「Man」と一致するもの

どんぐりず - ele-king

 1月27日、群馬のどんぐりずが神戸の Neibiss と福岡の yonawo を引き連れて東京でライヴ。実に4県にまたがるスペクタクルが、えびリキ(編集部注・恵比寿リキッドルーム)で繰り広げられた。題して「どんぐりず Presents “COME ON”」。「COME ON」はもちろん「OMICRON」のアナグラム(編集部注・違います)。どんぐりずは群馬県のラップ・デュオで、群馬県から他県には移住しないというのがポリシー。そのことを知ってからはコロナの感染状況をTVで観るたびに群馬県の感染者数も気になり、昨年などは首都圏と違って「1」という日が多く、あまり他県との交流がないエリアなのかなと思っているとオミクロン株の侵入とともに感染者数は一気に増大。落差という意味では関東のどの県よりも切迫感があるのではないかという気持ちでこの日のリキッドルームにのぞむこととなった……などとテキトーな群馬観をめぐらせていると、メロウなブラコン・サウンドを演奏しきった yonawo に続いて、どんぐりずのオープニングはラッパーの森が「イカ・ゲーム」のコスチュームで演歌を熱唱し始める。

 とんでもない場末感。これが群馬なのか。群馬の本質なのか。それとも休業宣言を出した氷川きよしへのエールなのか。いずれにしろ、溜めを効かせ、これでもかと声量にパワーを注ぐ森の歌いっぷりに客席は早くも沸き立っている。とんねるず “雨の西麻布”、タイマーズ “ロックン仁義”、瀧勝(編集部注・ピエール瀧)“人生” に続くメタ演歌のフロントライン。「悪趣味×悪趣味=ハイセンス」という不思議な世界である。かっこ悪いことはなんてかっこいいんだろう。これぞ持続可能な脱力サブカルである。そして演歌からブリープ・サウンドに切り替わり、“NO WAY” になだれ込む。やはり「落差」がキモである。そして、この日、最後まで鳴り響くことになるぶっといベースがフロアに轟きわたる。おおお。恵比寿が揺れる。東京が揺れる。台湾海峡が揺れまくる。スマホで地震速報をチェックすると、実際にその時刻に日向灘ではマグニチュード3.2が記録されていた。何かというと田島ハルコの話をしたがる二木信によると「ヒップホップでここまでベースを出すやつはいない」とのこと。ベース! とんねるず……じゃなかった、どんぐりずのベースはでかい!

 客を煽って大声を出させてはいけないという配慮なのか、MCがあまりにも優しい。まるで体育の授業を受けているようだった Charisma.com のステージ運びとは対照的にホームルームのようなMCである。今日は来てくれありがとう~。何を言っていいのかわからなくなった森は途中でMCをトラックメイカーのチョモに振る。なんて完成されていないステージだろうか。つーか、「イカ・ゲーム」のコスプレがまったく生きていない。ディスタンスをとったクラウドはフロアに浮遊し、森のMCに深くうなづくか、指でピースサインを掲げるのみ。声援もないし、客席からどんぐりを投げ入れるファンもいない。ベースが途切れると、音的にはシーンとしている。以下、「シーン」と表記した場合は「深いうなづき」と「ピースサイン」が乱立している場面をご想像ください(編集部注・スウェーデンの客は感動しても誰も声を出さずにシーンとしている)。MC明けは “powerful passion”。スカした英語のラップの後に♩なにもしゃべらないで~は流れ的にもハマりすぎ。MCでノリが止まってしまい、体を再起動させようとしていると、♩つかれたら おどればいい~というラインは、なんかツボりました。アウトロのシンセサイザーがぐんぐん音量を増し、けっこうサイケデリックになっていく。

