カズ・マキノ氏はけっして流暢に話す人ではない。しかし、言葉をさがしながら、回答をさがしながら、正直に真摯に質問に答えようとしてくれることに心を動かされる。そこには、人に何かを伝えることについて、人に何かを届かせることについて、ふと自分(私)の不誠実や不努力を省みずにはいられないような……ひいてはマキノ氏自身が音楽に対してどのように向き合っているのかということを感じずにはいられないような、とても濃い時間と交流がある。
ミュージシャンだってスポーツ選手だって同じだ。言葉たくみにインタヴューに答える必要はない。しかし受け答えから伝わる情報は言葉だけではない。まっすぐなコミュニケーションはときに驚くほどの情報をつまびらかにする。プレゼンに長けた、不況型で超高性能なゆとりアーティストたちもまばゆいが、今回のインタヴューでは、ナインティーズのUSインディが持っていた一種の口の重たさや純粋主義が、社会と時間にすり減らされることなく生きつづけていること、そしてそれが言外に語ることの多さに思わず感動してしまった。
![]() Blonde Redhead Barragán Asawa Kuru / ホステス |
そう、ブロンド・レッドヘッドといえば、ハードコアとジャンクとノイズをアーティに縫合し、スティーヴ・アルビニ率いるビッグ・ブラックや、スリント、ジーザス・リザードなどのカリスマ・バンドを世に送り出してきた名門〈タッチ・アンド・ゴー〉の重要アーティストとして、レーベルの90年代を華やがせたバンドのひとつだ。アルビニがあのおびただしいマイクを向けたのはたとえばドラム・セットにであって、「言葉」にではない。バットホールのギビー・ハインズの裸は、どんな言葉によるエクスキューズよりも雄弁に彼らを語る。レーベル内においては少し異色の佇まいをしているとはいえ、ブロンド・レッドヘッドもそのように「無口」なバンドである。もう20年以上にも及ぶ活動のなかで、語るよりもただ奏でるという、あの佇まいや存在感はまったく変わることがない。イタリア人の双子兄弟(ドラム、ギター)と日本人女性(ヴォーカル、ギター)というソリッドで耽美的なフォーメーションは、そのまま彼らの音のアイデンティティだ。立ち姿と演奏以外は何も必要ないと思わせられるその美しさは、当初のポスト・パンク寄りのジャンク・サウンドがのちに幽玄なサイケデリック色を強め、それに重なるように〈4AD〉へと移籍したのちも、ミステリアスに引き継がれている。
今週、彼らは4年ぶりにして9作めとなるスタジオ・アルバム『バラガン』をリリースする。プロデュースとミックスはドリュー・ブラウン(ベック、レディオヘッドなど)。前作『ペニー・スパークル』(2010年)や、その前の『23』(2007年)がリリースされた折には、「昔のほうがよかった」という向きもあったが、今作を聴けば、それら〈タッチ・アンド・ゴー〉期のものが、〈4AD〉期のもののなかにもずっと息づいていたことをあらためて知ることになるだろう。そしてまた、〈4AD〉以降の艶やかさが、〈タッチ・アンド・ゴー〉期の厳しい美意識に統制されたノイズなくしては発火しないことにも納得するだろう。言葉ではないもの、理屈ではないものが燃えるように渦巻くこの作品は、昔から変わらず、しかし残る灰もないほど激しく熱を帯び、それゆえにおそろしいほどの静やかさを得ている。
■Blonde Redhead / ブロンド・レッドヘッド
日本人女性カズ・マキノと、イタリアはミラノ出身の双子兄弟アメデオとシモーネを中心に、1993年に結成。バンド名はアート・リンゼイの原点と言えるDNAの曲名からとられており、ソニック・ユースのドラマー、スティーヴ・シェリーがプロデュースしたデビュー・アルバムが絶賛されて一躍脚光を浴びた。現在においてもNYアート・ロックの中核を担い、第一線にて活躍するベテラン・バンドとして大きな存在感を誇る。
やっていることはあまり変わってないというか。ただ、記憶喪失みたいな感じで、何度やっても新鮮に感じることができれば、それで十分って思います。あたしがそう感じられれば。
■2012年にチャリティ・コンピを編集されていますよね。『ウィ・アー・ザ・ワーク・イン・プログレス』(*1)という、タイトルもとても好きな作品です。あのとき思ったのは、マキノさんってエレクトロニックな音楽がお好きなんだなということなんです。
*1:東日本大震災被害と復興支援を目的とするチャリティ・コンピ
マキノ:そう! すごく小っちゃい分野のエレクトロニック・ミュージックが大好きで。
■そうなんですね。少し意外でした。コンピには、フォー・テットとかノサッジ・シング、パンサ・デュ・プランスなんかも入っていましたけど、もともとお知り合いだった縁からですか?
