「F」と一致するもの

She Talks Silence - ele-king

 東京のインディーズ・シーンなんて言うとじつに抽象的で窮屈な気持ちになってしまうが、そんな渦中においてそれっぽく飾られたぼやけた存在ではなく、主張せずとも目に焼きつけられるはっきりとした色彩をもち、くっきりとピントの合った独自の美学を貫くバンドが2組。ベッドルームから現れた甘い劇薬、山口美波と河合亜由美による女性デュオ、シー・トークス・サイレンスと、みんなよく知る多くのCM曲からアーティストのプロデュース/エンジニアも手掛けるというアナザー・サイドを持つ日陰のポップ職人、橋本竜樹によるソロ・プロジェクト、ナガルジュナ(Nag Ar Juna)の12インチが新進レーベル〈de.te.ri.o.ra.tion〉より同時にリリースされた。

 シー・トークス・サイレンス(以下:STS)の『When It Comes』は、昨年密かにカセットのみでリリースされ、すでに入手困難となっていた6曲入りミニ・アルバムの新装アナログ盤。アートワークも新たに最新型のSTSを堪能することができて耳寄りである(なによりヴィニールならではの音の厚みと艶が増していてうれしい!)。内容はというと、新曲とレア・トラック(コンピ提供曲やライヴ会場のみで販売していた曲)を集めたもので、これがすでに完成された彼女たちの美意識に従いつつも、いつになく多彩な陰影と色調をもった表情を見せてくれて鼓動が高鳴る。時に華やかに、時に危うげに。これまでは山口(ギター/ヴォーカル)による宅録プロジェクトという印象が強かったが(詳細は江森丈晃編・著『HOMEMADE MUSIC』で確認してほしい。そこには山口が初めてギターとMacを買ってから、わずか2年であれよあれよという間に1枚の7インチとアルバム『Noise & Novels』(2010)をリリースするまでの経過を記した制作日誌が抜粋されている)、サポートだった河合(ドラム/ベース)を正式メンバーに迎えたセカンド『Some Small Gifts』(2011)を経てリリースされた本作は——手の平を合わせて高らかにつき上げた2人のアートワークが象徴するように——デュオとしてのSTSの方向性(結束)がさらに固まり、ライヴでの演奏が重視されているのだろうか、楽曲の骨格もより美しく研ぎ澄まされたものとなっている。

 1曲め“Walk Away”から乾いたカッティング・ギターと吐息のようにそっと囁かれるヴォーカル、陰りのあるメロディとコーラスが疾走感を伴って転がる。これは名曲の予感。2曲め“Just Like War”は、機械仕掛けのリズムに這いずるようなベースが耽美な楽曲の輪郭を際立たせるダーク・ウェイヴな新機軸。自らディレクションを務めたMVでも見てとれるように、黒を基調とした映像に鮮烈な赤が差し込まれ——まるでブルース・ギルバートの『This Way』(1984)のアートワークよろしく——細く長く伸びた腕、むすんでひらいて、絡み合う手、そして「HOPE」と「ANGEL」の文字が交錯するさまには背徳感すら覚えてしまう。3曲め“There's No”は、インディ・ロックだけに留まらないSTSのもう一つの動機「怒り」が垣間見えるハードコア曲。彼女たちがライヴであぶらだこのカヴァーを披露しているのも頷ける。つづく4曲め“Holy Hands, Holy Voices”は、“Walk Away”同様にインディ・ロックのマナーに則ったSTSの代表曲だ。ハンマービートにぐしゃっと歪んだギターのコード・ストローク、その上にキーボードの淡いメロディが寄り添いメランコリックに駆け抜ける。そして、呪術的なリズムとヴォーカルが印象的な“Long Ways”を経て、マリンでデカダンスな6曲め“Rosie”が海風のように横切り、アルバムはエレガントに幕を閉じる。

 〈de.te.ri.o.ra.tion〉を主宰する橋本竜樹=ナガルジュナの『Doqu』は3曲入りの12インチEP。2010年にリリースされたファースト・アルバム『How Many Friends Can Die Happily?』が橋本によるエコーまみれの宅録ひとりポップだったのに対し(これがまた80年代後半に残されて、誰にも気づかれず忘却の彼方に消えてしまった奇跡のインディ・ポップ盤を発掘したような悦びを与えてくれる)、3年ぶりに登場したこのEPはライヴではお馴染みのバンド体制で録音された意欲作である。そして、バンドの面子がクセがあるようでないようでかなりあるというかめちゃくちゃある強者ぞろい。ドラムに須田洋次郎(ミツメ)、ベースにJUN(80KIDZ)、キーボードにYUJI ANDO(golf)、ギターにPUNPUN(ニュー・ハウス)を迎えたサウンドは、ソフトな質感をもちながらもじつに奥行きがあり、何度も聴き返してはその音の奥に触れたくなってしまう。

 異様なまでに郷愁を誘うタイトル曲“Doqu”。西に傾く太陽と、長い影を伸ばすハリボテのような郊外団地のビル群。そんなシルエットが目に浮かんで殺伐とした気持ちにさせられるが、時折の夢のように現実離れしたサイケデリックなサウンドが視界を薄明るく照らしてくれて救われる。そして、そこにのせられる、「壊れたのはぼくの遠いドク(毒)/辿ったのはぼくの遠いドク(毒)」なんて言葉が柔らかい光をねじ曲げ、ゆるやかに流れる時間は一見爽やかで美しくもありながら、妙な孤独感を残す。STSがディレクションを手掛けたMVも、牧歌的でモノクロームな世界に浸食されていてひどく詩的だ。つづく“Sasage”は、フルートの音色が切なく、「若さを捧げた/長い日々が終わる」といった言葉が冬枯れ感を残すネオアコ曲。そして、3曲め“Miscellany(1987, 1988 and 1993)”は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの3枚めのように繊細で、ミニマル・ロック化する終盤に現れるけたたましいヴァイオリンがクールにスパークしてガヤガヤとした喧騒をきたす。

 これが東京の「いま」なのか? と問われると答えに窮するところもあるが(というかそんなことはどうでもいいな)、勃発的に現れるのではなく、出てくるべくして姿を現し、具体的にコミットするシーンを持たず、頑固に、冷静に、音楽への熱情と、気高く筋金入りのDIYスピリットを最大の武器に、独創的な魅力を放つ彼らの存在はどこにも類のないものだ(STSの初期の曲にはディス・ヒートやジョセフKのフレーズを引用した曲も!)。先日、テイ・トウワを中心とした事務所〈hug inc.〉にも仲間入りしたシー・トークス・サイレンス。そして、これから自身の活動のほかに〈de.te.ri.o.ra.tion〉のリリースも活発化していくというナガルジュナ。本作のリリースによって、彼らへの羨望の眼差しはさらに増殖し、蜜に群がる蜂のように集まってくることは間違いないだろう。
 しかし、注意も必要だ。砂糖菓子のように甘い誘惑をちらつかせつつも、噛めば痺れがじわりと口に広がる毒の入ったキャンディも用意されていてまったく油断ならない。すべての心に茨を持つ少年。そして筆者のようにかつては茨を持っていた(はずの)中年たちの動揺は、いつまでたっても止まらないのである。

interview with Falty DL - ele-king


フォルティDL
In The Wild

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 ドリュー・ラストマン(DL)は駄作のない男で、いまのところ、どの作品も悪くない。UKガラージ/ダブステップへのNYからのリアクションとして、2009年、〈プラネット・ミュー〉らしからぬラウンジ・ミュージックめいたスタイリッシュなジャケでデビューしたフォルティDLだが、実際その音楽には色気があり、洒落っけがある。
 彼には音楽的バックボーンがある。幼少期にクラシックを学んだという話だが、父の部屋にあったのは60年代ロックのコレクションだった。若きDLは、ときおりジャズ・バンドやオーケストラで演奏しながら、マイルス・デイヴィスの『Live At The Philharmonic』(1973)や『Live-Evil』(1971)といった2枚のライヴ盤をずいぶん聴き込んだという。追って彼は、エイフェックス・ツインの『Richard D. James』(1996)を入口に、マイク・パラディナスやルーク・ヴァイバートなどなど、90年代テクノ/エレクトロニカの探求の旅に出かけるのである。DLのエイフェックス・ツインへの並々ならぬ愛は過去のいくつかの取材で明かされているが、UKベース・ミュージックの世代とはいえ、この出会いが彼を電子音楽へと向かわせた、と言っても過言ではないだろう。

 DLは、自分の音楽を「“IDM”というジャンルおよびタームで呼んでもかまわないと思う」と語ったことがあるが、この発言は彼の音楽をよく表している。UKガラージをやろうが、ジュークやジャングルをやろうが、ジャズ・スタイルにアプローチしようが、彼の土台にはエレクトロニカがある。この1〜2年は、自身のレーベル〈Blueberry Records〉からヒップホップ系のブレイクビート集を出しているが、それらとてIDM的工夫があり、いわゆる「chill but exciting(チルだがワクワクする)」感性が一貫してあるのだ。日本でのDL人気の高さもこのあたりに根拠があるに違いない。

 フォルティDLの2年ぶり通算4枚目のアルバム『In The Wild』は、過去の3枚以上に、IDM的傾向、リスニング・ミュージックとしての趣が色濃い。アンビエントからはじまり、デトロイト・ハウスやUKジャングルをシャッフルしつつ、得意なロマンティックなラウンジ・スタイルも出し惜しみなく展開する。そして、新たにジャズ(流行っているおりますな~)へのアプローチを試みたりと、音楽的にもクラブ・ミュージックという括りにはおさまらない幅の広さを見せている。

ここ数年エレクトロニック・ミュージックが広く浸透して来たのもあって、もはやジャンルに括れなくなったと思う。今回、とくにいままでと大きく違うのは、ダンス・アルバムではなく「音楽のアルバム」を作ろうと試みたポイントかもしれない。

『In The Wild』は、過去の3枚とは一線を画した作品ですね。アルバムの1曲目から、雰囲気が違います。これまでになかったタイプの、よりコンセプチュアルな作品ですね。

DL:そうだね、いままでのアルバムと違うと言うのは、当たっていると思う。でも、アルバムを作るときいつも考えるのが、いままでやったことないことをやろうということだから、その辺はいままでも意識してやってきたことだね。今回、とくにいままでと大きく違うのは、ダンス・アルバムではなく「音楽のアルバム」を作ろうと試みたポイントかもしれないな。

アルバムの2曲目に“New Haven”という、あなたの故郷名が出てきます。これが今回のコンセプトとどんな関係がありますか?