 中盤は次から次へとメロー・ファンクを決めていく。ドローン風のバック・トラックが耳を引く “E-jan” はライヴで聴くとやや毒気が薄れる。♩なんだってやっちゃえばいいじゃん~正解もどうだっていいじゃん~ 誰かの目ん中で生きてる~ 良い子は寝てればいいじゃん~(♩イイ子はイイ子にしかなれないよ~とラップしていた安室奈美恵へのオマージュなのか) ここ数年、ヒップホップはなるべく聴かないように心掛けていたんだけど、どんぐりずだけは別。どんぐりずはどんぐりずだから聴くのであって、ヒップホップだから聴いているわけではない。「今日のために新曲を2曲つくってきました」。シーン。1曲目はフィッシュマンズ “Running Man” を思わせるユーフォリックなリズム・パターン。残念ながら歌詞は聞き取れず。2曲目は一転してなんとジャングル(編集部注・“dambena” でもやってますよ!)。僕は最初から踊りっぱなしだったんだけれど、ここで会場内の踊りはピタッと止まる。まるで戦略核兵器削減条約のように。ジャングルにMCをのせるとどうしてもラガマフィンになりがちだけれど、森はそうならず、いつも通り歯切れよくラップ。冷静に会場内を観察していた編集部・小林拓音によるとジャングルだけでなく、踊っていたのは「トラップのときだけでしたね」とのこと。「あと2曲で終わりです」。シーン。

 どんぐりずは明らかにネーミングの勝利だろう。スワッグなネーミングにはコンプレックスが内包されていることを見抜き、漢字だけで表記する対抗意識にも距離を置いている。ネーミングだけで彼らのニュートラルな自意識が伝わり、ヒップホップに様式美から入ることを避けられる。ヒップホップのヒの字ぐらいしかなかった90年代にスチャダラパーを聴き始めたときと同じ入り口がここには用意され、ヒップホップにまつわる言説から音楽を解放した状態で聴かせてくれるともいえる。♩俺が踊る理由 ただ音に夢中~(“powerful passion”)というのは、本当にその通りなのだと思う。アンコールのために yonawo がドラムスやキーボードを設置している間、どんぐりず(編集部注・ここまででどんぐりずと13回表記しています)は時間稼ぎだといって祭囃子をファンクに仕上げた「わっしょい!」をやり始めた。この曲は単純に面白いというだけでなく、群馬県がブラジル移民と共存し、他の県にはない独自の祭りカルチャーを発展させてきたことが背景には張り付いている。少なくとも彼らのPVはそういう作りになっていると感じさせる。これが群馬。群馬のキャラクタリゼイション。

 セッティングが整うと yonawo によるバンド演奏+チョモランマのギターに途中からオープニング・アクトの Neibiss も加えて “like a magic” をプレイ。ラップ・ナンバーではなく、5年前にシティ・ポップを気取っていた曲で、それはまるでスチャダラパーとスライ・マングースが合体したハロー・ワークスを思わせる演奏風景だった。どんぐりずがラップというフォーマットから逸脱していく姿はとても自然な感じがすると同時にまだちょっと早いという気もした(編集部注・編集部は実はひとつも注を書いていませんでした)。

audiobooks - ele-king

 長い白髪に白い髭、ハリー・ポッターに出てきそうな風貌の男とファーのついたフードを被った眼光の鋭い若い女、パイ&マッシュの店でふたり並んで何かを見ている。オーディオブックスの新しいアーティスト写真を見ればすぐさまに何か異質なことが起きているということがわかる。大事なのはいつだってバンド名とそのたたずまいで、音楽はその後からついて来る。期待に胸を膨らまして再生ボタンを押す。ほうらやっぱり。そうして僕はぶっ飛ばされる。
 オーディオブックスの2ndアルバム『Astro Tough』は1stアルバム『Now!(in a minute)』よりも洗練されていて、攻撃的で、不機嫌で、悪態と叫び声が響き、踊り出したくなるような瞬間が現れて、メロドラマみたいな音が聞こえて来る。その瞬間ごとに表情を変えて複雑でどんなアルバムかと一言で言い表すことは難しいけれど、とにかく何かおかしなことが起きているっていうのは明白だった。このアルバムは尖りまくっている。

