「S」と一致するもの

 ああ、なんてこった。とんでもないコンピレーション・アルバムがリリースされた──インターネット・ミュージック・ディガーのみんなにはおなじみのブログ、Hi-Hi-Whoopeeがコンパイルした『Meili Xueshan I&II』だ。


 参加ミュージシャンには、『ele-king vol. 12』でもたびたび名前の挙がっていた奇天烈実験音楽家アレックス・グレイことD/P/Iを筆頭に、これまで3作の傑作ミックステープをリリースしているエクスペリメンタルR&Bの急先鋒デュオ18+、〈Beer On The Rug〉からの『TIMETIMETIME&TIME』で知られるYYU、その〈Beer On The Rug〉の主催C V L T S、〈Exo Tapes〉主宰のSofa Pits(=Mediafired=JCCG)、〈AMDISCS〉からの『Fools』も記憶にあたらしいAyGeeTee等々。
 日本からはジュークとエクスペリメンタルを接合する食品まつり a.k.a footman、axion117 + Lidly + canooooopyによるGANGHOUSE FUNGI、ele-kingのDJチャートでもおなじみのあらべぇ(先日、パーティー〈ELMER〉で超限定リリースされたイルビエントな『Bootleg CDR Vol One』も最高だった!)などなど。
 他にもM. Sage、Ahnnu、E+E、susan balmar、James Matthew、Constellation Botsu、Real Clothes、Angel 1、Ñaka Ñaka、Rhucleらも要注目――っていうか、すごいぞ、みんな。

 Hi-Hi-Whoopeeの記事には親切にも各アーティスト(39名!)について詳しい紹介とリンクがついているから、そちらをぜひ読んでほしい。

 とにかくとにかく。これはナカコーも絶賛する、とんでもない、恐ろしいコンピレーションだ。すでに海外では「Tiny Mix Tapes」や「Ad Hoc」が紹介し、反響を広げている。

 インターネットの奥の奥、あるいは裏の裏をかきわけ、立ちのぼる蒸気のその向こう側にそそり立っていたものは、前人未踏のエクスペリメンタルな音が視界いっぱいに広がる美しき秘峰だった! ってな感じなのでダウンロード&リッスン!

ダウンロードはこちらから

Meili Xueshan I

Meili Xueshan II


The Trilogy Tapes、次の動向は? - ele-king

 UKのレーベル〈ザ・トリロジー・テープス(The Trilogy Tapes)〉。その主宰ウィル・バンクヘッド(Will Bankhead)は、古くは〈モ・ワックス〉のデザイン、最近ではアクトレスのアートワーク、また、日本でも人気に火がついたスケボー・ブランド〈パレス(PALACE)〉のアート・ディレクションを手がけつづけていることもあって、多くのカルチャー・ディガーから熱い視線とリスペクトを向けられている存在だ。昨年3月に渋谷ヒカリエでのファッション・ショーとそのアフター・パーティーのために〈フェイド・トゥ・マインド〉のトータル・フリーダムらとともにDJを披露してから早1年。あのレイヴ感を忘れられない人たちも多いと思うけれど、なんと、今年の3月に〈C.E〉のためにカッセム・モッセとともに再来日することをブログでほのめかしている!

「TTT – Tokyo in March for C.E. crew with Kassem Mosse.」
https://www.thetrilogytapes.com/blog/2014/02/14550/

 〈C.E〉については、先日もANYWHERE STOREにて完売となったキャブスTシャツをドロップしたことでも皆さんもご存じでしょう。スケートシングによるグラフィックと凝ったデザインが目を惹きつつ、絶妙なフェミニンさで女性にも人気のファッション・ブランドだ。2014年春・夏向けのルック・ヴィデオでは、なんとアクトレスをモデルとして抜擢! もちろん音楽もアクトレス。ウィルとおなじく〈モ・ワックス〉のグラフィックなどで知られるベテラン・デザイナー:ベン・ドゥルーリーと、ホット・チップのMVやジャングルの海賊ラジオのドキュメンタリーまで手掛けるロロ・ジャックソンがタッグを組んだ映像も美しい。息をのむ緊張感だ。

 とにもかくにも、今年も3月は熱くなりそうだ。続報を待ちましょう。


C.E SS14 from c.e on Vimeo.

bEEdEEgEE - ele-king

 ギャング・ギャング・ダンスの音沙汰がなくてやきもきしていた人たちは少なくないだろう。2011年に予定されていた来日公演は3月に起きた震災の混乱のなかで中止となり、当時の新作『アイ・コンタクト』以降のライヴを日本にいたリスナーは現在まで観ないままだ。運よくリリース直前のライヴをロンドンで観ていた身としてライヴの感想を述べるとすれば、電子機材の多さから音響の調整が難しいからなのかもしれないが、ローやリズムが迫ってくることもないけど、ウワモノが迫ってくるということもなく、そしてリジーのシャーマニックな歌やほかの生楽器が強いわけですらなく、なんともノリどころが掴めないものだった。「(ギャング・ギャングは)ライヴ・バンドだよ」とホット・チップのアレクシスに言われたけども、僕はむしろ反対の意見で、なにが足りなかったんだろうなんてふたりで話したこともある。
 思うに、ギャング・ギャングにはちょっと整理が必要だった。丁寧なミックスで仕上げられたアルバムをライヴでそのまま再現するのは難しかったのだろうけども、再現以外の方法を図りかねてしまったというか。ブライアン・デグロウ(Brian DeGraw)によるシンセやエフェクトへの比重がおおきくなる一方で、生楽器とのバランスがとれないままライヴをしていた印象がある。ダンスのリズムを軸に置きはじめてから、それに絡めとられて動きづらくなっているんじゃないかとも。

