Home > Reviews > Book Reviews > 丸屋九兵衛- 史上最強の台北カオスガイド101
先日、インドネシアに行ってきたんですよ。バリ島とジャカルタと併せて10日くらいの旅。ジャカルタではマージナルというパンク・バンドの住居兼コミューンみたいなところを訪ねて大変貴重な経験をしたのだけれど、それはまた別な話なのでどこかで書く予定。
旅行に際しては、いわゆる有名なシリーズのガイドブックを買ったのだけど、やはり普通のガイドブックというのは最大公約数をターゲットにしてるものだから、どうしても限界がある。どこのクラブやライヴハウスが盛り上がっているのかとか、中古レコードはどこで買えるのか、言葉はわからなくてもマンガくらいはどんなものがあるのかチェックしてみたい、映画はどんなものが作られてるのだろうか、等々、そういうことが知りたいじゃないですか。
で、一方で台湾というと、まあ親日的でご飯が美味しいという程度の印象しかなかったのだが(あとはまあ、むかし映画が盛り上がってたな、という記憶があるくらい)、最近友人が岸野雄一さんと一緒に台湾に行ってレコードを掘るのにハマっているというのでにわかに興味を覚えたところなのである。そんな矢先のこの本の刊行は大変嬉しかった。
一言で言うと、『bmr』編集長にして無類の雑学王である丸屋九兵衛氏による偏愛的台北ガイド。「ビッグ・イン・ジャパンを語らない」(具体的には杏仁豆腐とか小龍包とか)というコンセプトが本文中でも明らかにされているように、あくまでも現地ではこれが熱いという視点でセレクトされているところがいい。あと、「住むように旅したい」というスタンスにも共感する(インドネシア旅行は移動が多くて1箇所2~3泊とかだったからいまひとつ食い足りなかったのだ)。そういうところに旅の醍醐味を見るタイプの人であればきっと重宝するだろう。
読む前はもっとカルチャーに特化した感じなのかなと思っていたのだけど、食についての情報が充実しているのもありがたい(夜市で売られるさまざまな串焼きの写真を見ているだけでも行ってみたくなる)。そうそう、本書の最大の特徴は著者と「現地有志」による大量の写真である。眺めているだけでも現地の熱気が伝わってくる。
また、日本統治時代から戦後の蒋介石政権、中国との関係など、ストリートカルチャーの背景にある歴史をしっかりおさえて解説してくれるところも世界史マニアのこの著者ならではだろう。
もちろん偏愛的である以上、自分の関心事に100%応えてくれるわけではない。たとえばぼくの興味の対象である古いロックのレコードや、ノイズ~エクスペリメンタル・ミュージックについての情報はまったく得られない(そのかわり、ヒップホップやR&B、グラフィティにスニーカーやキャップなどについては面白いことがたくさん書いてある)のだけれど、それはまあこの際大した問題ではない。
どの街でもたぶんそうだけど、上っ面な部分に触れるだけではなくもっとディープなカルチャーに触れようと思ったら、最初の一歩がなかなか大変なのだ。そこのところを上手く手引きしてもらうことができれば、あとは自分でどんどん世界を広げていくことができる。ほんと、ジャカルタにもこういう本があったらよかったのになー。
かつては、パリでいえば『パリのルール』、ロンドンだったらカズコ・ホーキの『ディープなロンドン』、アメリカであればファビュラス・バーカー・ボーイズの『地獄のアメリカ観光』、韓国なら幻の名盤解放同盟の『ディープ・コリア』といった名著がこれまでに刊行され、大いに参考にしたり妄想を膨らませる助けになったりしてきたわけなのだが、こうして見るとほとんど全部古いのでそろそろアップデートしたものが読みたい気がする(どれもだいたいいま読んでも面白いと思うけど)し、アジアでのレコード・ディギングが進むいまなら、ソウルやバンコクなどいろんな都市の「カオスガイド」をもっともっと読みたい、そしてレコードや本を買いに行きたいと思う。
大久保潤