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Home >  Interviews > interview with Courtney Barnett - コートニー・バーネット来日特別インタヴュー

interview with Courtney Barnett

interview with Courtney Barnett

コートニー・バーネット来日特別インタヴュー

取材・文:小林拓音    通訳:伴野由里子 Photo by 小原泰広   Mar 29,2019 UP

 こんなこと言っても信じてもらえないかもしれないけれど、僕にだってロック少年だった時期がある。ティーンのころのことだ。世代的に少し遅れての出会いではあったけど、いわゆるオルタナとかグランジ、ブリットポップに心を奪われていた。どこに目を向けても行き止まりにしか見えない田舎の風景を眺めながら、学校も家庭もぜんぶぶっ壊れてしまえばいいのになんて、わりとベタなことばかり日々考えていた。文字どおり屋上でひとり過ごしたことだってある。完全にイタい奴である。でもたぶん本気で信じていたんだと思う。こことは違う場所がどこかにある。こうじゃない世界がかならずあるはずだって。
 洋楽だけが窓だった。

 3月8日。O-EASTのステージでは昨年セカンド・アルバム『Tell Me How You Really Feel』を発表したコートニー・バーネットが一心不乱にギターをかき鳴らしており、その姿を観た僕は若かりし時分のことを思い出していた。彼女の音楽はいつだってここではないどこかを夢見させてくれる。いや、というよりも、そう想像することそれじたいの豊潤さを教えてくれる。
 翌日、幸運にも取材の機会に恵まれた僕は、前夜の昂奮を持ち越したまま彼女に、曲作りの秘密やこれまでの作品について尋ねていた。

自分のなかの言葉をどんどん出して表現していくことって、自分をさらけ出すことでもあるけど、「こんなこと考えてたんだ」って自分でも知らなかった部分がわかっておもしろい。

昨夜のライヴ、とても良かったです。自分がいわゆる洋楽を聴きはじめたころのことを思い出しました。オーストラリアはもちろん、アメリカやイギリスの音楽を聴く人って日本ではクラスにひとりいるかいないかくらいの規模感で、いわばマイノリティなんですけれど、日本のリスナーにはどういう印象を持っていますか?

コートニー・バーネット(Courtney Barnett、以下CB):昨日のオーディエンスはすごく大好き。みんな一緒に歌ってくれたし、笑顔がいっぱいだった。自分もやっていてすごく楽しかった。

いま日本では、いわゆる邦楽が好きなリスナーはもっぱらそれしか聴かなくて、閉じているというか、世界から分断されているような状況があります。

CB:日本がそういう状況だとは知らなかった。オーストラリアとはぜんぜん違うのね。私が最初に音楽を聴きはじめたころは、巷で流れている曲や流行っている曲を聴いていて、わざわざ自分から能動的に探して聴いたりはしなかった。でも10代になると、自分の興味の向くものを自分で追求しはじめる。自分がほんとうに聴きたい音楽を見つけるのはとても時間のかかる作業だった。自分の好きな音楽との出会いって、個人差があるんじゃないかな。

言語の壁みたいなものってあると思います?

CB:私の音楽は歌詞に重きを置いているし、自分の音楽についてコメントを貰うときも、歌詞を取り上げられることがすごく多い。じっさい歌詞は時間をかけて作っているし、曲の前面に言葉が出てきていると思う。でも、じゃあ言葉がいちばん大事かっていうと、自分でも断言できないから難しい。今回日本に来る前は南米にいて、そっちも英語が母語じゃないんだけど、ライヴに来てくれる人たちはみんなすごく楽しそうで、歌も一緒に歌うし、盛り上がって歓声も多いから、やっぱり人によって受け取り方が違うんだと思う。言語が同じ国、たとえばアメリカやオーストラリアでさえも、その場所柄というよりは人によって、音楽に対する反応や楽しみ方が違ってくる。世界中をツアーして気づかされたのは、音楽の楽しみ方は人によって違っていて当然ってこと。ここの国の人はこういうふうに聴く、って決まったものがあるわけじゃないと思う。
 あともうひとつ気がついたのは、周囲のエネルギーに左右されることが多いってことね。一部ガラの悪いお客さんがいると、自然に全体としてもガラが悪くなったり。そのへんは自分でも模索中だけど、一方で私じしんは素晴らしいバンドと一緒にツアーで演奏することができて、すごくありがたいと思っている。バンドが繰り出す音のダイナミズムは言葉の壁を越える普遍的なものだから、歌詞がわからなくても音を聴けばたぶん「怒っている」とか「悲しんでいる」という感情が伝わるはずよ。それはそれですごくパワフルなことなんじゃないかな。