 そんなわけで、ブライアンのイニシャル名義の本ソロ作『サム/ワン』は、彼自身がやりたいことをバンドから離れたところで整理するなかででき上がったものとして受けとることができる。
 内容はやっぱりブライアンお得意のシンセサイザー。エキゾチックな旋律の弦。エフェクトの効いたよくわからない楽器やヴォーカル。意味不明なサンプル。逆回転。相変わらず多用されるタムなどの打楽器。それらのチョップ、チョップ、チョップ。ループ、ループ、ループ。ディレイ、ィレイ、レイ……。リズムにはダブステップも感じさせつつ、ハウスやトラップを意識したような節もある。ギャング・ギャングの『セイント・ディンフナ』に入っていたインストを思いださせるし、そこから毒っぽい要素を抜いたら本作のサウンドになるのかもしれない。ブライアンが綺麗な水面に浮かぶ写真が象徴するように、やけにクリーンだ。初期からずいぶんと変化をしたが、本作を聴けば、バンドの変化とはつまりブライアンの変化だったのではないかと感じられる。
 ウワモノにはメディテーショナルな趣もあるけど、ダンスのリズムがリスナーを浸らせない。どうせならダンスから離れたほうにおもいっきり舵をきってみるのも面白かったかもしれない。ソロ作ということでバンドよりもさらに吹っ切れた自由奔放ストレンジなサウンドを聴けるんじゃないかと期待していたら肩透かしをくらってしまうけど、とはいえ、最後の“クオンタム・ポエト・リディム”(量子詩リディム)の無邪気で楽しいヴァイブスを聴けば、子どもといっしょになって踊りたくなる。にくめない。

 本作に参加しているゲスト・ヴォーカルは、ギャング・ギャングのリジー。そのレーベルメイトでもあったダグラス・アーマー。さらには、盟友のアレクシス・テイラー(ホット・チップ)とラヴフォックス(CSS)がおなじ曲で歌っている。同窓会っぽくて微笑ましいけど、さて、整理を終えて、次はどう動くのだろうか。


CHAINE INFINIE PLUS

Tower HMV Amazon

 フリー・モラル・エージェンツが拠点とするロング・ビーチにはサブライムがいたが、レッド・ホット・チリ・ペッパーズやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンなどLAをはじめとして西海岸にホットな拠点を持っていたいわゆる“ミクスチャー・ロック”には、メタルとヒップホップなどジャンル上のミクスチャーという側面とともに、エスニシティやカルチャーにおけるミクスチャーという側面がある。ザ・マーズ・ヴォルタなどをここにストレートに分類するのはためらわれるものの、中心のひとりオマー・ロドリゲス・ロペスがプエルトリカンであり、ラテン・ミュージックを血液としながら、一方でチリ・ペッパーズのフリーやジョン・フルシアンテらを迎え、オルタナのマーケットでシリアスにプログレッシヴ・メタルを展開してきたことを鑑みれば、彼らもまた十分に「ミクスチャー」的な要素のひとつを肥大化させた存在と考えることができるかもしれない。

 フリー・モラル・エージェンツは、そのオマーや相方のセドリック・ビクスラー・ザヴァラ、そしてフルシアンテらとともにマーズ・ヴォルタの黄金期を支え、デ・ファクトやロング・ビーチ・ダブ・オールスターズ等でもオマー、セドリックとともに活動してきた鍵盤奏者、アイキー・オーウェンスが率いるセッション・グループだ。彼はメンバーの多くが黒人であることにもプライドを持っていると述べるが、そこにリプリゼントされているのはブラック・ミュージックというよりも、やはりもっと“ミクスチャー”なものである。若く瑞々しい問題提起があるわけではないが、熟達したテクニックとミュージシャンシップによって音楽的な芳香を放つ彼らは、ニュー・メタルやラウド・ロックの筋骨隆々としたイメージとはかけ離れながらも、そうした音の周辺から生まれ、それをダンス・ミュージックやクラブ・カルチャーに結びつける存在としてじつに堂々たる存在感がある。ジャズロックの煙たさと艶やかさ、サイケデリックなセッション、這うようにして迫ってくるグルーヴが、夜の鷹のように鋭く魅了する。アルバム後半にゴシックなシンセ・ポップまで開陳するリーチの長さは、鍵盤奏者としてのオーウェンスの幅でもあるだろう。過去のシングル「ノース・イズ・レッド」(2010年)ではトニー・アレンにリミックスを依頼しているが、本作ではLAビート・シーンの俊英としてその登場がいまだ鮮やかに記憶されるハドソン・モホークが登場し、ミュータントなミックスを生んでもいる。
フル・アルバムとしては4年ぶりとなる本作は、そうしたセッション・バンドが録音物への注意と興味も深めた結果として、とても充実した盤となった。こだわりのアナログ録音も、曲によってはとても意外に感じられるだろう。

LAに住むと、エレクトロニック・ミュージックに囲まれていると感じるよ。LAビート・シーンの大ファンだし、僕らにしてもLAのロック・シーンよりLAビート・シーンで認められている。

フリー・モラル・エージェンツにおいては、あなたはバンド・マスターのような役割を果たしているのですか? あなたのバンドなのか、それとも独立したミュージシャン同士のセッションがコンセプトなのか、どちらでしょう?

