「S」と一致するもの

Your Favorite Music About Rain - ele-king

 梅雨入りどころか、先週は記録的な大雨。靴下まで濡れるし、傘は面倒だし、電車やバスに乗っても、街を歩いていても、良い気持ちになれません。
 しかし音楽は、これまで、数多くの雨にまつわる曲を生んできました。下手したら、晴天の曲よりも多いかもしれません。“雨に唄えば”、“セプテンバー・イン・ザ・レイン”、“悲しき街角”、スコット・ウォーカーの“イッツ・レイニー・トゥデイ”、ボブ・ディランの“激しい雨”、忌野清志郎の“激しい雨”、ザ・ビートルズの“レイン”、レッド・ツェッペリンの“ザ・レイン・ソング”……、エコー&ザ・ビバインーメンの“オーシャン・レイン”、プリンスの“パープル・レイン”、アデルの“セット・ファイヤー・トゥ・ザ・レイン”……ザ・サルソウル・オーケストラにもトム・モウルトンのミックスした“サン・アフター・ザ・レイン”があります。アンダーグラウンド・レジスタンスにもアシッド・レイン・シリーズの“ザ・レイン”というハード・テクノがあります。ブリアルの“アーチェンジェル”には、真夜中の雨の気配が横溢しています。宇宙を創造するサン・ラーには、“ザ・レイン・メーカー”があります。
 とにかく雨の音楽は、あまりにも多くあります。ニーナ・シモンの“アイ・シンク・イッツ・ゴナ・トウ・レイン・トゥデイ”、マディー・ウォーターズの『アフター・ザ・レイン』やザ・テンプテーションズの『ウィッシュ・イット・ウッド・レイン』、さもなければザ・レインコーツを聴きたくもなるでしょう。
 雨は、ザ・ビートルズの“ロング・アンド・ワイディング・ロード”に歌われているように、往々にして、敗北、試練、冷たさ、孤独、人生の悲しみなどの暗喩として使われます。自分に相応しすぎるので、ここはひとつ「雨ニモマケズ」で……、いや音楽ファンらしく、雨のまつわる音楽を聴きながら過ごしましょう。エヴリシング・バット・ザ・ガールが『雨のない砂漠のように』と言ったように、雨が降らなければ乾いてしまうのです。ムーディーマンの盟友、ノーマ・ジーン・ベルには“ラヴ・ミー・イン・ザ・レイン”という曲があります。
 それでは、ぜひ、読者のみなさまからの「私の好きな雨の音楽」もメールして下さい。

My Favorite Music About Rain

野田努

1. RCサクセション – 雨上がりの夜空に
2. Horace Andy - Ain't No Sunshine
3. The Beatles - Fixing A Hole
4. Mute Beat - After The Rain
5. Ashra - Sunrain
6. Velvet Underground - Who Loves The Sun
7. Carpenters - Rainy Days And Mondays
8. The Jimi Hendrix Experience - Still Raining Still Dreaming
9. Herbie Hancock Rain Dance
10. Faust ‎– It's A Rainy Day Sunshine Girl

伊達トモヨシ(Illuha, Opitope)

Steve Reich - It's Gonna Rain

ライヒの初期作品は理論的にはラップトップで簡単に再現出来るんだろうけど、その音楽の持つ力はきっと再現出来ない。ライヒの作品を聴くと初期から現在に至るまで、理論的な音楽では再現出来ないものが音楽の中にしっかりと存在しているといつも思う。「音楽とは何なのか?」という根源的な命題を提起するから、僕は今でもたまに思い出しては彼の音楽を聴く。
「雨の音楽」ということで真っ先に思い浮かんだのは、この歌の曲名というよりも「rain,rain,rain」という音の響きだった。ライヒは何故、数ある音の中から"It's gonna rain"を選んだのか。雨の音楽というテーマをもらうまで、そのことを考えて聴くことはなかったけど、少なくともライヒ自身はあえてこの言葉と音を選んだに違いない。おそらく雨の音のミニマリズムに端を発しているであろうこの曲は、雨という現象を表す単語が「レイン」という響きを含む単語でなかったら、この音楽は生まれなかったんじゃないかと思う。
 三部作になっているこの音楽において最初の「rain,rain,rain」というレゾナンス、つまり「ウィーンウィーンウィーン」という音楽的な反響の存在によって、音楽的な成功を納めていて、この曲の存在があってこその作品で、正直なところ後の2曲は技巧的ではあっても音楽として1曲目ほどの力はない。雨というミニマリズムと「レイン」という音楽的な単語の偶然の一致に対する驚きが、この音楽を作品にまで至らしめたように感じられてならない。音楽の言語起源説を想起させるこの作品は、論理や言語では表現しえない、音楽でなければならない理由が存在しているライヒならではの音楽だ。
 今日はたまたま雨だったので、雨音のなかでこの歴史的な音楽を聴いてみた。雨音という自然現象のなかに内包されたミニマリズムの美しさを抽出して作品化するという芸術のあるべき姿を僕はこの曲に見る。梅雨時の低気圧によって低下する免疫能がもたらす憂鬱も、雨音のミニマリズムへの歓喜で乗り越えられる。

ヨーグルト

Malcom Mcdowell - Singin' in the rain

 すぐ頭に浮かんだのは、マルコム・マクダウェルが映画『時計じかけのオレンジ』のなかでアドリブ全開で奇妙なダンスを繰り広げながら、マルコムの仲間達が縛り上げた無抵抗の老人を何度も蹴り飛ばす場面。
 「雨に唄えば」を朗らかに歌いながら、強盗と強姦を犯すマルコムマクダウェル。まったく褒められた行為ではなく、むしろ最悪な状況を映し出しているのに、映像の美しさと「雨に唄えば」のノー天気なメロディーと、マルコムのすっとぼけた歌声が凄惨な場面を中和しているような不思議な後味が残り、時計じかけのオレンジを見たあとは、雨が降ると脳裏をマルコムマクダウェルがよぎるようになったのは自分だけではないはず。
絶対にこんな奴に自宅に強盗に来て欲しくはないんだけど…… 


山田光(hikaru yamada and the librarians)

 パッと思いついたのがブリリアント・グリーンとThis Heatの曲しか無く、これではマズいということで、”rain”と打ち込んだ自分のiTunes検索窓から雨空を見上げて思い出した曲を挙げさせて頂きます。

Rhodri Davies Ko Ishikawa - Three Drops Of Rain / East Wind /Ocean
ヴァンデルヴァイザー楽派のアントワーヌ・ボイガーによる笙とハープのためのコンポジション。空白も多いが今聴くとちゃんと標題音楽に聴こえる。つまり梅雨にボーっと聴いても最高!

