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野田 努 Nov 15,2013 UP

 これはブリストル・トリップホップの最新型ですよ。マッシヴ・アタックが、トリッキーが、ポーティスヘッドが、ブリストルのミームが新世代によってアップデートしている。ひとつのコレクティヴにいろいろな才能が集結しているという点では、ワイルド・バンチ/マッシヴ・アタックの現代版と言えばいいのかもしれないけれど、とにかくヤング・エコーときたら、複数のメンバーによる多様な個性が絡み合い、まったく素晴らしい混乱を創造する。アルバムには、ダブステップ、グライム、〈トライ・アングル〉系の薄気味悪さ、インダストリアル・ミニマルの陶酔からダーク・アンビエントにいたるまで、ここ数年のアンダーグラウンド・ミュージックの良いところを全部持っていっている。もちろんブリストルらしくダブもある。過去を受け継ぎながらリフォームし、躍進する。さまざまなフォームが混ざっているので、間口は広い。
 そして、ハイならずにハイになる、ステイ・ロウの美学も……。景気後退を受けながら、『NME』はキング・クルエルのレヴューに次のような言葉を書いている。「先細りする雇用と増える負債の、UKの緊縮財務下で育った幻滅した世代がいる。怒るのは簡単だし、悲しむのはさらに簡単だ」
 ただ闇雲に悲しみを表現されるだけでは満足できないというリスナーの心情をここに読み取るのなら、ヤング・エコーの『ネクサス』には怒りでも悲しみでもない何か別の感情がギシギシ音を立てていると言えるかもしれない。いや、しかし、やはりこれは怒りだろう。かつてジャーヴス・コッカーは、ブレア政権を「コカイン社会主義」なんて言葉で揶揄したものだが、この音楽はどう考えても、多幸的で、イケイケで、アッパーな文化に対する一種の抗いだと思える。敢えて叫んだり、怒鳴ったりしない、それがブリストル・トリップホップのマナーというものだろう。

 ヤング・エコーは、昨年〈トライ・アングル〉からアルバムを出したヴェッセル(Vessel)、ヴェッセルとともにキリング・サウンドとしても活動するジャブ(Jabu)、メンバーのなかでもっとも多作で〈ディープ・メディ〉からも作品を出しているカーン(Kahn)、ペヴの〈パンチ・ドランク〉から出しているズー(Zhou)、注目レーベル〈Peng Sound〉から出しているイシャン・サウンド(Ishan Sound)らがメンバーにいる。ヴェッセルはテクノよりで、ジャブはダブより、カーンはグライムよりだったり、同じポッセながら個々の作風は違っている。詳しく知りたい方は、下北沢ZEROの飯島店長に訊いて下さい。僕も2年前に店長に薦められてヴェッセルの1枚目を買ったのが最初だったけれど、この2年のあいだにこのコレクティヴはさまざまな掛け合わせを繰り返しながらとんでもない発展を遂げていたのだ。
 ロール・ディープ・クルーのフローダウンも参加しているカーンの2枚組12インチ「カーンEP」(DLコード入り)は、トリッキーの最高の瞬間を受け継いでいるように思える(https://soundcloud.com/blackbox-boxclever/kahn-snake-eyes-feat-jabu/s-na48b)。ジャブの7インチは、マッシヴ・アタックの美学がポスト・ダブステップにおいて展開されている。いったい、何がどうしてこうなったのか、次号の紙エレキングでは、小特集を組む予定。ブリストルのニュー・スクール、いま注目すべきシーンのひとつではないだろうか。

野田 努