アイキー:俺がフリー・モラル・エージェンツの創立者なんだ。ラインナップが固まってから、本当にバンドになったんだ。いまでも、俺が作品のプロデュースを担当して、全体の作品の美学や方向性を決めているよ。

ヴォーカルもそうですが、アンサンブルや楽曲自体から、あなたがかつて活動されてきたマーズ・ヴォルタ等のバンドが持つストイシズムとは異なった豊満さを感じます。あなたがフリー・モラル・エージェンツにおいて目指すものはどんなことでしょう?

アイキー:メンディー(・イチカワ)と出会った日から、このバンドのリード・シンガーになってもらいたいと思った。彼女のヴォーカル・サウンドを意識して、このバンドのサウンドを決めているんだ。

あなたがたにはLAのアンダーグラウンド・カルチャーへの愛を感じますし、地元に根づいた活動をされていると思いますが、それがハドソン・モホークなどのアブストラクトなダンス・ミュージックに結びつくのが素晴らしいと思います。彼にリミックスを依頼したことにはどのような意図があるのでしょうか?

アイキー:俺らは全員、エレクトロニック・ミュージックのファンなんだ。とくにLAに住むと、エレクトロニック・ミュージックに囲まれていると感じるよ。LAビート・シーンの大ファンだし、僕らにしてもLAのロック・シーンよりLAビート・シーンで認められている。

あなたがたの魅力はライヴやセッションにおいて真価が発揮されるのではないかと思いますが、アルバム制作にはどのような意味がありますか?

アイキー:年齢を重ねるにつれ、レコーディングの重要性が増している。俺がレコーディングした作品こそ、後世に残していく作品なんだ。俺らの作品は、グループそして個人的に俺らの経験を反映しているんだ。最近は、自分がどのようなアートを残していくのかをとても意識している。

制作する音楽のなかに、あなたの血としてのルーツやアイデンティティはどのくらい意識されているのですか?

アイキー:黒人であることは、フリー・モラル・エージェンツにおける俺のアプローチに多大な影響を与えてる。まず、このメンバーを選んだことが、このバンドにおいて不可欠だった。黒人のインテリジェンス、センス、音楽性の交差点は、俺たちの音楽において極めて重要なんだ。このバンドのメンバーのほとんどが黒人だということだけじゃなくて、黒人男性としての俺たちの生き方も重要なんだ。

”Requiem”には具体的な対象がありますか? とても印象的なブラス・アンサンブルですが、どこか無国籍的で、よるべない魂に捧げられるかのようなはかなさを感じました。

アイキー:この曲は、バルセロナに住んでいるまだ生きている女性に捧げられた曲なんだよ。

2010年のシングル「ノース・イズ・レッド」にはトニー・アレンのリミックスが収録されていますが、これはあなたがたがどのような音楽に経緯を払い、意識をしているのかをよく物語っていると思います。どのような経緯でこの話が決まったのでしょうか。また、彼のあなたがたへの反応をどのように感じましたか?

アイキー:トニー・アレンにはまだ実際に会ったことはないんだ。彼のレーベルに連絡をしたら、親切にも彼はリミックスを引き受けてくれた。ライヴをやるとき、俺たちは彼のヴァージョンを演奏しているんだ。彼のヴァージョンの方が熟成したサウンドで、簡潔なんだ。彼はこの曲を次のレヴェルにまで進化させてくれた。

このメンバーを選んだことが、このバンドにおいて不可欠だった。黒人のインテリジェンス、センス、音楽性の交差点は、俺たちの音楽において極めて重要なんだ。このバンドのメンバーのほとんどが黒人だということだけじゃなくて、黒人男性としての俺たちの生き方も重要なんだ。

「フリー・モラル」を掲げるのはなぜでしょう? 自由を倫理として掲げているのか、倫理からの自由を謳っているのか。また、それはあなたの芸術に対する姿勢ということになりますか?

アイキー:「Free moral agency(自由道徳的選択)」というのは、神学/哲学的な概念であって、人間には自由意志があることを意味している。アーティスト、家族の一員、友だち、恋人、労働者として、自分たちが正しいと思うことに基づいて行動することができる。人間同士の絆を強くしたり、人に親切にしたり、どの音符を使いたいかなどを選択することができる。俺たちは毎日このような決断をしている。成功をすることもあれば、失敗することもあるけど、毎回選択は自分たちがしているんだ。どういう選択をするかによって、優れたアーティスト、息子、兄弟、人間になることができる。

一方でKORGのファンでもあるそうですね。KORGとあなたの音楽との関わりについておうかがいしてもいいですか?

アイキー:KORG CX3 Organがいちばんのお気に入りだし、メインで使用してるキーボードなんだ。micro KORGとmicro XLも気に入ってる。この作品『チェーン・アンフィニ』では、JUNO60とエフェクトをかけたWurlitzerを多用している。1980年代半ばのYAMAHA PSRや70年代のエレクトロニック・チェンバロも多用してる。

アートワークについてはこだわりがありますか? マーズ・ヴォルタやロング・ビーチ・ダブ・オールスターズなどには、ヴィジュアル自体が音やそれが体現するカルチャーの一部というようなところがありますが、フリー・モラル・エージェンツのアートワークについてのコンセプトはどんなものなのでしょう?

