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ディアフーフ
ディアフーフ vs イーヴィル

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 『ディアフーフVS.イーヴィル』は、ディアフーフにとって10作目のアルバムとなる。驚くべきことに、キャリアはすでに16年。『アップル・オー』からの印象が強いためか、ディアフーフといえば2000年代のインディ・シーンを支えてきたバンドだというイメージがあるかもしれないが、彼らは実際のところ90年代組だ。しかしたとえば、昨年20年のキャリアを持つスーパーチャンクの新作が長年のファン層をメインに温かく迎え入れられたこととは好対照に、本作は2011年の作品として、あたかも新人バンドであるかのような緊張感を持って聴かれるはずだ。「新人バンド」とは言い過ぎだろうか。成熟した彼らの音には、シーンを彩る若きローファイ勢を蹴散らされかねない横綱相撲の風格があるのだから。それでもそう呼びたくなるのは、ディアフーフが頑固にトレンドから距離をおき、ひとつひとつの作品がつねに新しくあるように自らのオリジナリティを深めているからだ。今作もじつに刺激的で、かつストレート。まさにオンリー・ワンな存在感を見せつけている。
 
 2010年の暮れまで1年余りの短い帰国生活を送っていたヴォーカルのマツザキ・サトミ氏に取材することができた。氏はディアフーフのその強烈な個性を大きく担っているばかりではなく、世界で活躍する日本人女性としても非常にリスペクタブルな存在である。彼女自身が始祖ともいえる平板でチャイルド・ライクなヴォーカル・スタイルには、音としても姿勢としてもマッチョイズムに対する批評を感じるし、その意味では古巣である〈キル・ロック・スターズ〉が持つライオット・ガール的な表現を、彼女たちと真逆の方法で示しているとも言えるだろう。
 さらにそこには、敗戦からのモチーフである「大人になれない日本」というイメージもどこかで重ねられているのではないだろうか。奈良美智氏の絵画や村上隆氏が戦略的に用いているアニメ的表現と共通する問題を、世界は「サトミ・マツザキ」の中にも求めている......女性として、また敗戦国側の人間として、彼女の歌は強い外部性として機能するはずだというのが筆者の推論である。本インタヴューでは、アルバム制作の背景についてもさることながら、マツザキ・サトミという無二のヴォーカリストが帯びるそうした記号性にも迫りたい。
 ......と意気込んだが、質問は非常に鋭くかわされてしまい、むしろ客観的な日本評を突きつけられる形となった。結果として氏の軽やかでシャープな知性をビシビシと感じられるテキストになっていると思います。ご堪能ください!

2000年......一生懸命ディアフーフをやっていたので、あっという間に過ぎましたね。曲つくってアルバム出してツアーして、『アップル・オー』くらいは毎年出してますよね、ツアー行きながら録音してて。レディオヘッドのオープニングやってるときなんて楽屋でミックスしてました!

今回の作品が10作目で、キャリアも16年とすごく長い活動をされているわけですよね。でも90年代半ばくらいから活動を続けているバンドだと、普通は「アガリ」感が出てしまって、新作が出ても昔からのファンが買うだけだったり、話題にはなるけど若い人が買わないといったことになりがちですが......

サトミ:「アガリ」って、「お茶があがる」とかの「アガリ」......?

すごろくでゴールにたどりつくとか、「一丁あがり」とかの「アガリ」です。

サトミ:ああ、そっちの。はい。

はい。ですが、ディアフーフの新作を聴かせていただいたんですが、もうほんとに現役感があるというか......

野田:現役だよ!

はは。なんというか、ほんとの意味での現役感というか、若いバンドに与える緊張感が大きいと思いました。昔からのファンが、ファンだから聴くとかいう感じじゃなくて、作品として今に訴える鋭さがあり、若いアーティストもリアルなライヴァルとして聴く、というか。今作についてあらかじめこうしようというコンセプトや方向性というのはあったのでしょうか。

野田:10作目って感じがしないもんねえ。

サトミ:ええと、今作は16年目ということで「スウィート・シックスティーン」というコンセプトでつくったんですね。「16歳」っていうイメージは、カラフルで、ポップで、反抗的で、ちょっとひねくれてて......っていうものです。すごく複雑な心境が16歳にはあるから、そこからイメージをふくらませていったら、エレクトロで、キャッチーで展開が速くて、流れる感じになりました。あとアルバムも短くなって。16歳だからアテンションも短い。

大作、という感じではなくて、勢いを大事にしたような感じでしょうか。

サトミ:うーん、「大作」って、べつに大袈裟でなくてもいいと思うんですけど。やっぱり16歳って考えてることがどんどんどんどん変わっていきますよね、いま話してたと思ったら次の人がもう全然違う話してたりっていう。あとはスーパー・ヒーローとか、ゲーム感とか、エキサイティングで落ち着きがないものを作っていったら、今作ができあがってました。

たしかに、たとえば『レヴェリ』とかと違って、すごく実験的でめまぐるしい展開があってという作風ではなくて、すごく疾走感のある、前に前に駈けてるような印象の曲があったりします。たとえば6曲目("スーパー・デューパー・レスキュー・ヘッズ")とか。2曲目("ビホールド・ア・マーヴェル・イン・ザ・ダークネス")とかもすごく好きです。

野田:僕も好きです。

サトミ:私も"ビホールド・ア・マーヴェル・イン・ザ・ダークネス"好き。なんかこう、アコースティック・ギターの気持ちいいストラミングが流れるようで、さわやか。16歳は元気だけど、瞬発的でたまに疲れちゃうから。たとえば高校の科目とかでも体育のあとに美術のクラスがあって、上り下がりがあって疲れちゃう。それで息抜きの感じで入れたんです。ほんとは20曲くらいあって、めまぐるしく、面白い曲ももっとありました。でも、短いくらいがすごくしっくりきたんですよ。コンセプトに。

ストロングでストレートな力っていうのを感じるアルバムで、その点ですごく愛される作品になると感じました。評価ということとは別に、愛聴されるアルバムってあると思うんですよ。『レヴェリ』とかもすごく好きで素晴らしいアルバムだと思うんですけど、普段よーく聴くかっていうとまたちょっと違って。この作品はほんとによく聴くことになるだろうなあと思いました。

サトミ:バンド自体が同じことを繰り返したくないっていうのと、他のバンドを例に挙げるとキャリアが長ければ長いほど、ファンが前のヒット曲に執着しちゃって、ライヴにその曲を聴きにくる場合が多いと思います。アンコールにヒット曲とかを取っておいて、最後にそれをやるからみんなも最後までいる、みたいな感じになりますけど、そういうのは目指してなくて、いつも新しいことをみんなが期待してくれるような、そういうバンドになりたいな。だから過去のアルバムでやったことは次はやらない。新しいことにチャレンジしていくのが常に目標です。

まさにそういう作品だと思います。ご自身で好きな曲はどれですか?

サトミ:私も2曲目("ビホールド・ア・マーヴェル・イン・ザ・ダークネス")です。その曲は最近のツアーでも演奏しています。だから毎日弾いてると、それだけ理解も深まるし、愛着も湧いて。

「理解が深まる」というのは面白いですね。メンバーのひとりひとりがわりとがっちりと曲を作ってくるって聞いたことがあるんですが。

サトミ:だからレコーディングしたときは、みんな初めて聴いたっていう感じになります。「じゃ、こういう進行でハイっどうぞ」みたいな。「ハイっ、Now!」みたいに始まる。そんなふうだから、逆に真っ白な頭のままですね。飛び込んできたままのを、さらっとやります。

それはかなりかっちり曲を作ってあるからということですか?

サトミ:かっちりっていっても、フィーリングとか弾き方とかは、レコーディングしながら何テイクも録って選ぶので、最終的には自分たちでも意外な感じに仕上がることが多いです。「あ、このテイクとあのテイクを採って、繋げた!」みたいな。それで、ライヴをこなしているうちにまたアレンジとかが変わっていきます。それが「(曲への)理解が深まる」っていうことなんでしょうね。

なんか楽譜が売られてたりするって聞いたので。

サトミ:あ、それは前のアルバムですね。どちらにしても、リリース前は誰かがリークするんです。それでリークを防ぐために譜面にしようって。今回のはグローバル・リーキングといって、すでに世界各国で1曲ずつリークされてます。だから全曲フリーでストリーミングできます!

なるほど、では皆さんが楽譜で曲を作って持ち寄っているというわけではないんですね。そうだとしたら変わったバンドだなあと思ったんですが。

サトミ:そういうわけではないですね。メンバー全員アメリカ各地に住んでいるので、mp3を送りあって作っています。「ここはこうした方がいいんじゃない?」って、その度にテキストで打って、また作り直して送りあうっていう感じで。

わりと突発的な印象の曲もあるのに、じつは緻密に作られていたりするのかなと想像しました。

サトミ:ライヴはすごく突発的で、アレンジとかもバラバラに変えたりとかします。けっこうカット・アップした感じで、今回もA-B-A-Bとか決めてなくて、あとでパズルみたいに部分部分を組み合わせたりしてます。

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べつに日本人を意識してなくて、普通ですよ。アメリカってほんとに人種がいっぱいいる国で、日本人だからって持ち上げられることもないです。ディアフーフを好いてくれる人ってオープン・マインドな人が多いんです。だから、アメリカだけに引きこもってる人たちじゃなくて、インターナショナルな音楽に興味がある人たちが多いんで。


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少しお話が変わるのですが、今回〈キル・ロック・スターズ〉から〈ポリヴァイナル〉への移籍には、おもな理由としてはどういったことが挙げられるのでしょうか。

サトミ:〈キル・ロック・スターズ〉はすごく長かったので、いまでもすごくいい関係なんですけど、この前〈ポリヴァイナル〉からL.A.のバスドライバーというラッパーと7インチを出したんです。彼がディアフーフの新作の中の1曲でヴォーカルをやるという企画で。そのときに〈ポリヴァイナル〉の人たちと仲良くなって。前から〈ポリヴァイナル〉からはディアフーフと何かをしたいって言われてました。でもずっと忙しかったせいもあって。今回はいい機会で、一緒にお仕事してすごく楽しかったですし、違うオーディエンスにも聴いてもらえるかな? と思い、移籍しました。

なるほど。

サトミ:すごい似てるんです。ポリシーが。インディ・レーベル同士で、ファミリ―経営で。

イメージとしては〈ポリヴァイナル〉とディアフーフって合っていると思うんですが。オブ・モントリオールとか知的で一癖あるエクスペリメンタル・ポップみたいな。

サトミ:オブ・モントリオールは仲いいんですよ。あとフェスで知り合った、ジャパニーズ・アメリカンのユキさんて人がやってる......

アソビセクス!

サトミ:そう、彼女はニューヨークに住んでて、ジャパニーズ・アメリカンだからアメリカ育ちなんですよ。

へえー、そうなんですか!