 それはオーディオブックスの結成にいたるまでの話にしても同じだった。カリブーの “Odessa” をミックスしたことで知られ、FKAツイッグスフランク・オーシャン、グラス・アニマルズ、最近ではレッツ・イート・グランマやコートニー・バーネットと仕事をしているベテラン・プロデューサー/ミキサーのデヴィッド・レンチはとあるパーティでゴールドスミスに通う美大生エヴァジェリン・リンと出会う。翌日、彼女はなんの連絡もなくレンチの仕事場にやって来て無数の質問を投げかけとあと、彼のモジュラーシンセサイザーを一日中いじっていた。その翌日も彼女はやって来てスタジオの中で遊んでいた。彼女曰くレンチのスタジオに来ると美術学校で描いた絵からインスピレーションを得てクリエイティヴなエネルギーがあふれ出てるとかなんとか。リンにとっては絵と音楽は同じもので、互いに影響しあい頭の中の同じ場所を使って違う材料から生み出されるものなのだという。そして彼女は言う、絵を描いていないときは、ある意味、歌詞が苦しんでいるように見えると(この2ndアルバムのアートワークもリンが描いたものだ)。そんな風にしてインスピレーションを活性化させる彼の仕事場が彼女の遊び場になった。漂うインスピレーションから歌詞をつかんで、シンセサイザーの音色からそこに潜むムードを盗む、そうやって彼女と彼は遊びで15曲ほど作ったのちにこれをプロジェクトにしようと決めた。

 2018年の1stアルバムの『Now! (in a minute)』においてオーディオブックスは「極力最初のテイクを使うこと」と自らに縛りを課して、インディ・ミュージックがかかるダンスフロアで髪を振り乱して踊るビョークのようなエキゾチックでポップ、ときおりスポークン・ワードが飛び交う、奇妙で優れたアルバムを作り上げた。そうしてこの『Astro Tough』はそこから一歩進みルールを変えて、今度はより作り込んだアルバムを制作しようと決めた。その結果、混乱したビョークは消え去り、よりクールで洗練された社会やそこでの出来事に対して意見を持った鋭い眼光の女性が現れた。1stアルバムにあり同時に魅力でもあった四方にまき散らされた乱雑なエネルギーが方向性を持ち、集約され、的を定めて放たれているような感じだ。同じようにスポークン・ワードが飛び交い奇妙でインディのダンスフロアをイメージさせるところもあるけれど、2ndアルバムは1stアルバムと比べてずっとシリアスでそうして同じくらい複雑な色味を帯びている。
 かってマーク・E・スミスがおこなったような攻撃的なテクノ・サウンドに載せたスポークン・ワードで小さな女の子がなくしてしまった人形(それは彼女の唯一の友達だった)を探しているうちに深みにはまり込んでしまったと歌われる “The Dall”。かと思えば続く “LaLaLa It’s The Good Life” では陽気なシンセに誘われるまま、皮肉まじりに都会のグッド・ライフが歌い上げられる。“He Called Me Bambi” ではムードを一転エスニック調に変え、アコースティック・ギター、生のドラムにストリングスを添えて、ディーン・ブラントの物語あるいはミカ・リーヴィの世界に出てきそうな雰囲気を醸し出している。「この男はマネとモネの違いもわからない」 “The English Manipulator” で唄われるような若干のスノッブっぽさもありもするけれど、それも曲に乗ってしまえば素敵なワン・エピソードに早変わりだ。ブラック・サバスの “Planet Caravan” を下敷きにしたという “Trouble in Business Class” にはディオール・オムのリッチマンやいにしえのビル・サイクスが登場し、ロンドンのオリンピック・パークの周辺地域がかつてペストの死者の集団埋葬場所だったということが示唆される。方向性を欠き、出口を見失い、闇の中で徘徊を続けるようなこの曲には重さがあって、ひょっとしたら制作時期の世界の空気が影響しているのではないかと思わず考えてしまう(しかしこの時期に作られた音楽に暗く影を落とした世界の影響がないものなどあるのだろうか?)。

