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メガネ

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三田格   Apr 23,2016 UP

 映画でアンニュイな女性像を観たのは『もう頬づえはつかない』(79)が最初だった。桃井かおり演じる人生に対してつねにいぶかしんで、これでもかと気だるげな女性像はそれまでのステロタイプだった若者のイメージを覆し、いまから思えばプレ・パンク的なムードを漂わせていた。芳村真理演じるタレント・マネージャーが「社会を動かせると思った」と口ばしる吉田喜重監督『血は渇いてる』(60)や加賀まりこがアゲ嬢のはしりを演じる中平康監督『月曜日のユカ』(64)など時代とともに積極的でアグレッシヴになっていった女性像が伊藤俊也監督『女囚701号さそり』(72)による梶芽衣子を最後に完全に方向転換してしまった瞬間とも言える。そして、80年代以後、脱力キャラはスタンダードな表現と化し、最近では安藤桃子監督『0.5ミリ』(14)によってけっこうな洗練が加えられていた。

 メガネもその系譜にいる。ごくごく日常的な題材が大半を占め、“夏バテ”では「暑〜い」「だる〜い」とまったく感情を波立たせることなく、たどたどしいラップがどこまでも続く。ミックスがそのように心掛けているからだろうけれど、言葉がすべてクリアにわかるのがよく、「気」が抜けているわりに「気持ち」はむしろ過剰なほど伝わってくる。押し付けてくるものがまったくなく、引くだけ引いているにもかかわらず、それこそ『もう頬づえはつかない』同様、主役が隠せば隠すほど感情が剥き出しになってくるかのような転倒も起こってくる。また、ミニマルに徹するのかと思えば気の抜けたラップはそのままにいきなり宇宙に思いを馳せたり、“優しさ”では人間論にも接近したりと、パースペクティヴが固定されていないのもいい。“生きる”ではタイトル通りの葛藤がそれと感じさせることなく述べられていく。

 プロデューサーの力量なんだろうか、驚くのはプロデューサーが13人も参加しているにもかかわらずトータル感がまったく損なわれていないことで、前半は穏やかに脱力感を増幅させつつ、Ryuei Kotogeによる“夏の終わり”ではダブとウエイトレスが交錯したような独特の展開がまずは耳を引く。7曲めとなるScibattlonの“お好み焼きはダンスホール”からは多方面に向かって実験的な様相を呈しはじめ、食品まつりによる“夜に溶ける”はノイジーなボディ・ミュージック仕立てで相変わらずセンスがいい。それ以外のプロデューサー名を羅列すると、Bestseller、Gnyonpix、Franz Snake、クラーク佐藤、Uncle Texx、石井タカアキラ、エスケー、Xem、Indus Bonze、Ucc3lli、フィーチャリングMCはMC Dovasa、ペリカン、MC松島、Dizと、全曲、じつによくできている。

 メガネは普段、名古屋のOLだそうで、脱力というのが感情労働の放棄だとしたら、Charisma.comは対照的にここ3年ほどあからさまな怒りと罵倒で注目を集めてきた東京のOLデュオ(映画の女性像でいえば吉田大八監督『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』(07)やタナダユキ監督 『百万円と苦虫女』(08)からまっすぐに来た感じでしょうか)。正直、ワーナーに移籍してからはやや手が伸びなくなっていたところ、新作のジャケット・デザインがデビュー作『アイアイシンドローム』と同じ発想だったので、まあ、どれだけ煮詰まっているかを確認してみるかと。初めて“HATE”や「飾りじゃないのよ 中指は」といったウィットのある歌詞を聴いたときの驚きはもちろんあるわけはなく、こちらも刺激には麻痺しているので、どうしても新機軸を求めてしまいますけれど、罵倒と表裏一体をなしていた皮肉がそれだけで成り立つフォーマットを構築しきれていないので、やはりまとまった作品としては物足りなさが残る(同じ発想の繰り返しだけに、視線を逸らしているジャケット・デザインが『アイアイシンドローム』のように確信を持っていないことを曝け出しているともいえる)。メジャーに行かなければよかったのに……という結果だけは避けてほしいです。

三田格