マキノ:彼らとはいっしょにツアーを回ったりもしていました。もうすっかり友だちという感じで……。
■ああ、ツアーを回っておられるんでしたね。
マキノ:あたしはあの分野の方へも、あたしたちみたいな分野の方たちへも、どっちにも注意を払っている感じです。そうすると、思いがけないところで交流があったり、お世辞かもしれないけど自分たちの音楽を褒めてくれたりすることもあって。
■ミニマル・ハウスとか、いわゆるLAビート・シーンとか、そういうところとブロンド・レッドヘッドが交差するのがおもしろいなと思っていました。もっと古いテクノやダンス・ミュージックにさかのぼっていったりはしないんですか?
マキノ:うん。そんなによく理解しているというわけじゃないんですけど、少しなら。パンサみたいな友だちからいろいろ教えてもらっていますね。ツアーでいっしょにデトロイトに行ったときに、「あそこへあの人に会いに行こうよ」って、いろんなところに見学に連れていってもらいました。
■へえー! 一方で、テリー・ライリーまで入っていますよね。
マキノ:そうなんです。大好きです!
■たしかに、ブロンド・レッドヘッドの昔の作品にはミニマルな要素もあるように思えますね。もしかして、むしろ原点だったりするんですか?
マキノ:そういうわけでもないんですけどね。でもしいて言えば、エレクトロニック関係の人たちに教えてもらったり、そういう音楽に興味を持つなかで広がっていったものかな……。
■なるほど。他に収録されているライアーズとかディアハンターとかは、より近しいところで活躍しているバンドかなと思うんですが、実際の影響関係を感じたりはしますか? ……時間がないのに、新作のお話じゃなくてすみません!
マキノ:いえ、あたしも興味あるんです、他の分野の人たちには。……えっと、影響関係ですか? ぜんぜん(笑)。
■えっ(笑)。でもリスペクトされる対象なんじゃないでしょうか、ブロンド・レッドヘッドって。
マキノ:うーん、みんな優しくしてくれますけど、尊敬とかはないんじゃないかなあ。はははは。
■えー。でも20年にもおよぶ活動のなかでずっと一線にいらっしゃるというか、活動が縮んでいかないのはすごいですよね。
マキノ:ほんとですか。
■実際どうですか? 日々あたらしいアーティストや音楽が生まれていくわけですけど、自分たちの立ち位置やスタンスみたいなものの変化を感じますか?
マキノ:ははは、崖の淵へとじわじわと……(笑)。
■いやいや。ではなくてですね(笑)。
マキノ:そうですねえ、やっていることはあまり変わってないというか。ただ、記憶喪失みたいな感じで、何度やっても新鮮に──いままでの経験をシチューみたいにずっと煮込んでいくっていうんじゃなくて──感じることができれば、それで十分って思います。あたしがそう感じられれば。
とはいっても、振り返ってみれば自分の好きなものも変わってないなって思ったりもするんですけどね。何か新しいことをやりたいと思ったら、飽きてしまったものは省いていっているつもりなんですけど、結局それは同じものをちがうアングルから見ているだけ……というようなところはあるかもしれないです。
■ということは、やっぱり、バンドにおいて作品の方向性の舵取りをしているのはマキノさんということになるんでしょうか。
マキノ:どうだろう……。
[[SplitPage]]でもあたしはなんか、このバンドの世界はあたしの世界っていうか……。あたしが自分の世界から抜けられないで、ずっとその中にいると、また彼らがそこに帰ってくるっていう感じです。
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■不思議なんですよ。アメデオさんのギター・ノイズも、シモーネさんのあのドラミングも、ブロンド・レッドヘッドの音楽を引っ張る上で絶対に欠かせないものじゃないですか。でもブロンド・レッドヘッド感を統べているのは何なのかという。それはマキノさんじゃないですか?
マキノ:うーん。……そうかもしれない。
■ヴォーカルが入るときに命が吹き込まれる感じはありますか?
