう。直接会う必然性が感じられなければそうなるよね。そっちで録音したものを送ればいいだけだし。ただ、会っていっしょにやったりしていたらよくなかったかもしれない。なんでかというと、その時間に僕はそういうモードじゃないかもしれないし、笹久保くんもそうかもしれないから。

笹久保:そうですね。

藤倉:べつに締め切りがあるわけでもないし、さっきも言ったように誰にも頼まれていないアルバムなので、できるときにやればいい。だから笹久保くんに大きな仕事がきて、あと2ヶ月できませんって言われてもべつに問題なかったし。他にやることもあるわけだからさ、笹久保くんも僕も。だからその合間にやったっていうことですよ。ただ、膨大な時間を無収入のプロジェクトにかけて来月大丈夫なの? っていうのはありましたね。うちの奥さんとかはすごく心配していたけど。

制作においてとくに気をつけたことはありましたか?

藤倉:引き算的な発想って言ったらいいんですかね。デイヴィッド・シルヴィアンのようなポップスの人たちと共同作業を行って思ったんですけど、クラシック音楽の世界とポップスの世界ってぜんぜんちがうんですよ。ポップスの人たちは足し算的な発想で物事を進めていく。そういう音楽はすごくシンプルなんですけど、僕はそういうところから来てなくて。僕にとってはそうやって足すのは邪道なんですよ。たくさんの素材からご馳走を作るんじゃなくて、たとえば一本のニンジンからご馳走を生み出すようなところに、創作があると思っているんです。だから素材であるギターの音にこだわったっていうのはありますね。それで絶対に全部やるっていう。笹久保くんの音楽をリミックスする、という感覚とはまったくちがう。


たくさんの素材からご馳走を作るんじゃなくて、たとえば一本のニンジンからご馳走を生み出すようなところに、創作があると思っているんです。だから素材であるギターの音にこだわったっていうのはありますね。(藤倉)

笹久保:ぜんぜんリミックスじゃないですよね。

藤倉:このアルバムのどこを僕が作っていて、どこを笹久保くんが作っているのか、っていうのはわかんないよね。

笹久保:作業の量から言ったら、僕が10%で、藤倉さんが90%っていう感じですけどね。

藤倉:そんなことないよ(笑)。作業の方向性がちがうし。なんというか、たとえばコラボレーションで誰かが楽器を弾いて、もう一人がエレクトロニクスを乗せたとか、そういう感じではないんですよね。お互いの作業がもっと複雑に絡み合っている。一回弾いてそれを渡して、もう一人が加工してそれで意見言うってわけじゃないですから。だって笹久保くんはまた弾かなきゃならないから。それで僕のところにまた返ってくる。だから本当の意味でのコラボレーションですよ、これって。

笹久保:そうですね。

藤倉:あと誰かとコラボレーションするときって、やっぱり「これ俺のアルバムだから」とか言う人がいるわけですよ。最終的にはその人に従わなければならない。でも僕らの場合はそういうんじゃなくて、音遊び以外のなにもなかったですよね。

笹久保:はい。

藤倉:べつに出さなくてもいいわけだし。

笹久保:なんか自分のアルバムって主張する必要もなかったし。

藤倉:だって笹久保くんは他で自分のアルバムを作っているじゃない。僕も他のところで自分の作曲をやっているんで、自分の色がもっと出ないとダメだとかそういうのはぜんぜんなかったですよね。

笹久保:なかったですね。そういうことはどうでもよかったですね。

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笹久保くんの南米的なバックグラウンドとかを学べたらいいなと思って。最初に笹久保くんから送られてきた素材には南米のものはなかったんですよ。まったく。(藤倉)

仕事として依頼されたわけでもないのに、笹久保さんとコラボレーションをすることの魅力というのは、どのような部分にあると思いますか?

藤倉:僕も笹久保くんも一人で曲を作れるんですよ。誰かに手伝ってもらう必要もないんです。なのにわざわざコラボレーションをするのは、相手から学ぶことがあるからですね。それがないと、時間の無駄だと思ってしまう。他に書かなきゃいけない曲がたくさんあって、それは僕の生活にかかっているんですよ。家賃とか。だからそっちを早く終わらせて楽譜を送るっていうのが普通なんですけど、今回のようなコラボレーションがあると、そうしたことが1ヶ月停止状態になるわけじゃないですか。それでもやりたいと思ったのは、笹久保くんの南米的なバックグラウンドとかを学べたらいいなと思って。最終的には学べたんですけど、最初に笹久保くんから送られてきた素材には南米のものはなかったんですよ。まったく。なんでないんだよって思って、笹久保くんが弾いたやつの断片をループさせて南米っぽいトラックを作った。笹久保くんに「南米っぽく弾いてください」って言ったら指示したことになっちゃいますから、嫌じゃないですか。仕事じゃないオアシスの音楽なのに、指示されたくないじゃん。

笹久保:う~ん。僕はべつに指示されてもよかったですよ。

藤倉:あぁ、そうなの?

笹久保:指示されればそれに答えてやってみようかなって。

藤倉:でもどっちも何も言わなかったんですよ。笹久保くんも僕に対して指示したりしないし。

笹久保:こういう反応が来たから、こういうふうに重ねてみようかなって思うようになるわけですよ。

藤倉:でもびっくりしたでしょ?

笹久保:そうですね。送られてきた音源を聴いたとき、ロンドンで別のギタリストに頼んで弾かせてんのかなっていうふうに思ったんですよ。僕が弾いたのとまったくちがったから。ビートができてて。なんだこれと思って。

送られてきた音源を聴いたとき、ロンドンで別のギタリストに頼んで弾かせてんのかなっていうふうに思ったんですよ。僕が弾いたのとまったくちがったから。(笹久保)

藤倉:音源データのファイル名もべつに何も書いてなかったからね。そういうふうに作っていったので、笹久保くんがさらに重ねて送ってきた音源からも、すごく自由な感じはしましたね。そこでの南米的なリズムの揺れとかは学ぶことが多かったですね。あと、統一されたアルバムは作らないようにしようとは思っていたんですよ。1曲めの“マナヤチャナ”って、すごいアンビエントな感じじゃないですか。それを知り合いに聴かせたら、その感じでアルバム1枚できたらいいよねって言われたりして。そう言われたら反対のことしようかなって思って、終わりはぜんぜんちがう感じのアルバムになればいいなと思って。

笹久保:ギターっていう統一性だけですよね。

藤倉:イルマ・オスノさんなんかはいきなり入ってくるし。

笹久保:そうですね、なんの前触れもなく、パッと。

藤倉:そうそう、歌の曲には絶対したくないとも思っていました。またポップスの話なんですけど、ポップスって歌手の声がすごくでかいし、いつもフロントにいるじゃないですか。以前ノルウェーのジャズの人たち、アルヴェ・ヘンリクセンとかとコラボしたときに、女性の声も入っていたんですよ。『マナヤチャナ』と同じようにファイルの交換で作っていったんですけど、その歌手の声をちょっと右にずらしたんですよ。中心じゃなくて。そしたらみんなすごい騒ぎ出して、声は絶対に中心じゃないとダメって。え、なんで? って思った。僕にとって声ってたんなる楽器のひとつなんで。クラリネットの代わりみたいな。でもポップスの人たちにとっては、声が命みたいなことが多いんですよね。僕はぜんぜんそういう重要性を感じられないので。

笹久保:あと、デイヴィッド・シルヴィアンに、藤倉さんの音楽とイルマ・オスノさんのヴォーカルは合わないって言われたんですよね。

藤倉:そう、そう言われたらムカつくから、入れたいなと思うじゃないですか。デイヴィッドと僕はものすごく仲良いんですけどね、彼に限らず誰かに何か言われたら反対のことをしようって僕はいつも思うんで、なんとしてもイルマさんの声は入れたかった。


あと、デイヴィッド・シルヴィアンに、藤倉さんの音楽とイルマ・オスノさんのヴォーカルは合わないって言われたんですよね。(笹久保)

そう、そう言われたらムカつくから、入れたいなと思うじゃないですか。(藤倉)

イルマ・オスノさんはケチュア語を話す方ですが、『マナヤチャナ』に収録されている楽曲はすべてケチュア語で題名がついていますよね。テーマに基づいて楽曲を制作されたんですか?