DL:そうだね、もうひとつ、僕が最近行ったスペインの地名も出てくるんだけど、こういった地理を示す言葉を入れたのは、僕自身がもういちど自分の故郷について曲を作ることで、自分がそのとき、どういう夢を持って、どういう未来を描いていたのかっていうことを振り返ろうと思った、というのもある。

その“New Haven”もそうですが、“Do Me”も変調した声サンプリングを効果的に使っています。声ネタには、どんな意味が隠されていますか?

DL:“Do Me”は、この言葉が繰り返し流れることで、クラブで演奏したりするとオーディエンスがみんなそれを叫びはじめて、あっという間にダンス・ミュージックが成立する。“New Haven”は言葉と言葉のあいだにひと呼吸だけおいてサンプリングしているんだけど、これはヴォイス・サンプリングを楽器に例えているというか、ときどき、そのヴォーカル自体が楽器となって、曲を作り上げていくっていうのもいいんじゃないかなって思ったんだ。

“Nine”、“Do Me”、“Heart & Soul”といった曲は、アルバムのなかで重要な位置を占めているのでしょうか?

DL:この3曲はアルバムのなかでもパワフルな曲だね。僕はこのアルバムを作るにあたって、最初から最後までアルバムの流れで全部聴けるように構成したから、僕にとってはどの曲も重要な位置づけの曲ではある。しかし、“Nine”はかなり昔にサンプリングした曲で、この曲の導入部分に使われてるベースは、僕が昔演奏していたような感じにしたんだ。僕個人としてはこの曲は、コード9に捧げる曲として書いたんだ。これは本当だよ。

いままで、あなたはガラージ、テクノ、IDMなど、クラブ・カルチャーのいち部として作品を出してきたように思いますが、今回の作品は、そうしたムーヴメントからは切り離されたもののような印象を受けました。より独立した、ひとつの作品として成立しているんじゃないかと。

DL:そうだね、ここ数年エレクトロニック・ミュージックが広く浸透して来たのもあって、もはやジャンルに括れなくなったんじゃないかなって思うんだよね。たとえばエイフェックス・ツインが活躍した90年代と現代とでは、歌のないインストの音楽のとられられ方が違うからね。だから、いまのほうが、みんな普通にジャンルを問わず受け入れていると思うし、僕のアルバムもジャンルにカテゴライズされずに作品として受け止めてもらえたんじゃないかな。

今回のアルバムで、現代芸術家のクリス・シェンとのコラボレートを望んだ理由を教えてください。

DL:〈ニンジャ・チューン〉に推薦されたんだけど、僕は彼のウェブサイトで作品をみて完全に打ちのめされた。で、さっそく彼と一緒にやることになったんだけど、彼のやりたいようにやって欲しかったからあまり注文をつけたくなくて、お互いできたものを出し合って、何度も何度も修正して作業を進めた。それによって誰も想像できなかったような凄いものが生まれたと思ってる。

〈プラネット・ミュー〉との契約が無くなって、今回で2枚目の〈ニンジャ・チューン〉からのリリースになりますが、レーベルが変わったことで状況の変化はありましたか?

DL:〈プラネット・ミュー〉のときとはまったく違った。〈ニンジャ・チューン〉から初めてリリースしたときは、そのプロモーションの規模の違いに驚かされたよ。おかげで、いままで僕を知らなかった人も僕を知ってくれるようになった。大きいレーベルにいくとなかなか思い通りにならず、自由がきかなくなると言う人もいるけど、僕の場合は〈ニンジャ・チューン〉にいったことで、すべてが良い方向に動いてる。

前作はダンサブルだったし、フレンドリー・ファイヤーのエドワード・マクファーレンを起用するなど、幅広いリスナーに届くような配慮がなされていましたが、今作はそうした著名なゲストを起用しませんでした。

DL:実は、最初はアルバムに何人かヴォーカルで参加してもらおうと考えた。ラッパーとのコラボを中心に考えて作業をしていたんだけど、やっている過程で、僕のアルバムなんだから僕自身の音をたくさん入れればいいんじゃないか? と思った。もちろんいまでもたくさんのラッパーとコラボ作品を作ってるから、それが良い形で発表できると嬉しいよ。

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エイフェックス・ツインの音楽って魂が入っているんだよね。超ハイテクなことをしているんだけど、どこかアナログで魂が宿っているというか。そこがやっぱり他の人とは違う非凡なところだなって思うし、とても影響されている。


フォルティDL
In The Wild

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あなたは幼少期にクラシックを学び、オーケストラやジャズ・バンドでベースを弾いてましたが、そうした経験は作品のなかに活かされていると思いますか?

DL:ストリングスのサンプルはたくさんあるけど、僕は15歳のときからこういった音楽を聴きながらサンプリングしはじめた。だから、自分の経験として実に活かされていると思うよ。

“Some Jazz Shit”は、アルバムでは最長曲であり、ジャズへの挑戦です。この曲は『In The Wild』のなかである種のオプティミスティックな感覚を打ち出していますよね?

DL:そう言ってくれて嬉しいよ。ありがとう。実はこの曲を作っているとき、〈プラネット・ミュー〉のマイク(・パラディナス)が手伝いに来てくれた。僕たちは長いこと一緒に仕事をしていた仲だからさ。1曲のなかでドラマチックな展開のある曲はいいねって言いながら作業していたから、実際にとても長くなったけど、アルバムのなかでもこの曲はもっともアップテンポでハッピーな曲だと思う。ハッピーな曲が入ってることって重要だからね。

エレクトロニック・ミュージックの世界には、「ジャズ」という言葉を曲名に入れた多くの名曲がありますよね。“Hi-Tech Jazz”とか“Jazz Is The Teacher”とか“Monkey Jazz”とか、そういう過去の名曲のことは意識しましたか?

DL:うーん、とくに意識してたというより、なんていうのかな……アメリカでは何となくシリアスにとられたくないときに使う、友だち同士で話すときの言葉というか。だからそんな深い意味でもないんだけど(笑)。しかし、そうとってもらえるとは光栄だよ(笑)。

“Heart & Soul”のようなジャングル、あるいは“In The Shit”や“Danger”のような曲には、あなたらしいブレイクビートの実験が見られます。あなたはいまでもジャングルやハードコアを聴いているのですか?

DL:うん、聴いてるし、作ってるよ。ヒップホップも作ったりするよ。いまはかっこいいドラムンベースとかたくさん出て来てるしね。今ヨーロッパではbpmの高いのが流行ってるんだけど、多分一過性のものだと思うんだよね。一回ピークを迎えたら今度はスローダウンしてくるんじゃないかなって思うんだけど。

あらためてエイフェックス・ツインからの影響について話してください。

DL:どこから話して良いのかわからない(笑)。彼の、とにかく全部がすごくて……アホっぽいこともやったり、超かっこいいことを軽くやってのけたり、とにかく一緒にいたら楽しいだろうなって思う。もしかしたら本当に狂ってるだけかもだけど(笑)。……なんていうか、彼の音楽って魂が入っているんだよね。超ハイテクなことをしているんだけど、どこかアナログで魂が宿っているというか。そこがやっぱり他の人とは違う非凡なところだなって思うし、とても影響されている。

あなたはこのアルバムで何かを憂いているようにも、訴えているようにも思います。このアルバムに漂う、メランコリーについて話してもらえますか?

DL:なんていうか、僕の人生にはハッピーなこととメランコリックな部分はたくさんある。ハッピーなことは、何をどうすればハッピーになれるのか自分でわかっているし、それを形にしなくて良いと思うんだ。むしろメランコリックなものを音にして広めるのがアートの役目だと思う。ハッピーなだけのアルバムは作ることができるけど、もっと難しいフィーリングを音に反映することに意味があると思う。

あなたはかねてからジュークを評価してましたが、今回の“Frontin”では、あなたなりの解釈を加えて試みています。現在いろいろな人たちがジュークを自分の作品のなかに取り入れているなか、あなたはジュークをどのような観点から評価しているのでしょうか?

DL:正直、その曲はアルバムに入れる予定じゃなかった。でもいろんな友だちに聴かせたら、みんなこの曲が一番良いっていうから入れたんだけど……。たしかにジュークを使ってはいるけれど、それはこの曲だからって言うのもあって、特別に評価しているから取り入れているってわけでもないんだ。

あなたは自分の作品の売れ行きを気にしますか? 

DL:何を言えばいいのかわからないけど(笑)。〈プラネット・ミュー〉のときはとても簡単で、売り上げが立ったらいくらかもらって、追加注文でアルバムが売れればまたお金を払ってくれるっていうわかりやすいシステムだったけど、〈ニンジャ・チューン〉はもっと複雑で……なんか明細がきてたけど、いまいち意味がわからなかった(笑)。アメリカではspotifyの再生回数すら売り上げとしてカウントする人もいるけれど、僕はその辺よくわからない。僕としては、いつかゴールドディスクがもらえたらそれ以上に嬉しいことはないね(笑)。

ロックをあなたに教えてくれたというあなたのお父さんは、あなたの音楽を聴いていますか?

DL:うん、聴くよ。でもね、僕は父に前のアルバムを送るんだ(笑)。例えばいま新しいアルバムが出たから3年前のアルバムを渡すとかね(笑)。もちろん新しいのも送るけど……なんか新しいのを送るって気恥ずかしいんだよね(笑)。だからいつも父は遅れをとっている(笑)。

ニューヨークの〈ミスター・サタデーナイト〉とはどんな付き合いなのでしょうか? また、今回一緒に来日するアンソニー・ネイプルスとは以前からの地元の友だちなのでしょうか?