アイキー:今作のアートワークを手がけたのは、マティース・イバラという地元のミュージシャン兼アーティストなんだ。彼のアートのスタイルは、今作のサウンドを反映しているんだ。この作品のサウンドは、前作に比べると無駄をそぎ落としたミニマルなサウンドなんだ。このアートワークもそうだけど、間近で見ないとクリアに見ることができないんだ。このアートワークが好きなのは、人の反応が好きか嫌いか二手にはっきりわかれるからなんだ。あと、ロングビーチの最近のグラフィティを反映したスタイルでもあるんだ。

ロング・ビーチでは最近何がおもしろいですか?

アイキー:いまのロングビーチの音楽シーンは本当に最高だよ。ブラインド・ジョン・ポープやデニス・ロビショーのようなアヴァンギャルド・フォーク・アーティストもいるし、ワイルド・パック・オブ・カナリーズみたいにノイズとドゥワップを融合させているバンドもいる。ダフト・パンクをさらにダーティでヘヴィにしたファットバーフのようなアーティストもいれば、素晴らしいソウル・シーンもある。フリー・モラル・エージェンツのベーシストであるデニスは、〈グッドフット〉というクラブ・イヴェントを運営していて、地元の連中はみんな教会のように通っているよ。決まったサウンドがないから素晴らしいシーンなんだ。それぞれのアーティストが個性を持っているんだよ。

R.I.P. フィリップ・シーモア・ホフマン - ele-king

 『ブギーナイツ』(97)は70年代終わりのポルノ業界を舞台にしており、そこでは雑多な人間が集まって形成する擬似家族的なコミュニティが描かれている。それぞれの事情でカタギの生き方を外れてしまった人間たちの、かろうじて彼ら同士をつなぎ止める何かを。いまキャストを見返すと、ジョン・C・ライリー、ウィリアム・H・メイシー、アルフレッド・モリーナ、ルイス・ガスマン……ああ、最高の脇役俳優たちが山ほど出ているではないか。そこにフィリップ・シーモア・ホフマンもいた。それは僕がようやくロウ・ティーンと呼べる年代に差し掛かった頃にこっそりとはじめて観たR-18映画であり、そこでその男はあまりに哀れな、しかし正体不明の愛らしさを備えたゲイ青年を演じていた。現実の世界よりも海の外の映画のなかに「彼ら」を探していた自分は、その男の存在、彼の悲しさに目を奪われずにはいられなかったのだ。色白でムチムチした体格の、タンプトップ姿の青年に。
 シーモア・ホフマンは『マグノリア』(99)にも出ていた。それは『ブギーナイツ』に続いて、ポール・トーマス・アンダーソンという次世代のアメリカを映画を担っていくことが約束された若き才能の野心が爆発した一本で、ひとりで映画館まで観に行った中学生の僕は、この監督と未来をともにできることを予感して誇らしく思ったものだ。事実、『パンチドランク・ラブ』(02)というチャーミングで小さな一本を撮ったアンダーソンは、(シーモア・ホフマンは出演していないけれども)映画史に残る傑作『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)をモノにしたあと、『ザ・マスター』(12)では巨匠然とした風格すら漂わせている。そして、それはフィリップ・シーモア・ホフマンの存在そのものによって支えられた映画でもあった。アンダーソンの次作はトマス・ピンチョン原作の『LAヴァイス』だ、輝かしい未来はなお、約束されている……。
 それなのに彼と出会ってわずか15年、僕はただ動揺し、うろたえ、混乱を抑えることができない。これから先、ポール・トーマス・アンダーソンの映画にフィリップ・シーモア・ホフマンの姿がないなんて、そんなことがあり得るのだろうか?

 もちろん、アンダーソンとの最高のタッグ以外でも、その男はさまざまな人物に毎度生まれ直すように扮してみせた。しかし振り返ってみれば、『ハピネス』(98、トッド・ソロンズ)のオナニー野郎にしても、『フローレス』(99、ジョエル・シューマカー)の愛情に満ちたトランスジェンダーにしても、あるいはトルーマン・カポーティの独特の発話を会得しオスカーを手にした『カポーティ』(05、ベネット・ミラー)にしても、この世の生きづらさに肩身を狭くしているような、自身のなかの複雑さに身動きが取れないような、どうにも具合の悪そうな人間ばかりを演じてきたように思える。レスター・バングスになって主人公を導いた『あの頃ペニー・レインと』(00、キャメロン・クロウ)では、自分たちのことをアンクールだと定義して、だからこそ観客たる僕たちを映画へと向き合わせた。主演した『脳内ニューヨーク』(08、チャーリー・カウフマン)は、自身の内面に降りて行けば行くほど人格も人生も分裂していくような、まさにシーモア・ホフマンにしか纏えない滑稽さと侘しさを孕んだ作品だった。
 映画のなかのシーモア・ホフマンの不恰好さや不具合や哀れさを思うとき、彼の死因がヘロインのオーバードーズだという報は、あまりにもいたたまれないものだ。けれどもそれは、僕たちには理解できない特別な問題を彼が抱えていたことを示しているわけではないように、自分にはどうしても感じられてしまう。なぜなら、そのアンクールさ、その悲しさは、僕たちが身に覚えのあるものばかりだからだ。一貫してスターではなくアクターであり続けたその男は、スクリーンこそが生き場所だった。だとすれば、画面のなかに彼を見る僕たちも、そこに自分の居場所を与えられていたのだろう。