 結局のところオーディオブックスが優れているところはその奇妙な複雑さなのかもしれない。同世代の人間ではない男女二人、経歴もバラバラで見てきたものも違っていて、それをひとつの方向にまとめるのではなく、違ったまま混乱と差異を形にする、それこそがオーディオブックスの魅力なのだ。年齢が倍ほど違うふたりの、どちらかのための音楽ではなく、それぞれの持ち味を発揮してそのあとでバランスを取る。だから結局は尖っていくしかないのかもしれない。バランスを取ろうと思うのならば自身も相手と同じくらいの意識を持たなければならないのだから。そしてその結果として奇妙に尖ったアルバムが出来あがる。人工芝、「アストロターフ」を言い違えたことからタイトルがつけられたというこのアルバム『Astro Tough』の持つ空気はなんとも奇妙で尖っていて、そしてそれがとても魅力的に映るのだ。

King Krule - ele-king

 歓声が聞こえる。それはいまとなっては少し現実感のない、どこか架空の世界の音のようにも聞こえる。

 年が明けて2022年、僕は時間に線が引かれて境目ができた後の世界から以前の世界を眺めている。2020年の半ばから配信ライヴを見る機会が増えて(チケットアプリ DICE を入れて初めて買ったものが会場に行くことのない配信ライヴのチケットだったというのはなんとも奇妙な話だ)歓声のないクリアな音を聞いていた。日本にいながらも三つの会場、ウィンドミル、ジョージ・タバーン、ギャラリーでおこなわれたインディペンデント・ヴェニュー・ウィーク2021を見ることができたのはある意味ではラッキーなことだったのかもしれない。元々はフェイマスとジャースキン・フェンドリクス(つまりブラック・カントリー・ニュー・ロードの“Track X”に登場する二組だ)が同じ日に見られると思いチケットを買ったのだけれど、いちばん印象に残ったのは彼らが出ていない二日目に出演していたドッグという名前のなんだかわからない形のギターを弾いていたなんだかわからないバンドだった。ここまで発表している音源はなし。当然こんな名前で見つかる情報もほとんどなし。その後なんとかインスタグラムのアカウントを見つけて記憶の中での再生を続けながらいまはその最初のリリースを楽しみに待っている。少々奇妙な形のこうした出会いができたのはストリーミング配信でイベントがおこなわれたからに他ならないだろう。望んでのことではなかったのかもしれないが、今日では配信ライヴの文化というものが形成されつつある。それはリアルのライヴの代替なのかもしれないけれど、リアルのライヴにはない側面もあって、それが適応を迫られた世界のメニューに載っている。2020年の上半期にあったような「しょうがない」という気持ちは「このようなやり方」という風に変わりいまではすっかり「そういうもの」として受け入れられているのだ。