笹久保:曲名はトラックがぜんぶできた後につけました。僕は最初、英語とかにしたほうがより多くの人に曲のニュアンスが伝わるかなと思ったんですけど。

藤倉:あと〈ソニー〉ですからね。

笹久保:そう、曲名つけたときはもう最後の段階だったので、ソニーから出るってことは決まっていて。せっかく大手からリリースされるし、変なことしたら出ないかもしれないって思ったんですけど、そしたら藤倉さんがせっかくだからとかまた言いはじめて、ぜんぶケチュア語に──アンデスのインディヘナの部族ですけど、ケチュア族のケチュア語でぜんぶやろうって(笑)。よくこれが通ったなとは思いますけど、でもそこには藤倉さんの挑戦があったんですよね。

藤倉:そう、どこまで本気なのかなって思って。ソニーの杉田さんは音楽家でもありますからそういうのわかっているんですけど、大手って僕が想像するに、杉田さんの上にいろんな人たちがいるんじゃないかと思ったんですよ。

笹久保:いるんですよ。

藤倉:音楽的なことじゃなくて、テクニカルなことで最終的にリリースされなくなる可能性も考えたんです。だから本気で出していただけるのかなっていうのを試そうとも思いまして、じゃあ、せっかくだしぜんぶケチュア語でやろうっていうふうに提案したんですよ。

笹久保:1曲でも省いてくれとか言われたら、もう自分たちで出そうって言っていましたね。

藤倉:あと、発売までに時間がかかるのも嫌だなと思って。大手だからと言っても、1年かそこら出なかったりするとね。僕たちのレーベルはまったく規模がちがいますし、もし自分たちで出したらインタヴューなんかあるわけないっていうのはわかっているんですけど、でも出すっていうことであればすぐに出せるので。そうやって素早く出せますかって訊いたら、杉田さんができるって言って、やってくださったんで。6月にできて9月に発売ですから、3ヶ月ちょっとですよ。

笹久保:変にまたアカデミズムっぽいタイトルにしなかったのはよかったですよね。

藤倉:あぁ、そんなの絶対やだよ。

笹久保:“Flagment 1”とか。

藤倉:うわぁ(笑)。

笹久保:“Flagment 1B”とか。

藤倉:やめてほしいそれ(笑)。僕そういう世界にいるので。

笹久保:“Flagment 1+”。

藤倉:う~ん、嫌ですよねぇ。そういうのばっかり書く人たちがいるから。

やっぱりそういう世界とは別のものとして出したかったんですか?

藤倉:もちろん。そっちの世界にいるわけですから。まぁ僕はそういうことやらないですけど、そういう人たちの間でやってるんで。そんなの休暇に会社行くようなもんですよ。たぶん。会社員勤めたことないからわかんないですけど。そんなことしないじゃないですか。せっかく休日があるんだったら行ったことないところとか、いつも行きたくても行けないところに行こうとするじゃないですか。

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苦手なものには惹かれます。苦手な曲とか。(藤倉)

現代音楽の流れをブーレーズ的な前衛音楽とケージ的な実験音楽に分ける考え方ってあるじゃないですか。藤倉さんはブーレーズからの影響のほうが強いと思いますが、笹久保さんが即興的に重ねた音だとか、偶発的に紛れ込んだ響きっていうのは、やはりぜんぶ統括しようとする感じで制作していったんですか?

藤倉:ある意味まったくコントロールできないものを使っていても、最終的には僕がコントロールできるわけですよね。ゴダールの映画みたいな感じで。あれは即興させてんのか知らないですけど、ぜんぶ自由とは言えない中で、でも編集は彼がやる。それとちょっと似ているのかもしれません。ただ、苦手なものには惹かれます。苦手な曲とか。ジョン・ケージも好きになろうとしていて。僕には「苦手な曲を好きになろう月間」っていうのがあるんですよ。その中でジョン・ケージもいくつかやりまして、まぁ、まだ完璧に大好きってわけじゃないですけど。

藤倉さんの音楽に対する思想がケージのそれと対立するのではなくて、苦手ということですか?

藤倉:そうですね、対立するということもあるのですが、音楽的にちょっと苦手な部分がありますね。あったんですけど、でも好きになろうと努力して、いくつかちょっと好きにはなってきましたね。「苦手な曲を好きになろう月間」はこれからも続けていこうと思います。

いまは何を克服しようとされていますか?

藤倉:いまはブルックナー。やっと好きになれたんですよ。あとハイドンとかシューベルトも僕は苦手なので、それもいつか克服したいなと。好きな音楽はもともと好きだからほっといてもいいじゃないですか。でも嫌いなものは僕の問題であって、その音楽の問題じゃないことが多いので、とくにケージみたいに古典になると。そしてその音楽を聴いて発見することは必ずあるはずですし。でも日本で妙にケージを持ち上げる風潮は嫌だなって思いますけどね。
 あと、ポップスで、みんながそうだとは言いませんが、たいして知らないのにシュトックハウゼンとかケージに影響を受けたっていう人いるじゃないですか。そういうふうに見栄を張るためじゃなくて、苦手な作曲家を好きになろうとしています。一昨年ケージの生誕100年祭があったんですけど、そこで僕、曲を書いているんですよ。BBCプロムスから委嘱されて。そのときにケージの本もいろいろ読んだりして、前よりも好きになりましたね。だから自分が快適じゃない状況に持っていこうっていうのが僕にはあるんだと思います。わざと苦手な状況で曲作りしたいなって。それもあってコラボレーションですよ。一人でもできるのに。

自分の世界を崩すというか、押し広げるというか、いわばノイズのような存在として笹久保さんがいると。

藤倉:そうですね。あと学ぶことですね。本を読んで学ぶことももちろんありますけど、音楽から学ぶのがいちばん早いですからね。

偶然性を音楽に取り入れるということと、即興的に音楽を演奏することのちがいはなんだと思われますか?

藤倉:……練習しなくていい。

笹久保:(笑)

藤倉:即興は練習しなくていい。でも偶然性っていっても、ケージ的な偶然ってマイクのフィードバックとかですから。本当の事故的なものをぜんぶ取り入れるものだと思うので。ぜんぜんちがうものだと思いますね。ただ僕はそういうのも好きになってきています。そういう音楽を作りたいかどうかはわかんないですけど。

実演するつもりじゃなかったんですよね。実演なんてできるわけないですし。(笹久保)

録音物は基本的には必然的でしかありませんが、ライヴには必ず偶然的な要素が介入してきますよね。それは音楽にとって良いものだと思いますか?

笹久保:良いものというか、絶対にそうなりますよね。

藤倉:間違いがない演奏を聴きにきているお客さんがいるわけでもないと思うんですよ。間違いがあってもすごい迫力のあるオーケストラのコンサートを聴きたい人も多いでしょうし。そういう意味で言うと、ライヴで演奏されたクラシック音楽の録音物をリリースすべきかどうかというのは、議論が分かれるところだと思います。ラジオ放送はいいですよ。記録ですから。でも作品として出すっていうのはどうなんでしょうね。スタジオ録音と生の演奏だと、演奏者としては目指すものがちがうと思うんですよ。だからライヴでの演奏を繰り返し聴かれるっていうのはどうなんでしょう、まぁわかんないですけどね。

今日これからお二人の初ライヴがあるわけですが、それが録音されて世に出されたとしたら、それは目指しているものとちがうということですか?
藤倉:ぜんぜんちがいますよね。

笹久保:そうですね。

ちなみに今日のライヴはどのようなものにしようと思っていますか?

藤倉:僕たちもわからない、聴いてないから。

笹久保:実演するつもりじゃなかったんですよね。実演なんてできるわけないですし。藤倉さんが僕の音楽をバラバラにして繋げているわけじゃないですか。もうパズルみたいなもんですよ。僕の音ではありますけど、弾けるわけないじゃないですか、そんなの(笑)。それをちゃんと弾くとしたら、紙に書いて同じように弾くしかないですけど、アルバムと同じことをやることに意味はないですから。だからパフォーマンスでやるときは、藤倉さんが素材として作り上げたバッキング・トラックを使いながら、二人で実際に演奏する、っていう感じですかね。

藤倉:まぁ、どうなるかわかんないよね。だって知らないもんこの人、会ったばっかりだから(笑)。

笹久保:僕も知らないですよ、昨日会ったばっかりなんですから(笑)。

今後もコラボレーションしていく予定はありますか?

藤倉:そうやって訊かれると、もう、作んなきゃって感じですよね(笑)。でも何か作るんじゃないですかね。

笹久保:作りますよ。

OG from Militant B - ele-king

漆黒の大地を駆けろ!

ヴァイナルゾンビでありながらお祭り男OG。レゲエのバイブスを放つボムを日々現場に投下。Militant Bでの活動の他、現在はラッパーRUMIのライブDJとしても活躍中。3回目の登場ほぼゴリラのOGです。今回のランキングはダブ! ダブ! ダブ! 歌無し"ハーコーダブ"に焦点を絞って、70年代バンドサウンドから2014年産デジタルキラーなものまで幅広く挙げてみました。音の再構築、破壊と再生。大胆で繊細、最先端なレゲエミュージックを感じてみてください。REBELだろ?

