「Nothing」と一致するもの

 高津さんがEAST SIDE STORYを愛聴されているという噂を耳にしたのは、岡Zのお別れ会のあとにJAZZBO RECORD MARTの横山さんにお会いした時なので、2013年のことだと思う。先日BLADE/LRFのMIKIさんに頂いたWEST SIDE BOYS CHOIRのTシャツにしろ、東京と比べたら大阪には遥かに夢がある。届くべき人の元に文化がきちんと届いて、敬意と共に大切に扱われていることを感じることができる。
 黒人音楽とメキシコ伝統音楽の狭間で密かに生まれた至宝の音楽文化、チカーノ・ソウルを、バリオで育ったヴァイナル・ディガーのチカーノ、ルーベン・モリーナ氏がその膨大な鉱脈を紹介する入魂の音楽ガイドブック『CHICANO SOUL』の、翻訳・復刻を目論む宮田信(BARRIO GOLD RECORDS / MUSIC CAMP,Inc,)氏によるトークショーが、10/9下高井戸JAZZ KEIRINにて行われます。題して”CHICANO SOUL日本語版クラウドファウンディング応援決起集会"。

「チカーノ・ソウル」の起源や定義、その文化的背景など、未だ多くを知られざるチカーノ・ソウルの魅惑の世界の実態を、紐解くきっかけになって頂けたら幸いだと思っています。ぜひ抱えきれないほどの質問と共にお越し下さい。僕もとても楽しみにしています。
(今里/STRUGGLE FOR PRIDE)

☆「チカーノ・ソウル」を聴く、話す。~日本語版クラウドファンディング応援決起集会~ 
Presented by Trasmundo&Barrio Gold Records

10月9日(水)場所:下高井戸 JAZZ KEIRIN

開場:19時 /開演:20時

トーク出演&DJ:宮田信(発起人・翻訳者)、今里(Struggle For Pride)、浜崎伸二(Trasmundo)

2000円(うどん&1d&お土産(チカーノ音楽が好きになってしまう媚薬サンプラー・テープ))

予約:トラスムンド(店頭)/ MUSIC CAMP, Inc.(042-498-7531)

限定:30名さま(もし満員に達した場合は後日もイベントを企画しているので、そちらに是非ご参加下さい。)

「CHICANO SOUL」とは何か? 都市のチカーノ・バリオを舞台に密かに伝承されてきたR&Bの流儀。ローライダー・クルージング、バックヤードのBBQパーティ、深夜のラジオ・・・チカーノ・ソウルが聴かれてきた現場を80年代中盤から体験して来た宮田が、音源をかけながらその魅力を話します。

協力:黒沢さん C/S

François J. Bonnet & Stephen O'Malley - ele-king

 桃山時代に轆轤(ろくろ)を使わず、手捏ねで樂茶碗を造り出した樂焼。初代長次郎は、千利休の教えに従い、赤樂茶碗や黒樂茶碗を造り出したという。樂焼15代目、楽 吉左衛門=樂 直入(1949年生れ)は、伝統とモダニズムが絶妙に融合した焼き物を創作したことで高く評価されている。樂の器に高谷史郎がヴィデオ・プロジェクジョンをおこなった作品「吉左衞門X」(2012)は近年、大きな話題を呼んだ。

 その「吉左衞門X」を撮影した写真が、サンO))) のスティーヴン・オマリーとフランスの電子音楽家カッセル・イェーガーことフランソワ・J・ボネらのコラボレーション・アルバム『Cylene』のアートワークに用いられている。アートワークはアルバムを象徴する重要な要素だ。じじつ、本アルバム『Cylene』に畳み込められた静謐かつミニマルなドローン音響はまるで400年の伝統を受け継ぐ焼き物の椀のように偶然と意志が高密度に交錯していた。静物のイメージとドローン音響はなぜか合う。音響の自律性は、焼き物のように偶然性に積極的に身を任せて生まれているものだからだろうか。

 本作の録音はフランスのパリにある GRM (Le Groupe de Recherches Musicales/フランス音楽研究グループ)にて2018年8月におこなわれた。マスタリングとカッティングはドイツ・ベルリンのラシャド・ベッカーがおこなった。フランソワ・J・ボネは GRM の芸術監督でもあり、本作をリリースする〈Editions Mego〉の電子音楽リイシュー専門のサブレーベル〈Recollection GRM〉にも協力している。その〈Recollection GRM〉のアートワークを手掛けているのが、スティーヴン・オマリーである。つまり本作は以前からニアミスを繰り返してきた現代のエクスペリメンタル・シーンを代表するふたりの音楽家の記念すべき共演作なのである。

 オマリーのエレクトロニック・ギターはサンO))) のような空間を埋め尽くすような轟音ではなく、研ぎ澄まされた一本の線を描く「書」のごとき静謐な音を鳴らしている。まるで弦の振動を慈しむかのように。フランソワ・J・ボネの電子音もオマリーの緊張感に満ちたギターの背後で、その空気に浸透するように不穏な音響を生成している。ふたりの音はいっけんまったく別の「層」に存在する。彼らの音楽的個性はそれほどまでに違う。しかしそれこそが重要なのだ。「違う存在」が「共にある」こと。

 全く違う個の交錯。その結果は聴けば誰でも分かるだろう。まるで陶器・焼き物を思わせもする偶然性と意志が交錯する仕上がりになっていた。オマリーもボネットも自身の音響の本質を熟知したうえで(つまり作曲・構成を突き詰めた上で)、あえて制御不能な領域もそのまま残しているように思える。まるで透明なガラスのスクリーンに線を描き、その絵の具の滴りをそのまま残すかのように。だからこそ本作の音響は極めて自然だ。まったく異なる個性を持った音楽家の共演にもかかわらず、その音と音の交錯にはまったく無理がない。

 全7曲、彼らの音はあるときは交わり、あるときは離散する。われわれ聴き手は聴き進むうちにどんどん沈みこんでいくような感覚を覚えるはずだ。しかし、それぞれの音は、互いに自律し、依存してもいない。複数にして単数。深遠にして表面。持続と浮遊。このアルバムのドローン音響設計は、ほぼすべて完璧に思えた。それゆえもしもふたりによる「次の作品」があるならば、このアルバムの「自然さ」を根本的に壊しにかかるのではないかとも想像してしまう。この端正極まりないアルバムには、そんな破壊の意志も静かに埋め込まれていたようにわたしには思えてならないのだ。

 ふたりの音が流れる。音が滴る。音が横溢する。『Cylene』のノイズ/音響空間はわれわれの耳に硬質な音の流動性を与えてくれる。それは結晶と凝固へと至るノイズのその瞬間の記録である。まるで焼きあがる陶器の熱と冷たさのように。まさに電子音響マニア、現代ノイズ・ドローン・マニア、必聴のアルバムだ。現代のミニマリズムの結晶がここにある。

special talk - ele-king

 空前の和モノ・ブームである。シティ・ポップの人気はいまだ根強く、竹内まりやのベスト盤は幅広く聴かれているようだし、中古市場では、相変わらず和モノ・コーナーには人がいる。最初にシティ・ポップを再評価したのは90年代初頭の東京のアンダーグラウンドのDJカルチャーだったけれど(初期のユーミン、シュガーベイブ、『風街ろまん』など)、21世紀には欧米のDJカルチャーもそこに目をつけ、そしてさらにまた近年は再々評価が高まっている。
そんな最中に刊行された『和レアリック・ディスクガイド』は、いまの和モノ・ブームの先を見据えた内容となっている。この造語は、もちろん90年代初頭のDJカルチャーに多大な影響を与えた、スペイン領のバレアレス諸島にあるイビサ島のDJスタイルに由来する。バレアリックとは、いまでは多幸性のあるものを指しているようだが、本来は、ロックでもディスコでもアシッド・ハウスでもなんでもアリのDJスタイルを指していた。まあつまり雑多なスタイルなわけで、“和レアリック”もまた、その雑多であることの魅力を和モノにおいて展開している。
『和レアリック・ディスクガイド』の監修者であり、コンセプトの発案者である松本章太郎氏と、DJとして国際舞台で活動中のCHEE SHIMIZU氏に、「“和レアリック”とはなにか?」について話してもらった。とあるベテランDJは、この“和レアリック”なるコンセプトをよくぞ捻り出したものだと感心していたが、ここには「まだまだ和モノはディグしがいがあるぞ」というメッセージのほかにも雑多な裏付けがあるのであって……なので、ぜひ、本を読みながら深読みものほうも楽しんで下さい。(疑似・和レアリック、欧州アジアの外国人DJによる和モノ・トップ3など、面白い企画ページもありますよ〜)


対談は下井草のCHEEさんのお店、「Organic Music 」でやりました。

わかりやすく言うと。その前も、もちろん松本さんはココナッツにいて、山のようなレコードと商売として格闘していたから、自分の身近には大量にあったと思うんですけど、たぶんそのくらいのときからちょっと接し方が変わってきたよね。(CHEE)

そもそも“和レアリック”とはなんでしょう?