DL:彼らのパーティに何度か行って知り合ったん。ついこの前に彼らがやったリリース・パーティは朝5時まで盛り上がった。みんなでクラブ内でご飯も食べて楽しく過ごしたよ。アンソニーとは1年くらい前に一緒にショーをブッキングされた。サンフランシスコだったと思うけど。僕たちはおたがいに忙しいから、なかなかプライヴェートで会うのは難しいけど、また一緒にできるのも嬉しいし、日本に行くのはとても楽しみだ。


■FALTY DL来日情報!

[大阪]
2014.07.18(金曜日)
@CIRCUS
Open : 22:00
Door : Y3500+1d _ Adv : Y3000+1d
Line up : FALTY DL & ANTHONY NAPLES, sou, peperkraft, YASHIRO

[東京]
2014.07.19(土曜日)
@代官山UNIT
Open : 23:00
Door : Y4000+1d _ Adv : Y3500+1d _ beatkart先行(*100枚限定) : Y3000+1d
Line up : FALTY DL & ANTHONY NAPLES, ALTZ, DJ YOGURT, NAOKI SHINOHARA, SEKITOVA, METOME, MADEGG


DJ Kenji Hasegawa (gallery) - ele-king

※7/20のトリビュート・トゥ・ラリー・レヴァンに向けて、彼の偉業に敬意を表しつつ、東京のクラブ・レジェンド達から伝えられたラリー関連の楽曲の数々のなかから、特に自分が今好きな曲をチャートにしました。7/20はビッグ・セレブレーション!! 皆で集いましょう!

more info
https://www.liquidroom.net/schedule/20140720/19588/

Tribute To Larry Levan


1
Man Friday - Love Honey, Love Heartache (Victor's Tribute Mix) - Vinylmania

2
Man Friday - Winners (Dance Version) - Warner Bros.

3
NYC Peech Bpys - Real Love - King Street

4
Lora - Wax The Van (Jon's Dub) - Jump Street

5
Chaz Jankel - No.1 (Dub Mix) - A&M

6
Rafael Cameron - Boogie's Gonna Get Ya (Instrumental) - Salsoul

7
Grace Jones - My Jamaican Guy - Island

8
Erons - Land Of Hunger - Island

9
Chocolette - It's That East Street Beat - Atlantic

10
Loleatta Holloway - Strong Enough (Ultimate Mix) - Active Records

 7月4日に渋谷クラブクアトロにて、アナログフィッシュとASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)の2マン・ライブが行われた。昨年デビュー10周年を迎え、横浜スタジアムで2デイズを行ったアジカンが、この規模のハコで2マンを行うというのは、非常に珍しい。これは後藤正文のアナログフィッシュに対する「同世代で常に気になる数少ないバンド」という言葉が象徴しているように、お互いへのリスペクトがなければ決して実現しないことであり、両者のライブの節々から、その想いが感じられた。

 先行のアジカンは長い付き合いのアナログフィッシュとの対バンであることを意識してなのか、序盤から“サイレン”、“センスレス”、“Re:Re:”、“アンダースタンド”と、比較的初期の曲を連発。彼らとしては小さな規模のハコだったこともあってか、終始リラックスした印象で、盟友との再会を楽しんでいるようだった。途中で後藤は、「何で女性ソロ・アーティストのMCって〈お前ら―!〉とか、ヤンキー口調なんだろうね」と話していたが、いまの若手バンドの多くも「かかってこいやー!」とか「いけんのかー!」など、とにかくオーディエンスを煽ることがマナーのようになっている。これはフェス文化の弊害のような気もするが、アナログフィッシュはもちろん、アジカンもこういった煽りはほぼ皆無。しかし、彼らがただ曲を演奏すれば、自然と手が上がり、合唱が起こる。そう、やはりアジカンの曲は“みんなのうた”だ。後藤は6月にもソロで同じステージに立っていて、そのときはウィルコやスフィアン・スティーヴンスといった現在の趣向を反映したライヴを行っているが、アジカンに戻れば、自らの役割を全うしている。後に下岡晃が「アジカンで一番好きな曲。だって、あれは俺に向けて歌ってくれてるから。ってことは、君たちに向けて歌われてるってことでもある」と語った最新曲の“スタンダード”、素晴らしき“今を生きて”などを経て、ラストも初期の代表曲“君という花”でこの日のステージを締めくくった。

 後攻のアナログフィッシュは、1曲目に“抱きしめて”で、2曲目が“はなさない”。「ここぞ」というときのライヴで披露される、この2曲のコンボを冒頭に持ってきたということから、彼らのこの日のライヴに対する強い意気込みが伝わってくる。そして、ライヴアレンジではアウトロにサイケデリックなパートが加わる“抱きしめて”と、やはりかなりサイケデリックで、なおかつミニマル、それでいてメロディアスな“はなさない”という2曲から、僕はいつもブラーの“Beetlebum”を思い出す。ここでハッと気づいたのが、「今日ってオアシス対ブラーみたいだな」ってこと。とにかくオーディエンスがガンガン合唱する「みんなのうた」なアジカンと、実験的なプロダクションも取り入れながら、メランコリックなメロディの美しさが際立つアナログフィッシュ。もちろん、後藤はリアム・ギャラガーではないし、下岡もデーモン・アルバーンではないんだけど、両バンドの対比としては、かなりしっくり来る気がする。実際、両バンドともそれぞれのバンドからの影響を公言してるし。

 この日は2曲のみでリード・ヴォーカルをとった佐々木健太郎の“Good bye Girlfriend”に続いて、今度は下岡がラップをするムーディーな新曲“nightfever”で新境地を垣間見せると、2007年に下北沢シェルターで対バンをした際、ラーズの“There She Goes”をセッションしたという話から、同タイトルの新曲(正式には“There She Goes(la la la)”)へ。これが“君という花”と同じくらいのBPMの裏打ちの曲だったのが、世代感を象徴しているような印象を受けた。いまの若手バンドの四つ打ち、ホント速いもんな。そして、ここから再びライヴは熱を帯びて行き、“Fine”では佐々木がピート・タウンゼントばりのウィンドミル奏法を決め、“PHASE”と“Hybrid”では、下岡がデーモンばりの……とまで言わないものの、強いカリスマ性を発揮して、オーディエンスを魅了した。

 そして、この日一番印象に残ったのが、簡素なリズムトラックとアトモスフェリックな上ものによって、インディR&B風にアレンジされた“公平なWorld”。〈僕らが寝ている間に何が起きてるか知ってる? 地球の向こうに朝が来てる事知ってる?〉という歌い出しにはじまり、〈うまくやったヤツラ うまくやられた彼等 振り回されたのはダレだ?〉と問いかけ、最後に〈泣かないで ルールを守り続けなくちゃ〉と歌うこの曲は、2006年に発表された曲だが、地球の向こうで行われているワールドカップに熱狂する一方で、集団的自衛権の問題に揺れるいまの日本にあまりにもぴったりだ。震災以前に書かれていた“PHASE”の〈失う用意はある? それとも放っておく勇気はあるのかい?〉という一節はもちろん、下岡のリリシストとしての才能には改めて恐れ入る。

 アンコールに応えてステージに現れた下岡は「地震の後には戦争がやってくるって清志郎さんが言ってたけど、本当に来そうだ。でも、楽しもうぜ」と言って、最後の曲“TEXAS”のシーケンスを鳴らした。〈スペースシャトルが落ちた 煙を出して テキサスの原っぱのど真ん中 僕は夢を見ていた そこから木の生える〉と歌うこの曲は、つまりは可能性の歌だ。そして、〈月曜日の朝から 風変わりな少女が歌う その小さな願いから ささやかな兆しが芽吹いたんだ〉と歌うアジカンの“スタンダード”もまた、可能性の歌だと言っていいだろう。もちろん、可能性はあくまで可能性であり、それが成就するのかは誰にもわからない。しかし、アンコールが終わっても鳴りやまない拍手に包まれた会場内で、僕は確かに何かが芽生えたような感覚を感じていた。アナログフィッシュは現在新作のレコーディング中。テイストとしてはブラックミュージックの要素がやや強まりそうな気がするが、果たしてそこに下岡は、そして佐々木はどんな言葉を乗せるのだろう。とても楽しみだ。

Anthony Naples - ele-king

 ハウス・ミュージック界の若いタレントとしては日本でも抜群の人気を誇る、現在23歳のアンソニー・ネイプルスが初来日する。7月18日(金)と19日(土)、大阪と東京でDJを披露する予定だ。
 アンソニー・ネイプルスは、2012年の暮れにNYの〈Mister Saturday Night 〉レーベルの第一弾としてリリースされた「Mad Disrespect」でデビューしている。メロディアスでムーディーなハウスだが、若さではち切れんばかりのリズムがあって、都内のレコード店ではあっという間に売り切れた1枚である。評判は瞬く間に広まって、フォー・テットや!!!といった有名どころからリミックスを依頼されたほど。2013年にUKの〈The Trilogy Tapes〉からリリースされた「El Portal 」は、ele-kingの年間チャートのハウス部門の1位に選ばれている。
 なお、今回の来日公演、新アルバムのリリースを間近に控えているNYのフォルティDLも同行する。今週末のカイル・ホールに引き続いて、実にフレッシュな、かなり良いメンツと言えるのではないでしょうか。
 以下、来日ギグまでおよそ1週間と迫ったアンソニー・ネイプルスが簡単に喋ってくれました。


こんにちわ、初来日を楽しみにしているele-kingです。

AN:ありがとう! 僕も日本に行くのを楽しみにしているよ! 

ハウス以外にも、いろいろな音楽を聴いているようですね。ブラック・ダイス、エイフェックス・ツイン、アーサー・ラッセル……アメリカで、エイフェックス・ツインを聴く15歳は珍しいんじゃないですか?