11/4 吉祥寺cheeky "FORMATION"
11/7 山形tittytwister "LIVE AT HOPE"
11/8 秋田re:mix
11/12 新宿open "PSYCHO RHYTHMIC"
11/23 東高円寺grassroots
11/29 池袋bed "NEW TYPE DUB"
12/2 吉祥寺cheeky "FORMATION"
12/6 渋谷asia "IN TIME"
12/30 吉祥寺cheeky


Serph x 河野愛 - ele-king

 サーフがこれまでわれわれに見せてくれた桃源の夢──それは毒に同義であることをサーフ自身が弊誌インタヴュー(『ele-king vol.』)にて語ってくれたのだが──は、もう一本の柱によって支えられている。河野愛のイラストだ。これまでサーフの作品や活動の多くに関わってきたイラストレーターである。古代ギリシャのモチーフ、架空の生物たちの跋扈、魚も鳥も家も同居する空間……時間と場所がねじ曲がり、あるべきでない時代とあるべきでない空間とが接続され、しかしそのことが奇妙な均衡を生み出す河野のタッチに、すでにサーフの音を連想してしまう人もいるのではないだろうか。一枚の絵の中に、微細な描き込みと神話的な圧縮性をもって世界を埋め込むようなその手つきは、サーフ版マジック・リアリズムとも呼ぶべき、あの強烈な世界構築にしずかに寄り添っている。

 そんなふたりのコラボレーションを、より純度の高いかたちで結晶させるようなプロジェクトがはじまっている。クラウドファンディングを利用したCD付きアートブックの制作だ。これまでのコラボレーションの記録に加え、書き下ろし&描き下ろしの作品、アルバム未収曲のコンピCDも付くようで、通常のパッケージ・リリースでは実現しにくい仕様を楽しめる。また、協力する度合いによって幾パターンものリターンが準備されているから、ファンならばじっくりと頭を悩ませながら参加したいところだ。
 募集期間は11月28日(金)まで。ダイレクトにこの素敵な作品を支えてみよう。

【Serph x 河野愛 コラボレーション・アートブック制作プロジェクト】

■情報掲載日:掲載中
■クラウドファンディング・サイト:CAMPFIRE
■プロジェクトURL: https://camp-fire.jp/projects/view/1267
■ 募集期間:10/15~11/28(45日間)
■ 目標金額:1,350,000円
■プロジェクト概要
このプロジェクトは、電子音楽家Serphとイラストレーター河野愛による、CD付きコ
ラボレーション・アートブックの制作を目指すものです。
Serphは、nobleへの移籍後初リリースとなる2ndアルバム『vent』(2010年作)以降、
今月6日に発表した最新EP『Spring Field EP』まで、その全作品のアートワークを、
イラストレーターの河野愛とのコラボレーションで制作してきました。ノベルティや
MVの為に制作したアートワークも含めるとその数は数十点にも及び、Serphの音楽を
世に問う上で、今や河野愛のアートワークは欠かせないものとなりました。
そこでこのたび、これまでの河野愛によるアートワークを数点の描き下しとともに一
冊の本にまとめ、Serphのレア音源集CDを付けた、Serphと河野愛によるコラボレー
ション・アートブックの制作を思いつきました。
Serphと河野愛のこれまでのコラボレーションの記録となるこのアートブックを、ク
ラウドファンディングを通じて皆さまと共に作り上げる事が出来ればと思っています。
このプロジェクトに参加してくださる皆さまの為に、ジャケットの原画やSerphによ
る書き下し楽曲のプレゼントなど、この場限りの様々なリターンをご用意しました。
少しでもご興味をお持ち頂けたら、ぜひ皆さまのお力をお貸しください。プロジェク
トが無事成立し、このアート本を世に送り出せる事を楽しみにしています。
アートブック制作の実現へ向け、皆さまのご協力をどうぞ宜しくお願いします。

<Serphプロフィール>

東京在住の男性によるソロ・プロジェクト。2009年7月にピアノと作曲を始めてわず
か3年で完成させたアルバム『accidental tourist』をelegant discよりリリース。2010
年からはレーベルをnobleに移し、同年7月に2ndアルバム『vent』をリリース。以降、
2枚のフルアルバムといくつかのミニアルバムを発表している。
2014年1月には、自身初となるライブ・パフォーマンスを単独公演にて開催し、満員
御礼のリキッドルームで見事に成功させた。
より先鋭的でダンスミュージックに特化した別プロジェクトReliqや、ボーカリスト
NozomiとのユニットN-qiaのトラックメーカーとしても活動している。

<河野愛プロフィール>

1984年1月千葉県生まれ。2008年からフリーのイラストレーターとして、雑誌、広
告、映像、WEB、CDジャケットなど幅広いアートワークに携わっている。一部挙げ
るとソラリアプラザ、URBAN RESEARCH、Panasonic、Bunkamura、講談社、
KADOKAWA、ワコール、Serph、ほぼ日、その他多数。細密画をベースに形や大き
さや色、固定観念にとらわれず共存しあう空間を描く。
https://aikohno.com/

■河野愛からのメッセージ
これまでSerphのアートワークで様々な作品を生み出してきました。
それは、私が今迄自分だけの発想で描き上げたものとは違い、音のイメージにあった
テーマに沿ったもので、一人ではなくデザイナーやレーベル関係者の方とアイデアを
共有し、新しい発想の元、描いた事ないような描き方で描き上げ、素晴らしい仕上が
りとなって世に送り出してきました。
そんな作品も今では数十枚となり、それぞれ思い入れのある作品となり、一挙に集め
て、一冊の本になったら嬉しいな、って思っていました。
そんな中、レーベルの方に声をかけてもらい、一気に企画が進み、作品集として本を
販売する企画が実現するまで、あと一歩ということころまできました。
その、あと一歩、皆さんの力をお借りしたいです。
今迄、個人としての作品集を制作していないことから、この企画が実現出来れば、初
めての作品集が世に送り出せる事になります。
私の絵は、細密をベースにしているので、じっくり見て頂きたい想いがあります。
是非、ご協力頂けたら嬉しいです。

■Serphからのメッセージ
亜空間の原風景
蜃気楼の絵筆、デスティネーション・パステル
いつもSerphの作品世界を彩ってくれている河野さんの絵。
音に奥行きを与え、視界から音楽が流れていきます。
Serph体験をより濃厚にしてくれるアートワークを網羅する、必ず素敵な本になると
思います。皆様のご協力をお待ちしてます。

■アートブックの仕様について
・カラー40ページ+CD
・サイズ:A4変形(21cm x 25cm)
・シリアルナンバー入り
※新たな描き下し数点を含む、河野愛によるSerphの全アートワークを掲載予定。
★CD収録楽曲:
アートブック用に書き下ろす新曲含む、雑誌のサンプラー収録音源、ECサイトおよび
配信サイトの購入者特典用音源、1stコンサート用のリアレンジ音源など、全てアルバ
ム未収録の楽曲を8~10曲ほどコンパイルしたSerphのレア音源集。

■資金の使い道について
・本印刷代
・版下作成代
・デザイン代
・CDプレス代
・著作権使用料
・ ファンディング運営会社手数料

■プロジェクトがマッチング(成立)出来なかった場合:
商品の発売を中止とさせて頂きます。

■リターン内容
<500円>
・Serphと河野愛のお礼メッセージ
<3,000円>
・Serphと河野愛のお礼メッセージ
・完成した本を1冊
<5,000円>
・Serphと河野愛の直筆お礼メッセージ付きのオリジナルポストカード
・本のサンクスクレジットへお名前を掲載
・完成した本をSerphと河野愛のサイン入りで1冊
<8,000円>
5,000円のリターン内容に加えて、
・プロジェクト限定の非売品オリジナルTシャツ
・Serphの未発表音源2曲
※楽曲データのDLリンクを送ります。
<50,000円>限定1個
8,000円のリターン内容に加えて、
・Serph『Event Horizon』のジャケット原画を額装してプレゼント。
<50,000円>限定1個
8,000円のリターン内容に加えて、
・Serph『Winter Alchemy』の盤面に使用した原画を額装してプレゼント。
<100,000円>限定1個
8,000円のリターン内容に加えて、
・Serph『Winter Alchemy』のジャケット原画を額装してプレゼント。
<100,000円>限定1個
8,000円のリターン内容に加えて、
・Serph『Heartstrings』の中面に使用した原画を額装してプレゼント。
<100,000円>限定1個
8,000円のリターン内容に加えて、
・Serph『Candyman Imaginarium EP』のジャケット原画を額装してプレゼント。
<100,000円>限定5個
8,000円のリターン内容に加えて、
・あなたのテーマで河野愛が絵を描き、原画を額装してプレゼント。
<150,000円>限定3個
8,000円のリターン内容に加えて、
・Serphがあなたの楽曲を1曲リミックスします。
<200,000円>限定2個
8,000円のリターン内容に加えて、
・あなたのテーマでSerphが曲を作り、河野愛がジャケットを描きます。
・完成したジャケットと楽曲はデータにてプレゼント。
・描いた原画を額装してプレゼント。


DJ 威力 - ele-king

廉価で手に入れた古書10選

本とレコードを買うことの境目があまりありません。
最近、天神橋筋商店街の天牛書店にて、内容の割にかなり廉価で手に入れた古書10選です。
音の出ないレコード。

『dublub.jp OSAKA #11』at GalaxyGallery
Mark Frosty / MAYUMIKILLER / 威力

10.25.SAT
『TROPICAL HOLE』at PINEAPPLE EXPRESS
BING aka Toshio Kajiwara / Hobobrazil / 威力 / 池田社長 / GYOKU

