ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with COM.A パンク・ミーツ・IDM! (interviews)
  2. Tenderlonious - The Piccolo - Tender Plays Tubby / Tenderlonious - Tender in Lahore (review)
  3. Sun Araw ──サン・アロウ『ロック経典』の日本盤が登場 (news)
  4. Kevin Richard Martin - Frequencies for Leaving Earth - Vol​.​1 / Kevin Richard Martin - Frequencies for Leaving Earth - Vol​.​2 / Kevin Richard Martin - Frequencies for Leaving Earth - Vol​.​3 (review)
  5. interview with Trickfinger (John Frusciante) ジョン・フルシアンテ、テクノを語りまくる (interviews)
  6. John Carroll Kirby ──LAの鍵盤奏者ジョン・キャロル・カービーが奏でるアンビエント・ジャズ、〈Stones Throw〉より (news)
  7. R.I.P.:エンニオ・モリコーネ (news)
  8. interview with Julianna Barwick 聞きたくない声は、怒りのラップ、怒りのメタル。“グォォォーッ”みたいなやつ (interviews)
  9. すずえり - Fata Morgana (review)
  10. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第11回 町外れの幽霊たち (columns)
  11. Run The Jewels ラン・ザ・ジュエルズは何がすごいのか (interviews)
  12. Moodymann - Take Away (review)
  13. Hiroshi Yoshimura ──入手困難だった吉村弘の1986年作『Green』がリイシュー (news)
  14. Jun Togawa──戸川純がまさかのユーチューバーになった! (news)
  15. interview with Wool & The Pants 東京の底から (interviews)
  16. Politics 都知事選直前座談会 「今回の都知事選、どう見ればいいか」 (columns)
  17. interview with KANDYTOWN 俺らのライフが止まることはないし、そのつもりで街を歩く (interviews)
  18. Speaker Music - Black Nationalist Sonic Weaponry (review)
  19. interview with BORIS 往復するノイズ (interviews)
  20. Boris ──世界的に評価の高いヘヴィロック・バンド、ボリスが完全自主制作による新作をリリース (news)

Home >  Reviews >  Album Reviews > Sam Kidel- Disruptive Muzak

Sam Kidel

AmbientMusique ConcrèteVaporwave

Sam Kidel

Disruptive Muzak

The Death Of Rave

野田努   Jul 07,2016 UP
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 彼・彼女は受話器を取ると途端に声が変わる。感情はない。ただはっきりと明快に「もしもし」は繰り返される。その声の丁寧さ、礼儀正しさ、明朗さ、そして感情の無さは、ぼくたちの生活の一部であり、文明の一部であり、古代にはなかったものである。
 「もしもし」はそして、考えてみれば異様な声だ。当たり前すぎて考えたこともなかったが、ブリストルのヤング・エコー・クルーのひとり、El Kidのソロ・アルバムでは、A面いっぱいに、24分間も「もしもし(hello)」「〜をうけたまわりました」などなど白々しい電話の声が続く。企業のコールセンターに電話する(あるいは一方的にされる)。「もしもし」「のちほどおかけください」「がちゃん」「ピー」「……」。機械よりも機械的な声が続く。そして、この声に、ヴェイパーウェイヴが再利用した使い捨てのBGMがミックスされる。レストランやエレヴェーターなど商用施設のための音楽(ミューザック)が。

 〝分裂するミューザック〟と題された本作の淋しさ、人気の無さは、一聴に値する。通信ネットワークに繋がれた空間の寒々しさ。ぼくたちの生活の一部であり、文明の一部であり、アンビエントなのだ。このコンセプチュアルなアルバムは、明らかに、2年前までがゴシック/インダストリアルなどと括っていたもの、たとえば〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉のようなものとヴェイパーウェイヴとの結合である。そう、吸血鬼によって魂は吸い取られたというわけだが、その場所が丘の上の古城でも夜の墓場でもないことをこのアートワークは教えてくれる。
 B面はその「もしもし」=声を消したミューザックで、このように書くとたったそれだけかよと損した気になるのだが、作者であるSam Kidel は、「もしもし」なしでもこの音楽が面白いことを証明したかったのだろう。たしかに面白い。最後まで聴く気にさせるし、メランコリックであることはたしだが、しかし、この音楽からブリストルという記号は聴こえてこない。

野田努