AN:そんなに珍しくもないよ。僕は、まわりの多くの人たちと同じようにラジオを聴いたり、両親の好みに影響をうけて育った。やがて、それに飽きたとしてもインターネットやまわりのクールな友だちから、そういった音楽を見つけたり、知ったりすることは簡単なことだった。僕がサウスフロリダにいた頃、一軒のレコードショップがあった。そのオーナーが、僕らとまったく同じような趣味をしていることに気づいてから、僕らに似た系統でもっと面白いものをどんどん紹介してくれるようになった。音楽に触れるのは本当に自然なことだったと思う。
 僕がエレクトロニック・ミュージックの世界に入ったのは、高校生に入学したばかりの頃だった。ギターに飽き飽きしていたんで、SP-303とか404みたいなサンプラーやシンセに触ってみることにした。めちゃくちゃな配線にしたり、曲がったキーボードとか、そんなもので友だちとたくさんジャムみたいなことをした。
 僕が2009年にNYに越してから、いわゆるクラブとかパーティに 「出かける」とか、まぁ遊び歩くだとか、するようになってからだね、本当の意味でエレクトロニック・ミュージックにインスパイアされるようになったのは。やっぱり、ただヘッドフォンで音楽を聴くだけではなく、そういう環境こそが僕に影響をおよぼしているんだと思う。

生まれは?

AN:生まれたのはフロリダ州のマイアミのはずれで、2009年にNYに越した。いまはロサンゼルスに移って1ヶ月くらいかな。

影響を受けたダンス・ミュージックのプロデューサーは?

AN:多すぎる(笑)! すべてのNYの人たち……音楽活動をはじめた頃はもちろんラリー・レヴァンからアーサー・ラッセル、ウォルター・ギボンズに影響されたし、で、それからUKのほうに興味が向くようになって、その頃はジョイ・オービソン、フローティング・ポインツ、ピアソン・サウンドなどからもインスパイアされた。探求しながら、理解を深めていったんだ。なかでも、とりわけのめり込んだのは、NYに来た頃に初めて買ったアクトレスの 『Hazyville』というアルバムだったな。自分のコンピュータといくつかのサンプルさえあれば、こんなすごいことができるってことを、僕に気づかせてくれたんだ。

先品にハウス・ミュージックのスタイルが多いのは何故でしょうか?

AN:そのときはハウス・ミュージックを作るってことがすごく新鮮に感じられたんだよ。本当の意味でハウスをジャンルとして理解した時期だったし、その頃はNYエリアのパーティに出向くたびにローカルのひとたちやNYにやってくる世界中のDJから新しいトラックを聴くことができた。それは僕にとってすごく刺激的だった。ほんとにエキサイティングなことだったんだ。
 NYを去ってロサンゼルスに住んでるいまは、そういった環境からは少し離れてしまっているように感じるね。ロスはNYやヨーロッパにくらべると、そこまでクラブ・カルチャーが発達しているわけではないからね。でも、この距離感はいま、クラブの環境のなかで聴く音楽やそういったツールとしての音楽について考える代わりに、音楽を本当に深く聴くことに集中させてくれている。それは僕がこれからやろうとしていることに確実に影響してくるよ。とにかく、クラブ・カルチャーは僕にとってはいまだに新しいものだから、どんな意味を持つかってことを言葉にするのは難しいな。

どのような経緯で〈Mister Saturday Night〉のレーベルの第一弾としてあなたの「Mad Disrespect」がリリースされる運びとなったのでしょう?

AN:彼らのパーティに行ってメーリングリストにサインアップしただけだよ。しばらくしてそのメールで彼らがはじめようとしているレーベルがデモを募集していることを知った。そしたら彼らが連絡をくれて、そこからリリースが決まったのさ。何も特別なことはないよ!

では、グラスゴーの〈Rubadub〉とは、どうして知り合ったのですか?

AN:〈Mister Saturday Night〉のひとたちと変わらない。僕は初期の頃、彼らにすごくサポートしてもらった。彼らが作品をつくろうってタイミングで声がかかって作品を提供した。僕はグラスゴーで彼らに会って仲良くなってたし、それも僕にとってはすごく自然なことだったよ。

ご自身のレーベル〈Proibito〉のコンセプト、そして、あなたのような若い世代とってヴァイナルで作品を出すことにはどんな意味があるのか知りたいと思います。

AN:僕は自分のレーベル〈Priibito〉の作品はHard Waxからデジタルでリリースしているし、たぶん他のところからもすぐ同じように配信されると思う。〈Mister Saturday Night〉の最初の2枚のシングルもデジタル配信をされる。〈Rubadub〉に関して言えば、デジタル配信はないだろうけど、でもどうせすべてがインターネット上にあるんだ。ヴァイナルは僕にとってはただの媒体だよ。僕は媒体を気にしたり、より好んだりはしていない。1日中YouTubeで音楽を聴いたりするし、それはヴァイナルでもカセットテープでもCDでもほかのものでも同じ。僕はこれに関して少しも「良い子」でいようと思わない。本当に好きでそれが手に入るなら、どんな形であれ買えばいいと思うし、もし買う余裕がないなら僕らにはYouTubeがあるじゃん(笑)。

アルバムについてはもう考えがありますか?

AN:来年中にはフルレングスのLPを2枚つくりたいと思っているけど、どうなることやら。1枚でもリリースできれば、ハッピーだな。やりとげる時間はあると思ってるけど、まずつくってみないといけない。でも結局は量よりも質にこだわるとは思うから、まぁやってみるよ。

一緒に来日するフォルティDLとはふだんから仲良しなんでしょうか?

AN:僕はイージーゴーイングな人間だから、シーンの誰とでも仲良くする。そして、たまに僕のことを嫌いなやつがインターネットに悪口を書いているのを見るとすごくヘコんだりする。USシーンがすごく健全に機能しようとしているときに、過去のNYの保護者みたいなひとたちが若い人たちがやっていることに対して大きな敵意をもつことは残念に思うよ。でもそれも全部僕の糧になると思うし、音楽をつくっていてライヴをしているすべての人たちにとってもそうだと思う。だから、それはそれ。
 フォルティDLに関して言えば、1度サンフランシスコで共演したことがあって、そのときは素晴らしかった。だから今回もそのときのようになるか、それ以上になるって確信しているよ。

LAに越してしまったという話ですが、現在のNYには、あなたのような若いプロデューサーがたくさんいるのでしょうか?

AN:ああ、そりゃあもう、ありがたいことにたくさんいるよ。そしてそれがNYだけのことじゃないと良いと思う。僕はシンプルなセットで音楽をつくっているんだ。200ドルで買った中古のPCにAlbetonのコピー、それにレコードだとかYouTubeから取ってきたサンプルだけ。誰にでもできるし、テクノロジーは誰にでも使えるようにできてる、だからみんながやるべきだ。もし誰かがこれを読んで、読むことをやめて、インターネットから数時間離れて、音楽をつくってみてもらえたらうれしいな。なにが自分につくれるかなんて誰にもわからないよ!

日本では、あなたの「Mad Disrespect」がリリースされたとき、いきなり反響がありました。今回の来日を楽しみにしているファンは多いと思います。

AN:あたりまえのことをする! いい人たちに出会って、いいレコードをかけて、新しいものを食べて、ただ本当に楽しい時間を過ごすだけのことさ。僕が知っている環境とは全然違った日本に行くことを本当に楽しみにしているし、それはいいことだよ。すばらしいに決まってるでしょう!

■ ANTHONY NAPLES、FALTY DL来日情報!

[大阪]
2014.07.18(金曜日)
@CIRCUS
Open : 22:00
Door : Y3500+1d _ Adv : Y3000+1d
Line up : FALTY DL & ANTHONY NAPLES, sou, peperkraft, YASHIRO

[東京]
2014.07.19(土曜日)
@代官山UNIT
Open : 23:00
Door : Y4000+1d _ Adv : Y3500+1d _ beatkart先行(*100枚限定) : Y3000+1d
Line up : FALTY DL & ANTHONY NAPLES, ALTZ, DJ YOGURT, NAOKI SHINOHARA, SEKITOVA, METOME, MADEGG

https://www.beatink.com/Events/FaltyDL/

The Antlers - ele-king

 ゲイの同僚からジ・アントラーズの新譜CDを貸してもらった。
 彼は別の保育施設に転職することになった。職場で一番仲が良かった人間が去るのはやはり寂しい。
 「君は非ヨーロッパ圏から来た非ホワイトな外国人だし、僕はゲイだ。あるグループの英国人父兄には絶対に受け入れられない保育士なんだよ」
 と言った彼とは、おもむろに不快な視線をこちらに向ける保護者(この層は白人だけではない)だの、「You are yellow! Your skin is so yellow!」と4歳のお嬢さんに言われても耐えなければならない純商業的保育施設従業員の辛みだの、といった非常にアンクールな、頑なにはなりたくないけどやっぱマイノリティーだといろいろあるんだよね。みたいなことをランチ休憩に愚痴り合える仲だった。
 だから、そんな同僚がいなくなるのはとてもサッドだ。そんな心情にジ・アントラーズの新譜は妙にフィットした。なんでまた50歳にもなろうというばばあがこんなおセンチなものを聴いてるんだ。という気はするが、今年の夏は気分が下向きである。

 おセンチ・ロックというのは今世紀のUKポップ&ロックの人気ジャンルだ。代表的なバンドはコールドプレイやキーン。メロディアスで感傷的というのは英国には昔からあったジャンルだが、これらのバンドには例えばザ・スミスのような暗さの突き抜けはなかった。
 が、一方でUSのジ・アントラーズの『Hospice』を聴いた時には、お。と思った。『Burst Apart』を聴いた時は、グリズリー・ベアやん。と思った。で、5枚目にあたる『Familiars』では、“Palace”という曲の物寂しいブラス音が妙に沁みて日本の小学校の下校時間を思い出し、こりゃブライトンの浜辺でブルーグレーの空を見上げながらぼんやり聴く曲だな。と思っていると、The AntlersがYoutubeで公開した同曲のイメージ写真に、数年前に燃え落ちたブライトンの埠頭娯楽施設の写真が使われていた。
 なんでまたニューヨークのバンドがブライトンなのか。
 レヴューしてくれと呼ばれたような気がした。

