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 マイクロ・アンビエント・ミュージック。
 坂本龍一を追悼するために、これほど重要な言葉もない。この20年あまりの坂本龍一の音楽・音・アンビエント/アンビエンスの探求を追いかけてきた聴き手にとってはまさに腑に落ちる思いである。
 じっさい坂本龍一の「晩年」は、「小さな音」のアンビエンスを追い続けてきた日々だった。彼は世界に満ちている音を聴き、音響・音楽を創作した。世界中のアンビエント・アーティストやサウンド・アーティストの音源を聴き、彼らとの交流も深めてきた。音楽と音の境界線に誰よりも繊細に耳を澄ましてきた。
 この追悼コンピレーション・アルバム『Micro Ambient Music』は、そんな「坂本龍一と小さな音」との関係性を考えていくうえでこれ以上ないほど重要で素晴らしい作品である。アルバムのインフォメーションにはこう記されている。

坂本龍一が2000年から晩年にかけて関係の近かった音楽家や、共演者らによる追悼盤です。非楽器音を用いた静寂をもたらす音楽を『Micro Ambient Music』と称し、国内外の41名の音楽家の賛同を得て実現しました。

 本作『Micro Ambient Music』の企画・制作は、アンビエント・アーティストの伊達伯欣がおこなった。この美しいコンピレーション・アルバムを編むことで、坂本の追悼をしたのである。これは簡単なことではない。この短期間でこれだけのアーティストに声をかけて、その楽曲を集め、アルバムに纏めていったのだ。深い追悼の念と、その不在に対する悲しみがあるからこそ成し得た仕事ではないかと思う。
 何より重要なことは、伊達伯欣はあきらかに坂本龍一の音楽家としての「本質」をこの20年ばかりの活動と作品、00年代以降の坂本のアンビエント/音響作品に聴きとっている。これは重要な視点だと思う。じっさいアルバムのインフォメーションにはこう記されていた。

坂本氏の評価はYMOやアカデミー賞に集まりやすいですが、氏の思想や音楽の真価は、それ以降の作品群にも色濃く現れています。この追悼盤では、特に晩年の氏と関係の近かった音楽家たちに、焦点が当てられています。非楽器音を中心とした音楽から、楽器音を中心とした音楽へ。その追悼の音たちは、ごく自然に・穏やかに、必然的な調和の中で、ひとつの作品として5つのアルバムに配列されました。

 『Micro Ambient Music』の参加アーティストは伊達伯欣の作品をリリースし、生前の坂本とも交流の深かったテイラー・デュプリーが主宰するニューヨークのレーベル〈12k〉の音楽家たちや、大友良英、アルヴァ・ノトデイヴィッド・トゥープ、蓮沼執太、原摩利彦など坂本龍一と交流のあった音楽家、さらに世界中の音響作家やアンビエント・アーティストら計41人が楽曲を提供している。総収録時間は5時間に及ぶ大ヴォリュームのコンピレーション・アルバムだ。
 この人選から坂本が世界中の音響作家から、いかに坂本龍一がリスペクトされていたのか、そして重要な存在だったのか分かってくる。
 しかも不思議なことに長尺コンピレーションなのに、時間の感覚が希薄なのだ。どの曲も反復や環境音などを用いたミニマル/ミニマムな音の連なりでできているため、5時間という時間がリニアに進む時間軸に感じられない。浮遊するような、空気のような聴取体験なのである。永遠の反復とズレ。その時の只中に身を置くような聴取体験がここにはある。

 この20年ほどの坂本龍一は「音」そのものへの探求と、リニアな時間軸ではない音楽の時間を追求していたように思える。アンビエント作品やインスタレーション作品では「時間の流れ」自体を問い直すような作品が多かった。なかでも2017年の傑作ソロ・アルバム『async』は音楽における「非同期」をテーマにしたアルバムだった。
 しかし非同期を希求していたとはいえ、坂本は「音楽のカオス」を追い求めていたわけではなかった。彼は音楽家であり、作曲家であり、作曲と構築を捨て去ることはなかった。そうではなく「同期」に変わる新しい音楽システムを希求していたのではないかと思う。エレクトロニカやアンビエント、フィールド・レコーディング作品に、そのような同期とは異なる新しい音楽のシステムを聴きとっていたのかもしれないといまなら思う。その点から、本作『Micro Ambient Music』は、『async』への音楽家・音響作家たちからの応答・変奏という面もあるように聴こえた。