サトミ:ユキさんとお話してたら、「いいよー、〈ポリヴァイナル〉。」って教えてくれて。

あ、そうか。ジャパンドロイズとかトクマルシューゴとかもいますね。

サトミ:ジャパンドロイズは知らないな。トクマルくんは最近ですよね。「一緒に移りました」とか言っとこうかな。「トクマルくんが移るから私たちも移りました」って(笑)。

ははは。あとはアロハとかジョーン・オブ・アークとか。ちょっと古いエモ/ポストロックからオブ・モントリオール、そして若いところだとアソビ・セクスやジャパンドロイズ。そのなかにすっとディアフーフは合うのかなと思いました。

サトミ:そうですか。自分たちは合うかな? って思ってたんですが(笑)。

え、そうなんですか(笑)。

サトミ:でも仕事が円滑っていうか、コミュニケーションのレヴェルがすごいんですよ。アイディアを出したら、すぐにそのアイディアを膨らませて返ってくるし、すぐそれを実行してくれるから。日本みたいに、みんながんばって働いてるなあって。

真面目な、きちんとしたレーベルなんですね。ところで、アルバムでいうと『アップル・オー』から以降が、ごく一般的なディアフーフのイメージだと思います。体制も現体制に近いものなのかなと思いますし。だから実際の結成は90年代なかばでも、どちらかというと2000年代のバンド、2000年代のインディ・シーンを充実させ、更新しつづけてきたバンドだと認識しています。それは『ピッチフォーク』などのメディアと相補的な関係で築かれてきたものだとも思うのですが、2000年代というのはサトミさんにとってどのような時代でしたか。

サトミ:そう、もう2000年代終わっちゃったんですね。2000年......ずっとサンフランシスコに住んでいたんですけど、もう、一生懸命ディアフーフをやっていたので、あっという間に過ぎました。あんまり切り替えがないくらい忙しくて。曲つくってアルバム出してツアーして、『アップル・オー』くらいは毎年出してますよね、ツアー行きながら録音してて。レディオヘッドのオープニングやってるときなんて楽屋でミックスしてました!

それは外から作れ作れっていうプレッシャーがあるんじゃなくて、自らのモチベーションでそうなるんですよね?

サトミ:モチベーションもあるし、もう楽屋待っているだけの時間がもったいない!って。ツアーってほとんど移動なので、仕事ができる期間が少なくて、みんなが一緒にいない時間はプライヴェートに過ごしたいし、一緒にいられる時間っていったら移動時間しかない。移動と楽屋。で、すごいがんばってたんですけど、そしたらトム・ヨークも曲作りやってて(笑)。アトムス・フォー・ピース(トムの新ユニット)のやつを隣りの部屋で。「あ、やってる!」って、こっちも負けじとやりました。

ははは。

サトミ:でもやっぱり多いですよ。空いてる時間を有効にって思ってるバンドは。

ではまわりからいろいろ摂取するというよりは、内側から吐き出す、出力するという時間だったんでしょうか。この10年は。

サトミ:まわりからの圧力はなかったのに、自分たちでモチベーションを上げて、レーベルに「はい、これできました。」ってどんどん渡して。インディ・レーベル所属でディアフーフはDIYでプロデュースするので、渡せばすぐリリースしてもらえて、よく知らないのですけれど、メジャー・レーベルみたいにサラリーマン的なやり方じゃなくて自由です。だからインディ・レーベルが好きです。セルフ・マネジメントして、人に動かされないで、自分たちがやりたいようにやって。悪の組織っぽいものに巻き込まれないようにがんばっていきたいです。ディアフーフ対悪!

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その頃のヒッピーたちがサンフランシスコにはまだたくさん残っています。それかすごい若いヒップスターたち。かわいい服来てバーに飲みに行くっていう感じの。ヤッピーとかまわりではひとりも知らないけど、たぶんヤッピーが80パーセント。いまニューヨークとサンフランシスコって家賃が同じくらいの相場です。そのヤッピー化がすごい深刻で、もう引っ越そうって。


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はい。仕事もそうなんですが、サトミさんご自身にとってこの10年の空気ってどんな感じだったんでしょう。たとえばこんなバンドが印象深かったとか、映画でもなんでもいいですし。

サトミ:一緒にツアーしたバンドのことはよくわかるんですけど、私すごい疎いんです。だって、この前初めてジャスティン・ビーバー知ったんです、1週間くらい前。

(一同笑)まあ、私もちゃんと聴いたことないですけどね。

サトミ:みんなにすごい驚かれました。ココロージーの人にもこのあいだ東京でばったり会ったんですけど、名前は知ってたんですけど、音楽は知らなくて。

(笑)ココロージーはけっこう活動長いんですけどね。〈タッチ・アンド・ゴー〉ですよ。

サトミ:そう、すごい疎いんですよ。あんまり自分でサーチとかしなくて、人からもらったりするミックスCDとか聴いて、ああこれいいなあとか思ったり。でも「コンゴトロニクス」は好きで、コノノNO.1とか、友だちと踊りに行ったりしてました。そしたら、偶然、「コンゴトロニクス」のクラムドディスクの方から声がかかって、リミックスをしたりしました。

あ、そうですよね! セールスやツアーとかでは、とくに相性がいい国とかはありますか? やっぱりヨーロッパとか日本になるんでしょうか?

サトミ:この前、初めて東ヨーロッパをツアーしたんですが、それはすごい盛り上がりました。ロシアとかもけっこう行ってて。どうなんだろう。ディアフーフがいちばん受け入れられないなって感じるのは、イタリアですね。

はははは! そうなんですか?

サトミ:それはメンバー全員一致でそう。受けないんですよね。なんかポスト・ロックとかが好きな土地みたいで、すごくかっちりしたバンドが受けるみたいなんですね。すごくテクニカルなものが。ディアフーフって、全部がゆるく流れるような大っきい動きだから。あと、なんか冗談とかもたぶんちょっと違うんだと思う。国民性っていうかツボみたいなものが。ちょっと残念なんですけどね、イタリア大好きなのに!

それはオーディエンスの感じから伝わるんですか。

サトミ:そうですね。熱いお客さんはいるんですけど、もう行くことないかも。

へえー。サトミさんの、そういう佇まいというか、サトミさんというモデルの影響力はすごく大きいと思うんです。ノイズ・ロックと日本人女性の平板な感じのヴォーカル、っていう。起伏の少ないすごく特徴的なヴォーカル・スタイルで、サトミさんひとりで日本人女性アーティストの対外的なイメージすべてを担っているというくらいの影響力があると思うんですが、そういうものが受け入れられる国とそうでない国、ということですかね。あ、でもブロンド・レッドヘッドとかは......

サトミ:イタリア人ですよね!

そうですよね、イタリア人兄弟+日本人女性ですよね。サトミさん自身は、サトミさんご自身へのオーディエンスからのリスペクトや支持・人気を感じますか?

サトミ:そうでもないです。ロックスター・スタイルがぜんぜんなくて。べつに日本人を意識してなくて、普通ですよ。アメリカってほんとに人種がいっぱいいる国で、日本人だからって持ち上げられることもないです。ディアフーフの音楽がほんとに好きって言ってくれる人がいるだけですね。けっこう日本人ヴォーカルだって知ってる人も多いし、ディアフーフを好いてくれる人ってオープン・マインドな人が多いんです。だから、アメリカだけに引きこもってる人たちじゃなくて、インターナショナルな音楽に興味がある人たちが多いんで、とくにいまの時代はそういう(人種に線引きをする)若い人たちって少ないと思います。

ヴォーカルについてのお話をもう少しお聞きしたいです。「平板」と先ほど申し上げましたが、チャイルディッシュで神秘的で、でもとっても知的で。歌詞もそうだと思うんですが、そういう要素がマッチョなものに対する批評として働いていて、ディアフーフの音楽自体と同様に、それはひとつの革命だったと思います。ライオット・ガール的な問題をライオット・ガールとは逆の方法論で提示している。〈キル・ロック・スターズ〉ってライオット・ガールのイメージが強いですよね。

サトミ:うんうん。90年代初頭、って感じですね。

はい。そういうマッチョイズムに対する批評として、サトミさんのヴォーカル・スタイルにはすごい影響力があると思いますが、どうでしょうか?

野田:今のは、あれだよね。橋元さんのディアフーフ論で。結局、あえて抑揚をつけないことの意味って何なのかってことでしょう?

サトミ:ああー。ディアフーフはヴォーカルと楽器を同じように扱ってて、たとえばレディー・ガガだったらヴォーカルをすごく強調してたりするけど、ディアフーフはトランペットとかとヴォーカルの扱いは一緒で。だから逆に、こぶし?(ヴィブラート)とかつけないでって言われるんですよね。音としてとらえて、ヴォーカルとしてとらえない。だからおもしろいダイナミクスがあるんですね。モヘアみたいな。どこかが飛び出てるけど、必ずしもヴォーカルでない。ライヴでもギター(のレヴェル)を上げます。ヴォーカル上からかぶせないで。そういうコンセプトはあります。でも、それ当たってるかも。マッチョなものが嫌いで。ジャズやクラシックとか好きです。マッチョな音作りは避けます。ベースとかもミュートしたり、リズミカルにして、そういうところには気を遣っているつもりです。

面白いのが、ギター・バンドとしてのプライドというか美学もすごくあると思うんですよ。それなのに全然マッチョじゃないのは、バンドとしてのまとまりや音楽性がすごく完成されているからだと感じます。ご自身のスタイルはずっと、最初からあったものなんですか?

サトミ:そうですね。オペラティックや演歌っぽいスタイルはたぶん自分にないものです。自分にそのカードがない。あとヴィブラートとかはあんまり音に合わないと思います。合えばやってもいいんですけど。ほんと、だからブラス・バンドみたいにこう「ボー」っとした、音みたいな声、そういうのが合うと思ってて。

でも、すごくフォロワーを生んだんじゃないでしょうか。あまりにオリジナリティがあるから真似は難しいですけど、意識や雰囲気としては。

サトミ:あ、でもこの前ライヴに来てくれたグループが「カヴァーやってます」って言ってて。ディアフーフのカヴァー・バンド。だからどんなんだろうなって思ってユーチューブで観てみたら、すっごいヴィブラートつけて歌ってたの。

(一同笑)それ違うじゃんっていう!

サトミ:歌い方が全然違うっていう。しかもすごい叫んで歌ってて。それであれをディアフーフがやったら、違うかなーって思いました。自分でやってみたことないから、人がやってるのを観てすごい勉強になる(笑)。それからユーチューブでいろいろ探してみたら他にもけっこうカヴァー・バンドがいて、面白いんですよ。

新解釈だったかもしれませんね(笑)。

サトミ:けっこうリンクでいろいろなカヴァーを観れて、面白いです。いろいろな国にいて。スウェーデン人の男の子がファルセットで歌ってたりして。

ははは! カヴァー・バンドばっかり10組とかで面白いアルバムができそうですね。

野田:ヴォーカリストとしてインスピレーションを受けた人っているんですか?

サトミ:前にもインタヴューで言ったことあるんですけど、スウィングル・シンガーズとか好きです。あの、女の人4~5人でラララッーって歌う感じの。

コーラス・グループみたいな人たちですか?

サトミ:そうですね。あとは......なんでも聴くんですけど、そんなに自分のヴォーカルを研究したことがなくって、歌ってたら「そんな感じがいいんだよ」ってまわりに言われて。で、みんなも「それでそれで」ってリクエスト受けてます。

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歌詞もみてないのに、このきのこ雲入れてきたんですよ、デザイナーは。アメリカってカルチャー的にそうなんでしょうね。すごくポリティックな話題をよくするんですよ。みんな政治に興味があるから、シティ・カレッジ行ってたときももう政治の授業がパンパンに人入ってて。


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日本って戦争に負けて以来大人になれないというか、軍隊も持てない子どもの国ってことで「12歳」なんて揶揄もありますけど、そうしたものを重ねて見られたりすることはありませんか? 奈良美智とか......

