MOST READ

  1. JJJ - HIKARI (review)
  2. 「いややこややEP」リリース記念 ──特別対談:DJヨーグルト×下津光史(踊ってばかりの国) (news)
  3. interview with tofubeats インターネットの憂鬱 (interviews)
  4. interview with !!! (Nic Offer) 大バカの能無しにファック! でもそれは答えじゃない (interviews)
  5. Columns 追悼:KAGAMI - (columns)
  6. Jane Weaver - Modern Kosmology (review)
  7. HIP HOP definitive 1974-2017 ──『ヒップホップ・ディフィニティヴ 1974-2017』刊行のお知らせ (news)
  8. yahyel - ──この一風変わった名前のバンドをきみはもう知っているか? ヤイエルが500枚限定の初CD作品をリリース (news)
  9. Jesse Kanda ──ジェシー・カンダによるサウンド&アート・インスタレーションが開催 (news)
  10. YPY - 2020 (review)
  11. 映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ - (review)
  12. Wayne Snow - Freedom TV (review)
  13. リヴァイヴァルじゃないのだ。 - ──行かないと何かを逃すかもしれない、DYGL(デイグロー)・ジャパン・ツアーは明日から! (news)
  14. KANDYTOWN - ──キャンディタウンがついにメジャー・デビュー (news)
  15. interview with IO - KoolBoyの美学 (interviews)
  16. Moan - Shapeless Shapes (review)
  17. ブレイディみかこ──新刊『いまモリッシーを聴くということ』、いよいよ刊行します! (news)
  18. Burial ──ブリアルがニュー・シングルをリリース (news)
  19. YOUNG JUJU - ──キャンディタウンからもうひとりの刺客、ヤング・ジュジュ (news)
  20. 能地祐子×萩原健太「米国音楽好きのためのクラシック音楽入門」 (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Sam Kidel- Disruptive Muzak

Album Reviews

Sam Kidel

AmbientMusique ConcrèteVaporwave

Sam Kidel

Disruptive Muzak

The Death Of Rave

野田努   Jul 07,2016 UP
このエントリーをはてなブックマークに追加

 彼・彼女は受話器を取ると途端に声が変わる。感情はない。ただはっきりと明快に「もしもし」は繰り返される。その声の丁寧さ、礼儀正しさ、明朗さ、そして感情の無さは、ぼくたちの生活の一部であり、文明の一部であり、古代にはなかったものである。
 「もしもし」はそして、考えてみれば異様な声だ。当たり前すぎて考えたこともなかったが、ブリストルのヤング・エコー・クルーのひとり、El Kidのソロ・アルバムでは、A面いっぱいに、24分間も「もしもし(hello)」「〜をうけたまわりました」などなど白々しい電話の声が続く。企業のコールセンターに電話する(あるいは一方的にされる)。「もしもし」「のちほどおかけください」「がちゃん」「ピー」「……」。機械よりも機械的な声が続く。そして、この声に、ヴェイパーウェイヴが再利用した使い捨てのBGMがミックスされる。レストランやエレヴェーターなど商用施設のための音楽(ミューザック)が。

 〝分裂するミューザック〟と題された本作の淋しさ、人気の無さは、一聴に値する。通信ネットワークに繋がれた空間の寒々しさ。ぼくたちの生活の一部であり、文明の一部であり、アンビエントなのだ。このコンセプチュアルなアルバムは、明らかに、2年前までがゴシック/インダストリアルなどと括っていたもの、たとえば〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉のようなものとヴェイパーウェイヴとの結合である。そう、吸血鬼によって魂は吸い取られたというわけだが、その場所が丘の上の古城でも夜の墓場でもないことをこのアートワークは教えてくれる。
 B面はその「もしもし」=声を消したミューザックで、このように書くとたったそれだけかよと損した気になるのだが、作者であるSam Kidel は、「もしもし」なしでもこの音楽が面白いことを証明したかったのだろう。たしかに面白い。最後まで聴く気にさせるし、メランコリックであることはたしだが、しかし、この音楽からブリストルという記号は聴こえてこない。

野田努