Gil Evans & Lee Konitz - Drizzling Rain
邦題が驟雨とつけられた菊地雅章の曲。リー・コニッツと晩年のギル・エヴァンスのデュオですがこれはほんとにオススメです。素朴で手探りなピアノは貴重。梅雨そのものに浸れそうな曲想。気分転換にはならない。

Cory Daye - Rainy Day Boy
雨の音と雷がちゃんとサンプリングされている都市音楽。外goしましょう!

小畑ミキ - 雨はいじわる
一人GSというジャンルが昔あったそうで、グループサウンズ風の楽曲を歌う60年代のアイドルの人。最近では自殺したと思われてたフレンチポップのアイドルがFacebookに現れてファンを驚かせた事件などありましたが、この人もシングル6枚出して引退後は消息不明、その後自身の犬猫写真をアップしているサイトにアイドル時代のことを書いて再発見されていました。(現在は削除)。

Dominique Barouh et David McNeil - Sur Un Barc, Sous La Pluie
ピエール・バルーの元妻の歌唱による可愛い曲。邦題が“ベンチで、雨の中”。可愛くて雨のなかで聴いても空気変わります。ドミニク・バルーさんが歌っている曲はこの世に4曲しかないのですが、そのうち1曲をまだ聴けていません。持ってる人いたら連絡ください。

木津毅

1. Tom Waits - Downtown Train
2. Bonnie “Prince” Billy - Raining in Darling
3. The National - England
4. R.E.M. - I’ll Take The Rain
5. Bruce Springsteen - Wreck on The Highway
6. Rihanna - Umbrella feat. JAY-Z
7. Bob Dylan - Buckets of Rain
8. Buddy Holly - Raining in My Heart
9. 尾崎紀世彦 - 雨のバラード
10. BJ Thomas - Raindrops Keep Fallin’ on My Head

 必ずしも雨は降っていなくてもいい。でも雨の歌では歌い手の心は濡れていてほしい……と思って選んだら、(リアーナも含めて)どこぞのおっさんのような並びになってしまいました。けれども雨の歌は、中年がむせび泣くようなウェットな感覚をかばってくれるのでこれでいいのです。おそらく。「ダウンタウン・トレインに乗れば 今夜、きみに会えるだろうか/すべての俺の夢が まるで雨のように ダウンタウン・トレインに降り注ぐ」……。

竹内正太郎

金延幸子 - 空はふきげん

ブレイディみかこ

1.The Beatles - Rain
2.The Pogues - A Rainy Night In Soho”
3.Eva Cassidy - Over The Rainbow

 天候に恵まれない国に住んでいると、いつの間にか自分も人と会った時にまず天気の話から入る。という悪癖を身に着けていることに気づきますが、いつも天気について文句を言っているUKの人間にジョン・レノンが喝を入れたのが “Rain”。「雨だろうが晴れようが心の持ちよう一つだ」という歌詞はブリット・グリットの真骨頂。サウンド的にも、ビートルズはオアシスがやってたCHAVアンセム路線をオアシスよりうまくやることができたバンドだったとわかります。
 “A Rainy Night In Soho”は、”Fairytale of New York”の雨の日版。これを聴くと、詩人としてのニック・ケイヴは秀才で、シェーン・マクゴワンは天才なんだと思います。
 エヴァ・キャシディが歌った“Over The Rainbow”は、ただもう声のトーンが好きで。雨の多い英国では虹を見る機会も多く、従って願いをかけるチャンスも多いですが、一度も叶ったことはありません。

与田太郎

The Kinks - Rainy Day In June(1966 Pye Records)
The Pogues - A Rainy Night In Soho(1986 Stiff Records)
The Men They Couldn’t Hang - Rain, Steam & Speed (1989 Silvertone)

 今年の梅雨はW杯に釘付けで過ごします。どうでもいいことですが、The Men They Couldn’t Hangのこのアルバムはローゼズの1stと同じ年に同じレーベルから出ました。

GONNO

Frankie Knuckles - Rain Falls
Jon Hopkins - Colour Eye
山下達郎 - スプリンクラー
Torn Hawk - Money Becomes Only Itself
Suzanne Kraft - VI
Jon Hassel - Rain
Central Line - Waling Into The Sunshine

ダエン(duenn label)

John Hassell_Brian Eno - Delta Rain Dream
Steve Reich - It's Gonna Rain
Ellen Allien - Sun The Rain(Tim Hecker Remix)
Bebu Silvetti - Spring Rain
The Beatles - Rain
西田佐知子-アカシアの雨がやむとき

 雨の中では霧雨が好きです。そんな雨好きアンビエントっ子な私がセレクトしてみました。よろしくどーぞ!

大久保潤

The Beatles - Rain
Burt Bach - Raindrops Keep Fallin' On My Head

 いずれも少年ナイフのカヴァーが好きです。

橋元優歩

1. Julianna Barwick & Ikue Mori - Rain and Shine at the Lotus Pond
(‎FRKWYS, Vol. 6) - Rvng Intl.
2. Baths - Rain Fall (Cerulean) - Anticon
3. Serengeti & Polyphonic - My Patriotism (Terradactyl) - Anticon
4. 多田武彦 - 雨
5. Pavement - Carrot Rope - Domino
6. Anna Ternheim - Summer Rain (alternate take feat. Nina Kinert, Ane Brun, First Aid Kit and Ellekari Larsson of The Tiny)

松村正人

Rain Tree Crow - Rain Tree Crow - Virgin / 1991
Stanley Cowell - Musa - Ancestral Streams - Strata East / 1974

 レインツリーは別名モンキーポッドといい、雨を予知し雨が来る前に葉をたたむのでこの名前になったらしいが、ほんとうは陽の光に反応し明るいと葉を開き暗くなると閉じる。アメリカネムノキともいい、大江健三郎の連作短編の題名にも同じことばがあるけれどもそちらは想像上の「雨の木」だろう。それより日立製作所の「この木なんの木」の木といったほうが通りがいいだろうか。
 レイン・トゥリー・クロウは1991年に結成した、デヴィッド・シルヴィアン、ジャンセン、バルビエリ、カーンからなる、つまりジャパンのリユニンであり、アルバム1枚で終わってしまったが、一昨日のような梅雨寒の日にこの冷たく湿った彼らの音楽はしっくりくる。小糠雨にふさがれた昨日のような日は雨の曲ではないけれどもスタンリー・カウエルの絹でできた驟雨のようなソロ・ピアノをいつまで聴いていたいが、私は梅雨のはっきりしない天気は好きではない。極寒か酷暑かどっちかにしてほしい。