CHEE SHIMIZU(以下、CHEE):いつから“和レアリック”って言い出したの?

松本章太郎(以下、松本):10年くらい前。和モノでミックスを急に作ったときがあったじゃないですか。あのときに思いたって。

10年前?

松本:まずはバレアリックというのが10年くらい前にあったんですよ。我らの共通感覚として。“オブスキュア”とかよりもちょっと前。

CHEE:“コズミック”とか言っていたあとだよね。

松本:あの辺の質感とやっていることがリンクしている頃だったので、たまたま耳で和モノをひっかけたらああなった。

CHEE:Flaticもそうだし、みんな元々はイタロとかにいって、“コズミック”にいって、飽きた頃になんとなくバレアリックって言い出したんだよね。

松本:たまたま和モノをみんな掘っていなかったんですよね。新しいジャンルだったんですよ。まだいくらでも見つけるチャンスがあった。

欧米のものをある程度堀りつくした感があったから?

CHEE:そういうところあると思うんですよね。ちょっと飽きたというか。あまり知られていないにしても、いままでは外国のすでにあった規定の何かを見つけて面白がっていたんですけど、それがなくなった。それからだよね。

松本:手元にいっぱいあったし。感覚として、違う質感の新しいものを見つけたという感じもちょっとあったと思うんです。

CHEE:ディスコの延長ではもちろんあったんです。

松本:メインはそうですね。

CHEE:アンビエントとかは別ですけど、和モノに関してはざっくり言ってディスコっぽいグルーヴが基本的にどこかにあるんです。それはいまもそんなに変わってないと思います。イタリアだったり、どこかを聴いたりでだいぶみんなシラーっとしてきた頃に、打ち合わせとかしていないけど、なんとなくみんな和モノを聴きだしたね。

松本:おもしろかったね。もうちょい前、あのときうちらはシェルターでやっていたじゃないですか。

CHEE:シェルターでずっとパーティをやっているんですけど、それで松本さんと当時ココナッツで働いていたRyota OPPとWataru(R)とDJを一緒にやったんです。俺はカミさんのお母さんが当時銀行の外交員をやっていて、お客さん周りをしていたときに、お客さんの家の玄関の前にレコードが捨てる寸前でおいてあったらしくて。うちの娘の旦那がレコード屋をやっているからってもらってきてくれたんですよ。そのなかにショーケンとか矢沢永吉とかサザンとかいっぱいあって。とりあえず聴いてみようと思って聴いたんです。そうしたらけっこういいのがあって。シェルターで松本さんとかを呼んでDJをやっているときにそれをかけたんです。「これはなんだ?」という話になって。

松本:CHEEさんの流れがおもしろかったんですよ。“オブスキュア”な流れでひょっとこうもってきた。あの感じがおもしろかった。

CHEE:うちらは基本的に体系とかはまったく気にしてないから。これは良いってなったときにだいたい体系を追ったり、作ったりするけど、うちらはそういうことが全くなかった。いままでもDJとして、そういう感じで音楽を聴いていたと思うんですよ。そのままの延長できちゃっているので、和モノがきたときにあんまりそういうことを気にしてなかった。

松本:目の前のやつを好きかそうでないかだけで判断していましたね。

CHEE:歌モノとか歌詞の壁ってあったんです。恥ずかしいって。

松本:最初にミックスをしたときにワタルが絶対にやめてくださいって(笑)。

CHEE:そうだね。やっぱり恥ずかしさがあったから。

松本:“レフトフィールド”とかかっこつけていた人が急にね(笑)。でも癖になるんですよね。声も全然ありだなって。

きっかけは矢沢永吉の曲だったんですか?

CHEE:わかりやすく言うと。その前も、もちろん松本さんはココナッツにいて、山のようなレコードと商売として格闘していたから、自分の身近には大量にあったと思うんですけど、たぶんそのくらいのときからちょっと接し方が変わってきたよね。

松本:和モノがYAS-KAZとかアラゴンとか最初に外国の音楽と同じ耳で聴いていた時期があって。それを5年くらい前からやっていたんですよね。

松本さんはココナッツディスクで働いていますよね。大量の中古レコードを目の前にして、通常100円コーナーで売られているような音楽を一生懸命片っ端から聴いていったら意外といいのがあるじゃんってなったんですよね?

松本:それが基本ですね。昔から知識がない分聴いてやっていくしかないので。そのあとは感覚でやるしかなかった。その楽しみがずっと昔からあるんです。

それをよく聴きましたね。

松本:でも“オブスキュア”とか“レフトフィールド”ってもともとそうですもんね。みんなが知らない曲を探したいという欲が私にはけっこうあったので。チャンスがいっぱいあるなら聴けって。あんな時間のかけ方は、ああいう仕事をしてなかったら無理かなと思うんですけどね。

“レフトフィールド”というのはわかるんだけど、“オブスキュア”ってどういう意味ですか?

CHEE:意味はないですよ。

松本:ほぼ一緒に近い。でも“オブスキュア”はCHEEさんが言い出しちゃいましたもんね。

CHEEさんが流行らせた言葉でしょ。

CHEE:全然そんなつもりないですけどねぇ。レアってあんまり言いたくないんですよ。日本でいうレアっていうキーワードがあんまりしっくりこない。値段と正比例しているような言葉に思えちゃうので、あんまり使いたくない。お店でレコードを売っていてもレアって言いたくないんですよね。誰がこれを高いって決めたのかという疑問が。それは昔からです。中古レコードを買い出した頃からそうなんですけど。なるべくレアという言葉を使いたくないなと思ったときに“オブスキュア”とかそういうことを言い出した。

松本さんに“オブスキュア”ってどういう意味ですかと聞いたら……。

松本:「めずらしいっ」て意味だって。

「みんながまだ価値に気が付いてない」とか? 「スルー、軽視されているもの」。

CHEE:それもあると思います。

松本:でももうちょっとこっちはゴミっぽいというか。

CHEE:そうゴミっぽい。

松本:“レフトフィールド”はもうちょいトンマぽいというか。

CHEE:でもだいたい同じような。だからレアとか言っちゃうとすでに価値づけされているものだから。実際に外国ではどういうふうに使われているのかは別にして。

外国人からすれば日本のシティ・ポップとかに気がつきたのはここ数年。だから見つけたという感覚があるんでしょうね。すごい勢いで外国ではシティ・ポップが広がっているので。

松本:まあでも外国人が日本のものを探したら嬉しいんじゃないですかね。うちらが知っているような外国人じゃなくて、もっと普通の人にも日本にはこんなものがあるっていうことが新鮮に映るんじゃないかなと思うんです。でも海外でもきっとあのラインが流行る要素がある。外国人のやっているAORとかああいうものに手を出せばいいのにと思うんですけどね。

CHEEさんは、清水靖晃とか高田みどりとかアンビエントの吉村弘とか、あの辺の人気に火をつけた人物でもありますよね。

CHEE:基本的には松本さんと一緒で、外国の音楽をDJとしてもリスナーとしても聴いていたので、日本の音楽を掘るようになっても、自分の感覚は一緒なんです。だから外国の音楽を聴いているのと同じ感覚で聴いている。唯一の違いは、日本人だから歌詞がわかっちゃうというところだけ。アンビエントとか、ちょっとコンテンポラリーなものとかも感覚としては外国のものを聴いているときとほとんど変わらないですよ。

矢沢永吉とかをかけた頃に同じように?