 この20年間のアメリカ映画を観てきた人間にとって彼は、気がつけば身内のような存在になっていた。まさか、こんな別れ方をするとは誰も思っていなかったよ。誰も。スクリーンのなかで老いていくはずだった僕らの大切な友人は、もう永遠に喪われてしまった。プリーズ、レスト・イン・ピース、フィリップ・シーモア・ホフマン。僕たちはせめて、時間とフィルムを巻き戻そう。あの、なんとも居心地の悪そうな笑顔が再生されるはずだ。



私の好きなフィリップ・シーモア・ホフマン

天野龍太郎
1. パンチドランク・ラブ(02)
2. ザ・マスター(12)
3. ブギーナイツ(97)
4. カポーティ(05)
5. ポリー my love(04)

木津毅
1. ブギーナイツ(97)
2. ハピネス(98)
3. ザ・マスター(12)
4. マグノリア(99)
5. あの頃ペニー・レインと(00)

松村正人
1. 脳内ニューヨーク(08)
2. ハピネス(98)
3. ブギーナイツ(97)/マグノリア(99)
4. チャーリー・ウィルソンズ・ウォー(08)
5. あの頃ペニー・レインと(00)

三田格
1. 脳内ニューヨーク(08)
2. パンチドランク・ラブ(02)
3. ハピネス(98)
4. あの頃ペニー・レインと(00)
5. カポーティ(05)

失敗しない生き方 - ele-king

 どこかぎこちなくも、何かしらの確信をもって沈黙を破るリズミックなイントロ。瞬間、「ああ、これだ」と思った。ふとした偶然で出会った同時代の一曲が、それまでコレクションしてきた過去の名曲群の総重量と釣り合ってしまう、あの一瞬のスリル。
以来、SoundCloud上で30回、自主制作のCD-R『遊星都市』のヴァージョンで60回、そして待望のフル・アルバム『常夜灯』のヴァージョンですでに40回は聴いているのだが、どこにそれほどの仕掛けが施されているのか、じつは、いまだにわからないでいる。わからないで書いているのか、と問われればそれまでだが、しかし、わからないからこそこれほど繰り返し聴いているのだとしか言いようがない。そう、“月と南極”と名づけられた、この4分にも満たないポップ・ソングの秘密は、近づくほどに遠い。

 失敗しない生き方。世間ではシティ・ポップの新勢力と目され、自らはベッドタウン・ポップを標榜するこの6人組は、森は生きているとの2マンに掲げられた主題――「ぼくら、20世紀の子供たちの子供たち」――を肩肘張らずに体現したようなバンドだ。「僕たちは歴史から切れた存在ではない」という主張それ自体が、そもそもヴィターリー・カネフスキーのフィルモグラフィーからの引用、というメタ・メッセージになっているのだが、ジャズとロックンロールと渋谷系が一緒くたになったような音楽(“クックブック”が端的な例だ)を奏でる彼らは、歴史の重みに触れつつも、その遺産を食いつぶすだけでは納得がいかないと言わんばかりにもがいている。フリーキーに、あるいはどこまでもポップに輝きながら。
 メイン・ヴォーカルである蛭田桃子の声は、侵しがたい少女の不安定さを孕みつつも、蠱惑的な色をも放ってやまない(ライブでは絶叫に近いシャウトも)。やや安易な例示になるが、ひょっとすれば野宮真貴にも、フルカワミキにも、やくしまるえつこにもなれる逸材かもしれない。が、作詞を担当する天野龍太郎(ギター、ヴォーカル)が、先達のマネゴトを許さないのが面白い。ただ黙読されるべく書かれたような、いや、そこに無作為に浮かぶ無数の場面・映像を凝視されるべく書かれたような天野の歌詞は、即興の文学とでも言うべき異形な詩情を放っている。それは映画にさえ似ているのだ。しかも、そのある種の難解さを蛭田の歌い回しはまったく感じさせないのだから、いったいどちらに主導権があるのか、判断に困るところ。
 かと思えば、天野は作曲面には関わっていない。それはキーボードの今井一彌と、サックスの千葉麻人に委ねられた仕事となっている。ごく大雑把に言えば、今井の作曲からは渋谷系ライクな端整なポップ・ソングが生まれ、千葉の作曲からはロックンロール以前、エルヴィス・プレスリー以前のアメリカが薫る(このふたりが共作するとラグタイム風のスキット曲“ラグタイム”が生まれるので不思議だ)。このわりとハッキリとした分業体制から生まれる緊張、特定のメンバーがバンドをコントロールしない・できないという不全感が、ある共同性をもってグルーヴするときのイタズラめいた魔法の気配を、僕は“月と南極”の、あのイントロのなかに聴き取ったのだと思う。