三田格

1. フィッシュマンズ - Weather Report - Polydor(97)
2. Missy Elliott - The Rain(Supa Dupa Fly) - Elektra(97)
3 . Gazebo - I Like Chopin(小林麻美/雨音はショパンの調べ) - Baby Records(83)
4. Madness - The Sun And The Rain / Stiff Records(83)
5. Rihanna - Umbrella - Def Jam Recordings(07)
6. The Rolling Stones - She's A Rainbow - London Records(67)
7. Cornelia - Stormy Weather - Exceptional Blue(12)
8. Jon Hassell + Brian Eno - Delta Rain Dream - Editions EG(80)
9. Howard Devoto - Rainy Season - Virgin(83)
10. Ashra - Sunrain - Virgin(76)
11. ヤプーズ - 大天使のように - テイチクエンタテインメント(88)
12. Roxy Music - Rain Rain Rain - Polydor(80)
13. J.D. Emmanuel - Rain Forest Music - North Star Productions(81)
14. 大沢誉志幸 - そして僕は途方に暮れる - Epic/Sony(84)
15. Madonna - Rain - Maverick(93)
16. Normil Hawaiians - Yellow Rain - Illuminated Records(82)
17. 川本真琴 - 雨に唄えば - Antinos(01)
18. John Martyn - The Sky Is Crying(ElmoreJames) / Independiente(96)
19. 山下達郎 - クリスマス・イブ - ワーナーミュージック・ジャパン(83)
20. Felix Laband - Rain Can - African Dope Records(02)
次 RCサクセション - 雨の降る日 - ユニバーサルミュージック(13)
or Felt - Rain Of Crystal Spires - Creation Records(86)

 年間で300から400近くの映画を観るけれど、そのうち50本は邦画に当てている(週に1本ということですね)。洋画は10本観て5本が外れ だと感じ、邦画は10本観て9本が外れだと感じる。この時に覚える深い脱力感を乗り越えてなお前進できるネトウヨが果たしていまの日本にどれだけ いるだろうかと思いつつ、それでも僕が邦画を観ているのはもはや怖いもの見たさとしか思えず、なかば平衡感覚を失いながら「『女子ーズ』観た?」 などと木津くんにメールしてしまう(返信は「そんなコワいもの観ませんよー」という常識ライン)。そのようにして右翼も遠巻きにさせる邦画界では ありますが、ひとつだけ名作の法則があります。洋画だと食事のシーンがよく撮れている作品はたいてい名作だと言われるように(粉川哲夫しか言ってない?)、邦画は「雨」がよく撮れている作品は名作の可能性が高く、最近だと、あまり好きな監督ではなかったのに(つーか、『ユリイカ』を観て3日も偏頭痛で寝込んだというのに)青山真治監督『共食い』が非常によかった。ATGのような憂鬱を表現する「雨」ではなく、激動を伝える「雨」が よく撮れていて、その意味が最後にわかるところも驚きだった。……しかし、それにしても、ほかにサンド、デムダイク・ステア、レインコーツ、カン、 ユーリズミックス、クインシー・ジョーンズ、チャンス・ザ・ラッパー…と、レイン・ソングはあり過ぎでしょ〜。マニック・ストリート・プリー チャーズによる『雨にぬれても』のカヴァーは途中までペイル・ファウンテインズにしか聴こえないのはご愛嬌。

シノザキ サトシ(禁断の多数決)

The Cascades - 悲しき雨音
武満徹 - Rain Spell
Ashra - Sun Rain
Ellen Allien - Sun the Rain
Gene Kelly - 雨に唄えば
Madonna - Rain
谷山浩子 - 催眠レインコート
Jon Hassel and Brian Eno - Delta Rain Dream
B・J・Thomas - 雨にぬれても

高橋勇人

1. LIBRO - 雨降りの月曜
2. Don Cherry - Until The Rain Comes
3. Pharaoh Sanders - After the Rain
4. MarkOne - Rain Dance
5. Little Dragon - Stormy Weather
6. Jephe Guillaum and Joe Clausell - The Player Acoustic Mix-
7. Pinch - Angels in the Rain
8. Nick Cave & The Bad Seeds - Ain’t Gonna Rain Anymore
9. Leonard Cohen - Famous Blue Raincoat
10. Prince - Purple Rain

the lost club

the lost club - ”rain”

照沼健太

Beck - Mutations

しんしんと降る雨が、あきらめ、寂しさ、悲しみ、心地よさといったさまざまな色に染まりながら、やがて止んでいく。そんなアルバムだと自分では思っています(妄想)

白井 哲

荒井由実 - ベルベット・イースター

二木信

井上陽水 - 夕立

天野龍太郎

Burial - Dog Shelter
cero - 21世紀の日照りの都に雨が降る
Chance The Rapper - Acid Rain
Faust - It's A Rainy Day, Sunshine Girl
Randy Newman - I Think It's Going To Rain Today
Ray Charles - Come Rain Or Come Shine
Tom Waits - Rain Dogs
遠藤賢司 - 外は雨だよ
大瀧詠一 - 五月雨
テニスコーツ - 雨パラ

25年間生きてきて、雨というものの楽しみかたを僕はまだ持ちえていない。雨は大っ嫌いだ、不快だ。本もレコードも洗濯物もダメにしてしまうし。有史以前より雨という気象現象とつきあってきた人類が、雨への対策法としていまだ傘と雨合羽という原始的な道具を用いている、というのはなんて馬鹿げたことだろう! ……とりあえず僕は心底雨を憎んでいる(全身がすっぽり入るカプセルみたいなものがほしいなあ)。
昔のロックンロールやリズム・アンド・ブルースには雨についての歌って多いように思う。日本のフォークにも。ブリアルのトラックに聞かれるレコードのスクラッチ・ノイズはまるで雨の音みたいだ。ところで、ビートルズには「雨なんて気にしないよ」という“レイン”があるけれど、ローリング・ストーンズには雨についての歌ってなにかあったっけ……?