サトミ:はい。いちどお会いしたことあります。

ああ、そうなんですか! 好きですか?

サトミ:ええと、はい。好きですね。海外のミュージアムに行ったりすると、奈良さんの作品ってあったりしますね。

「ネオテニー・ジャパン」なんて言い方もありますね。大人なんだけど子どもの形をしている。あるいは村上隆さんとかがたとえばアニメを用いて戦略的に提示しようとされている日本人としての表現手段。バンドとしてそうした意識はなかったとしても、やはりディアフーフを見る側にはそういう視線もあると思うんですが。

サトミ:うーん。そうなんだろうなーと思います。

(笑)あ、そうなんですか。

サトミ:自分でそうアプローチしてやってるわけではないですけど、なんか「子どもっぽい歌い方をしている」とか書かれるんですよ。でも、自分でそういうふうにして歌ってるつもりじゃないんです。なんでそうなるんだろう? 「フェアリー」とか「チャイルドライク」とか、言われます。逆に、Jポップとか聴くとみんなすごい似てるなと思うんです、歌い方が。ちょっと不思議。

ははは。カラオケ文化の産物ですかね。

野田:インターナショナルなところではやっぱり日本のアーティストとしてそういう型にはめやすいって部分はあるだろうね。

その部分で面白いディアフーフ評はありますか? レヴューされたことで印象深かったことというか。

サトミ:うーん、「何を言っているかわからない」って書かれたことはありますね。英語のアクセントが下手だから。で、なんか当て字っていうか、推測で「こう言ってるんでしょ?」って書かれたメールとかがきて(笑)! 言葉として伝わってないことが多いみたいです。だから今回のアルバムは、言葉を少なくしました。歌詞のリフレインとか、ヴァリエーションを増やして、文字数は少ないです。もっとこう、音として頭に入ってくるし、何回もリフレインすれば言葉も頭に入ってきやすいので、「またこの言葉?」みたいな繰り返しになってます。あとは、毎回子どもっぽいって言われ続けてるので、逆にドライに歌って、クールで冷静な姿勢を見せようと思って。そんなつもりなんですけど。あ、でも今回は言われてないですよ「チャイルドライク」って! そこは成功。

(一同笑)

サトミ:もうチャイルドとは言わせないぞってくらいの勢いで。

野田:ははは。「ミルクマン」のイメージも強いんじゃない?

サトミ:そうですね。あのかわいい感じ。音とかもこう、鉄琴を使ったりして。だから今回鉄琴はヤメようって。

ははは、鉄琴禁止!

サトミ:そう、鉄琴禁止令。これ、わたし論なんですけど、突き詰めたらドラマーって鉄琴にいく確率高いんですよ。

はははは! 面白い。そうですか?

サトミ:そう、絶対。出た鉄琴! みたいな。ああ、この人も鉄琴いくんだーって。ドラマーって、ジャズとかでも、長ければ長いほど周りにモノが増えていって。こう、サンプラーとか。ドラムの横でヴィブラフォンとか弾いちゃったり。叩けるものは全部叩け、みたいな。グレッグにいつも「鉄琴だけはヤメてね」って言ってるんです。

詞は、詩的な結晶度が高いというか、絵本のように少ない言葉で多くのものを喚起させるというスタイルですよね。好きな詩人とか作家はいますか?

サトミ:名前を出すのはあんまり好きじゃないんですけど、ジャック・タチとかすごい好きで、毎回涙流して笑っちゃう。ほんとすごいかわいくて。ひねくれたユーモアが飛び出してきて、ディアフーフみたい!

野田:いいじゃないですか!

サトミ:あとは安部公房とか好きです。すごく写真的で。けっこう私もビジュアルから入って考える方なんで、散歩とかして頭ん中で考えたりとか。他のメンバーは違うんですよ。こう、ずーっとギター持ってじっと考えてたり。でも、あんまり影響された人とかはいないですね。好きなものと自分がやることは別。

サンフランシスコは住んでいていい場所でしたか? 場所として影響を受けたりされました?

サトミ:そうですね。ずっと天気だし、みんなすっごいゆっくりしてます。生活スタイルが。だからマイペースになりますね。カリフォルニアは。

若いバンドで刺激的なお友だちとかは?

サトミ:タッスルやヘラは個人的に仲いいです。あとは若くないけど、グワーとか。あの怪獣みたいな着ぐるみの。

グワー! 個性的でひねくれた人たちが多いですね。

サトミ:サンフランシスコは個性的な人が多いかな。アメリカ人って皮肉なジョークに溢れているので、日本に帰ってきて、みんなすごいピュアだなあって感心します。安心する。落ち着きますね。アメリカでは「クール!オーサム!グレート!」の3拍子があるけど、一種の挨拶で「こんにちは」の意味ととらえていいと思います。おおげさに表現するのがスタンダード。個性的といえば、同じマンションの人が多重人格性で一回ナイフを突きつけられたことがあって。すごい怖かったですね。

うわあ。多重だから誰に責任を問うていいのかわからない!

サトミ:いまでもたまにディアフーフのショーに来てくれるんですけど、春になるとオンになるみたい。そのナイフの方の人格に。それでいまどっちなのかなあとか思ったりして、怖いですね。たぶん70年代の影響があって、そのくらいにアシッドとかやりすぎておかしくなっちゃった人が多いかなあ、みたいな場所。その頃のヒッピーたちがサンフランシスコにはまだたくさん残っています。それかすごい若いヒップスターたち。かわいい服来てバーに飲みに行くっていう感じの。ヤッピーとかまわりではひとりも知らないけど、たぶんヤッピーが80パーセント。いまニューヨークとサンフランシスコって家賃が同じくらいの相場です。そのヤッピー化がすごい深刻で、もう引っ越そうって。

ああ、そうなんですか。

サトミ:もうどこ行っても。昔よく行ってたかわいいカフェとか、みんなが集まるようなとこもぜんぶスターバックスになっちゃったし、高いレストランばっかりになっちゃって、なんか、つまんないですね。

あれ? いまお住まいって......

サトミ:恵比寿です。去年の8月に引っ越してきて。

野田:ああ、それでキモノズとかに参加してたんですか。

サトミ:はい。でもいままた引越準備してるんです。また来年からツアーが11月までずっと入ってて、もう帰って来れないので、出ちゃおうと思いました。

日本ライフはどうでしたか?

サトミ:もう楽しくって! もっといたかったです。

野田:ははは。日本帰ってきた人はみんなそう言うね。

サトミ:楽しいっていうか、日本だと話も通じるし、アメリカはやっぱり貧富の差も激しいし。日本は平和ですよね。むこうはふつうに強盗とかもあるから、ずっと気を張ってるし、12時以降は外出るのやめようとか。タクシー乗ろうとか思っても、タクシーの運転手さんにどこ連れてかれるかわからないし。だから最初帰ってきたときは挙動不審だったんです。アメリカの緊張感でいるから、すごい怖がられて。そういう防衛意識を捨ててふらふら歩いてても日本は大丈夫なので、すごく、明るくなりました。性格が。

日本以外にずっと住んでおられたことで、日本に対して客観的な視線を持つことができると思うのですが、帰国されて改めて見えてくる日本というものはありますか。面白いもの、よくないもの、なんでもいいのですが。

サトミ:平和だなというのと、みんな優しい。

テレビとか観ないんですか?

サトミ:あんまり観ないです。だからジャスティン・ビーバーとかも知らなくて。

ああ、そうですね。じゃ、AKB48とかもご存じない?

サトミ:AKBはなんか、友だちにユーチューブを無理矢理観せられました。「これは絶対観なければならない!」とか言われて。

どうでした?

サトミ:80年代っぽいなあという感じで、アイドル・カルチャーはあんまり変わってないなって思いました。それはアメリカも同じだから。

ドラマとか映画とかは観ないんですか?

サトミ:アメリカのコメディ。ユーチューブとかで観ますね。すごい面白いです。なんか毒々しいんですよね。

アメリカのになっちゃうんですね。コメディなんだ。

サトミ:あ、今日はたまたまドラマ観てました。で、思ったんですけど、日本の刑事物って絶対最後に犯人が告白っていうか後悔したり謝罪したりして、これはアメリカにはない展開だなって思いました。

はははは!(一同笑)

サトミ:犯人が謝るだなんて、ないですよ!

はははは!

サトミ:これが日本なんだなって! テレビで道徳の授業が受けられる。テレビも教育の一環だっていう。

■犯人は撃たれて終わり。徹底的に外部的な存在で、こっちの世界に回収されることはない......

サトミ:ていうか、いい人が撃たれて終わるんです。子どもがレイプされて死んじゃうとか、アメリカのテレビ観て、これはほんとショッキングで寝れないなって最初の頃は思ってて。でもだんだん慣れてきちゃってどんな展開でもアリかなっていまは楽しめます。

なにかおすすめはありますか?

サトミ:『ティム&エリック』や『チルドレンズ・ホスピタル』っていうコメディはぶっとびー。『サーティー・ ロック』とかはふつうに面白いです。アメリカのお笑いって、ちょっと冗談キツすぎて笑えないっていうところがあるけど、慣れるとはまります。

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ディアハンターの初めてのショウって、ディアフーフのオープニングなんですよ。それでね、ディアハンターが有名になってからはすごい間違えられるんですよ。ディアハンターが出るのに「ディアフーフ!」ってMCが紹介したり、ディアフーフが出るのに「ディアハンター!」って言われたり。


ディアフーフ
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さて、ではこのアルバム・タイトルについてお伺いします。「イーヴィル」っていうのはつまり?

サトミ:はい。「悪」なんですけど、「スウィート・シックスティーン」というのがコンセプトだったので、そういうティーンエイジャー的な、キャッチーなタイトルがいいねっていう話になって、そしたらグレッグが「じゃあ、『ディアフーフ対イーヴィル』は?」って言い出して。"スーパー・デューパー・レスキュー・ヘッズ"って曲がありますけど、まさにスーパー・デューパー・レスキュー隊っていう、ゲームっぽい感じがいいんじゃない? ってことでこうなりました。「ナントカ隊」とか「ゴジラ対キングギドラ」みたいな感じ。ティーンらしい。

なんとなく「イーヴィル」という言葉によって名指されているもの、イメージっていうのはないんですか?

サトミ:みんなが思いつく「イーヴィル」っていうのはそれぞれ違うと思うんですけど、戦争だったり、メディアだったり、みんなが思いつく悪だったら何でも。

はい、ゲーム的なイメージの戦争だったりってことでしょうか。

サトミ:ゲーム的にテレビで放送されるブラウン管の向こうの遠い戦争。悪ってなんだろう? って。だからってディアフーフが悪じゃないわけじゃないんです。それはみんなのイメージを膨らませて考えてほしいです。先生が悪だっていうティーンもいるだろうし。

でも「ディアフーフ対善」ではなくて、「悪」なんですよね。

サトミ:そうですね。「ディアフーフ対善」でも良かったかも! でも、それだと毒々しさが欠けるかな。「対悪」がディアフーフっぽいかなというのがありました。どうですか? どんなふうに感じました。

私は「ディアフーフ対世界」って感じの意味かなと。

サトミ:そこまでおおきくなっちゃいますか?