 あぁしかし歓声が聞こえる。キング・クルールのライヴ・アルバム『You Heat Me Up, You Cool Me Down』を再生して最初に耳に入るのは歓声だ。キング・クルールことアーチー・マーシャルをステージに迎え入れる声。その声はその場の空気を具現化したもので、そこにいない僕らの感情を引っ張っていく。チューニングを合わせるみたいにしてパンデミック以前の会場の様子に思いを巡らしているうちにギターの音が聞こえてきて、アーチー・マーシャルがそこにいるということが示唆される。そうしてまた歓声。ズー・キッドを名乗っていた時代の古い曲 “Out Getting Ribs” からライヴがスタートし手拍子が起こる。16歳の少年アーチー・マーシャルが作った曲を25歳の父親になったアーチー・マーシャルが唄う。10年前には聞かれなかったサックスの音が響いて、それでなんだか時間の流れが見えたような気分になる。
 キング・クルール以降という言葉をしばしば見かけるようにキング・クルールの音楽がいまのロンドンのバンドに与えた影響は少なくない。ヒップホップに影響されたようなビートにジャジーなギター、ポスト・パンクの要素にダブ、言葉と感情を伝える独特なヴォーカル・スタイル、様々な要素が混じりあって作られるその空気にはサウス・ロンドンの音楽のほとんど全てがあって、その後に続くシーンのひな形になったといえるのかもしれない(もう少し付け加えるならキング・クルールもまた近年注目を集めるブリット・スクール出身だ。現在のような流れの、塊ではなく単体の兆しとして、それはキング・クルールの音楽の中にあったのかもしれない)。
 2013年の『6 Feet Beneath The Moon』、2017年の『The Ooz』、2020年の『Man Alive!』、三つのオリジナル・アルバムの中からまんべんなく曲が選ばれて、その全てが『Man Alive!』をリリースした直後の空気の中で調和する。このライヴ盤はヨーロッパの都市がロックダウンされる数週間前におこなわれたツアーの最初の数公演の中からセレクトされたもので、どこかの一夜がそのまま収められたものではないのだが、しかし上記の歓声を含め現実に起こった出来事を繋ぎ合わせ、意図してその後におこなわれるはずだったツアーの起きることのなかった架空の一夜を作り出しているように思えてならない。サックスが鳴り響く “Out Getting Ribs” の余韻から “Emergency Blimp” になだれ込む、その瞬間に僕はスリルを感じる。タイトなドラムは気持ちをせかしギターの音が不安を煽る。ここでのアーチー・マーシャルのヴォーカルはオリジナル・ヴァージョンとはまったく違うつばを吐きかけるような強烈な勢いと対処しきれない不安を吐き出すみたいな様相を呈していて、それがさらに不安を煽って加速させる。3rdアルバム『Man Alive!』に収録されている “Stoned Again” もやはりオリジナルとはまったく異なっているような印象で、より生々しくなった演奏と矢継ぎ早に荒々しく言葉を紡ぐアーチー・マーシャルのヴォーカルがジャジーなヒップホップを思わせ、荒れ狂うギターとサックスの音が感情の形を作っていく。

 キング・クルールの音楽はなんとも居心地が悪いものだ。都会的で暗く孤独で不安を煽るようなもので、スタイリッシュでモダンな音の裏に隠れた繊細な感情が作り込まれたオリジナル・アルバムからほころびてステージの上で漏れ出ている。ある種の見栄のような美意識と映画のサウンドトラックのような物語性を帯びた美しさ、その裏で牙が研がれ不安といら立ちが解放される、ステージ上で繰り広げられる崩しが入ったようなキング・クルールのそれがなんとも格好良く思わず憧れみたいな気持ちを抱いてしまう。居心地が悪くなるのは、それが共感し誰かとシェアするような感情ではなく個人の心の中にある孤独を投影したものだからなのかもしれない。孤独とは誰もいないということではなく、人びとの気配の中にあるものなのだ。

 そうしてこの架空の一夜は1stアルバムの最初の曲 “Easy Easy” で締められる。お約束のジョークのようなやりとり。最後の曲だとアーチー・マーシャルが静かに告げて歓声が起こりポーズだけの申し訳程度のブーイングがおこなわれる。この曲のキング・クルールはまるで10代の少年のように攻撃的でシンプルなギターの音を響かせ声を荒げている。それは在りし日の思い出のようでもあり、それと同時に飾らないアーチー・マーシャルのいま現在の姿のようでもある。手拍子が聞こえ、それがかき消され、アーチー・マーシャルの声に続くように観客の歌声が聞こえはじめる。バンドのサウンドが陰鬱さを塗りつぶすかのように激しさを増す。それは不安からの解放のようでもあって、この瞬間のカタルシスは観客の前でのステージでなければ得られない。人びとの心からの自然な反応、そのまとまった感情が空気を作り、それが追体験する者の心をも揺らすのだ。そうしてまた歓声。キング・クルールの気配が消えたステージを包み込むようにして拍手と歓声が鳴り響いて、そしてまるでその日が夢だったみたいに、フェードアウトして消えていく。歓声にはじまって歓声に終わる、ありえたかもしれない架空の一夜を描いたこのアルバムは、もしかしたら現実にあった夜よりもライヴというものを表現しているのかもしれない。キング・クルールのこのライヴ盤は、音楽というものがリリースされてそれでおしまいになるようなものではないと教えてくれるのだ。