11.1.SAT
『GORF meets ECHOES』at FROG
αAREA、PPMG、SPINNUTS、THE KLO、威力、KURITA、sonic、SB10、OLEO、NxOxT

11.23.SUN
『ECHOES』at atmosphäre
sonic、pulseman、orhythmo、DNT、SPINNUTS、CJ、行松陽介、威力

twitter.com/iiimmrrarrmmiii
https://yofukenoongakufan.tumblr.com/

眠りたい音楽、眠らせないイヴェント - ele-king

 早耳のリスナーの間ではすでに注目されている気鋭の若手バンド、Taiko Super Kicks。今年8月には彼らの持ち味でもある浮遊感のあるスローテンポな曲群が収録された初の5曲入りミニ・アルバム『霊感』(限定店舗とライヴ会場、Bandcampのみでリリース)が話題となったが、そんな彼らが初の自主企画〈o m a t s u r i〉を10月31日に開催する。

 Taiko Super Kicksの音楽がどういうものか知らない人に説明するとしたらそれは、「ゆったりとしたBPM」がキモの「ギターの絡みが気持ちいい正統派オルタナ・ロック」だろうか。PavementやYo La Tengoといった90年代オルタナUSロックをフェイヴァリットに挙げ、22歳の瑞々しい感性で書き上げる曲は『霊感』をはじめ、総じて「気怠さ」を伴うところがポイントだとボーカル/ギターの伊藤暁里は言う。「最初はサイケっぽいものがやりたかった。次第に「気怠さ」に惹かれて曲作りを行うようになった。そのきっかけは村上龍の『限りなく透明に近いブルー』を読んでて、どんよりと倦怠感に包まれている、それまでにあまり知らなかったイメージだったこともあり、その感じを音に出したかった」。“霊感”“Ringo no Sitsukan”などの曲……具象を避け、雲をつかむようでいて親密、室内的で幽玄としたサウンドスケープ。それでいて、ちゃんと捻りの効いたロックをやっている。「眠気を誘うような、気怠い音楽をさらに突き詰めたいと思ったきっかけは去年のグルーパーやジュリアナ・バーウィックみたいなアンビエントっぽい女性ヴォーカルものを聴いて。霊感はそういうイメージで作ってました。すごいシンプルで寝ながら聴く音楽。その頃はライヴでも「客が眠りたいと思わせるような感じでやろう」とか言ってて(笑)」。

 自主企画のタイトルは〈o m a t s u r i〉、場所は〈o-nest〉でフロアとラウンジの2ステージで行い、moools、Lantern Paradeといった先輩バンドからLUCKY TAPES、New HouseよりPunPunCircleといった若手のバンドまでヴァラエティに富んだメンツ。さらには、先日アルバムをリリースしたばかりのnohtenkigengo、そしてミツメのnakayaan、『霊感』のジャケットも手掛けたmay.eと、彼らと親交の深いアーティストも参加する充実のラインナップに加え、ラウンジエリアにはココナッツディスクの出店とフリーマーケットなんかもある。
 「ライヴハウスに行ってスマホみるしかないとかつまんない時間を過ごさないようにしようっていうのがあって。待ち時間にしたくない。カッコいいバンドを集めただけのイヴントってのも熱いとは思うんですけど疲れるだけっていうのもあって、なのでできるだけヴァラエティを持たせて。あとは、同年代だけのバンド、勢いのあるバンドだけを呼ぶのも嫌なのもあり、こうなりました。絶対に誰でも必ずハマれる要素、瞬間を用意しています。ひとりで来ても楽しい、新しい何かに出会えると思います。」
 10月31日はお祭りへどうぞ。

■Taiko Super Kicks presents
” o m a t s u r i ”

10/31(Fri) @渋谷TSUTAYA O-nest
OPEN: 18:30 / START: 18:30
ADV: 2000 / DOOR: 2500 (ドリンク別)

【5F】
Taiko Super Kicks
moools
Lantern Parade(3人編成)
LUCKY TAPES

【6F】
may.e
nohtenkigengo
PunPunCircle(New House)

【DJ】
nakayaan(ミツメ)
A Taut Line(Greeen Linez)

【出店】
ココナッツディスク
オマツリフリーマーケット(7A 理科 出演者の皆様)

【チケット情報】
※以下プレイガイド及びメール、または各出演者様に直接お取り置きをお願い致します。ローソンチケット: 76511

e+

メール予約: omatsuri.info@gmail.com  (お名前と枚数をご明記ください)


interview with Bok Bok - ele-king

 今年の元旦だっただろうか。リンスFMでの〈ヘッスル・オーディオ〉の番組でベンUFOとピアソン・サウンドとのB2Bに招かれたのは他ならぬボク・ボクだった。〈ヘッスル〉のふたりがダブステップをかけまくるなか、〈ナイト・スラッグス〉のリーダーはグライムで対抗。レコード屋の壁一面がダブステップだったゼロ年代初期、店員がヤングスタだろうがそこへグライムを求めに通っていたという男は、最後までけっして折れなかった。まさに現代版のセロニアス・モンクとマイルズ・ディヴィスによる喧嘩セッション。2014年のはじまりは血塗られていたのである(ちなみに、この3人はとても仲良しで後日にもB2Bをしています)。


Bok Bok
Your Charizmatic Self

Night Slugs / ビート

ElectronicDubstepGarageGrime

Tower HMV Amazon iTunes

 こんな出来事を紹介してしまったが、ボク・ボクは決してグライム原理主義者というわけではない。彼はロウ・ハウスからときにヒップ・ホップやジュークへと展開もさせられる技術と、あらゆるジャンルへの感受性と柔軟性の持ち主だ。〈ナイト・スラッグス〉のアーティストが集結するパーティのフロアに一時間立っていれば、彼ら全員がこの素養を持つフロアから「モテる」DJだという答えにたどり着く。ひとつのジャンルを一晩流しつづけるシリアスなパーティも最高だが、〈ナイト・スラッグス〉が持つどこにでも行ける「軽さ」(もしくはいい意味での「チャラさ」)もなければシーンのバランスが取れなくなってしまうのかもしれない。

 だがボク・ボクがグライミーでありつづけていることもたしかだ。EP『ユア・カリズマティック・セルフ』にはR&Bやファンクがある。〈ナイト・スラッグス〉の姉妹レーベルである〈フェイド・トゥ・マインド〉から2013年にアルバム『カット4ミー』をリリースしたアメリカのアンダーグラウンドの歌姫、ケレラが参加した“メルバズ・コール”。「ベース系」といわれるジャンルでは珍しくスラップ・ベースが使われている“ファンキエスト”。いままでボク・ボクがプロダクションであまり見せてこなかった姿がここにはあるものの、BPM130-140付近の曲の早さや空間を際立たせる技法、そしてベースの使い方はグライムである。自身のルーツとDJで培った「モテ感」が絶妙な作品だ。

 さて、このあたりでそろそろご本人に登場してもらいましょう。レーベルの過去と未来について、ロンドンの思い出、ディジー・ラスカルからDJラシャドまで、ボク・ボクは多くの質問に軽やかに答える。そして、最後まで読むといいことがあるかもしれません……。
(テキスト:髙橋勇人)

Bok Bok / ボク・ボク
音楽からファッションまで注目を集めるロンドンの若手クリエイター集団、〈ナイト・スラッグス〉の中心人物。そのネットワークはニューヨークにまで及び、姉妹レーベル〈フェイド・トゥ・マインド〉とともにアンダーグラウンド・シーンにおいて強い発信力と存在感を誇っている。自身のプロジェクトにおいては2011年の「サウスサイド」が脚光を浴び、本年リリースの『ユア・カリズマティック・セルフ』へは、デビュー・アルバム『CUT4 ME』(2014)が『ガーディアン誌』の年間アルバム・チャート7位にもなったヴォーカリスト、ケレラをフィーチャーするなど、先進的な動きをオーガナイズする嗅覚と手腕にも長けている。


建築って、建てられた時代によって当時の技術が反映される。なおかつ建築のプロセスでアナログ、つまり人力が使われないことはない。そういった感じで、自分たちは現在のテクノロジーをアナログの手法を取り入れながら音楽で表現したいという気持ちがある。

今日はあなたにプレゼントを持ってきました(『ele-king vol.12』を見せる)。この号では〈フェイド・トゥ・マインド〉を特集したんですよ。このグラフィックはキングダムがデザインしたものなんですよね?

ボク・ボク(以下BB):ワオー、ありがとう! このロゴをデザインしたのは僕なんだけど、背景のコラージュとかはキングダムがやっているよ。すごいね、見開きが4つも!

この会場(代官山〈UNIT〉)でDJしたことってありましたっけ?