野田:それはむちゃくちゃ深読みだね。

すみません(笑)。「イーヴィル」って「悪」って意味ですけど、「全体」というイメージで捉えました。ディアフーフ対それ以外のすべて。

サトミ:じゃあ孤立してるんだ。

「自分対それ以外のすべて」っていう感じで16歳の子が立ってる。

サトミ:ああ、それいいですよ。それ、じゃあ「イキ」で。

野田:最近は対立構造っていうのをあんまりはっきり言わないじゃないですか。

去年だとハイ・プレイシズがちょっと似たタイトルでしたね。

サトミ:ああ、それこの前なんかのインタヴューでも尋かれました。ハイ・プレイシズ対、何でしたっけ?

マンカインド......

野田:マンカインドだね。

サトミ:マンカインドを敵に回したらヤバイでしょう!? それはちょっと。

ははは! では「イーヴィル」は「マンカインド」ではない。

サトミ:「カインド」ではないですよ。「マンカインド」って人類じゃないですか。「ディアフーフ対人類」はひどくないですか? 「ザ・マン」ならわかりますけどね。社会的にいちばんトップの人とかが「ザ・マン」だから、そういう人って悪い人かもしれないけど、「マンカインド」は。すごいですね、そのタイトル。

はははは。ジャケットのハートは「スウィート」の意味ですかね。

サトミ:たぶんそういう冗談ですね。マットっていう......マシュー・ゴールドマンってアーティストが作ってくれて、「ディアフーフ対イーヴィル」って言ったら、もうそのタイトルで頭の中浮かんだ! って言って、描いてくれました。アートワークができあがってから思ったんですけど、「イーヴィル」については、ソニック・ユースの昔のアルバム『イヴォル(Evol)』を連想しました。「ラヴ」の逆。善と悪は常にお隣同士、「ラヴ」と「イーヴィル」(「イヴォル」)は背中合わせのイメージ。だから(ハートの)後ろに原爆が写ってたりとか......

ああ、これ原爆ですか。

サトミ:きのこ雲ですね。

じゃあ、なんとなくイーヴィルのイメージも固まりますね。

野田:もうティーンエイジャーのイメージではないね。ポリティカルだね。

サトミ:でも中開けるとポリティカルじゃないですよ。女の子がこうして写ってて。中見てみてくださいよ!......ほら、こんなにカラフルで!あ、でもこれ一瞬ポリティカルにも見えますね。

ちょっとヒップホップのイメージですね。

サトミ:ぱっと見がゲームのパッケージみたいから、子どもが間違えて買っていけばいいなあ。

野田:デザイナーにこういうイメージがあったんでしょうね。イーヴィルっていったら戦争だよなっていうような。

サトミ:歌詞にちょっとそういう言葉もあるんですけど、歌詞もみてないのに、このきのこ雲入れてきたんですよ、デザイナーは。アメリカってカルチャー的にそうなんでしょうね。すごくポリティックな話題をよくするんですよ。みんな政治に興味があるから、シティ・カレッジ行ってたときももう政治の授業がパンパンに人入ってて。

野田:でもアメリカで「原爆」っていう表現は、それこそアメリカ批判の奥の手というかねえ。ある意味すごくきわどいデザインなんじゃないですか。中身は可愛くても。

サトミ:なんか原爆をモチーフにしてるものって多いですよね、パンク・ロックとか。たぶんこれもわざとなんだと思うんですよね。ほら、パンク・ロックだと必ず原爆が出てきて、今回ディアフーフは「スウィート・シックスティーン」がテーマなわけだから、マシューはすごくパンク・ロック的なイメージで使ったのかなと思います。デッド・ケネディーズとか、アシュックとか。

白黒の。

サトミ:そう、だからあんまり色を使わない。色っていうか、何色も何色も使わない。モノ・トーンな感じで。最初のギタリストのロブがものすごくポリティカルだったんですよ。メンバーも私以外みんなベジタリアンで、でもロブはもっともっとすごくて。フード・ノット・ボムズってオーガナイゼーションがあるんですけど、みんなボランティアでホームレスに食事を作ったりするんですよ。私も一回行ったことがあって、チャーチの地下とかで食事を作るんです。明日賞味期限が切れちゃうような食品をもらってきて、それで料理するんですね。そしたらホームレスがそれをジャッジし出すんですよ。「このスープはいまいちだな」とかって。もう「ええー!?」って感じ(笑)。

野田:僕の同級生もサンフランスコで同じことやってましたけど、その文化は日本では一般的ではないですよね。

サトミ:隣りで一緒にホームレスのおじさんと食べながらね。面白いんですよ。けっこう政治的な関心が高いから、あとはアニマルの保護とかにいったり。その頃に遊んでた友達がみんなけっこうおもしろくて。カリフォルニアの木が伐られるからって言って、木に自分を縛りつけたりとかするの。

野田:おおー。「俺を斬ってから木を伐れ」という(笑)。

はははは!(一同笑)

サトミ:そう、そしたらその彼が「ちょっと僕ポートランド行くからディアフーフの車に乗せてって」って言ってきたんで一緒に行ったことがあったんですよ。それで途中のガソリン・スタンドですれ違ったとき見たんですけど、彼、手を洗ったあとに何枚も紙を使ってました!

ははははは!(一同笑)

サトミ:なにそれ、それちょっとわかんない! って(笑)。「それはいいの?」って訊きました。

ちょっとそういう意識が高いあまりに病的になっちゃうんですね。意味があべこべになっちゃう。さっきソニック・ユースの名前が出ましたが、ディアフーフってギター・バンドとしてのプライドがすごくあると思うんです。

サトミ:そうですか? 私はあんまりディアフーフにギター・バンドになってほしくないです。いつももっと「キー・ボード、キー・ボード!」って言ってます。

ソニック・ユースとかにも共通する、90年代のギターの音と、2000年代の知性と、サトミさんのヴォーカルとでほんとにずっと新鮮な音を出しているという印象なんです。ここ2、3年は深いディレイやリヴァーブのかかったギターの音がインディ・シーンでは主流で、そんな中でディアフーフのようにソリッドなギターの音が聴こえてくるとすごく緊張するんですね。あ、違う音がなってるって。たとえばディアハンターとか、どうですか?

サトミ:はい、お友だちです。ディアハンターの初めてのショウって、ディアフーフのオープニングなんですよ。

野田:ああ、そうなんですか!

へええ! そうなんですか!

サトミ:それでね、ディアハンターがポピュラーになってからはすごい間違えられるんですよ。ディアハンターが出るのに「ディアフーフ!」ってMCが紹介したり、ディアフーフが出るのに「ディアハンター!」って言われたり。

はははは! 大雑把だなあ。音ぜんぜん違うのに!

サトミ:Hまで合ってるから、いいかな。

よくないよくない!

サトミ:「ディアハンターでーす」とかって言ったりして。

もしディアフーフがすっごいリヴァービーだったりするとびっくりしますが。ではシューゲイザーとか興味はないですか?

サトミ:うーん、シューゲイザーってカテゴリーなんですか? だってシューを見てるっていう意味なんじゃ......

ですよね。でもカテゴリーになっちゃってますね。私よく言うのが、彼らは「シュー芸ザー」だっていう。シュー芸、つまりマイブラやスロウダイヴごっこをやる芸人さんたちなんです。そういう人たちでなんというかコミュニティというか。シーンが出来上がってしまっている。

サトミ:あははっ。シュー芸。なるほど。たぶんぜんぜん興味ないですね。でもディアフーフは何やってもよくて。レゲエとかやってもいいんですよ。ジャズやってもいいし。レゲエはあんまり上手じゃないですね。たまにリハとかでレゲエやろうよとか言って、ッジャッ、ッジャッ、ってはじめるんですけど、全然合ってないっていうか、常夏のイメージが全然出ないねってなって。難しいですねレゲエ。どう思いますか、ディアフーフのレゲエ。

野田:いや、面白いね。すごい聴きたいです。次のアルバムはぜひ(笑)。

サトミ:あはは、ほんとですか? 「ジャー!」って言って出てくるんです。

ははは。ダジャレじゃないですか! では次作の方向性も見えてきたということで(笑)、どうもありがとうございました。

Chart by JET SET 2011.01.24 - ele-king

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1

JEBSKI

JEBSKI PAD »COMMENT GET MUSIC
全曲シングル・カット級の強力ナンバーがズラリと並んだ、Jebski待望のソロ・アルバム!楽曲は全てインストながらも大胆な展開や、圧倒的なメロディーセンスでエモーショナルなエレクトリック・ミュージックを創り出す音Jebskiの世界観を堪能できる傑作1st!

2

INNER SCIENCE

INNER SCIENCE ELEGANT CONFECTIONS »COMMENT GET MUSIC
唯一無二のエレクトロニック・ミュージックを追求する、Inner Scienceの4年ぶりとなるニュー・アルバムがついに登場!繊細かつ緻密なメロディー・センスとフロア・ライクで骨太なビート・メイクに定評のあるinner Science。その世界感を存分に楽しめる、2枚組でリリース。

3

EFEEL

EFEEL DO WHAT YOU DO »COMMENT GET MUSIC
International Feelのリエディット・ライン"EFEEL"第4弾!!10cc"I'm Not In Love"リエディットを皮切りに、こちらもヒット連発のInternational Feelリエディット部門"EFEEL"。本作もまたリリースと同時に廃盤、ショート入荷につきお早めの確保をお願いします!!

4

ZO!

ZO! SUNSTORM »COMMENT GET MUSIC
美しく艶やかに、豪華客演陣と共に奏でられる極上ニュー・ソウル!実力派キーボーディスト、Zo!待望の新作。Lady Alma、Yahzarah、Jesse BoykinsIII、Sy Smithなど、豪華ゲスト陣が参加。

5

MAKAM

MAKAM YOU MIGHT LOSE IT »COMMENT GET MUSIC
Kerri Chandlerの新リミックス!!シカゴ重鎮Chez Damierリミックスの前作Soulmate"Set Fire to My Feet"と同様に『Tessera』リミクシーズには未収録のミックスを収めた限定片面プレス盤。Kerri Chandlerだけに間違いはありません!!

6

ILLMATIC BUDDHA MC'S AKA BUDDHA BRAND

ILLMATIC BUDDHA MC'S AKA BUDDHA BRAND D.L PRESENTS : OFFICIAL BOOTLEG MIX-CD "ILLDWELLERS" G.K.A ILLMATIC BUDDHA MC'S MIXED BY MUTA »COMMENT GET MUSIC
Illの概念と共に日本を襲った、あの黒船の衝撃をもう一度! Buddha関連公式ミックス登場!偽ベスト盤に業を煮やしたD.L.氏が自ら完全監修、彼が信頼を寄せる注目株DJ Muta(Juswanna / Groundwork DJs)をミックスに迎えた、無敵の3本マイク公式ミックスCDが登場!

7

POP & EYE

POP & EYE OUT TO PUNCH EP »COMMENT GET MUSIC
Tiger & Woodsでお馴染みの人気レーベル"Editainment"第5弾!!今回も間違いの無いクォリティで送る最上級リエディットです!!

