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alt-J

ElectronicRock

alt-J

This Is All Yours

Infectious Music/ビッグ・ナッシング

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ブレイディみかこ   Oct 29,2014 UP

 2012年のマーキュリー・プライズを受賞したalt-J。というのが彼らのレヴューの普遍的なオープニング文のようだが、ele-king的にいえば、2012年ele-kingベストアルバム・ランキングで16位。わたし個人のリストでは2位だったalt-Jのデビュー・アルバム『An Awesome Wave』に次ぐ2作目が『This Is All Yours』だ。
 あれ? ほんでわたし1位は何にしてたんだっけ。と見てみると、パンク母ちゃんだのロックばばあだの言われているわりには、1位はジャズ系じゃん。と気づいたが、やっぱそれはロック系よりそっち側の人たちのほうが全然おもしろかったからだろう。
 が、alt-Jは相変わらずクールだ。彼らはジャズに負けてない。

              ******

 だいたい日本の地名を曲の題名にするにしても、彼らは“Nara”だ。京都でも、大阪でも、神戸ですらない。緑の芝の上で鹿が寝そべっている日本の古都、奈良を背景に、ジョー・ニューマンが「ハレルヤ、ハレルヤ」と独特のとぼけた哀愁のある声で歌う。フォーク・ステップと呼ばれるサウンドを生んだバンドの面目躍如といったところだろう。実際、2曲目“Arriving Nara”と3曲目“Nara”から、最終曲“Leaving Nara”まで、どうやら本作のalt-Jは、全編を通じて奈良を散策しているらしい。
 ギターの音が前面に躍り出て、ピアノ、フルート、鐘の音などが印象的に散りばめられている本作は、フォーク・ステップのフォークの部分が前作より遥かに強くなっている。よって前作の独特のアーバン・ギーク感は希薄になっているが、聴いているとサウンドから脳内に立ち上がる光景がやけに広がるようになった。というか、リスナーの意識が広がるというべきか。Alt-Jは本作で「マッシュルーム・ステップ」に移行した。と言う人がいるのも頷ける。チル。と呼んでしまうには、なんかこの眼前に広がる森林はドラッギーでいかがわしい。
 
 歌詞もまた、相変わらず淫猥である。

ハレルヤ、ボヴェイ、アラバマ
他の誰とも違う男と 僕は結婚する“Nara”

 アルバムの初頭では、同性愛婚を違法としているアラバマ州や共和党の創設者の1人ボヴェイの名を出したりして、芝に寝そべる鹿を眺めながらホモフォビアについて思索しているようだ。が、奈良を去る頃には

ハレルヤ、ボヴェイ、アラバマ
僕は恋人のたてがみの中に深く手を埋める“Leaving Nara”

 と想いはしっかり遂げたようだし、

女性の中に転がり入る猫のようにあなたの中に侵入したい
あなたをひっくり返してポテトチップスの袋みたいに舐めたい “Every Other Freckle”

 に至ってはもう、いったい彼らは奈良で何をしているのか。
 おタクのセクシネスが濡れぼそった森林の中から立ち昇るようではないか。
 音楽的な実験性いう点で、彼らはよくレディオヘッドと比較される。『ピッチフォーク』に至っては「レディオヘッドの2番煎じ。ギターとコンピュータが好きなUKバンド」などと乱暴に決めつけているが、わたしに言わせれば両者は似ても似つかぬ別物だ。
 alt-Jには、独りよがりではない、コミュニケイト可能な官能性があるからである。
 「ギターとコンピュータが好きなUKバンド」と『ピッチフォーク』が呼ぶジャンルの音楽、即ちナード・ロックを大人も聴けるセクシーな音楽にしたのはalt-Jである。

alt-Jの音楽は70年代のプログレッシヴ・ロックともよく比較される。が、わたしにとってプログレとalt-Jもまったくの別物だ。alt-Jの醒めた目で細部までコントロールし尽くしたサウンドは、自己耽溺性の強いプログレとは異質のものだからである。
前衛的インディー・ロックをすっきり理性的なポップ・ミュージックにしたのもalt-Jなのである。
 今年のUKロックは団子レース状態で似たりよったりゴロゴロ転がっていた。としか言いようがない。が、わたしはalt-Jには大きな期待を寄せている。
 セクシーさというのは、知性ではなく、理性のことだな。と最近とみに思うからだ。
 そして蛇足ながら、『ピッチフォーク』の評価とUK国内での評価が極端に違うUKバンドや個人ほど見どころがある。ということはもう広く知られていることだろう。

ブレイディみかこ

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