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Spoon

BluesRock

Spoon

They Want My Soul

Loma Vista / MAGNIPH

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木津毅   Aug 25,2014 UP

 この夏はヴィンセント・ムーンの作品集の爆音上映を観に行ったのだが、いかにこの映像作家が2000年代なかばから末にかけてのインディ・ロックの隆盛に彩りを添えていたかに感じ入ってしまった。彼が手がけた名シリーズ『ア・テイク・アウェイ・ショウズ』も一部上映されたが、町の雑踏、その喧騒のなかで活写されるミュージシャンたちの演奏姿は、たとえばカメラを持って街に飛び出したヌーヴェルヴァーグの作家たちの作品群さえも想起させた。それは「いま」音楽を演奏する様をいかに親密に、生々しく記録することができるかという実験が、ひとびとが生活するすぐそばでまさに演奏するという行為によって生命を得る瞬間を捕らえていたからだ。
 その膨大な『ア・テイク・アウェイ・ショウズ』のなかにはスプーンのヴァージョンも当然のようにあるのだが、ほかの多くのミュージシャンと違って室内での撮影となっていたことが興味深い。それは彼らの音楽が、つねにどこか密室的な様相を備えているからではないか。そんな彼らは同時代のインディ・シーンの重要なピースでありながら、どうにも浮いていたようにも感じられる。先ほどの喩えで言うならば、ヌーヴェルヴァーグ以降のロケの特性も当然知りながらスタジオ主義のよき伝統も忘れず、そこに現代的な文脈を与えることに腐心しているというか……スプーンは、時空を超えることのできるロックンロール・バンドだ。

 2010年の前作『トランスファレンス』はバンドの録音に対するこだわりを突き詰めたアルバムであり、この新作は前々作『ガ・ガ・ガ・ガ・ガ』のブルーズやR&Bに根差したソングライティングが戻ってきた作品だとの評判だ。が、タイトル・トラック“ゼイ・ウォント・マイ・ソウル”において、鉄線のようにソリッドなギターが左右のチャンネルに細かく分かれて飛び込んでくるソロ・シークエンスにゾクゾクせずにはいられないことを思うと、あるいは、“ノック・ノック・ノック”で不意に差し込まれる「無音」部分に思わず息を飲むと、やはりそのプロダクションの妙、その実験、その遊びこそバンドの魅力なのだと言いたくなる。そんなロック・バンドが他にどれだけいるだろう? ブリット・ダニエルのしゃがれ気味の声に象徴されているように、ともすればスプーンは男くさい色気を備えたブルージーなロックンロール・バンドだが、それが過去の遺産をなぞっているだけの存在に堕していないのは、紛れもなく彼らが出す音そのものが持つ暴力的なまでの迫力によるものである。録音物が再生されたときにだけ息づく生々しさ……スプーンはそれを思い出させてくれる。できるだけ集中できる環境で、できるだけ良い音が鳴る機材で、できるだけ大きな音で聴きたい。繰り返すが、そんなロック・ミュージックは稀有である。
 とはいえ、たしかに本作ではポップ度が増しているのも事実だ。キャッチーなイントロではじまる”ドゥ・ユー”は初期のパワー・ポップも思い出させる3分台のコンパクトなナンバーになっていて、『トランスファレンス』で目立っていたクラウト・ロック的反復の緊迫感とはかなり趣が違う。そのどちらもスプーンの魅力であるものの、本作はダンサブルな要素もかなり増しており、通して聴いているといい感じに肩の力が抜けてくる。このあたりは、下積み時代の長かったベテラン・バンドの余裕といったところだろう。デイヴ・フリッドマンというこちらもベテラン・プロデューサーの力も借りつつ、厚みのあるドリーム・ポップとなった”インサイド・アウト”など、ディープなナンバーにしても前作のような張りつめ方はない。

 ある意味で、『ゼイ・ウォント・マイ・ソウル』はもっとも親しみやすいスプーンのアルバムとなるのかもしれない。そう思うと抜きん出て愛おしくなってくるのは、初期の楽曲だというラストの“ニューヨーク・キッス”のダンサブルでチャーミングなロック・チューンだろうか。なぜなら、過去の時間軸を巧みに操りながらソウル、R&B、ブルーズ、パンク、クラウト・ロック、パブ・ロック……を行き来する熟練のバンドたるスプーンの飾らない姿がここに出現してしまっているからだ。「いまならわかる いつかなんてない」。スプーンは20年間、いま、この瞬間叩きつける音で誰かの耳と心を奪うことを欲望しつづけたのだ。

木津毅