8

DOP

DOP NO MORE DADDY (AME REMIX) »COMMENT GET MUSIC
AMEリミックス収録!ユーモアのセンスを兼ね備えた独特なスタイルで2010年には"ベスト・アーティスト"の名を欲しいままにした、フレンチ・トリオ、dOPによるニュー・シングル!!

9

V.A.

V.A. WALTZ EDIT VOL. 4 »COMMENT GET MUSIC
奇才、Altzのリエディット専科『Waltz Edit』の第四弾が辺境の地から到着!今回はアフロでサイケデリックな強力3トラックを収録。Waltz / Blendmixで放った第三弾も大好評だった信頼の高いエディット・シリーズ。本作はAltzが奇才といわれる所以が垣間見えるリエディットを披露したシリーズ史上極めて異彩を放つエキゾチックな1枚!

10

KENNETH BAGER EXPERIENCE

KENNETH BAGER EXPERIENCE FRAGMENT 2 »COMMENT GET MUSIC
極上のダウンテンポ・ナンバーがズラリ!!Kenneth Bager Experience率いるデンマーク発チルアウト/ダウンテンポ・レーベルMusic For Dreamsからの新作EP。LTJ Experienceによるミドル・テンポに繰り広げられたブギー・リミックスがお勧めです!!!

Chart by JAPONICA 2011.01.24 - ele-king

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1

SOFT MEETS PAN

SOFT MEETS PAN TAM MESSAGE TO THE SUN EP. CROSSPOINT / JPN / 2010/12/27 »COMMENT GET MUSIC
話題のコラボレーション・アルバム「TAM ~MESSAGE TO THE SUN~ タム お日様への伝言」からのシングル・カットとなる今作はSOFTのオリジナル楽曲にトリニダード・トバゴ現地で録ったスティールパンの演奏を加え完成させたという拘りの一枚!両曲共に数多くののDJ達に愛されたC&C BAND"LOVE THING"カヴァーを彷彿とさせるフロアを優しいヴァイブスで満たすこと請け合いの、まさにSOFT流スピリチュアル・ダンス・ナンバーに仕上がってます!

2

SOFT MEETS PAN

SOFT MEETS PAN TAM ~MESSAGE TO THE SUN~ タム お日様への伝言 CROSSPOINT / JPN / 2010/12/22 »COMMENT GET MUSIC
はやくから話題となっていたMOOCHYとSOFTの合作、遂にリリース!トリニダード・ドバゴ現地で録音したスティール・パンの美しい音色を全 編にフィーチャーし、カリビアン・フレイヴァ満載な中SOFTとMOOCHYの共通したダンス/サイケデリック感覚とが絶妙なバランスで融けあっ た至極のジャム・ナンバー全5曲を厳選収録!全国各地のパーティーやフェスでみられるSOFTとはまた一味違った暖かく温もりのあるチルアウト/ スピリチュアルな側面が十二分に堪能できる極上の一枚!!いや~最高すぎますっ!

3

NABOWA

NABOWA NABOWAの時間 URBAN RESEARCH DOORS / JPN / 2011/1/1 »COMMENT GET MUSIC
2010年9月17日、URBAN RESEARCH DOORS南船場店で開催されたNabowaのプレミアムライブ「Nabowaの時間」。ライブ会場に広がった、のびやかでしなやかな音とオーディエンス がつくり出した空気感がそのままCDに。この作品でしか聞けない"赤とんぼ"、"キッチンへようこそ(インストヴァージョン)"なども収録。更にはライブの模様をおさめたフォトカードも封入され、他にはない特別な一枚に仕上がっています。

4

AFRODESIA

AFRODESIA THE AFRO SOUL-TET LUV N' HAIGHT / US / 2011/1/15 »COMMENT GET MUSIC
黒指ハード・ディガー涎垂級の一枚にしてDJ達からの支持も厚いAFRODESIAによる超鬼レア・アルバム「THE AFRO SOUL-TET」。1968~1971年頃に自主リリースされたという今作はプレス枚数もわずか数百枚程度というまさに幻と言っても過言ではない逸品 で、その内容もまさに驚愕の一言。。ラテン/トロピカル~スウィング・ジャズ/ジャズ・ファンクにアフロ・パーカッシヴ、そしてサーフ/ロックにいたるまで決まりきったカテゴリーに収まらない自由な音楽性が縦横無尽に炸裂した究極のレアグルーヴ!

5

GROOVEBOY

GROOVEBOY GROOVEBOY EP2 UNKNOWN / US / 2011/1/19 »COMMENT GET MUSIC
某大物プロデューサーの覆面プロジェクトとの噂もある詳細不明"謎"のクリエイターGROOVEBOY約3年ぶりとなるセカンドEP!現行シーン を席巻するMARKE/EDDIE Cあたりに代表されるディスコ・エディット/ビートダウン・ブギーのエッセンスを巧に取り入れたナイスすぎるエディット・ワークを披露の一枚!ネタがネタだけに定番的に使い続けれそうです!オススメ!

6

SIS

SIS GALLIAN / MACHISTE REBELLION / UK / 2011/1/16 »COMMENT GET MUSIC
<CLOSSTOWN REBELS>が新たに立ち上げたアンダーグラウンド・レーベル<REBELLION>記念すべき第1弾リリースは大人気モダン・ミニマリストSIS!「TROMPETA 」以降も好リリースを飛ばし続けているSISですが今回のリリースはその中でも頭一つ飛び出したかなりの好内容です!得意のラテン・フレイヴァー溢れる パーカッションを用いたミニマル・グルーヴにソウルフルなヴォーカルをフィーチャーしたモンスター・トラック"GALLIAN"!ズブズブ深くハメていく長尺ミニマル・トラック"MACHISTE"!

7

OSUNLADE

OSUNLADE BUTTERFLY / UR YORUBA / US / 2011/1/16 »COMMENT GET MUSIC
昨年リリースのCDアルバム「REBIRTH」からのシングル・カットとなる今作はまろやかに歌い上げる男性ヴォーカルにハートウォーミンなサックス/シンセ・リフが温かく包み込む至福のメロウ・ソウル・ナンバー"BUTTERFLY"に、流麗なストリングス/アコースティック・サウンドによる繊細なしっとりジャズ/ソウル"UR"の絶品2曲を搭載!RECLOOSEあたりにも通じるクロスオーヴァー感覚がたまらなく気持ち良い痛快作!

8

DOP

DOP NO MORE DADDY (AME REMIX) CIRCUS COMPANY / FRA / 2011/1/15 »COMMENT GET MUSIC
AMEによるリミックスは緊張感溢れるミニマル・リフで構成された流石の仕上がり・・・なんですがここでのイチオシはオリジナル・トラックとな る"TALK SHOW"に"UR"!"TALK SHOW"はジャズ・アンサンブルが絡むビートダウン・グルーヴで展開するクロスオーヴァー・チューン、そして"UR"はディープ/トライバルな音飾でウィスパー・ヴォイスがそっと囁くアンビエンス・トラックに!テクノ/テックハウス・フィールド外にもオススメの一枚です!

9

COFFEE & CIGARETTES BAND

COFFEE & CIGARETTES BAND ELECTRIC ROOTS EP2 ELECTRIC ROOTS / JPN / 2010/12/18 »COMMENT GET MUSIC
ご存知DJ KENSEIさんとSAGARAXXさんによるユニット=COFFEE & CIGARETTS BANDによる"DJのため"のヴァイナル・リリース第2弾!今作はクラブ・シーンにおいて頻繁に取りざたされる辺境グルーヴ、中でもとりわけ再評価高ま るアフリカ/アフロ・ミュージックにフォーカスし制作された5トラックスEP。アフロ/ファンク・ビートをベースにオールドスクール~ディスコ・ フィールなエッセンスを注入したC&Cならではのアフロ・ブレイクビーツ集!

10

DJ NATURE

DJ NATURE SUNTOUCHER REMIX PT.2 JAZZY SPORT / JPN / 2010/12/22 »COMMENT GET MUSIC
03年に<DIMID>よりDJ MIL'O名義でリリースしたCDアルバム収録楽曲をDJ NATURE名義にてリミックス!こちらは2種同時リリースの第2弾!暖かみのあるキーボード・コードに女性ヴォーカル・サンプルがミニマルに呼応しつつ絡み合うビートダウン・ブギーの"POSSESIONS"リミックス、そしてラグドなギター・リフ/オルガン・プレイが分厚いキック・グルーヴ上で掛け合うハウス・トラックの"GYRATING SAVAGES"リミックス、今回も期待値を大いに上回る作品を届けてくれました!

 ありがとうございます。おかげさまでele-king、売れています!

 さて、ただいまタワーレコード新宿店 8Fのクラブ・コーナーにて、ele-king 復刊記念として、アルバム・レヴューにて紹介された商品を一挙15タイトルご試聴いただけます。近くに行かれた方はぜひ覗いてみてください!! そしてele-king読みながら、試聴しましょう!!

[Dubstep & Techno & others] #4 - ele-king

1. Shackleton / Man On A String Part 1 And 2 / Bastard Spirit

Woe To The Septic Heart!


iTunes

 相変わらず豪邸暮らしのメタルが書いてくれないので、自分で書くことにする。昔から言われているように、人間は満足してしまうと欲を無くすのだ。ある意味では羨ましい限りであり、また、メタルのような人間がDJとして暮らしていけるというのも悪いことではないか......などと思ったりもする。
 さて、昨年末、テクノ・シーンにおいてもっとも評判となったアルバムがシャックルトンのミックスCDである。全曲自分のトラックでミックスされたそれは、いわばミュータント・ワールド・ミュージックであり、アフリカン・パーカッションのポスト・ダブステップ的展開である。その素晴らしいミックスCDとほぼときを同じくしてリリースされたのがこのシングルで、いまだロング・ヒット中である。
 実際の話、「マン・オン・ア・ストリングス/バスタード・スピリット」は魅力いっぱいのシングルだ。アフロ・パーカッションをベースにしているとはいえ、サイケデリック検定試験ではAクラスの飛びようで、意味不明な効果音と脈絡のない展開の迷宮のなかで、アシッドをきめながら薄暗い熱帯雨林を歩いていると珍獣に出会ってしまっかのような、あるいはJGバラードめいた極彩色のディストピアが広がる。それでもベースは太く、グルーヴがある。DJならずとも欲しい1枚である。こういうシングルが売れるのは......、まったく悪いことではない。
 ミックスCDに関しては、後日レヴューする予定です。

2. Jessie Ware & SBTRKT / Nervousem | Numbers


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 サブトラクトには素晴らしい才能があると思う。ジョイ・オービソンとならぶ才能だ。ロスカがケヴィン・サンダーソンなら、サブトラクトとジョイ・オービソンははっきりとカール・クレイグだと言える。さすが、ザ・XXを輩出した〈ヤング・ターク〉がダブステップ・シーンから引っこ抜いただけある。とにかく、部族の仮面を被ったこのトラックメイカーは2011年の注目株のひとつだし、ジェームス・ブレイクと並んでアルバムが期待されているひとりである。
 サブトラクトの音楽性は幅広い。いまとなってはダブステップというよりも、デトロイティッシュなエレクトロやディープ・ハウス、あるいはジャジーなブロークンビーツ風の作品のほうが印象深い。12インチ2枚組の「2020」にはアトモスフェリックなテクノ色が強く出ていたし、〈ヤング・ターク〉から発表した"サウンドボーイ・シフト"にはダブの深みが広がっていた。"ルック・アット・スターズ"は彼のなかではもっともキャッチーな曲で、それこそカール・クレイグの作る歌モノのようなエレガントな色気がある。
 「ナーヴァス」は昨年末にリリースされたシングルで、タイトル曲はジェシー・ウェアのR&Bヴォーカルをフィーチャーしたキラー・チューンである。シンセのベースライン一発で決まってしまうという、クラブ・ミュージックにおいてハイレヴェルの曲だ。B面のアップリフティングなファンキー調の曲も捨てがたい。世界にはダンス・ミュージックを作れる人と作れない人の2種類がいる。サブトラクトは間違いなく前者である。