 計41人、どのアーティストの楽曲も興味深い。環境音と音と音楽の交錯地点を聴取しているような気分になる。個人的にはトモコ・ソヴァージュの楽曲 “Weld” がとても良かった。トモコ・ソヴァージュは水を満たした磁器のボウル、ハイドロフォン(水中マイク)、シンセサイザーなどを組み合わせた独自のエレクトロ・アコースティック楽器を用いて、透明な霧のような音響を生み出すアーティストだ。本作もまた透明な音のタペストリーが生成し、シンプルにして複雑な「非同期」のごとき音響空間が生まれている。この5分少々の曲には、坂本龍一が『async』で探求していた「同期しない音楽」があった。音が重なり、生成し、消えていく。その美しい音響。
 また、中島吏英とデヴィッド・カニンガムの “Slow Out” はアルバム中の異色のサウンドだ。マテリアルな音のズレ。蓮沼執太の “FL” もまた興味深い。普段の蓮沼の楽曲とは異なり、モノの音によるマテリアルな音響作品で、晩年の坂本の「音」そのものへの探求に憑依したような素晴らしいトラックだ。もちろん主宰である伊達伯欣の楽曲も見事だ。美しい点描的なピアノに、非反復的な環境音が深いところで共振し、まるで夜のしじまに沈んでいくような音楽を展開している。断片的な音の随想とでもいうべきか。
 むろんどのアーティストも、それぞれの方法で坂本を追悼している。41人の音楽家すべて、晩年の坂本龍一の「音の探求」を理解し、そこに向けて音を構成しているのだ。その結果、このアルバムは世界の音響作品、サウンド・アート、アンビエントなどのエクスペリメンタル・ミュージック、その00年代以降の達成を示すようなコンピレーション・アルバムとなった。坂本龍一への「追悼」が20年の音響音楽の総決算にもなった。この点だけでも「晩年」の坂本の偉大さがわかってくる。

 現在、アンビエントとサウンド・アートの境界線は融解した。おそらく坂本龍一もそのことを敏感に感じ取っていたように思う。そして、このコンピレーション・アルバム『Micro Ambient Music』もまたその事実を体現している。世界に満ちた音のざわめきが、ここにはある。発売は10月31日までだ。気になる方は一刻も早く入手した方が良いだろう。なお収益の一部は Trees For Sakamoto へ寄付される。

Smoke - ele-king

Hakushi Hasegawa - ele-king

 長谷川白紙がフライング・ロータス主宰のレーベル〈Brainfeeder〉と契約を交わしたことがアナウンスされている。発表に合わせ、シングル曲 “口の花火” が公開。2年前のインタヴューでフライング・ロータスが長谷川白紙の名を挙げていたのは、この布石だったのかもしれない。詳細は下記より。

Various - ele-king

 IDMというジャンルは明らかに白人男ばかり、それでも私は自分の音楽をIDMだと思っている、とロレイン・ジェイムスは言った。ジャンル名には暗になんとなく、いつの間にか人種的な区分けがある。とくにそれがハイブローなジャンルになってくると、やはり暗になんとなく、いつの間にか白人色が強まる傾向にあるようだ。たとえば、およそ50年を経てようやくまともに評価されたジュリアス・イーストマンではないが、前衛音楽/実験音楽とはクラシック音楽の延長なのだから、すなわちそれは白人史だと無意識ながら決めてかかっている排除の声、すなわちある種の権力がいまもないとは限らない。