               ********

 SAD、PAIN、BEAUTY。といった言葉がだいたい彼らのレヴューにはよく使われている。ヴォーカルのピーター・シルバーマンの声(楽曲によっては女声にしか聞こえない)が圧倒的に劇的で、儚げに震えたり、ひゃーーーと唐突にビロードのような高音で裏返ったりするので、THEATRICALやMOODYもよく使われる形容詞だ。まあ若いうちならこういうのもいいのだろうが、婆さんの年齢になってくるとアルバムを通じてエモーショナルな世界を展開されると「うへー。」となって普通は途中で止める。だから、「お。」とは思ったもののThe Antlersをまともに聴くことはなかったのだ。
 が、今回の『Familiars』はアルバムを通して何度でも聴ける。JAZZYになったからだろう。「夕暮れブラス」みたいなホーンの音がとても新鮮で、ひたすら床を這いつくばって悲しがっている感じではなく、それに飽きて起き上がり、ベランダから夏の空を見ている感じがある。
 陰気だったり、感傷的だったり、内省的だったりすることをサッドと呼ぶなら、近年のUSはサッド・ソング流行りだ。サン・キル・ムーン、ベック、ラナ・デル・レイ。セイント・ヴィンセントのアニーが「泣きながら歌ったら1テイクで済んだ曲がある」と言っているインタヴューを読んだが、いったいみんな何がそんなに悲しいのか。
 しかしサッド・ソングというものは、泣いている自分を幽体離脱したもうひとりの自分が外側から見ていなければエレガントには聞こえない。そういう意味では、『Familiars』は珍しくエレガントなサッド・ソングズ・アルバムと言えよう。いみじくも本作で一番素晴らしい楽曲のタイトルは“ドッペルゲンガー”という。

僕が鏡の後ろに閉じ込められている時、僕の声は聞こえる?
 僕の静かなる熱狂のせいで吠えてしまう僕の分身の声が?"Doppelgänger"

 US産のジ・アントラーズは、本アルバムでザ・スミスとシガー・ロスの間に位置するエレガントなバンドに成長した。そのエレガンスとは「醒め」や「客観性」という言葉でもいい。が、それは音楽やリリックスを作ることに対するある種の「硬質さ」でもあろう。

               *******

 さて、今月はモリッシーの新作アルバムが控えている。
 いよいよサッド・ソング界のキングの登場である。客観性と主観性のあいだにある境界線を縦横無尽に行き来するあのキングの新譜を期待して、わたしは寝ることにする。

interview with Ike Yard - ele-king

ダーク・アンビエントがもっとも盛んなのは、これといった特定の場所というよりも、おそらく僕たちの脳内だ。「ダークネスに対する大衆の欲望を甘く見るな」という台詞は、2012年のUKで話題になった。

 アイク・ヤードは、今日のゴシック/インダストリアル・リヴァイヴァルにおいて、人気レーベルの〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉あたりを中心に再評価されているベテラン、NYを拠点とするステュワート・アーガブライトのプロジェクトで、彼は他にもヒップホップ・プロジェクトのデスコメット・クルー、ダーク・アンビエント/インダストリアルのブラック・レイン、退廃的なシンセポップのドミナトリックス……などでの活動でも知られている。ちなみにデスコメット・クルーにはアフロ・フューチャリズムの先駆者、故ラメルジーも関わっていた。

 アイク・ヤードの復活はタイミングも良かった。ブリアルとコード9という、コンセプト的にも音響的にも今日のゴシック/インダストリアル・リヴァイヴァルないしはウィッチ・ハウスにもインスピレーションを与えたUKダブステップからの暗黒郷の使者が、『ピッチフォーク』がべた褒めしたお陰だろうか、ジャンルを越えた幅広いシーンで注目を集めた時期と重なった。世代的にも若い頃は(日本でいうサンリオ文庫世代)、J.G.バラードやフィリップ・K・ディック、ウィリアム・S・バロウズらの小説から影響を受けているアイク・ヤードにとって、時代は巡ってきたのである。


Ike Yard
Remixed [ボーナストラック4曲(DLコード)付き]

melting bot / Desire Records

IndustrialMinimalTechnoNoiseExperimental

Amazon iTunes

 先日リリースされた『Remixed』は、この1〜2年で、〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉から12インチとして発表されたリミックス・ヴァージョンを中心に収録したもので、リミキサー陣にはいま旬な人たちばかりがいる──テクノの側からも大々的に再評価されているレジス(Regis)、〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉からはトロピック・オブ・キャンサー、〈トライアングル〉とヤング・エコーを往復するヴェッセル……、インダストリアル・ミニマルのパウェル、〈ヘッスル・オーディオ〉のバンドシェル、フレンチ・ダーク・エレクトロのアルノー・レボティーニ(ブラック・ストロボ)も参加。さらに日本盤では、コールド・ネーム、ジェシー・ルインズ、hanaliなど、日本人プロデューサーのリミックスがダウンロードできるカードが付いている。
 
 7月18日から3日間にわたって新潟県マウンテンパーク津南にて繰り広げられる野外フェスティヴァル「rural 2014」にて来日ライヴを披露するアイク・ヤードが話してくれた。

初めてレイム(Raime)を聴いて好きになったときに〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉に音源を送った。すぐに仲良くなって2010年にロンドンで会ったよ。実はまだいろいろリリースのプランがあって、いま進んでいるところだ。

80年代初頭のポストパンク時代に活動をしていたアイク・ヤードが、2010年『Nord』で復活した理由を教えてください。

ステュワート・アーガブライト:2010年の『Nord』は、2006年の再発『コレクション!1980-82 』からの自然な流れで、またやれるんじゃないかと思って再結成した。アイク・ヤードは2003年と2004年にあったデスコメット・クルーの再発と再結成に続いたカタチだ。
 両方に言えることだけど、再結成してどうなるかはまったくわからなかったし、再結成すること自体がまったく予想していなかった。幸運にもまた連絡を取り合ってこうやって作品を作れているし、やるたびにどんどん良くなっているよ。

『Nord』が出てからというもの、アイク・ヤード的なものへの共感はますます顕在化しています。昨今では、ディストピアをコンセプトにするエレクトロニック・ミュージックはさらに広がって、アイク・ヤードが本格的に再評価されました。

SA:そうだね。アイク・ヤードのサウンドは世代をまたいで広がり続けている。いま聴いてもユニークだし、グループとしての音の相互作用、サンプルなしの完全なライヴもできる。1982年には4つのシンセサイザーからひとつに絞った。再結成したときはコンピュータ、デジタルとアナログ機材を組み合わせた。『Nord』は再結成後の最初の1年をかけて作ったんだけど、ミックスでは日本での旅やヨーロッパで受けたインスピレーションが反映されている。

ブラック・レイン名義の作品も2年ほど前に〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉から再発されました。

SA:初めてレイム(Raime)を聴いて好きになったときに〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉に音源を送った。すぐに仲良くなって2010年にロンドンで会ったよ。実はまだいろいろリリースのプランがあって、いま進んでいるところだ。

今回の『Remixed』は、〈Desire Records〉と〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉との共同リリースになっていますが、このアイデアも〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉からだったのでしょうか?

SA:レジス(Regis)のエディットが入っている最初のEP「Regis / Monoton Versions 」は〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉との共同リリースで、その後は〈Desire Records〉からだ。
 レジスとの作業は完璧でお互い上手く意見を出し合えた。スタジオを一晩借りて、そこにカール(・レジス)が来て、ずっと遊んでいるような感じだった。3枚のEPにあるリミックス・ヴァージョンを1枚にするのは、とても意味があったと思う。他のリミックスも良かった。新しい発見がたくさんあった。レジスが"Loss"をリマスターしたときは、新しいリミックスかと思うくらい、まったく違った響きがあったよ。
 2012年のブラック・レインでの初めてのヨーロッパ・ツアーは、スイスのルツェルンでレイム、ベルリンでダルハウス、ロンドンでの〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉のショーケースはレイム、レジス、プルーリエントのドム、ラッセル・ハスウェル、トーマス・コナー、ブラック・レインと勢揃いの最高のナイトだった。

ちなみに、2006年には、あなたは〈ソウル・ジャズ〉の『New York Noise Vol.3』の編集を担当していますよね。

SA:〈ソウル・ジャズ〉は素晴らしいレーベルだ。ニューヨーカーとしてあの仕事はとても意味があった。まずは欲しいトラックのリストを上げて、何曲かは難しかったから他を探したり、もっと面白くなうように工夫した。ボリス・ポリスバンドを探していたら、ブラック・レインのオリジナル・メンバーがいたホールの向かいに住んでいたことがわかったが、そのときはすでに亡くなっていた。あのコンピの選曲は、当時の幅広いニューヨーク・サウンドをリスナーに提示している。

UKのダブステップのDJ/プロデューサーのコード9は、かつて、「アイク・ヤードこそ最初のダブステップ・バンドだ」と言ってましたが、ご存じでしたか?

SA:もちろん。コード9はニューヨークの東南にある小さなクラブに彼のショーを見に行ったときにコンタクトをとった。そのときにいろいろやりとりしたんだが、彼の発言は、どこかで「アイク・ヤードは20年前にダブステップをやっていた」から「アイク・ヤードは最初のダブステップ・バンド」に変わっていた。『Öst』のEPの引用はそうなっている。自分としては、当時の4人のグループがダブステップ的なライヴをできたんじゃないかってことで彼の言葉を解釈してる。

コード9やブリアルを聴いた感想を教えてください。

SA:ふたつとも好きだ。とくにコード9 & スペース・エイプの最初のリリースが気に入っている。最初のブリアルに関しては、聴き逃すは難しいんじゃないかな。ものすごくバズっていたからね。

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レジスはタフだ。彼はまた上昇している。ニーチェが呼ぶ「超人」のように働いている。自分は、テクノと密接な関係にある。やっている音楽はミニマル・ミュージックでもある。

ダブステップ以降のアンダーグラウンドの動きと、あなたはどのようにして接触を持ったのですか?

SA:アイク・ヤードのリミックスが出たときに、シーンからフレッシュなサウンドとして受け取ってもらえたことが大きい。あと、ここ数年のインダストリアル・テクノ・リヴァイヴァルと偶然にも繋がった。僕たちのほかとは違った音、リズム、ビートが面白かったんだろう。

ヴェッセルも作品を出している〈トライアングル〉、ないしは〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉など、新世代のどんなところにあなたは共感を覚えますか?