CHEE:時期的には同じくらいです。真剣に堀り出したのは、俺の場合は外国人の連中が「お前は日本人なんだから自分の国のレコードを掘って持ってこいよ」と言われたことも大きい。

そう言われたんですか? 

CHEE:言われましたよ。11年くらい前ですけど、レコ―ド屋をはじめて海外に買い付けに行って、向こうの連中のところにお世話になって、みんなで一緒に夜音楽を聴いていると、その段階で日本の音楽を掘っている連中が何人かいたんです。日本に行って、すごくいっぱい良い音楽を見つけてきたみたいな感じでみせられて。

それはどの辺の音楽を?

CHEE:吉村弘とか、日向敏文とか清水靖晃もそうですけど。そういうのを知ってるか? と言われて、知っているけどちゃんと聴いたことはなかったなって。たしかに実家の物置に子供の頃から買っていたレコードがたくさんあって、家を壊すから全部持っていけと言われ田舎に帰って箱を開けたら、そういうものが入ってるんですよ。えー俺こんなのいつ買ったんだって。

“和レアリック”とは雑多なものである、それは本来の“バレアリック・ハウス”の意味と同じなわけですが、CHEEさんが“和レアリック”っぽいと言うときはどういうイメージなんですか。

CHEE:あんまり気にしてないよね。とりあえず自分で本に載っているものを並べてみたんですけど、まったくめちゃくちゃですよ。統一性も何もない。だから基本的に何か音楽的に引っかかる部分があればもう良しなんですよね。最近はとくにイージーリスニングとかもっとこってりした歌謡曲とか演歌とかその辺までいっちゃっているので。

松本:やっぱいきますよね。この辺に慣れると次にいきたくなるというか。

CHEE:あとは基本的に僕らくらいの年代だとある程度知識、経験の蓄積がこの年なので増えてくる。そうすると歌謡曲を聴いても、サウンドのプロダクションだとか、アレンジャーはこの人だといいなと思うと、その人がアレンジしているものを聴いてみたりとかいう感じになってくるんです。だからそういう目線でみているところもある。

ちなみに“和レアリック”の魅力って何ですか?

CHEE:やっぱり雑多性。俺はちょっと悪ふざけしている感じがあるんです。

松本:それは間違いないです。ニヤリ感。

CHEE:俺はだいぶ悪ふざけしてる(笑)。

松本:ハハハ(笑)。

CHEE:普通だったら、こんなのかけたら、客に殴られるんじゃないかなみたいなやつも、ニヤッとしてこうね。

松本:以外とそういうものがウケたりするから、手から離してみないとわからないもんなんですよね。

CHEE:それをひとりでやる勇気がないから一緒にやっているようなもんですよ(笑)。

一同:(笑)。

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和モノがYAS-KAZとかアラゴンとか最初に外国の音楽と同じ耳で聴いていた時期があって。それを5年くらい前からやっていたんですよね。(松本)

松本:CHEEさんひとりでさぶちゃん投げればよかった(笑)。でもそうですよね。理解者がいると強くなってくる。こんなのもありだって。

“和レアリック”のディスクガイドを今回見ていて、ほとんどの曲がスポティファイとか配信で聴けないんですよね。それがすごくおもしろいなと思いました。それだけ“オブスキュア”ということでもあるのかな。

CHEE:レコード会社としてもこんなところをスポティファイに上げようなんて思ってないということですよね。眼中にもないと思いますね。

松本:誰かがいいと言わないとね。

シティ・ポップの中古市場は異常に値上がりましたけど、『“和レアリック”・ディスクガイド』に上がっているのは比較的安価なものが多いように思います。

CHEE:値段的には手に入りやすいものが多いですよね。

松本:そのかわり見つけるのもちょっとめんどくさいものが多いかもしれない。見つけたら安いんだけど、いざ探すとなるとなかなか出ないというタイプ。でもあったら絶対安いでしょってやつ。

CHEE:2割くらいは希少価値が付いているものも忍んでいるね。ただそういうのは当時も売れなかったやつですよ。回収されて破棄されたやつとか。でも、たとえばこういう本が出ると、情報が公開される。そうすると動きだすと思うんです。動き出さないとそのまま誰も見つけられないままで終わっていっちゃうから。重要なのはそういうことだと思うんです

松本:それでついでにいろいろと動き出すわけですね。

CHEE:本当に眠っていたやつが、動き出すので、そうするとみんな発見しやすくなるから健全な動きになってくる。僕も出てくるのを待っているんです(笑)。ヤフオクとかにポンと出てくるかもしれないから。地方のレコード屋さんにいってもいままで眠っていたやつをひっぱりだしてきて店頭に並べてくれるかもしれないし。

松本:そこは大きいですよね。出してこなかったものをね。

CHEE:出してこなかったというか、いままで意味もないものだったから、たぶん捨てられる運命にあったもの。救出するためには情報公開しないと、そのままもうゴミになっていっちゃうので。情報公開にはそういう重要性がはあると思う

あと、雑多といいながらも厳選されていますよね? 王道というか、わりとベタなところは避けていますし。

CHEE:雑多でも、かなり厳選されている。

松本:めちゃんこ厳選されているじゃないですか。

CHEE:たしかにしたけど。

松本:落とすのは泣く泣くでした。なんでこんなの選んでいたのかというのもけっこうあったので、ぽいぽい捨ててったんですけど。疑似和モノコーナーを最後にページの都合上つっこんだんですけど、あれで復活したものもちょっとあって。

この本はCD Eraで終わっていて、90年代前半で終わってるんですけど、“和レアリック”は90年代前半までという理由は何かあるんですか。

松本:全然ないです!

CHEE:僕はけっこうCDも買うんですけど、全然ないですね。

松本:私もCD大好きです。

CHEE:ポンキッキとか、みんなのうたとか、子どもむけのやつはおもしろいのが多い。

松本:一軍の人がやってますもんね。

CHEE:こっちにいくと収集がつかないので。

松本:でもチャンスですよね。おもしろいものがまだまだあるなって。ちょっと箱を開けて読み込むまでの待ち時間がめんどくさいというか(笑)。レコードより時間がかかっちゃうんですよね。レコードはいっしゅんで聴けるけど、CDは待つ時間がある。読み込み遅いなって。

CHEE:でも飛ばせるからいいですよね。

松本:でもレコードのほうが、溝みてこの辺聴けばわかるかなというところに落とせるから。

CHEE:視聴のスピードは、レコードのほうが早い。

松本:ぜんぜん早い。不毛率も高いし。

CHEE:CDはまだまだおもしろいものがいっぱいある。

松本:まだなんでもあると思うんです。カセットテープとかは絶対数が少なそうだけど。録音されている何かだったらひとまず聴いてみたいですけどね。

CHEE:カセットも面白いですからね。

カセットって?

