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François J. Bonnet & Stephen O'Malley

Drone

François J. Bonnet & Stephen O'Malley

Cylene

Editions Mego

Bandcamp Tower HMV Amazon iTunes

デンシノオト   Oct 04,2019 UP

 桃山時代に轆轤(ろくろ)を使わず、手捏ねで樂茶碗を造り出した樂焼。初代長次郎は、千利休の教えに従い、赤樂茶碗や黒樂茶碗を造り出したという。樂焼15代目、楽 吉左衛門=樂 直入(1949年生れ)は、伝統とモダニズムが絶妙に融合した焼き物を創作したことで高く評価されている。樂の器に高谷史郎がヴィデオ・プロジェクジョンをおこなった作品「吉左衞門X」(2012)は近年、大きな話題を呼んだ。

 その「吉左衞門X」を撮影した写真が、サンO))) のスティーヴン・オマリーとフランスの電子音楽家カッセル・イェーガーことフランソワ・J・ボネらのコラボレーション・アルバム『Cylene』のアートワークに用いられている。アートワークはアルバムを象徴する重要な要素だ。じじつ、本アルバム『Cylene』に畳み込められた静謐かつミニマルなドローン音響はまるで400年の伝統を受け継ぐ焼き物の椀のように偶然と意志が高密度に交錯していた。静物のイメージとドローン音響はなぜか合う。音響の自律性は、焼き物のように偶然性に積極的に身を任せて生まれているものだからだろうか。

 本作の録音はフランスのパリにある GRM (Le Groupe de Recherches Musicales/フランス音楽研究グループ)にて2018年8月におこなわれた。マスタリングとカッティングはドイツ・ベルリンのラシャド・ベッカーがおこなった。フランソワ・J・ボネは GRM の芸術監督でもあり、本作をリリースする〈Editions Mego〉の電子音楽リイシュー専門のサブレーベル〈Recollection GRM〉にも協力している。その〈Recollection GRM〉のアートワークを手掛けているのが、スティーヴン・オマリーである。つまり本作は以前からニアミスを繰り返してきた現代のエクスペリメンタル・シーンを代表するふたりの音楽家の記念すべき共演作なのである。

 オマリーのエレクトロニック・ギターはサンO))) のような空間を埋め尽くすような轟音ではなく、研ぎ澄まされた一本の線を描く「書」のごとき静謐な音を鳴らしている。まるで弦の振動を慈しむかのように。フランソワ・J・ボネの電子音もオマリーの緊張感に満ちたギターの背後で、その空気に浸透するように不穏な音響を生成している。ふたりの音はいっけんまったく別の「層」に存在する。彼らの音楽的個性はそれほどまでに違う。しかしそれこそが重要なのだ。「違う存在」が「共にある」こと。

 全く違う個の交錯。その結果は聴けば誰でも分かるだろう。まるで陶器・焼き物を思わせもする偶然性と意志が交錯する仕上がりになっていた。オマリーもボネットも自身の音響の本質を熟知したうえで(つまり作曲・構成を突き詰めた上で)、あえて制御不能な領域もそのまま残しているように思える。まるで透明なガラスのスクリーンに線を描き、その絵の具の滴りをそのまま残すかのように。だからこそ本作の音響は極めて自然だ。まったく異なる個性を持った音楽家の共演にもかかわらず、その音と音の交錯にはまったく無理がない。

 全7曲、彼らの音はあるときは交わり、あるときは離散する。われわれ聴き手は聴き進むうちにどんどん沈みこんでいくような感覚を覚えるはずだ。しかし、それぞれの音は、互いに自律し、依存してもいない。複数にして単数。深遠にして表面。持続と浮遊。このアルバムのドローン音響設計は、ほぼすべて完璧に思えた。それゆえもしもふたりによる「次の作品」があるならば、このアルバムの「自然さ」を根本的に壊しにかかるのではないかとも想像してしまう。この端正極まりないアルバムには、そんな破壊の意志も静かに埋め込まれていたようにわたしには思えてならないのだ。

 ふたりの音が流れる。音が滴る。音が横溢する。『Cylene』のノイズ/音響空間はわれわれの耳に硬質な音の流動性を与えてくれる。それは結晶と凝固へと至るノイズのその瞬間の記録である。まるで焼きあがる陶器の熱と冷たさのように。まさに電子音響マニア、現代ノイズ・ドローン・マニア、必聴のアルバムだ。現代のミニマリズムの結晶がここにある。

デンシノオト