SA:新しいリリースはチェックしている。いま誰が面白いのかもね。彼らは知っているし、彼らのやっていることをリスペクトしてる。エヴィアン・クライストを出している〈トライアングル〉のロビンから連絡が来て、レッドブル・アカデミーのスタジオでエヴィアンと1日中セッションしたこともある。
 〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉はブラック・レインの『Dark Pool』のリリース後にとても仲良くなった。パウェルはブラック・レインの最初のライヴで一緒になって友だちになった。トーマス・コナーとファクションもいた。〈RVNG Intl.〉のマットのリリース『FRKWYS』の第5弾にもコラボレーションで参加したよ。

『Remixed』のリミキサーの選定はあなたがやったのですか? 

SA:だいたいの部分は僕がやったね。リミックスのアイデアは〈Desire Records〉と企画して、好きなアーティストを並べて決めた。

リミキサーのメンツは、みな顔見知りなのですか?

SA:ほとんど会ったことがある。ない人はEメールでやりとりしている。日本のリミキサー陣はまだ話したことはない。あとイントラ・ムロスとレボティ二。ブラック・ストロボはとても好きだ。2003年のDJヘルの再発で、ドミナトリックス(Dominatrix)の「The Dominatrix Sleeps Tonight」では本当に良いリミックスをしてくれた。

レジスやパウェル、アルノー・レボティーニ(ブラック・ストロボ)のような……、クラブ・カルチャーから来ている音楽のどんなところが好きですか?

SA:時間があるときはできるだけ多くのアーティストを聴くようにしている。クラブの世界は、いま起きている新しいことがアーティストやDJのあいだで回転しているんだ。実際、同じように聴こえるものばかりだし、面白いと思えるモノはたいしてないんだが……。そう考えると、次々と押し寄せる流行の波のなかで生き抜いているレジスはタフだ。彼はまた上昇している。ニーチェが呼ぶ「超人」のように働いている。
 僕は、テクノと密接な関係にある。やっている音楽はミニマル・ミュージックでもある。他のアーティストを見つけるのも、コラボレーションするのも楽しい。新曲でヴォーカルを何曲か録って、アイク・ヤードのマイケルと僕とでザ・セイタン・クリエーチャーと“Sparkle"を共作した。そのときのサミュエル・ケリッジのリミックスはキラーだよ。〈Styles Upon Styles〉からリリースされている。音楽もビートもすごいと思ったから、JBLAのEPもリリースした。自分まわりの友だちと2012年にブリュッセルでジャムして作ったやつで(〈Desire Records〉から現在リリース)、〈L.I.E.S.〉のボス、ロン・モアリとスヴェンガリーゴーストとベーカーのリミックスもある! 最後に収録されているオルファン・スウォーズとのコラボでは、彼らが曲を作って僕が詞を書いた。クラブ・ミュージックと完全に呼べるものは、来年には発表できると思うよ。

とくに印象に残っているギグについて教えてください。

SA:6月にグローバル・ビーツ・フェスティヴァルで見たDrakha Brakha (ウクライナ語で「押す引く」)は良すぎるくらい良かった。キエフのアーティストで、エスノなヴォーカルやヴァイブレーション、オーガニックなサウンド、チェロ、パーカッションが入っている。彼らは自分たちの音楽を「エスノ・カオス」と呼んでいた。
 毎年夏に都市型のフリー・フェスティヴァルがあるが、自分にとってはとても良い経験だ。いつでも発見がある。レジス、ファクトリー・フロア、ヴェッセル、スヴェンガリーゴースト、シャドーラスト、ピート・スワンソン、ヴェロニカ・ヴァシカ……なんかとのクラブ・ナイトを僕もやりたい。

ダーク・アンビエント、インダストリアル・サウンドがもっとも盛り上がっている都市はどこでしょう?

SA:ダーク・アンビエントは、これまでにも多くの秀作がある。アイク・ヤードの4人目のメンバーでもあるフレッド(アイク・ヤードのリミックスEP第2弾でもレコンビナントとして参加)の曲は素晴らしく、『Strom Of Drone』というコンピレーションに収録されいたと思う。
 ドリフトしているドローンが好きだ。たとえば、アトム・ハートの、『Cool Memories』に収録されている曲、トーマス・コナーの『Gobi』と『Nunatak』、プルーリエント、シェイプド・ノイズ、クセナキス、大田高充の作品には深い味わいがある。
 ウィリアム・ギブソンの『ニューロマンサー』に触発されたブラック・レインの『Night City Tokyo』(1994)は、自分たちがイメージする浮遊した世界観をより正確に鮮明に描いていると思う。つまり、ダーク・アンビエントがもっとも盛んなのは、これといった特定の場所というよりも、おそらく僕たちの脳内だ。「ダークネスに対する大衆の欲望を甘く見るな」という台詞は、2012年のUKで話題になった。

東欧には行かれましたか? 

SA:おそらく東ヨーロッパは次のアルバムのタイミングで回るだろう。母親がウクライナのカルパティア人なんだ。コサックがあったところだ。で、僕の父親はドイツ人。母親方が石炭採鉱のファミリーで、ウェスト・ヴァージニアにいて、沿岸部に移り住んでいった。ウクライナ、キエフ、プラハ、ブタペスト、イスタンブールは是非行ってみたい。

日本流通盤には、コールド・ネーム、ジェシー・ルインズ、hanaliなど、日本人プロデューサーのリミックスがダウンロードできます。とくにあなたが気に入ったのは誰のリミックスですか?

SA:コールド・ネームしかまだ聴けてないけど、とても気にっている。

こう何10年もあなたがディストピア・コンセプトにこだわっている理由はなんでしょう?

SA:「ダーク」と考えらている事象を掘り下げるなら、あの頃はストリートが「ダーク」だったかもしれない。1978年のニューヨークは人種問題で荒れていた。その影響もあってダークだったと言えるけど、実際はそんなにダークではなかった。
 1981年にアイク・ヤードのメンバーに「もし電源が落ちて真っ暗になっても、僕たちはそこでも演奏し続ける方法を見つけよう」と伝えた。そのとき得た回答は、自分がロマンティックになることだった。
 自分たちには陰陽がある。暗闇の光を常に持っている。もっともダークだったストリートにおけるそのセンスは、やがて世渡り上手でいるための有効な手段となった。僕は、近未来のディストピアのなかで前向きに生きることを夢見ていなたわけではなかった。シド・ミードは、未来とは、1984年までの『時計仕掛けのオレンジ』、『ブレードランナー』、『エイリアン』、『ターミネーター』と同じように、世界をエンタテイメント化していると認識していた。
 ジョージ・ブッシュの政権に突入したとき、どのように彼がイラク戦争をはじめるか、その口実にアメリカの関心は高まった。彼の親父はサダム・フセインからの脅しを受けていた。が、当時のディストピアは、時代に反応したものではなかった。ヒストリー・チャンネルは『ザ・ダーク・エイジ』や『バーバリアンズ』といったシリーズをはじめたが、母親のウクライナと父親のドイツの血が入っている僕にとって、自分たちがバーバリアンであると信じていた。バーバリアンから来ているオリジナルのゴスに関して言えば、僕にドイツ人の血が流れているか定かではないけど、ドイツにいるときその何かを感じたことはある。自然環境、場所、そしてミステリーの狭間でね。
 2005年から2009年にかけてのディストピアについても言おう。ブラック・レインのベーシストのボーンズと再結成前のスワンズのノーマン・ウェストバーグは、ペイガニズム、アミニズム、ブーディカといったイングランド教、ドルイド教、その他クリスチャンにさせようとするすべての勢力に反した歌詞を根幹とした。新しい「ローマ」がどこで、それが誰であるかを見つけなければならない。そしてそれがいつ崩壊するのかも。

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1981年にアイク・ヤードのメンバーに「もしも電源が落ちて真っ暗になっても、僕たちはそこでも演奏し続ける方法を見つけよう」と伝えた。そのとき得た回答は、自分がロマンティックになることだった。

80年代初頭、あなたはニューヨークとベルリンを往復しましたが、あれから30年後の現在、ニューヨークとベルリンはどのように変わったのでしょうか?

SA:83年の春にベルリンに来たとき、デヴィッド・ボウイとブライアン・イーノによる『ロウ』や『ヒーローズ』の匂いが漂っていた。その2枚は自分にとってとてつもない大きな作品だったから、ワクワクしていたものさ。
 アイク・ヤードのその当時の友だちはマラリア!で、彼女たちは78年に自分が組んだザ・フュータンツのメンバー、マーティン・フィッシャーの友だちでもあった。マラリア!とは、リエゾン・ダンジェルーズ (ベアテ・バルテルはマラリア!の古き友人)と一緒に79年にニューヨークに来たときに出会ったんだ。
 クロイツベルクではリエゾン・ダンジェルーズのクリスロ・ハースのスタジオで何週間か泊まったこともあったよ。まだ彼が使っていたオーバーハイムのシンセサイザーは自分のラックに残っている。
 当時のベルリンは、ブリクサとアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンが全盛期でね。初めて行ったときは幸運にも友だちがいろいろ案内してくれた。マラリア!のスーザン・クーンケがドレスデン・ストリートにあるスタジオで泊まらせてくれたり、ある日みんなで泳ぎに出かけようてなったときにイギー・ポップの彼女、エスターがすぐ上に住んでいることがわかったり……。78年から89年のナイト・クラビングは日記として出したいくらい良いストーリーがたくさんある。 そのときの古き良き西ベルリンは好きだった。いまのベルリンも好きだけどね。 83年以来、何回かニューヨークとベルリンを行き来してる。アイク・ヤードは8月25日にベルリンのコントートでライヴの予定があるよ。
 ニューヨークももちろん変わった。人生において80年代初期の「超」と言える文化的な爆発の一端は、いまでも人種問題に大きな跡を残してる。いまでも面白いやつらが来たり出たりしてるし、これまでもそうだった。女性はとくにすごい……まあ、これもいつだってそうか。音楽もどんどん目まぐるしく展開されて前に進む。
 〈L.I.E.S.〉をやっているロン・モアリは、近所のレコード屋によくいた。リチャード・ヘルとは向かいの14番地の道ばたで偶然会ったりする。
 しかし、ときが経つと、近所に誰がいるとか、状況がわからなくなってくるものだ。友だちも引っ越したり、家族を持ったりする。僕はイースト・ヴィレッジの北部にあるナイスなアパートに住んでいる。隔離されていて、とても静かだから仕事がしやすい。2012年のツアーではヨーロッパの20都市くらい回って、そのときはいろんな場所に住んだり、仕事もしてるが、ニューヨークがずっと僕の拠点だ。