CHEE:とくにCDシングルもそうなんですけど、カラオケ・ヴァージョンとかいわゆるインストが入っているんですよ。歌謡曲でもそれがいい。ヴォーカルいらねぇだろっていうやつはカラオケ・ヴァージョンを探すっていう。

松本:言っちゃった、カラオケ・ヴァージョン。

CHEE:インストじゃないね。カラオケ・ヴァージョン。

松本:でもチャンスなんですよね、カラオケが入っているやつ。

CHEE:ただカラオケだから主旋律が、歌のメロディが、楽器の演奏ではいっちゃっていたりするんですよ。

松本:すごくしょぼくなる場合もよくある(笑)。

CHEE:そうそう(笑)。それがちょっと悲しんです。

松本:たまにいいものがあったりね。でも何もないとすごくシンプルすぎて今度はつまらなかったり。難しいですよね。めったに当たらないですよね。

CHEE:まだまだほりがいがある。

松本:名前はただの冠であってね。

CHEE:基本なんでもいいっちゃなんでもいい。

松本:もうすでにそれに近くなってきてはいるんですよね。せっかくあった冠(かんむり)だったので、今回使っちゃったんだけど。

CHEE:言ったもん勝ちですよ(笑)。

松本:あの頃のCHEEさんは“和レアリック”とかさって(笑)。何にもしらなかったですからね俺らは(笑)。

(構成:野田努)

COCONUTS DISK EKODA
和レアリックの発信源、西武池袋線の江古田駅を降りて2分、松本章太郎さんが店長を務める「ココナッツディスク江古田」は、レジ前に大きく和モノコーナーがあります。ほかにもいろんな面白いものがあるので、ぜひ、お店まで行きましょう。
東京都練馬区豊玉上1-9-10
tel. 03-3948-2388
12:00~21:00 (年中無休)
contact
ekoda@coconutsdisk.com


和レアリックの拠点、COCONUTS DISK EKODAの店内

Organic Music + Planet Baby Physical Store
Chee Shimizuさんが運営する「Organic Music」は西武新宿線の下井草を降りて2分ほど歩くとあります。和モノコーナーには雑多にいろんなものが。山下達郎などの人気盤が都心の中古店よりも安くあります。また、古着を中心に、アクセサリー、Tシャツ、洋服なんかも売っています。
東京都杉並区下井草4-32-17第一陵雲閣マンション108
平日 15:00〜21:00
土日祝 13:00〜21:00
不定休
https://organicmusic.jp/

海外からの来客も多い、Organic Musicの店内(安いです)


和レアリック・ディスクガイド
松本章太郎(監修)
執筆:AZ、Chee Shimizu、Flatic (Cos/Mes)、Gokaine、Rockdown、Willie、浦元海成、松本真伍、吉村和弥
https://www.ele-king.net/books/007112/

消費税廃止は本当に可能なのか? (1) - ele-king

消費税が10%になり数日が経った。
本稿では「消費税廃止は本当に可能なのか?」と題し、その実効性が理論として正しいのか検証していきたい。

 i-Tunesで好きなアーティストの楽曲を買う際にも、Amazonで書籍を購入する際にも、コンビニでビールを買う際にも、誰でも買い物をする際には10%の消費税を支払うことが義務付けされた。

 30代以下の若い人たちにとっては、物心ついた頃から消費税は課されていて、あって当たり前のもの、税率は上がって当たり前のものとして認識されてきただろう。しかし、20,000円の財布を買う際には2,000円分の税が含まれ、パソコンを70,000円のものに新調する時には7,000円の税を支払うことになると聞いたら、大きなインパクトを感じるのではないだろうか。


画像:山本太郎氏・街頭演説より。池戸万作氏作成。

 そればかりか、上図のように、一か月に20万円消費する人にとっては、年間で22.8万円の消費税が課されるとする試算もある。総務省「家計調査」と比較するならば、年収400~500万円の人に相当するだろう。同調査によると年収が300~400万円だとしても消費税納税額は19万円とされ、消費性向(所得のうち消費に割り当てる割合)の違いにより、平均所得付近の層の納税額はさほど変わりないこともわかる。

 約20万円もあればちょっとした海外旅行にだって行けるし、服だっていろいろ買える。友達や恋人と食事に行く回数を増やすこともできるだろうし、子供がいるならその為の用立ても可能だ。自分にはそんな贅沢はできない、奨学金も返済しなければならないしローンや借金もあるという人だって、もしこの数十万円が浮くとなれば随分と生活が楽になるのではないだろうか。そう考えると、なぜこんなに多額の税金を払わなくてはならないのかと怒りさえ感じるのではないか。

 去る9月12日、共産党・志位和夫代表とれいわ新選組・山本太郎代表の党首会談が行われ、「5野党・会派と市民連合が合意した共通政策」をベースに「消費税廃止を目標にする」ことが政策合意として結ばれ、そのうえで「野党連合政権にむけ大事な合意が確認できた」とし共同会見を行った。消費税廃止を掲げる”影の”連合政権と呼べる存在が誕生したことにより、今まで非現実的だと思われてきた消費税廃止にも一定の現実味が帯びてきた格好となる。

 10月から施行された10%消費増税に関しては、これまでも国内外を問わない形で、スティグリッツやクルーグマンという複数のノーベル経済学賞受賞者を含む様々なエコノミストからも批判が投じられている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは社説で、消費税増税が経済をさらに悪化させる「自傷行為」になるとの見方を示したほどだ。

 筆者もマクロ経済学初学者ながら、消費税は廃止にすべきだとの見方を強めている一人だが、一方でこの自傷行為と揶揄された消費税を、日本国の社会保障のために必要だと考える人たちも多い。本当に自傷行為になるかどうかは、今後の各種経済指標を注視する必要があるのだろうが、10月までのメディア各社の世論調査では、消費増税に反対する人が過半数を占めるものの、おおよそ賛成派と拮抗する形となっている。

 増税賛成派の多くには「増え続ける社会保障費を賄うためには増税はやむを得ない」「将来世代のツケとなる国の借金1100兆円をこれ以上膨張させてはならない」という意見が根強い。また、この10%増税に賛成したばかりか、財界を代表する団体、日本経済団体連合会(経団連)は19%への増税を、経済同友会は17%への増税をそれぞれ政府に対し提案している。

 しかし、このような仰々しい名称を冠した経済団体はあくまで企業経営者の集団だ。マクロ経済学や財政学の専門家でもなんでもないロビイスト団体が、その能力を超えて日本政府に経済政策の提言を行っているのだから酔狂にも等しいと言えるのではないだろうか。「経営」と「経済」はまったくの別物で、いうなれば、経営は「ビジネスを介して人々から富(貨幣)を取り上げること」、対して経済は「人々に富(貨幣)を生み出し分け与えるもの」というくらいの違いがある。「経済」の語源である「經世濟民」が、[世をよく治めて(經めて)人々を苦しみから救う(濟う)こと]とされるように、営利企業の「経営」とは真逆とも言って良いほどに質が異なるのだ。

 では、「富を取り上げる」とはどういうことか。企業経営者たちが業績を上げるために躍起になる「無駄の削減」や「イノベーション」というものは、人々が受け取るはずだった所得を奪う行為で、誰かの富を別の誰か(主に資本家)に移し替えるだけの行為に他ならない。これは、実体経済市場全体にとって特に良いことはないばかりか、富が偏在し過ぎた場合は、是正されなければならない対象ともなり得る。

 もちろん、民間で活発なビジネスが行われることによって貨幣の流通速度が速まり、経済発展に寄与するというメリットもある。しかし、例えば今までカメラや時計、音楽再生機、パソコン、電話というようにその特性別に分かれていたものが、スマホという商品に機能が集約されるようなイノベーションが起こると、それまでカメラ単体を製造していた業者は淘汰され、そこで生まれていた従業員の所得も失われることになる。この一点をマクロ経済の視座から見ると、実体経済市場を巡るはずだった貨幣が資本家の貯蓄や金融資産へと消えることになり、全体の富の損失に繋がることがわかる。

 「合成の誤謬」という概念がある。大辞林によると、「個々人にとってよいことも、全員が同じことをすると悪い結果を生むことをいう語。個人にとって貯蓄はよいことであっても、全員が貯蓄を大幅に増やすと、消費が減り経済は悪化するなど」とある。ミクロの視点では正しいことでも、それが合成されたマクロのスケールでは、意図しない結果が生じることもある。企業が「無駄の削減」などに勤しむと、かえってその分マクロ経済を巡る富(貨幣)が少なくなるということだ。