BB:日本には何回か来ているんだけど、ここは今回が初めてなんだよ。この楽屋には友だちのサインがたくさんあるね(笑)。お、ヤングスタのサインがある。彼がロンドンのブラック・マーケット・レコードで働いていたときによくレコードを買いに行ったよ。2004年とかだったと思うけど、そのときにフロアで売っているレコードのほとんどがダブステップで、そんななか僕はグライムを買いによく店に行っていた。僕が聴きたいグライムのレコードを「この曲はクソだな! 俺が作るんならプロダクションはこうする」とかヤングスタは言っていたよ(笑)。

おお(笑)。それがいつの話ですか? 僕は店名がBMソーホーになってから行ったんですが、ダブステップはあくまでお店の一部という感じでした。

BB:それが2004年くらいかな。〈dmz〉とかがはじまった年でダブステップが盛り上がってくる時期だったんだよ。

以前、この部屋でアンディ・ストットとデムダイク・ステアにインタヴューをしたんですよ。デムダイク・ステアの「テスト・プレシング #5」はグライムみたいでしたよね。

BB:グライムが登場してからもう10年は経つけど、いまになってシーンに外のプロデューサーたちがグライムを取り入れたりしている印象だな。僕が最初にグライムを聴くようになったときと比べたら、現在はより多くのひとがシーンに注目しているのはたしかだ。僕は初期からシーンを追っていたから、当時を思い出してちょっとノスタルジアを感じるよ(笑)。ダニー・ウィードとかジョン・E・キャッシュとか懐かしい!

〈フェイド・トゥ・マインド〉と〈ナイト・スラッグス〉のロゴ・デザインはあなたが担当されたとのことですが、それらはポスト・インターネット世代のストリート感を象徴するデザインだと思います。

BB:おお! 僕も部分的にはそう思うかな。現在ってもう完全にコンピュータの時代だけど、僕がネットをはじめたときっていまほどユビキタスって感じではなかった。インターネットが発達する前後の境目が僕の世代なんだ。だから、僕よりちょっと年下のひとたちにも違和感を覚えるときがある。


グラフィティという意味でなら言うべきことはあるね。じつは僕はグラフィティをやっていたことがあるんだ。

初めて自分のパソコンを手に入れたのはいつなんですか?

BB:1999年くらいかな。でもそれは1.0世代のコンピューターだった。SNSも何もなくて、いまとはまったく違ったものだったな。マイスペース、フェイスブックもなければツイッターもなかった。

あなたのデザインを見ていると、いまはストリートがネットのなかにある気がするんですよ。ストリートというものはご自身のなかで重要なものなんですか?

BB:ストリートは広い意味だけど、具体的に言うと?

グラフィックのようなものから、自分たちだけの遊び場という意味です。

BB:グラフィティという意味でなら言うべきことはあるね。じつは僕はグラフィティをやっていたことがあるんだ。そのことをほとんど誰も知らないんじゃないかな。だから初期の〈ナイト・スラッグス〉のロゴもグラフィティ的なタイポグラフィの影響がある。だけど僕はもともと印字や文字列が好きなんだ。僕にはそういったデザインのバックグラウンドがあるからね。ストリート的なものが自分のデザインに関係しているだろうけど、それが直接的なのか間接的なのかはわからないんだ。

もし2014年の現在に〈ナイト・スラッグス〉をスタートさせていたとしたら、デザインは同じものになっていたでしょうか?

BB:判断するのは難しいけど、たぶん同じものになっていたと思う。僕たちはいろいろ経験を積んできたから、もちろん違ったデザインをする可能性もあるよ。でも僕はひとつのことに執着するタイプなんだ。いろんなものに毎日手を出すひともいるけれど、僕はそうじゃないかな。最初からそのマインドはずっと変わっていない。


僕たちは現在にいるから、そこから目を背けてしまったら偽っていることになると思うんだ。

もうひとつデザイン的な意味で言うと、近未来的な要素も〈ナイト・スラッグス〉にとっては特徴的だと思います。80年代へのオマージュのようにも見えますね。この数年来、そうしたリヴァイヴァルもありましたが、今度は時代が90年代へ向かっていると思います。90年代カルチャーで思い入れが強いものはありますか?

BB:その質問に答える前にいくつか付け加えることがあるな。僕は80年代に生まれて90年代に育ったから、そのあたりの文化に影響されているかもね。だけど、僕が音楽とアートワークをデザインするときは、自分の置かれていた環境を参照したりはしないよ。そのふたつがいかに上手く結びつくかをつねにチョイスしているから、創作のプロセスに取り入れるものは現在かもしれないし場合によっては過去かもしれない。
 2010年は本格的に〈ナイト・スラッグス〉をはじめた年なんだけど、当時のアートワークは80年代の初期にパナソニックが発表した「グライダー」(ロバート・エイブル・アンド・アソシエイツ制作)というヴィデオに影響を受けている。デザインを考えているときのリサーチをしている段階で見つけたんだよね。そこから僕たちのデザインは変わっていったけど、もとにはこの作品がある。



 これはかなり初期のCGによる作品で、シンプルだけど温かみがあるデザインが好きだ。全部デジタルだけど、ある種のソウルを感じない? これ以上細部にこだわったら、このテクスチャーは出ないだろうね。たしかに80年代を象徴するような作品だと思うけど、単純にこのヴィデオが持つフィーリングに惹かれたんだ。

未来を描いているようだけど、映像の主体が機械ではなく紙というところがおもしろいですね。

BB:そうなんだよ! 全部がデジタルなんだけど、冷たさは感じられないんだ。

そういう嗜好をお持ちなのは、アナログ的なものへの興味があるからですか?

BB:アナログのプロセスは大好きだ。現在ではかなり珍しいものになってしまったけど、大事にしていることのひとつだね。機材もアナログのものが多い。でも、それと同時にデジタルとアナログの組み合わせにも可能性を感じているんだ。仮にすべてアナログのみでプロダクションをしてしまったら、レトロ過ぎる仕上がりになってしまう。それだけはどうしても避けたい。だって僕たちは現在にいるから、そこから目を背けてしまったら偽っていることになると思うんだ。もちろん、現在だってアナログのみで作られた作品もたくさんあって、インスパイアされるようなものもあるけれど、同時におもしろくないものも多い。
 大事なのは最良の結果を導き出すことだよね。アナログの利点は暖かくて、人間味があって、操作の面でオープンであることだと思う。対してデジタルはプロセスが簡潔で音がクリーンだ。たとえば、建築って建てられた時代によって当時の技術が反映される。そしてなおかつ建築のプロセスでアナログ、つまり人力が使われないことはない。そういった感じで自分たちは現在のテクノロジーをアナログの手法を取り入れながら音楽で表現したいという気持ちがある。

『グライダー』を見てからいまの話をきくと、新作EP「ユア・カリズマティック・セルフ」は、まるであなたのトラックが部屋で、ケレラの歌が紙飛行機だというふうにも感じられます。

BB:その解釈はおもしろいね。じつは今回のEPのプロダクションではアナログの音源をかなりたくさん使っている。それを最終的にデジタルで処理するんだけど、それが僕のスタイルなんだよ。

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「ファンキー」って言葉は自慢するときによく使われるんだ。そして、ファンクは滑らかなソウルへの反抗でもあったわけだからね。

このEPでおもしろいところは他にもあって、たとえば“ファンキエスト”という曲があります。「ファンキエスト」は「ファンキー」の最上級ですが、この曲はファンクネスからむしろファンクを削ぎ落して残ったものという感じがするんです。

BB:なるほど。スタイル的にはファンクじゃなくてグライムだしね。

どうして“ファンキエスト”という名前なんでしょうか?

BB:「ファンキー」って言葉は自慢するときによく使われるんだ。「俺が最高でもっともファンキーだ!」とか、「5分後、俺が最高にファンキーになってやるぜ」とかね(笑)。
 そうやって「ファンキー」は人間味とかを意味することもあるけれど、同時に堅くて尖っているものを指したりもする。たとえばファンクのスラップ・ベースも尖った音だよね。ファンクは滑らかなソウルへの反抗でもあったわけだからね。この曲のサウンド面で意識したのは、スタイルとしてのファンクではなくて、そういったフィーリング的なものだね。もともとそういう表現が好きで、それをテーマに作ってみた。

そういった堅さや尖ったイメージというものが、あなたのスタイルや〈ナイト・スラッグス〉にはあると思います。ファンクからファンクを削ぎ落していったようにも見えるけれど、いまおっしゃった意味でもっとも「ファンク」なんだというのが逆説的でおもしろいです。

BB:ファンクの定義を何とするかでファンク・ミュージックは大きく変わってくる。でも、自分にとってファンクとはいろんなものが集まってできたものなんだ。抽象的というのとは少し違うんだけど、多様な要素を取り込むという意味では自分がやっていることに繋がるものがある。それと同時にグライムというものが自分にとっては本当に大事な要素だったから、サウンドはぶれていないんだ。

あなたは過去にもグライムの素晴らしい曲をリリースしていますし、オールド・スクールのグライムにも精通しています。“サイロ・パス”という曲ではディジー・ラスカルの“ゴー”をサンプリングしていますよね。少し前ですが、2012年のロンドン・オリンピックの開会式にはディジー・ラスカルが登場しました。あなたはそれをどのように見ていたのでしょう?

