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Between

Ambient

Between

Low Flying Owls

12k

デンシノオト Jun 15,2023 UP

 ニューヨーク在住のアンビエント・アーティスト、テイラー・デュプリーが主宰するレーベル〈12k〉は、90年代末期から運営されている老舗エレクトロニカ/アンビエント・レーベルである。
 レーベル初期はグリッチ的な音響によるエレクトロニカを展開していたが、00年代中期以降は次第にアンビエント的な音響へと舵を切り、以降、多くのアンビエント・アルバムをリリースしてきた。

 リリース・アーティストは多岐にわたる。主宰のテイラー・デュプリーをはじめとして、アメリカのサウンドアーティスト/ギタリストのステファン・ヴィティエッロ、伊達伯欣コリー・フラーのユニットのイルハ、オレゴン州ポートランドを活動拠点とするサウンド・アーティストのマーカス・フィッシャー、アルゼンチン・ブエノスアイレスのアンビエント・アーティストのフェデリコ・デューランド、ノースカロライナ州のアンビエント・アーティストで日本の畠山地平との共作でも知られるマイケル・グリゴーニ、リッチモンド在住のアンビエント・アーティストのモリー・バーグなどのアルバム、EP、参加音源をリリースし続けてきた。
 ほかにもスロウダイヴのサイモン・スコット、スティーヴ・ロデン、イタリアのサウンドアーティスト/打つ音響作家ジュゼッペ・イエラシ、テイラー・デュプリーと坂本龍一の共演作など、アンビエント・アーティストのアルバムを多く送り出しているのだ。まさに現代アンビエント・ミュージック界を代表するレーベルといえよう。

 さて今回、新作『Low Flying Owls』をリリースしたビトウィーンは、先に挙げたテイラー・デュプリー、ステファン・ヴィティエッロ、コリー・フラー、マーカス・フィッシャー、フェデリコ・デューランド、マイケル・グリゴーニ、モリー・バーグらによるアンビエント・グループである。
 とはいえメンバーは不定形で、2011年にリリースされた『Between』では、テイラーやマルクス、コリー・フラーに加え、サイモン・スコットと伊達伯欣が参加していた。
 私見だが〈12k〉の共演作には傑作が多い印象がある。例えばモリー・バーグ、ステファン・ヴィティエッロ、スティーブ・ロデン、オリビア・ブロックによるモス(MOSS)の『MOSS』(2011)や、先に挙げたビトウィーン『Between』(2012)などはまるで深夜の教会で鳴らされるアンビエント・セッションのごとき静謐な音響が魅力的なアルバムであった。
 デュプリーとケネス・カーシュナーの『Post_Piano 2』(2005)、ステファン・ヴィティエッロとモリー・バーグの共演作『The Gorilla Variations』(2009)も素朴にして美麗なアンビエンスを放っていた。
 共演作にはそれぞれの魅力を相殺してしまうケースもあるが、〈12k〉の共演作はそうではない。それぞれのアンビエンスが豊穣な音空間を構成しているような聴こえるのだ。

 この『Low Flying Owls』も同様といえる。音。空間。薄明かり。そんなイメージのサウンドスケープが7人の個性の融合によって生成されているのだ。聴くほどに音の深みに落ちていくような感覚とでもいうべきか。
 『Low Flying Owls』は、テイラー・デュプリーとステファン・ヴィティエッロのふたりが、フロリダのビーチハウスに設置したスタジオで制作したトラックをベースに、それぞれのアーティストが自分たちの音を付け加えていくことで制作されていったという。
 声、クラリネット、ドラム、ピアノ、ギター、さらにはフィールド・レコーディング音などが加えられてゆき、優雅で繊細な音のタペストリーが織り上げられていったわけだ。まさに〈12k〉的なアンビエント美学の集大成ともいえる作品に仕上がっている。
 じじつアルバム1曲目 “Glass” の一音目、ポーンと放たれる美しい音からして一気に引き込まれてしまう。いくつのノイズが折り重なり、ループし、真夜中の森のように微かなざわめきを感じさせる音響空間が時のなかに染み込んでいくように鳴らされていく。7人のアンビエント・アーティストの個性が慎ましやかに、相互に浸透しあっていくような曲だ。
 3曲目 “know” ではドラムの音が鳴っている点も重要である。といってもビートを鳴らすというよりは、点描的に音が置かれていくような音だ。静謐なアンビエント空間に違和感なく溶け込んでいるのだ。
 以降、最後の9曲目まで音たちは、ただ鳴らされ、そして慎ましく配置されていく。まるで日本の水墨画のようなコンポジションである。日本的な美意識すら感じるほどに。
 思い出してみれば、2012年の『Between』も京都の島原にある「きんせ旅館」でライヴ録音されたものであった。彼らの音の本質に(ということは〈12k〉の音の本質に)、日本的な「あいだ」と「あわい」のような美学があるのではないかと勝手に想像してしまう。まさに「ビトウィーン」の美学。
 本作はライヴ録音ではないが、日本的な陰翳礼讃のムードが横溢しているように感じられた。このアルバムを聴くと、音と音の「あいだ」にあるもの、静けさに染み込んでいく音や時間の痕跡がとても心地よく感じるようになっていく。
 同時にどこかジャズ的な響きも感じてしまう。まるで北欧のジャズ、例えば〈ECM〉のアルバムのような響き、ムードがあるのだ。透明な音色によるアンビエント・サウンド・セッションとでもいうべきか。
 ここにはあるのは音の「間」と音の「持続」である。まさに〈12k〉というレーベルの「美学」が完璧なかたちで再現されているアルバムだ。はじめて〈12k〉の音楽を聴く方にも自信を持ってお勧めできる美しいアンビエント・ミュージックである。

 アートワークはマーカス・フィッシャーが手がけている。CDとセットにされるアートブックにも彼の作品が収録されている。いわばサウンドとヴィジュアルの両方から、アルバムの世界観を提示しているともいえよう。

デンシノオト