 一般的には、無駄の削減やイノベーションを通じて自身の収益となったことが、「富を創出した」のだと誤解されている。しかし実態は逆だ。多くの企業経営者も、自らの商行為を通じて国の経済に貢献したと誤解しているのではないだろうか。この行動様式や勘違いこそが「合成の誤謬」と呼ばれる類いとなるが、彼ら企業経営者たちは、国家財政やマクロ経済を企業会計と同一視してしまう「家計簿脳」に陥り、そのアニマル・スピリットは、デフレ状況下であればただただ富を食いつぶそうとする方向に働いてしまう。

 当コラムでも何度かお伝えしているように、反緊縮のロジックでは自国通貨建て国債を発行する国家が破産することはない。そして過度なインフレにならなければ、国債は額の多寡に関わらず、国民経済のために発行できる。しかし、この合成の誤謬や家計簿脳に執着する人々は、Pay As You Goの原則(支払った分だけ使える仕組み)に基づき、下図のように「国の借金1000兆円を返済しなければ」とか「社会保障費を消費税で賄おう」などという策に溺れることになってしまう。どうしても税が国家財政を支えていると考えるのである。


*上図は経済同友会の一次ソースを、ツイッターの有志が経世済民同好会(笑)の正しい認識と比較する形で二次創作したものとなる。

 自由放任的な資本主義体制は、放っておくと富の偏りが生まれてしまうので、政府がその財政的権力をもって是正すべく介入しなければならない。富の偏在、つまり経済的格差の拡大が経済停滞を招くことは、すでにIMFやOECDをはじめとする国際的機関や幾多の経済学者に指摘されるところだ。考えてみれば、中産階級が没落して消費額を減らせば、経済を回すための一番大きなエンジンである個人消費が落ち込むのは当たり前である。日本のGDPの約6割は個人消費で支えられているのだ。

 ところが、この資本主義の負の側面の拡張を放任するどころか、後押しし続けたのが日本政府であった。

 大雑把に言うと、私たちの暮らしが良くならないのは、政府が緊縮財政をしき、野放図な略奪型資本主義を認め、企業も実体経済市場に投資をしないからだ。政府や企業がお金を出さないから、私たちにもお金がない。当然のことじゃないか。

 消費税廃止は本当に可能なのか、廃止できるのならその代替財源はどうするのか。次回も続けたい。

ボーダー 二つの世界 - ele-king

 エイフェックス・ツイン版『ムーミン』、あるいは『風の谷のナウシカ』と『デビルマン』の合体。このインパクトはすでに年間ベストでしょう! 1年間に観る映画の本数が去年から10分の1ぐらいに減ってしまったので、年間ベストもなにもないような気がしますけど、「年間ベスト!」というフレーズはある種の感情表現ということで……(なにせ「情の時代」だそうですから)。

 是枝裕和監督『万引き家族』がパルムドールに輝いた71回カンヌ国際映画祭で「ある視点」賞グランプリを受賞したのが『ボーダー 二つの世界』。監督はイラン系デンマーク人のアリ・アッバシで、僕はまったく聞いたことがなかった名前。マジック・リアリズムに強く影響を受けたという81年生まれだそうで(これはまあ、観れば納得)。原作と脚本が『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)の原作者ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストだと知り、珍しく試写の初日が待ちきれなかった。暗い森に人が佇むヴィジュアルも想像力を煽りまくる。リンドクヴィストの作品はこれまで必ずモリッシーとどこかで関係づけられていたものの、今回はそういったエンゲージメントはなさそう。アッバシ監督は『ぼくのエリ』に衝撃を受けて、リンドクヴィストの作品に興味を持ち、『ボーダー』の原作に辿り着いたという。リンドクヴィスト本人も共同脚本に参加し、『ぼくのエリ』同様、その完成度に自分はなんて恵まれた原作者だろうと感慨もひとしおだったという。吉田秋生にはけして訪れない幸福感ですね。

 『ボーダー』というタイトルには様々な意味が含まれていて、まずは国境を意味するスウェーデンの税関から話は始まる。ティーナは巨大な客船が停泊する港を見つめ、足元にいるコオロギをつまんで、それを葉っぱの上に戻す。最初に見たときはすぐに忘れてしまったシーンだったけれど、2度目に見たときはここは「あっ」と思う場面であった(これから観る方はこのシーンのことを覚えておいて)。カメラは終始ぶれていて、画面が手ブレで揺れる作品には傑作が多いという法則をそのまま予感させてくれる。ティーナは客船から降りてくるカスタマーが違法なものを持ち込まないかと監視する仕事についている。彼女が使うのは金属探知機とかX線検査装置ではなく自分の鼻。到着ロビーに向かうカスタマーを適宜呼び止めては手荷物の取り調べを行い、巧妙に隠された禁制品を提出させる。違法なものをバッグに忍ばせている客がいると彼女はなぜかこれに気づいてしまうのである。仕事が終わるとティーナはロバートが待つ郊外の家へと帰っていく。森の中に立つ家には彼と、彼の飼っている大型犬がいて、ドアを開けると犬は彼女を噛み殺す勢いで吠えかかる。ロバートが犬を押さえつけている間にティーナは森へ息抜きに出かけて行く。森で遊ぶシーンはこの後、何度も繰り返され、自然はどんどん濃度を増していく。日常生活はこの繰り返しのようで、とくに面白くもないけれど、彼女はそれなりに平穏な日々を過ごしているといった感じ。ある日、ティーナは警察に呼び出される。彼女が税関で没収したメモリーカードに児童ポルノの映像が収められていたのである。警察は「どうしてわかった?」とティーナに訊く。彼女は中身まではなんだかわからないけれど、犯罪の臭いは嗅ぎ分けられると説明する。警察は児童ポルノの組織を一網打尽にするためにティーナに協力を要請する。彼女はあっさりとその拠点を突き止めてしまう。証拠がないと警察はためらいを見せるものの、ティーナは捕まえなければいけないと力説する。なぜ、ここで彼女の倫理観を突出させるのか。原作にはなかった北欧ノワールの要素を加えた理由はエンディングまで明かされない。

 いつものように税関に立っていると、また、ティーナの鼻はヒクヒクと動き始める。怪しげな男が通りかかり、ティーナは別室へ男を連れて行く。男はヴォーレという名で、手荷物からは虫を孵化させる装置が出てきた以外、とくに違法なものは出てこない。諦めきれない彼女は食い下がり、身体検査をするように男性の同僚を促す。(以下、ネタばれ)検査を終えた同僚はバツの悪い表情で、男ではなかったことをティーナに告げる。彼女はヴォーレに謝罪する。ヴォーレは終始ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべている。

 ティーナ役のエヴァ・メランデルも、ヴォーレ役のエーロ・ミロノフも、実は入念に特殊メイクを施され、非常に醜い外貌になっている。ティーナは自分の醜さを遺伝子異常のせいだと解釈しているものの、実は彼らは人間ではなく、フィンランドでトロールと呼ばれる妖精なのである。そのことが次第に明らかになってくる。北欧各地に伝えられるトロールを可愛らしく表現した代表がトーベ・ヤンソン『ムーミン』なら、最近ではとてつもなく恐ろしいものとして描いたのがアンドレ・ウーヴレダル監督のモキュメンタリー『トロール・ハンター』(10)であった。トロールのイメージにはあまりにも幅がありすぎて北欧諸国の温度差を上手くストーリーに反映させていることが日本人には少しばかり分かりづらいところもある。しかし、それを補って余りある描写が『ボーダー』の中盤から後半にかけてこれでもかと展開されるので、『ぼくのエリ』でヴァンパイアが見事に現代性を帯びていたように、『ボーダー』に援用されたトロールという概念も様々な解釈を引き出せる触媒として最大限の効果をあげていることは伝わってくる。ギレルモ・デル・トロは「特殊メイクに興味があるなら、これ以上に良い作品はない」と最大級の賛辞を寄せ、人類を悪とみなす彼の哲学がこの作品によってはるかに高い次元で完成していることを素直に認めている。『ボーダー』が描き出すのは人種問題であり、マイノリティであり、環境問題であり、幼児虐待であり、ジェンダーや美醜の問題と、人類がいまこの地球で経験しているホットなトピックのすべてといっても過言ではないほどあらゆる要素が絡み合っている。トロールという比喩に託されているものは無限大の要素に感じられ、そのどれかにフォーカスして論じてもこの作品からは遠のくだけというか。ちなみに『となりのトトロ』のトトロもトロールである。