BB:ディジー・ラスカルはもはや人間国宝みたいなものだからね。彼のファースト・アルバムはゲットーでの暮らしについてのものだった。最近の曲では、彼はふたつの選択で迷う自分についてラップをしたりする。「俺はゲットーに戻るべきか、それとも夢を追うべきか」みたいにね。いまとなっては、ディジーはグライムを超越する存在になった。ファッションに夢中になり過ぎていたこともあったけど、最近はまた昔のスタイルに戻りつつある。その一方で彼はポップ・スターなわけだ。彼のロール・モデルはすごいと思うよ。オルタナティヴであると同時に国宝級に大きな存在であるわけだからね。セレブの世界にだって彼はいける。オリンピックの開会式への出演はまさにそんなディジー・ラスカルの両義性を象徴していると思う。


ディジー・ラスカルはもはや人間国宝みたいなものだからね。彼のロール・モデルはすごいと思うよ。オルタナティヴであると同時に国宝級に大きな存在であるわけだからね。

ブリストルのカーン&ニークは〈バンドゥール〉を立ち上げて、グライムのリリースをレコードしています。彼らは現在もダブプレートを切っていますが、その活動についてどう思いますか?

BB:昔は僕もダブプレートを切っていたんだけど、値段が高くなってしまったからもうやらなくなった。それに、どんなメディアを使おうが自分の音楽には関係ないと思う。自分はCDJも使うから、ダブプレートの音がいいのはわかるけど、そこにこだわる必要はないんだよ。もちろん、いまもダブプレートを切っているひとたちを尊敬しているけどね。

ちなみに、グライムにはMCも重要な要素ですが、どうしてあなたはMCをやろうと思わなかったんですか?

BB:プロダクションの面に関しては自分はいけると思ったけど、MCの才能が僕にはなかったからね(笑)。

最近のダンス・ミュージックの傾向として、たとえばテセラらスペシャル・リクエストのようにジャングルやレイヴの要素を積極的に取り入れる動きがあります。このような流れのなかで、あなたはどうしてジャングルをやらないんでしょうか?

BB:単純に自分のバックグラウンドにジャングルがないんだよ。それに僕は起こったことをフォローするタイプの人間じゃないから、無理にトレンドを追うことはしない。

あなたにとってジャングルとグライムは何が違いますか?

BB:自分が15歳くらいのときにグライムをリアルタイムで体感できたことは大きな差になっているね。ジャングルには間に合わなかったからさ。取り巻く文化もぜんぜん違うよね。ジャングルはドラムンベースになって文化的な意味で「終わり」を迎えた。グライムはガラージから発展したものだけど、当時はそれが単なる移行ではなくて新しい文化が芽生えたように思えたんだよ。
 音楽そのものにしてみても、グライムはテクノのフォーマットにとても似ている。メロディとノン・メロディや、音楽的なものと非音楽的なものの境を行きできる点とかね。ジャングルだってもちろんそうだけど、なぜか自分にはピンとこなくてね。それに対してグライムは自分にとってとても響く存在だったんだ。


ジャングルはドラムンベースになって文化的な意味で「終わり」を迎えた。グライムはガラージから発展したものだけど、当時はそれが単なる移行ではなくて新しい文化が芽生えたように思えたんだよ。

〈ナイト・スラッグス〉は今年で6周年を迎えて、最初の領域からだいぶ広がって世界的な規模で動いていると思います。もともとの形──小さなパーティというレベルに戻したいという思いはありますか?

BB:戻りたくはない。たしかに前よりも多くの場所でDJするようになった。今度はツアーで南アフリカへ初めて行くんだ(笑)。でも自分の活動は同じものが長く連続しているだけだよ。僕はそれに関してかなり前向きに考えている。レーベルを6年やってきたけど、ジャンルについてもあんまり考えてこなかったな。つねにフィーリングを大事にしてきたからね。そういった姿勢は少なくとも僕の立場から見ると変わっていない。

パーティのような、集まりであったり現場であったりというところに原点があるわけではないんでしょうか?

BB:現在はスタジオにいる時間のほうが長いから、パーティの現場へ行く時間は前よりは減ったかな。最初の2年くらいは、音楽を作っている仲間の作品の発表場所として現場を重視していたけど、2008年くらいから曲をリリースできるようになった。活動の領域が変わったのはそこからだね。

作品をリリースしていくことがレーベルの大きな目的だったんですか?

BB:そういうわけでもなかったよ。最初はリリースするものが何もなかったからね。DJをはじめて曲を作る前から、僕は音楽のコレクターだった。だからレーベルを立ち上げて曲をリリースするのは夢ではあったよ。それがいまではできている。でも、「いまみたいになりたい!」と昔から強く思っていたわけでもない。当時の自分のまわりにいた音楽仲間に恵まれていて、彼らと何かやってみたいと思っただけなんだよ。

この質問は日本のファンのためにも整理しておこうと思うんですが、〈ナイト・スラッグス〉と〈フェイド・トゥ・マインド〉の関係はどういったものなんですか?

BB:オーケー! 〈ナイト・スラッグス〉のあとにできたのが〈フェイド・トゥ・マインド〉で姉妹レーベルにあたる。たまにぶつかることもあるけど、家族のケンカみたいなものだよ。だから双子ではなくて兄弟なんだ(笑)。クルーそれぞれがユニークなアイディアをもっているからね。〈フェード・トゥ・マインド〉はアメリカ的なものを、〈ナイト・スラッグス〉はロンドンの側面を体現していて、それぞれのアイデンティティがある。でも通じるものがあるからコラボレーションもするんだ。

ロンドンとアメリカの関係を作りたかったという意図はあるんですか?

BB:そうじゃないよ。〈フェイド・トゥ・マインド〉はキングダムが自発的にはじめたレーベルだからね。彼がレーベルをはじめるときに、僕はロゴのデザインを頼まれたんだけど、「そうしたらレーベルは〈ナイト・スラッグス〉みたいになっちゃうよ?」って言ったんだ。するとキングダムは「それでいいじゃん!」って快く答えた。そこからいまのような関係に発展したんだ。ちがう場所に尊敬できる相手がいることは、自分に夢がかなったような気分だな。


彼がレーベルをはじめるときに、僕はロゴのデザインを頼まれたんだけど、「そうしたらレーベルは〈ナイト・スラッグス〉みたいになっちゃうよ?」って言ったんだ。するとキングダムは「それでいいじゃん!」って快く答えた。

今日は〈テックライフ〉のTシャツを着ていますが、この会場はラシャドが東京でプレイした最初で最後の会場です。彼とフットワークについて意見があれば教えてください。

BB:彼は音楽的に多くのものを残した。80年代のシカゴ・ハウスのときからフットワークのシーンにはすごい才能を持ったプロデューサーがたくさんいるけど、ラシャドはそれを世界に広める役割、つまり大使のような存在だったね。彼はフットワーク以外のジャンルのプロデューサーと交流してメッセージを広めていた。

リンスFMでP.O.L.スタイルとともにラシャドの追悼セットをしていましたが、誰のアイディアだったのでしょうか?

BB:その日は僕がリンスでプレイする予定で、ポール(P.O.L.スタイル)が僕のゲストだった。前日のラシャドの訃報が届いたんだけど、そのときのムードがかなり緊迫したものだったから、なんとかしなきゃなと思ったんだ。だからいろんな種類の音楽をかけて追悼することにしたんだ。あれは正しい選択だったと思っているよ。ラジオでかけたことがない曲もたくさんかけて、世界中のリスナーと共有できたしね。

ファッションが昔ほど音楽カルチャーを引っ張らなくなりましたが、たとえばファッション、あるいはヴィジュアル表現へのこだわりはありますか?

BB:たしかにそのとおりだね。いま世界では文化が単一化していて、どこに行っても似たような格好のひとが増えた。ファッションに音楽が入る余地がなくなってきているように思える。
 僕の場合、ファッションと音楽って必ずしも結びつくものではないんだ。スケートボードにはまったときに、ヴィデオをみたりしてヒップホップとパンクが結びついていることに影響されたりはしたけどね。
 〈ナイト・スラッグス〉のヴィジュアルに関しては音楽のアイディアやフィーリングをもとにしている。ファッションについてはあんまり考えてはいないけど、いつかできたらいいな。

〈ナイト・スラッグス〉はひとつのスタイルを提示してきました。そして、その中心にはあなたがいましたね。2020年までにあなたが提示していくもののなかに何を期待できるでしょう?