3. M.I.A. / It Takes A Muscle (Pearson Sound Refix) | XL Recordings


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 〈XL〉も味なことをする。これは昨年の『/\/\/\Y/\』収録曲の、ラマダンマンのピアソン・サウンド名義による片面のみのリミックス・シングルだ。広くはダブステップ・シーンのひとりではあるけれど、アルバムに参加したラスコとは毛色が違う。ラマダンマンは、ラスコと違ってアンダーグラウンドである。クレジットを見ただけで迷わず買ったこのシングルだが、ドラムマシンのスネアを主体としたプラスティックマン流の打ち込みの、よく知られるところのラマダンマン・サウンドで、違いといえばM.I.A.の声が入ることぐらいなのだが......まあ、良しとしましょう。キャッチーだし、後半のトリッピーな展開もありがちだが親しみやすい。まあ、M.I.A.の声がこのビートに混じっているだけでも興奮するよ。

4. Silkie / City Limits Volume 1.4 | Deep Medi Musik


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 シルキーは本当に格好いいよなー。A面の"スロウジャム"における重量級のダブステップ・ビートから最後の最後で鳴り響くメロウなサックスを聴くと彼がマイク・バンクスやイアン・オブライアン、あるいは4ヒーローのようなプロデューサーの系譜にいると言っても差し支えないんじゃないかと思える。 B面の"ワンダー"におけるシンコペーション、さりげないサックスの入り方、ベースのうねり、そして鍵盤の音色もそうだ。これが最新のアンダーグラウンド・ブラック・ミュージックであり、これがアーバン・ミュージックというもの。"シティ・リミッツ"シリーズの最新は、まったくを期待を裏切ることのないソウルフルな1枚であり、しかもこの人からは目が離せないとますます思わせる良いシングルである。

5. Moritz Von Oswald Trio / Digital Mystikz - Restructure 2

Honest Jon's Records


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 「ベルリンでミニマル」と言われただけで耳に栓をするような人は少なくない。僕が「ベルリンでミ......」と言った時点で不機嫌になる。わからないでもない。僕も昔は「ニューヨークでパ......」と言われただけで不機嫌になった。しかし、そんなせっかちな人にもこのシングルは薦めてみたい。モーリッツ・フォン・オズワルド(k)、マックス・ローダーバウアー(b)、サス・リパッティ(per)の3人と、そしてティキマン(g)によるモーリッツ・フォン・オズワルド・トリオの新作である。昨年リリースされたライヴ・アルバムも欧米ではすこるぶる評判が良かったが、メタルが何も言わないので僕はまだ聴いていない。それでもこのシングルを何故買ったかとえば、驚くべきことにB面をDMZのマーラがリミックスしているからである。ベルリン・ミニマルのゴッドファーザーが初めてロンドンのダブステップと手を組んだのだ。そして......マーラのリミックスは悪くはないのかもしれない、が、しかしA面に収録されたオリジナルの前ではかすんでいる。というか、マーク・マッガイアの蜂蜜たっぷりのミニマルを聴き込んだ耳にはこのストイシズムが新鮮に聴こえる。単調なキックドラムと曲の背後でうねっているベースとのバランスは見事で、抑制されたキーボード、ギターが地味であることの良さを最大に引き出す。

Hi-Def - ele-king

 フリーライターなんていうヤクザな稼業を選んでしまったばかりに日々の生活は不安定極まりない。精神的にも経済的にも正直厳しい。去年、カネのことで彼女とどれだけ揉めたことか......、はははは。根は楽天的な人間のつもりだが、鬱屈した感情といかに上手く付き合っていくかというのは、日々の生活において重要なテーマである。
 実際に、1万や2万程度のカネで頭を悩ませ、社会への不信や猜疑心をつのらせ、被害者意識に囚われる人びとがいる。フリーターだろうが、派遣労働者だろうが、ニートだろうが、正社員だろうが、どんなならず者だろうが、そのことについては変わらない。

 ハイ・デフのファースト・ソロ・アルバム『DISKNOIR』を大きく特徴付けているのは鬱屈した感情だ。暗さを全面に出すことは、ヒップホップのスタイルのひとつとも言えるが、それだけでは片付けられない何か切実な雰囲気がここには漂っている。タイトルが暗示しているとおり、『DISKNOIR』はフィルムノワールチックな、犯罪映画を思わせるハードボイルド・ヒップホップに仕上がっている。
 クライム・ストーリーを描き出すという点では、『ピッチフォーク』やこの国の音楽評論家のあいだでも高く評価されたレイクウォン『オンリー・ビルト・4・キューバン・リンクス...PT.II』(09年)を連想させる。サウンドもウータン・クランをはじめとする90年代の東海岸ヒップホップ――ブート・キャンプ・クリック、ブラック・ムーン――を彼らなりにアップデイトしているように思える。ソウルフルなトラックがあり、スペース・ファンクがあり、甘くジャジーなアブストラクト・ヒップホップがある。重心の低いビートとベースの不吉なループが『DISKNOIR』の出口のなさを象徴しているかのようだ。

 旭川出身のラッパー/トラックメイカーであるハイ・デフは現在、都内のアンダーグラウンドなヒップホップ・シーンを中心に活動している。彼と同郷の相方、トノ・サピエンスがオリジナル・メンバーのヒップホップ・ポッセ、CIA ZOOはこれまでに未発表音源集を集めた『LOST TAPES VOL.1』(07年)と『THE LOGIC WORK ORANGE』(09年)といった素晴らしくファンキーでマッドなアルバムを世に送り出している。とくに後者の雑食性と都市を猛スピードで疾走するような勢いは凄まじい。これは2009年のベストの1枚だ。
 CIA ZOOにはブッシュマインドも所属している。彼らの仲間には、昨年、個人的にはこの国のヒップホップのなかで2010年のトップ5に入る出来だった『WELCOME TO HOME』を発表したロッカセンもいる。
 ヒップホップやハードコアやレゲエ、テクノやハウスといったダンス・ミュージックが彼らのバックグラウンドにあり、それらを燃料に彼らは町中をねずみのように徘徊し遊び、逞しく生きているのだろう。そんな息遣いとタフな生き様が彼らのケオティックなサウンドから伝わってくる。ブッシュマインドらが主宰者を務めるインディペンデント・レーベル〈セミニシュケイ〉のコンピレーション『WISDOM OF LIFE』もそんな彼らの成果のひとつと言える。

 ファンキーなCIA ZOOを知っている人はこれを聴いて戸惑うかもしれない。音楽業界への憤りを歯に衣着せぬリリックで放ち、ときに悪態をつき、サディスティックな欲望を吐き出したかと思えば、「ちっぽけなチンピラ」だと自分のことを卑下する倒錯した感覚がある。「安定したいけど国が不安定」というのは率直な気持ちだろう。"ペイント・イット・グレー"を聴けば、ハードコア・ヒップホップはマッチョでワルというイメージしか持てない人も少しは考え方を変えて、この文化の複雑さに目を向けると信じたい。神聖かまってちゃんがこんがらがった現実のなかから絶望を音楽化したように......、いや、喩えが安易だったかもしれないが、ここにある怒りや不満にも耳を傾けて欲しいと思う。
 ハードコア・バンド、ペイ・バック・ボーイズのリル・マーシー、ケムイ、DJ PK、メデュラ、トノ・サピエンス、スターバースト、ノース・スモーク・ING、ジプジーといった面子が参加している。大半のトラックはDJ COP(ハイ・デフ)が制作している。なんともアイロニカルなネーミングじゃないか。じっくりと付き合えば、黒い笑いが滲み出てくるアルバムでもある。
 ハイ・デフは闇に寄り添うことに情熱を傾けている。陰謀論めいた社会風刺には危うさを感じなくもないが、無視できない怒りや不満が充満している。これがもしフランスなら暴動に結びつくかもしれないなんてことを考える。いずれにせよ、僕は闇のなかで武装するこういう態度が嫌いじゃない。これはひとつの覚悟のある生き方だ。そして徹底的に暗さと対峙したあと、最後の2曲で人生を祝福しているのが素晴らしい。


 年末の『エレキング』(紙版--もう書店に並んでいるので、みなさんよろしくお願いします)をホウホウの体で入稿したあとののんびりした正月の一週間で『漱石を読む』(福武書店)を読んだ。につまって個体になったブラックコーヒーのような文章の連鎖をたどるだけで、私はたいへん幸福な気分になる。以前湯浅学氏が『レコード・コレクターズ』で「溶けた鉛を飲みこむような」と評した――もしかしたらちがう人が書いたかもしれない--キャプテン・ビーフハートの代表作『トラウト・マスク・レプリカ』を文章に置き換えたら、こんな感じかもしれないと思った。いや、ほんとうは、いまから20年ほど前、学生だった私は、学生はつねにそうであるようにサヨク的であり、井上光晴をよく読んでいたが、彼が死んでひと月ほど経った『群像』だったかに彼の追悼特集が組まれ、特集とは関係のない、その号の巻頭にあった小島信夫の短編(「羽衣」だったと思う)のひとを食ったというよりも前提を無視した書き方に衝撃を受け、当時新刊だった『漱石を読む』はそのとき買ったのだが、小島信夫の批評集成が水声社からでたのを知って、再読したのだった。じつはビーフハートを聴いたのは、恥ずかしながら、その翌年の暮れにワーナーからはじめて国内盤CDがでたときであり、順番は逆だった。彼らの古典の誇張、いや、むしろ古典のディシプリンと呼びたくなる行為のなかからなにかが反転し、前衛と意図することのない道筋を、目の前に広がる道なき荒野に浮かびあがらせる感じは方法意識におもに焦点をあててきたが、私には抽象論、概念論だけではない、端正なフォーマットを否定する行為を運動に転化させる意図があった。膨大に引用する過去作品が薪や炭のように内燃機関を燃えあがらせ、吐き出した煙は粉塵をあとにのこした。エコロジカルな洗練は微塵もない。彼らは過去を他者をリスペクトしたように見せかけながら、小説や批評、あるいはブルースとブルースのあとに連なったポピュラー音楽のうえにことごとく「私ではないもの」としてあるときは傍線を引き、またあるときはその上に二重線を書きこんだが、「私」とはどういうものか?