“私の街”や“煙たい部屋で”、タイトル曲“常夜灯”に挿入される嵐のようなノイズ、あるいは彼らのポップ・サイドをリードする“月と南極”や“終電車”において、大サビが用意されてもよさそうなタイミングで吹き込まれるサックス・ソロの大胆さまでをも差し置いて、アルバム『常夜灯』は、もしかしたらとてもクリーンなポップスとして受け取られるかもしれない。“海を見に行こうよ”や“魔法”といったナンバーには、ソング・オリエンテッドな抑制がたしかに効いている。ここには、このバンドが大きくなっていく可能性を示す、いい意味での気取りが感じられて愛らしい。
 しかし、僕が観たライヴで彼らを包んでいたのは、清潔さではなくもっと灰汁を含んだ何か――夜の猥雑、ニヒルな笑い、酒の臭い、煙草の煙、街の喧噪とドア一枚だけ隔てられた秘密と静寂、といったものだ。まるで投げやりな音程、いつ破綻するともわからない演奏、それは壊れたジューク・ボックスが奏でる狂ったポップスのようだった。以来、シティ・ポップにしろベッドタウン・ポップにしろ、彼らの呼び方としてしっくり来ていない自分がいる。あれは、廃業したグランドキャバレーに住まう元専属ジャズ・バンドたちの亡霊を思わせた(風林会館でのライヴを是非とも実現してほしいところ)。

 ところで、このユニークなバンド名の由来は、書店の自己啓発本コーナーからのインスパイアだという話だったが、ああ、そうだ。いまは物語のないシニカルな時代なんて言われるけれども、夢や希望なんてものをいくらそれらしい口調で語ったところで、そんなものは最初から数百円も出せば買えてしまうのだった。とすれば、「音楽を止めて戸を開け/それでも/朝の幻を借りに出ようよ/今」(“月と南極”)と歌う失敗しない生き方は、なぜそこで音楽を止め、なぜ幻と分かっている朝に繰り出していくのだろうか。そんなことを考えながら、また再生ボタンを押す。どこかぎこちなくも、何かしらの確信をもって沈黙を破るリズミックなあのイントロが、また鳴る。瞬間、僕は「ああ、これだ」と、また思うのだろう。


- ele-king

会場限定発売!
toe / collections of colonies of bees ジャパン・ツアー2014 記念Tシャツ完成!
*各会場のみでの販売になります。数に限りあり!お早目にどうぞー!

まずtoe と collections of colonies of bees (以下コロちゃん)のカップリング・ジャパン・ツアーは2009年に行なわれ、更に言うとコロちゃんの全身バンドであるpeleは02年に来日しtoeと共演。更に更に「toe//pele」、そして「toe//collections of colonies of bees」名義でスプリット・シングルもリリース。そしてコロちゃんの最新アルバム『SET』の解説をtoeの山嵜廣和氏が執筆していて……と、この二バンドは本当に仲良し。そしてお互いをリスペクトし合っている訳です。そんな友情が本当に眩しいカップリング・ジャパン・ツアーが再びみなさんの前で始まってしまいます。繰り広げられる抱擁の嵐にみなさんも号泣するに違いない!ハンカチ持ってお越しください。

【toe】

 もはや説明不要。日本が世界に誇る最高のインストゥルメンタル・バンド。2000年に結成され、そのアグレッシヴかつエモーショナルかつダイナミックかつ繊細なサウンドで世界中のファンを虜に。昨年行われたアメリカ・ツアーはもちろんソールドアウトを連発。
https://www.toe.st/


【collections of colonies of bees】

 今なおポストロックのスタンダードとして君臨しているミルウォーキーの伝説的バンド、peleのサイド・プロジェクトとしてスタート。pele解散後に本格的始動し、これまでに6枚のアルバムを発表、更に二度の来日も。pele直系のポップでシャープなロック・テイストと、エレクトロ~ミニマル・アプローチ、そしてシューゲイズなエッセンスまでもがマッチしたインストゥルメンタル・サウンドは唯一無比。ちなみに主要メンバーはBon IverとのプロジェクトVolcano Choirでも大回転中。
https://www.collectionsofcoloniesofbees.net/




ライヴとの連動シリーズ、「Beckon You !!」 スタート!!!!
作品を購入→ライヴに行ったら会場でキャッシュ・バックしちゃいます!!


注目のアーティストを中心に作品とライヴを連動させちゃうのがこの「Beckon You !!(来て来て〜おいでおいで〜の意)」シリーズ。
1/22リリース、collections of colonies of beesの最新アルバム『SET』貼付のステッカーを公演当日にお持ち下さい。その場で500円をキャッシュバック致します。もちろん前売り券でも当日券でもオッケーです!


ele-king presents
toe / collections of colonies of bees Japan Tour 2014

3/4(火) 渋谷TSUTAYA O-nest (03-3462-4420)
adv 4,500yen door 5,000yen (without drink)
open 18:00 start 19:00
*2014.2.11~チケット発売
チケットぴあ(Pコード:P:223-557)
ローソンチケット(Lコード:70044)
e+

3/5(水) 名古屋APOLLO BASE (052-261-5308)
adv 4,500yen door 5,000yen (without drink)
open 19:00 start 19:30
*チケット発売中
チケットぴあ(Pコード:P:223-442)
ローソンチケット(Lコード:46308)
e+

3/6(木) 心斎橋Music Club JANUS (06-6214-7255)
adv 4,500yen door 5,000yen (without drink)
open 18:00 start 19:00
*チケット発売中
チケットぴあ(Pコード:P:223-509)
ローソンチケット(Lコード:52170)
e+


*各公演のチケット予約は希望公演前日までevent@ele-king.netでも受け付けております。お名前・電話番号・希望枚数をメールにてお知らせください。当日、会場受付にて予約(前売り)料金でのご精算/ご入場とさせていただきます。


主催・制作:ele-king / P-VINE RECORDS
協力:シブヤテレビジョン ジェイルハウス スペースシャワーネットワーク 
TOTAL INFO:ele-king / P-VINE RECORDS 03- 5784-1256
event@ele-king.net
www.ele-king.net


toe、collections of colonies of beesも出演!!