BB:難しい質問がきたね(笑)。いまと同じ価値観を保ちつづけているかぎりは同じことをやっていくと思う。いまのスタンスでまだまだできることは多いと思うんだ。音楽的にはより多くの要素を取り入れてみたい。アートをより経験的なものにするアイディアも出てるんだよ。たとえばアートワークと音楽にしてみても、インスタレーションみたいな形で表現することだっておもしろそうだよね。こんな感じで可能性はたくさんはあるけど、自分がいままでやってきたことを続けていくよ。


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Deerhoof - ele-king

「あー残念」というタフさ木津毅

 「オー、バマー」と、このアルバムの最終曲のタイトルを口にしてみるときの、この脱力感をどう消化すればいいのだろう。たしかに6年ほど前、この言葉はもっと威勢よく、熱狂とともに短く「オバマ!」と発音されていたはずだ。だが、バンドの顔であるサトミ・マツザキ本人の手による対訳には、“Oh Bummer”の横に日本語で「あー残念」とはっきりと書いてある。あー残念……。結局軍需産業から逃れられない政府の下で暮らしていたら、こう言いたくなる気持ちもわからないではない。これがちょっとしたシャレであったとしても、いま、「オー、バマー」と言うことのアンビヴァレントな感覚は簡単に冗談で済まされないところもある(『安倍ンジャーズ』という風刺画を描くのとはわけが違う)。「オバマ!」とかつて大きく叫んだひとほど、先が見えづらい時代だ。

 ディアフーフは新譜が出るたびに「こんな音だったっけ?」と思わせる、独自の訛りを持ちつつもさりげなく新しい語彙を挿しこみ続けてきたバンドだが、それは彼女らがどんなトレンド=熱狂にも大きくは与してこなかったことが関係しているのだろう。サウンドの同時代性とは関係のないところで、あくまでマイペースに、外界とは異なる時空の流れで冒険を繰り広げるのがディアフーフの飄々としたサヴァイヴであった。前々作『ディアフーフvsイーヴィル』というタイトルそのものが、そうした自分たちのあり方の宣誓のように聞こえたものだ。

 結成20年となりますます結束が固くなっているであろうバンドの新作『ラ・イスラ・ボニータ』はそして、おそろしくソリッドな音が張り巡らされているように聞こえる。鉄線のように固く同時に肌をこするようにざらついたエレキ、タイトでキビキビとしたリズム、単刀直入に垂直に入ってくる各パート。チャイルドライクと形容され続けてきたサトミ・マツザキの声は変わらずチャーミングだが甘えた響きはなく、ときおり驚くほどドライに放たれている。攻撃的で、ミニマルかつエキセントリックで、怒りすら感じられる。バトルスの『グロス・ドロップ』とザ・フレーミング・リップス『エンブリオニック』の合いの子、ソニック・ユースとESGとボアダムスが集まって繰り広げるパーティ……。これまでもディアフーフはノイジーで獰猛だったが、その野性が極めて冷静に、かつダイレクトに放出されたアルバムである。

 アメリカに対して、いや、「アメリカで暮らすこと」に対して辛辣な視線が向けられている歌詞も相まって、その攻撃性が鋭く感じられるのかもしれない。“ドゥーム”(この曲名は「破滅」と訳されている)では「東海岸でどう暮らしたい? 西海岸でどう暮らしたい? 真ん中でどう暮らしたい?」と問いかけながら、オチで「それとも貯金してオランダかスカンジナビアにいく?」と明かせば結局そこに大した差はないという諦念が漂っているし、流行の移り変わりに言及していると思われる“ラスト・ファッド”の「悲しみのドル札で壁を覆いつくすんだ」という言葉も示唆的だ。アルバムでも一、二を争うスラッシーさのノイズ・トラック“イグジット・オンリー”では、「訪問ありがとう/いますぐ出て行ってくれ」と現在のアメリカの排他的なあり方を皮肉っているように聞こえる。直接的にポリティカルな言葉はなくとも、サトミ・マツザキの異邦人としての視点とバンドのアイロニカルな知性とが交錯し、たっぷりと含みが込められている。

 しかしながら、それでも『ラ・イスラ・ボニータ』は愉しいアルバムだ。先述した“ドゥーム”で「拒絶」を意味する「deny」が「ディナ、ハハイ」とサトミ・マツザキの独特のリズム感で発せられるとき、そこにはディアフーフ的、としか言いようのない脱臼感のあるダンスが生まれている。“ビッグ・ハウス・ワルツ”では「ディアフーフが君にカオスをプレゼントしたい」と叫ばれ、ヘヴィなギターが降り注ぐ。「耳をあそばせよう/解き放て/感じて/盛り上がろう」。

 現在の日本での息苦しさとアメリカでの暮らしづらさは単純に比べられるものではないだろうが、それでも「あー残念」と言いながら混沌とノイズを積極的に楽しもうとするディアフーフのサウンドには、ビリビリとした刺激を感じずにはいられない。この20年を生き抜いてきたディアフーフのタフさとはつまり何なのか、が明快に差し出されていて気持ちいい。

文:木津毅

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カオスをプレゼントしよう橋元優歩

  女子高生が「っょぃ」と小さい文字でツイートしていたりするけれども、近年のサトミ・マツザキとディアフーフに抱くのもちょうどこの「っょぃ」という感じである。通常の表記を意外な方向へと外すこの「小さい文字表現」からは、吃音に似た、発音不可能なことからくるインパクトや、あるいはどこか常軌を逸したような雰囲気が立ち上がってくるけれども、それがちょうど未知にして測りがたい性質をもった存在としての女子高生に重なって、ちょっとした恐れをかきたてる。結成20年、ティーンから遥か遠い年齢のディアフーフを「っょぃ」感じるのは、サトミ・マツザキのヴォーカル・パフォーマンスによるところも大きいけれども、それ以上に彼らがまだスタンスにおいても方法においてもそうした測りがたさを残しているからだ。

 前作『ブレイクアップ・ソング』(2012)から2年、〈ポリヴァイナル〉移籍後3作めにして通算で12作めにもなろうか(どう数えていいのか、資料・媒体によって混乱がある)、2000年代のUSインディ・ロックを牽引してきた重要バンドのひとつ、ディアフーフの新作フル・アルバムがリリースされた。グランジを経由したノイズ・ロック/アート・ロックというフォームや、エクスペリメンタルでエキセントリックな雰囲気は変わらず芯となってその音の中に埋もれているけれども、とてもフレッシュな、そしてとても反抗的でやんちゃな印象を残す作品になっている。ぜったいに思いどおりにはなってやらない──それはリスナーや業界が求めるディアフーフ像にはまらないといったケチなレベルの話ではなくて、もっと、世界や、世界の理や、時間、歴史といったものへ逆らうような、とびきり少年くさいやんちゃさだ。「ディアフーフが君にカオスをプレゼントしたい」(“ビッグ・ハウス・ワルツ”)とアルバム中盤においてあらためてなされる宣言には、そうした傲岸さがなんともクールに表れている。

 あの曲ではファンキーでダンサブルなリズムが印象的だが、やがてガーンガーンと鳴りつづけるノーウェイヴ・マナーなギターの上で拡声器でわめくようにマツザキの演説がはじまり、グレッグ・ソーニアのドラミングが騒々しく焦燥をあおるように追従していくところに最大の盛り上がりがある。「レディース・アンド・ジェントルメン」からはじまるくだんの宣言はこの部分で不気味になされる。しかしそれでいてどこかしらユーモアがあり、爽快だ。この感覚こそはディアフーフならではのもの。今作も全編にわたって明確に現アメリカ社会への批評が打ち出されているけれども、彼らの側からの社会への応答は、「カオスをプレゼント」することなのだ。そう、「周波数を合わせるのはぼくたちの義務じゃない」(“タイニー・バブルズ”)。まるで音楽と自分たちに何ができて何ができないかということを身体的に知っているかのような回答である。外から飛んできたカオスをそのまま打ち返す、あるいはディアフーフ・オリジナルのカオスをそこに打ってぶつける。それはかつて『ディアフーフ vs. イーヴィル』リリースの際に、「イーヴィルとは何か?」という問いに対して「これはゴジラ対キングギドラのようなものだ」と返答をくれたのと似ているなと思う。あからさまな社会風刺だけれどもふざけてもいる。真面目な事柄に対してふざけるなんてけしからん、批判には行動を伴わなければいけない、というような圧力にもまるで屈しない。彼らの「ふざけ」かたにはエクスキューズがない。そして信念と反抗がある。っょぃ。

 そもそもロブ・フィスクの個人プロジェクトとしてスタートしたこのバンドは、彼の早々とした脱退もあり、メンバーの入れ替わりも幾度か経て、初期からその存在意義や性格を大きく変えている。『レヴェリ』(2002)以降に各タイトルに対する注目や評価も跳ね上がり、いまに直結するようなディアフーフの輪郭を見ることができるが、いまはじめて彼らに触れる人からすればそれすら過去のことに過ぎないかもしれない。同様に90年代半ばのベイエリアのパンク・バンドといったイメージや、あるいは〈キル・ロック・スターズ〉の背後に広がる90年代オリンピアのインディ・シーン、ライオット・ガール・ムーヴメントといったものとの関連性もすでに薄く感じられるだろう。