 私は大晦日の紅白歌合戦のサワリだけ見ようと、テレビをつけると浜崎あゆみが歌っていた。"ヴァージン・ロード"という歌だった。彼女は純白のウエディング・ドレスを着てNHKホールの客席の後方から現れ、ドレスの後ろ裾は何十メートルにも及んでいたようだった。その姿は歌の内容とそぐわないわけではなく、むしろそのものなのだが、彼女がウエディング・ドレスを着て熱唱したただそれだけのシンプルな演出は、NHKホールの客席はおろか、テレビの画面を眺める私たちにも向けていないようであった。歌に没頭するというより、目もくれず演じるようであり、その歌唱にはチェリッシュから平松愛理を経て木村カエラにいたる、満ち足りた結婚ソングにはない非日常性が際だっており、ひとことでいえばオペラめいており、またそれは俗流のオペラや演劇や文学がそうであるように感傷的であり悲劇的に思えた。ケータイ小説的といってもよかった。2011年になって、YouTubeで"Virgin Road"のPVをみて、そのときかんじたことの一端はわかった。PVで彼女は花嫁姿で武装していた(形容でなくマシンガンをもった花嫁を演じていた)。浜崎あゆみは"Virgin Road"を映像化するにあたり、社会と切断した、ゼロ年代にセカイ系と呼ばれたものの雛形として、秩序を向こうにまわし戦ったボニーとクライド(『俺たちに明日はない』)を記号化したドラマがあったが、誰もが知っている通り、ボニーとクライドは悲劇である(これがシドとナンシーだったらもっと喜劇的だったろうに)。そこにはカタルシスに向かって感情を増幅させていくヴェクトルがあり、それはきわめて音楽的であるだけでなく、一面的に音楽的、つまり予定調和であり様式である。
 はたして彼女はその数時間後に、シェーンベルグから〈メゴ〉に至るまで、形式と抽象主義の大国オーストリア出身の俳優と結婚したのだが、いいたいのはそんなことではない。結婚の翌日か翌々日に彼女は「私はこれからも私であり続ける」というふうなコメントを出した。ここで彼女いう「私」はどんな「私」だろうか? 彼女個人ばかりでなく、90年代後半から彼女が音楽を通して代弁してきた、無数のシチュエーションとそこに直面した無数のひとたちの心情はそこに含まないのだろうか? 結婚という人生の転機においてさえも変わらない「私」とはなんだろうか?

 私には妻も子もいる(だんだん文章が妙な方向にいきそうだが......)。家庭をもつ身には家賃が高い上に狭い東京のマンションの一室では音楽さえまともに聴けない。『明暗』の津田のように親の援助を得られない境遇ではなおさらで、家人が寝静まった夜に蚊の鳴くような音でストゥージズを聴くこともしばしばである。私は強がってそこにこそ発見があるとはいわないけれども、主体はつねに状況の変容の憂き目に晒されていて、「私」は変わることは前提にある。もちろん状況とは結婚そのものを指してもいて、彼女は旧態依然とした結婚という制度に絡めとられないと宣言したとも考えられなくはない。では、ジェンダーが問題になるかといえばそうではない。ジェンダーの基底にある社会と制度、そこで拮抗する進歩主義と保守主義の両面から中心を眺めるときの視差があり、感覚的に後者に目を瞑ることで、主体である「私」は遠近感が曖昧にならざるを得ないということかもしれない。私は保守主義に与したいのではなく、制度をとりまく考えの両翼が問題にする以上に現状は屈折しており、結婚しようとしても簡単にできるものではない。との前置きを置くなかでは、戦後すぐの作家たちの初期設定だった家族観を共有できた時代--江藤淳が戦後の象徴とし、上野千鶴子が「男流」と呼んだ小島信夫に代表される家族観への両者の意見こそ視差だろう--はいまの時代、牧歌的にすら映るが、牧歌的な風景において当の「私」は家族という集団のなかで一筋縄ではいかない個別の問題を抱え翻弄される。それは古典的な制度の特異点かもしれないが、特異点としての「私」は普遍性への迂回路として機能しはじめる、そしてそういった特異点は関係性のなかにしか存在し得ないと小島信夫であれビーフハートであれいっていたように思える。浜崎あゆみにはそれがない。彼女の「私」は代名詞でこそあれ、変数ではない。90年代末、あるいはゼロ年代初頭に彼女が代弁していた最大公約数としての「私」は消え、彼女はすでにマジョリティの声ではない、というのは、産業としての音楽の斜陽化と、ポップ(アイドル)ミュージックにおける人工美がさらに加速したことが原因かもしれないし、背景にあるハイパー個人主義は多数派を作ることすら躊躇わせる何ものなのかもしれない。ハイパー個人主義というより個人主義のインフレーションが起こったこの10年は同時に、先鋭性とひきかえに金メッキのように薄く引き延ばされた(新)保守主義が社会の表層にはりついた10年だったといいかえてもいい。カルチャー全体の古典回帰はその背景と無縁ではないと思うし、私もこの数年古典に触れる機会は多かった。小島信夫しかりキャプテン・ビーフハートしかり。それらには制度/形式という組織体が存続するかぎりそこに巣くっていて蠕動する感じがある。かつてそうだっただけでなくいまでもそうなのである。そのとき「私」というものはそこでは、任意の空間における任意の点であるだけでなく、ブラウン運動をする点どうしの特殊な関係性のなかで、不確定性原理に似た対象との関わりを持たざるを得ない。となると、「社会は存在しない」という観点と、(ポスト・)フェミニズムをあわせて検証することになり、煩雑かつ長大になるので避けるが--後者については、『ゼロ年代の音楽 ビッチフォーク編』(河出書房新社)という本があるのでそちらを参照ください--ゼロ年代以降の「私」のうしろには公約数が控えているのではなく無限の匿名性が広がっており、もとが匿名的だったダンス・カルチャーの停滞はゆえなきことではなく、無数のジャンルが乱立したのは反動かもしれない。しかしそれぞれが音楽の制度であるジャンル・ミュージックとの関係を特殊に保つかぎり音楽はいくらか延命する可能をのこしている。ビーフハートのようにわかれないものとして、歴史のなかに宙づりになって。
 彼はいまは絵描きとして暮らしているが、ほんとうにまた音楽をはじめるチャンスはゼロなのだろうか。そう思う間もなく、浜崎あゆみの入籍より2週間も早く、ビーフハートは鬼籍に入ってしまった。

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 キャプテン・ビーフハートことドン・ヴァン・ブリートは2010年12月17日に没した。その2週間前、高校の同級生で『トラウト・マスク・レプリカ』をプロデュースしたフランク・ザッパの命日にあたる12月4日に、トークショウで湯浅学氏とザッパについて話した。
「ザッパはキャプテン・ビーフハートの才能に嫉妬してはいなかったでしょうか?」
 私はそう訊くと、湯浅氏は「それはあっただろう。ビーフハートみたいに形式を無視した音楽を作ったひとは、ザッパのような音楽主義者には疎んじられただろうが、憧れられもしただろう」
 そう述べたのは、ビーフハートの音楽はデルタ・ブルースを土台にしたが、やり方はブルースを洗練させるものではなく、緊張させ、野生化したのだといいたかったと思われる。それがもっとも顕著にあらわれたのはいうまでも『トラウト・マスク~』だが、その前の2作『セイフ・アズ・ミルク』『ストリクトリー・パーソナル』にしてもブルースに収まりきらないものはある(後者は彼らの英国ツアー中にマネージャーが勝手にだしたものだが)。ただ遠心点をどこに置くかには迷いというか、若干の逡巡はかんじる。逆説的にいえば、ブルースはおろか、音楽さえも追い越す音楽をこの世に生み出すことの畏れを乗り越えた結果、この世に生まれたのが『トラウト~』だったといえる。それほどこのアルバムはたいへんな戦いの涯に生まれた。「作曲8時間、練習1年、録音1週間」かかったとこのアルバムは語り草になっている。しかし筆舌に尽くしがたかったのは、音楽よりヴァン・ヴリートの意を汲むところにあった、と当時マジック・バンドの一員だったズート・ホーン・ロロことビル・ハークルロートは『ルナ・ノート』(水声社)で『トラウト~』の制作過程を述懐している。
「俺はなんとなくもう『奴隷犬』みたいになりかけていた。不可能と思われるパートの練習に三時間も悪戦苦闘し続けて、豚のように汗まみれになっていたのを思い出すな。実際、それは絶対に不可能だったんだ! 最終的に俺はその八十パーセントぐらいを達成し、俺にできる限りのことはやったという結論に落ち着いたが、それは実に九ヶ月の間この曲を練習続けた後のことだ! 何より最悪なのは、どこで曲が終わるか、曲の長さがどのくらい引き延ばされるのか、いつ変更されるのかもわからない。はっきり言ってドンの気まぐれ次第だったんだ」

 ヴァン・ヴリートはほとんど弾けないピアノを叩きながら『トラウト~』の曲を作曲し、マジック・バンドのメンバーに声音を使ったり色や情景で説明したりしたという。カリスマといわれるミュージシャンにありがちな過剰な自意識がそこに絡んでいるようにみえる。しかしそのエゴはただ肥大して存在を誇示するのではなく、周囲を飲みこみ、世間と衝突する運命にあった。およそ最悪な独裁者といわれてもしょうがないヴァン・ヴリートのコントロール・フリークぶりと疑心暗鬼と独善性は、彼の音楽が理解されないことへの怒りの裏返しであり、また同時に理解され得ない音楽に執着せざるを得ないみずからへの苛立ちの反動でもある。ロバート・ジョンスンが十字路で悪魔と取り交わした契約に、69年のドン・ヴァン・ヴリートは手を染めた......と書くと情緒的に過ぎるが、それほど『トラウト~』の異質さはロック史に鮮烈にのこっている。そして、つけくわえるなら、サマー・オブ・ラヴの時代の悪魔はすくなくとも戦前よりトリッピーだったはずだ。
 ハークルロートはこうも述べている。
「ドンの創造力というのは、純粋に音楽的な意味では、あまり明確な形を持ってないんだな。むしろものの見方が彫刻家の目なんだよ。音も、体も、人も、全部道具として見ているのさ。結局彼のバンドの一員としての俺達の使命は、彼の持つイメージを、何度でも再生可能な『音』に変えることだった」
 ハークルロートが彫刻家にどんなイメージをもっていたかはわからない。しかしヴァン・ヴリートの音楽をこれほど的確に表す評言もない。ポリフォニーともヘテロフォニーともいえる音楽の構造を空間の奥行きに置き換えたキャプテン・ビーフハートと彼のマジック・バンドは、フィル・スペクターやビートルズがスタジオに籠もって行った実験を、灼熱の砂漠にもちだしたといっても過言ではない。ビーフハートにはオーディオマニアックな人間がよろこぶ立体感やら奥行きやらはない。がしかし、どもるようにシンコペートし、強迫神経症のようにイヤな汗をかいたままループするフレーズの数々は、一音一音がそれぞれを異化し、触れられるほどの物質感をもっている。前からだけでなく、後ろからも斜めからも眺められる。賢明な読者のみなさんはもうお気づきかと思うが、それはまるでサイケデリックな体験の渦中のようだ。


追記:浜崎あゆみの入籍から3日後、元ジャパンのベーシスト、ミック・カーンが物故者になった。『トラウト~』の13曲目、"Dali's Car"と同名のバンドを元バウハウスのピーター・マーフィと再始動しようした矢先の訃報だった。ヴァン・ヴリートと同じく絵描きであり彫刻家でもあった彼のベース・ラインは音楽の規範を逸脱した、ハークルロートにならうなら、まさに彫刻的なものだった(とくに『錻力の太鼓』のアイデアは、ホルガー・シューカイとジャコ・パストリアスをつなぐものだったとも思う)。
 ともにご冥福をお祈りします。