畠山地平

大滝詠一 - 雨のウェンズデイ

 1982年発売の大滝詠一のシングル『雨のウェンズデイ』。雨はウェンズデイ? 何故か腑に落ちるものがある。これが詩の持つ力なのかと納得していたのだけど、水曜日という名称からして、水という言葉が入っているではないか! まさか大滝詠一のオヤジギャクなのか。
 雨が降る海岸での男女の別れを歌った曲という事で、ここで描かれているシーンは有りがちなのだけど、どこか遠い昔に起きたことのようなそんな気がしてくる。大滝詠一の音楽はアメリカン・ポップスのものなのだけど、この歌詞の感性は万葉集の東人のような、そんな古来からの、そして貴族ではなく、土民たちの感性を感じてしまう。80年代に描かれる大滝詠一の愛はウクライナ問題、放射能、中国の海洋進出、集団的自衛権など世界や日本がシビアな状況になりつつあるいま、ある意味虚無感すら漂わせる距離を感じてしまうがゆえに、逆に心に響くのかもしれないと思った。

The Unofficial England Football Anthem - ele-king

 いよいよW杯が近づいてきました。テレビではワールドカップ特集番組……というか、(フットボールでもW杯でもなく)日本代表応援番組ばかりで、こればかりはこの16年変わりませんね。いや、私らはワールドカップそのものを楽しみたいんです。なのに……、椎名林檎の歌ばかり聴かされるわけですよ。彼女に罪はないけれど、他にも音楽はあるでしょう。“イフ・ザ・キッズ・アー・ユナイティッド”をかけろとは言いませんが、ベタなところでも“ソウル・ボサノヴァ”とか“マス・ケ・ナダ”とか、選択肢はたくさんあります。
 こういうときに、冗談と情熱のわかる音楽家が非公式のW杯テーマソングを作ってしまうのが、英国です。オルタナティヴ・フットボール・アンセムとして、勝手に自分たちの歌にしてしまうこともしょっちゅうです。最近ではリリー・アレンが自分の歌をアンセムにしろと宣伝しましたが、なんとブレイディみかこさん情報によれば、モンティ・パイソンの非公式のアンセムが話題になっているようです。
 曲名は「いつも人生の明るいところを見ていこう」……
 歌詞は「いつも人生の明るいところを見ていこう」「たとえ人生が腐っていたとしても」「落ち込んでいるなんてバカだぜ」「人生はそもそも不条理なのさ」「楽しもうよ、これが最後のチャンスなんだよ」などなど……はははは、すでにイングランド代表の敗退が決まっているかのような……そう、負けたからって、「なにを失うっていうんだい?」
 翻って我が国に、こうした皮肉屋の居場所がないっていうのも寂しい話ですよね。勝ち気な文化ばかりっていうのも疲れるものです。ええ、もちろん私も日本代表を応援していますよ。来週から、寝不足の日々が続きます。がんばりましょう! 

Monty Python - Always Look On The Bright Side Of Life (The Unofficial England Football Anthem)

Blood Orange - ele-king

 アーケイド・ファイアの“ウィ・イグジスト”のヴィデオに『アメイジング・スパイダーマン』のアンドリュー・ガーフィールドが女装して出演したことが話題になったが、フロリダのパンク・バンド、アゲインスト・ミー! のローラ・ジェーン・グレイスが「どうしてスター俳優を使って、本物の“トランス”の俳優を起用しないんだ」と批判したそうだ(彼女は自身がトランスジェンダーであることをカミングアウトしている)。わからなくもない。僕もヴィデオを観て、国際的大スターであるガーフィールドがアーケイド・ファイアのステージで自分を解放する姿に少しあざとさを感じもしたからだ。が、それでも僕がアーケイド・ファイアをどちらかと言えばかばいたいのは、あくまで彼らのメッセージが「わたしたちは存在する」だからだ。性の多様性を訴えることは、「本物」の当事者、少数派だけに許されることではないし、非当事者が入ってくることでこそ動くこともある。

 チル・アンド・ビーという暫定的なサブジャンルはいつしかインディR&Bと言われるようになり、そしてそれは昨年終りごろにブラッド・オレンジ『キューピッド・デラックス』が高く評価されることでピークを迎えることとなった。昨年暮れからの愛聴盤だというひとも多いだろう。そしてインディR&Bとは、男たちが自身のなかの女性性、あるいは性の多様性を発見する試みであった。と、断言したくなってしまうぐらい、このアルバムには青年シンガーによる悩ましいまでのフェミニンさ、あるいはポップに開かれたクィアネスがある。
 テスト・アイシクルズ、ライトスピード・チャンピオンズとコロコロと音楽性を変えてきたことが必ず言及されるハインズだが、僕にはブラッド・オレンジの音楽性においてもっとも自身を解き放っているように聞こえる。その生い立ちにおいて孤独を覚えることの多かったであろう黒人青年は、つねにゲイ・カルチャーが身近にあり、そして雑多なマイノリティたちの集まりのなかに自分の居場所を見出してきたという。NYに拠点を移し、まさに雑多な人間たちの力を借りて作り上げたどこか拙さの残る彼のR&Bはしかし、その歌のエモーショナルさ、狂おしさにおいて美しい官能性を帯びている。ため息交じりに女性ヴォーカルと交わる“チャマキー”における滑らかな肌触りのアンニュイさ、“イット・イズ・ホワット・イット・イズ”、“チョーズン”においてゆったり訪れるエクスタシー……。85年生まれの彼の幼少期の記憶にかすかに残っているのかもしれない、80年代~90年代初頭のR&Bにファンク/ソウル感覚もまぶされ、ここにはノスタルジックなムードも煌めいている。
 もっともダンサブルなファンク・トラック“アンクル・エース”ではホームレスのLGBTの日々が歌われているそうだが、ここで思うのは、それはハインズ自身ではないかということだ。家がないということ、普通にはなれないということ、疎外感とナイーヴさと、その孤独においてダンスするということ。ある意味ではアイデンティティが定まっているゲイよりも複雑な頼りなさがここにはあって、それがブラッド・オレンジの音楽の原動力となって聴き手の心の柔らかい部分に入ってくる。ここには「ウィ・イグジスト」と強く叫ぶような主張はなく、その代わりに、誰にも知られないようにこっそりと自分自身の官能を許すことの快感がある。セクシャリティとは数種類に分けられるものではなく、それぞれのなかでグラデーションを描きながら複雑に息づくものである。当事者/非当事者と線引きは、本当はできないはずなのだ。
 ラストのバラッド“タイム・ウィル・テル”のゆったりとしたビート、ピアノとコーラスの優しい響き、そしてハインズの変わらずイノセントな歌はアルバムの終幕をどこまでも感動的なものにする。「僕のベッドルームにおいで」、それは社会の規律に縛られない性を謳歌することを誘っているようだ。「僕のベッドルームにおいで/もう言葉はいらないだろう/僕たちは毎日年を取っていく/僕たちは誰かを愛さなきゃならないよ」。

Nousless (GOODWEATHER CREW / NOUS FM) - ele-king

東海のダブステップDJ。ピュア、ディープ、レゲエ等のサウンドをヴァイナルでサポート。専門ラジオ「NOUS FM」を各週配信する。

■DJスケジュール

6/6: GOODWEAHTER#36 - P Money & Royal Japan Tour (at CLUB JB'S)
Acts: P Money / Royal-T / Part2style Sound / Skyfish / チャックモリス
MINT a.k.a. minchanbaby / HyperJuice / CE$ / SAV / Nousless / ind_fris