 ディアフーフは本当にフレッシュだ。インディ・ロックというフィールドにドラスティックな変化をもたらしたというのとはちがって、つねに「周波数を合わせるのはぼくたちの義務じゃない」の精神で自分たちの遊びをつづけてきた。それが結果としてインディ史にひとつの道標を立てたこともあるだろうけれども、基本的にはスタンスの強靭な自由さがフォームのフレッシュさを生んできた、単独的で異分子的な存在だと思う。『ラ・イスラ・ボニータ』はその意味でも20年を記念し、しかも1曲ごとに別の充実をみせるアルバムではないだろうか。プロデューサーのニック・シルヴェスターは「ピッチフォーク」誌の寄稿者としても知られる〈ゴッドモード・レコーズ〉の主宰者。〈ポリヴァイナル〉移籍後はセルフ・プロデュースにこだわっていたようにも見えるバンドだが、評論気質のプロデューサーを迎えているのもおもしろい。

My Panda Shall Fly - ele-king

「ハッピーバースデイ、ニーナちゃん!」という宇川直宏の掛け声でニーナ・クラヴィッツのDJがはじまる。10月だけ秋葉原の〈3331〉で開催されているDOMMUNEは、家から歩いていこうと思えば行ける距離なので、買い物のついでに足が向けられる。先日もそんな調子で軽くフロアを覗いてから家に帰ってふと思った。いつの間にか英米だけではなくロシアだとかアルゼンチンのDJを気軽に見ることができるようになっていると。90年代の初めはドイツのダンス・カルチャーだって遠くに感じられたのに。

 今年に入ってからもようやくデビュー・アルバムをリリースしたモー・カラーズがモーリタニア、同じくアーカがヴェネズエラときて、ラッカー(Lakker)のリミックスに惹かれて興味を持ったスレン・セネヴィラトニ(Suren Seneviratne)もスリランカ出身だという(96年からロンドン在)。ラッカーが起用されていたEP『プッシュ』はモウ’リンとの共作だったので、どこからどこまでが彼の作風なのかは推し量ることができなかった上に、そもそも回転数がよくわからなかったので、〈サウンドウェイ〉からとなったセカンド・アルバム『トロピカル』が僕にとっては明確な導入部である。〈サウンドウェイ〉は〈オネス ト・ジョン〉をじりじりと追いかけているようなレーベルで、アンゴラのバティーダ(Batida)やコロンビアのメリディアン・ブラザーズなどクラブ・カルチャーとの境界線をなし崩しにするリリースが増えつつあり、どこか気取った〈プロジェクト・ムーンサークル〉からリリースされた『プッシュ』とはイメージが結びつかず、むしろ、そんなにもワールド寄りなのかと驚いたぐらいである。しかし、実際には、これはNYでレコーディングされたエスニック・ポップであった。同じくスリランカのMIAがクゥドロやバイレ・ファンキなど世界のリズムに目配せをしていたようなものとはまったく異なり、都会的な洗練に覆い尽くされていたのである。

 と、それで価値がなくなってしまうわけではない。僕には『トロピカル』がトーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ライト』(1980)のソフィスティケイティッドされた後日談に聴こえ、フェイクの金字塔として輝けるその地位を補強するものに思えて仕方がない。かつて、トーキング・ヘッズは都会から足が抜けなくなったルー・リードとは対照的に、都会にいながらリモート的にどこへでも移動し、トポスからはかけ離れたポップの構造を生み出すことに成功した。まさに「you may find yourself in another part of the world」(「Once In A Lifetime」)である。「ノー・ニュークス」をモジッただけとはいえ、『ノー・ニュー・ヨーク』(1978)とはよく言ったものだけれど、自分がその場にいないという感覚は故郷喪失者たちによるロックン・ロールからヴェイパーウェイヴまで、ポップには必然的に伴ってきた要素ともいえる。アフリカ・バンバータしかり、マスターズ・アット・ワークしかり。ラプチャーやLCDサウンドシステムが『イエス・ニュー・ヨーク』(2003)を掲げた時期はハテナだけれど、現在ならOPNがそのフロント・ラインに立ち返ったといえるだろうか。

 途上国から出てきたミュージシャンには2タイプある。過剰に祖国やその文化圏を思い出す叙情型と、まったくのデラシネと化してしまう叙事型である。「僕のパンダが空を飛ぶ」とは上手くつけたもので、土地との結びつきをなくし、架空の世界に飛翔する契機がまずは言葉によって与えられる。それこそこの世界にパンダを私有している人間など存在しないし、それがさらに空を飛んでしまうとはファンタジーもいいところだし、それで「トロピカル」とくれば、トーキング・ヘッズを上回るフェイクが繰り広げられたところでまったくおかしくはない。そういえばアーサー・C・クラークは『スリランカから世界を眺めて』(1977)で同国を地上の楽園にたとえていたなー。

♪Letting the days go by~ (“Once In A Lifetime”)

Chim↑Pomに捧げる! - ele-king

 「三田さんは僕の音楽をいつも全否定するんですよ。だからプロデュースをお願いしようと思って!」「あはははは!」というやりとりののちに、制作者たちによるライナーを眺めて2度爆笑した。いや、黒笑というべきだろうか。三田格のブラック・ジョークが炸裂した名ライナー(しかもご丁寧に英訳されていて3度黒爆笑だ)も必見の、why sheep? 11年ぶりのサード・フル・アルバム『REAL TIMES』が〈U/M/A/A〉からリリースされた。

 ジャケットとなる作品は、きわどく社会への問題提起をつづけるアート集団Chim↑Pomによるものだが、3.11以前から彼らにジャケットを依頼することは決まっていたそうだ。震災は予定外の出来事だったが、その直後にChim↑Pomによって現地で制作された作品とその展示「Real Times」から大きく感銘を受けたwhy sheep? は、本作を『REAL TIMES -dedicated to Chim↑Pom-』として完成させた。ゲストにもUA、EYE(ボアダムス)、Cuizinier(TTC)など豪華な顔ぶれがそろう。また、ブックレットには渋谷駅にて撮影された写真も使用されている。

Chim↑Pomによるアートワーク
Red Card
2011 ©Chim↑Pom
Courtesy of MUJIN-TO Production, Tokyo

Why Sheep?
Real Times -dedicated to Chim↑Pom-

U/M/A/A

2014年10月8日(水)発売
UMA-1044 / 価格2,500円(税込)

Tower Amazon

■収録トラック
1.Rue Pierre Leroux
2.Radiation #1
3.11th (Away From The Borders, Close To The Borderless) feat.EYE
4.Somewhere At Christmas
5.Radiation #2
6.Grum Sai Grum
7.On My Answering Machine
8.relativisme extrême
9.Mandarake feat.Cuizinier(TTC)
10.Empathy feat.UA -PUSH-
11. Sênga (Empathy Reprise)

■プロフィール
Why Sheep? (内田学)
細野晴臣のレコーディング・アシスタント等を経て、WHY SHEEP? 名義でM.O.O.D(Moodman主宰)より1996年伝説的なファースト・アルバムをリリース。国内外のメディアで大きな反響を呼ぶ。その後アジア、ヨーロッパを中⼼に世界各国を放浪。7年間の沈黙の後、2ndアルバム『The Myth And i』が日・欧・米と世界発売される。数々のリミックスや映画等のサントラ、プロデュース等を手がけると同時にサマーソニック等、国内外での公演を精⼒的にこなす。2007年には、⾳を禅の作庭術になぞらえたサウンド・アートプロジェクト“枯⼭⽔サラウンディング”を⽴ち上げクリエイティヴ・ディレクターを務める。東急多摩川線全駅を使った多摩川アートラインプロジェクトでの作品「八水響」などが有名である。2010年には故マイケル・ジャクソンの伝記『マイケル・ジャクソン・レジェンド』(チャス・ニッキー=バーデン著)の監修も手掛け、初版1万部が予約のみで完売する。3.11以降、アーティスト集団Chim↑Pomの映像作品"気合い100連発"にリミキサーとして参画し、トークイベント"Rm311"を開始する等、⾳楽活動の領域を超えて勢⼒的に活動し、2014年秋、集⼤成ともいえる3rdアルバム「Real Times」をリリースする。

■Chim↑Pom の『Real Times』展とは
2011年5月20日-25⽇に無⼈島プロダクションで開催した芸術実⾏犯「Chim↑Pom」の個展。
2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原発での事故を受けて制作された作品群。巨大な現実を前にアートの無⼒が語られ、多くの展覧会が⾃粛された中、Chim↑Pomは現地に赴いて作品を制作。また、渋谷駅に永久設置されている、日本の被爆/被曝のクロニクルとも言える巨大壁画「明日の神話」に福島原発の事故の絵をゲリラで付けたし社会的事件を引き起こした。それらの作品で構成された「Real Times」展は、日本における震災・原発事故への代表的なレスポンスとして、国内のみならず海外でも大きく報道された。
https://chimpom.jp


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