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interview with Courtney Barnett

interview with Courtney Barnett

朝にはじまる

——コートニー・バーネット、インタヴュー

野田 努    通訳:伴野由里子 photo: Mia Mala McDonald   Nov 10,2021 UP

 朝はだらだらと過ごす
 窓際に椅子を引きずっていき
 外の様子を眺める
 ゴミ収集車が道沿いに静かに進む
 犠牲者のためにキャンドルを灯し
 風に乗せて気持ちを伝える
 私たちのキャンドルや希望や祈り
 それらは善意から出たものだけど
 まるで意味がない、変化が訪れなければ
 今日はシーツを変えた方がいいかも
“レイ通り(Rae Street)”


Courtney Barnett
Things Take Time, Take Time

Marathon Artists /トラフィック

Indie Rock

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 コートニー・バーネットの新作は朝からはじまる。朝起きて、窓の外を覗いて、外で起きている何気ない日常を見入る。このはじまりはバーネットらしい。彼女の風通しの良いギター・ロック・サウンドは、視界が開けていくような感覚をうながす。新作のタイトルは『物事には時間がかかる、時間をかけろ(Things Take Time, Take Time)』という。
 オーストラリアはメルボルン出身のバーネットには、古くて良きものとしてのロックがある。もっとも彼女のそれは今日的な新しい視点によって描かれているし、ロックのともすれば悪しき自己中心的な横暴さや、ありがちだった父権社会への加担もない。バーネットの評価を決定づけたデビュー・アルバムのタイトル『ときどき座って考えて、ときどきただ座る(Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit)』は、それが誕生してからずっと芸術的な進化を期待されてきたロックが別のルートに入ったことを象徴するような言葉であり、彼女の短編小説めいた歌詞のセンスが発揮されてもいた。ヴェルヴェッツ好きのリスナーには先日彼女が披露した“アイル・ビー・ユア・ミラー”のカヴァーを聴けばなおのこと、バーネットの音楽が少数派の代弁として機能していることもわかっているだろう。
 とはいえ、これは悲しいアルバムではないし、やかましくもない。リラックスしていて温かい作品だ。バーネットはカーテンを開けて、部屋に日光を取り入れている。斜に構えることなく、悲観することに感情は支配されない。サウンドも言葉もときに朗らかだったりする。それが新作の特徴で、彼女は“楽しみにしていることのリストを書く(Write A List of Things to Look Forward to)”。

「ロックは死んだ」とか「ギターは死んだ」とか。でも、どうなんだろう。議論すること自体がちょっと馬鹿げているとも思う。世のなかにはいろんな音楽があって、どんなもの、循環して巡り巡って、流行りやトレンドが生まれるわけで。どんなものでも、その居場所があるべきだと思う。

 誰も知らない
 どうして私たちは頑張るのか、どうして頑張るのか
 そんな風に時は流れる
 私はあなたからの次の手紙を待ち焦がれる

 ソングライターとしての才を持っているバーネットの今回は“陽”の部分が広がっている。サウンドには遊び心もあって、アルバムにはきわめて控えめながらリズムボックスやシンセサイザーも鳴っている。そしてそれぞれの曲には彼女らしい思慮深い言葉が綴られている。その多くはコロナ渦において生まれているから、未来へのリセットを余儀なくするしかない(はずの)我々にとってもきっと共振するところが多々あることだろう。朝にはじまり夜に終わる新作について、この10年もっとも広く愛されているインディ・ロック・アーティストのひとりである彼女が電話を通じてアルバムについての詳細を話してくれた。

忙しいなかお時間ありがとうございます。新作がとても良かったので、お話を聞けることを嬉しく思います。いまどちらに住んでいるのですか?

CB:住んでるのはオーストラリアのメルボルンよ。けど、いまは数週間後にはじまるツアーに備えてカリフォルニアのジョシュア・ツリーに滞在している。

いまでもメルボルンに住んでいるのはどうしてでしょう? 

CB:いまでもメルボルンに家があるけど、場所にはそこまで拘っていない。人との繋がりのほうが大事だよ。友だちとか家族とか。だから、特定の場所に深い結びつきを感じているわけじゃないんだ。

今作『物事には時間がかかる〜』をまず聴いて思ったのは、前作『本当に感じていることを私に教えて(Tell Me How You Really Feel)』とくらべて、明らかに全体的にリラックスしたムードがあり、またユーモアとポジティヴなヴァイブもあるということです。ギターの響きは前作よりも繊細で、温かく、とても良いフィーリングが表現されているように感じました。あなた自身、今回のアルバムをどのように解釈しているのでしょう?

CB:あなたがうまく言い表してくれたと思う。私自身は、聴き返すとすごく喜びに満ちていると感じる。楽しそうなアルバムだし、落ち着いていて、のどかな感じもするし。そういう作品になって満足している。そういう感情を捉えたいと思っていて、音楽で表すことができたから。

制作はコロナ中にされたのですか。オーストラリアではそれほどひどい状況ではなかったかもしれませんが。

CB:曲はこの数年間、断続的に書き続けていて、なかには2020年より前に書いた曲もある。アルバムを作ろうと本腰を入れたのは2020年の中頃。メルボルンにいたんだけど、オーストラリアはたしかに他の国と比べて感染者数が極端に多いわけではなかった。けど、かなり長いあいだロックダウンを敷いたり、解除したりの繰り返してで、つい数週間前にもロックダウンが解除されたばかりだったり。だから、これといって大きな出来事もなく、けっこう静かな1年だったかな。世界の他の地域と比べたら状況は良かったものの、長期間ロックダウンが敷かれていたのはたしかだよね。

いまアルバムが喜びに満ちていると言っていましたが、それは自分が抱えていた感情なのか、それとも、そうだったらいいな、という思いからだったのか。

CB:その両面が少しずつあると思う。誰もがそうだったと思うけど、私にとっても感情が揺れ動いた時期だったわけで、いろいろな思いを抱えながら過ごした。だから、前向きな気持ちを切望していたときもあって、そういうことを思い浮かべながら曲を書くこともあったし、いっぽうで、異様な世界を前にして、未来がどうなるかわからないなかで、感謝の気持ちもだったり、生きてることへのありがたみを感じる瞬間もあった。表裏一体なんだと思う。

日常のなかの小さな物語を描いているという点ではファースト・アルバム『ときどき座って考えて~』の頃に近いという言い方もあるのかもしれませんが、今作にはファーストにさえなかった楽天性——この言葉が正確かどうか自信はありませんが——があるように感じたのですが、実際のところいかがでしょうか?

CB:そうね。ちょっとした悟りの瞬間があったんだと思う。しばらく落ち込んでいた時期があって、自分の思考パターンを意図的に変えようとした。自分の脳を能動的に変えよう、という。自分にできる方法でね。ときには楽天性を自分に強いることもあった。それを続けることで、自然とそうなるんじゃないかっていう(笑)。うまく言えないんだけど、自分なりに生き方を模索してたんだと思う。

序文・質問:野田努(2021年11月10日)

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