マキノ:うん、ヴォーカルっていうかメロディかな。自分でもよくわからないんですけど。
■アメデオさん、シモーネさんは双子ですけど、3人でひとつながりみたいに見えます。話し合いやセッションのせめぎ合いでバンドのダイナミズムが生まれたりするんじゃなくて、ひとつのものから音が生まれてくるというか。
マキノ:そう。でも毎日いっしょにやっていて思うのは、彼らは本当に男の子だなって。集まっていっしょに何時間か演奏したら、そのあとは疲れたから帰るとか、サッカーしにいくとか、すぐに切り替えられるんです。でもあたしはなんか、このバンドの世界はあたしの世界っていうか、こう……それから抜けられる感じじゃないんです。抜けたいとも思ってなくて、四六時中そのことしか考えていないし、それに関係することしかしないのに、彼らはそういうんじゃないんですよね。あたしが自分の世界から抜けられないで、ずっとその中にいると、また彼らがそこに帰ってくるっていう感じです。
たとえばレコーディングが終わると、今度はあたしがジャケットを考えたりする時間がきて、それも音楽と同じくらい時間がかかったりするんですけど、ふたりはぜんぜん関与しなくて、たまに「どうなってるの?」「どんな感じ?」ってきいてきたりしますね。それで、「それはいいね」「これはこうしたほうがよくない?」ってフィードバックしてくれる。あたしはその世界から出られなくなることがときどき嫌になっちゃったりもするんですけど、たぶん彼らとはそういうちがいがあるんじゃないかなあ……。
■性別のちがいというところもあるかもしれないですね。母体、というような言葉が浮かびます。海みたいな、胎内みたいなところ……
マキノ:どっぷり、っていうか、本当に自分で抜けられない世界なんです。彼らはプラクティカルっていうか、そういう意味では普通の世界と行き来できていて、いいなあって思ったりすることもあります。
むかしからその(〈4AD〉期的な)傾向はあったと思うんですけど、それを隠してつくっていたのが〈タッチ・アンド・ゴー〉のころのやつかな……。
■わたしが個人的に好んで聴いていたのは〈タッチ・アンド・ゴー〉からの3枚なんですけども、あのソリッドで殺伐とした空気感、ノーウェイヴィでハードコアっぽさもあって、そういったところがすごく〈タッチ・アンド・ゴー〉というレーベル自体の色をも体現していましたよね。その後の〈4AD〉期はより耽美的なシューゲイズ感を増していて、魅力的なサイケデリックを展開されています。きれいに線引きできないかもしれませんが、こうした転換は意識されたものですか?
マキノ:そうですね……、むかしからその(〈4AD〉期的な)傾向はあったと思うんですけど、それを隠してつくっていたのが〈タッチ・アンド・ゴー〉のころのやつかな……。表面を除くと、みんな同じ要素かもしれないです。
■ああー。
マキノ:どっちの要素もアットホームというか、親しいものかなと思います。ライヴをやっていても、その間を行ったりきたりしていますね。
■なるほど。ではそのだんだん剥き出しになっていった〈4AD〉的なサイケデリック感、耽美的な要素というのは、今作ではいちばんピークに達しているように思えます。
マキノ:聴きました!?
■はい! そういう意味では極点じゃないですか?
マキノ:そうですね、すごく、究極な……。
■『ペニー・スパークル』(2010年)の“ヒア・サムタイムズ”みたいな、ギター・ノイズが入ってこないシンセ・ポップの系統があるじゃないですか。そういうものの究極というか。
マキノ:そうですね、今回のアルバムにはギターはたくさん入っているんですけど、なんていうのかな、それはけっこう悪い癖というか。悪くもないんですけど、わたしたちは、放っておくとスペースが残らないほど音をレイヤードしてしまう傾向があるので、それをなるべくしないように、たくさん空間が残るように、って思ってやってますね。
■なるほど、そのぐしゃっとした感じは魅力でもあるわけですけどね。
マキノ:うん、でも自分たちのなかで空間をつくるような傾向があまりないので、そのぶん努力してやってます。
■“ノー・モア・ハニー”なんかもすっごくかっこいいんですけど、なるほど、たしかにスペースができていて、そのぶんむしろ空気が濃密に感じられるようになったのかもしれないです──あったはずのノイズが吸収されていて。
マキノ:うん。
■あるいはそんな方針が生まれたのは経験とか年齢の積み重ねだったりするんでしょうか? それともたんにいまの好みなんですかね。
マキノ:どっちもあるかな……。でも、新鮮は新鮮で、いまの時代の傾向を見ると、あまりそのようなことをしている人たちはいないのかもしれないですね。
■たとえば“バラガン”のように、マニュエル・ゲッチングとかにもつながっていくようなタイプのアンビエント・トラックもあるじゃないですか。それなんかも同じような考え方から生まれているんでしょうか。
マキノ:うーん、ほとんど何も聴かずに作ったようなアルバムなんですけどね。
■なるほど、元からあったものだと言われれば、そうなのかもという気持ちになります。それが、ノイズの皮をむいたら出てきただけという。
[[SplitPage]]あたしがもしいま音楽をはじめたばっかりだったとしても、おんなじことをやっていると思います。
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マキノ:今回2年かかったんです。実際に残したものはいちばん最初のテイクだったりとかするんですけど、レコードについて考えた時間は2年間。曲を書いていながら、完成する前にやめてレコーディングに入ったりしたんですけど、それは時間がなくて終わらなかったからではなくて、終わらせないほうがいいって思ったからで──贅沢な話なんですけど、書きながら録音しようっていう意図とかはありました。そういうのは考え抜いて決めたことです。
■ドリュー・ブラウンさんの起用はエレクトロニクスとバンド・サウンドをミックスするのに長けているから、というような理由ですか?