 『破壊的な周波数』と題され、UKの〈ノンクラシカル(非古典)〉なるレーベルからリリースされたこのコピレーションは、エレクトロニック・ミュージック、それも実験的かつ学際的でハイブローな一群において非西欧的なるものの台頭を待ち望むユートピアンにお薦めの1枚だ。実験だの前衛だのノイズだのといった音楽のサークルやシーンにおける“白さ”を文化的かつ制度的に問題視したアミット・ディネシュ・パテル(Amit Dinesh Patel)博士が、「実験音楽における黒人と褐色アーティストの明らかな知名度の欠如」に対処することを目的に、ロンドンのグリニッジ大学の支援のもと、UK在住の非白人の作品に絞ってコンパイルしたアルバムである。パテルはDushume名義で2曲提供し、ほか、 5人の黒人/褐色のアーティスト(Poulomi Desai、Nikki Sheth、NikNak、Dhangsha、Bantu)が参加。言うなれば現代のジュリアス・イーストマンたちをどうぞ、と。彼ら・彼女らは制約のないカンバスを広げ、創造性をもって文化の格子をぶち壊さんと、文字通り“破壊的な周波数”を発信する。これが素晴らしいのだ。
 
 アルバムの出だしと結びには、プーロミ・デサイ(Poulomi Desai)の曲が配置されている。サウンド・コラージュを駆使し、声とシタールをノイズ発信器とする彼女の音楽は驚異的で、最初期のKlusterにも似たアナーキーな音の渦をまき散らす。オープニング曲の冒頭で、彼女はインドの音階の歌を歌い上げているが、歌詞は「詩的テロリスト・アート」についてのマニフェストになっているそうだ。実験的な瞬間のムーア・マザーとも共振するであろう、写真家およびマルチメディア・アーティスト、活動家でありコミュニティ・ワーカーでもあるこのUKエイジアンのことを、ぼくは本作で初めて知った。いやはや、すごい人がいるものだ。
 が、すごいのは彼女だけではない。バントゥ(Bantu)は抽象化されたエレクトロニック・ノイズの複雑なうねりを紡ぎ出し、コンパイラーであるドゥシューム(Dushume)ことパテル博士もまた、ざわめく電子の粒子たちを地獄のサブベースを道連れに創出し、動かし、羽ばたきさせる。ニッキー・シェス(Nikki Sheth)はいま密かにブーム(?)となっているフィールド・レコーディング作品を提供、水しぶきや鳥の囀りのリアルな再現をともなって極彩色による音の風景画を描いている。元エイジアン・ダブ・ファインデーションであるダンシャ(Dhangsha)は、ダンスフロアを揺り動かしながら、もこもこしたベースと鋭い宇宙線を交錯させ、テクノの更新をはかっている。ニックナック(Nicole Raymondで知られる)は声のコラージュとグリッチを実験とユーモアの表裏一体のなかで推し進めている。ターンテーブリストである彼女の音響作品はときに漫画的で、ローリー・アンダーソンの領域にもリーチしていることは言うまでもない。ダビーな曲だが、言うなればこのコンピレーション・アルバム全体が空間的で遠近法の効いた奥行きもっているので、ヘッドフォンか、なるべく音量の出せる再生装置で聴くことを推奨したい。
 
 アンビエントとサウンド・アートの境界線がいま溶解し、曖昧になっていることは先日の坂本龍一の追悼アルバムを聴いてもわかる話で、かつてアンビエントと呼ばれた音楽が未来においてはイージー・リスニングに括られてしまうんじゃないかと思えるほど、近年はその茫漠たる地平において興味深い音楽作品がたくさん生まれている。こうした〈現在〉に非白人からのアプローチをこのように見せることは、未来を諦めていない人たちの仕業であって、しかも疎外された声がいかに独創的で、そして圧倒的であるのかを証明もする。なるほどこれはたしかに〈クラシカル〉などではない。音の海に連なるあたらな一群。ニューエイジ的な快適さが皆無であるばかりか、むしろその手の飼い慣らされた快適さとは徹底的に抗しようという腹づもりだ。ぼくが夢見る御仁たちにお薦めするのも、わかってもらえただろうか?

JAMES MASON - ele-king

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