 感じることが多過ぎて、観ている間は考えが追いつかない作品だった。そして、作品の衝撃が少しずつ遠のいてくると、僕の頭には「叩き起こされるルーツ」という問題意識がぼんやりとかたちを取り始めた。ISでもいい。ネトウヨでもいい。ありもしない伝統やルーツに染められて自らのアイデンティティをそれに譲り渡してしまうという現象が世界各地で起き、ヘイトクライムへと発展していく過程を僕たちはいやというほど目撃してきた。ティーナに起きたこともそれと同じである。父親に本当の名前を教えられた時、彼女は「美しい」と思わず呟いてしまう。この瞬間、彼女の中で美醜が文脈を入れ替えたことは明白である。これがネトウヨであれば教科書に書かれていた歴史がインターネットに書かれていた歴史によって覆された瞬間に等しい。ティーナは自分がどこから来たかを「知る」。監督は政治性とは距離を置いた表現だと発言しているけれど、そのことが許されるのはトロールが実際に存在すると信じられる人だけだろう。そういうものに僕もなりたかったけれど、監督の願いには無理がある。ティーナは選ばなければいけない。観客の多くはヴォーレが彼女に向かってトロールの子孫を繁栄させようと提案した時、どう感じただろうか? そうすべきだと思った人の方が数は多いのではないだろうか。アッバシ監督は彼女が置かれた状態をさして「アイデンティティを選ぶことができる人」と表現している。その苦しさは彼女をいくつかの行動に駆り立てる(ティーナが墓の前に立ち尽くすシーンはアピチャッポンの問題意識に通じるものがあった)。ティーナの心はスクリーンで展開されていた場面よりも混乱し、ところ構わず彷徨っているように感じられた。ティーナが最後から2番目と3番目にとった行動は驚くべきものだったろうか。彼女はそして、最後にコオロギをつまみ上げ……

 デル・トロがこの作品を評価しているのは特殊メイクもさることながら、やはり、この世界を否定する強さにあるのだろう。『ぼくのエリ』や『シェイプ・オブ・ウォーター』も同じ結論だったけれど、そのような否定的感情を生み出してきたものは「誰かが犠牲にならなければ共同体はなりたたない」という力学そのものであり、そのようなかたちでしか存続できないのであれば人類はなくなった方がいいという倫理観に正統性を感じてしまうことに尽きるだろう。そのような傲慢さから人を遠ざけてくれるものをかつては宗教と呼び習わしてきたのに対し、ティーナが選択したものは俗流のヒューマニズムに近く、宗教の両義性には遠く及ばない。だとすれば、僕はティーナは最終的には育ての親を受け入れるしかなかったと思うのだけれど、環境もルーツも否定してしまった彼女に残されている道ははたしてあるのだろうか、それを考え続けるための映画ではないだろうかs。

 なお、本作の上映に併せて『ぼくのエリ 200歳の少女』もヒューマントラストシネマ渋谷で一週間だけの再上映が決定しています。

 和モノ・ブームに一石を投じる『和レアリック・ディスクガイド』、お陰様で、多くの方からご好評をいただいていおります! そんな折りに、タワーレコードのオンラインにて「和レアリック特集」が公開されました。購入を迷われている方は、ぜひご覧下さい。中身がほんの少しですが、チラ見できます。
 また、10月12日(土)には、du cafe新宿 にて18:00~「和レアリック・ディスクガイド発売記念DJイベント」があります。こちら入場無料(ただし要ドリンク代)ですので、ぜひぜひお越し下さい。

[10月11日追記]
 10/12(土)18:00より開催予定だった「和レアリック・ディスクガイド発売記念DJイベント」は、台風19号による荒天が予想されるため、中止となりました。詳細は下記をご覧ください。

 https://diskunion.net/clubt/ct/news/article/4/83940

Tenderlonious - ele-king

 昨年はザ・22アーケストラをフィーチャーした『ザ・シェイクダウン』に、今年に入ってルビー・ラシュトンでリリースした『アイアンサイド』と、よりジャズの生演奏にフォーカスした作品が続くテンダーロニアスことエド・コーソーン。これらのアルバムではジャズ・ロックやジャズ・ファンク、モーダル・ジャズやスピリチュアル・ジャズが組み合わされた音楽をやっていて、ユセフ・ラティーフなどに影響を受けたアフリカやラテン色の濃い演奏を見せたり、『アイアンサイド』ではポーランドの巨匠クシシュトフ・コメダのカヴァーもやっていた。その一方で、J・ディラやスラム・ヴィレッジのようなヒップホップ・ビートを咀嚼したリズムを作り出したり、ドラムンベースやブロークンビーツをジャズ演奏の中に取り入れるなど、もともとクラブ・ミュージックの世界からジャズへと進んだテンダーロニアスらしさも見せていた。

 今回リリースされた新作『ハード・レイン』は、『ザ・シェイクダウン』や『アイアンサイド』に比べてクラブ・サウンドやエレクトロニック・ミュージック寄りのもので、彼の初のミニ・アルバムとなる『オン・フルート』(2016年)やDJ/プロデューサーのデニス・アイラーと組んだ『ブリック・シティ(8rick Ci7y)』(2017年)の路線に近いものだ。ジャズの即興演奏やジャム・セッション的な演奏がベースとなるのではなく、最初にビート・プログラミングがあって、そこにフルートなりサックスなりの演奏を被せていくというものだ。テンダーロニアスは本来的なミュージシャンとは違うので、こうしたスタイルこそがそもそもの彼らしいものと言えるだろう。いろいろなミュージシャンが参加していた『ザ・シェイクダウン』や『アイアンサイド』と違い、『ハード・レイン』はテンダーロニアスのみで作られていて、録音も彼のベッドルーム・スタジオでおこなったようだ。1曲目の“ケイシー・ジュニア”を聴けばわかるように、あくまで基本は繰り返し反復されるマシーン・ビート。キーボードなどの演奏も極力ミニマルで、あくまで無駄を排したシンプルなものとなっている。

 この“ケイシー・ジュニア”はセオ・パリッシュに繋がるようなビートダウン系の曲だが、ほかにも“バッファロー・ガールズ”や“ブロークン・トム”のような1980年代風のエレクトロあり、URを彷彿とさせる抒情的なテクノ・サウンドの表題曲“ハード・レイン”あり、カール・クレイグの69的な世界が繰り広げられる“アナザー・ステイト・オブ・コンシャスネス”ありと、テンダーロニアスが影響を受けたエレクトロニック・ミュージックを総動員したアルバムとなっている。URやデリック・メイなどのデトロイト勢から、ハービー・ハンコックやウェザー・リポートなどのジャズ/フュージョンに影響を受けたカーク・ディジョージオ(アズ・ワン)やイアン・オブライエンが、1990年代のUKでジャズとエレクトロニック・ミュージックを結び付けたサウンドを切り開いていったが、“ハード・レイン”にもそうした匂いが感じられる。アルバム・ジャケットの雰囲気も、当時のアズ・ワンやイアン・オブライエンのように抽象性を感じさせるものだ。抽象性や抒情的な美しさという点では、ジャズに接近していた頃のラリー・ハード(ミスター・フィンガーズ)にも通じるものだ。

 そして『ハード・レイン』はテクノやハウスだけでなく、さまざまなタイプのリズムに溢れている。J・ディラを咀嚼したようなヒップホップ・ビートの“GU22”に、奇妙なズレ感がクセになる変則ビートの“ワーキン・ミー・アウト”があり、アブストラクトなムードの“ラヴ・ユー”のようなビートレス系のナンバーまで、特定のジャンルに縛られないクロスオーヴァーなアルバムとなっている。“オールモスト・タイム”や“エイソップ・ソウツ”などはジャズともハウスともヒップホップとも言えず、またそれら全ての要素を含んだ曲。かつてのパル・ジョーイのようなジャズ・ハウスとジャズ・ヒップホップの中間をいくようなプロダクションとなっている。いずれにしても反復されるビートの美学に貫かれた曲だ。全体的にフルートやサックス演奏も控えめとなっていて、『ハード・レイン』はテンダーロニアスのビートメイカーとしての側面に振り切ったアルバムと言えるだろう。