6/17: 平日GOODWEATHER (at CLUB JB'S)
Acts: DJ Ykk / Kim morrison / DJ noonkoon / DJ UJI / SAV / Nousless

近年のヴァイナルオンリー・ダブステップ10選


1
Killwatt - Killa Dinna / Killa Inna Jungle-Ruffcut

2
V.I.V.E.K - Mantra EP -SYSTEM MUSIC

3
J:Kenzo - Magneto (Feel It) (VIP) / Ricochet (VIP) -Tempa

4
DJ Madd -High Grade / Judgement Time (Remixes) -1DROP

5
Coki - Demonator / Indian Girl -AWD

6
Starkey - DPMO feat. Trim / Poison feat. Leah Smith -Slit Jockey Records

7
Mavado - Dem A Talk (TMSV Dubstep Refix) -Not On Label

8
Commodo - F_ck Mountain / Good Grief -Hotline

9
D-Operation Drop - Rockin Da Nation feat. Idren Natural / Addis Abeba-Lion Charge Records

10
Hi5 Ghost - Kung Fu Kick / (Kahn & Neek's Happy Slap Remix) -Bandulu

 ワールドカップ開催まであと1週間となった今、私の住むメキシコシティでも、人びとは浮き足だっているように見える。
 メキシコでサッカーは国民的スポーツだ。2012年のロンドン・オリンピックで、メキシコのサッカーチームは金メダルを獲得したが、まさにその瞬間、私は外科手術入院の日であり、国立病院のテレビの前で、患者も見舞客も医者も看護婦も警備員も飛び上がって大騒ぎしている姿を目の当たりにしたのだった。そんな状況で手術が成功したのは言うまでもない。執刀医の士気を高めてくれた、メキシコのサッカーチームに感謝せねばならない。
 もちろん、一般のオフィスでも、サッカーの重大な決勝戦の日には、社内に大型テレビが持ち込まれ、業務中の観戦タイムが設けられる。もしもサッカー中継を見ることができない会社があったら、ブラック企業にされかねない。

 サッカーを含む、多くのスポーツがビジネスの材料となり、ワールドカップやオリンピックのような祭典の影には、大きな利権が絡む。国際的スポーツの祭典で生まれるナショナリズムは、民衆の意識をうまくコントロールのために利用される。
 そういった理由から、私はサッカーを含むスポーツ全般をどうしても素直に受け入れられず、暇があればテレビのサッカー中継にチャンネルを合わせる夫を冷ややかに見てしまう。ワールドカップ中には、その冷戦は激化するだろう。いや、彼もサッカーの裏のビジネスや問題に気づいている。それでも、その熱狂を断ち切ることはできないのだ。

 さて、ワールドカップが開催されるブラジルで、現地の一般のひとびとは、どのように捉えているのだろう。そんなことを知る足がかりとなるのが、今年日本公開された映画『聖者の午後』(フランシスコ・ガルシア監督)だ。
 サンパウロを舞台にし、フリーターの男女カップルと、祖母の家に居候して客がほとんど来ないタトゥースタジオを経営する男という、うだつのあがらない三十路の3人を軸に展開する。この3人は友人なのだが、いつも飲んだくれて、ウジウジとした話ばかりする。テレビやラジオでは、ワールドカップやオリンピックの経済効果や発展を鼓舞するニュースばかりが流れる。しかし、自分たちには何も反映されていないような虚しさ。働き、学校を出たところで豊かな生活が待っているわけではないと、絶望的なことを言いながらも、そんなウジウジを言い合える仲間がいることや、いつもテレビを見たまま居眠りしているけど、ただそこに変わらずにいる祖母の存在で、微笑ましい気持ちになるのが、この映画の救いだ。なんだか、日本や世界のいたるところで共通していそうな虚無感でもある。


映画『聖者の午後』予告編(配給:Action,Inc.)

 いっぽうで、ブラジルの生々しい現実を伝える映画もある。
ここ数日、メキシコを含む、世界のネットメディアやSNSで話題になっている、デンマークのミケル・ケルドルフ監督のドキュメンタリー『The Price of the World Cup』だ。

 ストリートチルドレンの更正支援団体の代表や、その団体が作った元ストリートチルドレンたちによるサッカーチームのメンバー、現在も路上で暮らす子どもたち、ファベーラ(低所得者層居住区)の住人たち、ブラジル人権委員会、活動家たちへのインタヴューが収録され、丁寧に作られている。

 ブラジルでは、ワールドカップ関連の建設物のために20万人近くが立ち退きになったなか、ファベーラでも、最新鋭ロープウェイの路線建設のために、多くの家が立ち退きにあった。その住人のひとりは、「ロープウェイは地元の人びとが利用するためではなく、発展の象徴として、外国人たちに見せつけたいのよ」と語る。
 ブラジルのストリートチルドレンの数は24000人以上とされるが、映画では2013年だけでも道に暮らす210人の子どもたちが殺されている事実を露にする。
 ブラジル人権委員会代表は、その件に関し、「ワールドカップ開催場所付近のストリートチルドレンたちを、政府や警察、軍が、民間人を雇って殺害している」と語る。
 また、ワールドカップ開催にむけての費用をかける企業が多くなったため、資金援助を得られなくなったストリートチルドレンの更正支援施設が、閉鎖に追い込まれていると、支援団体の代表は語る。
 「そのなかには、児童売春をしていた子どもたちの更生施設も含まれている。施設が閉鎖されたら、子どもたちはまた路上に出て、売春をすることになるだろう」
 映画は、スタジアム1件の建設費用で、ブラジルの公立小学校がどれだけ建設できるかという疑問を投げかける。
 かつては路上で暮らし、更正施設を経てから、現在は仕事もし、アパートで暮らす青年は、「恋人と一緒に暮らしているんだ。路上にいる頃は、こんな生活が訪れるなんて思ってもみなかったよ」と言う。そして、彼は社会支援団体が作った元ストリートチルドレンたちによるサッカーチームの選手となり、サッカーを心から楽しんでいる。

 映画は、誰もがあたりまえに持つ権利を、あたりまえに持てない状況があることを捉え、ブラジルでの大規模なワールドカップ反対運動が起こることになった問題の根幹について触れているのだ。

 ワールドカップ開催目前にして、日を追うごとに激しさを増すブラジルの反対運動の様子を窺っていて、まっさきに頭に浮かんだこと。それは、1968年10月2日、メキシコシティオリンピックの開催反対のため、メキシコシティのトラテロルコ地区の広場に集まった、学生を中心とした400人近くが、メキシコ政府によって虐殺された事件だ。
 学生たちは、国がめちゃくちゃな状態なのに、オリンピック開催とはとんでもないと反対運動を起こしたが、政府は軍を使い、広場に集まった人びとをヘリコプターを使って射撃した。広場を埋め尽くした血は、一日のうちにきれいに洗い流され、虐殺事件は、なかったことにされた。それから10日後、メキシコシティオリンピックは、全世界から注目されるなか、華々しく開催された。
 後にこの事件は、メキシコの歴史上の汚点と呼ばれ、毎年10月2日にはこの日を決して忘れないために、メモリアル・デモが開催される。