Rick Wilhite - ele-king

 ここ数年でブリアルのセカンド・アルバムとザ・XXのデビュー・アルバムを繰り返し来ている人は、デトロイト・ハウスの暗い冒険における第三の男による25年目にして最初のオリジナル・フル・アルバムを気に入るんじゃないだろうか。試しに最初の3曲を聴いてみるといい。アマゾンのサイトで聴ける

 2010年は、最初の3枚のシングルを編集した『ザ・ゴッサム&ソウル・エッジ』と自身が経営するレコード店の名前を冠した、デトロイトとシカゴのディープ・ハウスのコンピレーション『ヴァイブス・ニュー&レア・ミュージック』の2枚のアルバムを発表したリック・ウェイドが、2011年新春は彼にとってのファースト・アルバムをリリースする。『アナログ・アクアリウム』がそのタイトルである。"アナログ"という言葉にはもちろんアンチ・デジタルという意味が込められている。デリック・メイからムーディーマン、あるいはDJノブがときに主張するここ最近の"アナログ"志向は、なんでも新しい技術を受け入れればいいとういものではないという、ある種の抵抗運動である。この正月、僕は静岡でデリック・メイのDJを聴いた。デリックが「ここだ!」というタイミングで激しいイコライジングを繰り返しながらミックスするロバート・オウェンスの"ブリング・ダウン・ザ・ウォールズ"をしっかり受け止めることができたオーディエンスは決して多くはなかったが(90年代が懐かしすぎる!)、しかし相変わらず3台のデッキとミキサーを使って"演奏する"彼のDJは、目新しさはないものの、依然としてフロアを揺るがす力を持っている。とくにリズムにアクセント付けるためのあのこまめなイコライジングはいつ聴いても感心する。あれだけやれば、誰もが踊ってやろうという気になる。
 リック・ウィルハイトにおける"アナログ"もイコライジングにあるが、デリック・メイのリズミカルなそれとは違う。彼の仲間のひとり、セオ・パリッシュと同じように、ウィルハイトはより過剰に、サイケデリックと呼びうる領域まで音域を変化させる。『アナログ・アクアリウム』は、そうしたデトロイト・アンダーグラウンドの生演奏による作品だ。

 しかし......"アクアリウム"と呼ぶには抵抗があるほど、これはダーク・ソウルなアルバムである。スリーヴアートはカラフルだが、どう考えても中身の音楽とリンクしない。冒頭にも書いたように、スタイルこそ違えどブリアルやザ・XXのような真夜中の音楽だ。とりわけセオ・パリッシュとオスンラデが参加した"ブレイム・イット・オン・ザ・ブギ"、スリー・チェアーズの第四のメンバー、マルセラス・ピットマンが参加した"ダーク・ウォーキング"の2曲はデトロイト・アンダーグラウンドの闇のなかの光沢を魅力をたっぷりと見せつける。最小限の音数で、最大限の叙情を引き出す"ダーク・ウォーキング"もまたその真骨頂である。とくにマニアックなリスナーなら、嫌らしいほど一見単調な反復のなかに細かい変化を付けていく"コズミック・ジャングル"と"コズミック・スープ"の16分に陶酔するだろう。それでもアルバムの白眉はビリー・ラヴが逆立ちしながら呻いているような、さかしまのソウル・ミュージック、"ミュージック・ゴナ・セイヴ・ザ・ワールド"だ。ムーディーマンとも似た淫靡さがナメクジのようにうごめく、いわば打ちひしがれたミュータント・ファンクである。

 『アナログ・アクアリウム』を聴けば、ムーディーマン系のディープ・ハウスもマンネリズムに陥っていると思っているリスナーも考えをあらためるのではないだろうか。スリー・チェアーズにおける第三の男は主役の座に躍り出ようとしている。何よりも彼らにアナログ主義という主張がある限り、デトロイトの実験的なハウス・ミュージックはまだまだ先に進みそうだ。

These New Puritans - ele-king

 昨年のはじめにリリースされたディーズ・ニュー・ピューリタンズ(以下TNP)のセカンド・アルバム『ヒドゥン』を、今頃になって取り上げるのは他でもない、英国メディアが2010年の重要作としてこぞって賛辞を送るからである。『NME』などは年間ベストという特待ぶりだ。TNPとは何だろうか。クラクソンズらとともに2008年のシーンに浮上し、「ニュー・エキセントリック」等の呼称でメディアから祭り上げられた彼らは、身体性よりも観念を上位に置く点で、ブリティッシュの伝統に眠るプログレッシヴ・ロックの血統を呼び覚ます存在であったとも言えるだろう。セカンドとなる本作においてその傾向はいよいよ強まっている。一方でエディ・スリマンが惚れ込み、ディオールのショーに楽曲提供、また本人たちもモデルとして登場するなどデビュー当初からメジャー感のあるバンドでもあった。方法としては、ダークでミニマルなポスト・パンク的アプローチで強烈に異世界を立ち上げる。ポップ・マーケットにおいて、恋でもなく人生でもなく、種としての人類の卑小さを歌う。それが周囲に比して際立った存在感を放ち、批評性を帯びていることはよく理解できる。UKシーンはこうしたバンドの登場を欲していたわけである。

 しかし、音楽的な評価については少し注意を払いたい。TNPがおもしろいのは、純粋に音のためではないと思うからだ。「iPodのイヤホンなんかのしょうもない音で聴いていたら、きっと新しいスピーカーが欲しくなるだろう。信じてほしい、これはバング&オルフセンを強奪してでも聴く価値がある。(NME)」実際には、おそらく本作の基調を成すブラスや教会風のコーラス隊は、音楽制作ソフトやシンセサイザーなどにプリセットされている音源であり、生音のダイナミズムといったものはない。どちらかといえば平板でちゃちなものである。むしろここで名状されている「iPod」的な音環境にフィットするとさえいえる。しかし、こう考えるのはどうだろうか。本作がおもしろいとすれば、バング&オルフセンなど出る幕のない、こうした平板さのためである、と。

 TNPの佇まいや世界観には、英国中世への幻想をかき立てるところがある。ケルトの森、そこで束縛なく生きるアウトローたち、トラディショナルな楽器が奏でる陽気な舞曲、湿気と冷気にエキゾチックに覆われた伝承的な世界。そして、それを脅かす鎧と剣の世界。TNPのモチーフに重なるのは後者である。"ウィー・ウォント・ウォー"の「ウォー」のイメージは近代戦争ではありえない。トラック半ばで丁寧に「シュキン!」という長剣の音がフィーチャーされているが、その「シュキン!」は、我々が映画やアニメ、ゲームで親しんだファンタジックな中世を象徴するような音だ。本当のところがどうであれ、あの音をきくと無意識に宝飾や意味ありげな刻印のある西洋の剣を思い浮かべるだろう。シャーマニックなドラムと勇ましいブラスに縁どられ、呪文のようなつぶやきがミニマルな展開で高揚を生むこのポスト・パンク・チューンは、CGをふんだんに使った制作費何十億円という歴史ロマンやファンタジー映画が持つ、不思議な平板さを感じさせる。

 けっして論難するのではない。この平板さにリアリティを見たいのである。彼らは生楽器や西洋音楽の正統を継ぐブラス・アンサンブルを、まるで抵抗なくフェイクな音で代用する。彼らが好む中世や古代のイメージもまさに大衆映画的なもので、しっかりと考証されたものというよりはいつか見た勇者とお姫様のRPGのそれと本質的には変わらない。立体的で肉感的な世界をペラペラに圧縮するものである。歴史や時間性を簡単に飛び越えてしまう。本作は、そのようなCG/ゲーム/アニメ的な想像力で成り立ったアルバムである。ただし「虚構の世界をテーマとしたコンセプト・アルバム」などといったものとはおよそ違う。彼らにとってゲーム/アニメ的な世界はコンセプトなどではなく環境なのではないかと思える。音の安っぽさやファンタジー風の世界観はネタではない。彼らにとってオーソドキシーやオーソリティといったものは最初から意味を失っていて、このいびつで半出来なゲーム的音楽こそがリアリティなのではないか。ゲームに詳しくないのだが、それはニンテンドーのピコピコをサンプリングするという態度とも違っている。古い機器に対するフェティシズムを伴う、そんな批評的な遊戯ではない。これは自然であり環境。2次元的な虚構の世界だということは百も承知だけど、でもそんなのはもう普通で、みんなそうでしょう?と。べつに現実の世界にとくに期待するわけでもないし、任意に選んだ好みの世界で、好きなことをやっているだけなのだ、と。よってTNPの音を「ディストピア・ミュージック」として評価するのであれば、彼らの趣味性ばかりでなく、彼らの思惑を超えたところで、その在りよう自体が図らずもポスト・モダンのディストピア的な側面を体現しているととらえるのが正確だ。それはグローファイ/チル・ウェイヴ的な音について、政治的な批評性を欠く逃避音楽だとする「大人」たちからの批判に、「いや、これはオルタナティヴなサイキック・リアリティを伐り拓くものである」と応酬した「チョコレート・ボブカ」のマックレガー氏の言葉にまで繋がっていくだろう。

 "5"のリリックに「すべての木々が歩きはじめ、すべての河が話しはじめる」という部分がある。『NME』誌は「ここにおいて彼らは"タイム・ゾーン"(1曲目)の葬送のモチーフから自然の再生へと円環する」と結論しているが、そのリリックには決定的な続きがある。「それってデジタル操作でそうなるだけなんだけど」。あらゆる情報が平板な一画面に並ぶ世界に彼らと我々は生きている。『ガーディアン』誌はダーティ・プロジェクターズやヴァンパイア・ウイークエンドを引き合いに出しながら、インターネットが可能にした彼らのグローバルな感覚と想像力をTNPにも見出そうとしている。モニター上ですべてのことが起こるこの底の抜けた世界で「ほんとうのこと」とは何か。そこでは木も歩き、河も言葉を話す。TNPはこうした世界をデフォルトとして生きることで、音に強度と説得力とを獲得しているのだろう。

 『ガーディアン』に、1月12日掲載の「ロック・イズント・デッド、イッツ・ジャスト・レスティング(ロックは死んでない。ただ休んでいるだけ)」と題されたブログ記事がある。これは同紙がたきつけた『NME』との「ロックは死んだ」論争のひとつのアンサーだが、週間チャートに占める割合の低さなど全体的なロック不況を指摘しながらも、大きな跳躍力でもってロック・バンドが前線に飛び出てくることを期待する文章である。やはり、というか、もちろんUK国内でもロックの不調に対する深刻な認識があるのだ。これを休息ととるか衰微ととるか、次に何が生まれてくるのか、それとも何も生まれないのか。こうした黎明とも薄暮ともおぼつかない状況下で、オアシス系のコミューナルなバンド・サウンドではなく、TNPというプログレ的なひきこもり音楽に国内メディアの期待が集まっているのはとても興味深いことだ。

 ちょっとちょっと、これは格好いい! 2011年注目のひとつ、相模原のヒップホップ・クルー、シミラボ(SIMI LAB)からアース・ノー・マッドの"Don't Touch Me feat. QN From SIMI LAB"のPVが到着した。待望のアルバム『Mud Day』は、〈SUMMIT〉より3月25日にリリース予定。

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