最近のあなたにインスピレーションを与えた小説、映画などがあったら教えてください。

SA:以前も話したけど、僕のルーツは、J.G.バラード、P.K.ディック、ウィリアム・ギブソンだ。ワシントンDC郊外の高校に在籍していた多感な少年時代には、ウィリアム・バロウズの影響も大きかった。あとスタンリー・キューブリックだな。ドミナトリックスをやっていた頃の話だけど、1984年にワーナーにで会ったルビー・メリヤに「ソルジャー役で映画に出てみないか」と誘われたことがあった。フューチャリスティックな映画だったら良かったが、現代の戦争映画で自分が役を演じているという姿が想像つかなかった。が、しかし、その後、彼女は『フルメタル・ジャケット』のキャスティングをしていたってことがわかった(笑)。
 日本の映画では怪談モノが好きだし、黒澤明、今村昌平、若松孝二、鉄男、石井岳龍、森本晃司、大友克洋、アキラ、ネオ・トーキョー、川尻善昭『走る男』……なんかも好きだ。いまはK.W.ジーターとパオロ・バチガルピが気に入っている。
 ブラック・レインのアルバムでは、ふたつのサイエンス・フィクションが元になっていて、K.W.ジーター(P.K.ディックの弟子で、スター・トレックも含む多くの続編小説を生んだ作家)の『ブレード・ランナー2 :エッジ・オブ・ヒューマン』(1996)の小説。もうひとつはパオロ・バチガルピの『ザ・ウィンド・アップ・ガール』(2010)からのエミコの世界に出て来る新人類。
 いまちょうど著者のエヴァン・カルダー・ウィリアムスと、「今」を多次元のリアリティと様々な渦巻く陰謀を論じる新しい本と音楽のプロジェクトを書いている。
 もうひとつの本も進行中で、2000年頃から10年以上かけてロンドンのカルチャー・サイト、ディセンサスを取り入れてる。このスタイルの情報に基づいた書き方は、イニス・モード(意味を探さしたり、断定しないで大まかにスキャニングする)とジョン・ブラナー(『Stand On Zanzibar』、『Shockwave Rider』、『The Sheep Look Up』)に呼ばれている。ブラナーの『Stand On...』は、とくにウィリアム・ギブソンに影響を与えているようにも見えるね。

アイク・ヤードないしはあなた自身の今後の活動について話してください。

SA:早くアイク・ヤードの新しいEPを終わらせたい。新しい4曲はいまの自分たちを表している。そしてアルバムを終わらせること。『Nord』以降はメンバーが離ればなれで、みんな忙しいからなかなか進まなかった。
 次のアルバムは『Rejoy』と呼んでいる。日本の広告、日本語、英語を混ぜ合わせた言語で、アイク・ヤードにとっての新境地だ。ある楽曲では過去に作った歌詞も使われている。ケニーや僕のヴォーカルだけではなく、いろんなヴォーカルとも作業してる。アイク・ヤードのモードを変えてくれるかもしれない。
 また、新しいアルバムでは、ふたりの女性ヴォーカルがいる。日本のライヴの後、3人目ともレコーディングをする。そのなかのひとりは、エリカ・ベレという92年のブードゥー・プロジェクトで一緒になった人だ(日本ではヴィデオ・ドラッグ・シリーズの一部『ヴィデオ・ブードゥー』として知られている)。エリカは、昔はマドンナとも共演しているし、元々はダンサーだった。最初のリハーサルはマイケル・ギラ (スワンズ)と一緒でビックリしたね。
 新しいアルバムができた後は(EPは上手くいけば今年の終わりに〈Desire Records〉から、アルバムは来年以降)、「Night After Night」の再発にリミックスを付けて出そうかと思っている。ライヴ・アルバムもやりたい。
 あとは初期のブラック・レイン、ドミナトリックス、デスコメット・クルーのリリースも考えたい。サウンドトラックのコンピレーションも出るかもしれない。新しいテクノロジーを使いながら、新しいバンドも次のイヴェント、ホリゾンでやろうかとも思ってる。いまは何よりも日本でのライヴが楽しみだ。


※野外フェスティヴァル「rural 2014」にてアイク・ヤード、待望の初来日ライヴ! (レジスも同時出演!)

■rural 2014

7月19日(土)午前10時開場/正午開演
7月21日(月・祝日)正午終演/午後3時閉場 [2泊3日]
※7月18日(金)午後9時開場/午後10時開演 から前夜祭開催(入場料 2,000円 別途必要)

【会場】
マウンテンパーク津南(住所:新潟県津南町上郷上田甲1745-1)
https://www.manpaku.com/page_tour/index.html

【料金】
前売 3日通し券 12,000円
*販売期間:2014年5月16日(金)〜7月18日(金)
*オンライン販売:clubberia / Resident Advisor / disk union 及び rural website ( https://www.rural-jp.com/tickets/
*店頭販売:disk union(渋谷/新宿/下北沢/町田/吉祥寺/柏/千葉)/ テクニーク
*規定枚数に達しましたら当日券(15,000円)の販売はございません。

駐車料金(1台)2,000円
*当日エントランスでお支払いただきます。

テント料金(1張)2,000円
*当日エントランスでお支払いただきます。タープにもテント代金が必要になります。

前夜祭入場料(1人)2,000円
*当日エントランスでお支払いただきます。前夜祭だけのご参加はできません。



【出演】
〈OPEN AIR STAGE〉
Abdulla Rashim(Prologue/Northern Electronics/ARR) [LIVE]
AOKI takamasa(Raster-Noton/op.disc) [LIVE]
Benjamin Fehr(catenaccio records) [DJ]
Black Rain(ブラッケスト・エヴァー・ブラック) [LIVE]
Claudio PRC(Prologue) [DJ]
DJ NOBU(Future Terror/Bitta) [DJ]
DJ Skirt(Horizontal Ground/Semantica) [DJ]
Gonno(WC/Merkur/International Feel) [DJ]
Hubble(Sleep is commercial/Archipel) [LIVE]
Ike Yard(Desire) [LIVE]
Plaster(Stroboscopic Artefacts/Touchin'Bass/Kvitnu) [LIVE&DJ]
Positive Centre (Our Circula Sound) [LIVE]
REGIS(Downwards/Jealous God) [LIVE]
Samuel Kerridge(Downwards/Horizontal Ground) [LIVE]
Shawn O'Sullivan(Avian/L.I.E.S/The Corner) [DJ]

〈INDOOR STAGE〉
Abdulla Rashim(Prologue/Northern Electronics/ARR) [DJ]
AIDA(Copernicus/Factory) [DJ]
Ametsub [DJ]
asyl cahier(LSI Dream/FOULE) [DJ]
BOB ROGUE(Wiggle Room/Real Grooves) [LIVE]
BRUNA(VETA/A1S) [DJ]
Chris SSG(mnml ssg) [DJ]
circus(FANG/torus) [DJ]
David Dicembre(RA Japan) [DJ]
DJ YAZI(Black Terror/Twin Peaks) [DJ]
ENA(7even/Samurai Horo) [DJ]
GATE(from Nagoya) [LIVE]
Haruka(Future Terror/Twin Peaks) [DJ]
Kakiuchi(invisible/tanze) [DJ]
KOBA(form.) [DJ]
KO UMEHARA(-kikyu-) [DJ]
Matsusaka Daisuke(off-Tone) [DJ]
Naoki(addictedloop/from Niigata) [DJ]
NEHAN(FANG) [DJ]
'NOV' [DJ]
OCCA(SYNC/from Sapporo) [DJ]
OZMZO aka Sammy [DJ]
Qmico(olso/FOULE) [DJ]
raudica [LIVE]
sali (Nocturne/FOULE) [DJ]
SECO aka hiro3254(addictedloop) [DJ]
shimano(manosu) [DJ]
TAKAHASHI(VETA) [DJ]
Tasoko(from Okinawa) [DJ]
Tatsuoki(Broad/FBWC) [DJ]
TEANT(m.o.p.h delight/illU PHOTO) [DJ]
Wata Igarashi(DRONE) [Live&DJ Hybrid set]

< PRE PARTY >
Hubble (Sleep is commercial/Archipel) [DJ]
Benjamin Fehr (catenaccio records) [DJ]
kohei (tresur) [DJ]
KO-JAX [DJ]
NAO (addictedloop) [DJ]
YOSHIKI (op.disc/HiBRiDa) [DJ]

〈ruralとは…?〉
2009年にはじまった「rural」は、アーティストを選び抜く審美眼と自由な雰囲気作りによって、コアな音楽好きの間で徐々に認知度を上げ、2011年&2012年には「クラベリア」にて2年連続でフェスTOP20にランクイン。これまでにBasic Channel / Rhythm & Sound の Mark Ernestusをはじめ、DJ Pete aka Substance、Cio D'Or、Hubble、Milton Bradley、Brando Lupi、NESS、RØDHÅD、Claudio PRC、Cezar、Dino Sabatini、Sleeparchive、TR-101、Vladislav Delayなどテクノ、ミニマル、ダブ界のアンダーグラウンドなアーティストを来日させ、毎年来場者から賞賛を集めている野外パーティです。小規模・少人数でイベントを開催させることで、そのアンダーグラウンド・ポリシーを守り続けています。
https://www.rural-jp.com

Kroutrock - ele-king

 眠たい目をこすりながら、いまTVの前で起きていることは幻覚じゃないかとブラジルVSドイツ戦を見ていた方も多いかと思われますが、ドイツって、憎ったらしいほど強いですね。
 さて、これはサッカーとはまったく関係の話です(日本時間の14日の朝が決勝なんですけどね……)。好評発売中の『クラウトロック大全』ですが、7月15日(火曜日)、DOMMUNEにて番組が決まりました。当日は、小柳カヲル氏が、貴重盤やレア音源をかけてくれるかも!? ぜひ、実写版クラウトロックにチューンインしてください。