 このトラテロルコの事件から46年経ったいまも、メキシコの問題は山盛りであり、人びとは毎週のようにデモを決行する。教育法や税法改革、石油の民営化に反対する市民たち、土地を剥奪された農民たちや、権利を訴える先住民たち、暴力に反対する女性たち、政治犯解放を訴える家族や恋人たち、仲間たち、殺されたジャーナリストたちの遺族たち.....まるでデモの週替わりメニュー状態である。
 デモは交通機関が麻痺するし、道が閉鎖されて、迷惑だと多くの人びとが口にする。でも、不満や怒りすら、外に向かって言えなくなったときこそが恐ろしいのだ。
 先にも述べたように、サッカーにあまり興味がない私だが、デモで大通りが閉鎖になったのを利用して、露天商の人びとがサッカーを始める瞬間が好きだ。
 都会の真ん中に突然空いたスペースで、空き箱をゴールに見立てて、人びとが生き生きとサッカーする姿は、いつまでも眺めていたい。
 きっとそこには、純粋にサッカーを楽しむひとたちがいるという安心感があるからだろう。

 最後に、ラテンアメリカを代表するメキシコのミクスチャーロック/スカのグループ、マルディータ・ベシンダーの曲「Pura diversión(純粋な娯楽)」のヴィデオを紹介したい。このヴィデオは、メキシコシティのゲットーのなかのサッカーコートで撮影された。

 テレビを眺めているのは退屈すぎるから
 俺はサッカーコートへ行くよ
 地元の仲間たちと遊ぶんだ
 俺のワールドカップをやるんだ
 ストリート・サッカーには金はない
 純粋な楽しみなんだ
 本当のサッカー
 自覚のサッカー
 ここには暴力はなく楽しみだけだ

M. Geddes Gengras - ele-king

 2013年暮れ、久々に再会したゲド・ゲングラスはいまだに興奮冷めやらぬ様子でアクロン・ファミリーとしての初来日の思い出を語りまくっていた。「モスバーガーはバーガーの形をしているけどバーガーじゃないよな!」「公衆便所キレイ過ぎ!」僕は彼が存分に日本を満喫してくれたことを確信し、安堵した。

 ゲドは変わらず多忙な男だ。いやむしろさらにクソ忙しくなっている。サン・アロー(Sun Araw)のプロデュースやサポートはもちろんもちろんのこと、同じくサン・アローのキャメロン・スタローンと主宰するダピー・ガン(Duppy Gun)、数多くのLAローカルのアーティストのプロデュース、最近はピュアX(Pure X)のサポートとしてもツアーを回り、その合間を縫ってはテクノ・プロジェクトであるパーソナブル(Personable)と本人名義での活動をフェスティヴァルでの演奏からアートギャラリーでのインスタレーションまで拡大させている。誰もが彼をリスペクトするのがおわかりになるであろうか?

 ゲドと出会って間もない頃、僕はおそらくこれまで彼の人生で頻発しているであろうやりとりをした。「ゲドってクールな名前だよな。だって……」「ウィザーズ・オブ・アースシー(邦題:ゲド戦記)だろ?」「……そう。あの本は子どものときに読んでトラウマになったよ」「ありゃドープ・シットだぜ」なんたらかんたら……。
 マシューデイヴィッド(Matthewdavid)が主宰する〈リーヴィング・レコーズ〉より今月末にLPがドロップされる『イシ(Ishi)』は、『ゲド戦記』の著者であるアーシュラ・K・ル=グウィンの母親、シオドラ・クローバーの著書『イシ 北米最後の野生インディアン』を下地に彼のモジュラー・シンセジスによって紡がれた壮大なアンビエント叙事詩だ。高校生のゲド少年がこの著書に出会い、衝撃を受け、後に自身のフレーム・ワークの中に落とし込んでいったというのはなんともロマンティックだ。いい意味で生半可でないニュー・エイジ思想をプンプンに感じさせる近年の〈リーヴィング〉からのリリースというのも納得だ。


pAradice (Life Force / Library Records / △) - ele-king

三軒茶屋のDJbarカルチャーで育って、現在Life ForceにてDJ、装飾担当、東高円寺Library Records水曜の人。
今年は定期的にmixもつくっているのでよろしくお願いします。
https://soundcloud.com/dj-paradice

DJ Schedule
6/7.8 ”天狗祭” @おおばキャンプ村
6/13 "MARK E 『Product Of Industry』Release Party @air
6/14 "Psychedelic Session" @天狗食堂
6/21 "Casaverde" @Grassroots
6/27 "Moringa" @横浜Galaxy

6/28 "LifeF Force" @Unice にmixerとして参加します!
  DJ:Asusu,Mana,Inna https://lifeforce.jp


カフェで聴く一枚、モーニングからミッドナイトまで(時間経過とともに)

Owen Pallett - ele-king

 名が知られるにつれ当然変えざるを得なかったわけだが、このひとのアーティスト名はやっぱり「ファイナル・ファンタジー」でしかなかったんだなといまでも思う。最近、かつて彼が異常なほどプレイしていたのがシリーズの「6」だと知ってからはなおのことだ。「6」は僕もずいぶんプレイした。小学生のときはよくわかっていなかったが、あれは幻獣と呼ばれる「あちら側」の世界の住人と人間とのあいだに生まれた少女が主役の物語で、そのセカイから疎外された彼女に幼き日のオーウェンが同調していたのだろう、というのは短絡的な想像だろうか。しかし、ファイナル・ファンタジー時代の“メニー・ライヴス -> 49MP”などはまさにゲーム世界を連想させる大仰さと華麗さがヴァイオリンの旋律によって炸裂していて僕は大好きなのだが、ライヴ演奏でそれが再現されるとき、挿入される叫び声も含めて全部自分でやってしまうのには感心を通り越して呆れてしまった。すべては自分の内側で完結する世界、そこで繰り広げられる壮大な物語。カナダの田舎町で育った大人しそうな青年は、そこでこそ自分を解き放っていたのだろう。