どんぐりず - ele-king

 いまどんどん注目を集めている群馬は桐生の2人組、どんぐりず。その独創的な音楽を堪能する絶好の機会がやってきた。
 1月27日(木)東京・恵比寿 LIQUIDROOM と2月5日(土)大阪・味園ユニバースにて、「どんぐりず Presents "COME ON"」と題したライヴ・イヴェントが開催。福岡の新世代バンド yonawo と 神戸のラップ・デュオ Neibiss も出演する。これはマッチョな現行ラップ・シーンに風穴を開けるイヴェントになるかも!? 期待大です。

■東京
2022/1/27(木)
恵比寿LIQUIDROOM
OPEN 18:00 / START 19:00
出演:どんぐりず / yonawo / Neibiss

■大阪
2022/2/5(土)
味園ユニバース
OPEN 17:00 / START 18:00
どんぐりず / yonawo / Neibiss

TICKET INFORMATION
https://www.creativeman.co.jp/event/dongurizu_2022/



どんぐりず
ラッパー森、トラックメイカー・プロデューサーのチョモからなる二人組ユニット。音源、映像、アートワークに至るまでセルフプロデュースを一貫。ウィットにあふれるグルーヴとディープなサウンドで中毒者を続出させている。



yonawo
荒谷翔大(Vo)、田中慧(Ba)、斉藤雄哉(Gt)、野元喬文(Dr)による福岡で結成された新世代バンド。
2018年に自主制作した2枚のEP「ijo」、「SHRIMP」はCDパッケージが入荷即完売。地元のカレッジチャートにもランクインし、早耳リスナーの間で謎の新アーティストとして話題に。2019年11月にAtlantic Japanよりメジャーデビュー。
2020年4月に初の全国流通盤となる6曲入りのミニアルバム「LOBSTER」をリリース。
そして、11月には、Paraviオリジナルドラマ「love⇄distance」主題歌オープニング曲「トキメキ」や、史上初となる福岡FM3局で同時パワープレイを獲得した「天神」を収録した待望の1stフルアルバム「明日は当然来ないでしょ」をリリース、全国5都市で開催された初のワンマンツアーは全公演チケット即完売。
2021年1月に配信シングル「ごきげんよう さようなら」、3月に配信シングル「浪漫」、5月に冨田恵一(冨田ラボ)プロデュースによる配信シングル「哀してる」を、7月に亀田誠治プロデュースによる「闇燦々」をリリース。そして、8月11日(水)には2ndフルアルバム「遙かいま」をリリースし、直後に「FUJI ROCK FESTIVAL ‘21」へ出演。また、メガネブランド「Zoff」の「Zoff CLASSIC Summer Collection」のモデルも務める。



Neibiss
兵庫・神戸を中心に活動するラッパー・hyunis1000とビートメイカー / DJ / ラッパー・ratiffによるヒップホップユニット

History of Fishmans - ele-king

 ドキュメンタリー映画が異例の大ヒットとなったフィッシュマンズ、20代の若者たちがフィッシュマンズのトートバックを持って歩いている姿を渋谷で見たときは、ちょっと上がりました。まさに「永遠のフィッシュマンズ」ですね。
 待っていた方も多いことでしょう。パンデミックの影響で、しばらくライヴのなかったフィッシュマンズですが、3月1日‏2日と恵比寿のリキッドルームにて2日間ライヴをやります。
 1日目は1991年〜1994年、2日目は1995年〜1998年と、歴史に即したライヴになるようです(要するに、『空中キャンプ』以前と以後ですね)。配信もあるので、お見逃しのないように。