Booked!
https://booked.jpn.com/index.html

3/8(土)新木場STUDIO COAST(03-5534-2525)
toe / cero / mouse on the keys / ROTH BART BARON / NINGEN OK /
collections of colonies of bees(US) / ペトロールズ / LAGITAGIDA /
YOLZ IN THE SKY / グッドラックヘイワ / Climb The Mind / VIDEOTAPEMUSIC /
STUTS / THE OTOGIBANASHI’S / DJみそしるとMCごはん / Slow Beach
……and more

*こちらの公演は「Beckon You !!」対象外となります。

日本先行発売!!
コレクションズ・オブ・コロニーズ・オブ・ビーズ 『セット』


PCD-20291
定価2,000yen(without tax)
Release:2014.1.22
解説:山嵜廣和(toe)


1. G(F)
2. E(G)
3. B(G)
4. C(G)
5. D(F)
6. F(G)

Moodymann - ele-king

 結論から言えば、本作『Moodymann』はここ最近のムーディーマンのなかでは抜きんでている。まず何よりもこれは『Black Mahogani』以来の大きなリリースであり、ここ数年のベスト盤的な内容で、彼の集大成でもある。これからムーディーマン(デトロイトの、カルト的な人気をほこるハウス・ミュージックのDJ/プロデューサー)を聴きたいという若い方がこの文章を読んでいたら、迷うことなく本作を手にするがいい。
 というか、このところのムーディーマンは、2012年の『Picture This』をのぞけば、長くもなく短くもないミニ・アルバムをヴァイナルのみの限定盤としてリリースしている(2008年の『Det.riot '67』、2009年の『Anotha Black Sunday』、昨年の『ABCD』……)。これらはすべてが予約で売り切れるほどの競争率なので、本当に好きな人/レコードのためには努力を惜しまない人しか聴いてないと思われる。今回もアナログ盤(12曲)に関しては予約でショートしているが、数週間後にCD(27曲)も出た。要するに、『Moodymann』は久しぶりに手に入れやすいアルバムで、『Picture This』からの再録(アンプ・フィドラーとのまったく素晴らしい“Hold It Down”)、2008年のホセ・ジェイムス“Desire”のリミックス、CDにはくだんの限定盤からの数曲も再録されている。さらにCDにはEPで発表した曲もいくつか再録していて、ラナ・デル・レイ“ボーン2ダイ”のリミックスまで入っている。CDはお買い得だ。
 ムーディーマンは同郷のアンドレスとも似て、ハウス・リスナーのみならずヒップホップのリスナーの耳も惹きつけている。彼のリズム&ブルースのセンスゆえに、ハウス・ミュージックという枠組みを超えて、幅広いリスナーにアピールしているのだろう。現代のような音楽が売れない時代に、こと洋楽への関心が弱まっている日本において、ハウスを扱っているすべての輸入盤店で発売直後に「SOLD OUT」とするムーディーマンの人気は、異例中の異例だ。

 昔、シカゴでハウス・ミュージックが生まれたとき、熱狂した多くのダンサーたちが「教会みたいだ」などという科白でその感動を表したエピソードは知られている。アフリカ系アメリカ人の教会は、──筆者も1度だけ行ったことがあるが──、宗教の現場というより共同体の集会場だ(デトロイトにおいては、奴隷制時代に奴隷を逃がす隠れ家でもあった)。大勢で歌って踊って、それもかなりハードに踊って、神父は、今週は寄付金を公園の壊れたブランコの修繕に使ったとか、建設的な報告する。そうした身近な人びとの集まっているにおいが、そしてデトロイトは破産したというニュースとは裏腹のファニーなアーバン・フィーリングが、尽きることのない地元愛が、果てしないセクシャルな衝動が、ファンキーな笑いが、ムーディーマンの音楽には注がれている。ラナ・デル・レイのリミキサーに抜擢されたほどの人物だが、基本、アンダーグラウンドの音楽家なので、誰しもが彼にアクセスできるわけではない。しかし、それでも彼の音楽は大衆音楽であり続ける。大衆は必ずしも多数を意味しない。むしろ多数の専制に逆らっている、少数派を大切にするという意味において「民衆」の音楽だと言えよう(……数日後には憂鬱な都知事選だ)。
 そして、おっさん節の道化たアートワークが時代錯誤でどんなにダサかろうと、この音楽は──勝ち負けの音楽ではなく──共同体の音楽なので、おおらかに受け止められる。アホだなーと笑っても、音楽がうまいので、文句は言わせない。『Moodymann』の、ハウスから広がる多彩な展開(R&B、ファンク、ジャズ、8ビートの速いピッチの曲などなど)は、彼のキャリアを顧みれば自然な成り行きだ。それは成熟するデトロイト・ハウスの現在でもある。1曲、ファンカデリックの名曲“コズミック・スロップ”をがっつりサンプリングしている曲がある。そして、CDの中面の写真に写っている彼のスタジオのシーケンサーの上には、プリンスの『1999』のカセットが、どーんと、意味ありげに、結局のところこれが彼にとっての最良のポップ作品のひとつであると主張するかのように、置いてある。