Kiefer - ele-king

 LAを拠点に活躍する、ジャズ・ピアニストでありビートメーカーでもあるキーファーが〈Stones Throw〉より、セカンド・アルバム『Superbloom』を9月20日にリリースした。

 LAの現行ジャズ・シーンやビート・シーンとも関わる一方で、アンダーソン・パークのアルバム(『Oxnard』&『Ventura』)にプロデューサーとして参加するなど、多方面で活躍し、昨年、〈Stones Throw〉よりリリースされたファースト・アルバム『Happysad』も非常に高い評価を得たキーファー。今回のアルバムはピアニストとしての面に強くフォーカスが当てられた作品になっており、ピアノおよびアナログ・シンセによる温かみのあるサウンドプロダクションによって、『Superbloom』(=砂漠などで大量の花が咲き乱れる現象)というタイトル通り、実にカラフルでオーガニックなイメージが完成している。

 なお、アルバム『Superbloom』のLPおよびCDには、2019年4月にデジタル配信でリリースされたEP「Bridges」を追加で収録。『Superbloom』と同じくピアノとシンセをメインにしながらも、よりローファイな質感である『Bridges』との微妙なテイストの違いを感じてもらいたい。

 また、今週末の10/8から、ニュー・アルバムを提げて、韓国(ソウル)と日本(大阪、静岡、東京)を巡るアジア・ツアーがついにスタート。10/12の《朝霧JAM 2019》および10/14のビルボード東京の公演ではバンドセットによるライヴが予定されており、こちらの初来日ツアーもぜひお見逃しなく!(大前至)


Kiefer『Superbloom』
Label: Stones Throw Records
※LP、CDには前作EP「Bridges」を追加収録

【TRACKLISTING】
Side A (Superbloom)
 01. Golden
 02. Frozen
 03. May 20
 04. 10,000 Days
 05. Good Looking
 06. Be Encouraged
 07. And Encourage Others
Side B (Bridges)
 08. Journey
 09. Island
 10. Orange Crayon
 11. Cute
 12. Sunny
 13. Green Crayon

Streaming
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AWA

Album Info Page


KIEFER JAPAN / KOREA TOUR

10/8 (Tue) ソウル @Modeci
10/9 (Wed) 大阪 @Conpass
https://www.conpass.jp/7993.html
10/12 (Sat) 静岡 @朝霧JAM 2019 *バンドセット
https://asagirijam.jp/
10/14 (Mon/Holiday) 東京 @ビルボードライブ東京 *バンドセット
1st Stage Open 15:30 Start 16:30 / 2nd Stage Open 18:30 Start 19:30
https://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=11610&shop=1

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Kiefer

LA出身のジャズ・ピアニスト兼ビートメーカーとして、アンダーソン・パークの最新アルバムにも3曲プロデュース参加、ケイトラナダともコラボ楽曲をリリース、マインドデザインのライヴ・バンド・メンバーとしても活躍する西海岸注目の次世代アーティスト。
幼少からUCLAジャズ学科までに培われてきたヒピアノの実力と、10代初期からLAビート・シーンで育まれてきたヒップホップのビートメイキングの才能が見事にクロスしたジャズ・ビート・ミュージックで開花。2017年リリースのデビュー・アルバム『Kickinit Alone』が米A2IMのベスト・ジャズ・アルバムにノミネートされ、2018年の〈Stones Throw〉からのアルバム『Happysad』はPitchfork、Bandcampといったメディアや、ドクター・ドレやDJジャジー・ジェフなどのキーパーソンたちにも称賛された。ニュー・アルバム『Superbloom』はロバート・グラスパー、カマシ・ワシントン、そしてJ ディラ、ノレッジにもリンクし、LAビート・シーンとジャズ・シーンを繋ぐ最重要作品で、これを聴かずに今のビート・ミュージックは語れない。

Kiefer - 10,000 Days - Superbloom
https://www.youtube.com/watch?v=9A7fmEehmxY

Kiefer - "Be Encouraged" - Superbloom
https://www.youtube.com/watch?v=SL0fXKNAd2c

Kiefer - Golden - Superbloom
https://www.youtube.com/watch?v=4tuvWY-wd0M

Be Encouraged: Kiefer Documentary
https://www.youtube.com/watch?v=83joMCFE5gE

 タイトルの『エイス・グレード』というのは8年生のこと。日本だと中2だけれど、アメリカではミドル・スクールの最終学年に相当する。世界中の子どもたちは小5ぐらいで自尊感情を失い始めることが報告されている。世界と出会い、圧倒されてしまうからだと説明されている。そのようにして喪失した自尊感情を世界の子どもは「エイス・グレード」ぐらいまでに回復するか、以前よりも強い自尊心を持つようになるのに対し日本の子どもたちが自尊心を回復する例は少なく、自信のない人間に育つ傾向が強いという(反対にオランダの子どもは世界で最も強い自尊心を抱くようになるらしい)。『エイス・グレード』が扱っているのは主人公のエルジー・フィッシャー演じるケイラ・デイが自尊心を回復するまでの悪戦苦闘。ジェネレーションZと呼ばれる世代は生まれた時からネットがあり、自尊心にとっては最大の敵ともいえる承認欲求を低減させなければ自尊心の回復はありえない。資本主義にとって承認欲求は金のなる木だし、コミュニケーションの回路は増える一方で、瞬く間に世界はトラップだらけになってしまった。『エイス・グレード』も当然のごとくケイラ・デイがネットに自撮りの動画をアップするところから始まる。彼女の1日はネット漬けで、夕食の時間もスマホを離すことがなく、ジョシュ・ハミルトン演じるシングル・ファーザー(マーク・デイ)はいつも頭を抱えている。自分の世界に閉じこもっている娘にどうアプローチしていいのかわからない父親の弱り切った気持ちも手に取るように伝わってくる。ちなみに、SNSが10代の子どもに与える悪影響は圧倒的に女子に偏重しているそうで、ネットいじめのターゲットも女子が多いというし、『エイス・グレード』の主人公を女子にしたのは、だから、とても重要なことだろう。社会問題をエンターテインメントと絡めてエデュテイメントにしてしまうアメリカのお家芸である。

 ケイラ・デイは学校で誰にも相手にされない。無視されても、無視されても、気丈に振る舞い、自分はみんなと対等だという意識を保ち続ける。しかし、クラスのクイーン的な存在であるケネディは彼女を話し相手として認めず、本当はバースデイ・パーティにも呼びたくなかった。そんな彼女を実在する人間として扱ったのはケネディの従兄ゲイブだけ。ケイラ・デイはしかし、ゲイブは眼中に入らず、ただひたすら勇気を出して、みんなの輪に混ざろうとする。誰によって承認されたいかということが彼女の中では変更がきかないのだろう。そして、片思いを寄せているエイデンに「フェラチオはできるか?」と問われ、意味もわからずできると答えてしまう。その晩、フェラチオの意味をネットで調べたケイラ・デイは……(このシーンがあるために本作はアメリカではR指定となり、作品の当事者である8年生がひとりで鑑賞することは不可に。日本では特にR指定はないようです)。さらにケイラ・デイはハイ・スクールの体験入学で知り合ったオリヴィアの男友だちからも性的なハラスメントを受けそうになり、アメリカの日常的な風景の中で中学生の女子がいかに性的な危機にさらされているかが印象づけられる。ケイラ・デイが本当に自信をなくしてしまうのは、しかし、(以下、ネタバレ)自分が過去に書いた自分へのメッセージを読んだ時だった。「夢や希望」を焼き尽くすことと決めた彼女は初めて父親とまともに会話をする。ここがターニング・ポイントとなる。『ヘザーズ』(89)、『ミーン・ガールズ』(04)、『キック・アス ジャスティス・フォーエヴァー』(13)と繰り返し同じような設定の話がつくられるということは、これはアメリカにとってよっぽどな問題なんだろう。『エイス・グレード』はこれまでのものと比べて物語としては最もシンプルで、突拍子もない展開も用意されていない。監督が言うように「リアルにつくったらR指定になってしまった」というのは本当だろうし、台本を読んだフィッシャーにフェイスブックなんて誰もやってないと言われ、インスタグラムやスナップチャットをメインにしたのも可能な限りリアルに寄せなければ当事者たちに伝わらなくなってしまうと思ったからだろう(ちなみに監督のボー・バーナムはユーチューバー出身)。もはや『ヘザーズ』のウィノナ・ライダーや『ミーン・ガールズ』のリンジー・ローハンでは若い世代のロール・モデルにはなりようがないと。