Ian Wellman - ele-king

 イアン・ウェルマンは、カリフォルニア州ロサンゼルスを拠点とするサウンド・アーティスト、プロダクション・サウンド・ミキサー、フィールド・レコーディング・アーティストである。
 この『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』は、2021年12月に〈Room40〉からリリースされたウェルマンの新作だ。同レーベルからリリースされたロバート・ジェラルド・ピエトルスコ『Elegiya』と同じく薄暗い空気と微かな光のようなアンビエント・ドローン作品に仕上がっている。
 もちろん『Elegiya』と『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』は異なる作品だ。シネマティックなムードは共通しているが、『Elegiya』は幽玄な質感のドローンであり、『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』は、ノイズ音楽や生体音響学などに影響を受けたというイアン・ウェルマンらしいノイジーなうごめきに満ちたアンビエント/ドローンである。
 ウェルマン本人のライナーによると「怒り、不安、希望の間で揺れ動き、通常はディストーションやノイズに変化し」「世界中で起きている出来事に意味を見出そうとする試み」であったという。加えて「行き詰まった人生に対する私自身のフラストレーションを癒す方法」でもあったとも書いている(https://ianwellman.bandcamp.com/album/on-the-darkest-day-you-took-my-hand-and-swore-it-will-be-okay)。不穏な社会や不安定な個人を反映するかのようなサウンドであるのはこういった背景があるからだろうか。
 インターネットや現実で引き起こされる多くの社会問題や社会情勢はアンビエント・ドローン作品のような抽象的な音楽にも深く影響を与える。つまり時代が暗ければサウンドの質感にダークなものが増えるというわけだ(反対に過剰に癒しを放つものも増えてくる)。社会の無意識を写す鏡のような現代アンビエントだ。ちなみに現代アンビエント・ドローンの名手とはいえばヤン・ノヴァクであり、彼の霧のような美麗ドローンをまず思い出すが(彼の音響は本当に美しい。まるで空気を浄化するようなアンビエントなのだ)、イアン・ウェルマンの諸作品は、ヤン・ノヴァクのアンビエントとは異なる魅力を発している。
 イアン・ウェルマンのアルバムを聴いていると、世界の不安や不穏をスキャンしたサウンズの波を感じてしまうのだ。彼は社会/世界、世界の変化や状況にとても敏感かつ鋭敏な感性を持っている音楽家なのだ。尖っていて不安定な感覚があるのだ。音もセンシティヴである。この感覚は精神の沈静を追求するアンビエントの音楽家の中では稀だ。不意にリリース・レーベル〈Room40〉を主宰するローレンス・イングリッシュの音楽性を思わせもする。
 2018年にヤン・ノヴァクが主宰する現代アンビエント・レーベルの名門〈Dragon's Eye Recordings〉からリリースした『Susan's Last Breath Became the Chill in the Air and the Fog Over the City's Night Sky』、2019年に同じく〈Room40〉からリリースした『Bioaccumulation』もそのような世界の不穏さを反映していたように思う。
 2021年にリリースした本作『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』では、これまで以上に、不穏なアンビエンスに聴こえた。やはりコロナ以降の世界の反映だからだろうか。

 アルバムには全13曲が収録されている。どの曲も微かなノイズが刺すように鳴り、一方で溶け合っていくような持続音を聴かせてくれる。しかもトラックには4分台の曲多い(1分ほどの曲もある)。この種のアンビエント作品は一曲が長いものが多いのだが、その点からしても異質な作風である。
 本作は長い音の持続にじっくりと耳を澄ますタイプの作品はなく、ノイズのフラグメンツ(断片の数々)を摂取するようなアルバムなのだ。この断片性は聴く物に独特の不安感(と心地よさ)を与えてくれる。
 じじつ、このアルバムを聴くと気候変化や社会問題、事件、事故などが混じり合った、いまこの時代特有の集合的無意識を聴取するような独特の不安感があるのだ。ほぼ同時期にリリースされた『I Watched The World Burn Without Leaving My Home』と合わせて聴くと、さらなる孤立感や時代の無意識を感じることができる。いわば「社会」「世界」に抵抗しつつ溶け合っていくような聴取体験があるのだ(『I Watched The World Burn Without Leaving My Home』はどうやら世界各地の火災問題を扱っているようだ)。ノイズという厳しい現実と平穏というアンビエントが交錯し、彼の音楽として総体を形作っている、とでもいうべきか。
 そう、『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』は、まさに心と体と世界の境界が融解/溶解するようなアンビエント/ドローンなのだ。1年のはじまりに(でなくとも良いのだが)心身を調律するように聴き込みたい。