おっしゃるとおり、あなたの歌詞は曲のなかで重要な位置を占めていると思いますが、詞を書くときはどういうプロセスを経るのでしょう? 言葉が先なのか、コード進行やサウンドが先なのか。

CB:毎回違うわね。決まったプロセスがあって、それを繰り返しやっているってわけじゃなくて。ただ、ノートに言葉を綴るという作業にはすごく時間を費やしている。たまにギターでコードを弾きながらノートを見て、そのコードに合う言葉がないか探すようなときもある。曲が先にできていて、まったく歌詞のない状態から、それに合う言葉を考えていくこともある。音楽が言葉のヒントになる場合と、逆に言葉が音楽のヒントになる場合の両方のパターンがあるのね。だから決まった方法はない。

これまでに作った曲で、もっとも苦労した曲はなんですか? 音は良いけどそれに合う言葉が出てこないとか、あるいは逆に、この言葉はどうしても使いたいけどそれに合う音が見つからないとか。

CB:両方ある。パズルのピースがぜんぶうまくフィットするように少しずつ調整していくこともあるし、ほんとうにうまくいかなくて、結果的に歌じゃなくてポエムにしちゃったり。どうしても言葉がしっくりこないときは、インストのまま寝かせることもある。カート・ヴァイルとのアルバム(『Lotta Sea Lice』)のなかに“Let It Go”って曲があるんだけど、これはどうしてもうまく歌詞が見つからなくて、ずっとインストのまま放置していたの。それがある日ピンときて曲にすることができた。だから、うまくいくタイミングが来るのを忍耐強く待つ。そういうふうにやっているわ。

言葉を紡いでいくときに、自分じしんが何を言いたいかよりも、言葉たちが何を言いたがっているかを考えて書くみたいな、そういう体験をしたことはありますか?

CB:似たようなことはあるね。曲を作っているときに、たとえば最初の一行が決まっていたりコーラスの部分が決まっていたり、先に鍵になる部分があって、それが自分にとってすごく印象的なものだったから、それを核にして曲を書こうってわかっているときもあるけど、逆に自分のなかでなんとなくこんな感じの言葉を使いたいんだけど、まだ言葉にできないなーってときはすごくフラストレイションが溜まる。でも、なんとかいろいろ模索していって、最終的にかたちになったときの達成感はすごく大きい。

必ずしも自分が言いたかったわけではない言葉が出てくることもあると思うんですけれど、それを自分の名のもとに発表することにかんしてはどう折り合いをつけています?

CB:とくに決まったメッセージとかアイディアがあるわけではなくて、何も考えずに、とにかくどんどん言葉を書いていくと、意味不明な言葉が出てきたり何度も何度も同じ言葉が登場したりして、ぜんぜん理に適ってないんだけど、それって逆に自分の潜在意識にあるものがそのまま出てきているんだというふうにも考えられると思う。何も考えずに書いたもののなかからすごく良いフレーズが出てくることもあるし。
 発表することにかんしていえば、躊躇することはほとんどないけど、ひとつだけルールがあるね。人を傷つけるようなことだけは絶対にしたくない。だから、たとえば誰かにたいして怒っていても、その気持ちは自分のなかに留めておく。あるいは怒りを表現する場合でも、相手を傷つけるようなことは必要ないよねって思ってる。自分のなかの言葉をどんどん出して表現していくことって、自分をさらけ出すことでもあるけど、「こんなこと考えてたんだ」って自分でも知らなかった部分がわかっておもしろい。

オートマティスムですね。歌詞を書くうえで影響を受けた詩人や小説家はいますか?

CB:うーん、「これ!」っていう人は出てこないかな。以前はいまより本を読んでいたけど、「この人が死ぬほど大好きで憧れてる」みたいな存在はいないね。自分が経験したことや吸収したもののすべてが、将来自分が作る作品に影響を与えていると思う。たとえばヴィジュアル・アートとか。あと、オーストラリアにいるときはよく舞台を観にいくんだけど、いろんなアーティストが違う芸術の分野でやってる表現を観るのってすごくおもしろい。分野は違っていても、伝えようと取り上げているものやテーマはすごく似ていて、それをみんながそれぞれのやり方で表現しているのを観るのはほんとうにおもしろいと思う。

その似ているテーマとはなんでしょう?

