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Various

ExperimentalField RecordingNoiseSound Collage

Various

Disruptive Frequencies

Nonclassical

野田努 Jul 26,2023 UP
E王

 IDMというジャンルは明らかに白人男ばかり、それでも私は自分の音楽をIDMだと思っている、とロレイン・ジェイムスは言った。ジャンル名には暗になんとなく、いつの間にか人種的な区分けがある。とくにそれがハイブローなジャンルになってくると、やはり暗になんとなく、いつの間にか白人色が強まる傾向にあるようだ。たとえば、およそ50年を経てようやくまともに評価されたジュリアス・イーストマンではないが、前衛音楽/実験音楽とはクラシック音楽の延長なのだから、すなわちそれは白人史だと無意識ながら決めてかかっている排除の声、すなわちある種の権力がいまもないとは限らない。

 『破壊的な周波数』と題され、UKの〈ノンクラシカル(非古典)〉なるレーベルからリリースされたこのコピレーションは、エレクトロニック・ミュージック、それも実験的かつ学際的でハイブローな一群において非西欧的なるものの台頭を待ち望むユートピアンにお薦めの1枚だ。実験だの前衛だのノイズだのといった音楽のサークルやシーンにおける“白さ”を文化的かつ制度的に問題視したアミット・ディネシュ・パテル(Amit Dinesh Patel)博士が、「実験音楽における黒人と褐色アーティストの明らかな知名度の欠如」に対処することを目的に、ロンドンのグリニッジ大学の支援のもと、UK在住の非白人の作品に絞ってコンパイルしたアルバムである。パテルはDushume名義で2曲提供し、ほか、 5人の黒人/褐色のアーティスト(Poulomi Desai、Nikki Sheth、NikNak、Dhangsha、Bantu)が参加。言うなれば現代のジュリアス・イーストマンたちをどうぞ、と。彼ら・彼女らは制約のないカンバスを広げ、創造性をもって文化の格子をぶち壊さんと、文字通り“破壊的な周波数”を発信する。これが素晴らしいのだ。
 
 アルバムの出だしと結びには、プーロミ・デサイ(Poulomi Desai)の曲が配置されている。サウンド・コラージュを駆使し、声とシタールをノイズ発信器とする彼女の音楽は驚異的で、最初期のKlusterにも似たアナーキーな音の渦をまき散らす。オープニング曲の冒頭で、彼女はインドの音階の歌を歌い上げているが、歌詞は「詩的テロリスト・アート」についてのマニフェストになっているそうだ。実験的な瞬間のムーア・マザーとも共振するであろう、写真家およびマルチメディア・アーティスト、活動家でありコミュニティ・ワーカーでもあるこのUKエイジアンのことを、ぼくは本作で初めて知った。いやはや、すごい人がいるものだ。
 が、すごいのは彼女だけではない。バントゥ(Bantu)は抽象化されたエレクトロニック・ノイズの複雑なうねりを紡ぎ出し、コンパイラーであるドゥシューム(Dushume)ことパテル博士もまた、ざわめく電子の粒子たちを地獄のサブベースを道連れに創出し、動かし、羽ばたきさせる。ニッキー・シェス(Nikki Sheth)はいま密かにブーム(?)となっているフィールド・レコーディング作品を提供、水しぶきや鳥の囀りのリアルな再現をともなって極彩色による音の風景画を描いている。元エイジアン・ダブ・ファインデーションであるダンシャ(Dhangsha)は、ダンスフロアを揺り動かしながら、もこもこしたベースと鋭い宇宙線を交錯させ、テクノの更新をはかっている。ニックナック(Nicole Raymondで知られる)は声のコラージュとグリッチを実験とユーモアの表裏一体のなかで推し進めている。ターンテーブリストである彼女の音響作品はときに漫画的で、ローリー・アンダーソンの領域にもリーチしていることは言うまでもない。ダビーな曲だが、言うなればこのコンピレーション・アルバム全体が空間的で遠近法の効いた奥行きもっているので、ヘッドフォンか、なるべく音量の出せる再生装置で聴くことを推奨したい。
 
 アンビエントとサウンド・アートの境界線がいま溶解し、曖昧になっていることは先日の坂本龍一の追悼アルバムを聴いてもわかる話で、かつてアンビエントと呼ばれた音楽が未来においてはイージー・リスニングに括られてしまうんじゃないかと思えるほど、近年はその茫漠たる地平において興味深い音楽作品がたくさん生まれている。こうした〈現在〉に非白人からのアプローチをこのように見せることは、未来を諦めていない人たちの仕業であって、しかも疎外された声がいかに独創的で、そして圧倒的であるのかを証明もする。なるほどこれはたしかに〈クラシカル〉などではない。音の海に連なるあたらな一群。ニューエイジ的な快適さが皆無であるばかりか、むしろその手の飼い慣らされた快適さとは徹底的に抗しようという腹づもりだ。ぼくが夢見る御仁たちにお薦めするのも、わかってもらえただろうか?

野田努