7月15日(火曜日) 19:00~21:00
ele-kingTV ♯27 / 実写版「クラウトロック大全」
出演:小柳カヲル、赤石順子、野田努

ポスト・ドリーム・ポップの時代 - ele-king

「LAビート・シーンの鬼っ子」──フライング・ロータスに見初められ、年若くして〈ロウ・エンド・セオリー〉のレギュラー・パフォーマーとなり、間髪を入れず名門〈アンチコン〉からデビュー・アルバム『セルリアン』を発表したビート・メイカー、バス。アンファン・テリブルを地で行く彼はしかし、デビュー作から5年ほどの時間を経て、そのほとばしるエネルギーとエモーションのままに当初のアーティスト・モデルを大きく更新した。いまのバスは、ビートメイカーと呼ぶにはあまりに逸脱的な要素をあふれさせた存在だ。そしてセカンド・アルバム『オブシディアン』(2013年)制作期間中に重く患った経験は、バスの音をセルリアンから漆黒へと変え、わがままに愛くるしく錯綜しながら天を駆け回っていたビートメイキングを地の底へと叩き落とした。
しかしプロデューサーとしての充実はとどまることがない。落ち着くことなくより多くを求め、より切実に歌われる楽曲の数々に、バスのセカンド・ステージ──黒の時代のはじまりを垣間見たのが『オブシディアン』。そしてこのたびリリースされる『オーシャン・デス』は、その続編にして補遺、完結編ともなるであろうEPだ。本作発売に際して、ここまでのバスの歩みをディスク・レヴューで振り返ってみよう。

Cerulean
Anticon / Tugboat (2010)

Amazon Tower HMV iTunes

野田努

 バス、つまり「風呂」ことウィル・ウィーセンフェルドは、このアルバムのリリース当時、初来日を果たしてDOMMUNEにも出演した。ピザかなにかのコメディ映画の番組が終わったあとの30分のライヴで、かなりバタバタのセット転換のあとだったが、彼は動揺することなく、サンプラーの前に立つと自分の世界に入り込んだ。そして、音にあわせて、操作のひとつひとつに激しく身体を上下させた。それはじつにエモいライヴ・パフォーマンスで、この男は風呂場の鏡の前でライヴの練習をしていたに違いないと思うほど、動きがいちいち決まっていた。目も耳も惹きつけられ、わずか数分で、会場は彼のものとなった。
 当時、バスの音は、フライング・ロータスとトロ・イ・モワとの溝を埋めるものだと評されていたが、いまあらためて聴くとそのどちらにも近くないことがわかる。手法的には英国のゴールド・パンダに似ているが、バスの音楽はメロディアスで、キャッチーで、歌があり、つまりポップスとして成立しているのだ。

Pop Music / False B-Sides
Tugboat (2011)

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橋元優歩

 2010年のデビュー作『セルリアン』リリース後の音源を中心としたコンピレーション。2011年をツアーにあてて活動していたウィルが、ライヴへ足を運んでくれたファンのためのエクスクルーシヴな音源集として構想し、そもそもは配信でのみリリースされていた作品である。
 その名のとおりBサイドらしいラフな描線の上には、怜悧なセルリアンではなく、暖色系の何色かが柔らかく浮かび上がっている。思春期らしい攻撃性を持ったあの天衣無縫のビートメイクは、ここでは気まぐれに、愛らしく、遊びつかれて眠るように、カジュアルな隙を生み出している。かつてとは体制が異なっているものの、〈アンチコン〉が狭義のヒップホップではなく、エモやうたものとの縁を深く持った、じつにUSインディ的な良質レーベルだということを思い出させる。
 構築性における隙とともに、アコースティックな音づかいやラフなプロダクションもバスならではのビート・コンプレックスに空間的な広がりを与えていると言えるだろう。「フォールス」のニュアンスがしかとはつかめないが、それはBサイドの逆説として結像するものかもしれない。「B」という名の本物──ウィル自身も愛さずにはいられない、バスの偽りなきもう片面に光を当ててみせるコンピレーションである。

Obsidian
Anticon / Tugboat (2013)

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竹内正太郎

 暗い日曜日に、礼拝堂でウィッチハウスを聴きながらルイ=フェルディナン・セリーヌを読むようなもの、とでも言えばいいのだろうか。暗いといえば暗い。が、本人はそれを望んでさえいるのだろう。『夜の果てへの旅』よろしく、「生命の実感を味わうための身を切るような悲しみ」を探し求めるセカイの遭難者、というわけだ。そう、前作『セルリアン』は、LAビート・シーンとの照応を見せつけた広義のチルウェイヴと呼ぶべき何かだったが、この『オブシディアン』からはヒップホップ臭さやチルウェイヴ的なある種の軽さは後退し、あのホーリーなコーラスはストリングスやピアノなどのエレガントな調べの中で生まれ変わっている。ザ・ポスタル・サーヴィスのロングセラー、『ギヴ・アップ』にウィッチハウスのシャワーを浴びせてインダストリアルな加工を施したような何か、と言ってもいいかもしれない。LAビート・シーンの先達がこの期待株に望んだ方向性ではなかったかもしれないが、“アイアンワークス”や“インコンパーチブル”といった曲に耳を傾ければ、メインのビートの他に微細な凝ったビート(本人いわく「石を投げたり、それが欠けたりする音」)が脈打っているのがわかるだろう。グリッチも随所で利いている。他方、“マイアズマ・スカイ”はいつかのホット・チップを思わせるダンス・ナンバー、“ノー・アイズ”はパッション・ピットを思わせるシンセ・ポップに仕上がっており、すでにローカルなシーン語りの一部にしてしまっては窮屈な領域に向かっているのでは。

Pixies - Indie Cindy

Baths - Ocean Death EP
Anticon / Tugboat (2014)

木津 毅

セカンド・フル『オブシディアン』収録の“アース・デス”に対応しているであろうタイトルを持った5曲入りEP。「きみの身体を僕の墓場に埋めて(“オーシャン・デス”)」……アルバムから変わらず、死のイメージが抜き差しならないリレーションシップへの欲求と重なっている。 …つづきを読む


Baths - ele-king

 表題曲の“オーシャン・デス”、「海の死」はミニマル・テクノ……いやハウスだ。ダークな低音、キックのストイックな反復にじょじょに重なっていく女性ヴォーカルはエレガントでセクシー。ゾクゾクするほどスリリングなダンス・トラックでこのEPは幕を開ける。が、耳がどうしても追ってしまうのはその奥で聞こえるノイズというには何やらクリーンで微細な音の粒子、そのざわめきである。バスがよく使用する雨音のサンプリングもあるだろうか、さわさわ、プチプチ、チャプチャプ……というような。そして、2分半過ぎにやってくる波の音。ここでジャケットをじっくり眺めたい。どこか終末もののSF映画を思わせるような不可侵な佇まいの「世界」がそこにはあり、そしてそれはバスのインナーワールドそのものである。IDMをハウス化したフォー・テット『ゼア・イズ・ラヴ・イン・ユー』(2010年)がある流れを決定づけたことをいま改めて思う。その先で鳴っている“オーシャン・デス”はたしかにフロア受けするだろうビート・ミュージックでありながら、そこでひそかに息をしている小さく繊細な音たちを見つけることこそがバスを聴くことなのだと思う。

 『オブシディアン』収録の“アース・デス”に対応しているであろうタイトルを持った5曲入りEP。その“アース・デス”、「地球の死」にはあった地面に身体を叩きつけるような烈しさと比べてみると明らかだが、全体としてより洗練されたムーディなメランコリアが聴ける。アンニュイなピアノ・バラッドにリニアなリズムが入ってくる2曲め“フェイド・ホワイト”のオーガニックな質感の演奏にはもはや「LAビート・シーンの」という枕がよけいなものに思えてくる。『セルリアン』を思わせる聖性を帯びたハーモニーに溢れたアンビエント・ポップ“ヴォイヤー”、もっとも素朴な歌が込められた残響音が重なり合うようなシンセ・ポップ“オレター”、それらは表題曲に比べれば控えめだが先の2枚で試みたことからの断絶はなく、しっかりと磨き上げられている。

 「きみの身体を僕の墓場に埋めて(“オーシャン・デス”)」……相変わらず、死のイメージが抜き差しならないリレーションシップへの欲求と重なっていることも見逃せない。「太陽が消滅したところできみを待っている」だなんていちいちモチーフが大仰だし(セカイ系……と言うべきなのか)、「僕はべつにきみを愛してはいない、愛してはいない」と繰り返さねばならない切実さが胸を刺す。バスの作る音には内向的な青年の内側でざわめくエモーションが流れ出ていて、それが烈しく噴出したのが『オブシディアン』だったとすれば、この『オーシャン・デス』ではその狂おしさのなかを心地よく浮かぶようだ。そしてそうした思春期的なモチーフ、ナイーヴでフラジャイルな愛の歌というのは、バスが関わっているようなヒップホップやIDM周辺のビート・ミュージックではかつては立ち現れにくいものだったように思うが、たとえばライアン・ヘムズワースやノサッジ・シングなどを並べてみると共通のムードがぼんやりと浮かんでくる。きわめてパーソナルなバスの表現における現代性はそこだろう。

 ラストのバラッド“ヨーン”はそうした意味でも、サウンド面でも、非常にバスらしさが自然に湧き出た美しい佳曲だ。柔らかなタッチのピアノ、カリカリ、ガリガリと左右に動くプログラミング、降り注ぐコーラスと、その狭間を転がるような小さな音の粒、そして愛の意味を問うナイーヴで正直な歌声。だがその最後で描かれるのはバスのセカイではない。か弱そうな青年がそこで、その外側の世界を静かに見ていることが何やら予感めいていて、ドキリとさせられるのだ――「まるで永遠に移り行く樫の木のように、世界はあくびをして 前に進んでいく」。

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