CB:もちろんひとつのテーマに限定しているという話ではなくて、いろんなテーマがいろんな方法で表現されていると思うんだけど、たとえばシェイクスピアは愛や憎しみ、裏切り、嫉妬、悲しみとか、そういったものを表現してるけど、他の人たちも同じようなものを取り上げているなとは思う。人間関係とか仕事とか、希望だったり絶望だったり、多くの人たちが共通のものを取り上げている。でも、当然それぞれの人が見ている世界は違うから、同じテーマでも人それぞれの見方や表現の仕方があって、やっぱりそれがおもしろいんじゃないかな。

では、ミュージシャンではいますか?

CB:パティ・スミスは音楽や曲作りも好きだけど、彼女は本も書いていて、その本もすごく好きね。彼女の人生すべてをとおして感じられるもの、生き方みたいな部分も大好き。あと、PJ ハーヴェイ。彼女は既成概念を押し破るというか、作品ごとにがらっとサウンドを変えるけど、そういうふうに彼女がアーティストとして、時間の経過とともに変化して進化を続けていることはすごく刺戟になった。オノ・ヨーコも良い意味で人の予想を裏切るというか、人が聴いていて心地良い音っていう、その概念さえも変えてしまうくらいで、やっぱりそういう人が好きだな。他にもたくさんいるけど、ちょっといまはすぐ思いつかない。

たまたまかもしれませんが、いま名前の挙がった人たちが全員女性なのは、「既成概念を押し破る」ということと関係していますか?

CB:たぶん無意識ね。若いころは何も考えずにニルヴァーナとかグリーン・デイとかを聴いてたけど、いまは世界中ですごく頑張っている、刺戟を感じる女性たちがいっぱいいるなって思う。

昨日のライヴではセカンド・アルバムからの曲が核になっていました。リリースから少し時間が経った現在の視点から振り返ってみて、あのセカンドは自分にとってどのような作品だったと思いますか?

CB:1年くらいライヴでやってきてるけど、時間の経過とともに曲じしんが進化しているように感じる。曲を書いてスタジオで録音して、リリースの段階ではほとんどライヴでは演奏されていない、すごくフレッシュな状態なわけだけど、お客さんの前で演奏することによって自然とそこから変化していく。「ここはこういうふうに弾いた方がいいな」「こういうのも付け加えてみようかな」ってなるから、どんどん曲が進化していく。歌詞についても、改めて「なるほど、ここはこういう意味だったんだ」というふうに、自分のなかで発見があったり。だから、曲にたいして違う理解の段階を楽しんでいる感じね。

昨夜はファースト・アルバムの曲も演奏されましたが、そちらはセカンド以上に時間が経過していますよね。変化していくうちに、当初考えていたことと違う意味合いを持つようになった初期の曲はありますか?

CB:変化っていうより、いろんな人との出会いや別れがあったり、あるいはまったく知らない人を見ながら曲を書いたりするなかで、懐かしさを感じることはあるかな。そこまで時間が経っているわけじゃないけど、この数年のあいだで自分なりに成長したところとか、考え方の違いとか、懐かしいなって。たとえば「この曲のこの部分は、ひょっとしたら当時、ユーモアで自分の気持ちを隠そうとしたのかな」って思うようなことがあって、もちろん当時の自分はそうとは認めないだろうし、そもそも気づいてすらなかったと思うけど、時間が経ったことでそういうちょっとした気づきを得ることはある。

いま何か進めているものはありますか? もうサード・アルバムには取り組みはじめているのでしょうか?

CB:言葉はいろいろ書いてるけど、歌っていうよりもポエム、詩ね。あとは絵を描いたりしている。まだ具体的な音楽作品の予定はないし、今回のアルバムのツアーが終わったら休みを取るかもしれない。でも言葉はつねに書いてるから、いくつか取り組んでいるものはあるけど、いつまでにこういう作品を出そうっていうのはとくに決めてないわ。

取材・文:小林拓音(2019年3月29日)

Profile

小林拓音/Takune Kobayashi
1984年生まれ。ele-king編集部。寄稿した本に『IDM definitive 1958 – 2018』など。編集した本に『わたしたちを救う経済学』『ゲーム音楽ディスクガイド』『文明の恐怖に直面したら読む本』『別冊ele-king 初音ミク10周年』など。

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