 アーケイド・ファイアのライヴ・メンバーをはじめとして、ベイルート、グリズリー・ベアにR.E.M.と客演は挙げればキリがなく、最近では間もなく公開されるスパイク・ジョーンズ『her』の映画音楽も手がけているオーウェン・パレット。ヴァイオリンの演奏やストリングスのアレンジメントを生かし見事に北米のインディ・シーンの超重要人物となっている彼だが、自身の作品においてはどうも職人の仕事、という佇まいになっていかない。いや、ゲストの数が増えなんとブライアン・イーノも参加しているオーウェン・パレット名義での2作め『イン・コンフリクト(葛藤のなかで)』は、全体としてよくまとまったバンド演奏が聴ける、「人数」を感じさせるものとなっていて、楽器が増えたオーケストラのアレンジもシンセ・サウンドの使い方もずいぶんこなれてきている。だが、極端に抽象的で難解な歌詞を伸びやかに、どこか達観したように歌うオーウェンの声を聴いていると、この音楽の作り手の抜き差しならぬ何かが込められていることがすぐさま察せられてしまう。

 そう思えば、彼のこれまでの歩みはまさに、「ファンタジー(幻想)」からオーウェン・パレット自身へと分け入っていく過程だったのかもしれない、というのもまた短絡的だろうか。前作『ハートランド』は架空の世界の神たる自分と、(おそらくは別れた恋人である男性を反映させた)ルイスというその世界の登場人物との対話という、どこか自己セラピー的な様相を孕んだコンセプト・アルバムだったが、『イン・コンフリクト』にはそのような入り組んだ装置もなければ、ファイナル・ファンタジー時代のディープな妄想世界もない。ライナーノーツによれはアルバムのテーマは「狂っていること」だそうだが、代わりにあるのは、危うい精神状態に置かれた人間による秩序のない独白である。たとえばタイトル・トラックの最後、「失うものは何もない、失うものは何もない、失うものは何もない」、そう繰り返す人間を前にしてぎょっとしないのは難しい。

 しかしライナーノーツではその狂気について「肯定的にアプローチしている」と説明されていて、なるほど、そう言われれば聴いていて受ける感触はどこまでも優美で、開放的と言ってもいいだろう。イーノがシンセを弾いているという“ザ・リヴァーベッド”などはアップテンポでヴァイオリンがドライヴするアルバムのハイライトと言える一曲だが、「落胆は君を威圧する下へ下へ下へ」と一節にギクリともする。が、そこにはたしかにスリリングな音楽的疾走があるのだ。もっとも不穏な“ザ・パッションズ”ですら、歪んでいながらも気が遠くなるほど美しい光景で終わっていく。同性愛者としての生の不安、錯乱めいた繰り言、次々に頭のなかに浮かんでは消えていく膨大なイメージ。そうした素材を集めるオーウェンはしかしヴァイオリンをあくまで華麗に鳴らしながら、思わずうっとりと聴き入ってしまうほどエレガントなチェンバー・ポップを作り上げてしまう。
 これを聴いていても、わたしたちはこの複雑極まりないオーウェン・パレットの内的世界を理解できるわけではない。が、たとえば昨年ザ・ナショナルのブライス・デスナーがクロノス・カルテットと組んでやっていたストリングス作品のアカデミズムと比べてみても、オーウェンはもっとポップなフィールドで、何よりも自分の感情を響かせようとしている。『イン・コンフリクト』はだから、現代を代表するアレンジャーの粋が詰まった作品という以上に、ひとりの表現者の狂おしい内側の震えに共振するスリルそのものである。

 この映画を観てから先日のボブ・ディランの来日公演に行ったものだから、ステージ上の「フォークの神様」(……それとて彼のいち部でしかないわけだが、)の余裕綽々ぶりには思わず笑ってしまった。抑制の効いたバンドの演奏は疑いようもなく素晴らしく、その上でディランは声を張り上げることもなくつぶやくように、時折笑みを見せながら歌っていた。そうだ、半世紀前からフォーク・ソングを歌っていたこの男の以前にも同じようにアメリカに眠る伝承を歌っていた連中はいて、ディランは彼らの遺産を存分に吸収した結果そこにいるのだ。自分が負っているものなんてもちろんわかってるさ、そんな笑い。この映画、『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』はディランが負っている物語のひとつ……歴史の隙間に埋もれていった連中の姿を映し出している。
 NYはグリニッジ・ヴィレッジの売れないフォーク・シンガーであるルーウィン・デイヴィスのある冴えない1週間を本作は綴るのだが、彼のモデルはディラン登場直前にNYで活動したデイヴ・ヴァン・ロンクであるという。宣伝では「ディランになり損ねた男」だとも紹介されているが、要するに1960年代初め頃のNYのフォーク・リヴァイヴァル・シーンにいたひとりであり、いま歴史を振り返ったときにピート・シーガーやアーロ・ガスリーらよりもほとんど見過ごされがちなミュージシャンである。映画が描く「1週間」という短さは、彼らのほんのひとときの人気を示しているようで何とも切ない。

 が、冷静に考えてみれば「ディランになり損ねた男」なんてディラン以外全員なわけで、これは特別な話でも何でもない。そうして見れば、ミュージシャン志望のダメな青年のグダグダな日々を描いている「だけ」の普通の青春映画と言ってよく、そしてその普通さこそがいい。カネのない青年が寝泊まりする場所がないから仕方なく元カノの家に行ったらぞんざいに扱われ、しかも「妊娠したから」と金を要求されるなんて、いまでも身近で聞きそうな話ではないか……。たしかに60年代の冬のNYという舞台は絵になっている、が、時代も都市も必ずしもそこでなくていい。ただひとつだけ、ダメな青春の傍らには音楽があってほしい、そう思えてくる映画だ。彼らにとってそれがたまたまフォークだったのだ。
 コーエン兄弟の映画はどうにも技巧が技巧として目立ちすぎるのもが多くちょっと入りづらい思いをしてきたが、『ノーカントリー』を経て『トゥルー・グリット』から少し何かが変わったように感じる。制作総指揮にスピルバーグがいたことも関係したのかもしれない、「ただのアメリカ西部劇」みたいな普通さになっていて、そうすると名優ジェフ・ブリッジスが歴代のガンマンからの血を受け継ぐように見えたのである。『インサイド・ルーウィン・デイヴィス』におけるオスカー・アイザックもまた、映画が何度となく描いてきた未来に迷う若者のひとりに見えてくる。(本作も、脚本などはちょっと凝りすぎかなーとは思うものの)コーエン兄弟は自らのテクニックを提示することから少し離れ、ただ大きく広がる「映画」に身を任せはじめたのかもしれない。
 どうして映画が繰り返しダメな若者の日々、その迷いを描かなければならないのかと問われれば、それが映画の宿命としか言いようがないのではないか。なぜなら彼らは「未決定」そのものだからである。次に鳴らされる音を探すために音楽を聴くように、次に映し出されるものを夢見ながら僕たちはスクリーンに目を凝らす。それはつねに「未決定」であったほうがいい。僕たちは歴史のあとにいるから彼らのあとにボブ・ディランがいることを知っているが、画面のルーウィン・デイヴィスはそんなことも知らず、ラスト、スクリーンから僕たちに挨拶を交わす。彼らはその瞬間を生きた、それだけのことだ。