丸屋九兵衛 - ele-king

 先日、インドネシアに行ってきたんですよ。バリ島とジャカルタと併せて10日くらいの旅。ジャカルタではマージナルというパンク・バンドの住居兼コミューンみたいなところを訪ねて大変貴重な経験をしたのだけれど、それはまた別な話なのでどこかで書く予定。
旅行に際しては、いわゆる有名なシリーズのガイドブックを買ったのだけど、やはり普通のガイドブックというのは最大公約数をターゲットにしてるものだから、どうしても限界がある。どこのクラブやライヴハウスが盛り上がっているのかとか、中古レコードはどこで買えるのか、言葉はわからなくてもマンガくらいはどんなものがあるのかチェックしてみたい、映画はどんなものが作られてるのだろうか、等々、そういうことが知りたいじゃないですか。

 で、一方で台湾というと、まあ親日的でご飯が美味しいという程度の印象しかなかったのだが(あとはまあ、むかし映画が盛り上がってたな、という記憶があるくらい)、最近友人が岸野雄一さんと一緒に台湾に行ってレコードを掘るのにハマっているというのでにわかに興味を覚えたところなのである。そんな矢先のこの本の刊行は大変嬉しかった。

 一言で言うと、『bmr』編集長にして無類の雑学王である丸屋九兵衛氏による偏愛的台北ガイド。「ビッグ・イン・ジャパンを語らない」(具体的には杏仁豆腐とか小龍包とか)というコンセプトが本文中でも明らかにされているように、あくまでも現地ではこれが熱いという視点でセレクトされているところがいい。あと、「住むように旅したい」というスタンスにも共感する(インドネシア旅行は移動が多くて1箇所2~3泊とかだったからいまひとつ食い足りなかったのだ)。そういうところに旅の醍醐味を見るタイプの人であればきっと重宝するだろう。
 読む前はもっとカルチャーに特化した感じなのかなと思っていたのだけど、食についての情報が充実しているのもありがたい(夜市で売られるさまざまな串焼きの写真を見ているだけでも行ってみたくなる)。そうそう、本書の最大の特徴は著者と「現地有志」による大量の写真である。眺めているだけでも現地の熱気が伝わってくる。
 また、日本統治時代から戦後の蒋介石政権、中国との関係など、ストリートカルチャーの背景にある歴史をしっかりおさえて解説してくれるところも世界史マニアのこの著者ならではだろう。

 もちろん偏愛的である以上、自分の関心事に100%応えてくれるわけではない。たとえばぼくの興味の対象である古いロックのレコードや、ノイズ~エクスペリメンタル・ミュージックについての情報はまったく得られない(そのかわり、ヒップホップやR&B、グラフィティにスニーカーやキャップなどについては面白いことがたくさん書いてある)のだけれど、それはまあこの際大した問題ではない。
 どの街でもたぶんそうだけど、上っ面な部分に触れるだけではなくもっとディープなカルチャーに触れようと思ったら、最初の一歩がなかなか大変なのだ。そこのところを上手く手引きしてもらうことができれば、あとは自分でどんどん世界を広げていくことができる。ほんと、ジャカルタにもこういう本があったらよかったのになー。

 かつては、パリでいえば『パリのルール』、ロンドンだったらカズコ・ホーキの『ディープなロンドン』、アメリカであればファビュラス・バーカー・ボーイズの『地獄のアメリカ観光』、韓国なら幻の名盤解放同盟の『ディープ・コリア』といった名著がこれまでに刊行され、大いに参考にしたり妄想を膨らませる助けになったりしてきたわけなのだが、こうして見るとほとんど全部古いのでそろそろアップデートしたものが読みたい気がする(どれもだいたいいま読んでも面白いと思うけど)し、アジアでのレコード・ディギングが進むいまなら、ソウルやバンコクなどいろんな都市の「カオスガイド」をもっともっと読みたい、そしてレコードや本を買いに行きたいと思う。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727 728 729 730 731 732 733 734 735 736 737 738 739 740 741 742 743 744 745 746 747 748 749 750 751 752 753 754 755 756 757 758 759 760 761 762 763 764 765 766 767 768 769 770 771 772 773 774 775 776 777 778 779 780 781 782 783 784 785 786 787 788 789 790 791 792 793 794 795 796 797 798 799 800 801 802 803 804 805 806 807 808 809 810 811 812 813 814 815 816 817 818 819 820 821 822 823 824 825 826 827 828 829 830 831 832 833 834 835 836 837 838 839 840 841 842 843 844 845 846 847 848 849 850 851 852 853 854 855 856 857 858 859 860 861 862 863 864 865 866 867 868 869 870 871 872 873 874 875 876 877 878 879 880 881 882 883 884 885 886 887 888 889 890 891 892 893 894 895 896 897 898 899 900 901 902 903 904 905 906 907 908 909 910 911 912 913 914 915 916 917 918 919 920 921 922 923 924 925 926 927 928 929 930 931 932 933 934 935 936 937 938 939 940 941 942 943 944 945 946 947 948 949 950 951 952 953 954 955 956 957 958 959 960 961 962 963 964 965 966 967 968 969 970 971 972 973 974 975 976 977 978 979 980 981 982 983 984 985 986 987 988 989 990 991 992 993 994 995 996 997 998 999 1000 1001 1002 1003 1004 1005 1006 1007 1008 1009 1010 1011 1012 1013 1014 1015 1016 1017 1018 1019 1020 1021 1022 1023 1024 1025 1026