Trilogies - Mars89 episode 1 - ele-king

 レコード店「Disc Shop Zero」の店主、飯島直樹氏が永眠してはや2年、今年の2月で3回忌を迎える。彼の功績に敬意を表しつつ、彼が志した低音の美学とその広大なヴィジョンを継承すべく、2月11日(金)渋谷のContact Tokyoにて、飯島氏がオーガナイーザーでもあったポッセ〈BS0〉がパーティを企画する。「Disc Shop Zero」に行ったことがない人も、ぜんぜんウェルカム。足を運んで、力強いベースを感じて欲しい。

Yusa Haruna - ele-king

 エレキングが2022年にリリース予定の作品でもっとも期待している1枚に、遊佐春菜のソロ・アルバム『Another Story of Dystopia Romance』がある。浅見北斗と遊佐春菜が時代の暗闇と向き合ったこのメランコリックな問題作から、去る12月20日に先行曲“Night Rainbow”の配信が開始された。ハウス・ミュージックの艶めかしさと刹那の切ない思いが入り交じった良い曲です。
 年明けの1月26日には第二弾“ミッドナイトタイムライン”の配信があり、また2月にもMVなどが公開される予定だとか。アルバムは〈キリキリヴィラ〉から4月にリリース予定。なお、アルバムには高木壮太(DJ善福寺)やSugiurumn、Satoshi Fumiらのリミックスも収録される。

Contact - ele-king

 コロナ禍で迎える年末年始のカウントダウン・パーティ、渋谷コンタクトの「New Year’s Eve Countdown Party 2011-2022」には、BOREDOMSの∈Y∋のライヴをはじめ、あっこゴリラと食品まつりとの共演、なかむらみなみのライヴほか、滝見憲司ほか、Contactでお馴染みのDJやMOTORPOOLのレギュラー陣、ファビュラスなDrag QueenやGoGo Boysも加わって、2022年の幕開けをお祝いする。

NON BAND - ele-king

 日本のポスト・パンクの名盤の1枚に数えられる『NON BAND』(1982、テレグラフ)から40年。ノン・バンドがセカンド・アルバム『NON BAND II』を12月22日にリリースする(アナログ盤は2022年1月下旬予定)。
 2017年にドイツのレーベルから再発された『NON BAND』は、あの時代、レインコーツの『オディシェイプ』とザ・スリッツの『大地の音(リターン・オブ・ザ・スリッツ)』と共振したアルバムだった。プリミティヴなドラムと自由奔放なアレンジ、空間的な音響にファンク、祭り囃子やジャズなどが放り込まれ、ノンの圧倒的なヴォーカルがこの独創的な音楽に輪郭を与える。ほとんどオリジナル・メンバーで録音された40年ぶりの新作にも、その方向性は受け継がれているが、40年分の大きなスケールが広がっている。バンドのサウンドに合ったアートワークも素晴らしい。今年はNON BANDの初期の名曲「Vibration Army」もありがたいことにシングル発売されたが、このバンドの素晴らしい躍動感は、まずは日本でもっと広く知られるべきだ。
 なお、この録音を最後にオリジナル・メンバーでありバンドの要でもあったドラム担当の玉垣満は1年前に永眠した。彼に捧げられた『NON BAND II』は、前作同様、地引雄一の〈テレグラフ〉からのリリースになる。

NON BANDO
NON BAND II

CDは2021年12月22日Telegraph Records
アナログ盤は2022年1月下旬 Mangalitza Records
*配信は2022年2月上旬予定
https://nonband.exblog.jp/

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