 Tボーン・バーネットが監修したサウンドトラックもオーセンティックなフォーク・ソング集としてなかなかよく出来ていて、オスカー・アイザックもマムフォード&サンズのマーカス・マムフォードもジャスティン・ティンバーレイクも頑張っている。が、ラスト2曲、ディランの正式音源としては初となる“フェアウェル”とデイヴ・ヴァン・ロンクがしゃがれた声で歌う“グリーン、グリーン・ロッキー・ロード”が全部持って行ってしまう、そんな一枚だ。ここはやはり、かの時代を封じ込めたミュージシャンたちの迫力勝ちといったところだろう。

予告編

娘の家出 - ele-king

「いつか大きくなったら、わたしは美しい女になる/いつか大きくなったら、美しい少女に/だけどいまは、わたしはひとりの子ども/今日のところは、男の子」(“フォー・トゥデイ・アイ・アム・ア・ボーイ”)

 アントニー・ハガティが歌った少年の繊細な性の揺らぎを、日本のマンガ表現においてやってのけたのが志村貴子『放浪息子』だった。「女の子になりたい男の子」である修一の思春期の歩みは、「性同一性障害」や「トランスジェンダー」という言葉で括られることはなかった。ただ「未決定」であり、「今日のところは、男の子」である少年の日々を淡々と、しかし時折ぎくりとするほど生々しく描いた、この国における性的少数者を巡る傑作である。「この国における」というのは……たとえば似たテーマを持ったジョン・アーヴィング『ひとりの体で』と比べてみると、『放浪息子』には政治や社会への視点は希薄である。せいぜい家族や学校という最小の「外界」を通して修一は自分の内面と、それを受容する/しない社会の入り口と対峙していくことになる。つまり、日本には性的なはぐれ者が逃れられる場所がまだ見えにくい場所にあるということだろう。
 長い連載を経て修一は高校生になり、身体的にはむしろ「男」になっていく。最終話を読み終えた僕は少年の物語にこんな終わらせ方があるのかと驚いたものだ。何か決定的な成長があるわけでもなく、これからも性の境界をまたいでいくことが示唆されるばかりなのだが、しかし思春期の重大な問題はひとつの決着を見せている。逃げ場所はなくとも、少年は大人になるし社会は待ち受けている。ひとりの少年が「美しい女」になれたかどうかなど、関係なく。それでもその最終話には、修一はいつかきっと美しい女になるだろう……そう思わずにはいられなかったのだ。

 志村貴子の新作『娘の家出』もまた思春期の少女たちを描いてはいるが、『青い花』あたりと比べてみてももっとフツーの女子高生たちが主役となっている。ただ、1巻の中心となる少女まゆこの両親は父親が男の恋人を作って家を出たことで離婚しており、物語はまゆこの母親が再婚するのをきっかけに父親とその恋人の家に「家出」するところからはじまる。状況だけ書くと「フツー」ではないがしかし、ゲイであることを隠して結婚したものの年をとってからセクシャリティを隠し通せなかった人間など、じつは珍しくも何ともない。とくにこの国では。それは社会がカミングアウトを受容していないからと言えるかもしれないし、当事者であるゲイたちの社会を変えるために闘う覚悟がまだ足りてないともいえるのかもしれない。いずれにせよ、まゆこの父親は結婚と性の自己決定に一度は失敗した、この国の中年ゲイらしいサンプルである(そこには世代の問題も絡んでくる)。
 しかしながら興味深いのは、まゆこの父親(俊夫)とその恋人の家がある種の逃げ場所として機能していることだ。まゆこが家出するだけでなく、気がつけば俊夫の妹(彼女も離婚している)とその娘、さらにはまゆこの友人の少女たちもそこに誘われることとなり、いろんな人間が出たり入ったりしている。まゆこの友人たち3人の両親はみな離婚しており、それぞれ家庭の事情で悩んでいるのを見てまゆこは「こんどニーナやぐっちやきゃなこを パパたちの家に連れてってみようかな/あそこ へんな大人しかいないけど ふしぎと居心地いいから」と思ったからだ。俊夫が新たに生活している家は世間的には認められない場所であるはずだが、このマンガに出てくる人間たちにとってそこはたしかに、どこか心地いい場所になっている。

 松島直子『すみれファンファーレ』のすみれちゃんの両親も離婚している。大人の事情に振り回されているはずの小学4年生のすみれちゃんはしかし、とても素直で優しく可愛い女の子で、はじめこそ「こんなにいい子がいるだろうか」と思ったものの、読んでいるとこれは周りの大人たちの話なのだとわかってくる。過去に対する鈍い後悔、誰かへの後ろめたさ、他人への踏み込めなさ……といった主題がなんてことのない日常を描く各エピソードでなかで立ち上がっており、それは巻を重ねるごとにより定まってきているように見える。とくにピアノが得意なクラスメイト、ベンちゃんの父親がアルコール中毒であるとわかってからの彼の描き方が切なく、ケースワーカーや調査員といった社会的な「外部」は現れないまま、ベンちゃんは「お父さんは元に戻る」と幼い妹に言いきかせる。ただそのなかで、何かを信じるように周囲の人間の思いやりばかりが描かれている。そして『すみれファンファーレ』ではあくまでも、すみれちゃんを中心とした心温まるエピソードが丹念に、丹念に綴られていく。
 ひとつ気になるのは、すみれちゃんがいまのところ多くの児童マンガのお約束のように小学4年生をずっと続けていることだ。しかし僕は、(もしそう決めていたのなら)最初の設定を覆してでもすみれちゃんを成長させてほしいと思う。なぜならば、過ぎ去っていく時間こそ「どうにもならないこと」の最たるものであるはずだからだ。実際、4巻ではロシアからの転校生ソンチェフ君が期限付きでクラスにやってきており、そこでは過ぎ去っていく尊い瞬間というものが強く意識されているように思える。

 家族は壊れている、のだろう。しかしそれは旧式の家族を頑なに理想とした場合のことだ。『娘の家出』の少女たち、『すみれファンファーレ』の子どもたちの家族は少なからず問題を抱えてはいるが、しかし彼女たちは逞しい。そしてそのなかで、雑多な他人同士の繋がりやオルタナティヴな共同体が自然発生的に出現しているように感じられる。この国の男たちが作ったシステムがいつまで経っても硬直しているのとは対照的に、女性作家が描く子どもたちはなんだかとてもしなやかで、だから僕はこれらの物語の続きにとてもわくわくしている。

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