マキノ:いや、彼はとにかくものすごくセンスのいい人で、もちろんエレクトロニックへの理解もすごくあるんですけど、彼のいちばんの特徴はライヴ・レコーディングで──いまはもうないようなスタイルで、ライヴ録音できるっていうことなんです。
■なるほど、同期じゃなくて、セッションを大事に考えていらっしゃるんですね。ブロンド・レッドヘッドは。
マキノ:そうですね。それに、80年代以降のシンセサイザーは使わないって。あっても80年代の初めくらいまでで、すべては70年代、60年代のものを使いました。ちょっと好きな新しいキーボードなんかがあっても、それは我慢して。あんまり誰にもわからないようなところなんですけど(笑)、そういうところに妙に気をつけて作ったものです。
■なんというか、ニュアンスとしては「ヴィンテージ」というよりも、変わらないもの、古びないもの、というような感じですかね。
マキノ:そうですね。うん。
■ブロンド・レッドヘッドのイメージに重なります。悪口じゃないんですけど、「吸血鬼か?」って感じに変わらないじゃないですか。老いないというか……
マキノ:あははは!
■ははは! 年を重ねるということについてはどんなふうにお考えです?
マキノ:たしかにやっていることは昔から変わらないと思うんですけど、やっていることに対する重みみたいなものはあるんじゃないかと、ちょっとは感じてるんです。でも、あたしがもしいま音楽をはじめたばっかりだったとしても、おんなじことをやっていると思います。すごく難しいことをしているわけでもないと思いますし。
まあ、いままでやりつづけてきた結果というのは、どうしても、もし欲しくなくても積もっていくものだから。
■老いるのはいやですか?
マキノ:老いるのですか? いや、老いるのがいやというより、老いたということを自覚できないでいるのはいやだなって思います。いや、それもそれなりにすばらしいと思うんですけど、……そういう人ってたまにいるじゃないですか。
■ははは! 老いた自覚のない人ですか。
マキノ:すごいアレなのに、まだ小学校に行くのと同じような恰好をしているっていうような。でも、自分もそのノリになっちゃったりするのかなって思うこともあるんですけどね……。といいつつ、老いるのが怖いわけではないです。
■あと、海外の人からすれば、日本人の女の子ってふうに見られるわけじゃないですか──
マキノ:そうでもないよ。
■あ、そうですか?
マキノ:うん、うん。
自分の言語(日本語)じゃない言語で表現するのって、すごく得っていうか、客観的に、自分のことじゃないみたいに自分のものを作れる。
■なるほど、でも日本の人からすれば、マキノさんは日本でも海外でもない狭間に立つ人という感じがすると思うんですね。そういう狭間から見えるものがあるんじゃないかなって。
マキノ:自分の言語(日本語)じゃない言語で表現するのって、すごく得っていうか、客観的に、自分のことじゃないみたいに自分のものを作れる。日本語でやってたらここまでフランクに表現できないんじゃないかなあって。そこには妙な溝というかギャップがあって、それがあたしにとってはすごく便利っていうか、ちょうどいいっていうか。
だからたまに「日本語で何かやらないの?」って訊かれるんですけど、ぜったいできない!
■あ、やらないというよりできないという感じですか。
マキノ:急に恥ずかしくなって無理だと思います。それはある意味で得なことだと思います。



今年の10月15日、オウガ・ユー・アスホールは『homely』『100年後』に続くニュー・アルバムをリリースします。タイトルは『ペーパークラフト』。すでにライヴではお馴染みで、ele-kingの12インチ・シングルとしてリリースした「見えないルール」のオリジナル・ヴァージョンも収録されています。