 この作品に自尊心を回復する方程式が示されているわけではない。そんなものがあれば誰も苦労はしない。しかし、日本人はこういった作品をもっと深刻に受け止め、ある程度のフォーミュラを導き出すぐらいの努力はした方がいいのではないかと思う。子どもたちが様々な困難にあっても成長することはなく、ただ何かを失っただけで、元の日常に戻れたことに感謝するというエンディングの娯楽邦画ばかり観ていても、それは「世界と出会い、圧倒されてしまう」状態を長引かせ、悪くすれば隷属状態を再確認しているだけで、いつまでも小学5年生のメンタルから逃れることはできない。安倍政権によってゆとり教育が覆された経緯には様々な思惑が絡み合っているのでひと言で表すことは難しいけれど、要は自由裁量に大きな価値は認められず、工場労働者を大量生産するための教育方針に回帰してしまったことは確かだし、そうなると自尊感情はやはり不要なのかもしれないけれど、自尊感情が低いことはどう考えてもグローバル時代には不利だし、日本はこれまでひとり当たりのGDPは低くても人海戦術でそれをカヴァーしてきたようなところがあり、ということは人口が減少し、この25年で約600万人も労働人口が減ったということは(第2次世界大戦で死んだ日本人は約300万人)、これまでと同じやり方ではGDPは下がる一方でしかない。いまでもかなり貧しい国になってきたというのに、さらに落ちぶれて、21世紀後半には中国に出稼ぎに行く人も出てくるかもしれない。ゆとり教育がうまく行かなかったのは社会に多様性を受け入れる準備ができていなかったからで、むしろ受け入れる側に自尊心が備わっていなかったことが問題だったのではないだろうかと僕は思う。東京電力の旧経営陣じゃないけれど、責任を引き受けるべき役付きの人たちが必ずしもそうした役職に見合った行動を取らない場面はしばしば目にする。日本の子どもが自尊感情を回復できないのは親に自信がないからだという分析もあることだし、だとしたら、これはデフレ・スパイラルよりも恐ろしい負の連鎖に陥っているということではないだろうか。

 アメリカではSNSの弊害が本当に大きく議論され、これによって損なわれるものからなんとか脱却しようという機運がこの作品からは力強く感じられる。ケイラ・デイはネットからダメージを受けるわけではなく、自分を保つためのツールとして利用しているものの、そのまま続けていれば鬱になることは誰の目にも明らかだったし、それが救いにはならず、どこかに繋がっていくストーリーではなかったことはやはり象徴的だった。劣等感や不安を増大させるとして英王立公衆衛生協会(RSPH)によって17年に最悪のSNSと断じられたインスタグラムはこの5月から「いいね」を非表示にするテストを始め、日本でも9月26日からテストを開始、早くも利用者から大きな反発が巻き起こっている。

Waajeed - ele-king

 デトロイトからWaajeedがやって来る。T3、 Baatin、J Dillaで構成されたヒップホップ・グループ、Slum VillageにDJやビートメイカーとして10代のときからシーンで活動するアーティストで、近年はハウスやテクノの傑作を連発しているので、好きな方には「おお!」という朗報だ。
 ちなみに、彼のElectric Street OrchestraではMike BanksやSurgeも参加している(https://dirttechreck.com/shop/music/dtr02a-electric-street-orchestra-the-natives-ep-digital/
https://samplinglove.blog94.fc2.com/blog-entry-1826.html)。また、今年7月に自身の〈Dirt Tech Reck〉よりEP『Ten Toes Down』をリリース済み(https://waajeed.bandcamp.com/album/ten-toes-down-ep)。10月にはBenji Bのレーベル〈Deviation〉 からも新作のリリースを予定している(https://deviationlabel.bandcamp.com/album/hocus-pocus)。
 関係ないけど、ワタクシ=野田のリュックには、ちゃっかり〈Dirt Tech Reck〉の缶バッヂが付いております。

■WAAJEED JAPAN TOUR 2019

10.11 (FRI) 大阪 @Compufunk Records

SPECIAL ACT
Waajeed (Dirt Tech Reck)

DJ`s
DNT (POW WOW)
MITSUKI (MOLE MUSIC)
DJ COMPUFUNK

VE
catchpulse

Open 22:00

Advance 2500 with 1DRINK
Door 3000 with 1DRINK

Info: Compufunk Records https://www.compufunk.com/
大阪市中央区北浜東1-29 北浜ビル2号館 2F TEL 06-6314-6541


10.12 (SAT) 福島 @Club NEO
- K.I.S.S.#59 -
Keep It Sound & Sense.

K.I.S.S. 10th Anniversary Party!!!!

Special Guest:
Waajeed (Dirt Tech Reck)

Resident DJ:
STILLMOMENT
MONKEY Sequence.19

Food:
Aoyagi

Photo:
Seiichiro Watanabe (swism)

Open 22:00

Advance 4000yen with 1Drink
Door 4000yen
*先着順で10th Anniversary MIX+ノベルティグッズをプレゼント!

Info: Club NEO www.neojpn.com
福島市本町5-1 パートナーズビルBF1 TEL 024-522-3125


10.14 (MON/祝) 東京 @Contact

STUDIO X:
Waajeed (Dirt Tech Reck)
桑田つとむ
Suzu (Charge / Key / Bums)

CONTACT:
MOC (Powers), Funktion crew (Yudaini, Tikini, Taiki),
Shintaro Iizuka x Takuya Katagiri (GASOLINE)

Open 17:00 - Close 22:00

Under 23 | Before 18:00 1000yen
GH S member | advance 2000yen
With Flyer 2500yen
Door 3000yen

Info: Contact https://www.contacttokyo.com
東京都渋谷区道玄坂2-10-12 新大宗ビル4号館B2F TEL 03-6427-8107
※未成年も入場可


Waajeed (Dirt Tech Reck / Detroit)

WaajeedことJeedoはデトロイト、コナントガーデンズ出身のDJ/プロデューサー/アーティスト。
同郷の、T3、 Baatin、J Dillaで構成されたヒップホップグループ、Slum VillageにDJやビートメイカーとして十代で参加する。奨学金を得て大学でイラストレーションを学ぶ時期もあったが、Slum Villageのヨーロッパツアーに参加した時に、アートより音楽を生業とすることを決めたという。自身の主宰するレーベルBling 47からJay Dee Instrumental Seriesといったインストビート集をリリース、またニューヨークに一時移り、2002年にPlatinum Pied Pipersを結成、よりR&B色強いサウンドを打ち出した。Platinum Pied PipersとしてUbiquityより2枚のアルバムをリリースしている。現在デトロイトを拠点に活動し、2012年レーベルDIRT TECH RECKを立ち上げ、より斬新なダンスミュージックサウンドを追求している。Mad Mike Banks、Theo Parrish、Amp Fiddlerとコラボレーションを経て、2018年最新ソロアルバム『FROM THE DIRT LP』を完成させた。Planet E主催のDETROIT LOVEのツアーにも多々参加し、今年の初のSonar出演では当地のオーディエンスに鮮烈な印象を与えた。

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