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J Mascis

AlternativeRock

J Mascis

Tied to a Star

Sub Pop / Traffic

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久保正樹   Aug 27,2014 UP

 J・マスキスよりもJ・マスシスと発音するほうがしっくりくる世代のものです。なので、ここではあえてJ・マスシス表記で統一させていただこうと思うのですが、いかがでしょう? ま、どちらでもいいんですが、なかなか思い入れもありまして。J・マスシスといえば、もちろんダイナソーJr.その人であり、個人的な話になるけれど、ダイナソーをリアルタイムで聴いた最初の作品が『ホエア・ユー・ビーン』(1993)なので、ハードコア上がりの疾走感と爆発力を携えた名作『バグ』(1988)、ゴージャスさを増したメジャー・デビュー作『グリーン・マインド』(1991)らに比べるとずいぶんレイドバックしたところから入門しているわけで……。が、しかし、トレードマークの轟音は健在で、翌94年の『ウィズアウト・ア・サウンド』リリース時の来日公演(@新宿リキッドルーム)では、高く積み上げられたマーシャルアンプから繰り出される音の壁に耳をつんざかれ、興奮状態で朦朧とした意識のなか、胸を焦がすこよないバラード“ゲット・ミー”に身をゆだねながら、当時はまだ止めていなかった煙草に火をつけて悦に入っていたものだ。

 そんな話はさておき、97年のダイナソーJr.解散以降、さまざまなバンド・プロジェクトのほか、J・マスシス+ザ・フォッグ、J+フレンズなどの名義でソロ作品をリリースしてきたJであるが、ずばり「J・マスシス」名義のものとなると特別である。前作『セヴェラル・シェイズ・オブ・ホワイ』(2011)では、全編アコースティック&ドラムレスという予想範囲内の(しかし、これまでにない歌のおセンチっぷりは、はるか予想外!)静かな作品を用意してくれたが、3年ぶりの本作も基本路線は変わらず。前作の1曲めには、“リッスン・トゥ・ミー”(俺の言うこと聞いてくれ)なんて謙虚な(?)タイトルをもってきていたが、本作1曲めでは“ミー・アゲイン”(もう一度俺を)などとさらに切実なタイトルからはじまる(Jの歌詞にはやたらと「Me」が出てくるんだな)。しかし、その内容に押しつけがましさなどまったくなく、前作において多分に含まれていた湿り気をいくらか運び去り、からっと晴れ渡る爽快さに満ちあふれている。“エヴリ・モーニング”では、J自身による跳ねまくる軽快なドラムも導入され、彼のトレードマークであるビッグマフ(ファズ)を踏みこんだ太っとく歪むギターソロも飛び出して耳を奪われる。“ヒール・ザ・スター”では、ティラノザウルス・レックスよろしく、Jが心酔するインド文化の影響が垣間見えるラガーでオリエンタルなギター&パーカッションの混沌が現れ、続く“ワイド・アウェイク”では、一変して広大無辺のアメリカーナな景色が広がり、ゲスト参加のショーン・マーシャル(キャット・パワー)の乾いた歌声とともに優しく静かに枯れ落ちる。さらにダイナソーの隠れた名曲“フライング・クラウド”を彷彿とさせるサイケデリック・フォーク“スタンブル”、刷毛でなすったような渋いファズ・サウンドがアコースティック・ギターの背後を薄雲のように流れる“カム・ダウン”など、ラフな作りのなかにも、思わず二度見、三度聴きしてしまう気の利いたアレンジが詰めこまれ——平均年齢80歳のコーラス・グループ=ヤング@ハートのメンバー、ケン・マイウリによる装厳なピアノ演奏もじつに巧妙——パンキッシュなパワーコードと複雑なアルペジオが織り成すリズミカルなギター、そして、なにより、しこたま気が抜けているのに不思議と力強い抑揚をもつ声&メロディの妙がいかんなく発揮されていて、ぐいぐいと惹きつけられる。

 「ダイナソーのアコースティック版」と言ってしまえば、じつにわかりやすくてそれまでの話になってしまうが、ここでは85年のダイナソーJr.デビュー以来、およそ30年に渡って繰り広げられてきたJ節がなんら変わらずに展開されている。しかし、ただのヴィンテージ趣味に終わらないこだわりの歪み、曲の緩急、リズム、声色の高低、ポジとネガ、ピッキングの強弱、ファズの軋みからノイズの取り扱いまで、やる気があるのかないのかまったくわからない感情の起伏に従って、ころころと変わる楽曲の表情の豊かさはこれまでの作品のなかでもピカイチであり、いつになく愛らしくもある。前作同様マーク・スパスタによるソフトでサイケな色づかいと、もふっとした質感の(得体の知れない)ゆるキャラが仲良くたたずむ幻想的なアートワークも、おとぎ話のように浮世離れしたJの音楽をうまく表していて、まるで、手に取りやすいのに捕まえにくい彼の生態そのもののようである。そして、緑と紫に発色し(ダイナソー時代からやたら好んで使われている色の組み合わせ)、苔のごとく生え広がる少しばかりの憂鬱もブレンドされ、そのメランコリアはじわじわと心のひだに沁み入り、胸の内奥をしっとりと濡らしてくれる。

久保正樹